説明

絶縁性無機材料の焼結体の組織観察方法

【課題】 速やかにかつ簡便に絶縁性無機材料の焼結体の組織観察を行うことができる組織観察方法を提供する。
【解決手段】 本発明の組織観察方法は、鏡面研磨された焼結体である試料の表面に導電性コーティング層を形成する第一ステップ(ステップS4)と、集束イオンビームによって、前記表面に形成された前記導電性コーティング層の一部を除去することで前記試料の表面の一部が露出した観察面を形成する第二ステップ(ステップS5)と、走査型イオン顕微鏡による二次電子像で、前記観察面を観察する第三ステップ(ステップS6)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性無機材料の焼結体の断面組織を観察するための組織観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素やアルミナといったセラミックス等の絶縁性無機材料を用いた焼結体の機械的特性は、その焼結後の組織構造によって支配されるため、その組織を観察し把握することが、焼結体を用いた製品を開発する上で重要である。
上記焼結体の組織観察は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下、SEMともいう)を用いるのが一般的である。
SEMによる組織観察を行う場合、まず、試料の観察面を鏡面研磨した後、当該観察面における断面組織を浮き立たせるためのエッチングを行う。その後、観察面に対して導電性を与えるために、当該観察面にイオンスパッタリング等によって金(Au)等の導電性コーティング層を薄く形成し、SEMによる観察に供する。
【0003】
上記エッチングは、観察面表面における粒界あるいは結晶粒を選択的にかつ微細に除去することでその組織に対応した凹凸を付け、断面組織を浮き立たせる処理である。SEMによる2次電子像では、試料の凹凸に応じてコントラストが生じるため、このエッチングは、SEMによる組織観察には必要不可欠な処理である。
【0004】
例えば、窒化珪素(Si)の焼結体の観察面をエッチングするには、一般的に、プラズマ等によりCF4等の反応性ガスをイオン化した雰囲気内で行われるプラズマエッチングや、酸性水溶液や溶融アルカリを用いたエッチング等が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−6635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記プラズマエッチングは、イオン化された反応性ガス雰囲気下における、焼結体を構成する窒化珪素粒と粒界を構成するガラス相との間のエッチング速度差を利用して、組織に対応した凹凸を付けるものであり、専用の装置を必要とする。このため、エッチングの処理に要する時間に加えて、プラズマエッチングの装置へのセッティング等のハンドリングに時間を要する。
【0007】
また、上記酸性水溶液や溶融アルカリを用いたエッチングは、窒化珪素の焼結体の粒界に存在するガラス層を選択的に除去するものであり、比較的高温に保持した溶融水酸化ナトリウムや、フッ酸水溶液等のエッチング剤に所定時間(数分から数時間)の間、試料の観察面を浸漬することで行われる。この方法では、専用の装置等は特に必要ないが、エッチング剤に浸漬するエッチング時間の管理が困難である上、処理を行う上で処理条件が繊細であり、安定して好適なエッチング面を得るためには経験的な技能を要する。
【0008】
さらに、上記エッチング後の試料の観察面をSEMで観察する場合、加速電圧等の設定によっては、観察しようとしている組織を表した表面形態を観察することが困難な場合もあり、SEM観察を行う際にも経験的な技能を要する。
【0009】
このように、窒化珪素といった、化学的に安定な無機材料からなる焼結体の組織観察を行うには、経験的な技能を要する上に長時間を要するという問題があった。このため、絶縁性無機材料の焼結体の組織観察について、より速やかにかつ簡便に行える方法が望まれていた。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、速やかにかつ簡便に絶縁性無機材料の焼結体の組織観察を行うことができる組織観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、絶縁性無機材料の焼結体の開発を行う上で必要な工程である、当該焼結体の断面組織観察を行う中で、より簡便な組織観察方法について研究を重ねていた。その中で、走査型イオン顕微鏡による2次電子像による組織観察に着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、焼結体の表面に集束イオンビームを照射すれば、その照射した部分には導電性が認められることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、絶縁性無機材料の焼結体の断面組織を二次電子像で観察するための組織観察方法であって、鏡面研磨された前記焼結体の表面に導電性コーティング層を形成する第一ステップと、集束イオンビームによって、前記表面に形成された前記導電性コーティング層の一部を除去することで前記焼結体の表面の一部が露出した観察面を形成する第二ステップと、走査型イオン顕微鏡による二次電子像で、前記観察面を観察する第三ステップと、を備えていることを特徴としている。
【0013】
上記のように構成された組織観察方法によれば、鏡面研磨された前記焼結体の表面に形成された導電性コーティング層の一部を除去して観察面を形成する際、観察面となる焼結体の表面にも集束イオンビームが照射されるが、導電性コーティングを除去した後の観察面は、集束イオンビームが照射されることで導電性が付与される。これにより、観察面を、走査型イオン顕微鏡による二次電子像で観察することが可能となる。走査型イオン顕微鏡の二次電子像は、検体の原子番号及び結晶方位によって観察像におけるコントラストの差が顕著に生じる。従って、本方法によれば、平均原子番号の大きく異なる2種以上の結晶粒で構成される焼結体や、非晶質のガラス相をも含む焼結体の組織を観察する場合には、組織構造がコントラストの差となって観察像に現れる。この結果、エッチングを行わずとも走査型イオン顕微鏡の二次電子像によって、焼結体の組織観察を好適に行うことができる。
さらに、焼結体表面の内、観察面の周囲に位置する観察面以外の部分に導電性コーティングが残存しているので、当該導電性コーティング層を介して、観察面を外部に対して電気的に導通させることができる。これにより、観察面を非常に狭い領域で形成したとしても、導電性を有する観察面の外部への接地を容易にできる。このため、当該観察面を非常に狭い領域に設定することで、短時間で観察面を形成することができる。
この結果、上記従来例のように、エッチング時間の管理が困難な酸性水溶液や溶融アルカリを用いたエッチング等を行わずとも、短時間で観察面を確保でき、速やかにかつ簡便に絶縁性無機材料の焼結体の組織観察を行うことができる。
【0014】
前記第二ステップは、走査型イオン顕微鏡の機能を備えた集束イオンビーム装置を用いて前記観察面を形成し、前記第三ステップは、前記集束イオンビーム装置が備える前記走査型イオン顕微鏡の機能を用いて行われるものであることが好ましい。
この場合、観察面を形成した後、特にハンドリングを要することなく連続的に組織観察を行うことができるので、より速やかに、かつより簡便に組織観察を行うことができる。
【0015】
具体的に、前記焼結体は、窒化珪素の焼結体であることが好ましく、上記組織観察方法によって、好適に組織観察を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組織観察方法によれば、速やかにかつ簡便に絶縁性無機材料の焼結体の組織観察を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁性無機材料の焼結体の断面組織を観察するための組織観察方法の工程図である。
【図2】(a)は、導電性コーティング層を形成したときの試料表面における断面の模式図であり、(b)は、導電性コーティング層を除去するときの態様を示した試料断面の模式図である。
【図3】試料の表面側の外観図であり、(a)は、樹脂に埋包された状態の試料の外観図、(b)は、図3(a)中の観察面の部分の拡大図である。
【図4】窒化珪素の焼結体の組織観察を行ったときの二次電子像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁性無機材料の焼結体の断面組織を観察するための組織観察方法の工程図である。
図1において、焼結体の断面組織観察を行うには、まず、観察対象である焼結体の素材から所定の大きさの小片を切り出し(ステップS1)、この小片を組織観察用の試料として用いる。
次いで、ステップS1にて素材から切り出すことで焼結体の断面を成すこの試料の一表面を露出させた状態で樹脂等に埋包し(ステップS2)、その露出させた試料の表面について、鏡面状態となるまで研磨を行う(ステップS3)。なお、ステップS2は、省略できる場合もある。
その後、鏡面研磨された試料表面に、イオンスパッタリング等によって、金をコーティングし、導電性コーティング層を形成する(ステップS4、第一ステップ)。
【0019】
図2(a)は、導電性コーティング層を形成したときの試料表面における断面の模式図である。
図中、焼結体からなる試料1の表面1aには、導電性コーティング層2が形成されている。この導電性コーティング層2は、その膜厚が通常、数〜数10ナノメートルとなるように形成される。また、本実施形態では、金を用いて導電性コーティング層2を形成したが、白金、カーボン、タングステン等を用いることもできる。
【0020】
導電性コーティング層2を形成した後、試料を所定の試料ホルダ等に固定し、集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam、以下、FIBともいう)のチャンバ内のステージに、当該試料を試料ホルダごと設置する。このFIBは、後述する組織観察において用いる走査イオン顕微鏡(Scanning Ion. Microscope、以下、SIMともいう)としての機能を有している。
【0021】
図1に戻って、試料をFIBに設置した後、当該試料の表面に対してイオンビームを照射し、スパッタリングによって試料の表面に形成された導電性コーティング層の一部を除去することで焼結体の表面の一部が露出した観察面を形成する(ステップS5、第二ステップ)。
図2(b)は、導電性コーティング層を除去するときの態様を示した試料断面の模式図である。
図中、試料1の表面1aの一部である所定の位置に対して、FIBの鏡筒3から放出される集束されたイオンビーム3aを走査しつつ照射し、導電性コーティング層2の一部を除去することで観察面4を形成する。
導電性コーティング層2を除去する際、表面1a内における組織観察を行うための観察面4の範囲を予め設定しておき、その観察面4の範囲についてのみ導電性コーティング層2を除去し、試料1の表面1aを露出させる。
【0022】
FIBでは、一般的に、ガリウムイオンによるイオンビームが用いられる。FIBは、鏡筒3からガリウムイオンをイオンビームとして放出し、表面1aに衝突させることで、導電性コーティング層2を除去する。このとき、導電性コーティング層2が除去されて表面1aが露出した観察面4にもイオンビーム3aが照射されるが、導電性コーティングを除去した後の観察面4(表面1a)は、集束イオンビームが照射されることで導電性が付与される。これにより、観察面4を、後述する走査型イオン顕微鏡による二次電子像で観察することが可能となる。
観察面4に導電性が付与される理由は、鏡筒3から放出されたガリウムイオンが、当該観察面4にドーピングされることによるものである。ガリウムイオンは、金属イオンであり、導電性を有している。観察面4は、このドーピングされたガリウムイオンの存在により、導電性コーティング層2が除去されたにも関わらず、導電性が確保される。
【0023】
図3は、試料1の表面1a側の外観図であり、(a)は、樹脂Jに埋包された状態の試料1の外観図である。試料1の表面1aは、樹脂Jの上面j1とともに鏡面研磨され、その後、導電性コーティング層2が形成されている。導電性コーティング層2は、上面j1全体に対して形成されることで、試料1の表面1aに形成されている。
また、観察面4は、表面1a内の一部である極めて小さい範囲に形成されている。
【0024】
図3(b)は、図3(a)中の観察面4の部分の拡大図である。観察面4は、本実施形態では、一辺が15μmの四角形状に形成されている。
図3(b)のように、観察面4の周囲に位置する観察面4以外の部分は、導電性コーティング2が残存しているので、導電性コーティング層2を介して、観察面4を外部に対して電気的に導通させることができる。これにより、後述のSIM観察によって観察面4に与えられる電荷を外部に逃がすことができる。
導電性コーティング層2は、図3に示すように、観察者が容易に外部に接地させることができる程度に比較的広い領域に形成されているので、観察面4を非常に狭い領域で形成しても、導電性を有する観察面4の外部への接地を容易にできる。このため、当該観察面を非常に狭い領域に設定することで、短時間で観察面4を形成することができる。なお、本実施形態のように一辺が15μmの四角形状の観察面4を形成するために要する時間は、加工条件にもよるが、2分程度である。
【0025】
図1に戻って、観察面4を形成した後、FIBの有するSIMとしての機能を用いて、当該観察面4の組織観察を行う(ステップS6)。
SIMは、上記イオンビーム3aを試料1に走査しつつ照射したときに観察面4(表面1a)から放出される2次電子量を検出しこれを試料1の観察面4の観察像として表すものであるため、観察面4に電荷が与えられる。このため、試料1の観察面4には、与えられた電荷を逃がすために導電性が必要であり、かつ、外部に接地されている必要がある。
観察面4に導電性がないと、SEM等と同様、イオンビーム3aによって観察面4に電荷が与えられたときに生じるチャージアップによって異常コントラストが生じ、適正に観察面4を観察できなくなるからである。
【0026】
本実施形態では、上述のように、観察面4は、ドーピングされたガリウムイオンによって導電性が確保されているので、SIMによる二次電子像で好適に観察することが可能となる。
SIMの二次電子像は、検体の原子番号及び結晶方位によって観察像におけるコントラストの差が顕著に生じる。従って、本方法によれば、原子番号の大きく異なる2種以上の結晶粒で構成される焼結体や、非晶質のガラス相が現れる焼結体の組織を観察する場合には、組織構造がコントラストの差となって観察像に現れる。この結果、エッチングを行わずともSIMの二次電子像によって、焼結体の組織観察を好適に行うことができる。
【0027】
図4は、窒化珪素の焼結体の組織観察を行ったときの二次電子像の一例を示す図である。窒化珪素の焼結体には、焼結の際に、アルミナやマグネシアといった酸化物からなる焼結助剤が添加されている。焼結助剤は、焼結時に溶融して窒化珪素の粒子を繋ぐバインダとして機能し、焼結後には、窒化珪素粒子の粒界にガラス相を形成する。
従って、図4では、窒化珪素からなる多数の粒子10と、これら粒子10間の粒界に位置するガラス相11とが観察される。
ガラス相11は、非晶質であるため、SIMの二次電子像では、結晶体である窒化珪素の粒子10とは異なるコントラストとして(窒化珪素よりも白く)現れている。このため、焼結体の組織構造が明瞭に現れている。
【0028】
また、組織内に点在する、粒子10よりも黒く現れている粒子12は、分散粒子として添加されている金属化合物である。SIMでは、多くの場合、平均原子番号の大きい部分のほうがコントラストが濃くなる傾向がある。従って、図4で観察される分散粒子は、窒化珪素よりも平均原子番号が大きいことが推定できる。酸性水溶液や溶融アルカリをエッチング剤とした従来のエッチング方法では、エッチング中にこれら分散粒子が脱落するため、組織観察においては、これら分散粒子が観察し難いという問題もあったが、本発明によれば、このような分散粒子も明瞭に観察することができる。
【0029】
このように、窒化珪素の焼結体は、上述のように窒化珪素粒子の粒界にガラス相が現れるので、本発明によって、好適に組織観察することができ、その組織構造を把握することができる。
【0030】
以上のように、上記構成の組織観察方法によれば、導電性コーティング層2を形成した後、FIBを用いて観察面4を形成し、さらにSIMによって観察面4を観察することで、上記従来例のように、酸性水溶液等を用いた長時間を要するエッチング等を行わずとも、短時間で観察面4を確保でき、速やかにかつ簡便に絶縁性無機材料の焼結体の組織観察を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態では、SIMの機能を備えたFIBを用いて観察面4を形成した後、そのSIMの機能を用いて組織観察を行うので、観察面4を形成した後、特にハンドリングを要することなく連続的に組織観察を行うことができ、より速やかに、かつより簡便に組織観察を行うことができる。
【0032】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、焼結体として、窒化珪素の焼結体を観察したときの一例を示したが、原子番号の大きく異なる2以上の結晶粒で構成される焼結体や、結晶粒界に非晶質のガラス相が現れる焼結体であれば、窒化珪素の焼結体と同様、その組織構造を好適に観察することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 試料(焼結体) 1a 表面 2 導電性コーティング層
3 鏡筒 3a 集束イオンビーム 4 観察面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性無機材料の焼結体の断面組織を二次電子像で観察するための組織観察方法であって、
鏡面研磨された前記焼結体の表面に導電性コーティング層を形成する第一ステップと、
集束イオンビームによって、前記表面に形成された前記導電性コーティング層の一部を除去することで前記焼結体の表面の一部が露出した観察面を形成する第二ステップと、
走査型イオン顕微鏡による二次電子像で、前記観察面を観察する第三ステップと、を備えていることを特徴とする組織観察方法。
【請求項2】
前記第二ステップは、走査型イオン顕微鏡の機能を備えた集束イオンビーム装置を用いて前記観察面を形成し、
前記第三ステップは、前記集束イオンビーム装置が備える前記走査型イオン顕微鏡の機能を用いて行われる請求項1に記載の組織観察方法。
【請求項3】
前記焼結体は、窒化珪素の焼結体である請求項1又は2に記載の組織観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−18141(P2012−18141A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157150(P2010−157150)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】