説明

継手装置

【課題】本発明は、構造物の杭・柱・梁等の構造部材の継手装置に関し、とくに、鋼管杭の回転貫入工法に好適な継手装置として利用できるもので、十分な継手強度を有し、かつ、構造部材同士の接合作業が容易で、回転貫入時の貫入抵抗を増加させず、しかも、引き抜き時の逆回転トルクも伝達可能な継手装置を経済的に実現することが課題である。
【解決手段】上部構造部材下端に接合される継手装置上部10aと、下部構造部材上端に接合される継手装置下部20aと、挿入方向に断面が縮小するテーパーを有する楔30と、によって構成される継手装置であって、前記継手装置上部は、その基部から下方に突出した係合部を有し、前記継手装置下部は、その基部から上方に突出した係合部を有し、これら係合部の一端は、互いに非同一鉛直面で係合されるとともに、他端が前記楔を挿入可能な空間を形成し、該空間に前記楔を挿入することによって前記上部構造部材10bと前記下部構造部材20bとを接合する継手装置Aとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材の継手装置であり、詳しくは、地中に設置されて、構造物等に作用する荷重を支持する既製杭の継手装置、さらに、構造物の柱・梁等に使用される環状構造部材にも適用可能な継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭は、運搬する上での制約条件等によって、地表面下十数メートル以上の深さに設置する場合には、定尺ものの複数の杭部材を作業現場において接続する必要がある。また、構造物の柱・梁等に使用される環状構造部材についても、同様に作業現場において接続する必要がある。その接続方法には、(a)現場溶接による方法と、(b)機械式継手装置を用いる方法と、に大別される。
【0003】
とくに最近では、鋼管杭の先端部に螺旋状の回転翼を接合して地中に回転貫入させ、構造物等に作用する荷重を支持する工法がしばしば用いられている。この工法は、鋼管杭の頭部に回転力を与えて所定の地層に貫入させるもので、地表面に掘削残土が排出されず、しかも、セメントミルク等の注入固化材を用いないため、環境にやさしく、経済性・施工性に優れている。さらに、杭を撤去する場合においても、貫入時と反対方向に回転トルクを与えることにより、容易に杭を引き抜くことができる、という利点も有する。
このような鋼管杭の回転貫入工法においては、地盤のN値が大きいと貫入抵抗が高くなるため、杭材のねじり強さより小さな回転トルクで貫入させるような施工管理を必要とする。したがって、杭の継手部の強度は、少なくとも杭材のねじり強さより大きくしなければならない。また、杭に作用するせん断力や曲げモーメントにも十分抵抗できる継手強度が必要となる。
【0004】
以上のような背景技術をふまえ、既製杭の継手方法に関する従来技術の問題点を以下に説明する。
まず、現場溶接による杭の継手方法については、十分な施工管理を行い、溶接部の概観検査・非破壊検査等の実施によって、前述の継手強度を確実に得ることができる。しかしながら、溶接作業には所定の技能資格を有する作業員を配置することが不可欠であり、労務費が高くなるとともに、溶接作業にかなり長い時間を要することもあって、コストアップにつながる、という課題がある。さらに、毎秒10m以上の強風が吹いているときや、降雨・降雪により母材が濡れているとき、気温が5℃以下のときは、とくに対策を講じる場合を除いて、一般に溶接作業を行うことができないため、工程に与える影響が大きい、という課題があった。
【0005】
一方、機械式継手を用いる方法では、溶接継手の場合の課題は解決されるが、継手強度をどのようにして確保するか、が問題となる。
例えば、機械式継手の代表的な方法の一つであるネジ式継手は、接合すべき上部の杭部材の下端に取り付けた雌ネジ部(または雄ネジ部)を有する継手装置上部と、地中に設置された下部杭部材の上端に取り付けた雄ネジ部(または雌ネジ部)を有する継手装置下部と、を螺合させることによって、上部杭部材と下部杭部材とを接合するものである。したがって、十分な継手強度を確保するためには、所要の肉厚を有する部材とするとともに、所定の継手強度が得られるまで(少なくとも3回転以上)ねじ込む必要があり、継手装置としてある程度の長さを必要とする。
また、下部杭部材に固定されている継手装置下部に、上部杭部材に取り付けた継手装置上部を螺合するには、かなりの熟練性と時間を要する、という問題点があった。
さらに、杭を撤去するために、貫入時と逆方向に回転力を与えると、継手装置上部が継手装置下部から離脱する(螺合が解除される)ため、下部杭部材が地中に残置されることになる。このような不具合を防止し、杭全体を引き抜くには、係合ピン等を継手装置に挿通させることが行われているが、断面欠損を補うため必然的に肉厚の大きな部材とする必要があるとともに、継手装置の上下方向の長さを大きくする必要があり、コストアップにつながる、という課題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002-161532号公報
【特許文献2】特開2002-275888号公報
【0007】
上記特許文献1には、「上杭の下端部に側方に張り出す水平なフランジ板が備えられていると共に、下杭の上端部に同じく側方に張り出す水平なフランジ板が備えられ、これらフランジ板同士がボルト接合されることで、上下の杭がジョイントされている」構成が、また、上記特許文献2には、「下杭と上杭とに嵌合し、これら下杭と上杭を接続する短尺円筒の外周に、らせん状羽根をもうけてなる」構成が、それぞれ開示されている。そして、これらの特許文献に開示された技術により、現場溶接を行うことなく、上下の杭部材を接合することができる。
しかしながら、上記特許文献に開示された技術は、いずれも杭の外周面から張り出す形で継手装置が装着されることになり、たとえ「掘削機能を有する羽根」を備えているとしても、杭を回転貫入させるときの貫入抵抗が著しく増加するとともに、原地盤を乱すことによって周面摩擦力が低下する、という課題があった。
【0008】
【特許文献3】特開2000-328557号公報
【0009】
また、上記特許文献3には、「端板と円筒側板からなる継手部材を杭の端面に固着し、接続片で接合すべき上下杭の円筒側板の双方にボルト接合することによって、上下の杭を接合する」技術が開示されている。
しかしながら、この従来技術は、既製コンクリート杭部材の接合を対象としたものであり、本発明の主な対象である回転貫入工法のように大きな回転トルクが伝達できる継手強度を有していない、という課題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上説明したように、本発明が解決しようとする課題は、十分な継手強度を確保し、かつ、上部杭部材の下部杭部材への係合が容易にできるとともに、杭を回転貫入させるときの貫入抵抗を増加させず、さらに、杭を引き抜く際の逆回転トルクも伝達できるとともに、杭に作用するせん断力や曲げモーメントにも十分抵抗できる継手装置を経済的に実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る継手装置の要旨は、上記課題を解決するため、以下のような構成としている。すなわち、請求項1の発明では、
上部構造部材下端に接合される継手装置上部と、
下部構造部材上端に接合される継手装置下部と、
挿入方向に断面が縮小するテーパーを有する楔と、
によって構成される継手装置であって、
前記継手装置上部は、その基部から下方に突出した係合部を有し、
前記継手装置下部は、その基部から上方に突出した係合部を有し、
これら係合部の一端は、互いに非同一鉛直面で係合されるとともに、
他端が前記楔を挿入可能な空間を形成し、
該空間に前記楔を挿入することによって、
前記上部構造部材と前記下部構造部材とを接合することを特徴とする。
ここで、構造部材とは、杭、柱、梁等の構造物の一部を形成する部材をいい、「互いに非同一鉛直面で係合される」ということは、互いの係合面が1つの鉛直面でなく、鉛直面とはある角度を有する面で噛合っている状態、あるいは複数の平面で噛合っている状態で係合されていることをいう。
また、請求項2の発明では、請求項1において、
継手装置上部と継手装置下部の係合部が、正面視でその先端部分が基部に比べて幅広に形成され、鉛直面に対してある角度を有する面で互いに係合されることを特徴とする。
さらに、請求項3の発明では、請求項1において、
継手装置上部と継手装置下部の係合部が、正面視でその先端部分が基部に比べて幅広となるような段差を有する形状に形成され、複数の平面で互いに係合されることを特徴とする。
さらに、請求項4の発明では、請求項1乃至請求項3において、
継手装置上部と継手装置下部の基部が、所定の厚さを有する板状部材として構成されていることを特徴とする。
さらに、請求項5の発明では、請求項1乃至請求項4において、
継手装置上部の外周上面には上部構造部材と接合するためのテーパーが形成され、
継手装置下部の外周下面には下部構造部材と接合するためのテーパーが形成されていることを特徴とする。
さらに、請求項6の発明では、請求項1乃至請求項5において、
楔は、同一形状に形成されていることを特徴とする。
さらに、請求項7の発明では、請求項1乃至請求項6において、
楔にボルト挿通孔を形成し、
該ボルト挿通孔を貫通するボルトをナット締めすることによって、
前記楔の脱落を防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る継手装置は、継手装置上部の基部から下方に突出した係合部と、継手装置下部の基部から上方に突出した係合部とが、互いに非同一鉛直面で係合された状態で、楔挿入用の空間を形成するので、楔をその空間に挿入することによって、押し込み力や引き抜き力、回転トルクを上部構造部材から下部構造部材へ、安全かつ確実に伝達できる、という利点がある。とくに、回転トルクに関しては、時計回り方向はもとより、反時計回り方向の回転力に対しても十分伝達可能である。また、継手部に作用する曲げモーメント・せん断力に対しても十分抵抗できる構造及び部材厚となっている。
また、請求項2の発明においては、継手装置上部と継手装置下部の係合部が、正面視でその先端部分が基部に比べて幅広に形成され、鉛直面に対してある角度を有する面で互いに係合されるので、とくに引き抜き抵抗が増加する。
さらに、請求項3の発明においては、継手装置上部と継手装置下部の係合部が、正面視でその先端部分が基部に比べて幅広となるような段差を有する形状に形成され、複数の平面で互いに係合されるので、とくに曲げモーメントに対する抵抗性が著しく向上する。
さらに、請求項4の発明においては、継手装置上部と継手装置下部の基部が、所定の厚さを有する板状部材として構成されているので、継手装置上部及び継手装置下部の曲げ剛性を著しく高めることができ、継手装置全体の強度を向上させることができる。
さらに、請求項5の発明においては、継手装置上部の外周上面には上部構造部材と接合するためのテーパーが形成され、継手装置下部の外周下面には下部構造部材と接合するためのテーパーが形成されているので、継手装置と構造部材との溶接接合が、テーパー部を利用することによって、所定の品質及び性能を確保しつつ、容易に行えることを可能とする。とくに、上部構造部材と下部構造部材の外径や板厚が異なる場合であっても、本発明の構成を採用することによって、安全かつ確実に構造部材同士を接合することができる。
さらに、請求項6の発明においては、楔が同一形状に形成されているので、楔を同一形状の金型を用いて製作でき、継手装置の製作費用を低減できる。
さらに、請求項7の発明においては、楔にボルト挿通孔を形成し、該ボルト挿通孔を貫通するボルトをナット締めすることによって、前記楔の脱落を防止するので、構造部材の接合作業中及び施工後において、楔の脱落を防止することによって、半永久的に構造部材の接合部の強度・安全性が確保できる。
なお、本発明の構成を採用することにより、継手装置の楔挿入用空間から楔を引き抜いて、継手装置上部と継手装置下部の係合を容易に解除できるので、構造部材同士の接合も解除することが可能となり、メンテナンスフリーの状態で構造部材を再使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る継手装置を用いて接合した構造部材、例えば、鋼管杭は、本体を構成する鋼管の母材強度(圧縮強さ、引張強さ、せん断強さ、曲げ強さ、ねじり強さなど)を上回る継手強度が確保でき、杭基礎に作用する鉛直力(押し込み力および引き抜き力)や水平力によって生じる曲げモーメント・せん断力にも十分抵抗し得るものである。また、気候条件に左右されずに施工できる経済的な継手装置を実現した。
さらに、本発明に係る継手装置は、構造物の柱・梁等のように、軸力と曲げモーメント・せん断力が作用する構造部材に対しても適用することが可能である。本発明の継手装置について実施例に基づき、以下に説明する。なお、構造部材を杭(例えば、鋼管杭)とした場合で説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の継手装置Aは、図1に示すように、継手装置下部20aをその上端部に接合した下部杭部材20bを所定深さの地盤に設置し、上部杭部材10bの下端部に接合した継手装置上部10aを前記継手装置下部20aに係合して、長尺の基礎杭Bを形成するために用いられる。
継手装置Aの構成要素としては、継手装置Aの本体部を形成する継手装置上部10a及び継手装置下部20aと、楔右部30a及び楔左部30bから形成される楔30と、ボルト40及びナット45と、がある。
継手装置A全体の形状は、図1の正面図、図2の側面図、図3の背面図及び図4の係合断面を示す図の通り、中空断面でその外観がほぼ円筒形状に形成されている。継手装置Aは、ボルト40とナット45との螺合を、ボルト頭部41の六角ボルトの逆回転(左方向への回転)により解除して、ボルト40を引き抜き、さらに、楔右部30a及び楔左部30bを引き抜くことで、図5のように分解することができるようになっている。
【0015】
継手装置上部10aは、係合部17と基部18とが一体的に形成され、その上面外周にはテーパー部14が全周に亘って設けられ、溶接部16において、上部杭部材10bと工場溶接によって接合されている。したがって、継手装置上部10aの外径は、本発明の継手装置Aによって接合される上部杭部材10bの外径に等しくなっており、テーパー部14の外径は、上部杭部材10bの内径より若干小さめに形成されている。すなわち、テーパー部14における段差(テーパー量)は、上部杭部材10bの板厚にほぼ等しくなっている。
また、望ましくは、テーパー部14の先端部を多少長めに形成するとよい。それによって、長めに形成されたテーパー部14の先端部が、継手装置上部10aと上部杭部材10bとを溶接する場合の裏当て金の機能を果たし、テーパー部14が開先継手として作用するため、上部杭部材10bの下端部に開先を設ける必要がなくなる。
【0016】
継手装置上部10aの上端面は、円環状で比較的簡易な形状となっているが、下端面及び内周面は、かなり複雑な形状となっている。すなわち、図1の正面図及び図3の背面図に示すとおり、正面視、背面視ともに逆Z字状の楔30との係合面12を有する段違い状の係合部17が基部18から突出して形成されている。この係合部17を側面視でみると、図2の側面図に示すとおり、Z字状に噛合う継手装置下部20aとの係合面11を有する段違い状の係合部17が基部18から突出して形成されていることがわかる。
このように、段違い状に下方に突出した継手装置上部10aの係合部17は、図4の係合断面を示す図において、X方向及びY方向の中心軸の交点を原点とする座標でみると、第2象限及び第4象限に該当する部分に各一個ずつ形成されている。そして、その一端は、図2に示すように継手装置下部20aとの係合面11を形成し、他端は、図1に示すように楔30との係合面12を形成している。なお、係合部17は、図5に示すとおり、基部18と一体化した部分の幅aに比べて、先端部の幅bが大きくなるように、その先端方向に徐々に幅広となるよう形成されている。したがって、係合面11及び12は同一鉛直面で当接せず、鉛直面とある角度を有する平面で当接することになる。これによって、杭Bを引き抜くときの引き抜き抵抗を十分に期待することができる。
【0017】
また、継手装置上部10aの内周面は、図5に示すように、半径rの均一な円形に形成したり、図1に示すように、前記係合部17の下端から外周面のテーパー部14付近までの範囲に対して、継手装置上部10aの部材厚を他の部分より均一に大きくするような形状としたり、図4または図6に示すように、外力の作用によって最も大きな応力度が発生する部位の部材厚を任意の形状で他の部分より大きくするように設定することもできる。すなわち、係合部17を含む厚肉部15は、杭を回転貫入させるときや引き抜くときの回転トルク、杭に作用するせん断力・曲げモーメントを伝達するために十分な強度を有するよう、設計されている。なお、厚肉部15は、平面視で円形となるような構成とすることも、図4または図6に示すように、矩形状を含めた多角形状やその他の形状に形成することも可能である。
【0018】
前記継手装置下部20aは、係合部27と基部28とが一体的に形成され、その上面外周にはテーパー部24が全周に亘って設けられ、溶接部26において、下部杭部材20bと工場溶接によって接合されている。したがって、継手装置下部20aの外径は、本発明の継手装置Aによって接合される下部杭部材20bの外径に等しくなっており、テーパー部24の外径は、下部杭部材20b内径より若干小さめに形成されている。すなわち、テーパー部24における段差(テーパー量)は、下部杭部材20bの板厚にほぼ等しくなっている。
また、望ましくは、テーパー部24の先端部を多少長めに形成するとよい。それによって、長めに形成されたテーパー部24の先端部が、継手装置下部20aと下部杭部材20bとを溶接する場合の裏当て金の機能を果たし、テーパー部24が開先継手として作用するため、下部杭部材20bの上端部に開先を設ける必要がなくなる。
【0019】
前記継手装置下部20aの下端面は、円環状で比較的簡易な形状となっているが、上端面及び内周面は、かなり複雑な形状となっている。すなわち、図1の正面図及び図3の背面図に示すとおり、正面視、背面視ともに逆Z字状の楔30との係合面22を有する段違い状の係合部27が基部28から突出して形成されている。この係合部27を側面視でみると、図2の側面図に示すとおり、Z字状に噛合う継手装置上部10aとの係合面21を有する段違い状の係合部27が基部28から突出して形成されていることがわかる。
このように、段違い状に上方に突出した継手装置下部20aの係合部27は、図4の係合断面を示す図において、X方向及びY方向の中心軸の交点を原点とする座標でみると、第1象限及び第3象限に該当する部分に各一個ずつ形成されている。そして、その一端は、図2に示すように、継手装置上部10aとの係合面21を形成し、他端は、図1に示すように、楔30との係合面22を形成している。なお、係合部27は、図5に示すとおり、基部28と一体化した部分の幅aに比べて、先端部の幅bが大きくなるように、その先端方向に徐々に幅広となるよう形成されている。したがって、係合面21及び22は同一鉛直面で当接せず、鉛直面とある角度を有する平面で当接することになる。これによって、杭Bを引き抜くときの引き抜き抵抗を十分に期待することができる。
【0020】
また、継手装置下部20aの内周面は、図5に示すように、半径rの均一な円形に形成したり、図1に示すように、前記係合部27の上端から外周面のテーパー部24付近までの範囲に対して、継手装置下部20aの部材厚を他の部分より均一に大きくするような形状としたり、図4または図6に示すように、外力の作用によって最も大きな応力度が発生する部位の部材厚を任意の形状で他の部分より大きくするように設定することもできる。すなわち、係合部27を含む厚肉部25は、杭を回転貫入させるときや引き抜くときの回転トルク、杭に作用するせん断力・曲げモーメントを伝達するために十分な強度を有するよう、設計されている。なお、厚肉部25は、平面視で円形となるような構成とすることも、図4または図6に示すように、矩形状を含めた多角形状やその他の形状に形成することも可能である。
このような継手装置上部10a及び継手装置下部20aの一実施例を図6に示す。これら継手装置上部10a及び継手装置下部20aの製作は、比較的部材厚の大きな鋼管や円柱状の鋼材を機械切削したり、精密鋳造によって行われる。
【0021】
以上の説明から分かるように、継手装置上部10aと継手装置下部20aとは、継手装置Aの中心点に対して点対称となるように構成されている。したがって、これらの構成要素をロストワックス(精密鋳造)で製作する場合には、1種類の金型で併用することができるので、製作費のコストダウンを図ることができる。
【0022】
次に、継手装置上部10aと継手装置下部20aとを係合させたときの継手装置Aの全体的な状態を説明する。
継手装置上部10aと継手装置下部20aとは、上記のように構成されているため、互いの係合部17と係合部27とを、側面視で図2に示すように、Z字状に噛合うように、すなわち、非同一鉛直面(鉛直面とある角度を有する面)で係合させることができる。
静置した継手装置下部20aに、図2に示すように、継手装置上部10aを係合部17及び27が噛合うように係合させると、継手装置Aの正面視及び背面視において、楔30が挿入可能な空間として、図1と図3とに示すように、楔挿入部13及び23が形成される。この楔挿入部13及び23は、継手装置上部10aの楔30との係合面12と、継手装置下部20aの楔30との係合面22と、によって形成される、平行四辺形の断面形状を有する空間であり、継手装置Aの内面方向に向かって、空間の幅が狭くなるようなテーパー状に形成されている。
【0023】
継手装置上部10a、継手装置下部20a及び楔30からなる本発明の継手装置Aは、以上のような構成としたことにより、以下に述べるような作用・効果を奏する。
すなわち、継手装置上部10a及び継手装置下部20aの係合に関しては、係合部17及び27が先端部分に向かって幅広に形成されているため、同一鉛直面で係合することがない。したがって、上部杭部材10bを逆回転させて杭全体を引き抜くときに、十分な引き抜き抵抗が確保できる。また、楔挿入部13及び23を形成するように係合されるため、下部杭部材20bの上部に固定された継手装置下部20aに対して、上部杭部材10bの下部に接合された継手装置上部10aがかなり広い範囲で摺動可能になることである。これをもっと具体的に説明すれば、継手装置上部10aと継手装置下部20aとの中心軸が一致し、かつ、それぞれの係合部17及び27が係合面11及び21で係合された状態であっても、Y方向(図4における側面視方向)には、楔30の最小断面寸法(図4における楔挿入部13,23の最小間隔)の最大限約2倍の範囲で摺動可能となる。
【0024】
換言すると、継手装置上部10aと継手装置下部20aとの中心軸が一致しない状態では、X方向に楔30の最小断面寸法(図4における楔挿入部13、23の最小間隔)程度の範囲で摺動可能であり、さらに、同程度の範囲で回転摺動させることも可能である。
したがって、上部杭部材10bの下部杭部材20bへの係合、すなわち、固定された状態にある継手装置下部20aへの継手装置上部10aの係合が極めて容易に行える。
このことは、本発明の最も特徴的な作用・効果であり、上部杭部材10bの中心線が下部杭部材20bの中心線と一致しない状態でも、上部杭部材10b全体を水平方向に摺動させることによって、容易に中心線が一致するような位置に上部杭部材10bをセットすることができる。
とくに、係合面11及び21における係合状態(噛合い状態)を目視観察することによって、上部杭部材10bが所定の位置にセットされているかどうかを、一目で判断することができ、作業効率の著しい向上を図ることが可能となった。
【0025】
次に、楔30a、30bの形状及び機能について説明する。
本発明の継手装置Aにおける構成要素の1つである楔30は、継手装置上部10aと継手装置下部20aとを、係合部17及び27によって噛合わせたときに生じる空間、すなわち、楔挿入部13及び23に嵌合される楔右部30a及び楔左部30bからなる。
楔右部30a及び楔左部30bは、図7に示すように、同一形状として形成されており、その断面形状は菱形の平行四辺形とされている。また、楔外面35から楔内面36に向けて、側面方向の断面寸法(楔30の幅)が縮小するように、テーパーが形成されている。そのため、楔30は、楔挿入部13及び23に極めて容易に嵌合できる。
【0026】
さらに、楔右部30a及び楔左部30bには、それぞれボルト挿通孔38が形成され、ボルト挿通孔38の外面側にはナット係合部39が形成されている。
なお、楔右部30a及び楔左部30bは、同一形状に形成されているため、前記継手装置上部10a及び継手装置下部20aと同様に、ロストワックスによって製作することにより、製作費のコストダウンを図ることができるとともに、各係合面11,12及び21、22や楔30の各面(楔上面31、楔下面32、楔右側面33、楔左側面34、楔外面35及び楔内面36)を滑らかに形成することができる。したがって、各部材の係合・嵌合作業を容易に行うことができる。とくに、継手装置Aの各部材の端面を面取りしておくことにより、各部材の係合・嵌合作業を極めて容易に行うことができる。
【0027】
前記楔30は、以上のように構成されているため、楔挿入部13及び23への嵌合作業が容易に行える一方、楔挿入部13及び23からの楔右部30a及び楔左部30bの脱落を防止する必要がある。そのため、本発明では、ボルト40及びナット45によって、楔右部30a及び楔左部30bを継手装置Aの中心方向に締め付け、楔30の脱落を防止している。
ボルト40は、図5に示すように、六角レンチ孔が形成されたボルト頭部41と、ボルト軸部42と、ボルトネジ部43と、から構成される。ボルト40の機能としては、ボルト頭部41を楔左部30bに形成されたボルト頭部係合部39bに係合し、楔右部30aに形成されたナット係合部39aに対して、ボルトネジ部43を介してナット45を締め付けることにより、楔右部30a及び楔左部30bを互いに中心軸側に引き寄せ、楔30の脱落を防止している。この場合、ナット45をボルトネジ部43に螺合させた状態で、ボルト頭部41に形成された六角レンチ孔に六角レンチを嵌合させ、ボルト40を右回転させることにより、ナット45を締め付けられるような構成となっている。なお、ナット45としては、緩み防止機能を有するものを用いることが望ましい。
【0028】
以上、本発明の継手装置Aの構成要素について、その形状及び機能を主体とした実施例1を説明した。次に、これらの構成要素を組み合わせて使用する場合の作用・効果について説明する。
図1、図2、図3、図4は、継手装置Aの全ての構成要素を組み立てた場合の正面図、側面図、背面図、係合断面図を示したものである。上部杭部材10bに工場溶接で接合された継手装置上部10aは、その係合部17と継手装置下部20aの係合部27とが、それぞれの係合面11及び21と楔30を介して噛合うことにより、下部杭部材20bに工場溶接で接合された継手装置下部20aに係合される。それによって、上部杭部材10bが下部杭部材20bに接合され、所要の杭長となるまでこの手順を繰り返すことによって、杭Bが形成される。
このとき、継手装置上部10aの係合部17と継手装置下部20aの係合部27とは、鉛直面に対してある角度を有する平面で係合される。すなわち、係合部17及び27は、先端部分に向かって幅広に形成されているため、同一鉛直面で係合されることはない。したがって、杭Bを地中に回転貫入させるときの押し込み力はもとより、杭Bを逆回転させて引き抜く際にも、十分な引き抜き抵抗力を確保することができる。
【0029】
杭Bを地中に貫入させるには、杭打ち機60に装備されている回転駆動装置61に、杭径に応じて製作された杭回転駆動キャップ62を接続し、回転駆動装置61によって時計回りの回転力を杭回転駆動キャップ62に与え、杭Bに伝達させる。
一方、杭Bの上部外面には、直方体形状の回転金具50が杭Bの中心線上の外周面に2個溶接されており、これらが前記杭回転駆動キャップ62に係合されて回転力を杭Bに伝達する。
杭Bの上部杭部材10bに伝達された時計回りの回転力は、継手装置上部10aの係合部17の係合面11を介して、継手装置下部20aの係合部27の係合面21に伝達されることによって、下部杭部材20bに伝達される。このとき、本発明の継手装置Aの押し込み抵抗は、継手装置上部10aと継手装置下部20aとの全ての係合面のうち、水平面で係合している面積の全てが有効に機能する。
逆に、杭Bを引き抜く場合には、回転駆動装置61に反時計回りの回転力を与える。この場合には、継手装置上部10aの係合部17の楔30との係合面12を介して楔30に回転力が伝達され、さらに、継手装置下部20aの係合部27の楔30との係合面22を介して、下部杭部材20bに伝達される。この場合の引き抜き抵抗としては、図5に示す係合部17または係合部27の最小断面D1またはD2に対応したせん断強さとして機能する。
また、回転トルクに対しては、係合面11または係合面21における鉛直方向の有効投影面積分の支圧抵抗によって伝達されることになる。
【0030】
つぎに、図5により、杭Bに作用するせん断力・曲げモーメントに対して、本発明の継手装置Aがどのように抵抗するか、説明する。
杭Bに作用するせん断力に対しては、上部杭部材10bに関し、継手装置上部10aの係合部17が基部18と一体化されている有効断面C1に相当するせん断抵抗が期待でき、同様に、下部杭部材20bに関しては、継手装置下部20aの係合部27が基部28と一体化されている有効断面C2に相当するせん断抵抗が期待できる。
一方、曲げモーメントに対しては、係合部17及び27が噛合っている部分の鉛直面(すなわち、図5に示す断面D1またはD2)におけるせん断強さによって主として抵抗する。
したがって、本発明の継手装置Aにおいては、杭Bに作用するせん断力・曲げモーメントの大きさに応じて、発生する応力度が許容値以下となるよう、係合部17及び27の部材幅(a)・部材厚(t)・突出高さ(h)を設定すればよい。とくに、部材厚tについては、同じ材質を用いる場合、少なくても上部杭部材10b及び下部杭部材20bの部材厚より大きく設定しておく必要がある。
なお、本実施例では係合部17及び27をそれぞれ2箇所ずつ設けた継手装置上部10a及び継手装置下部20aについて説明したが、杭Bに作用する外力の大きさによっては、それぞれ4箇所あるいはそれ以上設置することも可能である。
【0031】
本発明の継手装置Aは、以上のように構成したことにより、上部杭部材10bに作用する鉛直力(押し込み力及び引く抜き力)を円滑に下部杭部材20bに伝達することができるとともに、曲げモーメントやせん断力が杭Bの継手部に作用した場合にも、十分抵抗できる構造となっており、杭B本体の耐力を上回る継手強度を確保することができる。
なお、本実施例においては、主に鋼管杭を対象として説明したが、鋼管杭に限らず、既製コンクリート杭に対しても適用可能である。この場合、既製コンクリート杭の上下両端面に固着された鋼製継手部材に、継手装置上部10aまたは継手装置下部20aを工場溶接で接合すればよい。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の継手装置Aの第2実施例について、鋼管杭の継手として用いた場合で説明する。本発明の継手装置Aは、実施例1と同様、外観的にはほぼ円柱状に形成され、本体を構成する要素として、図示しない継手装置上部及び継手装置下部120aと、楔130とがある。本実施例の技術的特徴は、実施例1の継手装置Aが環状の中空断面として形成されているのに対し、継手装置上部及び継手装置下部の基部118及び128が、所定に厚さを有する板状部材、すなわち中実断面として形成されていることである。
なお、説明の都合上、図10における継手装置下部120a、継手装置下部120aの基部128、継手装置下部120aの係合部127、継手装置下部120aのテーパー部124に対して、図10を180度回転させた状態の図を想定して、それぞれに対応する構成要素の符号を、継手装置上部110a、継手装置上部110aの基部118、継手装置上部110aの係合部117、継手装置上部110aのテーパー部114のように呼ぶこととする。
【0033】
図10に、継手装置下部120aの平面図及び斜視図を示す。継手装置下部120aは、工場溶接によって下部杭部材に接合される基部128と、上方に突出して継手装置上部110aの係合部117に係合される係合部127とが、構造的に一体となって形成されている。基部128は、係合部127と一体化される部材として、ある厚さ(杭B本体鋼管の耐力より大きな継手強度を有するように設定した厚さ)を有する板状に形成され、その下部にはテーパー部124が全周に亘って設けられている。
ここで、継手装置下部120aの外径は杭Bの外径にほぼ等しく、テーパー部124の外径は杭Bの内径より若干小さめに形成されている。
【0034】
また、係合部127は、この実施例では4箇所に設けられ、それぞれの正面視が基部128での幅(a)よりも、先端部での幅(b)の方が幅広となるよう形成され、かつ、外周面から内周面に向けての平面視での幅が縮小されるように形成されている。そして、係合部127の一端を継手装置上部110aの係合部117と当接することにより、他端側で楔130の挿入空間を形成するようになっている。
【0035】
一方、継手装置上部110aは、図10に示す継手装置下部120aを180度回転させたときの形状、すなわち、継手装置下部120aと点対称の形状を有し、係合部117及び基部118についても同様の形状に形成され、基部118のテーパー部114において上部杭部材に接合されている。
したがって、下部杭部材に接合されている継手装置下部120aに、上部杭部材に接合されている継手装置上部110aを、それぞれの係合部117及び127が当接するように係合させると、その一端はZ字状または逆Z字状の係合面を形成し、他端では平行四辺形状の断面形状を有する楔130の挿入空間を形成する。このとき、楔挿入空間が内周面に向かって平面視で先細り状態となるよう、係合部117及び127の設置幅を設定する。
このようにして形成された楔挿入空間に楔130を挿入し、対面側の楔130同士をボルト・ナットによって締め付けることにより、上部杭部材が下部杭部材に構造的に接合される。
【0036】
図11は、上記楔挿入空間に挿入される楔130の平面図及び斜視図である。実施例1と同様に、楔130は、平面視で継手装置Aの内面方向に向かって断面寸法が縮小するようにテーパーが形成されている。また、楔130には、楔130同士を締め付ける場合に、複数のボルトが継手装置Aの中心点付近で互いに干渉しないような位置に、ボルト挿通孔138が形成されている。
なお、このような継手装置Aの各構成要素は、厚板や中実鋼材を切削加工したり、精密鋳造によって製作される。
【0037】
以上、実施例2の継手装置Aに関し、主として実施例1と異なる構成について説明した。すなわち、継手装置Aのおのおのの係合部が非同一鉛直面で互いに係合されること、継手装置下部に対して継手装置上部が摺動自在になっているため、それらの係合が容易に行われること、楔挿入空間から楔を引き抜きことにより、継手装置上部と継手装置下部との係合を解除できること、杭Bに作用する回転トルク、鉛直力、せん断力、曲げモーメントに対しては、許容値を超える応力が発生しないよう配慮させていること、などについては、実施例1で説明した記述の通りである。
実施例2の継手装置Aは、上記のように構成したので、実施例1での作用・効果に加えて、以下のような作用・効果を奏する。
・継手装置上部110a及び継手装置下部120aの基部118及び128を板状部材として構成したことにより、継手装置Aの断面剛性が向上するとともに、それぞれの係合部117及び127の奥行き方向の部材厚(図10における部材厚t)を任意に設定できる。とくに、継手装置A全体としてみると、基部118及び128が補強リブとして作用するので、継手強度の大幅な向上を図ることができる。
・したがって、杭Bに作用する外力の大きさに対して、必要とされる継手強度を満足するための係合部117及び127の正面視における幅(図10における部材幅a,b)、突出高さ(図10における突出高さh)を設定する際の自由度が高まる。
・換言すれば、係合部117及び127の部材厚tを大きくすることにより、突出高さhを低減することができるので、継手装置Aの全体の高さ(継手長)を小さくすることによるコストダウンが図れる。
・上部杭部材、下部杭部材ともにその上端及び下端が閉塞構造となるため、杭B本体内への地下水の浸入を防ぐことができる。これにより、杭B内周側の腐食しろを考慮しなくてよいから、経済的な杭の設計が可能となる。
【実施例3】
【0038】
本実施例においては、実施例1及び実施例2と同様に、鋼管杭の継手として用いた場合について説明する。また、説明の都合上、図12における継手装置下部220a、継手装置下部220aの基部228、継手装置下部220aの係合部227、継手装置下部220aのテーパー部224に対して、図12を180度回転させた状態の図を想定して、それぞれに対応する構成要素の符号を、継手装置上部210a、継手装置上部210aの基部218、継手装置上部210aの係合部217、継手装置上部210aのテーパー部214のように呼ぶこととする。
本発明の継手装置Aは、外観的にはほぼ円環状に形成され、本体を構成する要素として、図示しない継手装置上部及び継手装置下部220aと、楔230とがある。
【0039】
図12及び図13に、本発明の継手装置Aに関する実施例3の平面図及び斜視図を示す。図12(A)及び(B)は継手装置下部120aの平面図及び斜視図で、継手装置下部220aは、工場溶接によって下部杭部材に接合される基部228と、上方に突出して継手装置上部210aの係合部217に係合される係合部227とが、構造的に一体となって形成されている。基部228は、係合部227と一体化される部材として、ある厚さ(杭B本体鋼管の耐力より大きな継手強度を有するように設定した厚さ)を有する円環状に形成され、その下部にはテーパー部224が全周に亘って設けられている。ここで、継手装置下部220aの外径は杭Bの外径にほぼ等しく、テーパー部224の外径は杭Bの内径より若干小さめに形成されている。
また、係合部227は、この実施例では4箇所に設けられ、それぞれの正面視が基部228での幅(a)よりも、先端部での幅(b)の方が幅広の段差を有する形状(ハンマー状)に形成されている。したがって、係合部227の一端を継手装置上部210aの係合部217と当接すると、係合面が複数の平面をなし、他端側で楔230の挿入空間を形成するようになっている。
【0040】
一方、継手装置上部210aは、図12に示す継手装置下部220aを180度回転させたときの形状、すなわち、継手装置下部220aと点対称の形状を有し、係合部217及び基部218についても同様の形状に形成され、基部218のテーパー部214において上部杭部材に接合されている。
したがって、下部杭部材に接合されている継手装置下部220aに、上部杭部材に接合されている継手装置上部210aを、それぞれの係合部217及び227が当接するように係合させると、その一端は階段状の複数の係合面を形成し、他端では平行四辺形状の断面が2個積み重ねられた形状を有する楔230の挿入空間を形成する。このとき、楔挿入空間が内周面に向かって平面視で先細り状態となるよう、係合部217及び227の設置幅を設定する。
このようにして形成された楔挿入空間に楔230を挿入し、対面側の楔230同士をボルト・ナットによって締め付けることにより、上部杭部材が下部杭部材に構造的に接合される。
【0041】
図13(A)及び(B)は、上記楔挿入空間に挿入される楔230の平面図及び斜視図である。実施例1及び実施例2と同様に、楔230は、平面視で継手装置Aの内面方向に向かって断面寸法が縮小するようにテーパーが形成されている。また、楔230には、楔230同士を締め付ける場合に、複数のボルトが継手装置Aの中心点付近で互いに干渉しないような位置に、ボルト挿通孔238が形成されている。
なお、このような継手装置Aの各構成要素は、厚板や中実鋼材を切削加工したり、精密鋳造によって製作される。
【0042】
本発明の第3実施例の継手装置Aは、上記のように構成したので、杭Bに作用する回転トルク、鉛直力、せん断力に対しては、実施例1で説明した記述の通りで、それぞれの断面形状に応じたせん断強さとして、主体的に抵抗する構造となっている。
しかしながら、曲げモーメントに対しては、主として複数の平面で噛合った係合部の曲げ強度で抵抗する。このときの曲げ強度は、係合部217及び227の最も断面積の小さな断面のせん断強さ、例えば、図12(B)の場合には断面D2のせん断強さによって設定される。なお、本実施例では、継手装置下部220aの係合部227と継手装置上部210aの係合部217とが複数の平面(階段状の平面)で係合されるため、実施例1に比べて大きな曲げ剛性が期待できる。
なお、継手装置上部210aの係合部217及び継手装置下部220aの係合部227に関しては、それらの正面視における部材幅がaからbに拡幅された部分229を形成する面が、水平面に対してある角度を有して互いに係合されるように形成される(係合部217及び227の拡幅部に嵌合用のテーパーを形成する)ことによって、継手装置上部210aを継手装置下部220aに係合しやすくなる。
また、それぞれの係合部217及び227の端面は、面取りしておくことが好ましい。
【0043】
以上、実施例3の継手装置Aに関し、主として実施例1と異なる構成について説明した。すなわち、継手装置Aの各々の係合部が非同一鉛直面で互いに係合されること、継手装置下部に対して継手装置上部が摺動自在になっているため、それらの係合が容易に行われること、楔挿入空間から楔を引き抜きことにより、継手装置上部と継手装置下部との係合を解除できること、杭Bに作用する回転トルク、鉛直力、せん断力、曲げモーメントに対しては、許容値を超える応力が発生しないよう配慮させていること、などについては、実施例1で説明した記述の通りである。
なお、本実施例では、継手装置Aの本体部分、すなわち継手装置上部210aの基部218及び継手装置下部220aの基部228を円環状に形成した例について説明したが、この部分を板状に形成すること(実施例2と複合した構成とすること)も可能である。
【0044】
実施例2の継手装置Aは、上記のように構成したので、実施例1での作用・効果に加えて、以下のような作用・効果を奏する。
・継手装置下部220aの係合部227と継手装置上部210aの係合部217とが複数の平面(階段状の平面)で係合されるため、実施例1に比べて大きな曲げ剛性が期待できる。
・継手装置下部220aの係合部227及び継手装置上部210aの係合部217の幅(図12に示すa及びb)、突出高さ(h)、部材厚(t)の組み合わせを適切に設定することにより、極めて大きな曲げ強度を期待することができる。
【実施例4】
【0045】
次に、本発明の実施例1の継手装置Aを用いた杭の施工法について、図8に基づき、その概要を説明する。なお、実施例2及び実施例3の継手装置Aを用いた場合も符号を読み替えることで、同様の作業が行われる。
まず、杭Bの最も先端の部材である下部杭部材20bを、杭打ち機60によって吊り込み、回転駆動装置61に接続された杭回転駆動キャップ62に、下部杭部材20bに取り付けた回転金具50を介して、係合させる(図8参照)。このとき、下部杭部材20bの上端部には、工場溶接によって、継手装置下部20aが接合された状態になっている。
【0046】
次いで、図9に示すように、杭打ち機60を所定位置に移動し、所定の杭芯位置に一致し、かつ、その鉛直性が確保されるよう、下部杭部材20bをセットする(図9の2番目)。そして、回転駆動装置61によって下部杭部材20bに時計回り方向の回転トルクを与え、下部杭部材20bを所定の深さまで地中に貫入させる(図9の3番目)。この場合、下部杭部材20bの先端部に取り付けられている螺旋翼により、下部杭部材20bを無排土の状態で地中に貫入させることができる。
【0047】
下部杭部材20bが所定の深さまで貫入した状態で、回転トルクの付加を中止し、下部杭部材20bと杭回転駆動キャップ62の係合を解除し、杭打ち機60で下部杭部材20bに接合すべき上部杭部材10bを吊り込む。上部杭部材10bの下端には、継手装置上部10aが工場溶接によって接合され、一方、上端には回転金具50が取り付けられている。
そこで、上部杭部材10bの回転金具50を杭回転駆動キャップ62に係合して、上部杭部材10bを接合すべき下部杭部材20bの上方にセットする(図9の4番目)。
【0048】
上部杭部材10bの継手装置上部10aが、下部杭部材20bの継手装置下部20aにソフトタッチするまで上部杭部材10bを下降させた後、継手装置上部10aの係合部17が、継手装置下部20aの係合部27とそれぞれの係合面11及び21が面一に噛合うよう、上部杭部材10bを摺動させる。それぞれの係合部17及び27が正規の位置で噛合ったことを確認し、楔挿入部13及び23に楔右部30a及び楔左部30bを挿入する。
そして、楔右部30a及び楔左部30bをボルト40及びナット45によって締め付ける。これによって、上部杭部材10bが下部杭部材20bに接合されたことになる。
次いで、回転駆動装置61により、上部杭部材10bに時計回り方向の回転トルクを与えて、所定の深さまで地中に貫入させる(図9の5番目)。
このような手順を繰り返し、所定杭長の杭Bを地中に設置することができる(図9の6番目)。
【実施例5】
【0049】
実施例4では、杭回転駆動キャップ62に、各杭部材の上部に取り付けた回転金具50を係合させることによって、各杭部材を杭打ち機60に保持させる方法を説明したが、本発明に係る継手装置Aの別の実施例として、継手装置上部10aと杭回転駆動キャップ62との共同作用により、各杭部材を杭打ち機60に保持させる方法を説明する。
本発明の継手装置Aにおける継手装置上部10aは、その外径を上部杭部材10bの外径と等しくなるよう構成されていることから、杭回転駆動キャップ62に容易に係合することができる。
そこで、杭Bの最上部の杭部材(杭頭部を形成する杭部材)を除く他の杭部材については、回転金具50を取り付けずに、杭回転駆動キャップ62に係合した継手装置上部10aを介して、回転駆動装置61からの回転トルクを継手装置下部20aに伝達することが可能となる。
【0050】
すなわち、杭Bの最上部の杭部材を除き、他の杭部材の上部には工場溶接で継手装置下部20aが接合されているので、回転駆動装置61からの回転トルクを
杭回転駆動キャップ62 → 継手装置上部10a → 上部杭部材10b → 継手装置下部20a → 下部杭部材20b
へと伝達させ、杭Bを地中に貫入させるものである。
ただし、杭Bの最上部の杭部材については、下部杭部材20bが接合されていないので、その上部に回転金具50を取り付け、杭回転駆動キャップ62から継手装置上部10aを取り外し、実施例1と同様な方法で回転トルクを伝達させる必要がある。
本発明の継手装置Aをこのように利用することにより、回転金具50の必要数量を低減することができるので、さらなるコストダウンが図られる。
また、下部杭部材20bに回転金具50を取り付ける必要がなくなったため、従来のように杭Bの周辺地盤を乱すことがなくなり、周面摩擦力の増加を期待することができる、という副次的な効果もある。
【実施例6】
【0051】
実施例4及び実施例5においては、円形の断面形状の杭を対象として本発明の実施状況を説明した。
しかしながら、本発明に係る継手装置Aについては、その平面形状をどのように形成することも可能である。例えば、本発明の継手装置Aの平面形状を矩形とすることにより、角型鋼管部材の継手として利用できる。
このように、環状の構造部材であれば、異なる形状や異なる外径・板厚の部材であっても、本発明の継手装置Aが適用可能となる。
また、構造部材の接続方向は、鉛直方向に限らず、水平方向や任意の方向にも対応できることから、構造物の柱・梁等の部材の継手装置としても、合理的かつ経済的なものを提供することができる。
【0052】
さらに、楔挿入部13及び23、楔30の形状についても、平行四辺形に限定されることなく、任意断面のテーパー状とすることができる。例えば、実施例1のように水平方向の幅が減少するようなテーパー形状ではなく、高さ方向のテーパーとしたり、三角錐台、四角錐台、円錐台などの錐体状に形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、既製杭の杭部材を接合するための継手装置として、とくに、鋼管杭の回転貫入工法に好適な継手装置として利用できるとともに、構造物の柱・梁等の構造部材の継手装置としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る継手装置Aの実施例1に係る正面図である。
【図2】同本発明の継手装置Aの実施例1に係る側面図である。
【図3】同本発明の継手装置Aの実施例1に係る背面図である。
【図4】同本発明の継手装置Aの実施例1に係る係合断面を示す図である。
【図5】同本発明の継手装置Aの実施例1に係る各構成要素を分解した分解斜視図である。
【図6】同本発明に係る継手装置Aにおける継手装置下部20aの一実施例を示す平面図(A)、側面図(B),(C)、一部拡大側面図(D)である。
【図7】同本発明の継手装置Aにおいて実施例1に係る、楔30の斜視図(A)、正面図(B)、平面図(C)、側面図(D)である。
【図8】本発明の継手装置の好適な実施例として、杭の施工法の概要を説明した図である。
【図9】図8において、杭の吊り込み状態から設置までの手順を順番に説明した図である。
【図10】本発明の継手装置Aにおいて実施例2に係る、継手装置下部120aを示す平面図(A)、斜視図(B)である。
【図11】本発明の継手装置Aにおいて実施例2に係る、楔130の平面図(A)、斜視図(B)である。
【図12】本発明の継手装置Aにおいて実施例3に係る、継手装置下部220aを示す平面図(A)、斜視図(B)である。
【図13】本発明の継手装置Aにおいて実施例3に係る、楔230の平面図(A)、斜視図(B)である。
【符号の説明】
【0055】
A 本発明の継手装置、
B 本発明の継手装置によって接合された杭、
C1 継手装置上部の係合部における水平方向せん断面、
C2 継手装置下部の係合部における水平方向せん断面、
D1 継手装置上部の係合部における鉛直方向せん断面、
D2 継手装置下部の係合部における鉛直方向せん断面、
10a、110a、210a 継手装置上部、
10b 上部杭部材、
11 継手装置上部の継手装置下部20aとの係合面、
12 継手装置上部の楔30との係合面、
13 正面視における楔挿入部、
14,114,214 継手装置上部の外周上部のテーパー部、
15 継手装置上部の内周面の厚肉部、
16 継手装置上部の上部杭部材との溶接部、
17、117,217 継手装置上部の係合部、
18、118,218 継手装置上部の基部、
20a、120a、220a 継手装置下部、
20b 下部杭部材、
21 継手装置下部の継手装置上部10aとの係合面、
22 継手装置下部の楔30との係合面、
23 背面視における楔挿入部、
24、124、224 継手装置下部の外周下部のテーパー部、
25 継手装置下部の内周面の厚肉部、
26 継手装置下部の下部杭部材との溶接部、
27,127,227 継手装置下部の係合部、
28,128,228 継手装置下部の基部、
30、130、230 楔、
30a 楔右部、
30b 楔左部、
31 楔上面、
32 楔下面、
33 楔右側面、
34 楔左側面、
35 楔外面、
36 楔内面、
38 楔のボルト挿通孔、
39 楔のナット係合部、
40 ボルト、
41 ボルト頭部、
42 ボルト軸部、
43 ボルトネジ部、
45 ナット、
50 回転金具、
60 杭打ち機、
61 回転駆動装置、
62 杭回転駆動キャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造部材下端に接合される継手装置上部と、
下部構造部材上端に接合される継手装置下部と、
挿入方向に断面が縮小するテーパーを有する楔と、
によって構成される継手装置であって、
前記継手装置上部は、その基部から下方に突出した係合部を有し、
前記継手装置下部は、その基部から上方に突出した係合部を有し、
これら係合部の一端は、互いに非同一鉛直面で係合されるとともに、
他端が前記楔を挿入可能な空間を形成し、
該空間に前記楔を挿入することによって、
前記上部構造部材と前記下部構造部材とを接合することを特徴とする継手装置。
【請求項2】
継手装置上部と継手装置下部の係合部が、正面視でその先端部分が基部に比べて幅広に形成され、鉛直面に対してある角度を有する面で互いに係合されることを特徴とする請求項1に記載の継手装置。
【請求項3】
継手装置上部と継手装置下部の係合部が、正面視でその先端部分が基部に比べて幅広となるような段差を有する形状に形成され、複数の平面で互いに係合されることを特徴とする請求項1に記載の継手装置。
【請求項4】
継手装置上部と継手装置下部の基部が、所定の厚さを有する板状部材として構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の継手装置。
【請求項5】
継手装置上部の外周上面には上部構造部材と接合するためのテーパーが形成され、
継手装置下部の外周下面には下部構造部材と接合するためのテーパーが形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の継手装置。
【請求項6】
楔は、同一形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の継手装置。
【請求項7】
楔にボルト挿通孔を形成し、
該ボルト挿通孔を貫通するボルトをナット締めすることによって、
前記楔の脱落を防止することを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−2560(P2006−2560A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138399(P2005−138399)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000181354)鹿島道路株式会社 (46)
【出願人】(592035154)株式会社田定工作所 (4)
【Fターム(参考)】