絶縁材料劣化診断方法
【課題】極微量の試料を採取し、短時間で絶縁材料の劣化度を診断する。
【解決手段】電子機器等に使用されている絶縁材料を熱分解GC−MS方法により測定し、測定されるトータルイオンクロマトグラム(TIC)のピークに基づき絶縁材料の劣化度を診断する。TICのピークのうち、絶縁材料の劣化により増加するピークを劣化ピークとし、TICのピークのうち、劣化に依存しないピークを基本ピークとする。劣化ピークの面積を基本ピークの面積で除したピーク面積比率を算出し、このピーク面積比率と物理的な引張強度試験の相関をとり絶縁材料の劣化度を診断する。ピーク面積比率と引張強度値の相関をとる際、実際に使用されている絶縁材料を定期的に採取すると、より精度のよいマスターカーブを作成することができる。
【解決手段】電子機器等に使用されている絶縁材料を熱分解GC−MS方法により測定し、測定されるトータルイオンクロマトグラム(TIC)のピークに基づき絶縁材料の劣化度を診断する。TICのピークのうち、絶縁材料の劣化により増加するピークを劣化ピークとし、TICのピークのうち、劣化に依存しないピークを基本ピークとする。劣化ピークの面積を基本ピークの面積で除したピーク面積比率を算出し、このピーク面積比率と物理的な引張強度試験の相関をとり絶縁材料の劣化度を診断する。ピーク面積比率と引張強度値の相関をとる際、実際に使用されている絶縁材料を定期的に採取すると、より精度のよいマスターカーブを作成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電気機器等に使用されている絶縁材料の劣化診断技術に関する。熱分解GC−MS方法により、絶縁材料の劣化により増加するピーク面積を測定し、このピーク面積に基づいて絶縁材料の劣化度を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電気機器などの配線をまとめて支持固定するために、ポリアミド系樹脂製の結束バンドが使用されている。この結束バンドは屋内外で使用され、屋外で長期間使用する場合には、紫外線が照射されることにより経年的に劣化が進行し、配線等を支持することができなくなる。
【0003】
結束バンドが配線を支持できなくなった場合、配線の端子部に異常な負荷がかかって配線切れが発生するおそれがあるので、定期的に目視により点検し配線の状態を管理している。また、結束バンドの品質管理は、ループ引張強度試験((社)電気設備学会規格 「配線用合成樹脂結束帯」 IEIEJ−P−0001 (2005)、JESC−E0017 (2005)規格品)により計測される新品の基準値を指標として管理している。
【0004】
電気機器の絶縁材料の劣化診断方法として、従来から用いられている診断方法(例えば、重量減少率を測定する方法)と新しい診断方法(例えば、TG−DTA法)の相関をとり、その相関関係に基づいて、新しい診断方法による絶縁材料の劣化診断を行う手法がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−338045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ループ引張強度試験のような物理的な試験は、試験結果にバラツキがある、数多くの試験試料が必要となる、手間と時間がかかる等の問題がある。また、結束バンドを頻繁に回収して引張強度測定を行い、結束バンドの状態を管理することは事実上不可能である。
【0007】
そこで、結束バンドから少量の試料をサンプリングし、劣化診断して寿命予測することが求められるが、現状ではそのような技術はない。したがって、本発明の目的は、少量の試料を採取し、絶縁材料(たとえば、結束バンド)の劣化度を精度よく診断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の絶縁材料劣化診断方法は、絶縁材料を熱分解GC−MS方法により測定し、該測定により得られるトータルイオンクロマトグラムのピークに基づき絶縁材料の劣化度を診断する方法において、前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化により増加するピークを劣化ピークとし、前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化に依存しないピークを基本ピークとし、前記劣化ピークの面積を前記基本ピークの面積で除したピーク面積比率に基づき前記絶縁材料の劣化度を診断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
したがって、以上の発明によれば、極微量の試料を採取することにより、短時間で絶縁材料の劣化度を精度よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂を測定して検出されたTIC(トータルイオンクロマトグラム)、(b)熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂を測定して検出されたTIC(拡大図)。
【図2】(a)劣化ピーク(熱分解GC−MS方法による測定から得られるTICにおいて、およそ21分に検出されるピーク)の質量スペクトル、(b)標準データベース(2−Cyclopen−1−one、2−methyl−3−pentyl−)の質量スペクトル。
【図3】(a)基本ピーク(熱分解GC−MS方法による測定から得られるTICにおいて、およそ3分に検出されるピーク)の質量スペクトル、(b)標準データベース(Cyclopentanone)の質量スペクトル。
【図4】紫外線照射時間とピーク面積比率の関係図。
【図5】ピーク面積比率とループ引張強度値との相関図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(Pyrolisis−Gas Chromatography−Mass Spectrometory、以下熱分解GC−MS装置と略す)を用いて電子機器等に使用されるポリアミド系樹脂の劣化判定を行う。
【0012】
熱分解GC−MS方法の原理は、不活性ガス雰囲気の加熱炉において高分子材料等の試料を一定の昇温速度で加熱し、試料から脱離発生するガスを質量分析装置に導入するものである。発生ガスは、電子衝撃イオン化法(EI法)により発生ガスである有機物質がイオン状態となり、四重極ロッド内で質量を振り分けて光電子倍増管で質量を検出する。この熱分解GC−MS装置を用いてEGA−MS手法により劣化度の判定を行う。
【0013】
劣化度を判定する手法としては、劣化度の異なるポリアミド系樹脂を熱分解GC−MS方法で測定して分解生成物を分離し、トータルイオンクロマトグラム(以下TICと略す)測定を行い、分解生成物を同定する。
【0014】
熱分解GC−MS方法で測定する際に試料を測定試料カップに約50μg秤量して測定するが、μgオーダーを一定採取して測定試料カップに秤量することは非常に困難である。
【0015】
そこで、熱分解GC−MS方法による測定から得られるTICにおいて、劣化に伴ってピーク強度が強くなるピークを劣化ピークとし、劣化に依存しないピークを基準ピークとして定める。この劣化ピークに基づく劣化ピーク面積を前記基準ピークに基づく基準ピーク面積で除してピーク面積比率を算出する。
【0016】
つまり、試料採取重量を一定にすれば紫外線照射時間を変化させた時、紫外線照射時間が長くなれば劣化ピーク面積値は大きくなる。一方、基本ピークは試料採取重量と相関関係を持つので、試料採取重量が一定であれば紫外線照射時間を変化させても基本ピーク面積は変化しない。したがって、劣化ピーク面積を基本ピーク面積で割ることにより算出されるピーク面積比率で各試料を比較評価することにより、試料採取重量を補正することができるのでサンプル重量に依存しない測定結果を得ることができる。
【0017】
まず、劣化診断の基準となるマスターカーブを得るために、ポリアミド系樹脂に紫外線を照射し、人工的に劣化させた試料を作成する。例えば、紫外線曝露時間が0h、500h、1000h、2000hを模擬試料とする。
【0018】
この紫外線曝露試料を熱分解GC−MS方法で測定し、ピーク面積比率を算出し、紫外線曝露時間とピーク面積比率の関係を算出する。
【0019】
一方で、紫外線曝露試料のループ引張強度試験を行い、引張強度が初期の半分(50%)となった値を寿命点とする。
【0020】
そして、熱分解GC−MS方法での測定結果とループ引張強度試験の試験結果の相関関係であるマスターカーブを作成することにより、評価対象試料であるポリアミド系樹脂を熱分解GC−MS方法で測定し、算出されたピーク面積比率とマスターカーブに基づいて評価対象試料の劣化診断をすることが可能となる。
【0021】
図1(a)、図1(b)に熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂(紫外線曝露時間0h、500h、1000h、2000h)の測定を行って、検出されたTICを示す。図1(b)は図1(a)の拡大図である。
【0022】
熱分解GC−MS方法での測定に用いた測定装置及び測定条件を示す。
測定装置
・ガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所)
GC−MS装置(Gas Chromatography−Mass Spectrometer)
QP−2010型[データ処理ソフト:GC−MS solution Ver.2.20]
・熱分解装置(フロンティア・ラボ(株))
D−SP(Double−Shot Pyrolzer)装置
PY−2020iD型
測定条件
ガスクロマトグラフ(GC)
・カラムオーブン温度:300℃、気化室温度:330℃
・イオン源温度:200℃、注入モード:スプリット
・全流量:50ml/min、カラム流量:0.65ml/min
・線速度:32.1cm/sec、パージ流量:3ml/min
・スプリット比:71.5対1.0
検出器
・検出モード:EI(Electron Impact)、検出器電圧:0.1kV
質量検出
・測定モード:スキャン、測定時間[開始〜終了]:0.1min〜28min
・質量範囲:35m/z〜500m/z、計測インターバル:0.5sec
・スキャン速度:1000
EGA
・昇温範囲:600℃
図1(b)に示すTICにおいて点線で囲った部分から明らかなように、紫外線曝露時間の増加に伴いピーク強度が増加するピーク(およそ21分に検出されるピーク、以下劣化ピークとする)が確認できた。このピークの成分について質量スペクトル測定を行った結果を図2(a)に示す。
【0023】
標準データベースに基づき、劣化ピークの成分の検索同定をすると、図2(b)に示される2−Cyclopen−1−one、2−methyl−3pentyl−に非常に類似していた。
【0024】
また、図1(a)に示すTICにおいて、点線で囲った部分(約3分に検出されるピーク)を基準ピークとして選択した。このピークの成分について質量スペクトル測定を行った結果を図3(a)に示す。
【0025】
標準データベースに基づき、基準ピークの成分の検索同定をすると、図3(b)に示されるCyclopentanoneに非常に類似していた。
【0026】
一般的に、熱分解GC−MS方法では、ポリアミド系樹脂の種類を同定することができる。例えば、Cyclopentanoneが検出された場合、ナイロン6、6であると判断され、Caprolactamが検出されるとナイロン6であると判断される。
【0027】
表1に、熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂(紫外線曝露時間0h、500h、1000h、2000h)を測定した時の、劣化ピークと基準ピーク及びピーク面積比率を示す。そして、紫外線曝露時間とピーク面積比率をプロットして得られたマスターカーブを図4に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
一方で、紫外線曝露時間とループ引張強度値の関係を求め、ピーク面積比率とループ引張強度値の相関関係を得た。ピーク面積比率とループ引張強度値の関係を図5に示す。
【0030】
紫外線曝露時間が0hでの結束バンドのループ引張強度値が179.3Nであったので、ループ引張強度値が半減した値である約90N以下を寿命領域と設定し、図5に寿命境界ラインを引くことにより、ピーク面積比率における寿命領域が設定される。
【0031】
したがって、図5に示すようなマスターカーブを作成しておけば、実際に使用されている結束バンドのピーク面積比率を算出し、劣化度・余寿命を測定することができる。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る絶縁材料劣化診断方法によれば、熱分解GC−MS方法を用いることで、極微量(約50μg)の試料で劣化度の診断が可能となった。
【0033】
また、実際の環境下に置いた結束バンドを熱分解GC−MS方法とループ引張強度測定し、得られたピーク面積比率とループ引張強度値との相関関係を示すマスターカーブを作成しておけば、結束バンドの劣化診断・余寿命推定を精度よく行うことが可能となる。
【0034】
このように、熱分解GC−MS方法を用いれば、短時間で劣化度を評価することが可能であるので、結束バンドの品質管理に適用できる。
【0035】
なお、本発明の絶縁材料劣化診断方法は、実施形態で説明した内容に限定されるものではなく、測定方法及び測定条件は適宜設定可能であり、ピーク面積比率と相関をとるデータもループ引張強度に限定することなく従来用いられている方法(例えば、曲げ強度、質量減少率測定)を用いればよい。特に、絶縁材料としてはポリアミド系樹脂に限定せず、劣化ピークが存在する絶縁材料であれば適宜適用が可能である。
【技術分野】
【0001】
電気機器等に使用されている絶縁材料の劣化診断技術に関する。熱分解GC−MS方法により、絶縁材料の劣化により増加するピーク面積を測定し、このピーク面積に基づいて絶縁材料の劣化度を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電気機器などの配線をまとめて支持固定するために、ポリアミド系樹脂製の結束バンドが使用されている。この結束バンドは屋内外で使用され、屋外で長期間使用する場合には、紫外線が照射されることにより経年的に劣化が進行し、配線等を支持することができなくなる。
【0003】
結束バンドが配線を支持できなくなった場合、配線の端子部に異常な負荷がかかって配線切れが発生するおそれがあるので、定期的に目視により点検し配線の状態を管理している。また、結束バンドの品質管理は、ループ引張強度試験((社)電気設備学会規格 「配線用合成樹脂結束帯」 IEIEJ−P−0001 (2005)、JESC−E0017 (2005)規格品)により計測される新品の基準値を指標として管理している。
【0004】
電気機器の絶縁材料の劣化診断方法として、従来から用いられている診断方法(例えば、重量減少率を測定する方法)と新しい診断方法(例えば、TG−DTA法)の相関をとり、その相関関係に基づいて、新しい診断方法による絶縁材料の劣化診断を行う手法がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−338045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ループ引張強度試験のような物理的な試験は、試験結果にバラツキがある、数多くの試験試料が必要となる、手間と時間がかかる等の問題がある。また、結束バンドを頻繁に回収して引張強度測定を行い、結束バンドの状態を管理することは事実上不可能である。
【0007】
そこで、結束バンドから少量の試料をサンプリングし、劣化診断して寿命予測することが求められるが、現状ではそのような技術はない。したがって、本発明の目的は、少量の試料を採取し、絶縁材料(たとえば、結束バンド)の劣化度を精度よく診断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の絶縁材料劣化診断方法は、絶縁材料を熱分解GC−MS方法により測定し、該測定により得られるトータルイオンクロマトグラムのピークに基づき絶縁材料の劣化度を診断する方法において、前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化により増加するピークを劣化ピークとし、前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化に依存しないピークを基本ピークとし、前記劣化ピークの面積を前記基本ピークの面積で除したピーク面積比率に基づき前記絶縁材料の劣化度を診断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
したがって、以上の発明によれば、極微量の試料を採取することにより、短時間で絶縁材料の劣化度を精度よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂を測定して検出されたTIC(トータルイオンクロマトグラム)、(b)熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂を測定して検出されたTIC(拡大図)。
【図2】(a)劣化ピーク(熱分解GC−MS方法による測定から得られるTICにおいて、およそ21分に検出されるピーク)の質量スペクトル、(b)標準データベース(2−Cyclopen−1−one、2−methyl−3−pentyl−)の質量スペクトル。
【図3】(a)基本ピーク(熱分解GC−MS方法による測定から得られるTICにおいて、およそ3分に検出されるピーク)の質量スペクトル、(b)標準データベース(Cyclopentanone)の質量スペクトル。
【図4】紫外線照射時間とピーク面積比率の関係図。
【図5】ピーク面積比率とループ引張強度値との相関図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(Pyrolisis−Gas Chromatography−Mass Spectrometory、以下熱分解GC−MS装置と略す)を用いて電子機器等に使用されるポリアミド系樹脂の劣化判定を行う。
【0012】
熱分解GC−MS方法の原理は、不活性ガス雰囲気の加熱炉において高分子材料等の試料を一定の昇温速度で加熱し、試料から脱離発生するガスを質量分析装置に導入するものである。発生ガスは、電子衝撃イオン化法(EI法)により発生ガスである有機物質がイオン状態となり、四重極ロッド内で質量を振り分けて光電子倍増管で質量を検出する。この熱分解GC−MS装置を用いてEGA−MS手法により劣化度の判定を行う。
【0013】
劣化度を判定する手法としては、劣化度の異なるポリアミド系樹脂を熱分解GC−MS方法で測定して分解生成物を分離し、トータルイオンクロマトグラム(以下TICと略す)測定を行い、分解生成物を同定する。
【0014】
熱分解GC−MS方法で測定する際に試料を測定試料カップに約50μg秤量して測定するが、μgオーダーを一定採取して測定試料カップに秤量することは非常に困難である。
【0015】
そこで、熱分解GC−MS方法による測定から得られるTICにおいて、劣化に伴ってピーク強度が強くなるピークを劣化ピークとし、劣化に依存しないピークを基準ピークとして定める。この劣化ピークに基づく劣化ピーク面積を前記基準ピークに基づく基準ピーク面積で除してピーク面積比率を算出する。
【0016】
つまり、試料採取重量を一定にすれば紫外線照射時間を変化させた時、紫外線照射時間が長くなれば劣化ピーク面積値は大きくなる。一方、基本ピークは試料採取重量と相関関係を持つので、試料採取重量が一定であれば紫外線照射時間を変化させても基本ピーク面積は変化しない。したがって、劣化ピーク面積を基本ピーク面積で割ることにより算出されるピーク面積比率で各試料を比較評価することにより、試料採取重量を補正することができるのでサンプル重量に依存しない測定結果を得ることができる。
【0017】
まず、劣化診断の基準となるマスターカーブを得るために、ポリアミド系樹脂に紫外線を照射し、人工的に劣化させた試料を作成する。例えば、紫外線曝露時間が0h、500h、1000h、2000hを模擬試料とする。
【0018】
この紫外線曝露試料を熱分解GC−MS方法で測定し、ピーク面積比率を算出し、紫外線曝露時間とピーク面積比率の関係を算出する。
【0019】
一方で、紫外線曝露試料のループ引張強度試験を行い、引張強度が初期の半分(50%)となった値を寿命点とする。
【0020】
そして、熱分解GC−MS方法での測定結果とループ引張強度試験の試験結果の相関関係であるマスターカーブを作成することにより、評価対象試料であるポリアミド系樹脂を熱分解GC−MS方法で測定し、算出されたピーク面積比率とマスターカーブに基づいて評価対象試料の劣化診断をすることが可能となる。
【0021】
図1(a)、図1(b)に熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂(紫外線曝露時間0h、500h、1000h、2000h)の測定を行って、検出されたTICを示す。図1(b)は図1(a)の拡大図である。
【0022】
熱分解GC−MS方法での測定に用いた測定装置及び測定条件を示す。
測定装置
・ガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所)
GC−MS装置(Gas Chromatography−Mass Spectrometer)
QP−2010型[データ処理ソフト:GC−MS solution Ver.2.20]
・熱分解装置(フロンティア・ラボ(株))
D−SP(Double−Shot Pyrolzer)装置
PY−2020iD型
測定条件
ガスクロマトグラフ(GC)
・カラムオーブン温度:300℃、気化室温度:330℃
・イオン源温度:200℃、注入モード:スプリット
・全流量:50ml/min、カラム流量:0.65ml/min
・線速度:32.1cm/sec、パージ流量:3ml/min
・スプリット比:71.5対1.0
検出器
・検出モード:EI(Electron Impact)、検出器電圧:0.1kV
質量検出
・測定モード:スキャン、測定時間[開始〜終了]:0.1min〜28min
・質量範囲:35m/z〜500m/z、計測インターバル:0.5sec
・スキャン速度:1000
EGA
・昇温範囲:600℃
図1(b)に示すTICにおいて点線で囲った部分から明らかなように、紫外線曝露時間の増加に伴いピーク強度が増加するピーク(およそ21分に検出されるピーク、以下劣化ピークとする)が確認できた。このピークの成分について質量スペクトル測定を行った結果を図2(a)に示す。
【0023】
標準データベースに基づき、劣化ピークの成分の検索同定をすると、図2(b)に示される2−Cyclopen−1−one、2−methyl−3pentyl−に非常に類似していた。
【0024】
また、図1(a)に示すTICにおいて、点線で囲った部分(約3分に検出されるピーク)を基準ピークとして選択した。このピークの成分について質量スペクトル測定を行った結果を図3(a)に示す。
【0025】
標準データベースに基づき、基準ピークの成分の検索同定をすると、図3(b)に示されるCyclopentanoneに非常に類似していた。
【0026】
一般的に、熱分解GC−MS方法では、ポリアミド系樹脂の種類を同定することができる。例えば、Cyclopentanoneが検出された場合、ナイロン6、6であると判断され、Caprolactamが検出されるとナイロン6であると判断される。
【0027】
表1に、熱分解GC−MS方法でポリアミド系樹脂(紫外線曝露時間0h、500h、1000h、2000h)を測定した時の、劣化ピークと基準ピーク及びピーク面積比率を示す。そして、紫外線曝露時間とピーク面積比率をプロットして得られたマスターカーブを図4に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
一方で、紫外線曝露時間とループ引張強度値の関係を求め、ピーク面積比率とループ引張強度値の相関関係を得た。ピーク面積比率とループ引張強度値の関係を図5に示す。
【0030】
紫外線曝露時間が0hでの結束バンドのループ引張強度値が179.3Nであったので、ループ引張強度値が半減した値である約90N以下を寿命領域と設定し、図5に寿命境界ラインを引くことにより、ピーク面積比率における寿命領域が設定される。
【0031】
したがって、図5に示すようなマスターカーブを作成しておけば、実際に使用されている結束バンドのピーク面積比率を算出し、劣化度・余寿命を測定することができる。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る絶縁材料劣化診断方法によれば、熱分解GC−MS方法を用いることで、極微量(約50μg)の試料で劣化度の診断が可能となった。
【0033】
また、実際の環境下に置いた結束バンドを熱分解GC−MS方法とループ引張強度測定し、得られたピーク面積比率とループ引張強度値との相関関係を示すマスターカーブを作成しておけば、結束バンドの劣化診断・余寿命推定を精度よく行うことが可能となる。
【0034】
このように、熱分解GC−MS方法を用いれば、短時間で劣化度を評価することが可能であるので、結束バンドの品質管理に適用できる。
【0035】
なお、本発明の絶縁材料劣化診断方法は、実施形態で説明した内容に限定されるものではなく、測定方法及び測定条件は適宜設定可能であり、ピーク面積比率と相関をとるデータもループ引張強度に限定することなく従来用いられている方法(例えば、曲げ強度、質量減少率測定)を用いればよい。特に、絶縁材料としてはポリアミド系樹脂に限定せず、劣化ピークが存在する絶縁材料であれば適宜適用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料を熱分解GC−MS方法により測定し、該測定により得られるトータルイオンクロマトグラムのピークに基づき前記絶縁材料の劣化度を診断する方法において、
前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化により増加するピークを劣化ピークとし、
前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化に依存しないピークを基本ピークとし、
前記劣化ピークの面積を前記基本ピークの面積で除したピーク面積比率に基づき前記絶縁材料の劣化度を診断する
ことを特徴とする絶縁材料劣化診断方法。
【請求項2】
前記ピーク面積比率と物理的な引張強度試験による結果の相関をとり前記絶縁材料の劣化度を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項3】
前記絶縁材料は、ポリアミド樹脂であり、
前記基本ピークに基づき、前記ポリアミド樹脂の種類を特定する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂は、配線の結束バンドである
ことを特徴とする請求項3に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項5】
前記結束バンドを定期的に採取し、
該採取した試料毎に、前記ピーク面積比率と物理的な引張強度試験による結果との相関をとる
ことを特徴とする請求項4に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項1】
絶縁材料を熱分解GC−MS方法により測定し、該測定により得られるトータルイオンクロマトグラムのピークに基づき前記絶縁材料の劣化度を診断する方法において、
前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化により増加するピークを劣化ピークとし、
前記ピークのうち前記絶縁材料の劣化に依存しないピークを基本ピークとし、
前記劣化ピークの面積を前記基本ピークの面積で除したピーク面積比率に基づき前記絶縁材料の劣化度を診断する
ことを特徴とする絶縁材料劣化診断方法。
【請求項2】
前記ピーク面積比率と物理的な引張強度試験による結果の相関をとり前記絶縁材料の劣化度を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項3】
前記絶縁材料は、ポリアミド樹脂であり、
前記基本ピークに基づき、前記ポリアミド樹脂の種類を特定する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂は、配線の結束バンドである
ことを特徴とする請求項3に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【請求項5】
前記結束バンドを定期的に採取し、
該採取した試料毎に、前記ピーク面積比率と物理的な引張強度試験による結果との相関をとる
ことを特徴とする請求項4に記載の絶縁材料劣化診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−243225(P2010−243225A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89683(P2009−89683)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
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