説明

緊張材の緊張力解放装置及びその緊張力解放装置を用いた緊張材の緊張力解放工法。

【課題】緊張材の構成によらず確実にくさびとくさび受具との楔結合を解除することができる緊張材の緊張力解放装置及び緊張材の緊張力解放工法を提供する。
【解決手段】 緊張材3に緊張力を導入する緊張力導入装置1の反力を負担するくさび受具8と、緊張材3が挿通し、緊張材3と一体化した状態でくさび受具8に係合するくさび9と、緊張材3が緊張力導入装置1に引っ張られてくさび受具8から離れる向きへ移動したときに、くさび9からの緊張力を負担し、くさび9のくさび受具8に近づく向きへの移動を阻止する反力負担部材6Aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートや鉄筋コンクリート等の構造体の内外に配置された緊張材に導入された緊張力を解放させる目的で使用される緊張材の緊張力解放装置及びにその緊張力解放装置を用いた緊張材の緊張力解放工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、橋桁を一定区間単位で構築しながら架設する工法(張り出し架設工法)において、橋桁が1体の橋脚に支持される際の床板等の変位や変形を防止するために、橋桁の内外に設置された緊張材に一時的にプレストレス(緊張力)を導入して緊張材を構造体に定着させることがあるが、橋桁の完成時にはこのプレストレスは無用になるため、解放されなければならない。
【0003】
橋桁の完成時に緊張材の緊張力を解放するために、例えば、支圧板部とチェック部を構成するスリーブ(くさび受具)との間に介在されたシム部材を有し、支圧板部にはスリーブに対向する凸部(例えば筒状部材)が設けられている緊張力解放装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この緊張力解放装置を利用してPC鋼線の緊張力を解放するには、PC鋼線に緊張力を付与することでスリーブに係合してPC鋼線を掴持しているウェッジ(くさび)をスリーブと一体化した状態で浮上させている際に、シム部材を除去し、緊張力を緩めて一体化したくさびとくさび受具(チェック部)を構造物側へ移動させることで支圧板部の凸部にウェッジのみを当接させて、ウェッジとスリーブの係合を解除する。
【0005】
【特許文献1】特開2005−60935号公報(段落0027〜0028、図1、図6〜図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1ではPC鋼線は1本で構成されているが、PC鋼線は複数本で構成されることもあり、PC鋼線の本数は近年増加傾向にある。また、一般的にスリーブは厚く構成されており、体積や重さに関してチャック部の中で大きな割合を占めている。したがって、PC鋼線が多くなるとスリーブが大きくなるので、チャック部の重さも増大する。
【0007】
PC鋼線は地表面に対して様々な角度で設置されるが、PC鋼線が地表面に直交して設置される場合を除いて、PC鋼線はチャック部に懸垂される形となってチャック部から鉛直下向きに力を受ける。したがって、ウェッジの底面を凸部に当接させるために緊張力の緩められたPC鋼線はチャック部によって撓み、PC鋼線の軸線方向が変化する。この結果、構造体に定着している支圧板部に設けられている凸部の方向と、PC鋼線の軸線方向とが一致しなくなるので、緊張材を緩めても凸部がウェッジの底面に適切に当接しない場合がある。
【0008】
また、PC鋼線の緊張力を緩める前に、例えば最初にウェッジがスリーブに設置される際に、ウェッジとスリーブが強固に楔結合していると、ウェッジが凸部に当接してもウェッジとスリーブとの楔結合が解除されない場合がある。このように、特許文献1に記載の発明では、ウェッジとスリーブとの楔結合が確実に解除されない。
【0009】
本発明の目的は斯かる課題に鑑みてなされたもので、緊張材の構成によらず確実にくさびとくさび受具との楔結合を解除することができる緊張材の緊張力解放装置及び緊張材の緊張力解放工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る緊張材の緊張力解放装置は、緊張材に緊張力を導入する緊張力導入装置の反力を負担するくさび受具と、前記緊張材が挿通し、前記緊張材と一体化した状態で前記くさび受具に係合するくさびと、前記緊張材が前記緊張力導入装置に引っ張られて前記くさび受具から離れる向きへ移動したときに、前記くさびからの緊張力を負担し、前記くさびの前記くさび受具に近づく向きへの移動を阻止する反力負担部材と
を有することを特徴とする。
緊張材が緊張力導入装置に引っ張られる前から緊張材に緊張力が導入されていると、緊張材は既に延びているが、緊張材が緊張力導入装置に引っ張られると、緊張材は更に延びる。また、くさび受具は緊張力導入装置に付与される反力を負担し、その反力は構造体が付与するするので、緊張力導入装置によって緊張力が緊張材に導入されている際には、くさび受具は構造体に対して固定している。
したがって、緊張材が緊張力導入装置によって引っ張られると、緊張材が緊張力導入装置の方へ延びると共に、くさびがくさび受具から遠ざかる向きへ移動して、すなわち、くさび受具から離れて、くさびとくさび受具との係合が確実に解除される。
緊張材が緊張力導入装置に引っ張られることによって、くさびとくさび受具との係合が解かれるので、係合を解かれたくさびが反力負担部材によってくさび受具に近づく向きへの移動が阻止されると、くさびとくさび受具との係合の解除は維持される。
くさびのくさび受具に近づく向きへの移動が阻止された状態が維持されたまま、緊張材の延びが戻されると、緊張材の緊張力は解放される。ここで、反力負担部材はくさびのくさび受具に近づく向きへ移動を阻止するためにくさびに付与される反力を負担するが、反力の向きは緊張材の軸線方向に対してくさびがくさび受具から遠ざかる向き(構造体からくさび受具へ進む向き)である。
前記緊張材を定着させる定着具に被せた状態で前記構造体と前記緊張力導入装置との間設置され、前記緊張力導入装置を支持することもある(請求項2)。すなわち、緊張力解放装置が緊張力解放用チェアとして適用される場合がある。この場合、緊張力解放装置は1つの緊張力導入装置に対して1つ使用される。
また、本発明はこのように緊張力解放用チェアとして適用される他、定着具として適用される場合もある。定着具は一般的には構造体に多数設置され、複数の定着具に対して1つの緊張力導入装置が利用される。したがって、緊張力解放装置が緊張力解放用チェアとして適用される場合、定着具として適用される場合に比して使用される緊張力解放装置の個数が少なく、経済性が高い。
さらに、緊張力解放装置が定着具として適用された場合、緊張力解放装置は養生されなければその使用期間中ずっと外部に露呈されるので、錆びによる劣化によって機能が低下し、又は使用できなくなる蓋然性が高くなる。仮に、キャップ等によって緊張力導入装置を養生すれば、コストが高くなる。
これに対して、緊張力解放装置が緊張力解放用チェアとして適用された場合、緊張力解放装置は緊張力導入装置と共に緊張力解放作業時にのみ使用されるので、通常の管理を行っていれば錆びることはない。
前記反力負担部材は前記くさび受具に対して前記緊張材の軸線方向に配置されていることもある(請求項3)。くさびは緊張材が挿通しているので緊張材の軸線方向に配置され、反力負担部材と同一線上に位置する。したがって、くさびは反力負担部材から緊張材の軸線方向に対してくさび受具から遠ざかる向きに力を受けてくさび受具に近づく向きへの移動が阻止される。この結果、緊張材が複数本の線材で構成され、線材が例えば格子状に配置されても、内側に配置されている線材も確実にくさび受具との係合が解除される。
前記反力負担部材を支持する支持部材を有することもある(請求項4)。この場合、反力負担部材を支持するために、所定の道具(例えば小型ジャッキ等)を使用する必要がないので、施工費用が削減される。
前記反力負担部材が前記くさび受具に対して前記緊張材の軸線方向に摺動可能に配置され、緊張力が導入されている前記緊張材が挿通している前記くさびを前記くさび受具に近づく向きへ移動させ、前記くさびを前記くさび受具に係合させるように誘導する係合誘導部材を有する(請求項5)。
反力負担部材がくさび受具に対して緊張材の軸線方向に摺動可能であるので、上記くさびの移動の阻止を解除することができる。その移動の阻止が解除された状態から、係合誘導部材を用いて再度くさびとくさび受具を係合させることによって、緊張材を仮定着させることができるので、緊張材導入装置を盛り替えることが可能となる。
くさびのくさび受具との係合が解除される前から緊張材に緊張力が導入されて緊張材が延びている場合、緊張材が緊張力導入装置に引っ張られ、くさびのくさび受具との係合が解除されると、緊張材は更に延びる。このくさびとくさび受具との係合が解除された状態が保持されたまま、緊張力導入装置のジャッキストロークが縮減されると緊張材の延びが戻る。
上記係合を解除させるためには緊張力導入装置のジャッキストロークを伸長させなければならないが、その量はジャッキストロークの縮減能力に対して十分小さいので、ジャッキストロークを縮減させると、緊張材の延びは当初の緊張材の延びより小さくなる。そこで、係合誘導部材によってくさびをくさび受具に近づく方向に移動させて係合させると、くさび受具は固定されているので、くさびの緊張材に対する設置箇所が変更される。したがって、緊張力導入装置の使用可能なジャッキストロークの縮減量より当初の緊張材の延び量の方が大きくても、くさびの緊張材に対する設置箇所を段階的に端部側(緊張力導入装置側)に移動させて、緊張力導入装置の盛り替作業を繰り返すことで、緊張材の緊張力を完全に解放することができる。
請求項6に係る緊張材の緊張力解放方法は、前記緊張材を前記緊張力導入装置によって引っ張り、前記くさびと前記くさび受具の係合を解除する係合解除工程と、請求項1乃至5の何れかに記載の緊張力解放装置の反力負担部材を用いて前記係合の解放状態を維持する係合解除維持工程とを有することを特徴とする。この場合、請求項1乃至4と同一の作用・効果を奏することができる。
前記係合維持工程の後に、前記緊張材の緊張力解放装置の係合誘導部材を用いて前記くさびを前記くさび受具に近づく向きへ移動させて前記くさびと前記くさび受具とを係合させ、前記緊張材を定着させる盛替工程を有することもある(請求項7)。したがって、緊張材の緊張力解放装置の係合誘導部材によって緊張力導入装置の盛り替作業を行うことが可能となり、緊張材の延び量が緊張力導入装置のジャッキストロークより大きい場合であっても緊張材の緊張力を段階的に解放していくことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記の通り、固定されたくさび受具と、緊張材と一体となった状態でくさび受具と係合するくさびと、緊張力導入装置に引っ張られてくさび受具から離れたくさびのくさび受具に近づく向きへの移動を阻止するためにくさびに反力を付与する反力負担部材とを有するので、緊張材の構成によらず確実にくさびとくさび受具との楔結合を解除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1に示すように、本発明の構成例の1つである緊張力解放装置1は公知の定着具に組み込まれた構造を成し、定着具としての機能も有するので、緊張力解放装置1によって緊張材3が構造体2に定着して緊張している。緊張力解放装置1は例えば構造体2である鉄筋コンクリートの橋桁に設置され、緊張材3は押し出し工法によって構造体2を架設するために一時的に補強することを目的に仮緊張状態におかれている。ここでは、緊張力解放装置1は緊張状態を解除することを前提として設置されている。
【0014】
構造体2は主として鉄筋コンクリート造であるが、鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造の場合もある。また、本実施の形態では緊張材3は複数本(19本)の線材3aで構成されているが、緊張力解放装置1は1本で構成される緊張材3に対して使用されることも可能である。緊張材3には鉄筋やPC鋼線の他、ステンレス鋼、アラミドや炭素の繊維を用いた繊維強化材料が使用される。緊張材3は構造体2の内部に配置される場合と外部に配置される場合がある。
【0015】
また、緊張力解放装置1は構造体2を架設する場合の他に、緊張材に緊張力を一次、二次等段階的に行う場合、斜張橋用斜材を交換する場合、外ケーブルを交換する場合、トラブルが発生した場合等、様々な工種において緊張材の緊張力を解放する場合に使用される。
【0016】
図1に示すように、緊張力解放装置1は、緊張材3を構造体2に定着させ、緊張力を負担する定着部4と、定着部4に当接して定着部4が負担する緊張力を構造体2に伝達する支圧部5と、定着部4を構成する定着ブロック(くさび受具)8とウェッジ(くさび)9との係合が解除された状態を維持する係合解除維持部材6と、緊張力が解放された後に再度ウェッジ9を定着ブロック8に係合させて緊張材3を再定着させる再定着補助部7とからなる。
【0017】
定着部4は定着ブロック8とウェッジ9からなり、引張力を受けている緊張材3が挿通している定着ブロック8に、緊張材3を挟み込んでいるウェッジ9が差し込まれて係合している。定着ブロック8は、例えばボルト(図示せず)によって支圧部5に固定され、支圧部5を介して構造体2に支持されている。
【0018】
図2(a)、(b)に示すように、定着ブロック8は例えば鋼製で円盤状又は円柱状を呈し、定着ブロック8には緊張材3を構成する線材3aの配列に対応した挿通孔8aが形成されている。挿通孔8aは緊張材3が挿通しているウェッジ9を差し込ませてウェッジ9と定着ブロック8とを係合させ、緊張材3を定着させることができる。
【0019】
また、例えば挿通孔8aが形成されている範囲の周囲には支圧部5に固定するためのボルト(図示せず)が挿入する挿入孔8bと、後述する伝達部材18を固定させるためのボルト(図示せず)が螺合する伝達部材螺合穴8cと、後述する係合誘導部材16を摺動させるための摺動手段17が螺合する摺動手段螺合穴8dとが形成されている。
【0020】
図1に示すように、支圧部5は第1支圧部構成部材10と第2支圧部構成部材11からなり、第1支圧部構成部材10と第2支圧部構成部材11とが直列に接続した状態で例えばボルト(図示せず)で固定されて構成され、円柱状を呈し、緊張材3が挿通している。
【0021】
また、支圧部5は緊張材3の軸線方向と両構成部材10、11が直列に接続する方向とが一致するように構造体2に配置されている。第2支圧部構成部材11は構造体2に一体化したガイド12に固定され、第1支圧部構成部材10は、係合解除維持部材6に支圧部5の軸線方向に摺動自在に嵌入された状態で、定着ブロック8に固定されている。
【0022】
図3(a)〜(c)に示すように、第1支圧部構成部材10は例えば鋼製で円盤状を呈し、その中央部には緊張材3を挿通させると共に、係合解除維持部材6を摺動させるための貫通孔10aが形成され、その外縁部には貫通孔10aから連続して、すなわち第1支圧部構成部材10の内周から外周に架けて係合解除維持部材6を摺動させるための摺動溝10bが一端面に形成されている。
【0023】
第1支圧部構成部材10は、摺動溝10bが形成された面が第2支圧部構成部材11と対面するように配置される。摺動溝10bは溝状に形成される以外に貫通して形成されてもよい。すなわち、第1支圧部構成部材10がその周方向に分割して構成されていてもよい。
【0024】
また、第1支圧部構成部材10には、例えばガイド12に固定するためのボルト(図示せず)が挿入する挿入孔10cが周方向に複数個(図において6つ)貫通して、摺動溝10bが形成されている面に第2支圧部構成部材11に固定されるためのボルト(図示せず)が螺合する第2支圧部構成部材螺合穴10dが周方向に複数個(図において4つ)、摺動溝10bが形成されている面と反対の面に定着ブロック8に固定されるためのボルト(図示せず)が螺合する定着ブロック螺合穴10eが周方向に複数個(図において2つ)形成されている。
【0025】
第2支圧部構成部材螺合穴10dと定着ブロック螺合穴10eが第1支圧部構成部材10の軸方向に連続して形成されていてもよく、その場合、第2支圧部構成部材11に固定されるためのボルトと定着ブロック8に固定されるためのボルトが同一であることが望ましい。
【0026】
図4(a)〜(c)に示すように、第2支圧部構成部材11は例えば円形を呈する鋼板である。第2支圧部構成部材11の中央部には緊張材3の各線材3aを線材3a毎に挿通させる挿通孔11aが形成されている。挿通孔11aは緊張材3が複数本で構成される場合には線材3aの配列に合わせて配設される。
【0027】
また、第2支圧部構成部材11には、例えばガイド12に固定するためのボルト(図示せず)が挿入するガイド挿入孔11bが周方向に複数個(図において4つ)、第1支圧部構成部材10と固定するためのボルト(図示せず)が挿入する第1支圧部構成部材挿入孔11cが周方向に複数個(図において6つ)形成されている。第1支圧部構成部材と第2支圧部構成部材が固定された際に、挿入孔10cとガイド挿入孔11bが連通する。
【0028】
図1に示すように、係合解除維持部材6は例えば、緊張材3の軸線方向に摺動自在でウェッジ9に当接してウェッジ9が定着ブロック8に近づく向きに移動しないようにウェッジ9を係止し、ウェッジ9に付与される反力を負担する反力負担部材6Aと、その反力を支持する支持部材6Bからなる。
【0029】
反力負担部材6Aは複数個の硬質ゴム製のリリースチューブ13と、1個の鋼製のリリースチューブ押さえ部材14とからなる。リリースチューブ13とリリースチューブ押さえ部材14は独立して形成され、それぞれ緊張材3が挿通している。本実施の形態のように緊張材3が複数本の線材3aで構成されている場合、1本の線材3aに対して1つのリリースチューブ13が配設されている。
【0030】
また、反力負担部材6Aはリリースチューブ13とリリースチューブ押さえ部材14が別個に設けられて構成されている必要はなく、例えばリリースチューブ13が鋼製で、リリースリリースチューブ押さえ部材14に固定されて一体化された構成でもよい。
【0031】
リリースチューブ押さえ部材14は定着ブロック8と構造体2との間で支圧部5の内部を緊張材3の軸線方向に摺動自在に配置され、第1支圧部構成部材10の摺動溝10bから外部に突出している。リリースチューブ13は線材3a上でウェッジ9とリリースチューブ押さえ部材14との間に線材3aの軸線方向に摺動自在に配置され、定着ブロック8の構造体2側の端面から挿通孔8aに挿入した状態でリリースチューブ押さえ部材14に係止している。
【0032】
図5(a)、(b)に示すように、リリースチューブ押さえ部材14には支圧部5に嵌入した状態で摺動溝10bから支圧部5の外部に突出する突出部14aが形成されている。突出部14aはリリースチューブ押さえ部材14の周方向に等間隔をおいて複数個(図において4個)形成されている。突出部14aの支圧部5の側面から突出する部分には、側面に雄螺子部15aが形成された支持部材6Bに螺合する雌螺子部14bが貫通して形成されている。
【0033】
図6(a)、(b)に示すように、リリースチューブ13は緊張材3の線材3aを挿通させ得る筒状を呈する。リリースチューブ13は、一端部に形成され、定着ブロック8に係止する係止部13aと、定着ブロック8の挿通孔8aに挿入可能な挿入部13bとからなる。挿入部13bの長さは、図1に示すように、リリースチューブ13が最も構造体2に接近し、且つウェッジ9が定着ブロック8に係合した状態で挿通孔8aに挿入可能な長さである。
【0034】
また、挿入部13bの長さは、図9又は図10に示すように、リリースチューブ13が最も構造体2から隔離された状態で、つまり係止部13aが定着ブロック8に係止する状態で、ウェッジ9の定着ブロック8への係合が解除された状態を維持させることが可能な長さである。
【0035】
図1に示すように、リリースチューブ押さえ部材14の雌螺子部14bにはリリースチューブ13を緊張材3の軸線方向に摺動させるための支持部材6Bが設置されている。支持部材6Bには雌螺子部14bに螺合する雄螺子部15aが形成されており、雄螺子部15aの長さはリリースチューブ押さえ部材14の摺動可能な距離と、構造体2とリリースチューブ押さえ部材14との最も接近した距離との総和以上である。したがって、支持部材15が構造体2に当接した状態でリリースチューブ押さえ部材14に対して進む向きに回転するとリリースチューブ押さえ部材14が構造体2から遠ざかる向きに摺動し、係止部13aが定着ブロック8に係止する。
【0036】
図1に示すように、再定着補助部7は、緊張力が導入されている緊張材3が挿通しているウェッジ9を定着ブロック8に近づく向きへ移動させ、ウェッジ9を定着ブロック8と係合させるように誘導する係合誘導部材16と係合誘導部材16を定着ブロック8の軸方向に摺動させる摺動手段17とからなる。
【0037】
緊張材3が挿通する係合誘導部材16はウェッジ9を挟んで定着ブロック8と対向するように定着部4の軸方向に摺動自在に配置され、定着ブロック8に螺合している摺動手段17に挿通された状態で係止し、伝達部材18が係合誘導部材16の回りで定着ブロック8に固定し、高さ調整部材19が伝達部材18に直列に接続して構成されている。
【0038】
係合誘導部材16とウェッジ8との間には、後述するように緊張材3が緊張されて更に伸長した際にウェッジ9が緊張力導入装置20側へ移動して定着が解除されるに足るだけの空間が形成されている。
【0039】
図7(a)、(b)に示すように、係合誘導部材16は例えば鋼製で略円盤状を呈し、その中央部には緊張材3を構成する線材3aを線材3a毎に挿通させる挿通孔16aが形成されている。また、係合誘導部材16の挿通孔16aが形成されている部分より外側には、係合誘導部材16を定着ブロック8に対して摺動させるための摺動手段17を挿入させる挿入孔16bが形成されている。
【0040】
摺動手段17は例えばボルトからなり、上述したように例えば定着ブロック8の摺動手段螺合穴8dに螺合する。したがって、摺動手段17が摺動手段螺合穴8dに螺合しながら摺動手段17が進む向きに回転されると摺動手段17は摺動手段螺合穴8dの奥に進むので、摺動手段17と共に係合誘導部材16も同一の向きに摺動する。すなわち、係合誘導部材16が定着ブロック8に接近するように摺動する。
【0041】
摺動手段17の長さは、摺動手段17が摺動手段螺合穴8dに螺合した状態で、上述したようにウェッジ9と定着ブロック8との係合が解除されることが可能であり、且つ係合誘導部材16を摺動させてウェッジ9を定着ブロック8の挿通孔8aに押し込んで緊張材3を定着させることが可能な長さである。
【0042】
伝達部材18は周方向に複数個(例えば2個)の伝達部材構成材18aに分割され、伝達部材構成材18aは周方向に均等に間隔をおくように配置されている。ここで、図1に示すように周方向に隣接する伝達部材構成材18aと高さ調整部材19とで、摺動手段17を回転するための、又はウェッジ9の状況を確認するための確認窓18bが形成されている。
【0043】
後述するように、高さ調整部材19の伝達部材18に当接する面と反対側の面には緊張力導入装置20が当接して、緊張材3に緊張力が導入される。伝達部材18と高さ調整部材19によって定着部4に緊張力が負担され、高さ調整部材19はその肉厚によって緊張力導入装置20と緊張力解放装置1との設置状態を調整するためのものである。
【0044】
次に、緊張力解放装置1を用いた緊張材3の緊張力解放方法について説明する。ここで、緊張材3は上述したように、構造体2に固定されている定着ブロック8に係合しているウェッジ9に狭持されて構造体2に定着している。また、リリースチューブ押さえ部材14は第2支圧部構成部材11に当接し、リリースチューブ13はリリースチューブ押さえ部材14とウェッジ9の間に介在してリリースチューブ13とウェッジ9に当接している。
【0045】
最初に、ジャッキ等の緊張力導入装置20を高さ調整部材19に当接した状態で緊張力解放装置1及び緊張材3に設置して緊張材3を引っ張り、図8に示すように緊張材3を伸長させると共に、ウェッジ9を緊張材3の軸線方向に対して構造体2から遠ざかる向きに移動させて、ウェッジ9と定着ブロック8との係合、すなわち緊張材3の定着を解除する(係合解除工程)。
【0046】
次いで、図9に示すように支持部材6Bを支持部材6Bが構造体2に接近する向きに回して支持部材6Bを構造体2に当接させ、さらに支持部材6Bを同一方向に回し続けてリリースチューブ押さえ部材14を構造体2から緊張材3の軸線方向に対して遠ざかる方向に移動させる(係合解除維持工程)。支持部材6Bを構造体2に当接させる作業はリリースチューブ押さえ部材14の移動後に限るものではなく、緊張力導入装置20の設置前に予め行っていても構わない。
【0047】
この時、リリースチューブ13はリリースチューブ押さえ部材14に当接しているので、リリースチューブ押さえ部材14と共に緊張材3の軸線方向に対して構造体2から遠ざかる向きに移動し、定着ブロック8の挿通孔8aの中を緊張材3の線材3aに沿って摺動する。リリースチューブ13の緊張力導入装置20側の先端は、ウェッジ9が移動する前のウェッジ9の構造体2側の先端より緊張力導入装置20側に位置している。
【0048】
また、ウェッジ9は緊張材3の線材3aが挿通しているので緊張材3の軸線方向に位置すると同時に、反力負担部材6Aと同一線上に位置する。したがって、ウェッジ9は反力負担部材6Aから緊張材3の軸線方向に係止され、定着ブロック8に近づく向きへの移動が阻止される。この結果、緊張材3が複数本の線材3aで構成され、線材3aが格子状に配置されても、内側に配置されている線材3aが確実に定着ブロック8との係合解除される。
【0049】
次いで、図10に示すように緊張力導入装置20の引張力を減少させながら緊張力導入装置20のジャッキストロークを減縮して、緊張材3の延びを戻す(緊張力解放工程)。この途中、緊張材3を狭持しているウェッジ9が構造体2側へ移動し、緊張力導入装置20側に移動したリリースチューブ13に当接する。リリースチューブ13の係止部13aがリリースチューブ押さえ部材14に係止し、リリースチューブ押さえ部材14は構造体2に当接している支持部材6Bと螺合しているので、ウェッジ9がリリースチューブ13に係止する。
【0050】
したがって、ウェッジ9がリリースチューブ13に係止した後は、緊張力導入装置20のジャッキストロークを更に減縮して緊張材3の延びを更に戻しても、ウェッジ9が定着ブロック8の挿通孔8aに差し込まれて緊張材3が再度ウェッジ9に狭持されて再定着することはなく、緊張材3の緊張力が解放される。緊張力解放工程前の緊張材3の延び量に比して、緊張材3に設置後のジャッキストロークの縮減能力の方が大きければ、緊張材3の緊張力は完全に解放される。
【0051】
ここで、緊張材3の延び量に対して緊張材3に設置後のジャッキストロークの縮減能力の方が小さければ、盛り替え作業が必要になる。つまり、緊張力導入装置20の限界まで緊張材3の延びを戻しても、緊張材3に緊張力が残存している場合、図11に示すように支持部材6Bを支持部材6Bが構造体2から遠ざかる向きに回してリリースチューブ押さえ部材14を構造体2に接近する向きに移動させる(係合解除維持解除工程)。
【0052】
次いで、図12に示すように摺動手段17を摺動手段17が定着ブロック8に対して接近する向きに回して、係合誘導部材16をウェッジ9の緊張力導入装置20側から定着ブロック8に接近する向きに移動させ、ウェッジ9を定着ブロック8の挿通孔8aに誘導して定着ブロック8に係合させ、緊張材3をウェッジ9で狭持させて再定着させる(再係合工程)。この時、リリースチューブ13はウェッジ9を介して係合誘導部材16に押されて構造体2側へ移動する。
【0053】
ここで、例えばハンマー等で緊張材3を叩いて緊張材3が確実に定着していることが確認窓18bから確認できたら、摺動手段17を摺動手段17が定着ブロック8に対して遠ざかる向きに回して、係合誘導部材16を定着ブロック8に対して遠ざける向きに移動して、緊張材3に緊張力導入装置20を設置する。緊張材3が確実に緊張していることを確認する手段はハンマー等で叩く方法の他に、例えば係合誘導部材16が定着ブロック8から遠ざかった際に確認窓18bからウェッジ9を目視する方法等があり、また、これらに限られない。
【0054】
緊張材3の緊張力が一度解放されると、緊張材3の緊張力が完全に解放されるまで、再係合工程、係合解除工程、係合解除維持工程及び緊張力解放工程を繰り返す。緊張材3の緊張力が完全に解放されると、緊張力導入装置20、緊張力解放装置1及び緊張材3を撤去する。緊張力解放装置1は転用・再利用することができるので、経済性が高い。
【0055】
(実施の形態2)
次に、他の実施の形態である緊張力解放装置21について説明する。だだし、実施の形態1と共通する部分については、同一の名称・符号を用い、説明を省略する。
【0056】
図13に示すように、本発明の構成例の1つである緊張力解放装置21は、緊張力導入装置20の反力となる公知の緊張力解放用チェアに組み込まれた構造を成し、定着具22に被せ、緊張力導入装置を支持する状態で緊張力導入装置20と定着具22の間に配置されている。当初、つまり緊張力解放装置21及び緊張力導入装置20が設置される前、緊張材3は定着具22によって構造体2に定着している。
【0057】
具体的には、緊張材3の線材3aが挿通している雄型コーン22aが構造体2と一体化しているガイド22bに固定された支圧板22cに固定されている雌型コーン22dに差し込まれて、緊張材3が構造体2に定着している。
【0058】
図13に示すように、緊張力解放装置21は、緊張材3を構造体2に定着させ、緊張力を負担する定着部24と、定着部24に当接し、定着部24が負担する緊張力を構造体2と一体となった定着具22に伝達する支圧部25と、定着部24を構成する定着ブロック(くさび受具)28とウェッジ(くさび)29との係合が解除した状態を維持する係合解除維持部材26とからなる。
【0059】
定着部24は定着ブロック28とウェッジ29からなり、引張力を受けている緊張材3が挿通している定着ブロック28に、緊張材3を挟み込んでいるウェッジ29が差し込まれて係合している。定着ブロック28は、例えばボルト(図示せず)によって支圧部25に固定され、支圧部25を介して構造体2に埋設されている定着具22に支持されている。
【0060】
図14(a)、(b)に示すように、定着ブロック28は例えば鋼製で円盤状又は円柱状を呈し、その構造は上記定着ブロック8の伝達部材螺合穴8cと摺動手段螺合穴8dが形成されていない点を除き、上記定着ブロック28と同一の構造である。
【0061】
図13に示すように、支圧部25は第1支圧部構成部材30と第2支圧部構成部材31からなり、第1支圧部構成部材30が第2支圧部構成部材31に直列に嵌合した状態で固定されて構成され、略円筒状を呈し、緊張材3が挿通している。また、支圧部25は緊張材3の軸線方向と両構成部材30、31が直列に接続する方向とが一致するように構造体2に配置されている。
【0062】
第2支圧部構成部材31は構造体2に一体化した定着具22に例えばボルトからなる固定手段35で固定され、第1支圧部構成部材30は係合解除維持部26のリリースチューブ押さえ部材33に支圧部25の軸線方向に摺動自在に嵌入された状態で定着ブロック28に固定されている。
【0063】
図15(a)〜(c)に示すように、第1支圧部構成部材30は例えば鋼製で略円筒状を呈し、その中央部には緊張材3を挿通させると共に、反力負担部材26Aを摺動させるための貫通孔30aが形成され、その外縁部には貫通孔30aから連続して、すなわち第1支圧部構成部材30の内周から外周に架けて反力負担部材26Aを摺動させるための摺動溝30bが一端面から形成されている。
【0064】
また、第1支圧部構成部材30の摺動溝30bが形成されている面には、定着ブロック28が嵌合する嵌合溝30cが形成されている。嵌合溝30cには定着ブロック28を固定させるるためのボルト(図示せず)が螺合する螺合穴30dが例えば第1支圧部構成部材30の周方向に複数個(図において4つ)形成されている。
【0065】
図16(a)〜(c)に示すように、第2支圧部構成部材31は例えば鋼製で略円筒状を呈している。第2支圧部鋼製部材31の側壁には主に定着具22を観察するための観察窓31cが形成されている。また、第2支圧部構成部材31には、例えば定着具22に固定するためのボルトが螺合する螺合孔31aが形成されている。さらに、後述する支持部材26Bを回動自在に装着させるための装着孔31bが形成されている。
【0066】
図13に示すように、係合解除維持部26は例えば、緊張材3の軸線方向に摺動自在でウェッジ29に当接してウェッジ29が定着ブロック28に近づく向きに移動しないようにウェッジ29を係止し、ウェッジ29に付与される反力を負担する反力負担部材26Aと、その反力を支持する支持部材26Bからなる。
【0067】
反力負担部材26Aは複数個の硬質ゴム製のリリースチューブ33と、1個の鋼製のリリースチューブ押さえ部材34とからなる。リリースチューブ33とリリースチューブ押さえ部材34は独立して形成され、それぞれ緊張材3が挿通している。本実施の形態のように緊張材3が複数本の線材3aで構成されている場合、1本の線材3aに対して1つのリリースチューブ33が配設されている。
【0068】
また、反力負担部材26Aはリリースチューブ33とリリースチューブ押さえ部材34が別個に設けられて構成されている必要はなく、リリースチューブ33が鋼製で、リリースリリースチューブ押さえ部材34に固定されて一体化された構成でもよい。
【0069】
リリースチューブ押さえ部材34は定着ブロック28と構造体2との間で支圧部25の内部を緊張材3の軸線方向に摺動自在に配置され、第1支圧部構成部材30の摺動溝30bから外部に突出している。リリースチューブ33は線材3a上のウェッジ29の構造体2側でリリースチューブ押さえ部材34に嵌合した状態で係止し、リリースチューブ押さえ部材34と一体化している。また、リリースチューブ33は最も構造体2側に配置された状態においても、定着ブロック28に挿入している。
【0070】
また、支持部材26Bはリリースチューブ押さえ部材34の支圧部25から突出している突出部34aの構造体2側で第2支圧部構成部材31に設置されている。
【0071】
図17(a)、(b)に示すように、リリースチューブ押さえ部材34には支圧部25に嵌入した状態で摺動溝30bから支圧部25の外部に突出する突出部34aが形成されている。突出部34aはリリースチューブ押さえ部材34の周方向に等間隔をおいて複数個(図において2個)形成されている。
【0072】
図18(a)、(b)に示すように、支持部材26Bは例えばボルト37aとナット(図示せず)からなる1組の締結部材で構成される軸部37と、リリースチューブ押さえ部材34に当接して移動させることが可能な作用部38と、作用部38に連結して支持部材26Bを操作するための操作部39とからなる。
【0073】
軸部37のボルト37aが作用部38の外側から作用部38と第2支圧部構成部材31に挿通した状態で作用部38に当接し、ナットが第2支圧部構成部材31の内側から締め付けられることによって、支持部材26Bは第2支圧部構成部材31に装着されている。作用部38は軸部37を中心に回動自在であり、側面に例えば平坦部38aと平坦部38aから連設される例えば半円状の曲面部38bとが形成されている。
【0074】
支持部材26Bは、図13に示すように突出部34aと平坦部38aとが対向するように配置され、支持部材26Bが回動した際に曲面部38bが突出部34aに当接しながらリリースチューブ押さえ部材34が構造体2から遠ざかる向きに摺動するように構成されている。支持部材26Bは突出部34aに一対に設けられていることが望ましい。
【0075】
さらに、支持部材26Bは第2支圧部構成部材31の周方向に2つ等間隔で設置され、各々の軸部37が緊張材3の回りで緊張材3を回避するように連結されていることが望ましい。この場合、何れか1つの支持部材26Bが操作されれば両方の支持部材26Bが作動するので、作業が省力化が図れる。
【0076】
図19(a)、(b)に示すように、リリースチューブ33は緊張材3の線材3aを挿通させ得る筒状を呈し、定着ブロック28又はリリースチューブ押さえ部材34に係止する係止部33aと、定着ブロック28の挿通孔28aに挿入可能な定着ブロック挿入部33bと、リリースチューブ押さえ部材34の挿通孔34cに挿入可能なリリースチューブ押さえ部材挿入部33cとからなる。
【0077】
定着ブロック挿入部33bの長さは、図13に示すように、リリースチューブ33が最も構造体2に接近し、且つウェッジ29が定着ブロック28に係合した状態で挿通孔28aに挿入可能な長さである。また、図20又は図21に示すように、リリースチューブ33が最も構造体2から隔離された状態で、つまり係止部33aが定着ブロック28に係止する状態で、ウェッジ29の定着ブロック28への係合が解除された状態を維持させることが可能な長さである。
【0078】
次に、緊張力が導入され、構造体2に定着している緊張材3の緊張力解放方法について説明する。ここで、緊張材3は当初、上述したように、構造体2に固定されている定着具22に差し込まれている雄型コーン22aに狭持されて構造体2に定着している。
【0079】
最初に、緊張力解放装置21を定着具22及び緊張材3に設置し、緊張力導入装置20を緊張力解放装置21及び緊張材3に設置する。緊張力導入装置20のジャッキストロークは最大ストロークから所定長縮減された状態にするのが望ましい。この時、リリースチューブ押さえ部材34が摺動溝30bの底面に当接してリリースチューブ33及びリリースチューブ押さえ部材34が最も構造体2に接近している。また、ウェッジ29は緊張材3が挿通し、定着ブロック28に拘束されない程度に定着ブロック28の挿通孔28aに挿入している。
【0080】
続いて、緊張力導入装置20のジャッキストロークは最大ストロークから所定長縮減されているので、図20に示すように、緊張力導入装置20によって緊張材3を引っ張って、雄型コーン22aを撤去する(係合解除工程)。ここで、緊張材3を伸長させると共に、雄型コーン22aを緊張材3の軸線方向に対して構造体2から遠ざかる向きに移動させて、雄型コーン22aと雌型コーン22dとの係合を解除する。緊張材3が伸長した分、ウェッジ29も緊張力導入装置20側に移動する。
【0081】
次いで、図21に示すように支持部材26Bの操作部39を回動して、リリースチューブ押さえ部材34を緊張材3の軸線方向に対して構造体2から遠ざける向きに移動させ、リリースチューブ33の係止部33aを定着ブロック28に係止させると同時に、リリースチューブ33を定着ブロック28の挿通孔28aに一層挿入させる(係合解除維持工程)。ここで、リリースチューブ33とウェッジ29が当接していることが望ましい。確実に定着ブロック28とウェッジ29の係合の解除が維持されるからである。
【0082】
続いて、緊張力導入装置20の引張力を減少させながら緊張力導入装置20のジャッキストロークを減縮して、緊張材3の延びを戻し、緊張材3の緊張力を解放する(緊張力解放工程)。この時、リリースチューブ33の係止部33aはリリースチューブ押さえ部材34に係止し、リリースチューブ押さえ部材34が支持部材26Bに係止しているので、ウェッジ29はリリースチューブ33に係止する。
【0083】
したがって、ウェッジ29がリリースチューブ33に係止した後は、緊張力導入装置20のジャッキストロークを減縮して緊張材3の延びを戻しても、ウェッジ29が定着ブロック28の挿通孔28aに差し込まれて緊張材3がウェッジ29に狭持されて再定着することはなく、緊張材3の緊張力が解放される。緊張力解放工程前の緊張材3の延び量に比して、緊張材3に設置後のジャッキストロークの減縮能力の方が大きければ、緊張材3の緊張力は完全に解放される。
【0084】
ここで、緊張材3の延び量に対して緊張力導入装置20のジャッキストロークの縮減能力の方が小さければ、盛り替え作業が必要となる。つまり、緊張力導入装置20の限界まで緊張材3の延びを戻しても、緊張材3に緊張力が残存している場合、図22に示すように、支持部材26Bの平坦部38aが突出部34aに対面するように支持部材26Bの操作部39を回動して、リリースチューブ押さえ部材34及びリリースチューブ33を構造体2に接近する向きに移動させる(係合解除維持解除工程)。この場合は、ジャッキストロークの縮減能力の限界より所定量長い状態でジャッキストロークの減縮を停止させる。
【0085】
また、この時、リリースチューブ33はリリースチューブ押さえ部材34の挿通孔34aに嵌合してリリースチューブ押さえ部材34と一体となっているので、リリースチューブ押さえ部材34を移動させればリリースチューブ33も確実に移動し、作業の省力化が図られる。
【0086】
次いで、図23に示すようにジャッキストロークは縮減能力の限界より所定量長い状態にあるので、さらに緊張力導入装置20の引張力を減少させながら緊張材3のジャッキストロークを縮減させる(再係合工程)。この時、緊張材3の延びが戻されてウェッジ29は定着ブロック28の挿通孔28aに差し込まれ、定着ブロック28に係合するので、緊張材3はウェッジ29に狭持させて構造体2に再定着する。
【0087】
ここで、例えばハンマー等で緊張材3を叩いて緊張材3が確実に定着していることが確認できたら、緊張材3に緊張力導入装置20を設置する。緊張材3が確実に緊張していることを確認する手段はハンマー等で叩く方法に限られない。
【0088】
緊張材3の緊張力が一度解放されると、緊張材3の緊張力が完全に解放されるまで、再定着工程、定着解除工程、定着解除保持工程及び緊張力解放工程を繰り返す。緊張材3の緊張力が完全に解放されると、緊張力導入装置20、緊張力解放装置21及び緊張材3を撤去する。緊張力解放装置21は転用・再利用することができるので、経済性が高い。
【0089】
また、本実施の形態のように緊張力解放用チェアに緊張力解放装置21が組み込まれる構造の場合、1つの緊張力導入装置20に対して1つの緊張力解放装置21が使用されるので、1つの定着具に対して1つ使用される実施の形態1の場合に比して、経済性が高い。
【0090】
さらに、実施の形態1、2のように、押し出し工法によって構造体2を架設するために一時的に補強することを目的に緊張材3が仮緊張状態におかれる場合、仮緊張状態が解かれるまで一般的に1ヶ月程度要する。したがって、実施の形態1の場合、緊張力解放装置1は養生されなければその間中外部に露呈されるので、錆びて使用時に不具合が生じる蓋然性が高くなる。また、錆びて再利用できなくなる場合もある。キャップ等によって養生すれば、コストが高くなる。
【0091】
しかし、本実施の形態のように緊張力解放装置が緊張力解放用チェアに組み込まれる構造である場合、緊張力解放作業時にのみ使用されるので、最低限の管理を行っていれば錆びることはない。したがって、作業に支障を来すこともなく、且つ確実に再利用することができる。
【0092】
(その他の実施の形態)
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】構造体に設置された緊張力解放装置を表す断面図である。
【図2】(a)は図1の定着ブロックの平面図、(b)は図3(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)は図1の第1支圧部構成部材の平面図、(b)は図4(c)のB−B断面図、(c)は図1の第1支圧部構成部材の背面図である。
【図4】(a)は図1の第2支圧部構成部材の平面図、(b)は図5(c)のC−C断面図、(c)は図1の第2支圧部構成部材の背面図である。
【図5】(a)は図1のリリースチューブ押さえ部材の平面図、(b)は図6(a)のD−D断面図である。
【図6】(a)は図1のリリースチューブの平面図、(b)は図7(a)のE−E断面図である。
【図7】(a)は図1の係合誘導部材の平面図、(b)は図8(a)のF−F断面図である。
【図8】係合解除工程を表す断面図である。
【図9】係合解除維持工程を表す断面図である。
【図10】緊張力解放工程を表す断面図である。
【図11】係合解除維持解除工程を表す断面図である。
【図12】再係合工程を表す断面図である。
【図13】その他の実施の形態の構造体に設置された緊張力解放装置を表す断面図である。
【図14】(a)は図13の定着ブロックの平面図、(b)は図14(a)のG−G断面図である。
【図15】(a)は図13の第1支圧部構成部材の平面図、(b)は図15(c)のH−H断面図、(c)は図13の第1支圧部構成部材の背面図である。
【図16】(a)は図13の第2支圧部構成部材の平面図、(b)は図16(a)のI−I断面図、(c)は図16(a)のJ−J断面図である。
【図17】(a)は図13のリリースチューブ押さえ部材の平面図、(b)は図17(a)のK−K断面図である。
【図18】(a)は図13の係合解除維持部と支圧部と定着ブロックが組み立てられた様子を表す斜視図、(b)は図18(a)の側面図である。
【図19】(a)は図13のリリースチューブの平面図、(b)は図19(a)のL−L断面図である。
【図20】係合解除工程を表す断面図である。
【図21】係合解除維持工程及び緊張力解放工程を表す断面図である。
【図22】係合解除維持解除工程を表す断面図である。
【図23】再係合工程を表す断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1………緊張力解放装置
2………構造体
3………緊張材
3a……線材
4………定着部
5………支圧部
6………係合解除維持部
6A……反力負担部材
6B……支持部材
7………再定着補助部
8………定着ブロック(くさび受具)
8a……挿通孔
8b……挿入孔
8c……伝達部材螺合穴
8d……摺動手段螺合穴
9………ウェッジ(くさび)
10……第1支圧部構成部材
10a…貫通孔
10b…摺動溝
10c…挿入孔
10d…第2支圧部構成部材螺合穴
10e…定着ブロック螺合穴
11……第2支圧部構成部材
11a…挿通孔
11b…ガイド挿入孔
11c…第1支圧部構成部材挿入孔
12……ガイド
13……リリースチューブ
13a…係止部
13b…挿入部
14……リリースチューブ押さえ部材
14a…突出部
14b…雌螺子部
14c…挿通孔
15……雄ねじ
15a…雄螺子部
16……係合誘導部材
16a…挿通孔
16b…挿入孔
17……摺動手段
18……伝達部材
18a…伝達部材構成材
18b…確認窓
19……高さ調整部材
20……緊張力導入装置
21……緊張力解放装置
22……定着具
22a…雄型コーン
22b…ガイド
22c…支圧板
22d…雌型コーン
24……定着部
25……支圧部
26……係合解除維持部
26A…反力負担部材
26B…支持部材
27……再定着部
28……定着ブロック(くさび受具)
28a…挿通孔
28b…挿入孔
29……ウェッジ(くさび)
30……第1支圧部構成部材
30a…貫通孔
30b…摺動溝
30c…嵌合溝
30e…螺合穴
31……第2支圧部構成部材
31a…螺合孔
31b…装着孔
31c…確認窓
32……ガイド
33……リリースチューブ
33a…係止部
33b…定着ブロック挿入部
33c…リリースチューブ押さえ部材挿入部
34……リリースチューブ押さえ部材
34a…突出部
34c…挿通孔
35……固定手段
37……軸部
37a…ボルト
38……作用部
38a…平坦部
38b…曲面部
39……操作部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張材に緊張力を導入する緊張力導入装置の反力を負担するくさび受具と、
前記緊張材が挿通し、前記緊張材と一体化した状態で前記くさび受具に係合するくさびと、
前記緊張材が前記緊張力導入装置に引っ張られて前記くさび受具から離れる向きへ移動したときに、前記くさびからの緊張力を負担し、前記くさびの前記くさび受具に近づく向きへの移動を阻止する反力負担部材と
を有することを特徴とする緊張材の緊張力解放装置。
【請求項2】
前記緊張材を定着させる定着具に被せた状態で構造体に設置され、前記緊張力導入装置を支持することを特徴とする請求項1に記載の緊張材の緊張力解放装置。
【請求項3】
前記反力負担部材は前記くさび受具に対して前記緊張材の軸線方向に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の緊張材の緊張力解放装置。
【請求項4】
前記反力負担部材を支持する支持部材を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の緊張材の緊張力解放装置。
【請求項5】
前記反力負担部材が前記くさび受具に対して前記緊張材の軸線方向に摺動可能に配置され、
緊張力が導入されている前記緊張材が挿通している前記くさびを前記くさび受具に近づく向きへ移動させ、前記くさびを前記くさび受具に係合させるように誘導する係合誘導部材を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の緊張材の緊張力解放装置。
【請求項6】
前記緊張力導入装置によって前記緊張材を引っ張り、前記くさびと前記くさび受具の係合を解除する係合解除工程と、
請求項1乃至5の何れかに記載の緊張力解放装置の反力負担部材を用いて前記係合の解除状態を維持させる係合解除維持工程と
を有することを特徴とする緊張材の緊張力解放工法。
【請求項7】
前記係合解除工程の後に、前記緊張材の緊張力解放装置の係合誘導部材を用いて前記くさびを前記くさび受具に近づく向きへ移動させて前記くさびと前記くさび受具とを係合させ、前記緊張材を定着させる盛替工程を有することを特徴とする請求項6に記載の緊張材の緊張力解放工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−91764(P2009−91764A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261901(P2007−261901)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000163110)極東鋼弦コンクリート振興株式会社 (29)
【Fターム(参考)】