説明

線材の溶融めっき方法並びに溶融めっき装置

【課題】めっき厚の均一性に優れ、安定的に偏肉度を20%以下を達成することができる線材の溶融めっき方法並びに溶融めっき装置を提供する。
【解決手段】金属製の線材11を、溶融めっき液12を保持しためっき浴槽に連続的に浸して溶融めっき層を形成する溶融めっき方法において、線材11をめっき浴槽の湯面121から上方に引出す部分を緊張液面形成管17で囲むと共に、緊張液面形成管17を、その緊張液面形成管17で囲まれためっき湯面が水平面を持たない内径に形成して、線材11に溶融めっきを施すものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の線材に付着させるめっき層の長手方向の厚さの均一性を向上させると共に、偏肉を小さくできる線材の溶融めっき方法並びに溶融めっき装置に係り、特に、線材の速度調整以外の方法で、めっき厚を調整することができる線材の溶融めっき方法並びに溶融めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、線材の溶融めっき方法として、図6に示す溶融めっき装置を用いて線材にめっきする方法がある。
【0003】
図6において、めっき浴槽40内には、溶融めっき材料として用いる低融点金属の溶融めっき液42が保持され、めっき浴槽40内にシンカーロール43が回転自在に固定され、めっき浴槽40の溶融めっき液42の湯面42lに絞りダイス44が適当な支持具で固定もしくは浮遊させて設けられ、その上方に引き上げロール46が設けられて溶融めっき装置が構成される。
【0004】
この溶融めっき装置を用いた線材の溶融めっき方法は、線材41をめっき浴槽40内の溶融めっき液42に連続的に送って浸し、シンカーロール43より線材41を上方へ引出し、めっき浴槽40の湯面42lの適当な穴径の絞りダイス44を通すことにより、余分な溶融めっき液42を絞り出し、引き上げロール46に引き上げる間に凝固させて、線材41に所望のめっき厚のめっき層45をめっきする溶融めっき方法である。
【0005】
この溶融めっき方法は、高速でめっきができる反面、線材41と絞りダイス44の偏心あるいは線材41および絞りダイス44の振動により、図7に示すようにめっき層45の長手方向の外径は一定でも、めっき厚さが不均一となる偏肉が生じやすいという問題がある。
【0006】
そこで、偏肉を低減するために、絞りダイスを用いない溶融めっき法がある。
【0007】
この絞りダイスを用いないダイスレスの場合、めっき浴槽湯面から線材を引出す部分において、図8に示すように線材41を取巻く溶融めっき液42からなる凹面の円錐表面をもつ引出し円錐42cが形成され、その円錐42cが線材41を中心にして形成されるため偏肉を低減できる。
【0008】
この引出し円錐42cは、溶融めっき液42と線材41の濡れ性や、線材の走行速度により、この円錐42cの形や大きさは変化するが、円錐42cは、線材41の外周より距離R離れた点Xから水平な湯面42lより上昇し始めて円錐42cの底面が形成される。線材41と溶融めっき液42の濡れ性が良好で、走行速度を速くすれば、点Xの距離Rは長くなりめっき層の層厚が厚くなり、また、濡れ性が低く、線材の走行速度が遅くなれば距離Rは短く、層厚は薄くなる。
【0009】
従って、濡れ性と線材の走行速度を最適に維持すれば、溶融めっき層の外径を長手方向に均一にして偏肉も低減できる。
【0010】
この引出し円錐の形状は、溶融めっき液42がめっき中に揺動したり線材41が振動するとその形状が変化するため、めっき厚の長手方向の均一性向上や偏肉低減のためには、溶融めっき線材の製造中に乱れないようにする必要がある。
【0011】
このためには、めっき浴槽湯面や線材が振動しないようにすることが必要である。
【0012】
その方法として特許文献1〜3に示されているように、線材引出し部を管あるいは筒状体等で、シンカーロールが回転することにより惹き起こされる溶融金属の揺れから隔離する方法や、外部のめっき浴槽湯面の波立ちから隔離する方法が提案されている。
【0013】
またこの管あるいは筒状体の中を非酸化性ガスあるいは還元性ガスで満たし、内部の湯面酸化を抑えることや、管を加熱することにより、引出し部において線材と溶融金属の濡れ性を上げることも効果があることも記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平5−32466号公報
【特許文献2】特許第2749694号公報
【特許文献3】特許第2967328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記のように絞りダイスを用いない溶融めっき線の製造方法では、めっき層の長手方向の均一性は比較的優れるものの、依然として偏肉度を安定的に20%以下にすることが困難であった。
【0016】
ここで偏肉度とは、めっき線の断面において、次式で表される数値である。
【0017】
偏肉度(%)=((最大めっき厚さ)−(最小めっき厚さ))/(最小めっき厚さ)×100
また、この絞りダイスを用いない溶融めっき方法では、走行する線材の線速により、めっき厚を調整(線速を早くするとめっきが厚くなる)するが、一般に絞りダイスを用いる溶融めっき法の線速が数百m/分であるのに対し、数m〜数十m/分と線速が遅い。線速を上げるためには溶融めっき液の温度を上げる方法があるが、線材の金属成分が溶融めっき液へ溶出する量が多くなる等の不具合がある。
【0018】
なお、電解めっき法によれば、溶融めっき法に比し、偏肉の少ないめっき線材を得ることができるが、製造装置が高コストであること、廃液処理が必要であること、めっきできる金属元素に限りがあること、2種以上の元素からなる合金めっきにおいてはめっき浴の管理が煩雑等の問題があった。
【0019】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、電解めっき法よりも低コストである溶融めっき法であって、また溶融金属の温度や線速以外の方法でめっき厚を調整する方法において、めっき厚の均一性に優れ、安定的に偏肉度を20%以下を達成することができる線材の溶融めっき方法並びに溶融めっき装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、金属製の線材を、溶融めっき液を保持しためっき浴槽に連続的に浸して溶融めっき層を形成する溶融めっき方法において、線材をめっき浴槽の湯面から上方に引出す部分を、緊張液面形成管で囲むと共に、該緊張液面形成管を、その緊張液面形成管で囲まれためっき湯面が水平面を持たない内径に形成して線材に溶融めっきを施すことを特徴とする線材の溶融めっき方法である。
【0021】
請求項2の発明は、緊張液面形成管の下方のめっき浴槽中にガイドダイスを設け、そのガイドダイスで、前記線材が、緊張液面形成管の中心と同一軸線上なるようにガイドする請求項1記載の線材の溶融めっき方法である。
【0022】
請求項3の発明は、線材が銅線又は銅合金線からなり、溶融めっき液が、溶融Snあるいは溶融Sn合金からなり、その線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を7mm以下にした請求項1又は2記載の線材の溶融めっき方法である。
【0023】
請求項4の発明は、線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を調整することにより、めっき厚さを調整する請求項1〜3いずれかに記載の線材の溶融めっき方法である。
【0024】
請求項5の発明は、金属製の線材を、溶融めっき液を保持しためっき浴槽に連続的に浸して溶融めっき層を形成する溶融めっき装置において、線材をめっき浴槽の湯面から上方に引出す部分を囲む緊張液面形成管を設け、該緊張液面形成管を、その緊張液面形成管で囲まれためっき湯面が水平面を持たない内径に形成したことを特徴とする線材の溶融めっき装置である。
【0025】
請求項6の発明は、緊張液面形成管の下方のめっき浴槽中に、前記線材が、緊張液面形成管の中心と同一軸線上なるようにガイドするガイドダイスを設けた請求項5記載の線材の溶融めっき装置である。
【0026】
請求項7の発明は、線材が銅線又は銅合金線からなり、溶融めっき液が、溶融Snあるいは溶融Sn合金からなり、その線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を7mm以下にした請求項5又は6記載の線材の溶融めっき装置である。
【0027】
請求項8の発明は、線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を調整することにより、めっき厚さを調整する請求項5〜7いずれかに記載の線材の溶融めっき装置である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、線材をめっき浴槽の湯面から上方に引出す部分を囲む緊張液面形成管にて線材にめっきを施すことで偏肉を20%以下にできるという優れた効果を発揮するものである。また、緊張液面形成管と線材の距離を調整することで、めっき厚を調整することが可能となり、所望のめっき厚を得るために選択する線速の幅が広がる効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の溶融めっき装置の一実施の形態を示す概略図である。
【図2】本発明において、溶融めっき液と濡れ性のない素材で形成した緊張液面形成管を用いたときの溶融めっき液の引出し部の状態を示す模式図である。
【図3】本発明において、溶融めっき液と濡れ性のよい素材で形成した緊張液面形成管を用いたときの溶融めっき液の引出し部の状態を示す模式図である。
【図4】本発明における実施例1〜6と比較例1〜4における石英管内表面と線材表面の距離と形成されるめっき厚の関係を示した図である。
【図5】本発明における実施例7〜12と比較例5〜8における銅管内表面と線材表面の距離と形成されるめっき厚の関係を示した図である。
【図6】従来の絞りダイスを用いた溶融めっき装置の概略図である。
【図7】図6の溶融めっき装置で製造した線材のめっき層の偏肉状態を示す断面図である。
【図8】絞りダイスを用いない場合の線材引き出し部の引出し部形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0031】
図1は、本発明の溶融めっき装置の概略を示したものである。
【0032】
図において、めっき浴槽10内には、SnやSn合金からなる低融点金属の溶融めっき液12が所定の温度で溶融保持される。
【0033】
めっき浴槽10内には、銅線や銅合金線からなる線材11を案内するシンカーロール13が回転自在に設けられ、その上方にガイドダイス14が設けられ、めっき浴槽10の湯面12l上には引き上げロール16が設けられる。
【0034】
ガイドダイス14と引き上げロール16間には、線材11にめっき層15を形成するための緊張液面形成管17が線材11を覆うように、かつその下端が溶融めっき液12に浸るよう、またその上端が湯面12lから突出するように設けられる。
【0035】
この緊張液面形成管17の上部には、緊張液面形成管17の上部空間を覆うように酸化防止ガス室18が設けられ、その酸化防止ガス室18には、窒素ガスなどの不活性ガスや水素などの還元ガスを供給する酸化防止ガス供給管19が接続される。
【0036】
緊張液面形成管17は、溶融めっき液12と濡れ性の少ない材料、例えば、石英管、ステンレスパイプなどで形成されるか、或いは溶融めっき液12と濡れ性の良好な材料、例えば銅管や銅合金管、或いは管の内表面を細かく荒らして表面積を増大した管などで形成される。また緊張液面形成管17の内径は、図8で説明した湯面からの上昇する点Xの位置から内側、すなわち引き上げで形成される円錐の底面径より小さくなるように形成される。また緊張液面形成管17の高さは、引き上げで形成される円錐の高さよりも高ければ良い。
【0037】
めっき浴槽10上には、溶融めっき液12に浸る前の線材11の外径を測定する外径測定器20aが設けられ、また引き上げロール16の下方にはめっき層15を形成した後の外径を測定する外径測定器20bが設けられている。
【0038】
次に、この溶融めっき装置による線材の溶融めっき方法を説明する。
【0039】
線材11は、外径測定器20aで外径が測定されて、めっき浴槽10内の溶融めっき液12に連続的に送られて浸り、シンカーロール13で上方に反転され、ガイドダイス14で位置決めされて緊張液面形成管17の中心を通り、そこで酸化防止ガス室18からの不活性ガスや還元性ガス雰囲気下で、溶融めっき液12が線材11の外周にその濡れ性で付着して引き上げられてめっき層15(図2,図3)が形成され、外径測定器20bで、そのめっき後の線材11の径が測定され、引き上げロール16からキャプスタン(図示せず)を介して巻取ボビン(図示せず)に巻き取られる。
【0040】
本発明の溶融めっき方法においては、引き上げで形成される溶融めっき液による円錐の底面径より、小さな内径の緊張液面形成管17を通して線材11がめっきされるため、めっき層15の偏肉を20%以下にすることが可能となる。
【0041】
以下にこの理由について説明する。
【0042】
特許文献1〜3に示される絞りダイスを用いない溶融めっき方法においては、線材をめっき浴槽湯面から上方に引出す部分を、図8で説明したX点より外側に内表面がある、比較的径の大きな石英管等の筒状体で隔離するものであり、この筒状体で、ある程度、筒状体内部の湯面の振動を抑えられるが、X点より外側の水平な湯面は、振動に対して自由に振動するため、揺れを完全に抑えることは難しく、このため偏肉を20%以下にすることは困難であった。この湯面の振動は、めっき浴槽内の線材の走行やシンカーロールの回転が惹き起こす溶融めっき液の流動のみならず、めっき装置自体の振動や、作業場に置かれた他の機械から発生する振動等も影響することが分かった。よって振動を完全になくすことは不可能であり、偏肉を20%以下にすることも困難であることが分かった。
【0043】
そこで、本発明者等が鋭意研究した結果、線引き出し部を比較的内径の小さな緊張液面形成管17で囲むこと、すなわち、図8で説明した円錐の底面となる点Xより内側で線引き出し部を囲むことで、緊張液面形成管17で囲まれた部分が溶融めっき液12の表面張力により緊張した状態の線引き出し部とすることができ、従来のように自由振動する水平面が存在しないため、湯面が多少振動で揺れても偏肉を20%以下にすることができることが分かった。
【0044】
すなわち、緊張液面形成管17で囲まなければ、図2、図3で点線で示すように線引き出し部が円錐42cで形成され、円錐42cの外周の水平な湯面の振動により円錐42cの形状が変化して偏肉が大きくなるが、円錐42cの底面径より小さな内径の緊張液面形成管17で囲むことで、その内部の湯面が水平面をもたない、内外周面から表面張力で引っ張られた線引き出し部23、24が形成される。これにより、緊張液面形成管17内部の線引き出し部23、24の湯面の振動を完全に抑えることが可能となり、偏肉を20%以下にできることが分かった。
【0045】
ここで、緊張液面形成管17を石英管やステンレス管のように、溶融めっき液12とは濡れ性のない材料で形成することで、図2に示すように、石英管と触れている近傍の湯面は、石英管の外側に形成される湯面12lよりやや低く、石英管内周面から表面張力で全体に凸状となり、中心の線材11では凹状の円錐状となり、湯面が水平面を持たない状態の線引き出し部23が形成される。
【0046】
この線引き出し部23は、点線で示した円錐42cと違って、中心と外周が表面張力で引っ張られて、底部と頂部の高さが低い形状となり、自由振動する水平面がないため、振動が伝達されても、振動することがないため、偏肉を低減できる。また、線引き出し部23は、円錐42cと比較し大きさが大きくなるため、めっき厚が厚くなる。緊張液面形成管17と線材11の距離Dが小さいほど、その効果は大きくなる。
【0047】
具体的には溶融錫系めっきの場合は、緊張液面形成管17を石英管で形成した場合、石英管の内表面と線材11の表面の距離を7mm以下にすることで、上記状態の線引き出し部23が形成できる。
【0048】
また逆に、緊張液面形成管17の内表面が溶融めっき液12と濡れ性の良好な素材で構成されるときは、図3に示すように線材11の外周面と緊張液面形成管17の内表面の溶融めっき液12は、緊張液面形成管17の外側に形成される湯面12lよりやや高く、その中央部が湯面12lとほほ同じ高さとなり、表面張力で、内外周が緊張液面形成管17と線材11により引き上げられた、緊張した状態の線引き出し部24が形成でき、振動を完全に抑えることができる。また、線引き出し部24は円錐42cと比較し大きさが小さくなるため、めっき厚が薄くなる。緊張液面形成管17と線材11の距離Dが小さいほど、その効果は大きくなる。
【0049】
また、この線引き出し部23,24を囲う緊張液面形成管17は、従来の管や筒と違って内径が小さいため、線材11の中心がずれると、引出し円錐の形も非対称となり、結果としてめっきの偏肉が発生しやすくなるために、緊張液面形成管17のめっき浴槽10内に線材11の通過位置を決めるガイドダイス14を設けて線材11を緊張液面形成管17の中心と合うように支持すれば、偏肉を防止できる。このときガイドダイス14は線材11の振動を抑える役目も果たす。
【0050】
緊張液面形成管17の内部には必要に応じて、不活性ガス室18から窒素などの非酸化性ガスや窒素・水素混合ガスなどの還元性ガスを用いることにより、湯面の酸化を防ぐと良い。
【0051】
溶融めっき液12中に、亜鉛等の酸化傾向の高い金属が含まれる場合は完全に酸化膜の形成を抑えることができないが、本発明の緊張液面形成管17のように比較的小さな管で線引き出し部を囲うことにより、通常よりも酸化膜の発生量を抑制することができる。湯面の酸化防止をすることにより、酸化膜がめっき線材に付着するのを防止すると共に、管の内表面に接する湯面に大きな表面張力を発生させることができる。
【0052】
また緊張液面形成管17内の表面を細かく荒らし、表面積を増やすことによって、溶融めっき液12と濡れ性の良好な素材の場合はより濡れやすく、濡れ性のない素材の場合はより濡れにくくなるので、表面張力の大きさ、ひいては引出し円錐の形状を任意に変えることができる。また、緊張液面形成管17の内表面と線材表面の距離を変えることによっても引出し円錐の形状を変えられることはいうまでもない。
【0053】
また外径測定器20a,20bにより、めっき前後の線材の外径を測定し、両者の差分を取ることでめっき厚とし、線材11の線速を決定するキャプスタン(図示せず)の巻き取り速度と同調させることにより、長時間の製造におけるめっき厚の長手方向の均一性を保つことができる。
【実施例】
【0054】
めっき槽で錫を溶解して温度280℃に保ち、Φ1.0mmの銅線を前処理後、溶融めっき槽へ導入し、シンカーロールにて鉛直上方に引き上げるラインにて溶融めっきを行った。線引出し部は石英管、または表面処理し濡れ性を向上させた銅管で囲み、窒素ガスを1リットル/分で導入した。
【0055】
線材の引き上げ線速は、4.5m/min及び12.5m/minとし、石英管と銅管の内径をΦ5〜Φ25mmまで振って溶融めっき線を試作し、試作しためっき線をそれぞれの条件で各10箇所ずつ断面研磨による偏肉度の評価及び電解式膜計によりめっき厚の評価を行った。得られた10箇所のデータを平均し、表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
管の内径が小さいΦ5〜15mmの実施例1〜12では、石英管内の湯面に水平面は現れず、また管内の振動は観察されず、それに伴いめっき偏肉が小さくなり、偏肉度は20%を切ることを確認した。また、めっき厚に変化が現れ、石英管を用いた場合は厚く、銅管を用いた場合は薄くなることが分かった。
【0058】
これに対し、管の内径がΦ20mm以上の比較例1〜8は、湯面に水平面が現れはじめ、その部分で微妙な湯面の振動を確認した。それに伴い偏肉度もやや悪くなることを確認した。まためっき厚は、Φ20mm以上では変化がなかった。
【0059】
このことから溶融Snめっきの線引出しを管で囲う場合には、管の内表面と線材表面の距離を7mm以下にすることで、湯面の振動を完全に抑えることができ、偏肉の少ない溶融めっき線が得られる。
【0060】
また管の素材について、溶融めっき液と濡れ性のない石英管、或いは濡れ性の良い銅管を選択することによって、更に、管内面と線材表面の距離を7mm以下で任意に調整することにより、線速以外の方法で、20%以下の偏肉としたままめっき厚を調整することができる。
【0061】
図4は、表1に示した実施例1〜6と比較例1〜4における石英管内表面と線材表面の距離Dと、形成されるめっき厚の関係を示したものであり、また図5は、実施例7〜12と比較例5〜8における銅管内表面と線材表面の距離Dと、形成されるめっき厚の関係を示したものである。
【0062】
この図4、図5から分かるように、管内面と線材表面の距離を7mm以下で任意に調整することにより、石英管では距離Dを小さくすればめっき厚さを厚くでき、逆に銅管では距離Dを小さくすればめっき厚さを薄くできる。
【0063】
このことは、所望のめっき厚を得るにあたって、従来より線速を大きくして生産性を上げたり、従来より線速を小さくして、より偏肉度や均一性を向上させたりすることが可能とするものである。
【符号の説明】
【0064】
10 めっき浴槽
11 線材
12 溶融めっき液
13 シンカーロール
14 ガイドダイス
15 めっき層
17 緊張液面形成管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の線材を、溶融めっき液を保持しためっき浴槽に連続的に浸して溶融めっき層を形成する溶融めっき方法において、線材をめっき浴槽の湯面から上方に引出す部分を、緊張液面形成管で囲むと共に、該緊張液面形成管を、その緊張液面形成管で囲まれためっき湯面が水平面を持たない内径に形成して線材に溶融めっきを施すことを特徴とする線材の溶融めっき方法。
【請求項2】
緊張液面形成管の下方のめっき浴槽中にガイドダイスを設け、そのガイドダイスで、前記線材が、緊張液面形成管の中心と同一軸線上になるようにガイドする請求項1記載の線材の溶融めっき方法。
【請求項3】
線材が銅線又は銅合金線からなり、溶融めっき液が、溶融Snあるいは溶融Sn合金からなり、その線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を7mm以下にした請求項1又は2記載の線材の溶融めっき方法。
【請求項4】
線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を調整することにより、めっき厚さを調整する請求項1〜3いずれかに記載の線材の溶融めっき方法。
【請求項5】
金属製の線材を、溶融めっき液を保持しためっき浴槽に連続的に浸して溶融めっき層を形成する溶融めっき装置において、線材をめっき浴槽の湯面から上方に引出す部分を囲む緊張液面形成管を設け、該緊張液面形成管を、その緊張液面形成管で囲まれためっき湯面が水平面を持たない内径に形成したことを特徴とする線材の溶融めっき装置。
【請求項6】
緊張液面形成管の下方のめっき浴槽中に、前記線材が、緊張液面形成管の中心と同一軸線上なるようにガイドするガイドダイスを設けた請求項5記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項7】
線材が銅線又は銅合金線からなり、溶融めっき液が、溶融Snあるいは溶融Sn合金からなり、その線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を7mm以下にした請求項5又は6記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項8】
線材表面と緊張液面形成管の内表面の距離を調整することにより、めっき厚さを調整する請求項5〜7いずれかに記載の線材の溶融めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248589(P2010−248589A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101223(P2009−101223)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】