説明

緊急制動装置

【課題】簡易な構成で、衝突の可能性を確実に検出可能とする。
【解決手段】運転者における筋電位の発生を検出し、車両の制動装置を動作せしめるよう構成されてなる緊急制動装置であって、車両のハンドル1aに筋電位計101が設けられ、筋電位計101により検出された筋電位が所定の判定レベルLs’を超えた際に、ホールシリンダ104を動作せしめるよう構成されてなり、筋電位計101は、アースに接続されたアース側電極と、アースから分離された正電位電極がハンドルの把持部1aに設けられ、正電位電極に筋電位が得られるよう構成されたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の緊急制動装置に係り、特に、構成の簡素化等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、例えば、車両にミリ波レーダ装置を装備し、このミリ波レーダ装置によって、車両前方方向における障害物を検知し、衝突の危険性を判断して、必要に応じて車両に対して制動を与えるよう構成されたものや、レーダ装置に加えてカメラを装備して、より障害物検出の信頼性を高めたものなどが種々提案、実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−282760号公報(第7−22頁、図1−図9)
【特許文献2】特開2009−271766号公報(第4−18頁、図1−図12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来構成の装置は、相応の信頼性で障害物の検知、衝突の可能性の検知ができるものの、装置構成が複雑となるばかりか、車両全体の高価格化を招くという問題がある。
一方、車両の更なる安全性、信頼性が求められる中で、障害物との衝突可能性を早期に検出し、早期に衝突回避を可能とする装置は、益々、その重要性、必要性が高まっている。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、衝突の可能性を確実に検出可能とする緊急制動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る緊急制動装置は、
運転者における筋電位の発生を検出し、車両の制動装置を動作せしめるよう構成されてなる緊急制動装置であって、
前記車両のハンドルに筋電位計が設けられ、前記筋電位計により検出された筋電位が所定の判定レベルを超えた際に、前記制動装置を動作せしめるよう構成されてなり、
前記筋電位計は、アースに接続されたアース側電極と、アースから分離された正電位電極とが前記ハンドルの把持部に設けられ、前記正電位電極に筋電位が得られるよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、筋電位を用いるようにしたので、簡易な構成で、衝突の可能性を確実に検出でき、衝突を確実に回避できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態における緊急制動装置の基本構成例を示す構成図である。
【図2】図1に示された緊急制動装置に用いられる筋電位計の構成を示す平面図である。
【図3】図2のAA線断面を示す断面図である。
【図4】図2に示された筋電位計の電極接続の例を示す回路図であって、図4(A)は、第1の接続例における回路図、図4(B)は、第2の接続例における回路図である。
【図5】図1に示された緊急制動装置の特にブレーキ油圧系統の概略構成例を示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態における緊急制動装置の動作を説明するための説明図であって、図6(A)は、運転者が危険を認知をした後にブレーキ操作が必要との判断が生ずるタイミングを説明する説明図、図6(B)は、筋電位の発生タイミングを説明する説明図、図6(C)は、マスタシリンダの予圧の発生状態を説明する説明図、図6(D)は、ブレーキの踏み込みの発生を説明する説明図、図6(E)は、予圧がある場合のマスタシリンダの液圧の変化を説明する説明図、図6(F)は、予圧がない場合のマスタシリンダの液圧の変化を説明する説明図、図6(G)は、ブレーキ制動力の発生を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図6を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における緊急制動装置の全体構成について、図1及び図5を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における緊急制動装置は、自動四輪車両に適するもので、筋電位計101と、筋電位処理判定部102と、ブレーキ制御用電子制御ユニット103と、ハイドロリックユニット104と、ホイールシリンダ105とに大別構成されたものとなっている(図1参照)。
【0010】
かかる緊急制動装置は、自動四輪車両の通常のブレーキシステムに併設された構成となっている。
すなわち、ブレーキペダル21の操作力を油圧に変換するブレーキマスタシリンダ22は、ハイドロリックユニット104を介してホイールシリンダ105と配管接続されており、かかる制動装置としてのブレーキシステムの構成は、従来から良く知られた構成である(図5参照)。
かかる構成によって、ブレーキペダル21の踏み込み量に応じた油圧がハイドロリックユニット104を介してホイールシリンダ5へ伝達されるようになっている。
【0011】
また、ハイドロリックユニット104においては、詳細は後述するように、筋電位の発生に基づいて、ブレーキ液圧の予圧が行われるようになっている。
なお、図5において、「PROC」は、筋電位処理判定部102を、「BRA−ECU」は、ブレーキ制御用電子制御ユニット103を、「HYD」は、ハイドロリックユニット104を、それぞれ意味する。
【0012】
まず、本発明の実施の形態における筋電位計101は、ハンドル1に設けられたものとなっており、導電性部材を用いてなる複数の正電位電極2−1〜2−nと、同じく導電性部材を用いてなり、正電位電極2−1〜2−nの半数のアース側電極3−1〜3−n/2とを主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる筋電位計101について、図2乃図4を参照しつつ説明する。
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、n=8個として説明することとする。
【0013】
本発明の実施の形態においては、第1乃至第4の正電位電極2−1〜2−4と、第5乃至第8の正電位電極2−5〜2−8と、第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4は、それぞれ、ハンドル1の環状の把持部1aの円周方向で適宜な間隔を隔てて配置されると共に(図2参照)、把持部1aの縦断面(図3)において、その周方向で大凡120度の間隔で、把持部1aに配設されたものとなっている。
【0014】
なお、これら第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8と第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4の把持部1aの取り付け構造は、特定のものに限定される必要はなく、例えば、把持部1aと一体形成しても良く、また、把持部1aに対して後付するようにしても良い。
【0015】
図4には、これら第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8と第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4の電気的接続が示されており、以下、同図を参照しつつ、第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8と第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4の電気的接続について説明する。
図4(A)に示された第1の接続例においては、第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8は直列接続されて、アースと非接続状態で、後述する筋電位増幅部11へ接続される一方、第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4は、直列接続されて、アースに接続された構成となっている。
【0016】
電極の接続は、このような接続に限定されるものではなく、例えば、図4(B)に示された第2の接続例のような並列接続の構成としても良い。
すなわち、第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8は相互に並列接続されて、筋電位増幅部11に接続される一方、第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4も相互に並列接続されて、アースに接続された構成となっている。
【0017】
かかる構成の筋電位計101においては、運転者が把持部1aを握ることによって、第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4のいずれかと、第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8のいずれかに手が接触する状態となる。
そして、第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4は、アースに接続されているため、筋電位が生じた場合、例えば、心電位などを含むことなく、筋電位のみが第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8に生ずることとなる。
【0018】
なお、上述の構成例においては、4枚の第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4と、8枚の第1乃至第8の正電位電極2−1〜2−8としたが、これに限定されるものではなく、例えば、大凡180度の円弧状に形成された正電位電極を4枚とし、同じく大凡180度の円弧状に形成されたアース側電極を2枚とした構成としても良い。
また、第1乃至第4の正電位電極2−1〜2−4を、一体にして一枚の電極とし、同じく第5乃至第8の正電位電極2−5〜2−8を、一体にして一枚の電極とし、さらに、第1乃至第4のアース側電極3−1〜3−4を、一体にして一枚の電極としても良い。
【0019】
次に、筋電位処理判定部102について説明する。
本発明の実施の形態における筋電位処理判定部102は、筋電位増幅部11と、筋電位処理部12と、緊急時判定部13とから構成されてなるものである。
筋電位増幅部11は、筋電位計101によって得られた筋電位を、後段の信号処理に適するレベルとするため増幅を行うよう構成されたものである。図1において、筋電位増幅部11の右側近傍に示された波形図は、筋電位増幅部11によって増幅された筋電位波を模式的に表した波形図である。
【0020】
筋電位処理部12は、筋電位増幅部11によって増幅された筋電位信号に対して、後段の緊急時判定部13における判定処理に適するよう必要な信号処理を施すよう構成されてなるものである。具体的には、例えば、筋電位増幅部11によって増幅された筋電位信号に対して包絡線処理を施し、正極側の信号のみを抽出するなどの処理が行われるようになっているものである。図1において、筋電位処理部12の右側近傍に示された波形図は、この筋電位処理部12の出力信号波形を模式的に表した波形図である。
【0021】
緊急時判定部13は、筋電位処理部12における信号処理が施された筋電位信号が、車両走行に対して緊急に制動を与える必要と判断される判定レベルLsを超えたか否かの判定を行い、判定レベルLsを超えたとの判定がなされた際に、ブレーキ制御用電子制御ユニット103(以下、図1に表記されたように「ブレーキ制御ECU」と称する)に対して、その旨の信号を出力するよう構成されてなるものである。図1において、緊急時判定部13の右側近傍に示された波形図は、先の筋電位処理部12から緊急時判定部13に入力される信号を模式的に示した波形と共に、上述の判定レベルLsを示した波形図である。
【0022】
ブレーキ制御ECU103は、車両にブレーキ制動を与えるための必要な制御処理を実行するよう、例えば、周知・公知のマイクロコンピュータ等を中心に構成されたものである。
かかるブレーキ制御ECU103には、図示されないセンサにより検出されたブレーキマスタシリンダ22の液圧や、ホイールシリンダ105の液圧等が入力されるようになっており、通常は、これらの入力信号に基づいて、ブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量に応じて、ハイドロリックユニット104を介してホイールシリンダ104のシリンダ圧制御を行い、それにより、適宜ブレーキ制動が行われるよう構成されてなるものである。
【0023】
ハイドロリックユニット104は、ブレーキペダル21の踏み込みに応じたブレーキ液圧をホイールシリンダ105へ伝達し、ホイールシリンダ105による制動力(ブレーキ力)を発生せしめるよう構成されてなる油圧回路であって、内部に設けられた電磁弁(図示せず)がブレーキ制御ECU103により制御されることで、ブレーキ液の流通や後述するような予圧の発生が可能に構成されたものとなっている。なお、その基本的構成は、公知・周知の構成を有するものである。
【0024】
次に、上記構成における動作について、図5、図6を参照しつつ説明する。
まず、運転者が車両運転中に、突然、例えば、歩行者が急に目の前に飛び出してきたなど、急ブレーキを踏む必要があるような事態を認識した場合、通常、運転者は、反射的にハンドル1を強く握る傾向にあることは良く知られている通りである。
図6(A)は、上述のような状況における運転者の脳内における判断思考の変化のタイミングを模式的に表したもので、時刻0の時点は、歩行者が急に目の前に飛び出してきたなどの危険を認知、認識した瞬間であり、それに対して、若干の時間的遅れの後、時刻t1においてブレーキ操作が必要であるとの判断がなされることを示している。
【0025】
そして、運転者においては、ブレーキ操作が必要であると判断したとほぼ同時に、脳から筋へ指令が伝達され筋電位が発生し(図6(B)の時刻t1の時点参照)、かかる筋電位が、ハンドル1を握る手から筋電位計101によって取得され、筋電位増幅部11に入力されることとなる。
一方、運転者がブレーキ操作が必要だと判断してから、実際にブレーキペダル21が踏まれるまでは、一般的に大凡0.8秒程度の反応時間があり、この反応時間経過後にブレーキペダル21の踏み込みが始まることとなる(図6(D)参照)。
【0026】
この反応時間は、以下に説明するように筋電位に基づくブレーキ液圧の予圧を行うのに十分な時間であり、かかる反応時間の間、筋電位処理判定部102、ブレーキ制御用電子制御ユニット103及びハイドロリックユニット104により次述するように、ブレーキ液圧の予圧処理が行われることとなる。
まず、筋電位増幅部11においては、筋電位計101から入力された筋電位信号が増幅され、増幅出力は、筋電位処理部12へ出力されることとなる。
次いで、筋電位処理部12においては、入力信号に対して、例えば、包絡線処理やノイズ除去などの処理が施され、さらに、緊急時判定部13において、筋電位処理部12の出力信号が判定レベルLsを超えたか否かが判定される。
【0027】
そして、緊急時判定部13において、筋電位処理部12の出力信号が判定レベルLsを超えたと判定されると、緊急時判定部13からブレーキ制御ECU103へ対して、筋電位処理部12の出力信号が判定レベルLsを超えたことに対応する所定の筋電位検出信号が出力されることとなる。
次いで、ブレーキ制御ECU103からは、筋電位検出信号の入力に対応して、ハイドロリックユニット104へ対して予圧動作のための所定の信号が出力されることとなる。
【0028】
その結果、ハイドロリックユニット104により、ブレーキマスタシリンダ22のブレーキ液が導入され、ハイドロリックユニット104の液圧がブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ液圧の上昇に先立って所定圧Pp(t)だけ高められることとなる(図6(C)参照)。
ここまでの動作は、先に述べた反応時間内において行われ得るものである。
【0029】
そして、反応時間経過直後に、運転者によるブレーキペダル21の踏み込みが開始されると(図6(D)の時刻t2の参照参照)、ブレーキマスタシリンダ22の液圧がブレーキペダル21の踏み込み量にしたがって増大することとなるが、先に述べたようにハイドロリックユニット104により所定の予圧Pp(t)が発生しているため、ブレーキマスタシリンダ22により発生するブレーキ圧は、予圧Pp(t)にブレーキペダル21の踏み込み量に応じた液圧Pm(t)を加えた大きさとなり(図6(E)参照)、ホイールシリンダ105へ伝達されることとなる。
そのため、予圧が無い場合と異なり、ブレーキペダル21の踏み込み当初から制動力が得られることとなる(図6(F)及び図6(G)参照)。
【0030】
なお、上述した構成において、特に、筋電位処理部12や緊急時判定部13は、いわゆるマイクロコンピュータによるソフトウェアの実行により実現可能であり、例えば、そのためのにブレーキ制御ECU103を併用して、先に述べたような必要な処理が実行される構成としても好適である。
また、上述の構成例においては、通常のブレーキシステムを有する構成に適用した例を説明したが、これに限定される必要はなく、例えば、運転者のブレーキ操作に関わらず自動にブレーキが作用するよう構成されたいわゆる自動ブレーキを備えた車両に適用しても良いものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
筋電位のみを確実に得ることができるよう構成したので、簡易な構成で、より迅速なブレーキ制動が実現できるので、車両の緊急制動装置に適する。
【符号の説明】
【0032】
1…ハンドル
2−1〜2−8…正電位電極
3−1〜3−4…アース側電極
101…筋電位計
102…筋電位処理判定部
103…ブレーキ制御用電子制御ユニット
104…ハイドロリックユニット
105…ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者における筋電位の発生を検出し、車両の制動装置を動作せしめるよう構成されてなる緊急制動装置であって、
前記車両のハンドルに筋電位計が設けられ、前記筋電位計により検出された筋電位が所定の判定レベルを超えた際に、前記制動装置を動作せしめるよう構成されてなり、
前記筋電位計は、アースに接続されたアース側電極と、アースから分離された正電位電極とが前記ハンドルの把持部に設けられ、前記正電位電極に筋電位が得られるよう構成されてなることを特徴とする緊急制動装置。
【請求項2】
アース側電極と正電位側電極は、円形断面を有する把持部において、前記アース側電極が一カ所、前記正電位側電極が二カ所、それぞれ配設されると共に、大凡120度の角度で相対するよう設けられてなることを特徴とする請求項1記載の緊急制動装置。
【請求項3】
アース側電極及び正電位側電極は、ハンドルの把持部の周方向において、一枚、又は、複数配設されてなることを特徴とする請求項2記載の緊急制動装置。
【請求項4】
ハンドルの把持部の周方向において複数配設されたアース側電極及び正電位側電極は、直列接続、又は、並列接続されてなることを特徴とする請求項3記載の緊急制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−152896(P2011−152896A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17088(P2010−17088)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】