説明

線材およびその製造方法

【課題】ヘッダー加工等に際してカジリや割れ等の発生を抑制し得る潤滑性に優れた線材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】線材10の表面にショットブラスト処理を施す。この線材10の表面に化成被膜12を形成する。更に化成被膜12の外側に、ステアリン酸カルシウム等の各種金属石鹸をベースとし、これに粉末状の固形ワックスを8〜12w%の範囲で混合した混合潤滑剤からなる潤滑被膜14を形成する。この潤滑被膜14の形成に際しては、混合潤滑剤が収納されている収納室に線材10を通過してその表面に混合潤滑剤を付着したもとで、回転ダイスに挿通して伸線することで、その表面に潤滑被膜14を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化成被膜の上に潤滑被膜が形成された潤滑性に優れた線材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間伸線加工により得られた線材は、次いでヘッダー加工に供されて、ナットやボルト等の最終製品が製造される。このヘッダー加工に際してカジリやヘッダーの割れ等の不具合の発生を防ぐため、前記線材の表面を耐焼き付き性や潤滑性を有する被膜で被覆する必要があり、従来は線材の表面に、先ずシュウ酸塩等からなる化成被膜を形成し、更にその上にステアリン酸カルシウム等の金属石鹸にモリブデンやアルミニウム等の無機物を混合した乾燥潤滑剤からなる潤滑被膜を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記線材への被膜の形成方法としては、供給装置より繰り出されて矯正および脱スケールが施された線材を、シュウ酸塩等の処理液に浸漬した後に乾燥することで化成被膜を形成し、その後、乾燥潤滑剤を筐体内部に収納した伸線ダイスを通過させることにより、化成被膜の上に潤滑被膜を形成している。
【特許文献1】特開平6−220551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記線材が伸線ダイスを通過するときに、前記筐体の内部に収納されている乾燥潤滑剤が充分にダイスに供給されず、伸線後の線材表面に残留する乾燥潤滑剤が少なかったり不均一となっていた。このように線材表面の残留潤滑剤が少なかったり不均一であると、被膜の潤滑性が不充分となり、後工程でのヘッダー加工に際してのカジリや割れ等の発生を充分に抑制することができなかった。
【0005】
すなわちこの発明は、従来の技術に係る前記課題に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、ヘッダー加工等に際してカジリや割れ等の発生を抑制し得る潤滑性に優れた線材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を好適に達成するため、本発明に係る線材は、
表面に化成被膜が形成された線材であって、
前記化成被膜の外側に、乾式潤滑剤に8〜12重量%の割合で粉末状の固形ワックスを混合した混合潤滑剤からなる潤滑被膜が形成されていることを特徴とする。
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を好適に達成するため、本願の別の発明に係る線材の製造方法は、
表面に化成被膜が形成された線材を、収納室に貯留されている請求項1の混合潤滑剤中に挿通した後、伸線用の回転ダイスに挿通するに際し、
前記回転ダイスの回転数を20〜40rpmとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る線材によれば、線材表面に潤滑被膜が必要充分でかつ均一に形成されているから、ヘッダー加工等に際してカジリや割れ等の発生を抑制することができる。
【0009】
本発明に係る線材の製造方法によれば、回転ダイスの回転数を20〜40rpmの範囲に設定することで、線材と共にダイスに供給される混合潤滑剤の量を増加することができ、線材表面に潤滑被膜を必要充分でかつ均一に形成し得る。また、化成被膜を形成する前工程で線材表面にショットブラス処理を施してその表面を粗くすることで、混合潤滑剤のダイスへの供給量がより増加し、線材表面に必要充分な厚みで潤滑被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に係る線材およびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、実施例に係る線材の要部を示すものであって、該線材10の表面には、所定厚みの化成被膜12が形成されると共に、該化成被膜12の外側に、更に潤滑被膜14が所成厚みで形成されている。化成被膜12の成分としては、シュウ酸塩が好適であるが、その他リン酸塩等を用いることができる。また潤滑被膜14の成分としては、ステアリン酸カルシウム等の各種金属石鹸(乾燥潤滑剤)をベースとし、これに粉末状の固形ワックスを8〜12w%の範囲で混合した混合潤滑剤が使用される。この固形ワックスとしては、窒素を含む炭化水素系のものが好適である。なお、その粒子径は、100〜500μmが好適である。なお、乾燥潤滑剤には、キャリア剤としてモリブデンやアルミニウム等の無機物が添加されている。
【0012】
前記混合潤滑剤からなる潤滑被膜14は、線材表面に略均一に形成されており、ヘッダー加工等に際して必要充分な潤滑性が得られ、カジリや割れ等の発生を抑制することができる。
【0013】
図2は、実施例に係る線材の製造方法を示す概略工程図であって、供給装置から繰り出されて矯正や脱スケール処理が施された線材10の表面に、ショットブラスト処理を施す(S1)。このショットブラスト処理は、鋼球やカットワイヤ等のショット材を線材10の表面に高速で当てることで実施され、この処理によって線材10の表面に凹凸が形成される(表面が粗くなる)。
【0014】
次に、化成被膜剤としての例えばシュウ酸塩を含有する水溶液中に線材10を浸漬した後、これを乾燥することにより化成被膜12を形成する(S2)。この化成被膜12を形成することで、後工程で形成される潤滑被膜14の付着性が向上する。なお、化成被膜剤を線材表面に付着させる方法としては、線材10を水溶液中に浸漬する浸漬法に限らず、前記水溶液を線材10の表面に散布する方法を採用し得る。また前記乾燥は、乾燥炉等を用いて強制乾燥する方法の他に、放置して自然乾燥する方法であってもよい。
【0015】
前述したように化成被膜12が形成された線材10に、図3に示すダイス装置16を用いて潤滑被膜14を形成する(S3)。このダイス装置16は、線材10の挿通を許容する入口18aと出口18bとが形成された筐体18の内部に、図示しないモータにより回転駆動される回転ダイス20が、その孔を両口18a,18bと整列するよう配設される。また筐体18における回転ダイス20の配設位置より上流側に、前述した混合潤滑剤22が貯留される収納室24が画成され、該収納室24には線材10のパスラインより上方まで混合潤滑剤22が貯留されている。すなわち、入口18aから筐体18の内部に進入した線材10は、混合潤滑剤22中を通過する際にその表面に混合潤滑剤22が付着し、この状態で回転ダイス20に挿通されて、所要の伸線が施されると同時にその表面に潤滑被膜14が形成される。
【0016】
前記混合潤滑剤22は、前述した如く、ステアリン酸カルシウム等の各種金属石鹸にキャリア剤が添加されているものをベースとし、これに粉末状の固形ワックスを8〜12w%の範囲で混合したものが使用される。固形ワックスの含有量が、8w%より少ないと、混合潤滑剤22の線材表面への密着性が不充分となり、また12w%より多くても密着性の改善効果が飽和すると共に、潤滑剤の粘性が高くなって伸線能率が低下するおそれがある。すなわち、固形ワックスの混合量を8〜12w%の範囲に設定することで、伸線能率を低下させることなく混合潤滑剤22の線材10に対する密着性を向上させ、伸線後の潤滑被膜14が剥がれたり不充分となるのは抑制される。
【0017】
また、前記回転ダイス20の回転数は、20〜40rpmの範囲に設定される。この回転数が、20rpmより低いと、回転ダイス20への混合潤滑剤22の持ち込み量(供給量)が不充分となり、また40rpmより高くても混合潤滑剤22の持ち込み量の改善効果は飽和する。すなわち、前記回転ダイス20の回転数を20〜40rpmの範囲に設定することで、回転しつつ回転ダイス20に引き込まれる線材10と共に前記混合潤滑剤22が回転ダイス20に充分に持ち込まれ、前記潤滑被膜14が均一に形成される。
【0018】
なお、前記化成被膜12を形成する前にショットブラスト処理を施すことで、化成被膜12が形成されている表面にも凹凸が残っており、該凹凸によって混合潤滑剤22の回転ダイス20への持ち込み量が増加し、伸線後の線材10の表面に必要充分な厚みの潤滑被膜14を形成することができる。
【0019】
前述した伸線加工により、化成被膜12の外側に潤滑被膜14が形成された線材10は、ヘッダー加工に際して必要となる潤滑性を備え、カジリや割れ等の発生を抑制することができる。
【0020】
〔実験例1〕
鋼種がSUS430で直径が20mmの線材に、シュウ酸塩からなる化成被膜を形成することを共通条件として、乾式潤滑剤に粉末状の固形ワックスを混合しない比較例1および2と、乾式潤滑剤に粉末状の固形ワックスを10w%混合した発明例1〜3について、ショットブラスト処理の有無、および回転ダイスの回転数の各条件を変えたもとで、直径を19mmに伸線加工することで潤滑被膜を形成した。そして、得られた各線材における潤滑剤の付着状況を目視により観察した結果を、表1に示す。また、得られた各線材のヘッダー加工性の良否につき、カジリが発生するまでの本数により、○×で評価した結果を表1に示す。なお、10万本以上が◎、5万〜10万本が○、1万〜5万本が△、1万本以下を×とした。
【表1】

【0021】
〔実験例2〕
前述した実験例1と同様の条件で、直径を20mmから直径16mmに伸線し、得られた線材を長さ50mmに切断してサンプル(比較例1,2および発明例1〜3)を作製し、試験機として東洋ボールドウィン(株)製摩擦試験機 MODEL EFM−4を用いて、以下に示す試験条件でバウデン試験を行ない、その表面の潤滑性を評価した結果を、表1に示す。なお、潤滑性は、圧子とサンプルとの動摩擦係数が0.2以上となるまでの摺動回数で評価し、1000回以上が◎、800〜1000回が○、500〜800回が△、500回以下を×とした。
〈試験条件〉
圧下荷重:4kg
圧子:SUJ−25mm球
摺動幅:10mm
摺動速度:10mm/sec
試験温度:常温
【0022】
表1に示すように、乾式潤滑剤に粉末状の固形ワックスを混合した発明例1〜3については、潤滑剤の付着率、ヘッダー加工性およびバウデン試験の結果が、何れも各比較例より高い評価が得られることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例に係る線材の要部断面図である。
【図2】実施例の製造方法の工程図である。
【図3】実施例の製造方法に用いられるダイス装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0024】
10 線材,12 化成被膜,14 潤滑被膜,20 回転ダイス,22 混合潤滑剤
24 収納室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に化成被膜(12)が形成された線材であって、
前記化成被膜(12)の外側に、乾式潤滑剤に8〜12重量%の割合で粉末状の固形ワックスを混合した混合潤滑剤(22)からなる潤滑被膜(14)が形成されている
ことを特徴とする線材。
【請求項2】
表面に化成被膜(12)が形成された線材(10)を、収納室(24)に貯留されている請求項1の混合潤滑剤(22)中に挿通した後、伸線用の回転ダイス(20)に挿通するに際し、
前記回転ダイス(20)の回転数を20〜40rpmとした
ことを特徴とする線材の製造方法。
【請求項3】
前記線材(10)の表面に化成被膜(12)を形成する前に、ショットブラスト処理を施すようにした請求項2記載の線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−122936(P2006−122936A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312973(P2004−312973)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】