説明

綿状体および綿状体の製造方法

【課題】繊維径が小さく且つ平均見掛け密度の大きなチタニア繊維からなる綿状体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質を含む溶液を作製し、前記溶液に高電圧を印加させ、前記溶液を噴出させ、前記噴出された溶液から溶媒を蒸発させ繊維構造体を形成させた後、前記形成された繊維構造体の電荷を消失させて繊維構造体を累積させ、前記累積された繊維構造体を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタニア繊維からなる綿状体、およびその製造方法に関する。更に詳しくは本発明は、光触媒フィルターや半導体材料として有用なチタニア繊維からなる綿状体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック繊維は、電気絶縁性、低熱伝導性、高弾性などの性質を活かして、電気絶縁材、断熱材、フィラー、フィルターなど様々な分野で用いられる有用な材用である。通常のセラミック繊維は、溶融法、スピンドル法、ブローイング法などによって作製されており、その繊維径は数μmのものが一般である(例えば、特許文献1参照。)。また、特にフィラーやフィルターの分野において、マトリックス材料との接着面積の増大や、フィルター効率の向上のために、より細い繊維が求められるようになってきている。
【0003】
一方、有機高分子からなる材料を中心として、従来の繊維よりも細い繊維を作製する方法としてエレクトロスピニング法が知られている。エレクトロスピニング法は、有機高分子などの繊維形成性の溶質を溶解させた溶液に高電圧を印加させることにより、溶液を電極に向かって噴出させ、噴出によって溶媒が蒸発し、簡便に極細の繊維構造体を得ることのできる方法である(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、エレクトロスピニング法でチタニア繊維を作製する方法は知られている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。しかし、これらの方法では、作製されるチタニア繊維はシート状の密な構造を形成する。そのため、圧力損失が大きくフィルターへの応用が困難であると考えられる。また、これらの方法では、チタニア原料化合物の0.1〜0.5倍量の有機高分子を添加する必要があることから、得られたチタニア繊維は多孔構造な構造をとる。多孔構造であると、チタニア繊維は力学強度が低くなり、強度を必要とする用途には用いることが困難であると思われる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−105658号公報
【特許文献2】特開2002−249966号公報
【非特許文献1】ダン・リーら((Dan Li、Younan Xia)著、「ダイレクトファブリケーション オブ コンポジット アンド セラミックホローナノファイバーズ バイ エレクトロスピニング(Direct Fabrication of Composite and Ceramic Hollow Nanofibers by Electrospinning)、ナノレターズ(Nano Letters)、(米国)、(ジ アメリカンケミカルソサエティ)The American Chemical society、2004年5月、第4巻、第5号、P933〜938
【非特許文献2】ミ・ヨン・ソンら(Mi Yeon Song、Do Kyun Kim、Kyo Jin Ihn、Seong Mu Jo、Dong Young Kim)著、「エレクトロスパンチタニムジオキサイドエレクトロードフォーダイセンシタイズドソーラーセルズ(Electrospun TiO2 electrodes for dye−sensitized solar cells)」、ナノテクノロジー(Nanotechnology)、(米国)、インスティテュートオブフィジックス(Institute Of Physics)、2004年12月、第15巻、12号、P1861〜1865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術では達成されていなかった、繊維径が小さく且つ平均見掛け密度の大きなチタニア繊維からなる綿状体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の目的は、
平均繊維径が50〜1000nmであり、平均見かけ密度が10〜100kg/mであるチタニア繊維からなる綿状体によって達成することができる。
【0008】
更に、本発明の他の目的は、
チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水および繊維形成性の溶質を含む溶液を作製する段階と、前記溶液に高電圧を印加させる段階と、前記溶液を噴出させる段階と、前記噴出された溶液から溶媒を蒸発させ繊維構造体を形成させる段階と、前記形成された繊維構造体の電荷を消失させる段階と、前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる段階と、前記累積された繊維構造体を焼成する段階を含む、綿状体の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の綿状体は、チタニア繊維からなり、繊維の平均繊維径が小さく、平均見かけ密度が10〜100kg/mと小さいことから、光触媒フィルターや半導体材料として有効な綿状体である。
【0010】
また、得られる綿状体は編み込むなどの加工を施すことで様々な構造体を形成することも出来るし、また取り扱い性やその他の要求事項に合わせて本発明以外のチタニア繊維と組み合わせて用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の綿状体は、チタニア繊維からなり、平均繊維径が50〜1000nmであり、平均見かけ密度が10〜100kg/mである。
【0012】
ここで、チタニア繊維とは、酸化チタンを主成分とする酸化物系セラミックスからなる繊維構造体のことを指し、副成分として、Al、SiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nb、Erなどの酸化物系セラミックスを含むものも挙げられる。
【0013】
酸化チタン以外の酸化物系セラミックスの存在比としては、チタニア繊維の重量に対して5重量%以下であることがチタニア繊維の結晶性の点から好ましく、より好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下である。
【0014】
次に、チタニア繊維の結晶形について説明する。酸化チタンの結晶形には、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型が存在するが、本発明のチタニア繊維は主にアナターゼ型から構成される。アナターゼ型以外の結晶形が存在すると、チタニア繊維の強度が低下することや、チタニア繊維の光触媒活性が低下することから好ましくない。好ましくは、チタニア繊維のX線回折像にアナターゼ型以外の回折像が確認されないことが好ましい。
【0015】
次に、平均繊維径が50〜1000nmであることを説明する。本発明のチタニア繊維の平均繊維径が1000nmを越えると、チタニア繊維の柔軟性が乏しくなることから好ましくない。一方で、50nm未満であると、取扱いに充分な強度を得ることが困難であり好ましくない。より好ましくは、100〜500nmの範囲にあることである。
【0016】
また、本発明の綿状体を構成するチタニア繊維の表面は平滑な構造であることが好ましい。なお、表面が多孔な構造であると強度が低下し脆い構造となる。そのため、BET比表面積が0.1〜10m2/gと小さいことが好ましい。より好ましくは0.1〜5m2/gであり、更に好ましくは、0.1〜1m2/gであり、更に好ましくは、0.1〜0.5m2/gである。
【0017】
次に、平均見かけ密度が10〜100kg/mであることについて説明する。ここで平均見かけ密度とは、作製した綿状体の面積、平均厚、質量から割り出した密度を意味する。平均見かけ密度が100kg/mを越えると、密な構造をとっていることを示しており、フィルターなどに利用する場合などに、圧力損失が大きくなってしまうことから好ましくない。一方、平均見掛け密度が10kg/m未満であると、取扱いに充分な強度を得ることが困難であり好ましくない。より好ましくは、平均見かけ密度が10〜80kg/mである。
【0018】
また、本発明のチタニア繊維の結晶子サイズは15〜50nmであることが好ましい。本発明のチタニア繊維の結晶子サイズが15nmより小さいと、格子欠陥の多い結晶性の低いものであることを示しており、格子欠陥が多く含まれると電子と正孔の再結合が多く起こるため、光触媒活性の点から好ましくない。より好ましくは、結晶子サイズは20〜50nmである。
【0019】
次に、本発明の綿状体を製造するための態様について説明する。
本発明の綿状体を製造するには、前述の要件を同時に満足するような綿状体が得られる手法であればいずれも採用することができるが、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質を含む溶液を作製する段階と、前記溶液に高電圧を印加させる段階と、前記溶液を噴出させる段階と、前記噴出された溶液から溶媒を蒸発させ繊維構造体を形成させる段階と、前記形成された繊維構造体の電荷を消失させる段階と、前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる段階と、前記累積された繊維構造体を焼成する段階を含む、綿状体の製造方法が好ましい一態様として挙げることができる。
【0020】
まず、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質を含む溶液を作製する段階について説明する。
ここで用いるチタン酸アルキルには、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシドなどが挙げられるが、入手のしやすさより、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシドが好ましい。
【0021】
次に、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物について説明する。チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物には、カルボン酸類、アミド類、エステル類、ケトン類、ホスフィン類、エーテル類、アルコール類、チオール類などの配位性の化合物が挙げられる。
【0022】
本発明では、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルの混合物と水を反応させる必要があることから、常温で水との反応性を示さない程に強固な錯体を形成する化合物は好ましくない。そのため、カルボン酸類が好ましく、より好ましくは脂肪族カルボン酸であり、更に好ましくは酢酸である。
【0023】
チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物の添加量としては、本発明のチタニア繊維を作製するための溶液が作製される量であれば特に限定されないが、チタン酸アルキルに対して5等量以上であることが好ましく、より好ましくは7〜10等量である。
【0024】
本発明では、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルの混合物と水が反応することで生成するゲルを解離させることにより透明な溶液を作製する。
水を添加する際に、水の濃度が局所的に高くなることは、解離困難なゲルの生成が起こる可能性があるため好ましくない。そのため撹拌した溶液中に水を徐々に添加することが好ましい。生成したゲルを解離させる段階については、更に撹拌を続けることによってゲルを解離させることができる。ゲルを解離させることによって透明な溶液を調製することができる。
【0025】
水を添加する量としては、本発明のチタニア繊維を作製するための溶液が作製される量であれば特に限定されないが、チタン酸アルキルの重量に対して0.5〜3倍量であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5倍量である。
【0026】
次に、繊維形成性の溶質について説明する。本発明のチタニア繊維を作製するには、溶液に曳糸を持たせるために繊維形成性の溶質を溶解させる必要がある。繊維形成性の溶質としては、本発明のチタニア繊維が作製されれば特に限定されないが、取り扱いの点や焼成によって除去される必要があることから有機高分子が好ましい。
【0027】
例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4′―オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、並びにこれらの共重合体などが挙げられる。中でも水に対する溶解性の点から、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉が好ましく。ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0028】
有機高分子の分子量も、本発明のチタニア繊維が作製されれば特に限定されないが、分子量が低い場合は、有機高分子の添加量が大きくなり、焼成によって発生する気体が多くなることから、チタニア繊維の構造に欠陥が発生する可能性が高くなり好ましくない。好ましい分子量は、ポリエチレングリコールの場合、100,000〜8,000,000の範囲であり、より好ましくは、100,000〜600,000である。
【0029】
次に、繊維形成性の溶質の添加量としては、繊維の形成される濃度範囲で可能な限り少ないことがチタニア繊維の緻密性向上の点から好ましいが、0.01〜3重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜2重量%である。
【0030】
次に、本発明のチタニア繊維を作製するための溶液に用いる溶媒について説明する。本発明では、水を溶媒として用いるが、溶液の安定性向上の点や、紡糸の安定性の向上から、溶液に水以外の溶媒、例えばアルコールなどを添加することも可能であるし、塩化アンモニウムなどの塩の添加も可能である。
【0031】
なお、本発明の製造方法においては、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質を含む溶液であればよいが、特に、溶液の安定性、紡糸の安定性の観点から、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質から実質的になる溶液であることが好ましく、紡糸の安定性の観点から特に、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質から成る溶液であることが好ましい。
【0032】
次に、溶液に高電圧を印加させる段階と、前記溶液を噴出させる段階と、前記噴出された溶液から溶媒を蒸発させ繊維構造体を形成させる段階について説明する。また、以降、溶液に高電圧を印加させる段階と、前記溶液を噴出させる段階と、前記噴出された溶液から溶媒を蒸発させ繊維構造体を形成させる段階について「静電紡糸法」と呼ぶ。
【0033】
静電紡糸法とは繊維形成性の基質を溶解させた溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板上に累積することによって繊維構造体を得る方法であって、繊維状物質とは、繊維形成性の基質を溶解させた溶媒が留去して繊維積層体となっている状態のみならず、前記溶媒が繊維状物質に含まれている状態も示している。
【0034】
また、通常の静電紡糸は室温(20℃±20℃)で行われるが、溶媒の揮発が不十分な場合など、必要に応じて紡糸雰囲気の温度を制御したり、捕集基板の温度を制御したりすることも可能である。
【0035】
次いで、静電紡糸法で用いる装置について説明する。
前述の電極は、金属、無機物、または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば用いることができ、また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物の薄膜を持つものであっても良い。
【0036】
また、静電場は一対又は複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは、例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3つを越える数の電極を使う場合も含むものとする。
【0037】
次に、形成された繊維構造体の電荷を消失させる段階について説明する。前記繊維構造体の電荷を消失させる方法は、前記繊維構造体の電荷を消失させる方法であれば特に限定を受けないが、好ましい方法として、イオナイザーにより電荷を消失させる方法が挙げられる。イオナイザーとは内蔵のイオン発生装置によりイオンを発生させ、前記イオンを帯電物に放出させることにより前記帯電物の電荷を消失させうる装置である。本発明で用いられるイオナイザーを構成する好ましいイオン発生装置として、内蔵の放電針に高電圧を印加させることによりイオンを発生する装置が挙げられる。
【0038】
次に前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる段階について説明する。前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる方法は、前記繊維構造体が累積される方法であれば特に限定を受けないが、通常の方法として、電荷消失により繊維構造体の静電力を失わせ、自重により落下、累積させる方法が挙げられる。また必要に応じて、静電力を消失させた繊維構造体を吸引しメッシュ上に累積させる方法、装置内の空気を対流させメッシュ上に累積させる方法などを行ってもよい。
【0039】
次に、前記累積された繊維構造体を焼成する段階について説明する。本発明の綿状体を作製するには、紡糸によって作製された繊維構造体を焼成する必要がある。焼成には、一般的な電気炉を用いることができるが、必要に応じて炉内の気体を置換可能な電気炉を用いてもよい。また、焼成温度は、十分なアナターゼ型の結晶成長とルチル型の結晶転位を抑制するために、300〜900℃で焼成することが好ましい。より好ましくは500〜800℃である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等限定を受けるものではない。また以下の各実施例、比較例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
【0041】
平均繊維径:
得られた綿状体の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)により撮影(倍率2000倍)して得た写真図から無作為に20箇所を選んで綿状体を構成するチタニア繊維の径を測定し、すべての繊維径(n=20)の平均値を求めて、平均繊維径とした。
【0042】
X線回折図形の測定:
得られた綿状体を、X線回折装置(株式会社リガク社製)を使用し、X線源にCuのKα線を用い、多層膜コンフォーカルミラーにより単色化してX線回折図形を得た。
【0043】
面積の測定:
0.1mm角の方眼紙上に綿状体を置き、綿状体の輪郭を写し取り、輪郭線内の升数を数える事により算出した。
【0044】
平均厚:
高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ:商品名「ライトマチックVL−50」)を用いて測長力0.01Nによりn=10にて綿状体の膜厚を測定した平均値を算出した。なお本測定においては測定機器が使用可能な最小の測定力で測定を行った。
【0045】
平均見かけ密度:
綿状体の質量を測定し、上記方法により求めた面積、平均厚をもとに平均見かけ密度を算出した。
【0046】
[実施例1]
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3重量部を添加し均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水1重量部を撹拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは、更に撹拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調製することが出来た。
【0047】
調製した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.0165重量部混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、繊維構造体を累積させた。噴出ノズル1の内径は0.2mm、電圧は15kV、噴出ノズル1からイオナイザー6までの距離は15cm、噴出ノズル1と電極4までの距離が20cmであった。得られた繊維構造体を空気雰囲気下で電気炉を用いて600℃まで10時間で昇温し、その後600℃で2時間保持することにより綿状体を作製した。得られた綿状体を電子顕微鏡で観察したところ、繊維径は270nmであり、平均見かけ密度は40kg/mであった。また、得られた綿状体のX線回折結果では、2θ=25.3°に鋭いピークが認められたことから、アナターゼ型結晶が形成されている事が確認された。得られた綿状体の表面の走査型電子顕微鏡写真を図2に、X線回折図形を図4に示す。
【0048】
[比較例1]
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3重量部を添加し均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水1重量部を撹拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは、更に撹拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調製することが出来た。
【0049】
調製した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.0165重量部混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、イオナイザー6の電源を落とした状態で紡糸を行ったところ、電極4上に繊維構造体が累積された。噴出ノズル1の内径は0.2mm、電圧は15kV、噴出ノズル1と電極4までの距離が20cmであった。得られた繊維構造体を空気雰囲気下で電気炉を用いて600℃まで10時間で昇温し、その後600℃で2時間保持することにより繊維集合体を作製した。得られた繊維集合体を電子顕微鏡で観察したところ、得られた繊維集合体を構成する繊維構造体の表面構造と、実施例1の綿状体を構成する繊維構造体の表面構造に大きな差は観られなかった。繊維径は300nmであり、平均見かけ密度は160kg/mであった。また、得られた綿状体のX線回折結果では、2θ=25.3°に鋭いピークが認められたことから、アナターゼ型結晶が形成されている事が確認された。得られた綿状体の表面の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の綿状体を製造するための製造装置を模式的に示した図である。
【図2】実施例1の操作で得られた綿状体の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図3】比較例1の操作で得られた綿状体の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図4】実施例1の操作で得られた綿状体のX線回折図形である。
【符号の説明】
【0051】
1 溶液噴出ノズル
2 溶液
3 溶液保持槽
4 電極
5 高電圧発生器
6 イオナイザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が50〜1000nmであり、平均見かけ密度が10〜100kg/mであるチタニア繊維からなる綿状体。
【請求項2】
チタニア繊維がアナターゼ型結晶からなる、請求項1記載の綿状体。
【請求項3】
チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物、水及び繊維形成性の溶質を含む溶液を作製する段階と、前記溶液に高電圧を印加させる段階と、前記溶液を噴出させる段階と、前記噴出された溶液から溶媒を蒸発させ繊維構造体を形成させる段階と、前記形成された繊維構造体の電荷を消失させる段階と、前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる段階と、前記累積された繊維構造体を焼成する段階を含む、綿状体の製造方法。
【請求項4】
前記噴出された溶液の電荷を消失させる段階が帯電風による電荷の消失である、請求項3記載の綿状体の製造方法。
【請求項5】
前記溶液を作製する段階が、チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物とチタン酸アルキルとの混合物と水とが反応することで生成するゲルを解離させることにより溶液を作製する段階である、請求項3記載の綿状体の製造方法。
【請求項6】
繊維形成性の溶質が有機高分子である、請求項3記載の綿状体の製造方法。
【請求項7】
有機高分子がポリエチレングリコールである、請求項6記載の綿状体の製造方法。
【請求項8】
チタン酸アルキルとの錯体を形成する化合物がカルボン酸類である、請求項3記載の綿状体の製造方法。
【請求項9】
カルボン酸類が酢酸である、請求項8記載の綿状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−217826(P2007−217826A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39488(P2006−39488)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】