説明

絶縁膜形成用組成物、絶縁膜、および電子デバイス

【課題】本発明者らは、EBキュアによって膜の機械強度を大幅に向上させる効果が得られ、空孔形成剤を用いて微細な空孔を膜中に形成するにあたり、空孔崩壊が抑制され、低誘電率および高機械強度を示すポリフェニレン系有機絶縁膜が得られる絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜、この絶縁膜を有する電子デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物と、少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物とのディールスアルダー反応によって形成されるポリフェニレンを含有する絶縁膜形成用組成物であって、前記ポリフェニレンが第2級炭素原子を含有する置換基を有することを特徴とする絶縁膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度などの膜特性が良好な絶縁膜を形成することができる絶縁膜形成用組成物、絶縁膜形成用組成物を用いて得られる絶縁膜、および、絶縁膜を有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体集積回路(IC)の高集積化、多機能化、高性能化の進行に伴い、回路抵抗や配線間容量が増大し、消費電力や遅延時間の増大を招いている。なかでも、遅延時間の増大は、半導体集積回路の信号速度低下やクロストーク発生の要因となる。そこで、この遅延時間を減少させて半導体集積回路の高速化を図るため、配線抵抗や寄生容量の低減が求められている。寄生容量を低減するための具体策の一つとして、配線の周辺を低誘電性の絶縁膜で被覆することが試みられている。また、絶縁膜には実装基板製造時の薄膜形成工程やチップ接続、ピン付けなどの後工程に耐え得る優れた耐熱性や、ウェットプロセスに耐え得る耐薬品性が求められている。さらに、近年はAl配線から低抵抗のCu配線が導入されつつあり、これに伴いCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化が一般的となっており、このプロセスに耐え得る高い機械強度が求められている。
【0003】
このような配線周辺を被覆する絶縁膜として、従来は二酸化ケイ素(SiO、k=3.9)が適用されてきた。しかし、近年では絶縁膜のさらなる低誘電率化に向け、膜構造制御による低誘電率化が図り易い塗布型絶縁膜の適用が検討されている。
例えば、特許文献1では、ポリフェニレン系有機ポリマーを主体とする塗布型の低誘電率絶縁膜形成用材料が開示されている。更に、近年ではポリフェニレン系有機ポリマーからなる絶縁膜の誘電率を更に低下させるため、空孔形成剤(ポロジェン)を利用する試みが提案されている。
【0004】
空孔形成剤とは、例えば、ポリフェニレン系有機ポリマーのような誘電マトリックス材料中でドメイン(離散領域)を形成し、マトリックス材料の硬化温度近辺の温度で熱的または放射線(電磁放射線、電子線)の影響で分解・気化し、マトリックス中に空孔を形成する材料を指す。空孔形成剤の分解・気化によってマトリックス中に形成された空孔の誘電率は1程度(真空中の誘電率に相当)となるため、絶縁膜全体の誘電率を大きく低減させることが可能となる。空孔形成剤を利用して、ポリフェニレン系有機ポリマーを主体とする絶縁膜の誘電率を低減する技術に関する開示例としては、特許文献2、3などが挙げられる。
【0005】
一方、近年、塗布型低誘電率絶縁膜形成用組成物から塗布して得られた塗膜を硬化させるためのキュア方法として、塗膜を加熱しながら数keV〜数十keV程度の加速電圧でエネルギー付与した電子線を照射する、いわゆる電子線キュア(EBキュア)の検討が為されており、特許文献4などに具体的な開示例が見られる。一般的な熱キュア(熱だけで塗膜を硬化させるキュア方式)に比べ、EBキュアを適用することで塗膜硬化が完了するまでの時間を大幅短縮することができる。更に、有機シリコン酸化膜に対してEBキュアを適用することで、一般的な熱キュアと比べて高い機械強度を有する膜が得られる事が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−191752号公報
【特許文献2】特表2002−530505号公報
【特許文献3】特表2005−517785号公報
【特許文献4】特許第3530165号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、本発明者らが従来技術について検討を行ったところ、特許文献1に記載されるポリフェニレン系有機ポリマーを主体とする低誘電率絶縁膜に対してEBキュアを適用した場合、上記有機シリコン酸化膜に比べて、膜の機械強度を向上させる効果が得難い傾向にあることを見出した。
【0008】
また、特許文献2および3に記載される空孔形成剤(ポロジェン)を利用した絶縁膜の低誘電率化技術においては、ポロジェンの分解・気化によって絶縁膜中に形成される空孔の大きさ(空孔径)をできる限り小さくする必要があり、数nm未満のサイズに制御する試みがなされていた。しかしながら、特許文献2および3に記載される誘電マトリックス材料の機械強度が十分ではないため、半導体デバイスの製造過程に幾度にも渡って行われる高温熱処理やCMP処理といったプロセスにおいて、形成された小さな空孔が崩壊し易いという問題があった。
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑みて、EBキュアによって膜の機械強度を大幅に向上させる効果が得られ、空孔形成剤を用いて微細な空孔を膜中に形成するにあたり、空孔崩壊が抑制され、低誘電率および高機械強度を示すポリフェニレン系有機絶縁膜が得られる絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜、この絶縁膜を有する電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、鋭意検討を行ったところ、第2級炭素原子を含む置換基を有するポリフェニレン系材料を含む組成物を使用することにより、組成物より得られる膜の機械強度および誘電率がより向上することを見出した。
【0011】
つまり、本発明者らは、上記課題が下記の<1>〜<6>の構成により解決されることを見出した。
<1> 少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物と、少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物とのディールスアルダー反応によって形成されるポリフェニレンを含有する絶縁膜形成用組成物であって、前記ポリフェニレンが第2級炭素原子を含有する置換基を有することを特徴とする絶縁膜形成用組成物。
<2> 前記第2級炭素原子を含有する置換基が、炭素数3〜12の分岐状アルキル基または多環状シクロアルキル基である<1>に記載の絶縁膜形成用組成物。
<3> 前記ポリフェニレンが、一般式(a)で表される化合物、一般式(c)で表される化合物、一般式(d)で表される化合物、一般式(e)で表される化合物、および一般式(f)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む出発原料から合成されたポリフェニレンである<1>または<2>に記載の絶縁膜形成用組成物。
【化1】

(一般式(a)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。
一般式(c)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。yは、3〜6の整数を表す。
一般式(d)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。
一般式(e)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。なお、RとRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。
一般式(f)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。なお、RとRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。)
【化2】

(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基を表す。)
<4> 前記ポリフェニレンが、少なくとも1種の前記一般式(a)で表される化合物と、少なくとも1種の前記一般式(c)で表される化合物とを含む出発原料から合成されたポリフェニレンである<3>に記載の絶縁膜形成用組成物。
<5> <1>〜<4>のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物を基板上に塗布して、塗膜を得る膜形成工程と、膜形成工程で得られた前記塗膜に電子線を照射して、前記塗膜を硬化させる硬化工程とを含む絶縁膜の製造方法。
<6> <5>に記載の製造方法より得られる絶縁膜を有する電子デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、EBキュアによって膜の機械強度を大幅に向上させる効果が得られ、空孔形成剤を用いて微細な空孔を膜中に形成するにあたり、空孔崩壊が抑制され、低誘電率および高機械強度を示すポリフェニレン系有機絶縁膜が得られる絶縁膜形成用組成物、この絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜、この絶縁膜を有する電子デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る絶縁膜形成用組成物、絶縁膜形成用組成物より得られる絶縁膜、および、絶縁膜の製造方法について詳細に説明する。
まず、絶縁膜形成用組成物に含まれるポリフェニレンについて説明する。
【0014】
本発明の組成物に含まれるポリフェニレンは、少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物と、少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物との間のディールスアルダー反応によって形成されるポリフェニレンであり、第2級炭素原子を含有する置換基を有することを特徴とする。より具体的には、ポリフェニレンを構成する芳香環基に第2級炭素原子を含有する置換基を有する。
第2級炭素原子を含有する置換基は、一般に熱キュアに対して不活性であるが、電子線照射下では第2級炭素原子部位でラジカルを生成し、生成したラジカル同士がカップリングして架橋構造を形成すると考えられる。すなわち、ポリフェニレンが第2級炭素原子を含有する置換基を有することで、電子線キュアの際に第2級炭素原子を含有する置換基同士が架橋反応し、膜の架橋密度が向上することで本発明の効果が得られると推測される。
【0015】
<少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物>
まず、本発明で使用される少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物について説明する。この化合物は、ディールスアルダー反応によって得られるポリフェニレンの出発原料の一つである。
この化合物は、少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有していればよい。その化合物の構造は、この化合物を用いてディールスアルダー反応により得られる生成物がポリフェニレンであれば、特に限定されない。
【0016】
この化合物は、シクロペンタジエノン基を少なくとも1つ有している。なかでも、この化合物を用いて得られる絶縁膜の耐熱性・機械強度が優れる点で、シクロペンタジエノン基の数は、2以上であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。
【0017】
少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物の分子量は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。なかでも、溶解性などの取り扱いやすさの点から、500〜5000が好ましく、700〜3000がより好ましい。
【0018】
少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物の好ましい例の一つとして、一般式(a)で表される化合物が挙げられる。
【0019】
【化3】

【0020】
(一般式(a)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。)
【0021】
【化4】

【0022】
(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基を表す。)
【0023】
一般式(a)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。なお、一般式(a)中、Rは同一であっても、異なっていてもよい。Rのうち少なくとも1つ(好ましくは2〜4つ)が、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基であることが好ましい。
芳香族基としては、芳香族性であれば、特に制限されず、芳香族複素環基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。低誘電性の観点から、芳香族炭化水素基が好ましい。なかでも、炭素数6〜18が好ましく、炭素数6〜10がより好ましい。具体的には、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
また、芳香族基は、置換基を有していてもよい。なかでも、不活性置換基が好ましい。不活性置換基とは、シクロペンタジエノン基とアセチレン基とのディールスアルダー反応に対して本質的に不活性であり、マイクロエレクトニクスデバイス中において硬化したポリマーの使用条件で、水などの環境中の物質と容易に反応しない基をさす。具体的には、F、Cl、Br、−CF、−OCH、−OCF、−OPh、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基などが挙げられる。
【0024】
第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基中の第2級炭素原子を含有する置換基は、第2級炭素原子を有していれば、特に限定されない。なかでも、低誘電性の観点から、分岐状アルキル基または多環状シクロアルキル基が好ましい。
分岐状アルキル基としては、炭素数3〜12が好ましく、炭素数3〜6がより好ましい。具体的に、イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、2−メチルブチル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルヘキシル、2,6−ジメチル−4−ヘプチル、トリメチルノニルなどが挙げられる。
多環状シクロアルキル基としては、炭素数6〜14が好ましく、炭素数7〜10がより好ましい。具体的には、アダマンチル基、イソボルニル基、ノルボルニル基、ジアマンチル基などが挙げられる。これらの中でも、第2級炭素原子を含有する置換基として、イソプロピル基またはアダマンチル基が好ましく挙げられる。
【0025】
第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基中の芳香族基は、上述したRで表される芳香族基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0026】
なお、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基の具体例としては、例えば、イソプロピル基またはアダマンチル基を有する、ベンゼン環基またはナフタレン環基などが挙げられる。
第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基中の第2級炭素原子を含有する置換基の数は特に制限されず、合成が容易である点から、1〜2個が好ましい。
【0027】
一般式(a)中、Arは、2価の、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。これらの基の中でも、低誘電性である点で、ベンゼン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、ジフェニルエーテル基が好ましい。なお、これらの各基中のベンゼン環基上の任意の二箇所に、シクロペンタジエノン基が結合する。
Arの例としては、一般式(W−1)〜一般式(W−4)で表される基が挙げられる。なお、各式中の*は結合位置を表す。
【0028】
【化5】

【0029】
一般式(W−4)中、Zは、−O−、−S−、アルキレン(好ましくは炭素数1〜3、より好ましくは炭素数1である)、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基などを表す。
【0030】
以下に、Arで表される基の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0031】
【化6】

【0032】
一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン(例えば、−CF−)、またはアリーレン基を表す。
【0033】
<少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物>
次に、本発明で使用される少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物について説明する。この化合物は、ディールスアルダー反応によって得られるポリフェニレンの出発原料の一つである。
この化合物は、少なくとも1つのアセチレン基を有していればよい。その化合物の構造は、この化合物を用いてディールスアルダー反応により得られる生成物がポリフェニレンであれば、特に限定されない。
【0034】
この化合物は、アセチレン基を少なくとも1つ有している。なかでも、この化合物を用いて得られる絶縁膜の耐熱性・機械強度が優れる点で、アセチレン基の数は2以上であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。
【0035】
少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物の分子量は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。なかでも、溶解性などの取り扱いやすさの点から、200〜4000が好ましく、250〜2000がより好ましい。
【0036】
少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物の好ましい例としては、一般式(c)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化7】

【0038】
(一般式(c)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。yは、3〜6の整数を表す。)
【0039】
【化8】

【0040】
(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基を表す。)
【0041】
一般式(c)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Rで表される芳香族基および第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基は、一般式(a)中のRで表される芳香族基および第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
なお、一般式(c)中のRは、同一であっても、異なっていてもよい。Rのうち少なくとも1つが、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基であることが好ましい。
【0042】
一般式(c)中、Arは、y価の、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。これらの各基中のベンゼン環基上の任意の場所に、Rとアセチレン基とを含む基がy個結合する。
なかでも、得られる絶縁膜がより低誘電性を示す点で、ベンゼン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、ジフェニルエーテル基などが好ましく挙げられる。
【0043】
以下に、Arで表される基の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0044】
【化9】

【0045】
一般式(c)中、yは3〜6の整数を表し、好ましくは3〜5の整数を表し、より好ましくは3〜4の整数を表す。
【0046】
一般式(c)中の一般式(b)で表される基は、一般式(a)中の一般式(b)で表される基と同義である。
【0047】
少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物の好ましい他の例としては、一般式(d)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化10】

【0049】
(一般式(d)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、2価の、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。)
【0050】
【化11】

【0051】
(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基を表す。)
【0052】
一般式(d)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Rで表される芳香族基および第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基は、一般式(c)中のRと同義であり、好ましい範囲も同じである。なお、Rのうち少なくとも1つが、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基であることが好ましい。
【0053】
一般式(d)中、Arは、2価の、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。一般式(d)中のArで表される各基は、一般式(a)中のArで表される各基と同義である。
これらの各基中のベンゼン環基上の任意の二箇所に、Rとアセチレン基とを含む基が結合する。
【0054】
上述した一般式(a)で表される化合物と、一般式(c)で表される化合物および/または一般式(d)で表される化合物とを反応させる場合は、一般式(a)中のRと一般式(c)および一般式(d)中のRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。
【0055】
<シクロペンタジエノン基とアセチレン基とを有する化合物>
本発明のポリフェニレンを合成する際に、シクロペンタジエノン基とアセチレン基との両方を有する化合物を使用してもよい。
具体的には、以下の一般式(e)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【化12】

【0057】
(一般式(e)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。なお、RとRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。)
【0058】
【化13】

【0059】
(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基を表す。)
【0060】
一般式(e)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。RおよびRは、一般式(a)および一般式(c)で表されるRおよびRとそれぞれ同義である。
【0061】
一般式(e)中、Arは、2価の、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。一般式(e)中のArで表される各基は、一般式(a)中のArで表される各基と同義である。Arの具体例としては、上述の一般式(a)のArで表される基の具体例などが挙げられる。
これらの各基中のベンゼン環基上の任意の二箇所に、Rとアセチレン基とを含む基と、シクロペンタジエノン基とが結合する。
【0062】
シクロペンタジエノン基とアセチレン基とを有する化合物の他の好ましい例としては、一般式(f)で表される化合物が挙げられる。
【0063】
【化14】

【0064】
(一般式(f)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。なお、RとRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。)
【0065】
【化15】

【0066】
(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基などを表す。)
【0067】
一般式(f)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。RおよびRは、一般式(a)および一般式(c)で表されるRおよびRとそれぞれ同義である。
【0068】
一般式(f)中、Arは、2価の、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。一般式(f)中のArで表される各基は、一般式(e)中のArで表される各基と同義である。
これらの各基中のベンゼン環基上の任意の二箇所に、Rとアセチレン基とを含む基と、シクロペンタジエノン基とが結合する。
【0069】
<ポリフェニレン>
上述した化合物間のディールスアルダー反応によって形成されるポリフェニレンは、第2級炭素原子を含有する置換基を有する。より具体的には、ポリフェニレンを構成する芳香環基の一部に第2級炭素原子を含有する置換基を有する。
本発明で使用されるポリフェニレンは、主成分としてフェニレン骨格(ベンゼン環基)から構成されるポリマーをさす。なお、本発明のポリフェニレンは、その高分子骨格の一部に、−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレンなどを有していてもよい。
【0070】
得られるポリフェニレンの重量平均分子量(Mw)は、特に制限されず、適宜調整することができる。なかでも、溶媒への溶解性や均一塗布性など取り扱いやすさの点で、重量平均分子量は2,000〜300,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。
【0071】
本発明のポリフェニレンが有する、第2級炭素原子を含有する置換基は、上述した一般式(a)中のRで説明した「第2級炭素原子を含有する置換基」と同義である。
ポリフェニレンは、第2級炭素原子を含有する置換基を側鎖、末端のいずれに有していてもよい。
【0072】
本発明のポリフェニレンの好ましい例として、一般式(I)〜一般式(IV)で表されるオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。
なお、ここでオリゴマーとは重量平均分子量が4,000未満の化合物をさし、ポリマーとは重量平均分子量が4,000以上の化合物をさす。
以下に、各式について説明する。
【0073】
<一般式(I)で表されるオリゴマーまたはポリマー>
本発明のポリフェニレンの好ましい例の一つとして、一般式(I):[A] [B] [E]で表されるオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。
一般式(I)中のAは、以下の一般式(I−1)で表される繰り返し単位を表す。一般式(I)中のBは、以下の一般式(I−2)で表される繰り返し単位を表す。
【0074】
【化16】

【0075】
一般式(I)中のEは、以下の一般式(I−3)〜一般式(I−8)で表される繰り返し単位を表す。
【0076】
【化17】

【0077】
一般式(I)で表されるオリゴマーまたはポリマーは、上述した一般式(a)で表される化合物と、一般式(c)で表される化合物および/または一般式(d)で表される化合物とを用いて合成することができる。
一般式(I)中のAr、Ar、Ar、R、Rおよびyは、一般式(a)、一般式(c)および一般式(d)中で表される各基と同義である。
【0078】
一般式(I)中、Mは単結合を表す。pはモノマーユニット中の未反応アセチレン基の数であり、rはモノマーユニット中の反応したアセチレン基の数より1少ない数であり、p+r=y−1の関係式を満たす。
また、Wは0〜1,000の整数であり、Tは0〜1,000の整数であり、Vは2以上の整数である。
【0079】
<一般式(II−1)〜一般式(II−3)で表されるオリゴマーまたはポリマー>
本発明のポリフェニレンの好ましい例の一つとして、一般式(II−1)〜一般式(II−3)で表されるオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。
【0080】
【化18】

【0081】
一般式(II−1)〜一般式(II−3)で表されるオリゴマーまたはポリマーは、上述した一般式(a)で表される化合物と、一般式(d)で表される化合物とから合成することができる。
なお、その際の一般式(a)で表される化合物と一般式(d)で表される化合物との反応比(重量比)は1:1〜1:3が好ましく、より好ましくは1:1〜1:2である。
一般式(II−1)〜一般式(II−3)中の、R、R、ArおよびArは、一般式(a)および一般式(d)中で表される各基と同義である。
【0082】
一般式(II−1)〜一般式(II−3)中、Xは1〜1000の整数を表し、1〜50の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましい。
【0083】
<一般式(III)で表されるオリゴマーまたはポリマー>
本発明のポリフェニレンの好ましい例の一つとして、一般式(III)で表されるオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。
【0084】
【化19】

【0085】
一般式(III)で表されるオリゴマーまたはポリマーは、上述した一般式(e)で表される化合物同士を反応させることにより合成することができる。
一般式(III)中の、R、R、およびArは、一般式(e)中で表される各基と同義である。
【0086】
一般式(III)中、Xは1〜1000の整数を表し、1〜50の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましい。
【0087】
<一般式(IV)で表されるオリゴマーまたはポリマー>
本発明のポリフェニレンの好ましい例の一つとして、一般式(IV)で表されるオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。
【0088】
【化20】

【0089】
一般式(IV)で表されるオリゴマーまたはポリマーは、上述した一般式(f)で表される化合物同士を反応させることにより合成することができる。
一般式(IV)中の、R、R、およびArは、一般式(f)中で表される各基と同義である。
【0090】
一般式(III)中、Xは1〜1000の整数を表し、1〜50の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましい。
【0091】
<合成方法>
上記の一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)および一般式(IV)に記載したポリフェニレンの前駆体である、一般式(a)で表される化合物、一般式(e)で表される化合物、一般式(f)で表される化合物などのシクロペンタジエノン基を有する化合物は、従来公知の方法を用いて合成することができる。例えば、ベンジル類(オキサリル化合物、例えば、Ph-CO-CO-Ph)とベンジルケトン類との縮合により製造することができる。より具体的な方法として、KumarらのMacromolecules, 1995(年), vol.28, pp.124-130、Ogliaruso らのJ. Org. Chem., 1965(年), vol.30, pp.3354、OgliarusoらのJ. Org. Chem., 1963(年), vol.28, pp.2725および米国特許第4,400,540号明細書に記載されている方法などが挙げられる。
【0092】
上記の式(I)、式(II)、式(III)および式(IV)に記載したポリフェニレンの前駆体である一般式(c)で表される化合物、一般式(d)で表される化合物、一般式(e)で表される化合物、一般式(f)で表される化合物などのアセチレン基を含む化合物は、従来公知の方法によって製造可能である。具体的には、芳香族化合物をハロゲン化し、次いでパラジウム系錯体に代表されるアリールエチニル化触媒の存在下、適当な置換アセチレンとハロゲン化芳香族化合物とを反応させることで、所望の芳香族アセチレン基を含む化合物を得ることができる。
【0093】
次に、前駆体となるシクロペンタジエノン基を有する化合物と、アセチレン基を有する化合物とがポリマー化してポリフェニレンが生成する反応について、一般的に知られている反応機構を以下に記述する。例えば、上記に説明した一般式(II)で示されるオリゴマーまたはポリマーの場合、その製造過程は以下の反応スキームに従って進行すると一般的に考えられている。
【0094】
【化21】

【0095】
上記の反応スキームには表れていないが、使用するポリフェニレン前駆体の種類および反応条件によっては、形成された本発明のポリフェニレンであるオリゴマーまたはポリマーにカルボニル架橋された物質が含まれる場合がある。この場合、さらに加熱すると、このカルボニル架橋された物質は本質的にすべて芳香族環に転化されると考えられる。1種以上のアセチレン含有モノマーを用いると、示された反応式より各アセチレン含有モノマーに対応する繰り返し単位を生じることが示唆され、形成されるオリゴマーおよびポリマーは各繰り返し単位から構成されるランダムコポリマーになると考えられる。シクロペンタジエノン基とアセチレン基との間のディールスアルダー反応が起こり、フェニル化された環にパラ結合またはメタ結合を形成すると考えられる。
【0096】
上述したポリフェニレンの本発明の組成物中における含有量は、本発明の組成物に含まれる全固形成分に対して、50〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、本発明の組成物に含まれる全固形成分とは有機溶剤を除いた、全成分をさす。
【0097】
<空孔形成剤>
次に、本発明の絶縁膜形成用組成物に含まれていてもよい他の構成成分について記載する。
本発明の絶縁膜形成用組成物は、空孔形成剤を含有していてもよい。
空孔形成剤とは、上述したポリフェニレンを主体とする膜中に空孔を形成する機能を有する物質である。例えば、空孔形成剤を含有する組成物を用いて得られる膜を加熱することにより、膜中に空孔形成剤による空孔が形成され、空孔を含有する膜を得ることができる。
【0098】
空孔形成剤としては、特に限定されないが、各種ポリマーを使用することができる。
空孔形成剤としてのポリマーは、ポリフェニレンの熱分解温度より低い温度において熱分解するものである。
【0099】
空孔形成剤として使用できるポリマーとしては、例えば、ポリビニル芳香族化合物(ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ハロゲン化ポリビニル芳香族化合物、ポリアセナフチレンなど)、ポリアクリロニトリル、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなど)、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリメタクリレート(ポリメチルメタクリレートなど)またはポリメタクリル酸、ポリアクリレート(ポリメチルアクリレートなど)およびポリアクリル酸、ポリジエン(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)、ポリビニルクロライド、ポリアセタール、並びに、アミンキャップドアルキレンオキシド(HuntsmanCorp.からJeffamineTMポリエーテルアミンとして商業的に入手できる)などが挙げられる。
その他、ポリフェニレンオキシド、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリテトラヒドロフラン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリエチルオキサゾリン、ポリビニルピリジンなどであってもよい。
【0100】
空孔形成剤の例として記載したポリマーは、ホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーなどいずれであってもよい。また、これらの混合物であってもよい。また、ポリマーの形状は特に限定されず、例えば、線状、分岐状、超分岐状、樹枝状または星様状であってもよい。
【0101】
本発明の組成物に含まれる空孔形成剤として最も好ましいポリマーは、ポリスチレンが挙げられる。ポリスチレンとしては、例えば、アニオン性重合ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、未置換および置換ポリスチレン(例えば、ポリ(α−メチルスチレン))が挙げられるが、特に未置換ポリスチレンが好ましい。
ポリスチレンは、ポリフェニレンを主体とするマトリックス中において、ポリフェニレンの分解は起こらない高温(たとえば、約420℃〜450℃)において分解し、主としてモノマーに分解され、その後モノマーはマトリックスを拡散して、マトリックス外へ放出されるので好ましい。
【0102】
空孔形成剤として好適なポリマーの分子量は、ポリフェニレンおよびこれが重合硬化し得られたマトリックスとの相溶性、絶縁膜中の空孔サイズ、等のような様々な因子により適宜選択することができる。一般に、空孔形成剤の数平均分子量(Mn)は、2000〜100,000であることが好ましく、5000〜50,000がより好ましく、5000〜35,000がさらに好ましい。
なお、狭い分子量分布(Mw/Mn:1.01〜1 .5)のポリマーが好ましい。
【0103】
空孔形成剤は、絶縁膜に生成する空孔の大きさに対応した大きさの粒状物質であってもよい。このような物質としては、好ましくは0.5〜50nm 、より好ましくは0.5〜20nmの平均直径を有する物質である。かかる物質の材質等に制限はなく、例としては、デンドリマーのような超分岐状ポリマーおよびラテックス粒子、特に架橋ポリスチレン含有ラテックスが好ましく挙げられる。
【0104】
これらの物質の例としては、Dendritech,Inc.を通じて入手でき、また、Polymer J.(東京),Vol.17,117(1985)にTomalia等により記載されているポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、DSMCorporationから入手できるポリプロピレンイミンポリアミン(DAB−Am)デンドリマー、フレチェット型ポリエーテルデンドリマー(J.Am.Chem.Soc.,Vol.112,7638(1990)、Vol.113,4252(1991)にFrechet等により記載されている)、パーセク型液晶モノデンドロン、デンドロン化ポリマーおよびそれらの自己集合高分子(Nature,Vol.391,161(1998)、J.Am.Chem.Soc., Vol.119,1539(1997)にPercec等により記載されている)、ボルトロンHシリーズ樹枝状ポリエステル(PerstorpABから商業的に入手できる)が挙げられる。
【0105】
以上に示したような、マトリックス、即ちポリフェニレン化合物由来の固形分と、種々の空孔形成剤との系においては、例えば加熱により空孔形成剤を除去する場合には、加熱に伴い、空孔形成剤が気散または分解する前にマトリックスが形成し、かつマトリックスが気散または分解する前に空孔形成剤が好ましくは完全に気散または分解するように、空孔形成剤を選択することが好ましい。マトリックスの架橋する温度と、空孔形成剤が気散または分解する温度の差が大きいと、空孔形成剤の選択の幅が広くなる点で好ましい。
【0106】
以上に示した空孔形成剤は、ポリフェニレンに対し別成分として添加するのではなく、ポリフェニレンに対して予めグラフト共重合またはブロック共重合させた形で添加しておくこともできる。ポリフェニレンに対して予めグラフト共重合またはブロック共重合させておくことで、空孔形成剤をポリフェニレン中でミクロ相分離させ、膜中において不適切に大きな空孔(ボイド)が形成されるのを抑制できる傾向がある。空孔形成剤の一部にアセチレン基・ビニル基のようなジエノフィル基を導入し、これをポリフェニレンの合成反応となるディールスアルダー反応に適宜混合させることで、ポリフェニレンに空孔形成剤をグラフト共重合またはブロック共重合させることが可能となる。
【0107】
<有機溶媒>
本発明の絶縁膜形成用組成物は、ポリフェニレンを含む全固形成分を溶解する有機溶剤を含んでいてもよい。
有機溶剤としては、例えば、1−メトキシ−2−プロパノール、プロパノール、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、アニソール、メシチレン、t−ブチルベンゼンであり、特に好ましくは1−メトキシ−2−プロパノール、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、t−ブチルベンゼン、アニソールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0108】
本発明の絶縁膜形成用組成物が上述の有機溶媒を含む場合の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは2〜15質量%であり、特に好ましくは3〜10質量%である。ここで固形分とは、この組成物を用いて得られる膜を構成する全成分に相当する成分で、有機溶媒は含まれない。
【0109】
また、本発明の組成物に含有されるポリフェニレンは後述する不活性有機溶媒にポリフェニレン前駆体を添加し、加熱等することで合成することができる。その際、合成後の溶液中における不活性有機溶媒は、上記の有機溶剤であってもよい。また、不活性有機溶媒にポリフェニレン前駆体を添加し加熱等して得られる溶液は本発明のポリフェニレンを含むが、不活性有機溶媒に本発明のポリフェニレンの少なくとも一部が溶解している。
【0110】
<密着助剤>
本発明の絶縁膜形成用組成物は、さらに密着助剤を含有していてもよい。
特に、本発明のポリフェニレンを主体とする組成物から形成される有機ポリマー系絶縁膜は、半導体デバイスを作製する上で、二酸化ケイ素(SiO)、有機シリコン(SiOC)、炭化窒素化ケイ素(SiCN)、炭化ケイ素(SiC)のような無機系材料の上層に設けられることが多い。このような無機材料層と有機ポリマー層とは、界面の密着力が基本的に弱い傾向がある。無機材料層と有機ポリマー層との密着力が弱いと、後に続くCMP研磨処理時に界面から剥離を生じ、半導体デバイスを製造する上で著しい障害となる。これを避けるために、無機材料層と有機ポリマー層との界面密着力を向上させる密着助剤を添加することが好ましい。
【0111】
本発明の組成物に用いられる密着助剤の代表的な例は、シラン化合物、好ましくはアルコキシシラン(例えば、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシラン、アリルトリメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン)等のオルガノシラン、アセトキシシラン(例えば、ビニルトリアセトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、およびこれらの加水分解物あるいは脱水縮合物、ヘキサメチルジシラザン[(CH33−Si−NH−Si(CH33]、または、アミノシラン・カプラー、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、またはキレート(例えば、酸化アルミニウムを形成する点から、アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレート[((iso-C37O)2Al(OCOC25CHCOCH3))]、アルミニウムアルコキシド)などを挙げることができる。これらの材料を混合して用いてもよい。また、接着促進剤として市販されているものを用いてもよい。
【0112】
本発明の絶縁膜形成用組成物中での密着助剤の含有量は、特に制限されないが、全固形分に対して一般的には0.05〜10質量%が好ましく、0.1〜5.0質量%がより好ましく、1〜3.0質量%がさらに好ましい。なお、全固形成分とは、上述のように組成物中から有機溶剤を除いた全成分をさす。
【0113】
<界面活性剤>
本発明の絶縁膜形成用組成物は、更に界面活性剤を含んでいてもよい。組成物に界面活性剤が含まれていると、本発明の絶縁膜形成用組成物によって形成させた絶縁膜の膜厚を均一に調整しやすくなる。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、アクリル系界面活性剤などが挙げられる。このような界面活性剤は、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。中でも、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤を好ましく用いることができ、シリコーン系界面活性剤をより好ましく用いることができる。
【0114】
ここでシリコーン系界面活性剤とは、少なくとも1原子のSi原子を含む界面活性剤を意味する。本発明の絶縁膜形成用組成物は、シリコーン系界面活性剤を含むことが好ましいが、中でも、アルキレンオキシドおよびジメチルシロキサンを含む構造を有するものがより好ましい。具体的には、一般式(g)で表される構造であることがさらに好ましい。
【0115】
【化22】

【0116】
一般式(g)中、Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、xは1〜20の整数であり、m、nはそれぞれ独立に2〜100の整数である。複数のRは、同じでも異なっていてもよい。
【0117】
本発明の絶縁膜形成用組成物中での界面活性剤の含有量は、特に制限されないが、組成物に含まれる全固形成分に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、1.0〜5.0質量%がより好ましい。なお、全固形成分とは、上述のように組成物中から有機溶剤を除いた全成分を指す。
【0118】
また、本発明の絶縁膜形成用組成物は、更にラジカル発生剤、コロイド状シリカなどの添加剤を含んでいてもよい。
絶縁膜形成用組成物中でのこれら添加剤の含有量は、得られる絶縁膜の特性(耐熱性等)を損なわない範囲であれば特に制限されないが、本発明の組成物に含まれる全固形成分に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0119】
本発明の絶縁膜形成用組成物には、不純物としての金属含量が充分に少ないことが好ましい。
本発明の絶縁膜形成用組成物中における遷移金属の含有量は、ICP−MS法によって測定した場合において、10ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることが好ましく、100ppb以下であることがさらに好ましい。遷移金属は、酸化を促進する触媒能が高い。そのため、多量の遷移金属が含まれていると、プリベーク、熱硬化プロセスにおいて酸化反応が生じ、絶縁膜形成用組成物から形成される絶縁膜の誘電率を上げる虞がある。
また、本発明の絶縁膜形成用組成物中における遷移金属以外の金属含有量は、ICP−MS法によって測定した場合において、30ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、300ppb以下であることがさらに好ましい。
【0120】
<絶縁膜形成用組成物の製造方法>
次に、本発明の絶縁膜形成用組成物の製造方法について説明する。
本発明の絶縁膜形成用組成物に含まれるポリフェニレンは、少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物と、少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物とを出発原料にして製造される。この出発原料としては、例えば、上記の一般式(a)〜一般式(f)で表される化合物などが挙げられる。このような出発原料を、本明細書では「ポリフェニレン前駆体」ともいう。
【0121】
ポリフェニレン前駆体は、充分に精製されていることが好ましい。特に、金属およびイオン性物質をできるだけ含まないようにすることが好ましい。
例えば、芳香族アセチレン基を含む多官能性化合物が残留エチニル化触媒を含む場合、これを水洗浄し、脂肪族炭化水素溶媒と接触させる。次いで、多官能性化合物を芳香族溶媒中に溶解させた後、純粋なシリカゲルを通して濾過すれば、多官能性化合物から残留エチニル化触媒を除去することができる。さらに再結晶化を行えば、残留エチニル化触媒をさらに除去することができる。
【0122】
ポリフェニレン前駆体からポリフェニレンを合成する方法は特に限定されないが、不活性有機溶媒にポリフェニレン前駆体を溶解させ、大気圧下、減圧下または加圧下のいずれかにおいて、適当な重合温度に加熱することでポリフェニレンを合成する方法が好ましい。この条件であれば、均一分子量のポリフェニレンを得やすく、また、反応に伴う発熱を緩和することができる。また、得られるポリフェニレンを含む溶液は、既に本発明の絶縁膜形成用組成物であるので、ポリフェニレンを有機溶剤に添加する等の操作が不必要となる。
【0123】
不活性有機溶媒としては、例えば、メシチレン、ピリジン、トリエチルアミン、N−メチルピロリドン(NMP) 、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、ブチルベンゾエート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロヘキシルピロリジノン、エーテルまたはヒドロキシエーテル(例えば、ジベンジルエーテル、ジグリム、トリグリム、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル)、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジクロロベンゼン、プロピレンカーボネート、ナフタレン、ジフェニルエーテル、ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、およびこれらの混合物が挙げられる。好ましい不活性有機溶剤としては、メシチレン、N−メチルピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、ジフェニルエーテル、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0124】
ポリフェニレン前駆体の重合反応が最も有利に行われる反応温度、反応時間などの反応条件は、ポリフェニレン前駆体や、不活性有機溶媒の種類など種々の因子によって異なる。
例えば、大気圧において、反応温度を100℃〜475℃、反応時間を1分〜48時間として、ポリフェニレン前駆体からオリゴマーを合成することができる。反応温度は、150℃〜450℃が好ましく、200℃〜250℃がより好ましい。また、反応時間は、60分〜48時間が好ましく、1分〜10時間がより好ましく、1分〜1時間がさらに好ましい。さらに、鎖延長(アドバンスメント)を行ってもよい。
また、ポリフェニレン前駆体の重合反応は、非酸化雰囲気、例えば、窒素または他の不活性ガス中で行うこともできる。
【0125】
<絶縁膜の製造方法>
上述の絶縁膜形成用組成物を用いて絶縁膜を製造する方法は、特に限定されず、種々の方法を実施することができる。製造方法は、主に、上述の組成物を用いて膜を作製する膜形成工程と、得られた膜を硬化する硬化工程よりなる。以下に、各工程について述べる。
【0126】
<膜形成工程>
膜形成工程は、本発明の絶縁膜形成用組成物を、スピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法などの任意の方法により基板に塗布して、必要に応じて加熱処理などにより有機溶剤を除去して塗膜を得る工程である。
基板に塗布する方法としては、スピンコーティング法またはスキャン法によるものが好ましく、スピンコーティング法がより好ましい。スピンコーティング法では、市販の装置を使用できる。例えば、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン社製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン社製)、SSシリーズまたはCSシリーズ(東京応化工業社製)などが好ましく使用できる。
スピンコート条件としては、いずれの回転速度でもよいが、例えば、300mmシリコン基板では1300rpm程度の回転速度であることが好ましい。この回転速度であれば、形成される絶縁膜の面内均一性がより良好となる。なお、使用される基板としては、特に限定されず、例えば、シリコンウエハー、SiNウエハー、ガラス基板、セラミックス基板、プラスチック基板などが使用目的に応じて選択される。
【0127】
また、本発明の絶縁膜形成用組成物の吐出方法は、回転する基板上へ絶縁膜形成用組成物を吐出する動的吐出、静止した基板上へ絶縁膜形成用組成物を吐出する静的吐出のいずれでもよいが、形成される絶縁膜の面内均一性の観点より、動的吐出が好ましい。また、絶縁膜形成用組成物の消費量を抑制する観点より、予備的に絶縁膜形成用組成物に含まれる有機溶剤のみを基板上に吐出して液膜を形成した後、その上から絶縁膜形成用組成物を吐出するという方法を用いることもできる。ここで絶縁膜形成用組成物に有機溶剤が2種類以上含まれる場合は、含有率の高い方のみを用いて液膜を形成してもよい。スピンコート時間については特に制限はないが、スループットの観点から180秒以内が好ましい。また、基板の搬送の観点より、基板エッジ部の膜を残存させないための処理(エッジリンス、バックリンス)をすることも好ましい。
【0128】
溶媒除去のための加熱処理の方法は特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法、RTP(Rapid Thermal Processor)などによるキセノンランプを使用した光照射加熱などを適用することができる。好ましくは、ホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法である。
ホットプレートとしては市販の装置を好ましく使用でき、例えば、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン社製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン社製)、SSシリーズまたはCSシリーズ(東京応化工業社製)などが挙げられる。ファーネス炉としては、αシリーズ(東京エレクトロン社製)などが好ましく挙げられる。
【0129】
<硬化工程>
硬化工程は、膜形成工程で得られた塗膜を、高エネルギー線(電子線や紫外線など)の照射処理および/または加熱処理によって硬化させる工程である。高エネルギー線の照射処理または加熱処理は、複数回実施してもよい。高エネルギー線(電子線や紫外線など)の照射処理と加熱処理は同時並行で実施されることが好ましい。高エネルギー線(電子線や紫外線など)の照射処理と加熱処理を同時並行で実施することで、各処理を単独で行うのに比べ、硬化工程のスループットが向上したり、得られる膜機械強度が向上したりするといった利点を得やすい。
硬化工程としては、電子線の照射により塗膜を硬化させることが好ましく、加熱処理下(好ましくは200〜400℃、より好ましくは300〜350℃)において電子線を照射しながら塗膜を硬化させることがより好ましい。加熱処理下で電子線照射を行うことで、ポリフェニレンを構成する芳香環の一部または全部に置換されている第2級炭素原子を含有する置換基同士が架橋反応を起こし、本発明の効果を得やすくなる。
【0130】
高エネルギー線を照射することで硬化させる場合、高エネルギー線としては、電子線、紫外線、X線などが挙げられるが、特に電子線を用いるのが好ましい。
高エネルギー線として、電子線を使用した場合のエネルギーとしては、0.05〜50keVが好ましく、0.10〜30keVがより好ましく、0.50〜20keVがさらに好ましい。電子線の総ドーズ量は、好ましくは0〜5.0μC/cm、より好ましくは0〜2.0μC/cm、さらに好ましくは0〜1.0μC/cmである。電子線を照射する際の基板温度は、0〜450℃が好ましく、より好ましくは100〜400℃、さらに好ましくは150〜350℃である。電子線を照射する際の雰囲気圧力は、好ましくは0〜133kPa、より好ましくは0〜60kPa、さらに好ましくは0〜20kPaである。
また、本発明の絶縁膜形成用組成物に含まれるポリフェニレンの酸化を防止するという観点から、電子線を照射する際の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性ガス雰囲気を用いることが好ましい。また、電子線との相互作用で発生するプラズマ、電磁波、および化学種との反応を目的に、酸素、炭化水素、アンモニアなどのガスを添加してもよい。
電子線照射は複数回行ってもよく、この場合は電子線照射条件を毎回同じにする必要はなく、毎回異なる条件で行ってもよい。
【0131】
塗膜を硬化させる時に照射する高エネルギー線として、紫外線を用いてもよい。紫外線を用いる際の照射波長領域は160〜400nmが好ましく、その出力は基板直上において0.1〜2000mWcm−2が好ましい。紫外線照射時の基板温度は250〜450℃が好ましく、より好ましくは250〜400℃、さらに好ましくは250〜350℃である。
本発明の絶縁膜形成用組成物に含まれるポリフェニレンの酸化を防止するという観点から、紫外線照射時の基板周囲の雰囲気は、Ar、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、紫外線照射時の圧力は、0〜133kPaが好ましい。
【0132】
また、本発明では高エネルギー線を照射するのではなく加熱処理によって硬化させてもよい。例えば、本発明の絶縁膜形成用組成物に含まれるポリフェニレン中に残存する炭素−炭素三重結合や炭素−炭素二重結合を加熱処理時に重合反応させることで、形成される絶縁膜の強度を高めることができる。この加熱処理の条件は、好ましくは100〜450℃、より好ましくは200〜420℃、さらに好ましくは350℃〜400℃である。また、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは10分〜1.5時間、さらに好ましくは30分〜1時間である。
加熱処理は数回に分けて行ってもよい。また、この加熱処理は酸素による熱酸化を防ぐために窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0133】
<絶縁膜>
本発明の絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、0.01〜10μmであることが好ましく、0.02〜5.0μmであることがより好ましく、0.03〜1.0μmであることがさらに好ましい。
ここで、本発明の絶縁膜の厚さは、光学干渉式膜厚測定器にて任意の3箇所以上を測定した場合の単純平均値を意味するものとする。
【0134】
<用途>
本発明の絶縁膜形成用組成物を使用して得られる絶縁膜は、半導体用層間絶縁膜などに好適に使用することができる。また、本発明の絶縁膜は、電子デバイスなどに好適に使用できる。電子デバイスとは、半導体装置(半導体デバイス)や、磁気記録ヘッドなどを含めた広範な電子機器を意味する。
例えば、半導体用層間絶縁膜として使用する際、その配線構造において、配線側面にはメタルマイグレーションを防ぐためのバリア層があってもよく、また、配線や層間絶縁膜の上面底面にはCMP(化学的機械的研磨)での剥離を防ぐキャップ層、層間密着層の他、エッチングストッパー層などがあってもよく、更には層間絶縁膜の層を必要に応じて他種材料で複数層に分けてもよい。
【0135】
CMPスラリー(薬液)としては、市販のスラリー(例えばフジミ社製、ロデールニッタ社製、JSR社製、日立化成社製等)を適宜使用できる。また、CMP装置としては、市販の装置(アプライドマテリアル社製、荏原製作所社製等)を適宜使用することができる。さらにCMP後のスラリー残渣除去のため洗浄することができる。
【0136】
本発明の絶縁膜は、銅配線またはその他の目的でエッチング加工をすることができる。エッチングとしてはウエットエッチング、ドライエッチングのいずれでもよいが、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングはアンモニア系プラズマ、フルオロカーボン系プラズマのいずれもが適宜使用できる。これらプラズマにはArだけでなく、酸素、窒素、水素またはヘリウム等のガスを用いることができる。また、エッチング加工後に加工に使用したフォトレジスト等を除く目的でアッシングすることもでき、さらにはアッシング時の残渣を除くため洗浄することもできる。
【0137】
本発明の絶縁膜は、多様の目的に使用することができる。例えば、LSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAM等の半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板等の電子部品における絶縁皮膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、エッチングストッパー膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜等として使用することができる。
【実施例】
【0138】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。
【0139】
以下のGPC測定は、Waters2695およびShodex製GPCカラムKF−805Lを使用し、カラム温度40℃で、溶出溶媒としてテトラヒドロフランを毎分1mlの流量で測定を行い、重量平均分子量(Mw)は標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて計算した。
【0140】
(合成例1:1−エチニル−4−イソプロピルベンゼン(化合物(A))の合成)
下記スキームに従って、1−エチニル−4−イソプロピルベンゼンを合成した。
【0141】
【化23】

【0142】
300mlナスフラスコにイソプロピルベンゼン6.0g、四塩化炭素100mlを加え、室温で撹拌しながら臭素50mlをゆっくりと加えた。室温で4時間撹拌した後、氷の入った飽和亜硫酸水素ナトリウム溶液に反応液をゆっくりと注ぎ、過剰の臭素を除去した。分離した水相をクロロホルムで3回抽出し、得られた有機相を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られたオイルを少量のジクロロメタンに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサンを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去し、1−ブロモ−4−イソプロピルベンゼン9.8g(収率:99%)を得た。
【0143】
続いて、窒素導入管、撹拌装置を備えた200ml三つ口フラスコに1−ブロモ−4−イソプロピルベンゼン8.9g、ジクロロビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム0.94g、ヨウ化銅0.43g、ジイソプロピルアミン60mlを加え、窒素気流下で撹拌しながら、3−メチル−1−ブチン−3−オール4.88gを加えた。その後、60℃で10時間撹拌し、析出した塩をろ過した後、減圧濃縮した。得られた固体を少量の酢酸エチルに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサン/酢酸エチルを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去することで、4−(4−イソプロピルフェニル)−2−メチルブチ−3−イン−2−オールを白色固体として7.5g(収率:83%)得た。
【0144】
次に、ディーンスターク、撹拌装置を備えた200mlナスフラスコに4−(4−イソプロピルフェニル)−2−メチルブチ−3−イン−2−オール6.9g、粉砕した水酸化ナトリウム13.6g、トルエン100mlを加え、加熱還流をして、共沸により系中に発生する水を除去した。反応液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムをろ過して除去し、減圧濃縮した。得られたオイルを少量の酢酸エチルに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサン/酢酸エチルを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去することで、1−エチニル−4−イソプロピルベンゼン(化合物(A))を無色オイルとして4.3g(収率:87%)得た。
【0145】
(合成例2:1−(4−エチニルフェニル)アダマンタン(化合物(B))の合成)
下記スキームに従って、1−(4−エチニルフェニル)アダマンタンを合成した。
【0146】
【化24】

【0147】
冷却管を備えた300ml三ツ口フラスコにマグネシウム7.22g、1,2−ジブロモエタン0.5g、ジエチルエーテル20mlを加えて窒素置換し、室温で撹拌しながら、ブロモベンゼン28.5gのジエチルエーテル100ml溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌し、残留のマグネシウムを取り除くために調製したグリニャール試薬を別の300ml三ツ口フラスコに移し、真空下でグリニャール試薬を濃縮し、白色固体を得た。窒素下、固体状のグリニャール試薬に1−ブロモアダマンタン12.9g、乾燥ジクロロメタン140mlを加え、混合物を24時間還流加熱した。反応液を室温まで冷却した後、反応液を0℃の2規定塩酸に加え、分離した水層をジクロロメタンで3回抽出した。得られた有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた固体を少量のジクロロメタンに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサンを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去し、1−フェニルアダマンタンを白色固体として11.7g(収率:92%)得た。
【0148】
次に、300mlナスフラスコに1−フェニルアダマンタン10.6g、四塩化炭素100mlを加え、室温で撹拌しながら臭素50mlをゆっくりと加えた。室温で4時間撹拌した後、反応液を氷の入った飽和亜硫酸水素ナトリウム溶液にゆっくりと注ぎ、過剰の臭素を除去した。分離した水層をクロロホルムで3回抽出し、得られた有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた固体を少量のジクロロメタンに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサンを溶離液として用い、カラム精製を行った。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、1−(4−ブロモフェニル)アダマンタンを白色固体として14.4g(収率:99%)得た。
【0149】
次に、窒素導入管、撹拌装置を備えた200ml三つ口フラスコに1−(4−ブロモフェニル)アダマンタン13.0g、ジクロロビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム0.94g、ヨウ化銅0.43g、ジイソプロピルアミン60mlを加え、窒素気流下で撹拌しながら、3−メチル−1−ブチン−3−オール4.88gを加えた。60℃で10時間撹拌し、析出した塩をろ過した後、減圧濃縮した。得られた固体を少量の酢酸エチルに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサン/酢酸エチルを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去することで、1−((4−アダマンチル)フェニル)−3−メチル−1−ブチン−3−オールを白色固体として10.9g(収率:83%)得た。
【0150】
次に、ディーンスターク、撹拌装置を備えた200mlナスフラスコに1−((4−アダマンチル)フェニル)−3−メチル−1−ブチン−3−オール10.0g、粉砕した水酸化ナトリウム13.6g、トルエン100mlを加え、加熱還流をして、共沸により系中に発生する水を除去した。反応液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムをろ過して除去し、減圧濃縮した。得られた固体を少量の酢酸エチルに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサン/酢酸エチルを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去することで、1−(4−エチニルフェニル)アダマンタン(化合物(B))を白色固体として6.98g(収率:87%)得た。
【0151】
(合成例3:1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))の合成)
窒素導入管および撹拌装置を備えた200ml三つ口フラスコに1,3,5−トリブロモベンゼン3.15g、ジクロロビス(トリフェニルホスフェン)パラジウム0.7g、ヨウ化銅0.29g、トリエチルアミン50mlを加え、窒素気流下で撹拌しながら、上記合成例1で得られた化合物(A)を5.6g加えた。反応混合物を80℃で10時間撹拌した後、反応混合物を室温まで冷却して析出した塩をろ過した。得られた濾液に純水を加え、粗生成物を析出させた。析出した粗生成物を濾取し、純水で3回、ヘキサンで1回、洗浄した。更に、粗生成物を少量のトルエンに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフィーに充填し、ヘキサン/酢酸エチルを溶離液として用い、カラム精製を行った。カラム精製により得られた溶液の溶媒を減圧留去することで、1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))を白色固体として3.7g(収率:73%)得た。
【0152】
【化25】

【0153】
(合成例4:化合物(D)の合成)
化合物(A)の代わりに、上記合成例2で合成した化合物(B)を用いた以外は、合成例3に記載の方法により、以下の化合物(D)を合成した。
【0154】
【化26】

【0155】
(合成例5:化合物(E)の合成)
また、化合物(A)の代わりに、市販のフェニルエチニルベンゼンを用いた以外は、合成例3に記載の方法により、以下の化合物(E)を合成した。
【0156】
【化27】

【0157】
(合成例6:3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))とのDiels-Alder生成物であるポリフェニレンの合成)
特開2000−191752号公報を参照して合成した3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン) 7.83g、および上記合成例3で得られた1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))3.36gを100ミリリットルのジフェニルエーテルに溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。このフラスコ内を窒素置換して、溶液を200℃で加熱攪拌した。8時間加熱後、室温まで冷却した溶液を50ミリリットルのエタノールに加えた。この時に析出して得られる粉状固体として、3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))とのDiels-Alder生成物としてポリフェニレン(A−1)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−1)の重量平均分子量は、13,200であった。
【0158】
(合成例7:3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と化合物(D)とのDiels-Alder生成物であるポリフェニレンの合成)
化合物(C)の代わりに、上記合成例4に記載した化合物(D)を用いた以外は、合成例6と同様の方法によって、ポリフェニレン(A−2)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−2)の重量平均分子量は8,700であった。
【0159】
(合成例8:3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と化合物(E)とのDiels-Alder生成物であるポリフェニレンの合成)
化合物(C)の代わりに、上記合成例5に記載した化合物(E)を用いた以外は、合成例6と同様の方法によって、ポリフェニレン(A−3)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−3)の重量平均分子量は36,500であった。
【0160】
(合成例9:1,3−ビス[(4−アダマンチル)フェニル] −2−プロパノン(化合物(F))の合成)
下記スキームに従って、1,3−ビス[(4−アダマンチル)フェニル] −2−プロパノンを合成した。
【0161】
【化28】

【0162】
窒素導入管、撹拌装置を備えた200ml三つ口フラスコに1,3−ジフェニル−2−プロパノン10g、1−ブロモアダマンタン20.5g、1,2−ジクロロエタン100gを加え、窒素気流下撹拌しながら0℃まで反応液を冷却した。塩化鉄(III)0.771gを加え、室温で8時間撹拌した。水100gを反応液に加え、室温で1時間撹拌後、分離した水層をジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、得られた固体をメタノールで再結晶することで、1,3−ビス[(4−アダマンチル)フェニル] −2−プロパノン(化合物(F))を白色固体として18.7g得た(収率82%)。
【0163】
(合成例10:化合物(H)の合成例)
下記スキームに従って、化合物(H)を合成した。
【0164】
【化29】

【0165】
4,4’−ビス(フェニルグリオキサロイル)ジフェニルエーテル(化合物(G))6.51g、および上記合成例9で得られた1,3−ビス[(4−アダマンチル)フェニル] −2−プロパノン(化合物(F))14.7g、ならびに100ミリリットルの脱気エタノールを、窒素導入口を有する還流冷却器と攪拌装置をそなえた300ミリリットルフラスコに加えた。この混合物を加熱還流して均質な溶液を得た後、フラスコ内を1時間窒素パージした。続いて、当溶液を70℃に加熱しながら、エタノール10ミリリットルと水1ミリリットルに0.84gの水酸化カリウムを溶解させた溶液を20分かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間反応溶液を加熱還流することで、目的の化合物(H)が生成し、固体の浮遊物として徐々に反応溶液中に出現した。反応溶液を室温まで冷却した後、1.0gの氷酢酸を加え、20分攪拌して残存する水酸化カリウムを中和した。反応溶液に浮遊する固体を濾過で採取し、漏斗内で50ミリリットルの純水、100ミリリットルのエタノールで洗浄することで化合物(H)の粗生成物を得た。得られた粗生成物をメタノールで再結晶させて、目的の化合物(H)を27.6g得た(収率70%)。
【0166】
(合成例11:化合物(H)と化合物(D)とのDiels-Alder生成物であるポリフェニレンの合成)
上記合成例10で得られた化合物(H)13.2g、および上記合成例4で得られた化合物(D)5.21gを120ミリリットルのジフェニルエーテルに溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。このフラスコ内を窒素置換した上で、溶液を攪拌しながら加熱還流した。24時間加熱還流後、反応溶液を室温まで冷却し、これを200ミリリットルのエタノールに加えた。この時に析出して得られる粉状固体として化合物(H)と化合物(D)とのDiels-Alder反応体であるポリフェニレン(A−4)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−4)の重量平均分子量は、8,000であった。
【0167】
(合成例12:グラフト重合用マクロモノマーとして使用する末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(I))の合成)
還流トルエンで清浄にし、更に真空下で乾燥したガラス製重合反応容器に、700mLのシクロヘキサン(活性アルミナで脱水処理したもの)を充填した。この反応容器を55℃に保ちながら、水素化カルシウム上で蒸留精製したスチレン50.31gを添加した。さらに、sec−ブチルリチウムのヘプタン溶液を、sec−ブチルリチウム添加量がスチレンに対して3mol%相当になるよう添加して、スチレンのアニオン重合を行った。反応溶液を1時間攪拌した後、水素化カルシウム上で乾燥したエチレンオキシド0.6gを添加した。30分後、活性アルミナで脱水処理したテトラヒドロフラン10mLに溶解させたアクリル酸クロリド0.31gを添加した。更に30分後、この溶液を室温まで冷却し、1Lのメタノールに加えて、目的の末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(I))を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、得られた化合物(I)の重量平均分子量(Mw)は3,800、数平均分子量(Mn)は3,600であった。
【0168】
(合成例13:3,3’ −(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))とのDiels-Alder生成物に対して、空孔生成剤としてのポリスチレンをグラフト重合させたポリフェニレン化合物(A−5)の合成)
3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン) 7.83g、および上記合成例3で得られた1,3,5-トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))2.95g、更に合成例12で得られた末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(I))4.62gを50ミリリットルのγ−ブチロラクトンに溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。このフラスコ内を窒素置換した上で、溶液を200℃に加熱攪拌した。12時間加熱後、室温まで冷却した溶液を50ミリリットルのエタノールに加えた。この時に析出して得られる粉状固体として、3,3'−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と1,3,5−トリス(2−(4−イソプロピルフェニル)エチニル)ベンゼン(化合物(C))とのDiels-Alder生成物にポリスチレンがグラフト重合されたポリフェニレン(A−5)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−5)の重量平均分子量は39,300であった。
【0169】
(合成例14:3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と化合物(D)とのDiels-Alder生成物に対して、空孔生成剤としてのポリスチレンをグラフト重合させたポリフェニレン化合物(A−6)の合成)
化合物(C)の代わりに、合成例3に記載した化合物(D)を用いた以外は、合成例13と同様の方法によって、ポリフェニレン(A−6)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−6)の重量平均分子量は23,600であった。
【0170】
(合成例15:3,3’−(オキシジ−1,4−フェニレン)ビス(2,4,5−トリフェニルシクロペンタジエノン)と化合物(E)とのDiels-Alder生成物に対して、空孔生成剤としてのポリスチレンをグラフト重合させたポリフェニレン化合物(A−7)の合成)
化合物(C)の代わりに、合成例3に記載した化合物(E)を用いた以外は、合成例13と同様の方法によって、ポリフェニレン(A−7)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−7)の重量平均分子量は38,600であった。
【0171】
(合成例16:化合物(H)と化合物(D)とのDiels-Alder生成物に対して、空孔生成剤としてのポリスチレンをグラフト重合させたポリフェニレン化合物(A−8)の合成)
合成例10で得られた化合物(H)13.20g、および合成例3で得られた化合物(D)4.57g、さらに、合成例12で得られた末端アクリル酸エステルポリスチレン(化合物(I))4.62gを100ミリリットルのγ−ブチロラクトンに溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。このフラスコ内を窒素置換して、溶液を220℃で加熱攪拌した。24時間加熱後、室温まで冷却した溶液を200ミリリットルのエタノールに加えた。この時に析出して得られる粉状固体として、化合物(H)と化合物(D)とのDiels-Alder生成物にポリスチレンがグラフト重合されたポリフェニレン(A−8)を得た。GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)によりポリスチレン標準換算で求めた、ポリフェニレン(A−8)の重量平均分子量は29,300であった。
【0172】
<絶縁膜形成用組成物の調製>
上記合成例で得られた各種ポリフェニレン化合物(A−1)〜(A−8)1.0g、および、密着助剤としてビニルトリアセトキシシランのオリゴマー(重量平均分子量:360)を全固形成分に対して3.0質量%となるように、溶剤(11g)に添加し、完全溶解させることで絶縁膜形成用組成物を調製した。絶縁膜形成用組成物の調製に用いたポリフェニレン化合物と溶剤の種類、溶剤の混合比(質量比)などについて、表1にまとめて示す。
なお、上記のビニルトリアセトキシシランのオリゴマーは、ビニルトリアセトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、Z−6075)23.2gを、18.3MΩの抵抗率を有する脱イオン水5.4gと混合し、当混合物を室温で45分攪拌し、ビニルトリアセトキシシランを加水分解反応させて合成した。
【0173】
<評価用塗膜付きウェハーの作製>
上記要領にて調製した各絶縁膜形成用塗布液を、東京エレクトロン社製スピンコーターACT−8 SODを用いて基板抵抗値7Ω/cmの8インチベアシリコンウェハー上にスピン塗布した。塗布後の膜を110℃で60秒間、続いて200℃で60秒間ベークした。得られた塗膜付きウェハーについて、表1に示した方法でキュアし、評価用ウェハーを作製した。
なお、表1に記載したキュア方法のうち、ファーネスキュアとは窒素置換された400℃のクリーンオーブン内で1時間膜付きウェハーを曝すキュア方法である。また、電子線キュアとは、ヘリウムガス雰囲気で真空度10Torrに調整された真空チャンバ内に設置された350℃ホットプレート上で、加速電圧13keVの電子線を照射しながら50秒キュアする方法である。更に、ポロジェン脱離工程とは、上述のファーネスキュアまたは電子線キュアを行うことで硬化させた膜を、窒素置換した420℃のクリーンオーブン内に1時間曝すことで、空孔形成剤であるポリスチレンを分解除去し、膜中に空孔を形成させる工程である。
【0174】
<膜誘電率の測定>
上記要領で得られた膜の比誘電率を、フォーディメンジョンズ社製水銀プローバおよび横河ヒューレットパッカード社製のHP4285A LCR meterを用いて、1MHzにおける電気容量値から算出した。結果をまとめて表1に示す。
【0175】
<機械強度(ヤング率)>
上記要領で得られた膜の機械強度として、MTS社製ナノインデンターSA2を使用してヤング率(25℃)を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0176】
【表1】

【0177】
表1中の溶剤の略号はそれぞれ、以下の溶媒を意味する。
(D−1):シクロヘキサノン
(D−2):2−ヘプタノン
(D−3):γ−ブチロラクトン
【0178】
上記表1において、比較例1および2は、ポリフェニレン(A−3)を含む本発明に該当しない組成物から得られた膜について、ファーネスキュアおよび電子線キュアを行った場合の性能比較を示している。この場合、ファーネスキュアと電子線キュアとの間で、膜のヤング率に大きな差を生じていないことが分かった。
これに対して、実施例1〜12は、ポリフェニレン(A−1)、(A−2)または(A−4)を含む、本発明に該当する組成物から得られた塗膜に関する評価結果である。この場合、各実施例において、比較例よりも良好な膜誘電率およびヤング率を示すことが分かった。また、ファーネスキュアおよび電子線キュアを行った場合の性能比較においては、何れもファーネスキュアに比べ、電子線キュアを適用することで膜のヤング率が飛躍的に向上していることが分かった。
【0179】
また、比較例3および4は、空孔形成剤(ポリスチレン)がグラフト共重合されたポリフェニレン(A−7)を含む、本発明の組成物に該当しない組成物から得られた塗膜について、ファーネスキュアおよび電子線キュアを行った場合の性能比較を示している。この場合、空孔形成剤が含有されているにも関わらず、膜の誘電率が殆ど低減されていなかった。これは、空孔形成剤であるポリスチレンが分解・気化した後、ポリスチレンに占有されていたドメインが空孔として絶縁膜中に残存できずに消失してしまったものと考えられる。
これに対して、実施例13〜24は、空孔形成剤(ポリスチレン)がグラフト重合されたポリフェニレン(A−5)、(A−6)または(A−8)を含む、本発明に該当する組成物から得られた塗膜に関する評価結果である。この場合、各実施例において良好な膜誘電率およびヤング率を示し、特に電子線キュアを行った膜について、その誘電率が大きく低減されていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシクロペンタジエノン基を有する化合物と、少なくとも1つのアセチレン基を有する化合物とのディールスアルダー反応によって形成されるポリフェニレンを含有する絶縁膜形成用組成物であって、前記ポリフェニレンが第2級炭素原子を含有する置換基を有することを特徴とする絶縁膜形成用組成物。
【請求項2】
前記第2級炭素原子を含有する置換基が、炭素数3〜12の分岐状アルキル基または多環状シクロアルキル基である請求項1に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンが、一般式(a)で表される化合物、一般式(c)で表される化合物、一般式(d)で表される化合物、一般式(e)で表される化合物、および一般式(f)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む出発原料から合成されたポリフェニレンである請求項1または2に記載の絶縁膜形成用組成物。
【化1】

(一般式(a)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。
一般式(c)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。yは、3〜6の整数を表す。
一般式(d)中、Rは、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。
一般式(e)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。なお、RとRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。
一般式(f)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族基、または第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。Arは、ベンゼン基、ナフタレン基、ビフェニル基、9,9−ジフェニルフルオレン基、または一般式(b)で表される基を表す。なお、RとRの少なくとも一方は、第2級炭素原子を含有する置換基を有する芳香族基を表す。)
【化2】

(一般式(b)中、Zは−O−、−S−、アルキレン、−O−CF−、ペルフルオロアルキレン、またはアリーレン基を表す。)
【請求項4】
前記ポリフェニレンが、少なくとも1種の前記一般式(a)で表される化合物と、少なくとも1種の前記一般式(c)で表される化合物とを含む出発原料から合成されたポリフェニレンである請求項3に記載の絶縁膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁膜形成用組成物を基板上に塗布して、塗膜を得る膜形成工程と、膜形成工程で得られた前記塗膜に電子線を照射して、前記塗膜を硬化させる硬化工程とを含む絶縁膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法より得られる絶縁膜を有する電子デバイス。

【公開番号】特開2010−70618(P2010−70618A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238209(P2008−238209)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】