説明

線材の皮膜剥離装置及びその皮膜剥離方法

【課題】断面が方形を成す線材の全周における皮膜を容易にかつ効率良く剥離する。
【解決手段】線材の皮膜剥離装置は、線材1を支持する線材支持手段3と、線材の皮膜12に切削具41,42を当接させる切込み付与手段と、切削具を線材に対して長手方向に相対移動させて皮膜を剥離する切削具相対移動手段6とを備える。線材支持手段3は,断面が方形を成す線材を支持するように構成され、切削具は、線材の互いに対向する主面1a,1bのそれぞれに対峙して設けられた主面切削具41と、側面1c,1dのそれぞれに対峙して設けられた側面切削具42とを有し、切込み付与手段は、主面皮膜に主面切削具41を当接させる主面切削具当接機構50と、側面皮膜に側面切削具42を当接させる側面切削具当接機構56とを有する。主面又は側面の両側における角部に形成された角部皮膜にも当接するような凹状切削刃が主面切削具41又は側面切削具42に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面が方形を成す線材の皮膜を剥離する皮膜剥離装置及び皮膜剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁皮膜等の皮膜に被覆された線材を用いて巻線を行う場合には、線材を絡げる端子との電気的接触を確保するために、又は直接電気的接触部とするために線材の皮膜を部分的に剥離する必要がある。そして、断面形状が長方形である平角線材の絶縁皮膜を剥離する装置として、回転するローラやすりを絶縁皮膜に当接させて、その絶縁皮膜を剥離する装置が知られている。このような装置の場合、ローラやすり又は線材を移動させることによって絶縁皮膜の剥離を行うけれども、最初にローラやすりを平角線材に押し付ける部分、つまり剥離部の端部に窪みができてしまう不具合がある。
【0003】
このような不具合を解消するために、本出願人は、断面が方形を成す線材の対向する主面に切削具を当接させて主面に形成された皮膜に切込みを加え、その皮膜に切込みを加えた切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって皮膜を剥離する皮膜剥離装置を提案した(例えば、特許文献1参照。)。この皮膜剥離装置は、切削具を線材に対して相対的に移動させるだけで皮膜を除去することができ、ローラやすりを用いた剥離装置のように、平角線材に窪みができるような事態を回避することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−82301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、断面が方形を成す線材にあっては、互いに対向する両主面にのみならず、その主面に直交して互いに対向する両側面にも皮膜が形成され、主面と側面が交差する角部が断面において湾曲しているようなものであれば、その湾曲する角部においても皮膜が形成される。そして、上記皮膜剥離装置では、その切削具は断面が方形を成す線材の対向する主面における皮膜に切込みを加えるものであるので、その切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって剥離される皮膜はその主面のものとなり、その主面に直交する側面における皮膜は残存することになる。側面における皮膜は残存していたとしても、線材の対向する主面の皮膜が剥離されれば、その線材と端子との電気的接触は確保することができるけれども、上記皮膜剥離装置ではその線材の全周に形成された皮膜を剥離することはできずに、その線材の全周に形成された皮膜の剥離が要求された場合に、その要求に対応することができないという未だ解決すべき課題が残存していた。
【0006】
本発明の目的は、断面が方形を成す線材の全周における皮膜を容易にかつ効率良く剥離し得る線材の皮膜剥離装置及びその皮膜剥離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、線材を支持する線材支持手段と、線材の外表面に形成された皮膜に切削具を当接させて皮膜に切込みを加える切込み付与手段と、皮膜に切込みを加えた切削具を線材に対して長手方向に相対移動させて皮膜を剥離する切削具相対移動手段とを備えた皮膜剥離装置の改良である。
【0008】
そして、線材支持手段は、断面が方形を成す線材を支持するように構成され、切削具は、線材の互いに対向する主面のそれぞれに対峙して設けられた主面切削具と、主面に直交して互いに対向する側面のそれぞれに対峙して設けられた側面切削具とを有し、切込み付与手段は、主面に形成された主面皮膜に主面切削具を当接させる主面切削具当接機構と、側面に形成された側面皮膜に側面切削具を当接させる側面切削具当接機構とを有することを特徴とする。
【0009】
この線材の皮膜剥離装置では、主面切削具又は側面切削具の主面皮膜又は側面皮膜への当接時に主面又は側面の両側における角部にそれぞれ形成された角部皮膜にも当接するような凹状切削刃を主面切削具又は側面切削具に形成することが好ましい。この場合、主面切削具と側面切削具が線材の長手方向にずれて設けられることが更に好ましい。
【0010】
本発明の線材の皮膜剥離方法は、断面が方形を成す線材の対向する主面に主面切削具を当接させて主面に形成された主面皮膜に切込みを加え、主面皮膜に切込みを加えた主面切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって主面皮膜を剥離する皮膜剥離方法の改良である。
【0011】
その特徴ある点は、主面皮膜の剥離と同時に又は主面皮膜の剥離の前後に、主面に直交して互いに対向する側面のそれぞれに対して側面切削具を当接させて側面に形成された側面皮膜に切込みを加え、側面皮膜に切込みを加えた側面切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって側面皮膜を剥離することが行われるところにある。
【0012】
この場合、主面切削具の当接時に主面に形成された主面皮膜と主面の両側における角部にそれぞれ形成された角部皮膜に切込みを入れる凹状切削刃を主面切削具に形成すれば、主面切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させるときに主面皮膜とともに角部皮膜をそれぞれ剥離することができ、側面切削具の当接時に側面に形成された側面皮膜と側面の両側における角部にそれぞれ形成された角部皮膜に切込みを入れる凹状切削刃を側面切削具に形成しても、側面切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させるときに側面皮膜とともに角部皮膜をそれぞれ剥離することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の線材の皮膜剥離装置及びその皮膜剥離方法では、主面皮膜の剥離と同時に又は主面皮膜の剥離の前後に、側面皮膜に切込みを加えた側面切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させることによって側面皮膜を剥離することができるので、断面が方形を成す線材の全周における皮膜を剥離することができる。そして、主面と側面が交差する角部が断面において湾曲し、その湾曲する角部において皮膜が形成されていたとしても、それらの角部皮膜に切込みを入れる凹状切削刃を主面又は側面切削具に形成することにより、その切削具を線材に対して線材長手方向に相対移動させるときに主面又は側面皮膜とともにそれらの角部皮膜をそれぞれ剥離することができる。この結果、本発明の線材の皮膜剥離装置及びその皮膜剥離方法では、断面が方形を成す線材の全周における皮膜を容易にかつ効率良く剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明実施形態の皮膜剥離装置の概略を示す側面図である。
【図2】その皮膜剥離装置の概略を示す平面図である。
【図3】その線材に対する切削具の位置関係を示す斜視図である。
【図4】その線材の主面に主面切削具が対峙した状態を示す拡大断面図である。
【図5】その主面切削具が主面皮膜に当接して切込みが入れられた状態を示す図4に対応する断面図である。
【図6】その線材の側面に側面切削具が対峙した状態を示す拡大断面図である。
【図7】その側面切削具が側面皮膜に当接して切込みが入れられた状態を示す図6に対応する断面図である。
【図8】皮膜が剥離された平角線材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1及び図2に、本発明における線材の皮膜剥離装置100を示す。この皮膜剥離装置100は、絶縁皮膜等の皮膜に被覆された断面が方形の線材1をボビンやステータコア等に巻線するにあたり、線材1を絡げる端子との電気的接触を確保するために、又は直接電気的接触部とするために線材1の皮膜を予め部分的に剥離する装置である。本実施の形態では、線材の種類として断面形状が長方形である平角線材1の皮膜を剥離する場合について説明する。そして、この平角線材1は、図6に示すように、その断面が長方形を成す導線部11と、その導線部11の周囲を被覆する皮膜12により構成される。この平角線材1は、その二組の対向する面のうち幅方向の寸法の大きい面を主面1a,1bとし、その主面1a,1bに直交する面であって互いに対向して幅方向の寸法の小さい面を側面1c,1dとするものである。
【0017】
図1及び図2に示すように、皮膜剥離装置100は、線材供給源(図示せず)から供給される平角線材1を皮膜剥離装置100に導く線材送り機構2と、平角線材1を支持する線材支持手段としての線材支持機構3と、平角線材1の皮膜を切削する切削具41,42と、切削具41,42を平角線材1の外側から中心に向かって移動させ皮膜に対して切込みを加える切込み付与手段50,56と、切削具41,42を平角線材1に対して線材長手方向に相対移動させる切削具相対移動手段6とを備える。
【0018】
線材送り機構2は、基台10上に立設する支柱21と、支柱21に回転可能に設けられた一対のローラ22と、一対のローラ22のそれぞれの回転軸に連結されローラ22を回転させるモータ23とを備える。線材供給源から供給される平角線材1は、その両主面1a,1bが回転する一対のローラ22にて挟まれ、基台10の平面10aと平行な方向へ送られ、線材支持機構3へと導かれる。なお、一対のローラ22はそれぞれ上下に移動可能に構成され、平角線材1の厚さ、即ち、側面1c,1dの幅方向の寸法に応じて一対のローラ22間の間隔が調整可能に構成される。
【0019】
線材支持機構3は、平角線材1の皮膜12を剥離するにあたって、線材送り機構2から送られてきた断面が方形を成す平角線材1を支持するものであり、送られてきた平角線材1を載置する載置台31と、載置台31に対して平角線材1を押圧する押板32と、載置台31に連結部材35を介して連結されたシリンダ33とを備える。シリンダ33は、シリンダチューブ33aと、空気供給源(図示せず)からシリンダチューブ33aの内部に供給される圧縮空気によってそのシリンダチューブ33a内を往復運動する図示しないピストンと、そのピストンに基端が接続され先端がシリンダチューブ33aの端縁から突出してピストンとともに往復運動するロッド33bとを備える。押板32はロッド33bの先端に取付けられ、ロッド33bの往復運動によって、平角線材1の主面1aへの押圧とその解除が行われる。そして、平角線材1は、載置台31と押板32にてその主面1a,1bが挟まれ支持されるように構成される。
【0020】
切削具は、平角線材1の互いに対向する主面1a,1bのそれぞれに対峙して設けられた主面切削具41(図1)と、その主面1a,1bに直交して互いに対向する側面1c,1dのそれぞれに対峙して設けられた側面切削具42(図2)とを有する。そして切込み付与手段は、その主面1a,1bに形成された主面皮膜に主面切削具41を当接させる主面切削具当接機構50と、側面1c,1dに形成された側面皮膜に側面切削具42を当接させる側面切削具当接機構56とを有する。
【0021】
主面切削具当接機構50は、基台10上に立設する支柱51と、支柱51に沿って取付けられ平角線材1と垂直方向に延在するガイドレール52と、ガイドレール52に沿って移動する移動体53と、支柱51に固定されたシリンダ54とを備える。シリンダ54は、シリンダチューブ54aと、空気供給源(図示せず)からシリンダチューブ54aの内部に供給される圧縮空気によってそのシリンダチューブ54a内を往復運動する図示しないピストンと、そのピストンに基端が接続され先端がシリンダチューブ54aの端縁から突出してピストンとともに往復運動するロッド54bとを備える。そして、ロッド54bの先端に連結部材55を介して移動体53が連結され、その移動体53に主面切削具41が取付けられる。
【0022】
主面切削具41は、主面切削具当接機構50における移動体53にその刃41aが平角線材1の主面1a,1bに対峙する向きに取付けられる。したがって、この主面切削具41は、移動体53の移動により、平角線材1の主面1a,1bに形成さえた主面皮膜12a,12b(図4及び図5)に対して平角線材1の外側から中心に向かう切込みを加えることが可能に構成される。そして、主面切削具当接機構50は、皮膜剥離装置100に一対設けられ、一対の主面切削具当接機構50は、それぞれの主面切削具41が、平角線材1の対向する主面1a,1bのそれぞれに対峙する態様で設けられる。そして、図3〜図5に示すように、主面切削具41の幅方向にある刃41aの寸法は、平角線材1の主面1a,1bの幅方向の寸法よりも大きく形成される。
【0023】
図1及び図2に戻って、側面切削具当接機構56は、基台10上に立設する複数の支柱56aにより水平に設けられた支持板56bと、その支持板56bに取付けられ平角線材1と垂直方向に延在するガイドレール57と、ガイドレール57に沿って移動する移動体58と、支持板56bに固定されたシリンダ59とを備える。シリンダ59は、シリンダチューブ59aと、空気供給源(図示せず)からシリンダチューブ59aの内部に供給される圧縮空気によってそのシリンダチューブ59a内を往復運動する図示しないピストンと、そのピストンに基端が接続され先端がシリンダチューブ59aの端縁から突出してピストンとともに往復運動するロッド59bとを備える。そして、ロッド59bの先端に連結部材60を介して移動体58が連結され、その移動体58に側面切削具42が取付けられる。
【0024】
側面切削具42は、側面切削具当接機構56における移動体58にその刃42aが平角線材1の側面1c,1dに対峙する向きに取付けられ、その側面切削具42は主面切削具41と干渉しないようにその主面切削具41に対して平角線材1の長手方向に僅かにずれて設けられる(図3)。そして、この側面切削具42は、移動体58の移動により、平角線材1の側面1c,1dに形成された側面皮膜12c,12d(図6及び図7)に対して平角線材1の外側から中心に向かう切込みを加えることが可能に構成される。側面切削具当接機構56は、皮膜剥離装置100に一対設けられ、一対の側面切削具当接機構56は、それぞれの側面切削具42が、平角線材1の対向する側面1c、1dのそれぞれに対峙する態様で設けられる。図6及び図7に示すように、主面切削具42の幅方向にある刃42aの寸法は、平角線材1の側面1c,1dの幅方向の寸法よりも大きく形成される。そして、側面切削具42の刃42aの形状は、側面切削具42の側面皮膜12c,12dへの当接時に側面1c,1dの両側における角部1eにそれぞれ形成された角部皮膜12eにも当接するような凹状を成すように構成される。
【0025】
図1及び図2に示すように、切削具相対移動手段6は、基台10上に配置された土台61と、土台61上に固定され空気供給源から供給される圧縮空気によってロッド63を出没させるシリンダ62と、そのロッド63の先端と線材支持機構3の載置台31を連結する連結部材64と、平角線材1の長手方向に沿ってシリンダ62上に配置されたガイドレール65とを備える。線材支持機構3の載置台31の下面31aにはガイドレール65に係合する溝が形成され、載置台31はガイドレール65に沿って移動可能に構成される。このため、ロッド63の出没によって、平角線材1は線材支持機構3にて支持された状態で線材長手方向に移動するように構成される。
【0026】
次に、上記皮膜剥離装置を用いた本発明の皮膜剥離方法ついて説明する。
【0027】
本発明の皮膜剥離方法は、断面が方形を成す線材1の対向する主面1a,1bに主面切削具41,41を当接させて主面1a,1bに形成された主面皮膜12a,12bに切込みを加え、その主面皮膜12a,12bに切込みを加えた主面切削具41,41を線材1に対して線材長手方向に相対移動させることによって主面皮膜12a,12bを剥離する方法である。
【0028】
即ち、先ず、線材送り機構2の一対のローラ22を回転させ、そのローラ22間に平角線材1を案内することによって平角線材1をローラ22から送り出す。これにより平角線材1は線材支持機構3の載置台31上に案内され、更に切込み付与手段である各切削具当接機構50,56の間に位置するまで送られる。この状態でローラ22の回転を止めることにより、平角線材1の送りを止める。なお、平角線材1は、主面1a,1bがローラ22に当接する向きにてローラ22間に案内される。次に、線材支持機構3のシリンダ33に圧縮エアを供給してロッド33bを移動させ、ロッド33bの先端に連結された押板32を平角線材1に向かって移動させる。これにより、押板32は、平角線材1の主面1aに当接し平角線材1を載置台31に向かって押圧する。このようにして、平角線材1を、載置台31と押板32の間にて支持する。
【0029】
その後、平角線材1を線材支持機構3にて支持した状態で、一対の主面切削具当接機構51のシリンダ54におけるロッド54bをそれぞれ移動させ、移動体53をガイドレール52に沿って平角線材1に向かって移動させる。これにより、移動体53に設けられた一対の主面切削具41,41における刃41aは、図4に示すように線材11から離間した状態から移動してそれぞれ平角線材1の主面1a,1bに当接し、図5に示すように、平角線材1の外側から中心に向かって主面皮膜12a,12bに食い込む。そして、主面皮膜12a,12bの厚さに相当する深さまで刃41aを食い込ませる。ここで、主面皮膜12a,12bに加える切込みの深さは、主面切削具当接機構51のシリンダ54に供給する空気圧力、そのロッド54bの移動量及び主面切削具41の平角線材1に対する角度を調整することによって制御される。
【0030】
次に、主面切削具41の刃41aが平角線材1の主面皮膜12a,12bに食い込んだ図5に示す状態から、図1に示す切削具相対移動手段6におけるシリンダ62に圧縮エアを供給してそのロッド63を駆動することによって、線材支持機構3に支持された平角線材1を移動させる。即ち、切削具相対移動手段6のロッド63を移動させることによって、線材支持機構3は平角線材1を支持した状態でガイドレール65に沿って線材長手方向に移動させる。これにより、主面切削具41の平角線材1に対する線材長手方向の相対位置は変化し、主面切削具41の刃41aを線材長手方向に相対移動する。線材支持機構3の移動距離は、平角線材1に形成する剥離部の所望長さに相当する値に設定され、その移動量に到達することによって、図8に示すように、平角線材1の主面1a,1bにおける主面皮膜12a,12bは主面切削具41,41により所定長さ剥離され、平角線材1から除去される。
【0031】
そして、本発明における線材の皮膜剥離方法では、上記主面皮膜12a,12bの剥離と同時に又は上記主面皮膜12a,12bの剥離の前後に、線材1の側面皮膜12c,12dも剥離することを特徴とする。その側面皮膜12c,12dの剥離は、主面1a,1bに直交して互いに対向する側面1c,1dのそれぞれに対して側面切削具42,42を当接させて側面1c,1dに形成された側面皮膜12c,12dに切込みを加え、その後側面皮膜12c,12dに切込みを加えた側面切削具42,42を線材1に対して線材長手方向に相対移動させることにより行われる。この実施の形態では、主面皮膜12a,12bの剥離と同時に側面皮膜12c,12dが剥離される場合を代表して説明する。
【0032】
先ず、主面1a,1bに主面切削具41,41を当接させると同時に側面1c,1dのそれぞれに対しても側面切削具42,42を当接させる。側面切削具12c,12dの当接は、平角線材1を線材支持機構3にて支持した状態で、一対の側面切削具当接機構56のシリンダ58におけるロッド58bを移動することによって行われ、これにより移動体58はガイドレール57に沿って平角線材1に向かって移動する。すると、移動体58に設けられた一対の側面切削具42の刃42aは、図6に示すように線材1から離間した状態から移動して、図7に示すようにそれぞれ平角線材1の側面1c、1dに当接し、平角線材1の外側から中心に向かって側面皮膜12c,12dに食い込む。そして、側面皮膜12c,12dの厚さに相当する深さまで刃42aを食い込ませる。側面皮膜12c,12dに加える切込みの深さは、側面切削具当接機構56のシリンダ59に供給する空気圧力、そのロッド59bの移動量及び側面切削具42の平角線材1に対する角度を調整することによって制御される。
【0033】
次に、側面切削具41の刃41aが平角線材1の側面皮膜12c,12dに食い込んだ図7に示す状態から、図1における切削具相対移動手段6におけるシリンダ62に圧縮エアを供給してそのロッド63を移動させ、線材支持機構3に支持された平角線材1を移動させる。これにより、主面切削具41の刃41aとともに側面切削具42の刃42aも線材長手方向に相対移動することになる。線材支持機構3の移動距離が、平角線材1に形成する剥離部の所望長さに相当する値に到達することによって、図8に示すように、平角線材1の主面1a,1bにおける主面皮膜12a,12b及び側面1c、1dにおける側面皮膜12c,12dはその主面切削具41及び側面切削具42により所定長さ剥離され、平角線材1から除去される。
【0034】
ここで、側面切削具42,42の側面皮膜12c,12dへの当接時に側面の両側における角部1eにそれぞれ形成された角部皮膜12eにも当接するような凹状切削刃42aが側面切削具42に形成されているので、図7に示すように、その凹状切削刃42aが当接して切込みを入れた側面皮膜12c,12dとともに角部皮膜12eにもその側面切削刃42aが当接して切込みが入れられる。主面切削具41と側面切削具42は線材1の長手方向にずれて設けられるので、側面切削具42に凹条の切削刃41aを形成したとしても、その側面切削具42が主面切削具41と干渉することはない。そして、そのような側面切削具42を切削具相対移動手段6によって線材長手方向に相対移動させることにより、線材1の側面に形成された側面皮膜12c,12dとともに、主面1a,1bと側面1c,1dが交差する角部1eが断面において湾曲しているようなものであったとしても、その角部1eに形成された角部皮膜12eも同時に剥離することができる。よって、断面が方形を成す線材1の全周における皮膜12を容易にかつ効率良く剥離することができる。
【0035】
図8に示すように、皮膜12が除去された部分には、導線部11が露出した状態となるため、この導線部11を後工程においてボビンやステータコアに設けられた端子に絡げることによって平角線材1と端子との電気的接触を確保することができる。そのため、その後、皮膜12を除去した後、図1及び図2に示す主面切削具当接機構50及び側面切削具当接機構56のそれぞれのシリンダ54,59におけるロッド54b、59bをそれぞれ逆方向に移動させて、それぞれの移動体53,58とともに一対の主面切削具41,41及び一対の側面切削具42,42の全てを平角線材1から遠ざける。それと同時に又はその後、線材支持機構3における押板32を移動させ平角線材1の拘束を解除する。そして、線材送り機構2における一対のローラ22を回転させ、平角線材1を図示しない巻線装置へと送り出す。ここで、上述した皮膜剥離装置100の動作は、皮膜剥離装置100に搭載された図示しないコントローラによって、自動制御されるものである。
【0036】
以上述べたように、本発明の皮膜剥離装置100によれば、切削具41,42を平角線材1の外側から中心に向かって移動させることによって皮膜12に切込みを加えるため、皮膜12の厚さに合わせて切削具41,42による切込み量を調節することができる。そして、皮膜12に切込みを加えた切削具41,42を線材1に対して長手方向に相対移動させて皮膜12を剥離するため、その相対移動の長さを調節することによって剥離部の長さを自由に設定することができる。したがって、皮膜12の厚さ及び剥離部の長さに応じて切削具41,42を変更する必要がなく作業効率が良く、皮膜12を容易に剥離することができる。
【0037】
なお、上述した実施の形態では、線材の種類として断面形状が長方形である平角線材1の皮膜12を剥離する場合について説明したけれども、線材1はその断面が方形を成すものである限り、その線材1の種類として断面形状が正方形である線材の皮膜を剥離する場合であっても良い。
【0038】
また、上述した実施の形態では、平角線材1を切削具41,42に対して移動させる切削具相対移動手段6を用いて説明したけれども、切込み付与手段50,56を移動させる機構を設け、切削具41,42を平角線材1に対して移動させる構成としても良い。つまり、切削具41,42を平角線材1に対して線材長手方向に相対移動させる構成であれば良い。
【0039】
また、上述した実施の形態では、線材支持機構3における押板32、及び移動体53,58を移動する機構としてエア圧駆動式のシリンダ33,54,59を用いる構成としたが、移動する機構はエア圧駆動式のシリンダに限るものではなく、例えば、モータとその出力軸に連結したボールねじを組合わせる構成としても良い。
【0040】
また、上述した実施の形態では、側面切削具42の側面皮膜12c,12dへの当接時に側面1c,1dの両側における角部1eにそれぞれ形成された角部皮膜12eに当接するような凹状切削刃42aが側面切削具42に形成された例を示したけれども、主面切削具41の主面皮膜12aへの当接時に主面1a,1bの両側における角部1eにそれぞれ形成された角部皮膜12eに当接するような凹状切削刃を主面切削具41に形成しても良い。
【0041】
更に、上述した実施の形態では、主面皮膜12a,12bの剥離と同時に側面皮膜12c,12dを剥離する例を示したけれども、主面皮膜12a,12bの剥離の前後に側面皮膜12c,12dを剥離しても良い。即ち、主面皮膜12a,12bに切込みを加えた主面切削具41を線材11に対して線材長手方向に相対移動させることによって主面皮膜12a,12bを剥離する工程の前工程か又は後工程において、側面皮膜12c,12dに切込みを加えた側面切削具42を線材11に対して線材長手方向に相対移動させることによって側面皮膜12c,12dを剥離する工程を別に行うようにして、皮主面皮膜12a,12bの剥離と側面皮膜12c,12dの剥離を別の工程において行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 平角線材
1a,1b 主面
1c,1d 側面
1e 角部
3 線材支持手段
6 切削具相対移動手段
12 皮膜
12a,12b 主面皮膜
12c,12d 側面皮膜
12e 角部皮膜
41 主面切削具
42 側面切削具
42a 凹状切削刃
50 主面切削具当接機構
56 側面切削具当接機構
100 線材の皮膜剥離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材(1)を支持する線材支持手段(3)と、前記線材(1)の外表面に形成された皮膜(12)に切削具(41,42)を当接させて前記皮膜(12)に切込みを加える切込み付与手段(50,56)と、前記皮膜(12)に切込みを加えた前記切削具(41,42)を前記線材(1)に対して長手方向に相対移動させて前記皮膜(12)を剥離する切削具相対移動手段(6)とを備えた皮膜剥離装置において、
前記線材支持手段(3)は,断面が方形を成す線材(1)を支持するように構成され、
前記切削具は、前記線材(1)の互いに対向する主面(1a,1b)のそれぞれに対峙して設けられた主面切削具(41)と、前記主面(1a,1b)に直交して互いに対向する側面(1c,1d)のそれぞれに対峙して設けられた側面切削具(42)とを有し、
切込み付与手段は、前記主面(1a,1b)に形成された主面皮膜(12a,12b)に前記主面切削具(41)を当接させる主面切削具当接機構(50)と、前記側面(1c,1d)に形成された側面皮膜(12c,12d)に前記側面切削具(42)を当接させる側面切削具当接機構(56)とを有する
ことを特徴とする線材の皮膜剥離装置。
【請求項2】
主面切削具(41)又は側面切削具(42)の主面皮膜(12a,12b)又は側面皮膜(12c,12d)への当接時に主面(1a,1b)又は側面(1c,1d)の両側における角部(1e)にそれぞれ形成された角部皮膜(12e)にも当接するような凹状切削刃(42a)が前記主面切削具(41)又は前記側面切削具(42)に形成された請求項1記載の線材の皮膜剥離装置。
【請求項3】
主面切削具(41)と側面切削具(42)が線材(1)の長手方向にずれて設けられた請求項2記載の線材の皮膜剥離装置。
【請求項4】
断面が方形を成す線材(1)の対向する主面(1a,1b)に主面切削具(41)を当接させて前記主面(1a,1b)に形成された主面皮膜(12a,12b)に切込みを加え、前記主面皮膜(12a,12b)に切込みを加えた前記主面切削具(41)を前記線材(1)に対して線材長手方向に相対移動させることによって前記主面皮膜(12a,12b)を剥離する皮膜剥離方法において、
前記主面皮膜(12a,12b)の剥離と同時に又は前記主面皮膜(12a,12b)の剥離の前後に、
前記主面(1a,1b)に直交して互いに対向する側面(1c,1d)のそれぞれに対して側面切削具(42)を当接させて前記側面(1c,1d)に形成された側面皮膜(12c,12d)に切込みを加え、
前記側面皮膜(12c,12d)に切込みを加えた前記側面切削具(42)を前記線材(1)に対して線材長手方向に相対移動させることによって前記側面皮膜(12c,12d)を剥離する
ことが行われる線材の皮膜剥離方法。
【請求項5】
主面切削具(41)の当接時に主面(1a,1b)に形成された主面皮膜(12a,12b)と前記主面(1a,1b)の両側における角部(1e)にそれぞれ形成された角部皮膜(12e)に切込みを入れる凹状切削刃を主面切削具(41)に形成し、前記主面切削具(41)を前記線材(1)に対して線材長手方向に相対移動させるときに前記主面皮膜(12a,12b)とともに前記角部皮膜(12e)をそれぞれ剥離する請求項4記載の線材の皮膜剥離方法。
【請求項6】
側面切削具(42)の当接時に側面(1c,1d)に形成された側面皮膜(12c,12d)と前記側面(1c,1d)の両側における角部(1e)にそれぞれ形成された角部皮膜(12e)に切込みを入れる凹状切削刃(42a)を側面切削具(42)に形成し、前記側面切削具(42)を前記線材(1)に対して線材長手方向に相対移動させるときに前記側面皮膜(12c,12d)とともに前記角部皮膜(12e)をそれぞれ剥離する請求項4記載の線材の皮膜剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−234447(P2011−234447A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100542(P2010−100542)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】