説明

綾織布地調シートの作成方法および装置

【課題】 コンピュータを用いて擬似的に、充分な深さを持ち、皺やよれのない、特に綾織りの布地調シートを自由なデザインで作成する。
【解決手段】 布領域のサイズ、基本糸幅、基本糸を構成する微細糸の幅等のパラメータを入力する(S11)。各画素について、どのブロックに属するかを特定する(S12)。各画素の特定されたブロック内における相対位置を算出する(S13)。その糸領域がどのような糸領域であるかを確認し(S14)、横糸領域である場合は変数を入れ替え(S15)、縦糸領域である場合は、糸方向の位置をずらす(S16、S17)ことにより、糸領域内における相対位置を算出する。さらに画素の高さを算出する(S18)。ステップS12〜S18の処理を全画素に対して行って布地立体形状を作成し、これを二値化または多値化した後、エッチングまたは彫刻を行ってエンボスシリンダを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地、特に綾織りの布地に近い表面状態を有するシートを、コンピュータを用いて擬似的に作成するための方法および、そのようなシートを作成するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、靴、かばん、財布等の多くの製品において、表面に本革または布の代わりに合成皮革が用いられている。この合成皮革の表面はポリウレタン樹脂で覆われており、このポリウレタン樹脂が革地調または布地調であることにより、合成皮革である製品の意匠性を高めている。このような布地調のポリウレタン樹脂は、布地調を有するシートの凹凸をポリウレタン樹脂に転写して、布地調を表現するための細かい凹凸を与えることにより作成される。布地調シートのような凹凸を有する画像層からポリウレタン樹脂に凹凸を与える手法の詳細については、特公昭62−41794号公報にも記載されている。この布地調ポリウレタン樹脂を作成する基になる布地調シートは、実際の布地をシリコン樹脂で型取りした後、その型を基に金属に形状を転写し、さらにエンボスシリンダに反復転写することにより作成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のような布地調シートの作成手法では、以下のような種々の問題がある。まず、布地の型を取る必要があるため、実際の布地を用意しなければならない。すなわち、実際にない布地を自由にデザインして作成することができない。また、実際の布地を用意できたとしても、それから布地柄を複写することになるため、原布地の作成者の知的財産権を侵害する可能性がある。また、布地に皺やよれがあると、それまでいっしょに複製されてしまう。また、転写を繰り返すため、最終的に出来上がる布地調の起伏が低減する。
【0004】
上記のような点に鑑み、本発明はコンピュータを用いて擬似的に、充分な深さを持ち、皺やよれのない布地調シート、特に産業上の用途が広い綾織りの布地調シートを自由なデザインで作成可能な綾織布地調シートの作成方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1、4に記載の発明では、布領域の大きさを示す画像サイズ、糸の幅および糸の高さに関するパラメータを入力し、前記布領域上の画素(x,y)について、当該画素が前記布領域上のどのブロックに属するかを求め、さらに当該ブロックにおける相対的な位置を求め、当該ブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、この判断に基づいて当該ブロックの相対的な位置を糸領域内の相対的な位置に変換し、この糸領域における相対的な位置を利用して当該画素の値h(x,y)を求め、布領域内の全画素に対して値h(x,y)を求めた結果得られる布地立体形状を複数の閾値で二値化することにより複数の二値データを得て、得られた複数の二値データに基づいて複数回刷版を行う段階を経て作成されたエンボスシリンダを用いて、エンボス加工を施したことを特徴とする。請求項1、4に記載の発明では、糸領域と複数の糸領域により構成される布領域という概念を用い、布領域上の各画素がどのブロックに属し、そのブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、その糸領域における相対的な位置を求め、この糸領域における相対的な位置に基づいて当該画素の値h(x,y)を算出し、このような処理を全画素に対して行った結果得られる布地立体形状を複数の閾値で二値化して、得られる複数の二値データによりシートの作成を行うようにしたので、擬似的に、皺やよれのない綾織布地調シートの作成が可能になる。
【0006】
請求項2、5に記載の発明では、布領域の大きさを示す画像サイズ、糸の幅および糸の高さに関するパラメータを入力し、前記布領域上の画素(x,y)について、当該画素が前記布領域上のどのブロックに属するかを求め、さらに当該ブロックにおける相対的な位置を求め、当該ブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、この判断に基づいて当該ブロックの相対的な位置を糸領域内の相対的な位置に変換し、この糸領域における相対的な位置を利用して当該画素の値h(x,y)を求め、布領域内の全画素に対して値h(x,y)を求めた結果得られる布地立体形状を前記高さ方向の値で所定の段階に多値化することにより多値データを得て、得られた多値データに基づいてシリンダに対して彫刻を行う段階を経て作成されたエンボスシリンダを用いて、エンボス加工を施したことを特徴とする。請求項2、5に記載の発明では、糸領域と複数の糸領域により構成される布領域という概念を用い、布領域上の各画素がどのブロックに属し、そのブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、その糸領域における相対的な位置を求め、この糸領域における相対的な位置に基づいて当該画素の値h(x,y)を算出し、このような処理を全画素に対して行った結果得られる布地立体形状を高さ方向の値で所定の段階に多値化して、得られる複数の多値データによりシートの作成を行うようにしたので、擬似的に、皺やよれのない綾織布地調シートの作成が可能になる。
【0007】
請求項3、6に記載の発明では、請求項1、2、4、5に記載の発明における画素の値h(x,y)の算出を、基本糸の高さを算出し、基本糸と微細糸のずれ角度を算出し、算出された角度に基づいて発生される微細糸の高さを算出し、算出された基本糸の高さと微細糸の高さの和を算出することにより行うようにしたことを特徴とする。請求項3、6に記載の発明では、画素の値h(x,y)の算出を、基本糸と微細糸という考え方を用い、さらに、基本糸と微細糸を糸領域毎に独立に所定の角度ずらすようにしたので、このずれのために、生成される布地調シート上の凹凸が乱反射を起こし易いように形成される。そのため、最終製品の凹凸も乱反射するようになり、見るものに新鮮な感覚を与えるものとなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、糸領域と複数の糸領域により構成される布領域という概念を用い、布領域上の各画素がどのブロックに属し、そのブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、その糸領域における相対的な位置を求め、この糸領域における相対的な位置に基づいて当該画素の値h(x,y)を算出し、このような処理を全画素に対して行った結果得られる布地立体形状を複数の閾値で二値化して、得られる複数の二値データにより多段エッチングを行うか、または、布地立体形状を高さ方向の値で所定の段階に多値化して、得られる多値データによりシリンダに対して彫刻を行うようにしたので、擬似的に、皺やよれのない綾織布地調を作成することができ、エッチング加工または彫刻加工したエンボスシリンダにより綾織布地調シートの作成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明により作成する綾織布地調を説明するための図である。
【図2】本発明の綾織布地調シートの作成方法の第1の実施形態のフローチャートである。
【図3】図2のステップS1の詳細を示すフローチャートである。
【図4】糸領域と各パラメータの関係を示す図である。
【図5】基本糸方向と微細糸方向の角度を異ならせた場合の糸領域と各パラメータの関係を示す図である。
【図6】微細糸角度算出処理のフローチャートである。
【図7】綾織布地調シート作成用データ生成装置の第1の実施形態の機能ブロック図である。
【図8】本発明の綾織布地調シートの作成方法の第2の実施形態のフローチャートである。
【図9】綾織布地調シート作成用データ生成装置の第2の実施形態の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、本実施形態により作成される布地調立体形状について説明する。本実施形態では、縦糸と横糸を縫い合わせることにより織られ、縦糸と横糸がほぼ2対1の割合で表れる「綾織り」と呼ばれる布地を表現する布地調立体形状を作成する。図1(b)に綾織りを簡略的に表現した状態を示す。図1(b)において、白い領域は縦糸領域、網掛けされた領域は横糸領域を示しており、縦糸、横糸共に本来は連続しているが、それぞれ絡み合っているため、縦糸領域では縦糸が見える状態、横糸領域では横糸が見える状態となっている。
【0011】
図1(b)では表現していないが、実際には、縦糸、横糸共にさらに細い繊維の束となっている。各糸領域は円柱状の繊維束が交互に織り込まれている状態で手前側が可視であるため、中央部分が最も盛り上がっており、四隅が低くなっている。
【0012】
(第1の実施形態)
次に、本発明による綾織布地調シートの作成方法の第1の実施形態について、図2のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS1において、布地立体形状の作成を行う。ここでは、図1(b)に示すような糸領域からなる布領域に対して、糸の盛り上がりを表現することにより、三次元空間に布地立体形状を作成する。次に、ステップS2において、作成された布地立体形状の布領域と平行な平面を閾値として糸の盛り上がりを二値化したデータを作成する。この二値データは複数の閾値を用いることにより複数作成される。続いて、ステップS3において、作成された複数の二値データを用いて多段エッチング、すなわち、複数回エッチングを行い複数の段を有するエンボスシリンダを作成する。さらに、ステップS4において、シートに対してエンボス加工を行うことにより布地調シートを得る。
【0013】
ここで、ステップS1の布地立体形状の作成について、図3のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS11において、パラメータの入力を行う。パラメータとしては、画像サイズwidth×height、基本糸幅ws、微細糸幅wd、基本糸高shs、微細糸高shd、基本糸丸み係数rv、rhを入力する。図1に示すように画像サイズwidth×heightは、布領域全体の大きさを示すものである。また、基本糸幅wsは、正方形状の各ブロックの一辺の長さを示すものである。ここで、布領域と各ブロックの関係を図1(a)に示す。図1(a)に示すように、初期状態では、布領域内に縦ws×横wsのブロックが敷き詰められた状態となる。この布領域内の各ブロックは後に、図1(b)に示すように縦糸領域と横糸領域に分類されることになる。本例では、縦糸領域は縦方向の連続する2ブロックで構成され、横糸領域は1ブロックで構成されるため、縦糸領域はws×2wsの縦長形状になり、横糸領域はws×wsの正方形状になる。微細糸幅wdは、糸を構成する細い繊維の幅を示すものである。ここで、この基本糸幅wsと微細糸幅wdの関係を図4に示す。図4(a)は縦糸領域、すなわち、図1(b)において白で表現された領域であり、図4(b)は横糸領域、すなわち、図1(b)において網掛けで表現された領域である。図4(a)の縦糸領域では、微細糸幅wdの繊維が複数本縦方向に走っており、図4(b)の横糸領域では、微細糸幅wdの繊維が複数本横方向に走っている。なお、本実施形態では微細糸幅は縦糸、横糸共に同一に設定してある。基本糸丸み係数rv、rhは、図4(d)に示すような基本糸の丸みの程度に関係するものであり、rv,rh≧1で設定される。
【0014】
基本糸高shs、微細糸高shdは各糸領域における糸の盛り上がり状態を表現するために設定されるパラメータである。糸領域を糸の長さ方向から見た場合、実際には、図4(c)に示すように繊維の断面形状である円が束ねられたような状態になっている。(ただし、ここでは、糸の高さの正の方向だけが必要なため、下側は平らにして表現してある。)しかし、本実施形態では、糸の全体的な高さと各繊維の高さによる凹凸が表現できれば良いため、図4(d)に示すように、基本糸高shs、微細糸高shdにより糸領域における高さを表現するものとする。
【0015】
続いて、設定されたパラメータに基づいて、布領域上の各画素について、その高さを算出していくが、まず、ステップS12において、ある画素が布領域上のどのブロックに含まれるかを求める。これは、以下の(数式1)により求めることができる。
【0016】
(数式1)
i=ceil(x/ws)
j=ceil(y/ws)
ただし、ceil(a)はa以上の整数の最小値
【0017】
この(数式1)により画素(x,y)がi行j列目のブロックに存在することが求まる。
【0018】
ある画素が存在するブロックが求まったら、ステップS13において、その画素のブロック内での相対座標値を求める。これは、以下の(数式2)により求めることができる。
【0019】
(数式2)
xr=(x−(i−1)×ws)/ws
yr=(y−(j−1)×ws)/ws
【0020】
この(数式2)により、ある画素(x,y)のi行j列目のブロックにおける相対座標値(xr,yr)が求まる。xr、yrは共に、0≦xr、yr≦1となる。
【0021】
続いて、ステップS14において、i行j列目のブロックが横糸領域か縦糸領域の上半分か下半分かの定義を行う。具体的には、i+jの値を3で割ったときの余りが0、1、2のいずれになるかにより定義を行う。余り=0の場合は、そのブロックは横糸領域と定義されるため、xrとyrの値を交換する(ステップS15)。これは、本実施形態では、基本的に縦糸領域を基準として高さが算出されるため、横糸領域の場合は90°回転する必要があるためである。余り=1の場合は、そのブロックは縦糸領域の上半分と定義されるため、yr=yr/2として、yrの値を半分にする(ステップS16)。これは、例えば、そのブロックにおいて上から0.4の位置(ブロック全体を1とする。)にあった場合、上下2つのブロックで構成される縦糸領域においては、上から0.2(縦糸領域全体を1とする。)の位置に相当することになるからである。余り=2の場合は、そのブロックは縦糸領域の下半分と定義されるため、yr=0.5+yr/2とする(ステップS17)。これは、例えば、そのブロックにおいて上から0.4の位置(ブロック全体を1とする。)にあった場合、上下2つのブロックで構成される縦糸領域においては、上から0.7(縦糸領域全体を1とする。)の位置に相当することになるからである。
【0022】
続いて、ステップS18において画素(x,y)、すなわち、i行j列目の糸領域内の相対座標値(xr,yr)の位置における高さを求める。このために、まず前処理として、以下の(数式3)に示すように、座標値の変換を行う。
【0023】
(数式3)
xrr=1.0−2.0×|xr−0.5|
yrr=1.0−2.0×|yr−0.5|
【0024】
(数式3)により得られる変数xrr,yrrは、基本糸による高さhs(xrr,yrr)を求めるために算出されるものである。基本糸による高さhsは、変数xr,yrにより求めることも可能であるが、変数xrr,yrrは、糸領域の中央部分で最大になるため、同じく糸領域の中央部分で最大になる基本糸による高さが求め易くなる。
【0025】
続いて、変数xrr,yrrおよび基本糸丸み係数rh,rvを用いて、基本糸による高さhsを以下の(数式4)により算出する。
【0026】
(数式4)
hs(xrr,yrr)=shs×xrr(1/rh)×yrr(1/rv)
【0027】
(数式4)は、図4(d)に示す基本糸の高さを算出するものであるため、糸領域内において、0→1→0と線形に変化する変数xrr,yrrを用いて算出される。基本糸丸み係数rh,rvは共に1以上の値を取るよう設定されるため、図4(d)に示すように糸領域内において高さが円弧状に変化する。
【0028】
また、変数xrを用いて、微細糸による高さhdを以下の(数式5)により算出する。
【0029】
(数式5)
hd(xr)=shd×|sin(xr×ws/wd×π)|
【0030】
(数式5)は、図4(d)に示す微細糸の高さを算出するためのものであるため、糸領域中における微細糸の本数ws/wdを考慮に入れたsin関数となる。例えば、図4に示すように微細糸が糸領域中に5本存在する場合は、0〜5πまでのsin関数となる。また、ここでは、微細糸の可視部だけを考慮するため、sin関数の周期性と対称性を利用して絶対値が取られている。
【0031】
糸領域における全体的な糸の高さhは、基本糸による高さhs、微細糸による高さhdを加えた以下の(数式6)により求められる。
【0032】
(数式6)
h(x,y)=hs(xrr,yrr)+hd(xr)
【0033】
以上のような、ステップS12〜ステップS18の処理を、布領域内の全ての画素(x,y)、すなわち、1≦x≦width、1≦y≦heightを満たす全ての画素(x,y)に対して行い、各画素(x,y)における高さh(x,y)を算出する。
【0034】
上記ステップS1についての説明では、図4(a)、(b)に示すように微細糸と基本糸が同一の方向を向いている場合について説明したが、図5に示すように微細糸と基本糸の角度を異ならせることも可能である。次に、このような場合について説明する。
【0035】
微細糸と基本糸の角度を異ならせる場合、各ブロックにおける微細糸角度θの算出は、図6のフローチャートに基づいて行われる。図6のフローチャートにおいては、布領域内の全ブロックについて微細糸角度の算出が行われる。まず、ステップS21において、ブロックが縦糸領域の下半分であるかどうかを判断する。具体的には、i+jの値を3で割ったときの余りが2であるかどうかにより判断を行う。余り=0または1の場合、ブロックは横糸領域か縦糸領域の上半分であるため、ステップS22において、0≦RND≦2πの範囲を取り得る乱数RNDを発生し、それをそのブロックの微細糸角度θとする。余り=2の場合は、ブロックは縦糸領域の下半分であるため、ステップS23において、すぐ上のブロックの微細糸角度をそのままこのブロックの微細糸角度とする。要するにステップS21からステップS23においては、ブロックが縦糸領域であっても横糸領域であっても乱数により微細糸角度を決定し、ブロックが縦糸領域の下半分である場合は、縦糸領域の上半分の微細糸角度と同一であるはずなので、同一の微細糸角度を割り当てるという処理を行っているのである。
【0036】
微細糸と基本糸の角度を異ならせる場合、図3のフローチャートに示したステップS18の高さの演算処理において、(数式5)、(数式6)のhd(xr)において、変数xrの代わりに以下の(数式7)で算出される変数xr′を用いる。
【0037】
(数式7)
xr′=xr×cosθ−yr×sinθ
【0038】
(数式7)において、θは図6のフローチャートにおいて算出される、各基本糸領域により異なる微細糸角度を示す。
【0039】
続いて、図2のフローチャートに戻って、ステップS2について説明する。ステップS1の処理において、布領域を画像サイズとし、各画素(x,y)における高さがh(x,y)の布地立体形状が作成されるので、ここでは、その高さ方向を閾値として布領域を画像サイズとする二値データを作成する。例えば、高さ方向をz軸としたとき、zの値を所定の間隔で取り、それぞれに対する二値データを作成する。さらにこの二値データは前記布領域を単位として繋ぎ合わせ処理を行うことにより、作成するエンボスシリンダの大きさまで拡大する。このとき、布領域の繋ぎ目が目立たなくなるように、繋ぎ目付近において画素値が滑らかに変化するエンドレス化処理を行うことが好ましい。このように所定の大きさの画像を繰り返し並べて繋ぎ合わせることにより拡大する繋ぎ合わせ処理、また、その繋ぎ目が目立たなくなるようにするエンドレス化処理については周知の技術であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0040】
ステップS3では、作成された二値データを用いてエッチング等の手法で刷版を行いエンボスシリンダを作成する。ここでは、ステップS2により得られた二値データ分だけ、エッチングを行うため、複数の段を有するエンボスシリンダが作成されることになる。
【0041】
ステップS4では、得られたエンボスシリンダによりシートに対してエンボス加工を行う。これにより綾織布地調のエンボスシートができあがる。
【0042】
ここで、第1の実施形態における綾織布地調シート作成用データ生成装置の装置構成について説明する。図7に綾織布地調シート作成用データ生成装置の機能ブロック図を示す。本装置は、パラメータ入力手段1、布地立体形状作成手段2、二値化手段3、多段エッチング手段4により構成され、布地立体形状作成手段2は、ブロック特定部5、ブロック内相対的位置算出部6、糸領域内相対的位置算出部7、画素高さ算出部8を有する。
【0043】
パラメータ入力手段1は、図3のステップS11で説明したようなパラメータを入力するためのものであり、現実にはキーボードやマウス等の入力機器により実現される。布地立体形状作成手段2は、図3のステップS12〜ステップS18の処理を行うものであり、布地立体形状作成手段2内のブロック特定部5、ブロック内相対的位置算出部6、糸領域内相対的位置算出部7、画素高さ算出部8は、それぞれ図3のステップS12、ステップS13、ステップS14〜S17、ステップS18の処理を行う機能を有する。布地立体形状作成手段2は、コンピュータにより実現され、ブロック特定部5、ブロック内相対的位置算出部6、糸領域内相対的位置算出部7、画素高さ算出部8は、それぞれコンピュータに専用のプログラムを搭載することにより実現される。二値化手段3は、図2のステップS2の処理を行うものであり、コンピュータに専用のプログラムを搭載することにより実現される。多段エッチング手段4は、図2のステップS3の処理を実行するものであり、通常のエッチング工程を見当を合わせながら複数回実行することで実現される。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、本発明の綾織布地調シートの作成方法の第2の実施形態について、図8のフローチャートを用いて説明する。図2のフローチャートと図8のフローチャートを比較するとわかるように、第2の実施形態は、第1の実施形態とステップS1、ステップS4は同一であり、ステップS2、ステップS3の代わりにステップS5、ステップS6の処理が行われている。そのため、ここでは、ステップS5とステップS6の処理についてのみ説明する。
【0045】
ステップS1により布地立体形状が作成されたら、ステップS5において、ステップS2と同様にzの値を複数定める。しかし、ここではzを閾値として用いるのではなく、複数のzの値を用いて布領域を画像サイズとする多値データを作成する。例えば、n個のzの値を用いて多値データを作成すると、0からnまでの値を有する多値データが得られる。
【0046】
続いて、ステップS6において、作成された多値データに基づいて、NC工作機械等の彫刻装置によりシリンダに対して彫刻を行い、複数の段を有するエンボスシリンダを作成する。
【0047】
ステップS4では、第1の実施形態と同様、得られたエンボスシリンダによりシートに対してエンボス加工を行う。
【0048】
次に、第2の実施形態における綾織布地調シート作成用データ生成装置の装置構成について説明する。図9に第2の実施形態の綾織布地調シート作成用データ生成装置の機能ブロック図を示す。本装置は、パラメータ入力手段1、布地立体形状作成手段2、多値化手段9、彫刻手段10により構成されている。この内、図7と同一の番号が付されたものは、第1の実施形態と同一の機能を有するものであるので説明は省略する。
【0049】
多値化手段9は、図8のステップS5の処理を行うものであり、コンピュータに専用のプログラムを搭載することにより実現される。彫刻手段10は、図8のステップS6の処理を実行するものであり、市販のNC工作機械等の彫刻装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1・・・パラメータ入力手段
2・・・布地立体形状作成手段
3・・・二値化手段
4・・・多段エッチング手段
5・・・ブロック特定部
6・・・ブロック内相対的位置算出部
7・・・糸領域内相対的位置算出部
8・・・画素高さ算出部
9・・・多値化手段
10・・・彫刻手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦糸、横糸により綾織りされた布地を表現した綾織布地調シートの作成方法であって、布領域の大きさを示す画像サイズ、糸の幅および糸の高さに関するパラメータを入力する段階と、前記布領域上の画素(x,y)について、当該画素が前記布領域上のどのブロックに属するかを求め、さらに当該ブロックにおける相対的な位置を求め、当該ブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、この判断に基づいて当該ブロックの相対的な位置を糸領域内の相対的な位置に変換し、この糸領域における相対的な位置を利用して当該画素の値h(x,y)を求める段階と、布領域内の全画素に対して値h(x,y)を求めた結果得られる布地立体形状を複数の閾値で二値化することにより複数の二値データを得る段階と、得られた複数の二値データに基づいて複数回刷版を行う段階を経て作成されたエンボスシリンダを用いて、エンボス加工を施したことを特徴とする綾織布地調シートの作成方法。
【請求項2】
縦糸、横糸により綾織りされた布地を表現した綾織布地調シートの作成方法であって、布領域の大きさを示す画像サイズ、糸の幅および糸の高さに関するパラメータを入力する段階と、前記布領域上の画素(x,y)について、当該画素が前記布領域上のどのブロックに属するかを求め、さらに当該ブロックにおける相対的な位置を求め、当該ブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、この判断に基づいて当該ブロックの相対的な位置を糸領域内の相対的な位置に変換し、この糸領域における相対的な位置を利用して当該画素の値h(x,y)を求める段階と、布領域内の全画素に対して値h(x,y)を求めた結果得られる布地立体形状を前記高さ方向の値で所定の段階に多値化することにより多値データを得る段階と、得られた多値データに基づいてシリンダに対して彫刻を行う段階を経て作成されたエンボスシリンダを用いて、エンボス加工を施したことを特徴とする綾織布地調シートの作成方法。
【請求項3】
前記画素の値h(x,y)を求める段階は、基本糸の高さと微細糸の高さの和により求められるものであり、前記基本糸と前記微細糸の方向は所定の角度だけずれたものとなっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の綾織布地調シートの作成方法。
【請求項4】
布領域の大きさを示す画像サイズ、糸の幅および糸の高さに関するパラメータを入力する入力手段と、前記布領域上の画素(x,y)について、当該画素が前記布領域上のどのブロックに属するかを求める機能と、当該画素の当該ブロックにおける相対的な位置を求める機能と、当該ブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、この判断に基づいて当該ブロックの相対的な位置を糸領域内の相対的な位置に変換する機能と、この糸領域における相対的な位置を利用して当該画素の値h(x,y)を求める機能を有し、布領域内の全画素に対して値h(x,y)を有する布地立体形状を作成する布地立体形状作成手段と、前記布地立体形状を複数の閾値で二値化することにより複数の二値データを得る二値化手段と、得られた複数の二値データに基づいて複数回刷版を行う多段刷版手段を経て作成されたエンボスシリンダを用いて、エンボス加工を施したことを特徴とする綾織布地調シート作成装置。
【請求項5】
布領域の大きさを示す画像サイズ、糸の幅および糸の高さに関するパラメータを入力する入力手段と、前記布領域上の画素(x,y)について、当該画素が前記布領域上のどのブロックに属するかを求める機能と、当該画素の当該ブロックにおける相対的な位置を求める機能と、当該ブロックが縦糸領域であるか横糸領域であるかを判断し、この判断に基づいて当該ブロックの相対的な位置を糸領域内の相対的な位置に変換する機能と、この糸領域における相対的な位置を利用して当該画素の値h(x,y)を求める機能を有し、布領域内の全画素に対して値h(x,y)を有する布地立体形状を作成する布地立体形状作成手段と、前記布地立体形状を前記高さ方向の値で所定の段階に多値化することにより多値データを得る多値化手段と、得られた多値データに基づいてシリンダに対して彫刻を行う彫刻手段を経て作成されたエンボスシリンダを用いて、エンボス加工を施したことを特徴とする綾織布地調シート作成装置。
【請求項6】
前記布地立体形状作成手段における画素の値h(x,y)を求める機能は、基本糸の高さを算出する機能と、基本糸と微細糸のずれ角度を算出する機能と、算出された角度に基づいて微細糸の高さを算出する機能と、前記算出された基本糸の高さと前記算出された微細糸の高さの和を算出する機能を有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の綾織布地調シート作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−73452(P2011−73452A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268011(P2010−268011)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【分割の表示】特願平11−372227の分割
【原出願日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】