説明

絶縁電線

【課題】ポリ乳酸を含みしかも所望の可撓性を有する絶縁電線を提供する。
【解決手段】絶縁電線10であって、導体部11と、この導体部11を被覆する被覆部12とからなり、被覆部22はポリ乳酸からなる厚さt1の第1の層12bと、第1の層12bの内側に位置し、エチレン系ポリマからなる厚さt2の第2の層12aとを積層してなり、次の式(I)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁電線の被覆材に、ポリ乳酸を含む絶縁組成物からなる絶縁材料を用いることが検討されている(特許文献1参照)。ポリ乳酸は、トウモロコシ又はサトウダイコン等の植物から得られるデンプン或いは糖類を発酵して製造される乳酸を化学重合させてできる熱可塑性の樹脂で、環境に優しく、しかも絶縁特性に優れる。
【特許文献1】特開2002−358829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のポリ乳酸を使用した被覆材は、比較的脆く、可撓性に欠ける。このため、そうした被覆材に用いた絶縁電線は、例えば、低電圧配線で見られるように、比較的大きな曲率(つまり、小さな半径)で曲げたときにその被覆材にクラックが生じ、電線の絶縁耐圧を低下させる可能性がある。
【0004】
本発明は、こうした従来の問題点に対処すべく成された。したがって、本発明は、ポリ乳酸を含みしかも所望の可撓性を有する絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明に係る絶縁電線は、導体部と、この導体部を被覆する被覆部とからなり、前記被覆部はポリ乳酸からなる厚さt1の第1の層と、前記第1の層の内側に位置し、エチレン系ポリマからなる厚さt2の第2の層とを積層してなり、次の式(I)を満たすことことを特徴とする。
【数1】

【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、可撓性を有し、曲げ特性に優れた絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例を説明する。
【0008】
まず、図1〜図3を参照して本発明の実施の形態に係る絶縁電線10を説明する。図1はエチレン系ポリマ1とポリ乳酸(PLA)4とを被覆材12a、12bとして押出成形した絶縁電線10の断面図、図2はエチレン系ポリマ1とPLA4とを被覆材22a、22b及び22cとして押出成形したケーブル20の断面図である。図3は製造工程図である。
【0009】
絶縁電線10は、複数の銅製の素線11aを撚った撚線からなる導体部11と、この導体部11を絶縁被覆する被覆部12とで構成される。被覆部12は、PLA4からなる厚さt1の外層12bと、外層12bの内側に位置し、エチレン系ポリマ1からなる厚さt2の内層12aとを備えた積層体から構成される。被覆部12は、電線用の添加物を含む絶縁材料を導体部11上に押出し、仮想線で示す合わせ目13がなくなるようにシームレスに成形した状態14に製品化される。
【0010】
この絶縁電線10において、次の式(I)を満たす。
【数2】

【0011】
絶縁電線20は、複数の銅製の素線11aを撚った撚線からなる導体部11と、この導体部11を絶縁被覆する被覆部22とで構成される。被覆部22は、PLA4からなる厚さt1の外層22bと、外層22bの内側に位置し、エチレン系ポリマ1からなる厚さt2の内層22aと、外層22bの更に外側に位置し、エチレン系ポリマ1からなる厚さt3の最外層22cとを備えた積層体から構成される。被覆部22は、電線用の添加物を含む絶縁材料を導体部11上に押出し、仮想線で示す合わせ目23がなくなるようにシームレスに成形した状態24に製品化される。
【0012】
この絶縁電線20において、次の式(II)を満たす。
【数3】

【0013】
次に、絶縁電線10及び20の製造方法を述べる。
【0014】
絶縁電線10の製造方法は、電線用の第1及び第2の絶縁材料3、6を調製するための調製工程30と、調製された第1及び第2の絶縁材料3、6を被覆材として押出成形する成形工程40とからなる。
【0015】
調製工程30は、エチレン系ポリマ1に第1の添加物2(例えば、難燃剤)を添加して混練し、第1の絶縁材料3を得る工程と、PLA4に第2の添加物5(例えば、難燃剤)を添加して混練し、第2の絶縁材料6を得る工程とを含む。
【0016】
成形工程40では、まず、第1の絶縁材料3を導体部11上に内層12aとして押出し、仮想線で示す合わせ目13aがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形する。次に、第2の絶縁材料6を内層12aで被覆された導体部11上に外層12bとして押出し、仮想線で示す合わせ目13bがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形し(第2成形42)、絶縁電線10を製造する。
【0017】
絶縁電線20を製造する場合には、成形工程40において、まず、第1の絶縁材料3を導体部11上に内層22aとして押出し、仮想線で示す合わせ目23aがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形する。次に、第2の絶縁材料6を内層22aで被覆された導体部11上に外層22bとして押出し、仮想線で示す合わせ目23bがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形する(第2成形42)。次に、第1の絶縁材料3を内層22a及び外層22bで被覆された導体部11上に最外層22cとして押出し、仮想線で示す合わせ目23cがなくなるようにシームレスに成形した状態に成形し(第3成形43)、絶縁電線20を製造する。
【0018】
絶縁電線10及び20は、被覆部12、22が、PLA4とエチレン系ポリマ1との積層体から構成され、PLA4が絶縁性を有し、かつ、生分解性が良く、エチレン系ポリマ1が柔軟性を与えるため、環境に優しく、しかも可撓性のある絶縁電線として機能する。
【0019】
絶縁電線10及び20において、式(I)及び式(II)を満たさない場合には、エチレン系ポリマ1による効果が得られないため、曲げたときに被覆部12、22にクラックが生じる。
【0020】
エチレン系ポリマは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレン−アクリレート共重合樹脂及びアイオノマ樹脂から選択されるいずれかであることが好ましい。これらのエチレン系ポリマは柔軟性を有するため、第1の絶縁材料3として使用するのに好適である。ここで、エチレン−アクリレート共重合樹脂は、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂(EBA)から選択されるいずれかをさす。
【0021】
エチレン系ポリマは、曲げ弾性率が14MPa以上であることが好ましい。この場合には、絶縁電線10、20を曲げたときに被覆部12、22にクラックが発生しない。エチレン系ポリマの曲げ弾性率が14MPa未満の場合には、被覆部12、22にクラックが発生する。このため、エチレン系ポリマは、曲げ弾性率が14MPa以上であることが好ましい。
【実施例】
【0022】
上記実施の形態の実施例として実施例1〜実施例9を行い、比較のために比較例1〜比較例3を行った。
【0023】
1.試料の調製
各試料はエチレン系ポリマの層とPLAの層とを重ねる積層構造とすることで、電線に可撓性を付与することを試みた。PLAは三井化学レイシアH400、エチレン系ポリマはエチレン−エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)は三井・デュポンポリケミカル社のA−703、−704、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)は三井・ポリケミカル社製EV260及び220を用いた。
【0024】
実施例1
内層としてEEA A−703(曲げ弾性率14MPa)、中層としてPLA H400(曲げ弾性率3280MPa)を用いた。内層の厚さは0.1mm、中層の厚さは0.7mmである。内層及び中層の厚さを足した被覆部の層厚0.8mmに対する内層の厚さの割合は12.5%である。
【0025】
実施例2
内層としてEEA A−703、中層としてPLA H400を用いた。内層の厚さは0.2mm、中層の厚さは0.6mmである。内層及び中層の厚さを足した被覆部の層厚0.8mmに対する内層の厚さの割合は25%である。
【0026】
実施例3
内層としてEEA A−703、中層としてPLA H400を用いた。内層の厚さは0.3mm、中層の厚さは0.5mmである。内層及び中層の厚さを足した被覆部の層厚0.8mmに対する内層の厚さの割合は37.5%である。
【0027】
実施例4
内層としてEEA A−703、中層としてPLA H400、外層としてEEA A−703を用いた。内層及び外層の厚さはそれぞれ0.1mm、中層の厚さは0.6mmである。内層、中層及び外層の厚さを足した被覆部の層厚0.8mmに対する内層の厚さの割合は12.5%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%である。
【0028】
実施例5
内層としてEEA A−703、中層としてPLA H400、外層としてEEA A−703を用いた。内層の厚さは0.2mm、中層の厚さは0.5mm、外層の厚さは0.1mmである。内層、中層及び外層の厚さを足した被覆部の層厚0.8mmに対する内層の厚さの割合は25%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は37.5%である。
【0029】
実施例6
内層としてEVA EV260(曲げ弾性率16MPa)、中層としてPLA H400、外層としてEVA EV260を用いた。内層の厚さは0.1mm、中層の厚さは0.6mm、外層の厚さは0.1mmである。内層、中層及び外層の厚さを足した被覆部の層厚0.8mmに対する内層の厚さの割合は12.5%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%である。
【0030】
実施例7
内層としてEEA A−703、中層としてPLA H400、外層としてEEA A−703を用いた。内層の厚さは0.1mm、中層の厚さは0.4mm、外層の厚さは0.1mmである。内層、中層及び外層の厚さを足した被覆部の層厚0.6mmに対する内層の厚さの割合は16.7%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は33.3%である。
【0031】
実施例8
内層としてEEA A−704(曲げ弾性率8MPa)、中層としてPLA H400、外層としてEEA A−704を用いた。内層の厚さは0.1mm、中層の厚さは0.6mm、外層の厚さは0.1mmである。内層、中層及び外層の厚さを足した被覆部の層厚0.6mmに対する内層の厚さの割合は12.5%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%である。
【0032】
実施例9
内層としてEVA EV220(曲げ弾性率10MPa)、中層としてPLA H400、外層としてEVA EV220を用いた。内層の厚さは0.1mm、中層の厚さは0.4mm、外層の厚さは0.1mmである。内層、中層及び外層の厚さを足した被覆部の層厚0.6mmに対する内層の厚さの割合は12.5%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%である。
【0033】
比較例1
PLA層のみを被覆部としたものを比較例1とした。被覆部の厚さは0.8mmである。
【0034】
比較例2
PLA層の外側にEEA A−703の層を設けたものを比較例2とした。PLA層の厚さは0.7mm、EEA層の厚さは0.1mmである。
【0035】
比較例3
PLA層の外側にEEA A−703の層を設けたものを比較例3とした。PLA層の厚さは0.6mm、EEA層の厚さは0.2mmである。
【0036】
各実験例で得られた試料は、次に示すケーブル曲げ試験により評価した。
【0037】
2.ケーブル曲げ試験
ケーブル曲げ試験は、導体の直径の4倍径である直径12.8mmの金属棒に作製した絶縁電線を2周巻きつけ、絶縁電線の被覆部の様子を観察した。
【0038】
3.試験結果
図4に、ケーブル曲げ試験の結果を示す。
【0039】
PLA単独で被覆部を形成した比較例1ではPLA層にクラックが発生した。これに対し、実施例1〜実施例3ではPLA層にクラックが発生せず、PLA層の内側にエチレン系ポリマの内層を設け、被覆部全体の厚さに対する内層の厚さが12.5%の場合には、PLA層に発生するクラックを抑えることができることがわかった。また、比較例2及び比較例3より、PLA層の外側にエチレン系ポリマの外層のみを設けた場合には、被覆部全体の厚さに対する外層の厚さが12.5%以上であっても、クラック発生を抑制する効果は得られないことがわかった。
【0040】
実施例4〜実施例7より、PLA層の内側と外側にエチレン系ポリマ層を設け、内層、PLA層(中層)及び外層の厚さを足した被覆部の層厚に対する内層の厚さの割合が12.5%、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%以上である場合には、PLA層に発生するクラックを抑えることができることがわかった。
【0041】
実施例8では被覆部全体の厚さに対する内層の厚さが12.5%であり、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%であったが、内層及び外層の曲げ弾性率は8MPaであったため、PLA層にクラックが発生した。また、実施例9では、被覆部全体の厚さに対する内層の厚さが12.5%であり、層厚に対する内層及び外層の厚さの割合は25%であったが、内層及び外層の曲げ弾性率は10MPaであったため、PLA層にクラックが発生した。このように、実施例8及び実施例9より、PLA層の内側と外側にエチレン系ポリマ層を設けた場合であっても、エチレン系ポリマの曲げ弾性率14MPa以下の場合には、PLA層にクラックが発生した。
【0042】
このように、ケーブル曲げ試験において、PLAの層の内側、又はPLAの層の内側及び外側にエチレン系ポリマの層を設けることにより、絶縁破壊を防ぐことができる。しかし、エチレン系ポリマの曲げ弾性率が14MPa以下の場合には、大きな曲率で曲げる場合には絶縁破壊が起こることがわかった。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図3】製造工程図である。
【図4】ケーブル曲げ試験の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0045】
10,20…絶縁電線
11…導体部
11a…素線
12,22…被覆部
12a,22a…内層
12b,22b…外層
22c…最外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体部と、この導体部を被覆する被覆部とからなり、前記被覆部はポリ乳酸からなる厚さt1の第1の層と、前記第1の層の内側に位置し、エチレン系ポリマからなる厚さt2の第2の層とを積層してなり、次の式(I)を満たすことを特徴とする絶縁電線。
【数1】

【請求項2】
前記第2の層は、前記被覆部の最内側の層であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
更に、前記第1の層の外側に位置し、エチレン系ポリマからなる厚さt3の第3の層を備え、次の式(II)を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【数2】

【請求項4】
前記第3の層は、前記被覆部の最外側の層であることを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記エチレン系ポリマは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−アクリレート共重合樹脂及びアイオノマー樹脂から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記エチレン−アクリレート共重合樹脂は、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記エチレン系ポリマは、曲げ弾性率が14MPa以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の絶縁電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−134277(P2007−134277A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328728(P2005−328728)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】