説明

絶縁被膜形成用材料、これを用いたフラットパネルディスプレイ用部品

【課題】
充分な厚みをもつポリシラザン被膜を、クラックを発生させることなく形成し、これにより、十分な絶縁耐圧を有する金属板被覆用の材料と、この材料を使用して前記隔壁等のフラットパネルディスプレイ用部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
ポリシラザン溶液の溶媒中に粉体1と粉体2を分散させ、これを絶縁被膜形成用材料として金属板に被膜し、それぞれの直径の関係が、D2≦(√2―1)×D1
となるような2種類の粉体1(直径D1)、粉体(直径D2)を選定し、これをポリシラザン溶液の溶媒中に分散させ、これを絶縁被膜形成用材料として金属板に被膜したところ、粉体の間に充填されるポリシラザン自体の厚さが薄くなり、厚い膜厚の電気絶縁性シリカ被膜を、クラックを発生することなく形成できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被膜形成用材料、この材料を使用してフラットパネルディスプレイ用部品を製造する方法、及びフラットパネルディスプレイ用部品に関する。
【0002】
さらに詳しくは、例えば、プラズマパネルディスプレイの放電セル同士を隔離する隔壁として使用する部品を被覆する絶縁材料であって、放電電圧に耐える十分な絶縁耐圧を有する金属板電気絶縁被覆用の材料と、この材料を使用して前記フラットパネルディスプレイ用部品を製造する方法、及び、こうして得られるフラットパネルディスプレイ用部品に関するものである。また、本発明は、フィールドエミッションディスプレイ(FED)のスペーサーや集束電極にも適用できる。
【背景技術】
【0003】
プラズマパネルディスプレイの放電セルの配置は、例えば、図5に示すようなものである。すなわち、図5において、aは前面板、bは背面板で、ガラスで構成されていることが多い。そして、前面板aと背面板bの間に隔壁cがはさまれている。隔壁cには多数の貫通孔が設けられており、この貫通孔を放電セルとして所要のガスを封入すると共に、前面板a及び背面板bの間でセル毎に放電し、画面表示する。また、最近では、背面板bと隔壁cを一体成形することにより、作業性を向上させる試みもなされている(非特許文献1参照)。隔壁cは電気的に絶縁されている必要があり、放電時の電圧に耐える絶縁耐性を有する必要がある。
【0004】
従来、隔壁cとして、貫通孔を設けたガラス板などが用いられてきたが、近年、電気絶縁性の被膜を被覆した金属材料を使用する技術が注目されている。金属材料はウエットエッチングによって大面積を一括で高アスペクト比に加工することができ、板材を用いた場合、厚さ方向の寸法精度が±数μmと安定である。また、放熱性に優れ、電磁波や電気的ノイズのシールドとしての役割をも果たすことが可能であるなどの利点もある。
【0005】
貫通孔を設けた金属板に電気絶縁性の被膜を被覆する方法としては、例えば、電着法やスプレー塗装法によってガラスを含む誘電体を形成する方法が知られている(特許文献1、2)。また、気相成長法で電気絶縁性の被膜を設ける方法(特許文献3)、液相成長法を利用して基板表面に酸化物を形成する絶縁処理方法(特許文献4)、大気開放CVD法による絶縁処理方法(特許文献5)、粉体静電塗装による電気絶縁性ガラスを成膜する方法(特許文献6)などが知られている。
【非特許文献1】「月刊ディスプレイ」(株)テクノタイムズ,2004年6月号P34
【特許文献1】特開平03−205738号公報
【特許文献2】特開2000−277021号公報
【特許文献3】特開2004−2403号公報
【特許文献4】特開2004−22404号公報
【特許文献5】特開2003−132802号公報
【特許文献6】特開2001−195978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1、特許文献2の方法では、膜形成時に気泡が絶縁層中に発生、残存する。また、焼成時の絶縁層の熱フローによりエッチングで形成されたコーナー部の膜厚が薄くなり、場合によっては金属のコーナー部分が露出してしまう。これら気泡の存在やコーナー部の薄みのため、十分な絶縁耐圧を確保することが困難である。
【0007】
また、特許文献3に示す気相成長法では、絶縁物の成膜速度が遅いため十分な膜厚の被膜を得ることが困難であり、このため、充分な絶縁耐圧を得ることができない。
【0008】
特許文献4に示す大気開放CVDでは、通常の気相成長法とは異なり、減圧プロセスがないため材料の搬入、搬出が容易で連続成膜が可能で、大型サイズへの展開も比較的容易である。しかし、成膜時に基板上での熱化学反応を促すために絶縁膜形成前の基板を高温に加熱する必要があり、金属基板表面に黒色の酸化物が生成される。その結果、絶縁膜との密着性が低下し剥離を起こしたり、ディスプレイ化したときの輝度低下につながる。
【0009】
特許文献5の粉体静電塗装によるガラスの成膜では、焼成時に溶融し膜は緻密化するが、表面張力で凝集することによりコーナー部の膜が薄くなり耐電圧特性が十分でなくなってしまう。また、焼成時に粉体と接していない金属板表面が酸化し、絶縁膜との密着性が確保できないといった問題が発生する。したがって、PDPの金属隔壁についての絶縁膜技術としては製品化に至っていない。
【0010】
他方、金属板にポリシラザンを利用して絶縁被膜を形成する方法がある。ポリシラザンは、Si−N結合を持つシラザンを基本とする有機溶媒に可溶な無機ポリマーで、このポリマーの有機溶媒溶液を塗布液として用いて金属板表面に塗布して被膜を形成し、大気中または水蒸気含有雰囲気中で、350〜550℃の温度で焼成することにより、水分や水と反応し、非結晶である緻密な高純度シリカが得られる。こうして得られた高純度シリカの被膜は、1000℃以上の耐熱性と30kV/mm程度の高い絶縁耐圧を有する。
【0011】
しかしながら、このポリシラザンの被膜は、その膜厚が3μmより大きくなると、350〜550℃の温度で大気焼成する工程でクラックが発生する。これは、焼成中に蓄積されるポリシラザン自体又は生成した高純度シリカ自体の内部応力や金属板との熱膨張差により発生するものと考えられている。本発明者の検討によれば、ポリシラザンのみを用いて金属板上に3μm形成して焼成したところ、200〜350V程度の絶縁耐圧しか得ることができなかった。このため、金属板にシリコン系材料を被膜する方法で、充分な絶縁耐圧を有するフラットパネルディスプレイ用部材を提供することは困難であった。
【0012】
本発明は上記問題を解決するために発明されたものであり、十分な絶縁耐圧を有する金属板被覆用の材料と、この材料を使用して前記隔壁等のフラットパネルディスプレイ用部品を製造する方法、及び、こうして得られるフラットパネルディスプレイ用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ところで、本発明者の検討によれば、ポリシラザン溶液の溶媒中に粉体を分散させ、これを絶縁被膜形成用材料として金属板に被膜したところ、粉体の間に充填されるポリシラザン自体の厚さが薄くなり、厚い膜厚の電気絶縁性シリカ被膜を、クラックを発生することなく形成できることを見出した。
さらに本発明者は、それぞれの直径の関係が、
D2≦(√2―1)×D1
となるような2種類の粉体1(直径D1)、粉体(直径D2)を選定し、これをポリシラザン溶液の溶媒中に分散させ、これを絶縁被膜形成用材料として金属板に被膜したところ、粉体1と粉体2が図2に示すような球体の最密配列の一つである面心立方構造に配置されることを見出した。その結果、粉体1および粉体2の間に充填されるポリシラザン自体の厚さがさらに薄くなり、より厚い膜厚の電気絶縁性シリカ被膜を、クラックを発生することなく形成できることを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基づいてされたもので、請求項1に記載の発明は、導電性材料の絶縁被膜に用いる絶縁被膜形成用材料において、前記絶縁被膜形成材料が、少なくとも、溶媒と、前記溶媒に溶解するシリコン系材料と、前記溶媒に分散された直径がD1の粉体1と、前記溶媒に分散された直径がD2の粉体2とを含み、前記粉体1および前記粉体2の熱膨張係数が、前記シリコン系材料より大きくかつ前記金属材料よりも小さく、さらに、前記粉体1と粉体2が、D2≦(√2―1)×D1の関係を満たすことを特徴とする絶縁被膜形成用材料である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記シリコン系材料がポリシラザンであること特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜形成用材料である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記粉体1のD1が2μm〜20μmであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記粉体1の体積比率が全体体積の70±5%であり、粉体2の体積比率が5%以上であること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料である。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記粉体1及び粉体2の熱軟化温度又は融点が550℃以上であること特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料である。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記粉体1および前記粉体2の熱膨張係数が、前記シリコン系材料より大きくかつ前記金属材料よりも小さいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料。
【0020】
請求項7に記載の発明は、前記粉体1及び粉体2の誘電率が10以下であること特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料である。
【0021】
請求項8に記載の発明は、貫通孔又は凹部を有する金属平板の表面に請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料を被膜してなるフラットパネルディスプレイ用部材である。
【0022】
請求項9に記載の発明は、前記金属平板が、Ni、Cr、Coから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含むFe系合金であることを特徴とする請求項8記載のフラットパネルディスプレイ用部品である。
【0023】
請求項10に記載の発明は、絶縁被膜形成用材料の被膜の厚みが3〜30μmであることを特徴とする請求項8〜9のいずれかに記載のフラットパネルディスプレイ用部品である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、導電性材料表面に、従来よりも膜厚の高く高絶縁耐圧を有する電気絶縁性シリカ被膜を形成することができた。
【0025】
さらに、この絶縁被膜形成用材料を用いて、貫通孔又は凹部を有する金属平板に絶縁被膜処理を行ったところ、高い絶縁耐圧の電気絶縁性シリカ被膜を得ることができた。このため、高い絶縁耐圧を有するフラットパネルディスプレイ部品を生産することができた。
【0026】
また、本発明によれば、パネル組み立て工程の450〜500℃の熱サイクルに耐えて、厚さ方向に寸法精度が安定した電気絶縁性シリカ被膜を備えるフラットパネルディスプレイ部品を生産することができた。
【0027】
このため、本発明によって、放熱性や電気的シールド性能に優れたフラットパネルディスプレイ部品を安定的に生産することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(導電性材料)
本発明に係る導電性材料は、この表面に絶縁被膜形成用材料を形成されるものである。導電性材料として、例えば金属材料を用いることができる。前記金属材料を用いた金属平板上に貫通孔又は凹部のパターンを形成し、その表面に、本発明の絶縁被膜形成用材料を用いて、電気絶縁性シリカ被膜を設けることで、例えば、プラズマパネルディスプレイ(以下、PDPとする)の隔壁として使用できる。
【0029】
以下、導電性材料として金属平板を用いて、フラットパネルディスプレイ部材として用いる場合について詳述する。PDPの隔壁として用いる場合、高いアスペクト比で、厚さのばらつきが10μm以下の均一な厚みの金属平板を用いることが好ましい。金属平板上に貫通孔のパターンを形成し、電気絶縁性シリカ被膜を設けた例を図4に示す。また、金属平板上に凹部のパターンを形成し、電気絶縁性シリカ被膜を設けた例を図3に示す。この図4に示す金属平板上の貫通孔は、の放電セルを構成するものである。貫通孔の代わりに図3に示す凹部を有する金属平板を利用して、PDPの放電セルとすることが可能である。
【0030】
PDP部材を製造する場合、導電性材料は、組立工程において高温の熱サイクルにさらされる場合がある。このため、PDP部材の一部として導電性材料を使用する場合、導電性材料としてNi、Cr、Coから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含むFe系合金を用いることが望ましい。中でもNiを40〜52質量%含有するFe−Ni系合金が望ましく、特にNiを46〜50質量%含有するFe−Ni系合金が望ましい。PDPなど、フラットパネルディスプレイに利用される背面ガラス板や前面ガラス板には、熱膨張係数が8×10−6(/℃)程度のソーダガラスや高歪点ガラスが用いられているが、金属平板が、Ni、Cr、Coから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含むFe系合金であると、その熱膨張係数がソーダガラスや高歪点ガラスの熱膨張係数に近いため、パネル組み立て工程の450〜500℃の熱サイクルに耐えてパネルに歪みを生じることがなく、安定的にパネルを組み立てることが可能になる。
【0031】
続いて、金属平板に貫通孔又は凹部を設ける方法について説明する。まず、金属平板表面の片面または両面に感光性レジストを塗布し、パターン状の露光・現像して、孔形状を形成させたい所望の箇所を開口させるようパターニングする。次に塩化第二鉄液等の腐食性溶液をスプレーする事により、レジストが開口している部分の金属をエッチングし、金属材料にハーフエッチング形状または貫通孔を有する形状を形成させる。その後残余の感光性レジストをアルカリなどにより剥離する。
【0032】
(シリコン系材料)
シリコン系材料は、焼成によって電気絶縁性シリカ被膜を構成する作用を有するものである。シリコン系材料は、電気絶縁性シリカ被膜と金属材料の熱膨張の違いによる応力の発生とこの応力に基づくクラックの発生を防止する作用を有することが望ましい。具体的には、ポリシラザンを用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
ポリシラザンは(SiH2−NH)nを基本とする無機ポリマーで、分子量が600から1000である事が好ましい。ポリシラザンを選択した理由は以下の通りである。
(1)表面に塗布し、300℃から500℃の温度で焼成することで非結晶である緻密な高純度シリカが得られる。
(2)ポリシラザンのSiO2は(SiH2−NH)n中に炭素を含有していないため、金属セラミックスやガラスあるいは金属材料との密着性が良く、ゾルゲル法のように熱分解中に膜の収縮や残留炭素の問題がなくクラックが比較的発生しにくい。
(3)塗布し、大気焼成が可能なため、真空環境などの特殊な装置、成膜条件を用いることなく連続加工ができる。
(4)ポリシラザンを塗布し基板表面が露出無くコートされた状態で焼成するため、金属板表面の酸化の問題がない。
(5)鉛などの環境を害する物質を使用しない。
【0033】
(粉体)
以下に粉体1、粉体2(以下、両者を含める場合、単に「粉体」とする。)について説明する。
【0034】
粉体は、絶縁被膜形成用材料の中に大きな体積を占め、厚膜のシリコン系材料の膜が形成させず、そのためクラックを防止するものでもある。本発明では、かかる粉体において、直径の関係がD2≦(√2―1)×D1となるような2種類の直径D1、D2を有する粉体1、粉体2を用いる。粉体1は、全体体積の70±5%となるように調整し、粉体2の体積比率が全体体積の5%以上となるよう調整すると、図2に示すように、粉体1が最密配列の一つである面心立方格子構造となる。すると、図2に示すようにその隙間に充填できる最大の球体の直径dは、
d=(√2―1)×D1
となり、dよりも小さい直径D2の粉体2が隙間に充填され、図1に示すような充填構造となる。シリコン系材料はこの粉体1及び粉体2の隙間中に存在する。粉体1を面心立方格子状に配置すると、粉体1の体積比率は約74%となる。また、直径dの粉体2を前記面心立方格子の隙間に配置すると、最大約5%の体積を占めることになる。すると、シリコン系材料溶液中に、粉体1のみを混合した場合と比較して20%シリコン系材料量を減少させることが出来る。この結果、粉体1および粉体2の間に充填されるシリコン系材料を薄くすることができ、そして、シリコン系材料膜の厚みに由来して発生していたクラックを防止することができた。本発明によると、電気絶縁性シリカ被膜の厚さ30μm程度であっても、クラックを発生することなく、一層高い絶縁耐圧を得ることが可能となる。
【0035】
また、粉体1の直径D1は、2μm〜20μmであることが好ましい。粉体1の直径D1が2μm以下であった場合、粉体2の直径D2が1μm以下となり、凝集を起こしやすく粉体2の分散性が著しく低下し、結果粉体の密な充填が困難となる。また、粉体1の直径D1が20μm以上であった場合、粉体1および粉体2を密に充填した後に出来るポリシラザン自体の厚さが厚くなり、結果クラックを発生しやすくなる。
また粉体2の直径D2は、1μm以上であることが好ましい。粉体2の直径D2が1μm以下であると、粉体2が凝集を起こしやすく、分散性が著しく低下し、結果粉体の密な充填が不可能となる。
【0036】
また、粉体は、電気絶縁性シリカ被膜中で熱緩衝効果を発揮して、前記シリコン系材料自体又は生成した電気絶縁性被膜自体の内部応力を緩和できるものである。粉体が、熱緩衝効果を発揮すると、焼成によるクラックの発生を防止に資する。このため、粉体の熱膨張係数が、前記シリコン系材料より大きくかつ前記金属材料よりも小さいことが望ましい。なお、電気絶縁性シリカ皮膜の熱膨張係数は0.6×10−6(/℃)、金属材料の熱膨張係数は一般に5〜20×10−6(/℃)であるので、粉体の熱膨張係数はこの範囲に収まることが望ましい。
【0037】
また、粉体の誘電率は10以下であることが好ましく、より好ましくは5以下である。粉体の誘電率が上記範囲であると、皮膜付金属材料をPDPの電極間の隔壁として使用した場合、前面板上に形成された電極の配線と金属材料との間の電気的ロスを低減させることが可能となる。また、シリカの誘電率が3程度であることから、これと同じ3程度であることが一層好ましい。
【0038】
また、粉体は、熱軟化温度が550℃以上のものを用いることが望ましい。このような粉体を用いることにより、350〜550℃の高温の焼成工程においても粉体が型崩れを起さない。また、粉体は、被膜付金属材料をPDPの電極間の隔壁として使用し且つこの上に電極を設けて、電極と金属材料との間の電気的ロスを低減させることが望ましい。
【0039】
上記のような特性を満たす粉体の一例として、Si、Alなどの金属酸化物又は窒化物、又はSiO、Ba0、B、NaO、TiO、Ndなどを含む高融点ガラスなどを挙げることができる。
【0040】
(溶媒)
溶媒は、シリコン系材料を溶解し、粉体を分散して、塗布可能な材料を形成するものである。このような溶媒の一例として、キシレン、ターペン、ソルベッソ、ジブチルエーテルなどを挙げることができ、ポリシラザン(SiH2−NH)nなどのシリコン系材料を重量比で0.5〜25%溶解させ、粉体1および粉体2を電気絶縁性シリカ被膜の体積比で70%以上となる量だけ分散させて使用する。
【0041】
(塗布)
本発明に係る絶縁被膜形成用材料は、スプレー法、ディッピング法などで塗布することが可能である。なお、貫通孔又は凹部の深さが深いときは、半乾燥した吐液を金属表面に均一厚さの膜として形成することができるスプレー噴射法が有利である。更に、貫通孔又は凹部の壁面に絶縁物を的確に塗布するために、静電塗装を用いることも効果的である。
【0042】
(焼成)
本発明に係る焼成工程は、塗布された絶縁被膜形成用材料中のシリコン系材料を電気絶縁性シリカに変えるものであり、乾燥した大気中または水蒸気を含有する雰囲気中で350〜550℃で焼成すれば良い。膜を緻密にして絶縁耐性を増大するため、400℃以上の高温で焼成することが好ましい。なお、ポリシラザンを大気中で焼成してシリカ(SiO2)被膜を得る反応は次式で示される。
(SiH2−NH)+O2→SiO2+NH3
【実施例1】
【0043】
以下、本発明の実施例1を説明する。
【0044】
厚み300μmのFe―50Ni合金(熱膨張係数;94×10−7/℃)の平板をアルカリ脱脂し、膜厚20μmの市販のドライフイルムレジストを前記金属平板の表面に貼り合わせた。次いで、ピッチ270×810μmで、100×640μmが開孔しているスロットパターンのフォトマスクで露光し、アルカリ水溶液のスプレー現像で、前記金属平板に、フォトマスクと同寸法のフォトレジストパターンを形成した。次いで、塩化第二鉄エッチング液でスプレーエッチングし、ドライフイルムレジストを残したハーフエッチング金属平板を作製した。苛性ソーダ水溶液をスプレーしてフォトレジストを剥膜し、PDP用金属隔壁のリブ形状を有し、凹部を有する金属平板を作製した。
【0045】
他方、キシレンに、ポリシラザンを5重量%の割合で溶解させ、粉体1として平均直径5μmのアルミナ粉末(融点;2020℃,誘電率;9.0,熱膨張係数;7.8×10−6/℃)を26重量%、粉体2として平均直径2μmのアルミナ粉末を3重量%の割合で分散させて、絶縁被膜形成用材料を調整した。
【0046】
そして、前記金属平板を再びアルカリ脱脂し、水洗後、絶縁被膜形成用材料を塗布した。塗布はスプレー法を使用し、面内均一に、乾燥前の膜厚が30μmになるように塗布した。
【0047】
その後、大気中で溶剤が十分揮発するまで乾燥させ、480℃で60分、乾燥した大気中で焼成を行った。上記PDP用金属隔壁のリブ形状に絶縁層をクラック等発生することなく形成させることができた。
【0048】
この絶縁処理を施したPDP用金属隔壁をスロットの長手方向と垂直に切断し断面を観察すると、図1の様な形状となり、凹部の側壁104では8.8μm、隔壁のトップ平坦部105では17.9μmの膜が形成されていることが確認できた。また、粉体1、粉体2、ポリシラザンの体積比率はそれぞれ粉体1=72%、粉体2=6%、ポリシラザン=22%となった。絶縁耐圧測定装置にて、金属隔壁上部に測定端子平板を接触させ、平坦部105の絶縁耐圧を測定したところ1140Vとなり、十分な絶縁耐圧を示した。また、誘電率は6.5であった。
【実施例2】
【0049】
以下、本発明の実施例2を説明する。
厚み500μmのFe―42Ni合金(熱膨張係数;110×10−7/℃)の平板をアルカリ脱脂し、膜厚20μmの市販のドライフイルムレジスト基板表面に貼り合わせた。次いで、ピッチ270×810μmで、100×620μmが開孔しているスロットパターンのフォトマスクで露光し、アルカリ水溶液のスプレー現像で、前記金属平板に、フォトマスクと同寸法のフォトレジストパターンを形成した。次いで、塩化第二鉄エッチング液でスプレーエッチングし、ドライフイルムレジストを残したハーフエッチング金属平板を作製した。次にドライフィルムを苛性ソーダ水溶液にて剥離後、ポジ型電着フォトレジストのゾンネEDUVP−500(関西ペイント製)をハーフエッチング金属平板上に均一な膜厚でコーティングした。次いでポジ用フォトマスクの位置合わせを行って露光し、炭酸ソーダ水溶液でスプレー現像してゾンネEDUVP−500をパターニングした。最後に、二回目のエッチング工程として、塩化第二鉄エッチング液をスプレーエッチングし、苛性ソーダ水溶液をスプレーしてフォトレジストを剥膜し、板厚500μmで、ピッチ270×810μmで、220×760μmが開孔しているスロットパターンの貫通孔を有する金属平板を作製した。
【0050】
他方、キシレンに、ポリシラザンを8重量%の割合で溶解させ、粉体1として平均直径10μmのNa2O−B2O3−SiO2系の粉末ガラス(日本電気硝子製:ls−500、熱軟化点;589℃,誘電率;7.6,熱膨張係数;83×10−7/℃)を38重量%、粉体2として平均直径4μmの粉末ガラスを5重量%の割合で分散させて、絶縁被膜形成用材料を調整した。
【0051】
そして、前記金属平板を再びアルカリ脱脂し、水洗後、絶縁被膜形成用材料を塗布した。塗布はスプレー法を使用し、面内均一に、乾燥前の膜厚が25μmになるように塗布した。
【0052】
その後、溶剤が十分揮発するまで乾燥させ、500℃で60分、乾燥した大気中で焼成を行った。上記したスロットパターンの貫通孔を有する金属平板に絶縁層を形成させることができた。
【0053】
この絶縁処理を施した金属平板の断面を観察すると、図2のような形状となり、貫通孔の側壁204では6.7μm、貫通孔のない平坦部205では14.4μmの膜が形成されていることが確認できた。また、粉体1、粉体2、ポリシラザンの体積比率はそれぞれ粉体1=73%、粉体2=7%、ポリシラザン=20%となった。絶縁耐圧測定装置にて、金属隔壁上部に測定端子平板を接触させ、平坦部205の絶縁耐圧を測定したところ1200Vとなり、十分な絶縁耐圧を示した。また、誘電率は5.2であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明における絶縁被膜の断面拡大図
【図2】面心立方構造の模式図
【図3】本発明の実施例1(凹部を有するPDP用金属隔壁)の実施例断面図
【図4】本発明の実施例2(貫通孔を有する金属エッチング製品)の実施例断面図
【図5】PDPの放電セルの配置を示す説明用斜視図
【符号の説明】
【0055】
101…シリコン系材料
102…粉体1
103…粉体2
104…絶縁被膜
201…粉体1
202…シリコン系材料
203…粉体2の最大径d
304…絶縁被膜
305…金属平板
306…凹部の側壁
307…隔壁のトップ平坦部
404…絶縁被膜
405…金属平板
406…貫通孔の側壁
407…貫通孔のない平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料の絶縁被膜に用いる絶縁被膜形成用材料において、
前記絶縁被膜形成材料が、少なくとも、
溶媒と、
前記溶媒に溶解するシリコン系材料と、
前記溶媒に分散された直径D1の粉体1と、
前記溶媒に分散された直径D2の粉体2と、を含み、
前記粉体1と前記粉体2が、D2≦(√2―1)×D1の関係を満たすことを特徴とする絶縁被膜形成用材料。
【請求項2】
前記シリコン系材料がポリシラザンであること特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜形成用材料。
【請求項3】
前記粉体1のD1が2μm〜20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁被膜形成用材料。
【請求項4】
前記粉体1の体積比率が全体体積の70±5%であり、粉体2の体積比率が5%以上であること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料。
【請求項5】
前記粉体1および前記粉体2の熱膨張係数が、前記シリコン系材料より大きくかつ前記金属材料よりも小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料。
【請求項6】
前記粉体1及び粉体2の熱軟化温度又は融点が550℃以上であること特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料。
【請求項7】
前記粉体1及び粉体2の誘電率が10以下であること特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料。
【請求項8】
貫通孔又は凹部を有する金属平板の表面に請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁被膜形成用材料を被膜してなるフラットパネルディスプレイ用部材。
【請求項9】
前記金属平板が、Ni、Cr、Coから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含むFe系合金であることを特徴とする請求項8記載のフラットパネルディスプレイ用部品。
【請求項10】
絶縁被膜形成用材料の被膜の厚みが3〜30μmであることを特徴とする請求項8〜9のいずれかに記載のフラットパネルディスプレイ用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−302641(P2006−302641A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122161(P2005−122161)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】