説明

絶縁膜の形成方法、絶縁膜付き基板、無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び無機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】本発明は、簡素な手法を用いて、低コストで基板にダメージを与えることなく高品質の絶縁膜を形成する絶縁膜の形成方法及びこれを用いた絶縁膜付き基板の製造方法、無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板40上に絶縁膜50を形成する絶縁膜の形成方法であって、
前記基板上に、ナノ粒子10を含む分散溶液30を塗布する塗布工程と、
前記基板上に塗布された前記分散溶液に含まれる前記ナノ粒子を酸素雰囲気下に暴露する酸化工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜の形成方法、絶縁膜付き基板、無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び無機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンデンサ、トランジスタ、発光素子等の電子デバイスに用いられる絶縁膜として、五酸化タンタル(Ta)が知られている。Taは、誘電率20程度と比較的高いことから、コンデンサや薄膜トランジスタ、無機エレクトロルミネッセンス素子用の誘電体として利用されている。かかる五酸化タンタルの絶縁膜の形成方法としては、蒸着法やスパッタリンング法等の真空中での成膜方法や、一種の電気分解を利用した陽極酸化法や、ゾル−ゲル法による形成方法が知られている。
【0003】
例えば、上述のゾル−ゲル法による絶縁膜の成膜方法として、原料物質のタンタルアルコキシドを加水分解させ、タンタルアルコキシドと水と塩酸を含む溶液をゾル溶液とし、このゾル溶液を基板上に塗布し、熱処理をする工程を繰返すことによって、絶縁膜を製造する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−199277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の真空中での成膜方法は、真空装置を用いるため、装置の規模が大きくなってしまい、製造コストが増大するという問題があった。また、陽極酸化法は、金属Ta上に酸化物の被膜を形成する成膜法であるため、金属Ta上にしか絶縁膜を形成することができず、Taの形成場所に制限があるという問題があった。
【0006】
更に、上述の特許文献1に記載のゾル−ゲル法による成膜方法では、塩酸を用いるので、デバイス作製時には、基板や下地の金属等を腐食するおそれがあり、デバイスの基本性能の劣化を引き起こすおそれがあるという問題があった。また、ゾル−ゲル法では、原理的に水が必ず必要となるため、塗布する下地が酸化してダメージを受けてしまうという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、簡素な手法を用いて、低コストで基板にダメージを与えることなく高品質の絶縁膜を形成する絶縁膜の形成方法、絶縁膜付き基板、無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び無機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る絶縁膜の形成方法は、基板上に絶縁膜を形成する絶縁膜の形成方法であって、
前記基板上に、ナノ粒子を含む分散溶液を塗布する塗布工程と、
前記基板上に塗布された前記分散溶液に含まれる前記ナノ粒子を酸素雰囲気下に暴露する酸化工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
これにより、塗布と酸化という、簡素でかつ基板にダメージを与えない工程で基板上に絶縁膜を形成することができ、低コストで基板に悪影響を与えることなく高品質の絶縁膜を形成することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に係る絶縁膜の形成方法において、
前記塗布工程における前記分散溶液の塗布は、スピンコート法又は印刷法により行われることを特徴とする。
【0011】
これにより、塗布工程を容易に行うことができ、塗布用の設備も簡素で低コストなものとすることができる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る絶縁膜の形成方法において、
前記ナノ粒子は、金属ナノ粒子であることを特徴とする。
【0013】
これにより、金属酸化膜から構成される絶縁酸化膜を基板上に形成することができ、電子デバイスに適した絶縁膜を形成することができる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明に係る絶縁膜の形成方法において、
前記金属ナノ粒子は、Taであることを特徴とする。
【0015】
これにより、誘電率が高く、種々の電子デバイスに好適なTaの酸化膜を絶縁膜として利用することができる。
【0016】
第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明に係る絶縁膜の形成方法を複数回繰り返し、所望の厚さの絶縁膜を前記基板上に形成することを特徴とする。
【0017】
これにより、厚い絶縁膜を得ることが可能となり、厚い絶縁膜の形成が必要な電子デバイスや製造プロセスにも対応することができる。
【0018】
第6の発明に係る絶縁膜付き基板は、基板と、
第1〜5のいずれかの発明に係る絶縁膜の形成方法により該基板上に形成された絶縁膜を備えたことを特徴とする。
【0019】
これにより、絶縁膜の形成が必要な種々の基板について、用途に応じた絶縁膜を備えた絶縁膜付き基板とすることができる。
【0020】
第7の発明に係る無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、透明導電膜が形成された透明基板を用意する工程と、
第1〜5のいずれかの発明に係る絶縁膜の形成方法を用いて、前記透明基板上に第1の絶縁膜を形成する工程と、
該第1の絶縁膜上に、発光層を形成する工程と、
第1〜5のいずれかの発明に係る絶縁膜の形成方法を用いて、前記発光層上に第2の絶縁膜を形成する工程と、
該第2の絶縁膜上に、電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
これにより、簡素な工程で安価に、発光層や透明導電膜にダメージを与えることなく、高品質の無機エレクトロルミネッセンス素子を製造することが可能となる。
【0022】
第8の発明に係る無機エレクトロルミネッセンス素子は、第7の発明に係る無機エレクトロルミネッセンスの製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0023】
これにより、低電圧で動作する省電力で高品質な無機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、下地に悪影響を与えることなく絶縁膜を簡便に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1に係る絶縁膜の形成方法に用いられるナノ粒子の分散溶液の一例を示した図である。
【図2】実施形態1に係る絶縁膜の形成方法の塗布工程の一例を示した図である。
【図3】実施形態1に係る絶縁膜の形成方法の酸化工程の一例を示した図である。
【図4】絶縁膜50が基板40上に形成された状態を示した図である。
【図5】塗布工程を印刷法により行った場合の酸化工程の一例を示した図である。
【図6】実施形態2に係る無機エレクトロルミネッセンスの製造方法の一例を示した図である。図6(A)は、透明基板用意工程の一例を示した図である。図6(B)は、第1の絶縁膜形成工程の一例を示した図である。図6(C)は、発光層形成工程の一例を示した図である。図6(D)は、第2の絶縁膜形成工程の一例を示した図である。図6(E)は、電極形成工程の一例を示した図である。
【図7】実施例2に係る製造方法で作製された無機エレクトロルミネッセンス素子とスパッタ法で作製された無機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0027】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る絶縁膜の形成方法に用いられるナノ粒子の分散溶液の一例を示した図である。分散溶液30は、ナノ粒子10と、溶媒20とを含み、溶媒20中に、ナノ粒子10が分散した状態で存在する。よって、分散溶液30は、ビーカ等の容器100に収容されて用意される。
【0028】
ナノ粒子10は、直径がナノメートルオーダーの粒子してあり、数nmから数100nmの粒子径をとり得る。例えば、30〜60nm程度の粒子径であってもよい。また、ナノ粒子10は、酸化されることにより、酸化膜を形成しうる種々の材料が適用され得るが、例えば、金属ナノ粒子であってもよい。金属は、酸化され易い金属であれば、種々の金属が適用され得るが、例えば、タンタル(Ta)であってもよい。Taは、酸化されると、Ta等の金属酸化膜を形成し、絶縁膜となる。また、金属Taナノ粒子は、非常に反応性が高いため、酸素雰囲気下で直ちに酸化物の絶縁物になる性質を有するので、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法に好適に適用され得る。
【0029】
溶媒20は、種々の溶媒を用いることができるが、例えば、有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒を用いることにより、塗布する下地の酸化を防ぐことができ、下地の基板や層にダメージを与えないようにすることができる。この点、水を必用とするゾル−ゲル法とは大きく異なる。なお、有機溶媒は、用途に応じた種々の有機溶媒を用いるようにしてよいが、例えば、ヘキサンを溶媒20として用いてもよい。
【0030】
次に、図2乃至図4を用いて、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法の各工程について、具体的に説明する。図2乃至図4は、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法の各工程の一例を示した図である。
【0031】
図2は、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法の塗布工程の一例を示した図である。実施形態1においては、スピンコータ110を用いて、塗布工程を行う例について説明する。
【0032】
図2において、スピンコータ110は、ノズル111と、ステージ112とを備える。ステージ112上には、絶縁膜が形成される基板40が載置される。ステージ112は、真空チャックやメカチャック等の基板固定手段を備えてよい。また、ステージ112は、回転可能に構成される。ステージ112は、図2においては、基板40よりも表面の面積が小さいものが用いられているが、基板40よりも面積の大きいステージ112が用いられてもよい。また、基板40の上方には、ノズル111が設けられる。ノズル111は、基板40上の任意の位置に設けられてよいが、例えば、基板40の中心と一致するように設けられてもよい。
【0033】
塗布工程においては、ノズル111から、基板40の表面上に、分散溶液30が供給される。図2においては、ノズル111が基板40の中心上に設けられ、中心から供給された分散溶液30が、徐々に外側に広がっていく状態が示されている。このように、塗布工程においては、基板40上に、ナノ粒子10を含む分散溶液30が供給されて、基板40の表面上に塗布される。よって、塗布工程では、ナノ粒子10が、周囲に溶媒20が存在する状態で、基板40の表面上に供給された状態となる。
【0034】
図3は、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法の酸化工程の一例を示した図である。酸化工程では、ステージ112が回転することにより、ステージ112に支持された基板40が回転し、溶媒20を振り切って基板40上から除去している。これにより、分散溶液30内のナノ粒子10は、酸素雰囲気下に暴露され、酸化される。例えば、ナノ粒子10がTaの場合には、酸化雰囲気下に曝されると、直ちに酸化するため、容易に金属酸化膜Taとなり、絶縁膜が基板40上に形成される。
【0035】
なお、酸素雰囲気下へのナノ粒子10の暴露は、酸素を積極的に供給することにより行ってもよいし、単に空気中で酸化工程を行い、空気中の酸素にナノ粒子10が暴露されることにより行われてもよい。図3においては、単に大気中でステージ112を回転させることにより酸化工程を実行しているので、極めて簡素な設備及び環境で、絶縁膜を形成することができる。
【0036】
図4は、絶縁膜50が基板40上に形成された状態を示した図である。基板40の表面全体に、絶縁膜50が形成されている。
【0037】
このように、実施形態1に係る絶縁膜50の形成方法においては、基板40上にナノ粒子10を含む分散溶液30を供給して塗布する塗布工程と、分散溶液30から溶媒20を除去してナノ粒子10を酸素に暴露させる酸化工程とにより、簡便に絶縁膜50を基板430上に形成することができる。
【0038】
なお、図2乃至図4においては、スピンコート法により絶縁膜50を形成する例を挙げて説明したが、例えば、インクジェット法、静電スプレー法、転写法等を含む印刷法により、塗布工程を行うようにしてもよい。塗布工程においては、分散溶液30を基板40の表面上に供給できればよいので、上述の印刷法によっても、目的を達成することができる。
【0039】
なお、塗布工程を印刷法により行った場合、酸化工程は、加熱により基板40を乾燥させて行うようにしてもよい。
【0040】
図5は、塗布工程を印刷法により行った場合の酸化工程の一例を示した図である。図5において、基板40が、加熱手段120に収容されている。加熱手段120は、例えば、加熱炉のように、基板40を容器内に収容して加熱を行う手段であってもよい。加熱手段120内には、基板支持手段121が設けられ、表面上に分散溶液30が塗布された基板40が支持される。上下には、ヒータ122、123が設けられ、基板40を加熱し、分散溶液30中の溶媒20を蒸発させる。これにより、分散溶液30内のナノ粒子10は、空気中に暴露され、酸化されて酸化膜となる。
【0041】
このように、塗布工程を印刷法により行った場合には、基板40を加熱して分散溶液30の溶媒20を蒸発させることにより行ってもよい。これにより、用途に応じて種々の方法により絶縁膜50を基板40上に形成することが可能となる。
【0042】
なお、印刷法を用いた場合であっても、基板40の乾燥が容易な状態であれば、加熱を行わずに、自然乾燥により酸化工程を実行してもよい。例えば、上述の静電スプレー法により塗布工程を実施した場合には、分散溶液30の液膜が非常に薄い状態で基板40上に塗布される場合が多いので、スプレー塗布後にすぐ乾燥し、何も行わずに自然乾燥により酸化工程が自動的に行われる場合もあり得る。このような場合には、基板40を酸素雰囲気下に置くことのみにより、酸化工程を行ってもよい。
【0043】
このように、種々の方法を用いて、実施形態1に係る絶縁膜50の形成方法を実行することができ、基板40上に簡便に、基板40に損傷を与えることなく絶縁膜50を形成することができる。
【0044】
また、酸化工程の後、加熱工程を設けるようにしてもよい。加熱工程は、半導体プロセスにおけるアニールと同様で、絶縁膜50の品質を向上させるために、必要に応じて行うようにしてよい。例えば、絶縁膜50を基板40上に形成後、基板40を加熱して焼成することにより、絶縁膜50の基板40への密着性を高めたり、絶縁膜50の均一性を高めたりすることができる。よって、本実施形態に係る絶縁膜50の形成方法においても、絶縁膜50の膜質を高めるために、加熱工程を設けるようにしてもよい。
【0045】
なお、加熱工程は、例えば、図5において説明したのと同様に、例えば、加熱炉のような容器収容型の加熱手段120を用いて、ヒータ122、123により加熱を行うようにしてもよい。加熱工程の加熱の方法は、種々の加熱方法を適用することができる。また、加熱工程における加熱の温度は、用途に応じて種々設定してよいが、例えば、150〜550℃の範囲に設定してもよい。
【0046】
また、塗布工程、酸化工程及び必要に応じて行う加熱工程は、複数回繰返して行うようにしてもよい。複数回、これらの一例の絶縁膜形成工程を繰返すことにより、絶縁膜50の厚さが増してゆき、所望の厚さの絶縁膜50を基板40上に形成することができる。これにより、用途に応じた適切な絶縁膜40を得ることが可能となる。
【0047】
また、実施形態1においては、基板40上に絶縁膜50を形成する方法として一連の工程を説明したが、これは、絶縁膜付き基板40の製造方法と考えてもよい。近年、電子デバイスの製造工程は細分化し、絶縁膜付き基板40を製造し、これを出荷する場合も考えられる。よって、実施形態1において説明した絶縁膜50の形成方法は、絶縁膜付き基板40の製造方法と捉えてもよい。
【0048】
〔実施例1〕
次に、実施形態1に係る絶縁膜50の形成方法の実施例について説明する。図2乃至図4において説明したように、スピンコータ110を用いて基板40上への絶縁膜50の形成を行った。実施例1においては、新たな図面は用いずに説明を行うが、図2乃至図4に対応する工程を各々行っているので、必要に応じて図2乃至図4を参照する。なお、図2乃至図5に対応する構成要素については、同一の参照符号を付して説明を行うこととする。
【0049】
実施例1においては、絶縁膜50のコーティング材料として、Taの金属ナノ粒子10が分散された分散溶液30を用いた。使用した分散溶液30の溶媒20はヘキサンであり、Taナノ粒子10の濃度は5wt%であった。また、使用したナノ粒子10の平均粒子径は、約40nmであった。このTaナノ粒子10を含む分散溶液30を、透明導電膜であるITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウムスズ)を約200nm成膜したガラス基板40上にノズル111から供給して塗布し、図2で説明した塗布工程を行った。その後、スピンコート法にて大気中で800rpm、1分間というコート条件でスピン回転を行い、図3において説明した酸化工程を行った。
【0050】
金属Taナノ粒子10は、非常に反応性が高いため、スピンコートにより溶媒20を飛ばした後には、酸素雰囲気下で直ちに酸化物の絶縁膜50となった。つまり、図4において説明したような、絶縁膜50付き基板40が得られた。スピンコートの直後の塗布膜上の抵抗値をテスタにて測定したところ、>1MΩの高抵抗となったことから、絶縁膜50が形成されていることが確認された。
【0051】
その後、図5において説明したように、大気中にて基板40を480℃に加熱し、焼成を行った。本実施例では、この工程を3回繰返すことによって、641nmの厚さの絶縁膜40を得た。なお、分散溶液30中のTaナノ粒子10の濃度をコントロールしたり、塗布と乾燥(加熱)の工程を繰返したりすることにより、任意の厚さの絶縁膜40を形成することができる。このようにして作製した絶縁薄膜50を、光学顕微鏡及び電子顕微鏡にて表面観察を行ったところ、クラックの無い連続的な絶縁膜50であることが確認された。
【0052】
次に、形成した絶縁膜50上にアルミニウム(Al)電極をスパッタ法にて堆積させた。作製した絶縁膜50の誘電特性を評価するため、Sawyer−Tower回路を用いて、ITO電極とAl電極間に周波数1kHzの正弦波交流電圧を印加し、特性を測定した。測定の領域は、3.5×4.5mmとした。測定の結果、作製した絶縁膜50の誘電率は、約80であった。また、絶縁耐圧は、1×10V/mであった。この値は、スパッタ法等の従来の成膜法により形成したTa絶縁膜よりも高い誘電率であり、絶縁耐圧はほぼ同程度であった。
【0053】
このように、本実施例に係る絶縁膜50の形成方法によれば、従来の真空中で行う複雑な成膜方法よりも簡便な方法でありながら、従来の絶縁膜よりも高品質な絶縁膜を形成できることが分かる。
【0054】
〔実施形態2〕
図6は、本発明の実施形態2に係る無機エレクトロルミネッセンスの製造方法の一例を示した図である。実施形態2においては、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法を用いて、無機エレクトロルミネッセンス素子を製造する無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法について説明する。
【0055】
図6(A)は、実施形態2に係る無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法の透明基板用意工程の一例を示した図である。無機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合、ガラス基板等の透明基板41上に素子を形成してゆく。図6(A)においては、透明基板41上に、透明導電膜60が形成されている。このように、無機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合には、ガラス基板等の透明基板41上にまず、透明導電膜60を形成し、透明導電膜60付きの透明基板41を用意する。なお、透明導電膜60は、例えば、上述のITOが用いられてもよい。透明導電膜60の厚さは、例えば、数100nmであってもよい。また、透明基板41は、ガラス基板の他、プラスチック等の樹脂製の基板が適用されてもよい。
【0056】
図6(B)は、第1の絶縁膜形成工程の一例を示した図である。第1の絶縁膜形成工程においては、導電膜付き透明基板41の上に、第1の絶縁膜51を形成する。第1の絶縁膜の形成方法は、実施形態1において説明した、塗布工程と酸化工程を有する絶縁膜の形成方法により行う。これにより、下地の導電膜60に損傷を与えることなく、高品質な第1の絶縁膜51を簡便に形成することができる。第1の絶縁膜51は、種々のナノ粒子10の酸化物で構成されてよく、例えば、Ta等の金属酸化物から構成されてもよい。
【0057】
また、所望の厚さの第1の絶縁膜51を得るために、一連の絶縁膜形成工程が、複数回繰返されてもよい。第1の絶縁膜51は、例えば、透明導電膜60の厚さの2〜4倍程度の厚さに形成されてもよい。
【0058】
図6(C)は、発光層形成工程の一例を示した図である。発光層形成工程においては、第1の絶縁膜51の上に、発光層70が形成される。発光層70は、種々の材料が用いられてよいが、例えば、ZnS(硫化亜鉛)に少量のMn(マンガン)をドープしたZnS:Mnが用いられてもよい。発光層70の厚さは、例えば、第1の絶縁層51よりもやや薄く、第1の絶縁層51の70〜90%程度の厚さに形成されてもよい。発光層70は、種々の方法により形成されてよいが、例えば、蒸着法により発光層70が堆積して形成されてもよい。
【0059】
図6(D)は、第2の絶縁膜形成工程の一例を示した図である。第2の絶縁膜形成工程においては、発光層70の上に、第2の絶縁膜52を形成する。第2の絶縁膜52は、例えば、第1の絶縁膜51と同じ条件、つまり同じ材料、同じ厚さで、同じ形成方法により形成されてもよい。
【0060】
図6(E)は、電極形成工程の一例を示した図である。電極形成工程においては、第2の絶縁膜52の上に、電極80を形成する。電極80は、連続した膜ではなく、離散的に、画素を形成するように、例えば、水平面上に格子状に複数の平行な直線が交わるように形成されてもよい。図6(E)においては、一方の側面から見た状態における電極80の配列の一例が示されている。電極80は、アルミニウムや銅等の、配線金属が用いられてよい。形成方法は、種々の形成方法が利用されてもよいが、例えば、スパッタ法により形成されてもよい。
【0061】
このように、実施形態1に係る絶縁膜の形成方法を、無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に適用することにより、絶縁膜51、52を簡便に、かつ高品質で、下地にダメージを与えずに形成することができ、高品質の無機エレクトロルミネッセンス素子を、簡便に、低コストで製造することができる。
【0062】
なお、図6(E)に示すように、電極80と透明導電膜60との間に交流電源90により交流電圧が印加されることにより、無機エレクトロルミネッセンスは発光する。
【0063】
〔実施例2〕
次に、実施形態2に係る無機エレクトロルミネッセンスの製造方法の実施例を説明する。実施例2においても、実施例1と同様に、実施形態1及び実施形態2と対応する構成要素には、実施形態2と同様の参照符号を付して説明を行う。
【0064】
実施例2においては、実施形態2において説明したのと同様の製造方法により、2重絶縁型構造の無機エレクトロルミネッセンス素子が試作された。発光層70には、Mnを0.5mol%ドープしたZnS(ZnS:Mn)を用いた。
【0065】
まず、透明導電膜60であるITOを約200nm成膜したガラス基板41上に、Taナノ粒子10を含む分散溶液30をノズル111から塗布した。次いで、スピンコート法により、大気中で800rpm、1分間というコート条件でステージ112を回転させた。その後、大気中にてガラス基板41を480℃に加熱し、焼成を行った。この工程を3回繰り返し、約600nmの厚みの第1の絶縁膜51を形成した。これは、図6(B)において説明した第1の絶縁膜形成工程に相当する。
【0066】
その後、第1の絶縁膜51上に発光層70としてZnS:Mnを蒸着法により、基板温度400℃にて約500nm堆積した。これは、図6(C)において説明した発光層形成工程に相当する。
【0067】
次に、発光層70上に、透明導電膜60上の第1の絶縁層51と同じ条件で、第2の絶縁膜52を形成した。これは、図6(D)において説明した第2の絶縁膜形成工程に相当する。
【0068】
最後に、第2の絶縁膜52上に、Al電極80をスパッタ法により形成し、無機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。これは、図6(E)において説明した電極形成工程に相当する。
【0069】
図7は、実施例2に係る製造方法により作製されたTa酸化物薄膜を用いた無機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性と、比較参考例としてスパッタ法により作製されたTa酸化物薄膜を用いた無機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性を示した図である。図7において、横軸は印加電圧〔Vpp〕、縦軸は輝度〔cd/m〕を示している。図7においては、両方の無機エレクトロルミネッセンス素子に、周波数1kHzの正弦波交流を印加して測定された発光特性が示されている。
【0070】
比較参考例のスパッタ法により形成した絶縁膜の厚さは、約300nmであった。発光層は、Mnを0.5mol%ドープしたZnS:Mnを、蒸着法により基板温度400℃にて約300nm堆積して形成した。
【0071】
図7に示すように、発光開始電圧は、スパッタ法による無機エレクトロルミネッセンス素子は約230〔Vpp〕であるのに対し、実施例2に係る塗布法による無機エレクトロルミネッセンス素子は約150〔Vpp〕であり、塗布法による発光開始電圧の方が低い。また、駆動電圧についても、スパッタ法による無機エレクトロルミネッセンス素子が240〜260〔Vpp〕程度であるのに対し、実施例2に係る無機エレクトロルミネッセンス素子は170〜180〔Vpp〕程度であり、実施例2に係る無機エレクトロルミネッセンス素子の方が低くなっている。これは、本実施例に係る無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により製造された無機エレクトロルミネッセンス素子の絶縁膜51、52の誘電率が高いことを示している。
【0072】
このように、実施形態2に係る無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法によれば、誘電率が高い絶縁膜51、52を有し、低電圧で動作する電力効率が高い無機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。
【0073】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、絶縁膜を含むコンデンサ、トランジスタ、発光素子等の電子デバイス及びそれらの基板、並びにそれらの製造プロセスに利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 ナノ粒子
20 溶媒
30 分散溶液
40、41 基板
50、51、52 絶縁膜
60 透明導電膜
70 発光層
80 電極
90 交流電源
100 容器
110 スピンコータ
111 ノズル
112 ステージ
120 加熱手段
121 支持手段
122、123 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に絶縁膜を形成する絶縁膜の形成方法であって、
前記基板上に、ナノ粒子を含む分散溶液を塗布する塗布工程と、
前記基板上に塗布された前記分散溶液に含まれる前記ナノ粒子を酸素雰囲気下に暴露する酸化工程と、を含むことを特徴とする絶縁膜の形成方法。
【請求項2】
前記塗布工程における前記分散溶液の塗布は、スピンコート法又は印刷法により行われることを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子は、Taであることを特徴とする請求項3に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法を複数回繰り返し、所望の厚さの絶縁膜を前記基板上に形成することを特徴とする絶縁膜の形成方法。
【請求項6】
基板と、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法により該基板上に形成された絶縁膜を備えたことを特徴とする絶縁膜付き基板。
【請求項7】
透明導電膜が形成された透明基板を用意する工程と、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法を用いて、前記透明基板上に第1の絶縁膜を形成する工程と、
該第1の絶縁膜上に、発光層を形成する工程と、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法を用いて、前記発光層上に第2の絶縁膜を形成する工程と、
該第2の絶縁膜上に、電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の無機エレクトロルミネッセンスの製造方法により製造されたことを特徴とする無機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−54468(P2011−54468A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203554(P2009−203554)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】