説明

線維症の処置におけるC5a受容体アンタゴニストの使用

【課題】心筋梗塞または糖尿病あるいは特定の肺状態に関連する線維症の予防、処置または緩和の方法の提供。
【解決手段】有効量のGタンパク質共役受容体のアンタゴニストを、処置が必要とされる患者に対して投与する工程を含む方法。該アンタゴニストとしては、C5a受容体アンタゴニストであることが好ましい。該アンタゴニストとしては、ペプチドまたはペプチド模倣化合物、特に環状ペプチドまたは環状ペプチド模倣化合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症の予防および/または処置、例えば心筋梗塞または糖尿病あるいは特定の肺疾患状態に関連する線維症の処置におけるGタンパク質共役受容体のアンタゴニストの使用に関する。好ましい態様では、アンタゴニストはC5a受容体アンタゴニストであり、より好ましくはC5a受容体の環状ペプチドアンタゴニストである。
【背景技術】
【0002】
特許または特許出願を含むすべての引用文献は、引用により本明細書に組み込まれる。これら引用文献が本発明の先行技術を構成することを認めるものでない。引用文献についての説明はそれらの著者が主張する事項であり、本出願人は、引用文献の正確性および妥当性に異論を唱える権利を有する。多くの先行技術文献が本明細書に引用されるが、この引用が、オーストラリアまたはその他の国における当業界の一般的技術常識の一部を引用文献が形成することを認めるものでないことは、明らかに理解されるだろう。
【0003】
Gタンパク質共役受容体はヒト全身に広く観察され、既知の細胞受容体型の約60%を占める。それらは、非常に広範な内生リガンドに対する細胞膜を介したシグナル伝達を媒介するため、多種多様な生理学的および病態生理学的過程に関与し、そのような過程には心臓血管、中枢および末梢神経系の再生、代謝、消化、免疫性炎症および成長障害に関連する過程、ならびに他の細胞調整および増殖障害が含まれるが、これらに限定されない。Gタンパク質共役受容体の機能を選択的に調節する物質は、治療用途の可能性を有する。これらの受容体は、シグナル伝達における役割の重要さから、重要な創薬標的としての認識が益々高くなっている(Gタンパク質共役受容体、IBC Biomedical Library Series, 1996)。
【0004】
最も重点的に研究されているGタンパク質共役受容体の1つは、C5aに対する受容体である。C5aは、損傷部位へ好中球およびマクロファージを集中させ、それらの形態を変化させる、最も強力な既知の走化性物質の1つであり;脱顆粒を誘導し;カルシウム動員、血管透過性(浮腫)および好中球凝集を増加し;平滑筋を収縮し;ヒスタミン、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-8、プロスタグランジン、ロイコトリエン、およびリソソーム酵素などを含む炎症性仲介物質の放出を刺激し;酸素ラジカル類の形成を促進し;そして、抗体産生を増強する(GerardおよびGerard, 1994)。
【0005】
C5aの過剰発現または下方制御は、免疫系を介する炎症状態、例えば慢性関節リウマチ、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性エリテマトーデス、組織不適合性、虚血性心臓疾患、再潅流損傷、敗血性ショック、乾癬、歯肉炎、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー疾患、肺損傷および体外透析後症候群などの病因、および様々な他の状態に関与する(Whaley 1987; Sim 1993)。
【0006】
C5aの炎症誘発作用を制限する物質は、慢性炎症およびそれに伴う苦痛ならびに組織損傷を抑制する可能性を有する。これらの理由により、C5aがその受容体に結合するのを防ぐ分子は、補体活性化によって促進される慢性の炎症性疾患を処置するために有用である。そのような化合物はまた、補体を介した免疫機構に対する価値のある新しい見識を提供する。
【0007】
引用により全開示が本明細書に包含される、我々の先願であるPCT/AU98/00490およびオーストラリア仮出願番号PR8334にて、我々はヒトC5aのC末端のいくつかの類似体の三次元構造について記載し、そしてC5aのアゴニストまたはアンタゴニストどちらかとして作用する、ヒトC5a受容体(C5aR)と結合する新規化合物を設計するためにこの情報を用いた。推定アンタゴニストは、受容体結合およびアンタゴニスト活性にC末端アルギニンおよびC末端カルボン酸塩の両方を必要とするとこれまで考えられていた(Konteatis et al, 1994)。PCT/AU98/00490にて我々は、実際にはC末端カルボン酸塩基は一般にC5aRへの高親和性結合またはアンタゴニスト活性のどちらにも必要とされないことを明らかにした。それどころか、我々は、今まで未確認の構造特性であるターン構造が好中球上のヒトC5a受容体に高親和性結合するための重要な認識特性であることを発見した。我々の2001年10月17日付けのオーストラリア仮出願番号PR8334に記載のように、これらの発見を用いて、疎水性基がC5a受容体と相互作用するための疎水性配列を構築できる固定した構造テンプレートを設計した。次に我々は、この種の好ましい化合物が炎症性腸疾患、骨関節炎および過敏状態を抑制しうることを見出し、2002年10月16日付けのオーストラリア仮出願番号2002952084、2002年10月16日付けの仮出願番号2002952086、そして2002年10月17日付けの仮出願番号2002952129それぞれに記載している。これらの明細書の全開示内容は、引用により本明細書に包含される。
【0008】
線維症、すなわち繊維芽細胞の内部成長および異常な傷を形成する細胞外マトリックスの生産は、外傷、外科的介入、伝染病および病理学的状態を含む多くの原因に起因し得る。線維症は、糖尿病および高血圧症から生じる炎症を含む慢性炎症などの状態の結果であるが、炎症がない状態でも生じうる。それは多様な組織、例えば肺、腎臓、肝臓および心臓で起こりうるが、これに限定されない。線維症は、傷ついた組織の物理的特性を変化させる異常な量の細胞外マトリックスの形成によって、そのような状態下での機能の損失に寄与する。例えば、糖尿病または高血圧誘導性心臓線維症は、心拍出量の減少に寄与する心室壁の硬化を伴う。
【0009】
米国における死者の45%が増殖性線維症を示す障害に起因すると推測される。線維症は、衰弱させ生命を脅かす恐れがあり、有効な抗線維症治療による利益を享受しうる人の数は多いが、現在利用可能な有効な処置はない。肺の炎症を誘発する急性および慢性疾患は、いずれも肺線維症(PF)を特徴とする不可逆的過程を引き起こし得る。肺線維症はまた、ブレオマイシンのような化学療法物質の処置による副作用としても生じ得る。肺線維症は、重度の疾患であり、結果として機能的な損傷および死につながる。心臓線維症は、慢性高血圧症、および糖尿病後遺症である心臓および腎臓部両方の線維症に関係している。
【0010】
線維症は動的な過程であり、場合によっては可逆的であると考えられる。線維症罹患中に構築された細胞外マトリックスは、線維症性刺激の除去後、再吸収され得る。しかし多くの場合機能の損失が既に起こった後でのみ線維症の存在が確認される。例えば心拍出量の減少は、さもなくば検出されない心臓性線維症の兆候である。よって、線維症が生じるのを防ぐことができる状況にあることが望ましいが、一旦それが検知されれば、既存の線維症を逆転させることも望ましい。しかし、線維症状態の処置に対する現在の治療の選択肢は限られており、相対的に効果がない(el-Nahas et al)。
【0011】
動物モデルにおける薬剤誘発性および高血圧誘発性の肺線維症および腎臓線維症への影響を、炎症性事象を抑制し肺のプロコラーゲンI過剰発現を下方制御するように作用する化合物によって、予防または部分的に好転することができる(Iyer et al., 1999a,b)。
【0012】
我々はパーフェニドン(pirfenidone)またはスピロノラクトン(spironolactone)の投与が、ストレプトゾトシン(streptozotocin)誘導糖尿病ラットで発現する心臓線維症および心臓硬化症の増加の予防および部分的な好転を可能にすることを示した(Miric G, et al., 2001)。それは、パーフェニドンが、TGF−βのmRNAの発現増加を阻害し、線維症罹患中に構築されたコラーゲンIを分解する分解酵素の発現を増加させることにより作用すると考えられる。スピロノラクトンの作用方法は現在未知である。スピロノラクトンは、利尿薬として最初に使用されるステロイド類似体であり;パーフェニドン(5-メチル-1-フェニル-2-(1H)−ピロリドン)は、多くの兆候にて抗線維症性物質として調査されている調査化合物である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
線維症の治療または予防に用いられる他の治療的あるいは予防的な活性物質を同定することが非常に望まれている。
【0014】
Gタンパク質共役受容体であるC5a受容体の過剰発現または下方制御は、炎症などの免疫系を介する事象に関与している。C5a受容体アンタゴニストなどのC5a受容体の活性に影響する物質は、炎症事象を調節する可能性を有し、治療的または予防的行為の手段を提供し得るが、現在までに線維症の処置または予防の可能性を有する物質は見つかっていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
我々は今回、驚いたことに、C5a受容体アンタゴニストである環状ペプチドが、心臓線維症状態の動物モデルにてその状態を改善する能力を有することを発見した。
【0016】
第一の側面として、本発明は線維症状態の予防、処置または緩和の方法を提供し、前記方法はそのような処置を必要とする被験者に対して有効量のGタンパク質共役受容体アンタゴニストを投与する工程を含む。
【0017】
Gタンパク質共役受容体のアンタゴニスト、および特にC5a受容体アンタゴニストとしての活性を有する化合物の使用については、我々の先の国際特許出願であるPCT/AU98/00490またはPCT/AU02/01427あるいはNeurogen Corporationによる国際特許出願番号PCT/US00/11187、およびWelfide CorporationによるPCT/JP01/06902に開示されているアンタゴニスト、またはPCT/US00/24219または米国特許番号6355245に開示されているような抗体アンタゴニスト類を包めて検討するが、これに限定されない。これらの明細書すべての全開示事項は、相互参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
より好ましいC5a受容体アンタゴニストは、ペプチドまたはペプチド模倣化合物であり、さらに好ましくは環状ペプチドまたは環状ペプチド模倣化合物である。さらにより好ましくい化合物は、PCT/AU98/00490またはPCT/AU02/01427に記載の環状ペプチドまたは環状ペプチド模倣化合物である。
【0019】
さらにより好ましい前記アンタゴニストが、
(a)Gタンパク質共役受容体のアンタゴニストであり、
(b)実質的にアゴニスト活性を有しておらず、そして、
(c)式Iで示される環状ペプチドまたはペプチド模倣化合物である:
【化1】

[式中、AはH、アルキル、アリール、NH、NH−アルキル、N(アルキル)、NH−アリール、NH−アシル、NH−ベンゾイル、NHSO、NHSO−アルキル、NHSO−アリール、OH、O−アルキルまたはO−アリールであり;
Bはアルキル、アリール、フェニル、ベンジル、ナフチルまたはインドール基、あるいはDまたはLアミノ酸、例えば、L−フェニルアラニンまたはL−フェニルグリシンの側鎖であるが、グリシン、D−フェニルアラニン、L−ホモフェニルアラニン、L−トリプトファン、L−ホモトリプトファン、L−チロシンまたはL−ホモチロシンの側鎖ではなく;
Cは小さな置換基、例えばD、Lまたはホモアミノ酸、例えばグリシン、アラニン、ロイシン、バリン、プロリン、ヒドロキシプロリンまたはチオプロリンの側鎖であるが、大きな置換基、例えばイソロイシン、フェニルアラニンまたはシクロヘキシルアラニンの側鎖は好ましくなく;
Dは中性のD−アミノ酸、例えばD−ロイシン、D−ホモロイシン、D−シクロヘキシルアラニン、D−ホモシクロヘキシルアラニン、D−バリン、D−ノルロイシン、D−ホモノルロイシン、D−フェニルアラニン、D−テトラヒドロイソキノリン、D−グルタミン、D−グルタメートまたはD−チロシンの側鎖であるが、小さな置換基、例えばグリシンまたはD−アラニンの側鎖、D−トリプトファンなどの大きな平面側鎖、あるいはD−アルギニンまたはD−リジンなどの大きな荷電側鎖は好ましくなく;
Eは大きな置換基、例えばL−フェニルアラニン、L−トリプトファンおよびL−ホモトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の側鎖、またはL−1−ナフチルあるいはL−3−ベンゾチエニルアラニンであるが、D−トリプトファン、L−N−メチルトリプトファン、L−ホモフェニルアラニン、L−2−ナフチル−L−テトラヒドロイソキノリン、L−シクロヘキシルアラニン、D−ロイシン、L−フルオレニルアラニンまたはL−ヒスチジンの側鎖ではなく;
FはL−アルギニン、L−ホモアルギニン、L−シトルリンまたはL−カナバニンの側鎖、あるいはその生物学的同配体(すなわち末端グアニジンまたは尿素基が保持されているがその炭素骨格が異なる構造の基と置き換わっている側鎖であるものの、その側鎖は全体として元の基と同じく標的タンパク質と反応する)であり;そして、
Xは、−(CHNH−または(CH−S−(ここで、nは1〜4の整数、好ましくは2または3);−(CHO−;
−(CHO−;−(CH−;−(CH−;−CHCOCHRNH−;または−CHCHCOCHRNH−(ここでRは通常または非通常アミノ酸の側鎖)である]
Cにて、ヒドロキシプロリンまたはチオプロリンのシスおよびトランス型を両方とも用いることができる。
好ましくは、Aは、酢酸アミド基、アミノメチル基、または置換あるいは非置換スルホンアミド基である。
Aが置換スルホンアミドである場合、置換基は、炭素原子数1〜6個、好ましくは1〜4個のアルキル鎖、またはフェニル基あるいはトルイル基であることが好ましい。
アンタゴニストがC5a受容体アンタゴニストであることが好ましい。特に好ましい具体例にて、化合物はC5aRに対するアンタゴニスト活性を有し、C5aアゴニスト活性を有しない。
【0020】
化合物は、ヒトおよび哺乳動物細胞(すなわち、ヒト多形核白血球およびヒトマクロファージを含むがこれに限定されない)のC5a受容体のアンタゴニストであることが好ましい。前記化合物は好ましくは、C5a受容体と強くかつ選択的に結合し、そしてより好ましくはマイクロモル濃度以下でアンタゴニスト活性能を有する。さらにより好ましくは、化合物は、受容体親和性IC50<25μMおよびアンタゴニスト強度(力価)IC50<1μMを有する。
【0021】
特に好ましい態様では、化合物は、国際特許出願番号PCT/AU02/01427に記載の化合物1〜6、10〜15、17、19、20、22、25、26、28、30、31、33〜37、39〜45、47〜50、52〜58および60〜70からなる群から選択される。特に好適な態様において、化合物は上記のPMX53(化合物1)、化合物33、化合物60または化合物45である。
【0022】
最も好ましい化合物は、以下の化学式で表される、PCT/AU98/00490に開示されている特定のPMX53化合物である。
【化2】

【0023】
第二の側面として、本発明は線維症状態の処置に用いる医薬品の製造のためのC5a受容体アンタゴニストの使用を提供する。
【0024】
本発明の目的に関して、用語「C5a受容体アンタゴニスト」とは、C5aとC5a受容体との間の相互作用により仲介される効果を減少または阻害する化合物を包含する。よって本用語は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、ペプチド、ペプチド模倣化合物および非ペプチド化合物を包含する。
【0025】
所望の経路で投与するのに適した剤形の製造に関する方法および製薬的担体は、標準的な方法、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy, Vol. II, 1995 (19th edition)、 A.R. Gennaro (ed), Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania、またはAustralian Prescription Products Guide, Vol. 1, 1995 (24th edition) J. Thomas (ed)、Australian Pharmaceutical Publishing Company Ltd, Victoria, Australiaなどの周知のテキストを参照することにより調製することができる。
【0026】
化合物は、任意の適当な投与量および適当な経路で投与することができる。経口、経皮または経鼻投与が、それら経路のすぐれた利便性または許容性により好ましい。有効量は、処置すべき状態の性質、処置される個人の年齢、体重および基礎的な健康状態に依存する。それは、担当の医者または獣医によって決定され得る。適当な投与量レベルは、当業者に周知の方法を用いた試行錯誤実験によって容易に決定することができる。
【0027】
担体または希釈剤および他の賦形剤は、投与経路に依存し、当業者はまた、容易に特別な場合それぞれに最も適した剤形化を決定することができる。
【0028】
本発明方法による処置の対象(被験者)としては、特にヒトを想定しているが、前記処置を犬および猫のようなコンパニオン・アニマル、および馬、牛および羊のような家畜動物、あるいはネコ科、イヌ科、ウシ科および有蹄動物などの動物園動物の処置を含む動物用処置に応用することも可能である。
【0029】
(発明の詳しい説明)
本発明の目的に関して、用語「線維症状態」とは線維症障害、例えば多発性硬化症、増殖性ビトロ網膜症を含む網膜疾患、および黄斑変性症、強皮症、硬化性腹膜炎、トラウマ、やけど、化学療法、放射線療法、感染または外科手術から生じる線維症および主な組織、例えば腎臓、肝臓、心臓または肺などの線維症を意味する。
【0030】
用語「C5a受容体アンタゴニスト」は、C5aとC5a受容体との間の相互作用を介する効果を減少または阻害しうる化合物を包含する。よって本用語は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、ペプチド、ペプチド模倣化合物および非ペプチド化合物を包含する。
【0031】
本明細書にて用いる用語「処置する」、「処置」および「治療」とは、治癒的療法、予防的治療法および予防治療法を意味する。
【0032】
本発明の目的に関して、用語「包含する」は、「含んでいるが、それに限定されない」という意味であり、そして用語「含む」はそれと対応する意味を有することが明らかに理解されている。
【0033】
本明細書に用いた、単数形「a]、「an]および「the]は、文脈が明白に他の意味を定める場合を除いて、複数を含む。よって、例えば、「酵素」とは多数の酵素類を含み、「アミノ酸」とは1つまたはそれ以上のアミノ酸を意味する。
【0034】
特に定義しない限り、本明細書に用いた技術的および科学的な用語はすべて、本発明が属する分野の当業者によって普通に理解されているのと同じ意味を有している。本明細書に記載されたものに類似または等価である材料および方法もまた、本発明を実行あるいは試験するために用いることができるが、好ましい材料および方法を本明細書に記載した。
【0035】
本発明の目的に関して、用語「アルキル」とは、直鎖、分枝鎖または環状の、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の置換または非置換アルキル鎖を意味する。最も好ましいアルキル基はメチル基である。用語「アシル」は、1〜6、好ましくは1〜4の炭素原子の置換または非置換アシルを意味する。最も好ましいアシル基はアセチルである。用語「アリール」は、置換または非置換の、ホモ環状あるいはヘテロ環状アリール基を意味し、ここに環は好ましくは5または6員環である。
【0036】
「通常」のアミノ酸は、グリシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタメート、グルタミン、システイン、メチオニン、アルギニン、リシン、プロリン、セリン、スレオニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるLアミノ酸である。
【0037】
「非通常」のアミノ酸とは、Dアミノ酸、ホモアミノ酸、N−アルキルアミノ酸、デヒドロアミノ酸、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン以外の芳香族アミノ酸、オルト−、メタ−またはパラ−アミノ安息香酸、オルニチン、シトルリン、カナバニン、ノルロイシン、γグルタミン酸、アミノ酪酸、L−フルオレニルアラニン、L−3−ベンゾチエニルアラニンおよびα,α−2置換アミノ酸を含むがこれに限定されない。
【0038】
本明細書中、一般に用語「処置する」、「処置」などは、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得るために被験者、組織または細胞に影響を及ぼすことを意味するために用いられる。その効果は、疾患または兆候、あるいはその症状を完全にあるいは部分的に予防することに関する予防、および/または疾患の部分的または完全な治療に関する治療でありうる。
【0039】
本明細書に用いる「処置」とは、脊椎動物、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる処置または予防に及び、以下のものを含む:疾患に罹りやすいが、まだ発症していない被験者に生じる疾患を予防すること;疾患を阻害すること、すなわちその進行を妨げること;または疾患の影響を除去または改善する、すなわち疾患の影響の減退を引き起こすこと。
【0040】
本発明は、疾患を改善するために有用な多様な製薬的組成物の使用を含む。本発明の1つの態様にかかる医薬組成物は、式Iの化合物、類似体、誘導体あるいはその塩類および1つまたはそれ以上の製薬的な活性物質、または式Iの化合物と1つまたはそれ以上の製薬的な活性物質との組み合わせを、担体、賦形剤および添加剤あるいは補助剤を用いた、被験者へ投与するために適した剤形にすることにより製造することができる。
【0041】
頻繁に用いられる担体または補助剤には、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよび他の糖類、タルク、ミルク蛋白質、ゼラチン、デンプン、ビタミン、セルロースおよびその類似体、動物性および植物性油、ポリエチレングリコールおよび滅菌水、アルコール、グリセリンおよび多価アルコールのような溶媒が含まれる。経静脈性の賦形剤は、液体および栄養となる補充薬を含む。防腐剤は、抗生物質、抗酸化剤、キレート物質および不活性ガスを含む。他の製薬的に許容できる担体としては、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th ed. Williams & Wilkins (2000)およびThe British National Formulary 43rd ed. (British Medical Association and Royal Pharmaceutical Society of Great Britain, 2002; http://bnf.rhn.net)に記載されている塩類、防腐剤、緩衝液などを含む非毒性賦形剤、水性溶媒を含み、それらの内容物は、引用によって本明細書に組込まれる。製薬的組成物の様々な成分のpHおよび正確な濃度は、当業者により調節される。Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis for Therapeutics (7th ed., 1985)を参照。
【0042】
医薬組成物は好ましくは、投与量(投薬)単位で製造され、投与される。固形の投薬単位は錠剤、カプセルおよび坐薬を含む。被験者の処置に関しては、化合物の活性、投与の方法、障害の性質および重傷度、被験者の年齢および体重に依存し、異なる日用量を用いうる。しかしある状況下では、より高いまたはより低い日用量が適切でありうる。日用量の投与は、個々の投与量単位としてまたは他のより少ない投与量単位による単一投与、および分割した投与量の特定の間隔での複数回投与のいずれでも行うことができる。
【0043】
本発明の製薬的組成物を、治療的に効果のある投与量にて局所的または全身的に投与することができる。もちろん、本使用における有効量は、被験者の疾患の重傷度、体重、全身状態に依存する。
【0044】
一般に、インビトロで用いる投与量は、製薬的組成物のインサイチュウ投与の有効量に関する有用な指針を提供し、そして動物モデルを細胞毒性副作用の処置に対する有効量の決定に用いることができる。様々な事項が、例えばLanger, Science, 249: 1527, (1990)により検討されている。経口使用のための剤形は、ゼラチン硬カプセル形であってよく、ここで活性な成分は不活性な固形の賦形剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンと混合される。それらはまた、ゼラチン軟カプセルでもよく、ここで活性な成分は水または油性媒体、例えばピーナッツオイル、液体パラフィンまたはオリーブオイルと混合される。
【0045】
水性懸濁液は通常、水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物中に活性物質を含んでいる。そのような賦形剤は、ナトリウム・カルボキシメチル・セルロース、メチル・セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムのような懸濁化剤であってよく;(a)レシチンなどの自然に生じるリン脂質;(b)ポリオキシエチレン・ステアリン酸塩などの脂肪酸とアルキレン酸化物の縮合産物;(c)エチレン酸化物と長鎖脂肪族アルコールの縮合産物、例えばヘプタデカエチレンオキセタノール(heptadecaethylenoxycetanol);(d)エチレン酸化物と、脂肪酸とヘキシトールに由来する部分的エステル、例えばポリオキシエチレン・ソルビトール・モノオレイン酸塩との縮合産物、あるいは(e)エチレン酸化物と、脂肪酸とヘキシトール無水物に由来する部分的エステル、例えばポリオキシエチレン・ソルビタン・モノオレイン酸塩との縮合産物、である分散剤または湿潤剤である。
【0046】
医薬組成物は、滅菌注入可能な水性または疎水性の懸濁液形でありうる。この懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤および上述のような懸濁化剤を用いた既知の方法によって製剤化することができる。滅菌注入可能な製剤はまた、非毒性の非経口的に許容できる賦形剤および溶媒、例えば1,3−ブタンジオールに溶解するような滅菌注入溶液または懸濁液でありうる。使用可能な許容できるビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌した不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。本目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドなどの無菌の不揮発性油を用いることができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を注入可能な調整液にて用いることができる。
【0047】
本発明にて有用な物質はまた、小さな単層小胞、大きな単層小胞および多層小胞のようなリポソーム輸送系の形状にて投与され得る。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンなどの様々なリン脂質から形成することができる。
【0048】
本発明の化合物の投薬レベルは通常、一日に体重kg当たり約0.5 mg〜約20mg、好ましい投与量範囲は約0.5mg〜約10mg/kg(1日当たり患者1人に対して約0.5g〜約3gまで)である。単一の投与量を産するために担体物質と混合しうる活性成分の量は、処置される宿主および投与の特別な機序に依存して変化する。例えば、ヒトへの経口投与を目的とした剤形は、適切かつ都合のよい量の担体物質を約5mg〜1g含んでいてよく、すなわち全組成物の約5〜95%の範囲で変化して良い。投与量単位剤形は一般に、活性成分を約5mg〜500mg含む。
【0049】
しかし、特定の患者のための特別な投与量レベルは、使用した特定の化合物の活性、年齢、体重、健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄割合、薬剤の組み合わせ、および治療を受ける特定疾患の重篤度を含む様々な要因に依存するだろうことが理解されている。
【0050】
さらに、本発明のいくつかの化合物は、水または一般的な有機溶媒との溶媒和物であってよい。そのような溶媒和物は本発明の特許請求の範囲に包含される。
【0051】
本発明の化合物を、さらに有効な組み合わせを供するために他の治療的な化合物と組み合わせることができる。前記組み合わせは、本発明の化合物の活性を消滅させない限り、薬学的に活性な物質の化学的互換性を有する組み合わせを含むことを意図している。例えば、スピロノラクトン、パーフェニドン、イチョウ葉抽出物(Welt et al, 1999)および酢酸トコフェロール(Rosen et al, 1995)が、線維症の処置用に知られている。プロリルヒドロキシラーゼ阻害物質、プロコラーゲン C-プロテイナーゼ、既知の骨形成蛋白質−1(BMP−1)または結合組織成長因子(WO/00/02450に記載)が、FibroGen社によって本目的のために調査されている。例えば、WO/01/56996、WO/01/15729、WO/00/02450、WO/00/50390、WO/00/27868、WO/00/13706およびWO/99/21860を参照のこと。これらの化合物は、プロスタシクリンおよびフェナントロリン誘導体を含む。本発明は、C5a阻害物質およびそのような既知の物質の組み合わせをその範囲内に含む。
【0052】
(一般的方法)
(ペプチド合成)
式Iの環状ペプチド化合物を、我々の先願の出願番号PCT/AU98/00490およびPCT/AU02/01427に詳細に記載の方法によって製造し、これらの引用文献の全ての開示事項は引用により本明細書に包含される。本発明は、相当する直鎖ペプチドがAc-Phe-Orn-Pro-dCha-Trp-Argである化合物AcF-[OPdChaWR] (PMX53)に関して特に例証しているが、本発明がこの化合物に限定されないことは明白に理解され得る。
【0053】
国際特許出願番号PCT/AU98/00490にて開示された化合物1〜6、17、20、28、30、31、36および44および国際特許出願番号PCT/AU02/01427にて最初に開示された化合物10〜12、14、15、25、33、35、40、45、48、52、58、60、66および68〜70は、ヒト好中球上のC5a受容体に対する感知できるアンタゴニスト強度を有する(IC50<1μM)。PCT/AU02/01427に記載のPMX53および化合物33、45および60が最も好ましい。
【0054】
我々は、現在までに試験したすべての式Iの化合物が、物理化学的特性、有効性および生物学的利用可能性は特定の置換基に応じて個々の化合物で多少変化するが、ほぼ同様の薬理学的活性を有することを発見した。
【0055】
PCT/AU98/00490およびPCT/AU02/01427に記載の一般的な試験を、Gタンパク質共役受容体、および特にC5a受容体の候補阻害物質の初めのスクリーニングに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1a】図1aは、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの1日水分摂取の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。矢印は、L−NAME処置の開始を示す。
【0057】
【図1b】図1bは、L−NAMEおよびL−NAME+C5a受容体アンタゴニスト処置したラットの1日L−NAME摂取の比較を示す。
【0058】
【図2】図2は、対照ラットと、対照物質+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの体重の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。矢印は、L−NAME処置の開始を示す。
【0059】
【図3】図3は、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの32日目の最大血圧測定値の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*は、対照と比較してP<0.05であり、**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。
【0060】
【図4】図4は、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの左心室重量の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*は、対照と比較してP<0.05である。
【0061】
【図5a】図5aは、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットにおける左心室の間質コラーゲン沈着の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*葉、対照と比較してP<0.05;**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。
【0062】
【図5b】図5bは、左心室の血管周囲での比較を示す。
【0063】
【図6a】図6aは、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットにおける左心室の間質コラーゲン沈着の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*は、対照と比較してP<0.05であり;**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。
【0064】
【図6b】図6bは、右心室の血管周囲での比較を示す。
【0065】
【図7a】図7aは、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの腎臓の尿細管間質におけるコラーゲン沈着の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*は対照と比較してP<0.05であり;**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。
【0066】
【図7b】図7bは、糸球体での比較を示す。
【0067】
【図8a】図8aは、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの左心室における炎症細胞数の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*は対照と比較してP<0.05であり;**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。
【0068】
【図8b】図8bは、右心室での比較を示す。
【0069】
【図9】図9は、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの心エコー検査データをまとめた。*は対照と比較してP<0.05であり;**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。aは、心臓拡張期における左心室壁厚を示す。bは、心臓拡張期における左心室間質内径を示す。cは、E/A流率を示す。dは、拡張期容量を示す。eは、心拍出量を示す。
【0070】
【図10】図10は、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの拡張期硬化定数の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。*は、対照と比較してP<0.05であり;**は、L−NAMEと比較してP<0.05である。
【0071】
【図11】図11は、対照、対照+C5aアンタゴニスト、L−NAMEおよびL−NAME+C5aアンタゴニスト処置したラットの発生圧力の比較を示す。値は、平均±標準偏差(SEM)を示す。
【0072】
【図12a】図12aは、40倍に拡大したラット正常肺のヘマトキシリンおよびエオシン染色部位を示す。
【0073】
【図12b】図12bは、気管内ブレオマイシン注入後7〜9日の肺を示し、気道周囲の重度の斑状病変を示す。PMX53処置したラットと非処置のラットとの顕著な差異はなかった(各グループにn=4)。
【0074】
【図13a】図13aは、赤血球および血漿の漏出と、肺胞領域および肺胞壁における炎症性細胞を示す斑点損傷を高倍率(200倍)で示す。
【0075】
【図13b】図13bは、2つの型の肺胞上皮細胞(AEC)を示し、正常な肺を(200倍)高倍率で示す:I型AEC(40%)は、平らな細胞であり、肺胞嚢および肺胞の表皮の90%を形成している(二重矢印)。II型 AEC(60%)は通常、表面ではなく多角形の肺胞中の鈍角に位置する丸い細胞である(矢印)。肺胞表皮がある毒性物質に暴露される場合、特に感受性のI型 AECが広範に破壊されれば、II型AECの大きさおよび数が増加する。
【0076】
【図14】図14は、ブレオマイシン処置したラットの肺にてII型の肺胞表皮細胞の大きさおよび数が増加することを示す(矢印)(200倍)
【0077】
【図15】図15は、急性肺炎症におけるブレオマイシン誘導コラーゲン沈着へのPMX53の効果を示す(7〜9日目)。
【0078】
【図16】図16は、図12bにて示した急性炎症段階と比較した気道周囲の斑点状損傷の大きさの減少を示し、注入後18日にブレオマイシン注入した、PMX53処置したラット由来の肺組織を示す(40倍)。
【0079】
【図17a】図17aは、ブレオマイシン注入した非薬剤処置ラット由来の肺組織を高倍率(200倍)で示す。図17aは、肺胞領域における肺胞マクロファージである(矢印)。
【0080】
【図17b】図17bは、肺胞中隔におけるコラーゲン沈着を有する肺胞壁厚の増加を示す(矢印)。
【0081】
【図18a】図18aは、ラット肺のPicro シリウスレッド染色によって検出されたコラーゲンを示す(40倍)。正常ラットを示す。
【0082】
【図18b】図18bは、非処置のブレオマイシン注入したラットであり、肥厚した肺胞壁のコラーゲン増加を示す。
【0083】
【図18c】図18cは、非薬剤処置したブレオマイシン注入ラットであり、肺胞領域の典型的な繊維性病巣を示す。
【0084】
【図19】図19は、ブレオマイシン注入後18日にラット肺のブレオマイシン誘導コラーゲン沈着におけるPMX53の効果を示す。
【0085】
本発明は、以下の限定されない実施例および図面でのみ引例の方法によって本明細書に詳細に記載される。
【0086】
(実施例1)
L−NAME誘導心臓線維症におけるC5a受容体アンタゴニストの効果
オスのWistarラット(8週齢)を、クイーンズランド大学の中央動物飼育室から入手した。前記ラットに、以下の化学式のPMX53と称されるC5a受容体アンタゴニストを投与した:
【化3】

【0087】
ラットに前記物質を投与量1mg/kg/日にて4日間経口投与し、さらに4週間ニトロ−L−アルギニンメチルエステル(L−NAME)を処置し、すなわち全部で32日間のアンタゴニスト処置を行った。L−NAME投与は、一酸化窒素(NO)の生産阻害の結果、高血圧および心臓再構築を生じる。
【0088】
L−NAMEを、4週間400mg/l濃度で飲料水中にて投与し、平均1日摂取量を18.7±0.4mgのL−NAMEとした(平均体重にて41.4±0.8mg/kg)。体重および食料および水の摂取量を毎日測定した。
図1および2に示したように、L−NAMEおよびC5a受容体アンタゴニストの処置は共に、水の摂取または成長率に変化を及ぼさなかった。
【0089】
最大血圧をtail-cuff法を用いて、選択した非麻酔ラットにて測定した。図3に例証したように、対照ラットと比較した場合、L−NAME処置したラットにて、最大血圧が心エコー検査または解剖検査によって決まるような、心拍数を著しく変化したり、左心室の重量を増加することなく118±3mmHgから160±2mmHgへ増加した。結果を図4に示す。
【0090】
同様に、右心室および他の主要組織の重量は、L−NAME処置にてほとんど変化しない。
【0091】
C5a受容体アンタゴニスト処置したL−NAMEラットは、最大血圧が16mmHgから176±3mmHgへ著しく上昇し、その結果左心室の重量が増加した。さらに、C5a受容体アンタゴニストを処置した対照ラットは、少しの血圧増加を生じた。これらの結果を、図3および図4にまとめた。C5a受容体アンタゴニストを処置した対照およびL−NAMEラットは共に、他の主要組織の湿重量がほとんど変化しなかった。
【0092】
L−NAME処置の4週間後に、心エコー検査によってインビボで、そして以下に記載の分離したランゲンドルフ(Langendorff)心臓調製液を用いてインビトロで心臓機能測定した。コラーゲン沈着を、以下に記載のようにpicrosiriusレッド染色した心臓スライスのレーザー共焦点顕微鏡を用いた画像分析によって測定した。
【0093】
ラットをペントバルビタール(pentobarbitone)(100mg/kg ip)で安楽死させた。血液を腹部の大静脈から採取し、遠心して血漿を冷凍した。血漿グルコースを、精密プラス血糖電極(Precision Plus Blood Glucose Electrodes 、Medisense, Abbott Laboratories)にて測定した;血漿NaおよびKを炎光光度法にて測定した。
【0094】
a)コラーゲン分布
コラーゲン分布を、繊維性コラーゲンを選択的に染色するpicrosiriusレッド(ピクリン酸中に0.1% シリウスレッド F3BA)で染色された心臓および腎臓部分の画像分析によって測定した。スライドを5分間0.2%リンモリブデン酸に浸し、洗浄し、そして90分間picrosiriusレッドに浸し、次に1mM HClに2分間および70%エタノールに45秒浸した。染色した部分を、Olympus BH2 顕微鏡を用いたImage Pro plus analysis programにて分析し、結果をそれぞれのスクリーンにおけるレッド領域の%率で示した。少なくとも4つの領域をそれぞれの心臓にて検討した。結果を図5、6および7に示す。
【0095】
画像分析により対照と比較した場合、L−NAME処置したラットの左心室における間質型コラーゲンの108%の増加および血管周囲コラーゲンの87%の増加を示した。同様に、コラーゲン濃度の著しい増加が右心室にて観察され、間質にて175%の増加および血管周囲コラーゲン量にて37%の増加を生じた。L−NAME処置はまた、腎臓の尿細管間質領域にて55%のコラーゲン量の顕著な増加と糸球体間隙にて少量の増加を示した。
【0096】
C5a受容体アンタゴニスト処置は、コラーゲン沈着の増加を減衰する。C5aアンタゴニスト処置したラットにて、L−NAMEのみを処置したラットで観察された増加と比較して、L−NAME処置が左心室間質および血管周囲領域をそれぞれ23%および43%増加した。同様の結果が、右心室にて観察され、L−NAMEのC5a受容体アンタゴニスト処置が間質および血管周囲領域それぞれにて44%および37%にコラーゲン沈着を制限した。腎臓では、L−NAMEラットに対するC5aアンタゴニスト投与が間質で30%にコラーゲン沈着を制限し、そしてL−NAME処置したラットにて観察された糸球体コラーゲン凝縮の増加を正常化した。
【0097】
図9に示したように、L−NAME処置は、左心室および右心室両方に大きな炎症性細胞浸潤を引き起こした。炎症性細胞数の30倍の増加が、L−NAME処置に続く左心室および右心室両方の間質および血管周囲領域にて観察された。C5a受容体アンタゴニスト処置は、L−NAME処置に続く左心室および右心室への炎症性細胞浸潤を防止した。炎症性細胞型または腎臓浸潤における利用可能性についてはこれまでのところ情報がない。
【0098】
b)心エコー検査分析
心臓機能を従来の方法である心エコー検査を用いてインビボで測定した。
L−NAME処置は左心室の重量をほとんど増加させないが、心エコー検査Mモード測定は、L−NAME処置が心臓の再生を活発化し、左心室壁の厚さを増加し、かつ心拡張期に左心室内部の直径を減少することを明らかにした。さらなるL−NAME処置が、初期(E)に対する心房性(A)僧帽弁流入率(E/A率)を著しく増加させ、心拡張期の体積および心拍出量を著しく減少させた。左室径短縮率および上昇性大動脈流量率は、L−NAME処置によってほとんど変化しなかった。よって、L−NAME処置は、心臓収縮機能および改善された心拡張機能における多少の変化と共に、心臓の再構成を引き起こす。
【0099】
対照ラットのC5a受容体アンタゴニスト処置は、心エコー検査分析による測定値の顕著な変化がなかった。L−NAMEラットのC5a受容体アンタゴニスト処置は、左心室壁圧の増加および左心室間質容量の減少を正常化した。この処置はまた、E/A率、心臓拡張容量および心拍出量を顕著に正常化した。これらの結果を図9に示す。
【0100】
c)単離したランゲンドルフ(Langendorff)心臓調製液
ランゲンドルフ(Langendorff)の単離した心臓調製液をエキソビボ(生体外)における左心室の拡張期弾性を決定するために用いた。
ラットを、ナトリウム・ペントバルビタール(100mg/kg 腹腔内)を用いて麻酔し、ヘパリン(2000IU)を大腿部静脈に投与した。ヘパリンを完全に循環するため投与後2分経過後に、心臓を取り出し、冷却した(0℃)晶質潅水(NaCl 118 mM, KCl 4.7 mM, MgSO4 1.2 mM, KH2PO4 1.2 mM, CaCl2 2.3 mM, NaHCO3 25.0 mM, glucose 11.0 mMの成分からなるKrebs-Henseleit溶液)に入れた。次に、心臓を大動脈の冠状動脈口のすぐ上に位置するカニューレ(cannula)の先端をカニューレに結合し、そして100cmの静水圧にて再循環しないランゲンドルフ(Langendorff)法で潅流した。緩衝液温度を35℃に維持した。心臓にテベシウス(thebesian)排水を促進するために先端に穴を開け、250bpmでゆっくり歩かした。
【0101】
バルーンカテーテルを、僧帽弁口から左心室に左心室発生圧力を測定するために挿入した。カテーテルを、マイクロメートル注射器およびステーサムP23圧力変換器に3箇所止めで接続した。カテーテルの外径は、心臓収縮期にバルーンの排出を阻害する僧帽弁口と同じであった。10分間の安定化の後、定常状態の左心室圧を、等積的な鼓動から記録した。バルーン容量の増加を、左心室の最後の拡張期血圧が約30mmHgに達するまで心臓に適用した。
【0102】
単離したランゲンドルフ(Langendorff)心臓における心筋硬化を評価するために、左心室の赤道における中壁のストレス(σ、ダイン/cm2)および正接弾性率(E、ダイン/cm2)を、残りの心筋を表すものとして、心室の球面幾何学を仮定し中壁の赤道付近領域を考慮することにより測定した:
【数1】

ここに、Vは心室容量(ml)であり、Wは左心室壁容量(0.943 ml/g、心室重量)であり、そしてPは拡張終期圧(ダイン/cm2=7.5x10-4 mmHg)である。心筋の拡張期硬化を、拡張期硬化定数(k、無限定数)、すなわちEおよびσ間の直線の傾きとして測定した(Mirsky and Parmley, 1973)。収縮機能を評価するために、最大+dP/dtを、拡張期血圧5mmHgにて測定した。
【0103】
結果を図10に示す。すべての結果は、すくなくとも6つの実験の平均±標準誤差(SEM)である。mN(ミリニュートン)での収縮力または拍動回数/分での収縮率のいずれかにおける増加のEC50の負の対数値を、個々の濃度応答曲線にて半分の最大応答を与える濃度から決定した。腎臓機能の結果を、実験の最後に測定した腎臓湿潤重量で補正した。これらの結果を、二元配置分散分析、次に処置群間の相違を決定するためのダンカン・テストおよび対応または非対応t−検定によって分析した;p<0.05は、有意差ありを示す。
【0104】
実験の終わりに、心房および右心室を解剖し、隔壁を加えた左心室の重量を記録した。
【0105】
L−NAME処置は、対照と比較して心室の拡張弾性定数を顕著に増加した。発生圧力および収縮性は、L−NAME処置により変化しなかった。C5a受容体アンタゴニスト処置は、収縮性または発生圧力を変化することなくL−NAME処置ラットの拡張弾性定数の増加を阻害した。これらの結果を図10および図11に示す。
【0106】
d)単離した心筋および胸部大動脈輪
心臓を麻酔下にて取り出す。右心房および左心室由来の乳頭筋を取り出し、最大単収縮応答を与えるため5〜10mNの静止張力に調整された器官浴中に懸濁した。組織を、以下のmM単位の塩濃度を含む改良したタイロード溶液中に浸した:NaCl 136.9、KCl 5.4、MgCl2 1.05、CaCl2 1.8、NaHCO3 22.6、NaH2PO4 0.42、グルコース5.5、アスコルビン酸0.28、エデト酸ナトリウム0.05、95% O2/5% CO2気相、そして上述のように35℃で1Hzにて刺激した(Brown et al, 1991a)。ノルアドレナリン量、および塩化カルシウムの流失および再平衡について測定し、累積的濃度応答曲線を得た。実験の最後に、乳頭筋の大きさを、実験の荷重条件下にて測定した;組織をすべて染色し、重量を測定した。
【0107】
胸部大動脈輪(長さ約4mm)を、10mNの静止張力にしておき(Brown et al, 1991b)、等張KCl液(100 mM)で2度収縮させた。内皮細胞の存在をアセチルコリン(1×10−5M)の付加によって確認した。ノルアドレナリンに対する累積的収縮応答を測定した。単離した胸部大動脈輪を10%中性緩衝ホルマリンに浸し、ろう内に埋め込み、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。胸部大動脈の壁領域を計算するためWild-Leitz MD30+ システムを用いて画像分析を行った。
【0108】
(実施例2)
ブレオマイシン誘導肺線維症に対するPMX53の効果
肺に炎症を引き起こす急性および慢性疾患は、肺線維症を特徴とする不可逆過程を生じさせ得る。肺線維症のラットモデルに対するPMX53の効果を、Taylor et al (2002)に記載の適した方法を用いて評価した。
【0109】
ブレオマイシンは、ヒトにおける肺線維症の原因として周知の抗腫瘍薬である(Thrall et al, 1978)。ラットにおけるブレオマイシン誘導肺線維症は、短期間の実験で高成功率を成す十分に確立されたモデルである。ブレオマイシンは、TGF−β、PGE2、顆粒細胞−マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インシュリン様成長因子などの放出の原因となり、I型肺胞上皮細胞(AEC)に毒性損傷を引き起こす。このことは、炎症性細胞、例えばPMN、マクロファージ、および繊維芽細胞などの間葉細胞に大規模な活性化を誘導し、過修復過程に寄与し肺における線維症につながる。PMX53はC5a受容体アンタゴニストであり、PMN、単球、マクロファージなどの炎症性細胞の浸潤および活性化を効果的に阻害し、よって反応性の酸素種、およびIL-1ならびにPLA2などの炎症性仲介物質の放出を減じる。その結果、ロイコトリエンおよびプロスタグランジンなどのいくつかの因子の放出の減少により、局所的組織損害を防止する。我々はPMX53アンタゴニストが、ブレオマイシン誘導肺線維症を抑制する効果を有するか否かについて調べた。
【0110】
6週齢のオスのWistarラットを用いた。前記ラットを5つのグループに分けた:
グループ1:ブレオマイシン投与のみ(n=9)
グループ2:生理食塩水投与のみ(n=3)
グループ3:200μl水分(経口摂取)(1日栄養補給)に投与濃度10mg/kgでPMX53およびブレオマイシン投与(n=9)
グループ4:経口でPMX53(グループ3の投与量)および生理食塩水投与(n=3)
グループ5:その他のグループとして同じ環境下に置いた未処置のラット(n=3)
薬剤処置したラットには、ブレオマイシン投与前に3日間薬剤を与えた。
【0111】
Taylorら(2002)に記載のように、生理食塩水200μl中に0.5mg/100g(0.7U/100g)の投与量にてブレオマイシンを気管内投与する方法を、初日に行った。ラットを、吸入器により5%以下のハロセン(halothane)の吸入によって麻酔した。気道痙縮を防ぐキシロカイン(Xylocaine)の局所スプレー後に、ラットに挿管しブレオマイシンまたは対照として生理食塩水をゆっくり注入した。次に、溶液を両方の肺へ均等に拡散させるために、ラットを約1〜2分間ゆっくり回転させた(Christensenら、2000)。ラットを完全に回復するまでヒュームカップボード(fume cupboard)内に保持し、その後18日間以内の間で観測した。体重、食物および水分摂取、および呼吸を毎日観測した。
【0112】
呼吸は以下のように上昇した:スコア0は、正常な呼吸;スコア1は、増加した呼吸率;そして、スコア2は、開口呼吸である。48時間で10%以上の体重減少を示し、スコア2の呼吸またはスコア1の呼吸であるラットを、実験終了前に安楽死した。
【0113】
実験の最後にラットを、肺に血液がないようにするために麻酔下における全失血によって殺した。それぞれのラットについて、左肺を液体窒素中で直ちに凍らせ、ヒドロキシプロリン分析を用いた定量的コラーゲン分析用に−20℃で保存した。右肺は完全に膨張させ、1分間で30cm水圧にて気道重力固定によって10%ホルマリンで固定した。肺におけるコラーゲン沈着を評価するため、コラーゲンをヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、およびPicroシリウスレッド(PR)染色した。PRで染色されたコラーゲン量について、局在化した明画像をグレイスケールに変換し、1つの画像当たりの白色画素の総数(コラーゲン特異的)を、全画素領域の割合とした。前記手法を、肺胞領域における4つの領域、および1試料当たりの気管支周辺および血管における2つの領域の合計に応用した(Wangら、2000)。それぞれのラットの右肺の最大肺葉(4つの肺葉由来)を選択した。データを、「シオン・イメージ」プログラムを用いて分析した。
【0114】
ヒドロキシプロリン分析は、Christensenら(2000)の方法によって行った。肺組織を切除し、誘導気道の周囲をきれいにし、2mlの生理食塩水に均質に溶解した。肺ホモジェネート水溶液1mlを、6N HCl中に110℃で12時間加水分解した(ホモジェネート0.5mlおよび12N HCl 0.5ml);50μl水溶液を、pH 6.0である14%クロラミンT、10%n−プロパノールおよび0.5M酢酸ナトリウムの溶液1mlに添加した。22℃で20分後、エールリヒ溶液1ml(70% n-プロパノールおよび20%過塩素酸中に1M p-ジメチルアミノベンズアルデヒド)を添加し、15分間65℃でインキュベートした。吸光度を550nmで測定し、ヒドロキシプロリン量を、試薬等級のヒドロキシプロリンの既知濃度を用いて作成した標準曲線を用いて決定した。
【0115】
データを本実験における平均±標準誤差(SEM)としてまとめた。有意差の試験を、Student-Newman-Keuls法を応用した分散分析(ANOVA)によって行った。ラットモデルにて、ブレオマイシン誘導肺線維症に伴う2つの段階が存在した。
【0116】
1.急性肺炎症:
ブレオマイシンの気管内注入は、2日〜3日目のラットにて明らかに急性肺炎症を誘導した。薬剤処置群のラット4匹および非処置群の4匹は極めて重篤であり、7〜9日後に安楽死した。図12および13に示すように、肺に広範な白い斑点状の病変と異常な肥大が見られた。体重に対する肺重量比は、ラットが薬剤処置または非処置かどうかにかかわらず、ブレオマイシン処置したラットにて顕著に増加した。結果を表1にまとめた。
表1.
ブレオマイシン誘導肺線維症における肺重量および体重(7〜9日目)
【表1】

【0117】
顕微鏡下にて、PMN、マクロファージ、リンパ球などの多くの炎症細胞が、大量の血漿と赤血球と共に肺胞領域にて観察された;これを図13aにまとめる。図13bに示したように、肺胞領域のII型AECの大きさおよび数が、明らかに増加していたが、図14に示したように、正常な肺では、II型AECは肺胞表面領域のたった5〜10%しか存在しなかった。
【0118】
薬剤処置および非処置のグループ間に組織学的な顕著な相違いはない。ブレオマイシンを注入した肺におけるコラーゲン沈着は、通常の肺(P<0.01、n=3);生理食塩水注入肺(P<0.01、n=3);そして、生理食塩水注入とPMX53を処置した肺(P<0.01、n=3)と比較して著しい増加を示した。しかし、薬剤処理したグループと非処理のグループの顕著な差異はなかった(P>0.01、n=4)。これらの結果を図15にまとめた。
【0119】
2.肺線維症
ブレオマイシンの気管内注入から18日後に、浮腫の大きさがブレオマイシン注入した肺で縮小し、そして肺/体重比率は、ブレオマイシン・グループと非ブレオマイシン・グループのどちらも、あるいは薬剤処置グループと非処置グループのどちらも顕著な差異はなかった(データ非表示)。図16に示したように、ラットを薬剤処置したかしていないかに関わらず、急性炎症段階と比較して、ほとんどのラットにて肺における炎症性損傷はより小さく、低密度になった。図17aに示したように、肺損傷における多くの炎症性細胞(大部分は肺胞マクロファージ)、および赤血球が未だ存在していた。肺胞壁の厚さは増加し、図17bに示したように、肺の肺胞隔壁にフィブリノゲン堆積が存在した。1匹の薬剤処置ラットおよび1匹の非薬剤処置ラットが、さらに観察される著しい肺線維症損傷と混合した肺炎症性損傷を有していた。個々のラットにて変化したコラーゲン量およびコラーゲンの核酸、および各肺における損傷数の相違により、H&F染色したスライドの肺組織におけるコラーゲン沈着量を評価することは難しかった。図21〜30に示し表2にまとめたように、PR染色は、肺におけるコラーゲン沈着の評価のためのH&F染色より有用であった。
表2.
ブレオマイシン誘導肺線維症におけるPR染色(全ピクセル領域に対する割合%、n=3〜4)
【表2】

【0120】
しかし同じ理由により、それはコラーゲン容量の比較分析のための正確な測定法ではない。ヒドロキシプロリン分析の結果を図19にまとめた。ブレオマイシン注入により、ラット肺のヒドロキシプロリン濃度が顕著に増加した(P<0.01、n=3、正常なラットとの比較;P<0.01、n=3、生理食塩水注入したラットとの比較;P<0.01、n=3、薬剤処置ラットに生理食塩水注入したものとの比較)。PMX53により、ブレオマイシン誘導ヒドロキシプロリン濃度が顕著に減少した(P<0.05、n=4、ブレオマイシン注入したラットとの比較)。
【0121】
ブレオマイシンによって誘導された毒性肺炎症を阻害するPMX53の障害として、ブレオマイシン誘導毒性炎症が、補足系の単純な活性化によってではなく、異なる経路を介して、または複雑な細胞間相互作用を介して発症することが示唆されうる。I型AEC損傷、II型AEC増殖、繊維芽細胞増殖、およびPGE2、TGF-β1、およびGM-CSFなどの数種のサイトカイニンの放出は、PFに主要な役割を果たすと考えられる。
【0122】
18日後、ブレオマイシン注入した肺は、顕著に増加したヒドロキシプロリン濃度およびPR染色により示されるコラーゲン沈着によって示されるように、線維症を呈した。我々は組織学またはPR染色によって確認することが困難であったが、PMX53がヒドロキシプロリン濃度を顕著に減少することを発見した。DNAとヒドロキシプロリン変化がブレオマイシン注入後14〜21日の間に生じることをほとんどの研究が実証したため、18日目では組織的な変化が明白になるには早すぎるが、4週後には組織学的証拠が存在する可能性がある。
【0123】
しかし、ブレオマイシン誘導ヒドロキシプロリン堆積のPMX53による顕著な減少は、ブレオマイシン誘導PFにおけるC5aの役割は完全には理解されていないが、C5aカスケードの活性化が線維症の進行に関係し得ることを示唆する。本明細書中で、本発明を明瞭にし理解を助ける目的で幾らか詳細に説明したが、本明細書に開示した発明の概念の範囲を逸脱することなく、ここに記載した態様および方法を様々に修飾しおよび改変しうることは、当業者にとって明らかである。
【0124】
本明細書に引用する文献を以下に一覧とし、本明細書に包含される。
【0125】
(参考文献)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維症状態の予防、処置または緩和の方法であって、有効量のGタンパク質共役受容体のアンタゴニストを、そのような処置を必要とする患者に対して投与する工程を含む方法。
【請求項2】
アンタゴニストがC5a受容体アンタゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アンタゴニストがペプチドまたはペプチド模倣化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アンタゴニストが環状ペプチドまたは環状ペプチド模倣化合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アンタゴニストが、
(a)Gタンパク質共役受容体のアンタゴニストであり、
(b)実質的にアゴニスト活性を有しておらず、そして、
(c)式Iで示される環状ペプチドまたはペプチド模倣化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法:
【化1】

[式中、AはH、アルキル、アリール、NH、NH−アルキル、N(アルキル)、NH−アリール、NH−アシル、NH−ベンゾイル、NHSO、NHSO−アルキル、NHSO−アリール、OH、O−アルキルまたはO−アリールであり;
Bはアルキル、アリール、フェニル、ベンジル、ナフチルまたはインドール基、あるいはDまたはLアミノ酸、例えば、L−フェニルアラニンまたはL−フェニルグリシンの側鎖であるが、グリシン、D−フェニルアラニン、L−ホモフェニルアラニン、L−トリプトファン、L−ホモトリプトファン、L−チロシンまたはL−ホモチロシンの側鎖ではなく;
Cは小さな置換基、例えばD、Lまたはホモアミノ酸、例えばグリシン、アラニン、ロイシン、バリン、プロリン、ヒドロキシプロリンまたはチオプロリンの側鎖であるが、大きな置換基、例えばイソロイシン、フェニルアラニンまたはシクロヘキシルアラニンの側鎖は好ましくなく;
Dは中性のD−アミノ酸、例えばD−ロイシン、D−ホモロイシン、D−シクロヘキシルアラニン、D−ホモシクロヘキシルアラニン、D−バリン、D−ノルロイシン、D−ホモノルロイシン、D−フェニルアラニン、D−テトラヒドロイソキノリン、D−グルタミン、D−グルタメートまたはD−チロシンの側鎖であるが、小さな置換基、例えばグリシンまたはD−アラニンの側鎖、D−トリプトファンなどの大きな平面側鎖、あるいはD−アルギニンまたはD−リジンなどの大きな荷電側鎖は好ましくなく;
Eは大きな置換基、例えばL−フェニルアラニン、L−トリプトファンおよびL−ホモトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の側鎖、またはL−1−ナフチルあるいはL−3−ベンゾチエニルアラニンであるが、D−トリプトファン、L−N−メチルトリプトファン、L−ホモフェニルアラニン、L−2−ナフチル−L−テトラヒドロイソキノリン、L−シクロヘキシルアラニン、D−ロイシン、L−フルオレニルアラニンまたはL−ヒスチジンの側鎖ではなく;
FはL−アルギニン、L−ホモアルギニン、L−シトルリンまたはL−カナバニンの側鎖、あるいはその生物学的同配体(すなわち末端グアニジンまたは尿素基が保持されているがその炭素骨格が異なる構造の基と置き換わっている側鎖であるものの、その側鎖は全体として元の基と同じく標的タンパク質と反応する)であり;そして、
Xは、−(CHNH−または(CH−S−(ここで、nは1〜4の整数、好ましくは2または3);−(CHO−;
−(CHO−;−(CH−;−(CH−;−CHCOCHRNH−;または−CHCHCOCHRNH−(ここでRは通常または非通常アミノ酸の側鎖)である]
【請求項6】
Aがアセトアミド基、アミノメチル基または置換あるいは非置換スルホンアミド基である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Aが置換スルホンアミドであり、その置換基が1〜6つ、好ましくは1〜4つの炭素原子のアルキル鎖、またはフェニルあるいはトルイル基である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アンタゴニストがC5aRに対するアンタゴニスト活性を有し、かつC5aアゴニスト活性を有しないC5a受容体アンタゴニストである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
化合物が、IC50<25μMの受容体親和性を有し、かつIC50<1μMのアンタゴニスト強度を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
化合物が、国際特許出願番号PCT/AU02/01427に記載の化合物1〜6、10〜15、17、19、20、22、25、26、28、30、31、33〜37、39〜45、47〜50、52〜58および60〜70からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
化合物がPMX53(化合物1)、化合物33、化合物60または化合物45である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化合物が以下の構造式を有するPMX53である、請求項10に記載の方法:
【化2】

【請求項13】
線維症状態の処置に用いる医薬品の製造のためのC5a受容体アンタゴニストの使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17a】
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【図17b】
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【図18a】
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【図18b】
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【図18c】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−241214(P2011−241214A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−110510(P2011−110510)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【分割の表示】特願2003−583466(P2003−583466)の分割
【原出願日】平成15年4月7日(2003.4.7)
【出願人】(504378113)プロミクス・プロプライエタリー・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】PROMICS PTY LIMITED
【Fターム(参考)】