説明

線維芽細胞増殖促進剤

【課題】 安全性が極めて高く安心して可食することができ、且つ、安定性に優れた線維芽細胞増殖促進剤を提供すること。
【解決手段】 アムラ(Phyllanthus emblica)の抽出物を含む、線維芽細胞増殖促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚線維芽細胞増殖促進作用を有する線維芽細胞増殖促進剤、および美容用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は身体の表面を被う被膜であって身体最大の器官であり、体の保護作用、体温調節機能、分泌・排出作用、感覚作用など種々の重要な生理機能を担っている。皮膚は、表層を形成する表皮、それを裏打ちする真皮、そして皮下組織および付属器から構成される。皮膚を構成する真皮は、真皮胎生期の中胚葉に由来する結合組織である。この真皮は、主として、コラーゲンやエラスチン等の線維成分、ムコ多糖体や糖タンパク複合体等の基質、線維芽細胞や肥満細胞等の細胞成分を含む。
【0003】
真皮に含まれる線維芽細胞は、線維成分および基質の産生に深く関与する。そして、線維芽細胞の増殖機能が維持されることによって、皮膚の水分量、柔軟性、弾力性等が良好な状態に保たれ、そしてこれによって多くの人が望む美しく健康的な皮膚(肌)の状態が維持される。
【0004】
一方で、この線維芽細胞の増殖機能は、紫外線、乾燥、過度の皮膚洗浄、加齢、ストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、生活習慣の乱れ、女性ホルモンの減少、血流量の減少等により低下することも知られている。そして、線維芽細胞の増殖機能が低下することによって、線維成分および基質の産生量が減少する。これは、皮膚の表面性状および物理的性状の変化を及ぼす要因となり、皮膚のかさつき、肌荒れ、しわ、たるみ等が現れることとなる。
【0005】
このような知見に基づき、線維芽細胞の増殖機能を促進することによって、皮膚機能の維持や老化現象の遅延又は改善を図ることを目的として、線維芽細胞増殖促進作用を有する種々の成分および抽出物が提案されている。例えば特開2006−45092号公報(特許文献1)には、布渣葉(シナノキ科に属する落葉高木である破布樹の葉部)からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする線維芽細胞増殖促進剤が記載されている。特開2005−281225号公報(特許文献2)には、塩基性抗菌ペプチドからなる線維芽細胞増殖促進因子が記載されている。特開2005−206568号公報(特許文献3)には、アルテア、ウコン、キウイ、ゲンチアナ、サンザシ、ジオウ、チョウジ、トウキンセンカ、ノバラ、パセリ、ハマメリス、サイシン、タイム、オトギリソウなどの植物の抽出物である、皮膚老化防止・改善剤が記載されている。特開2005−41812号公報(特許文献4)には、サフランの雌しべより得られる抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞賦活剤が記載されている。特開2004−217478号公報(特許文献5)には、ガガイモ科キジョラン属植物の抽出物を有効成分とする真皮線維芽細胞賦活剤が記載されている。特開2004−137217号公報(特許文献6)には、ゲンクワニンを有効成分として含有するコラーゲン合成促進剤が記載されている。特開2003−342153号公報(特許文献7)には、ゼラニウム水抽出物、ホウセンカ水抽出物、サンザシ水抽出物から選択される、真皮線維芽細胞賦活用組成物が記載されている。特開平10−45615号公報(特許文献8)には、ゴマ、サンヤク、トウガラシ、トウキ、ドクダミ、バクモンドウから選ばれる植物抽出物を含有する線維芽細胞増殖促進剤が記載されている。
【0006】
前記のような成分または抽出物は、線維芽細胞の増殖促進作用を有することが知られている。しかしながらこれらの中には、信頼できる充分な安全性情報が少なく、安心して長期間使用する場合には注意が必要なものもある。また、有効な効果を得るために高濃度で使用する必要がある成分や抽出物に関しては、更に充分な調査が必要とされ、さらにその用途が限られてしまうという問題もある。また、これらの成分または抽出物のうち、食用でない部位の成分または抽出物については、美容用飲食品として使用する場合において、日常的に長期間摂取することは適当ではない場合もある。
【0007】
また、上記以外にも、例えば、アスコルビン酸およびその誘導体、レチノイン酸、α−ヒドロキシ酸、レチノール、プロアントシアニジン、ゲンクワニン、各種スフィンゴ糖脂質、乳タンパクペプチド等の成分などが、線維芽細胞増殖作用を有する成分として知られている。一方で、上記公知文献は、アムラの抽出物が線維芽細胞増殖促進効果を有することについて全く記載していない。
【0008】
特開2006−62989号公報(特許文献9)には、アムラの抽出物を配合することを特徴とするエラスターゼ活性阻害剤およびメイラード反応抑制剤が記載されている。この文献には、アムラの抽出物が、エラスチンを分解するエラスターゼ酵素を阻害する効果、および真皮マトリックスを構成するたんぱく質と糖の化学結合による異常な架橋反応(メイラード反応)を抑制する効果を有することが記載されている。一方、本願発明は、アムラの抽出物の線維芽細胞増殖促進効果を見いだしたことに関するものであり、この文献に記載されるものとは、その作用機構、そして用途および効果が異なる。
【0009】
特開2003−81749号公報(特許文献10)および特開2003−63925号公報(特許文献11)には、アンマロクの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤が記載されている。特許文献10には、アンマロク(アムラ)の抽出物が、活性酸素消去作用、ヒアルロニダーゼ阻害、コラゲナーゼ阻害およびチロシナーゼ阻害作用を有することが記載されている。また特許文献11には、アンマロク(アムラ)由来成分が高いメラニン生成抑制作用を有することが記載されている。一方、本願発明は、アムラの抽出物の線維芽細胞増殖促進効果を見いだしたことに関するものであり、これらの文献に記載されるものとは、その作用機構、そして用途および効果が異なる。
【0010】
【特許文献1】特開2006−45092号公報
【特許文献2】特開2005−281225号公報
【特許文献3】特開2005−206568号公報
【特許文献4】特開2005−41812号公報
【特許文献5】特開2004−217578号公報
【特許文献6】特開2004−137217号公報
【特許文献7】特開2003−342153号公報
【特許文献8】特開平10−45615号公報
【特許文献9】特開2006−62989号公報
【特許文献10】特開2003−81749号公報
【特許文献11】特開2003−63925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記のような成分または抽出物は、線維芽細胞の増殖促進作用を有することが知られている。しかしながらこれらの中には、信頼できる充分な安全性情報が少なく、安心して長期間使用する場合には注意が必要なものもある。これらの中にはまた、有効な効果を得るために高濃度で使用する場合において、更に充分な調査が必要であるもの、そして用途が限られ安定性に不安があるものもある。またこれらの成分または抽出物は、食用されていないものもあり、美容用飲食品として使用する場合には日常的に長期間摂取することは適当ではないものもある。
【0012】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、安全性が極めて高く安心して可食することができ、且つ、安定性に優れた線維芽細胞増殖促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、使用歴、食経験、公的機関が公開している安全性情報、種々の文献などを調査し、安全性が極めて高く安心して使用できる植物を選択し、その抽出物から線維芽細胞の増殖促進作用を有するものについて鋭意研究を重ねた結果、アムラの抽出物が優れた線維芽細胞増殖促進作用を有すること、そして、それらを有効成分とすることにより、皮膚機能の維持又は改善に有効な美容用飲食品が得られることを見出し、本発明に至った。
【0014】
本発明は、アムラ(Phyllanthus emblica)の抽出物を含む、線維芽細胞増殖促進剤を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0015】
上記アムラの抽出物は、アムラの果肉および果皮から選択される少なくとも1種の抽出物であるのがより好ましい。
【0016】
また、上記アムラの抽出物が、抽出溶媒として極性溶媒を用いて抽出される抽出物であるのが好ましい。
【0017】
また、上記アムラの抽出物が、超臨界流体を用いた超臨界抽出法によって抽出される抽出物であるのも好ましい。
【0018】
本発明はまた、上記アムラの抽出物を有効成分として含有する、美容用飲食品も提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤は、アムラの抽出物を含有する。このアムラの抽出物は、経口投与に対する安全性が高く、そして優れた線維芽細胞増殖促進作用を有している。本発明の線維芽細胞増殖促進剤を摂取することによって、線維芽細胞の増殖機能を高めることができる。そしてこれにより、皮膚の機能維持を図ること、および皮膚のかさつき、肌荒れ、しわ、たるみなどといった皮膚の表面性状または物理的性状の衰えを防ぐ、遅延させるまたは改善することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤は、アムラの抽出物を含む。アムラは、学名をフィランサス エンブリカ(Phyllanthus emblica)、別名をエンブリカ オフィシナリス(Emblica officinalis)、英名をエンブリック ミロバラン(Emblic myrobalan)、インディアン グースベリー(Indian gooseberry)、そして和名をコミカソウ、ユカンまたはアンマロク等と呼ばれている、トウダイグサ科エンブリカ属の落葉中低木亜高木である。
【0021】
このアムラは、インドなどで薬草として用いられている。アムラは、その果実が滋養強壮に用いられており、また便秘、排尿障害、頭痛、不安、嘔吐、灼熱感などにも良いとされ、さらに記憶力や知性を向上させるとも言われている。このアムラの果実についてはまた、血清コレステロール低下作用、抗ウイルス作用、染色体異常防護作用、肝庇護作用、血糖低下作用、免疫調節作用、抗酸化作用(活性酸素消去作用)、抗菌作用、抗炎症作用、ヒアルロニダーゼ阻害作用、コラゲナーゼ阻害作用、チロシナーゼ阻害作用、メラニン生成抑制作用、エラスターゼ阻害作用、メイラード反応抑制作用などを有することも知られている。しかしながらアムラの抽出物が線維芽細胞増殖作用を有し、そして線維芽細胞増殖促進剤として有用であることについては、これまで全く知られておらず、そしてこれらのことは本願発明者らの鋭意研究に基づく新知見である。
【0022】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤は、アムラの抽出物を有効成分として含有する。このアムラの抽出物は、アムラの果肉および果皮から選択される少なくとも1種の抽出物であるのが好ましい。このような抽出物は、インドで古くから経口投与にて用いられており、可食に対する安全性に特に優れるからである。
【0023】
アムラの果肉および果皮から選択される少なくとも1種の抽出物としては、例えば、アムラの果実から種子を除いた果肉および/または果皮を抽出原料として得られる抽出物、この抽出物の希釈液若しくは濃縮液、この抽出物の粗精製物若しくは精製物、そしてこの抽出物を乾燥して得られる乾燥物などといった形態のいずれもが含まれる。
【0024】
これらの抽出に用いるアムラの果実は、まず種子を取り除き、果肉および果皮の状態にする。用いられるアムラの果実は、生であっても乾燥品であってもよい。このアムラの果肉および果皮は、何れかを単独で用いてもよく、また両方を併せて用いてもよい。こうして得られたアムラの果肉および果皮は、抽出する前に破砕処理または裁断処理などを行うことによって抽出効率をより高めることができるため、このような処理を行うのが好ましい。
【0025】
抽出方法は特に限定されず、例えば溶媒抽出方法または超臨界抽出方法などが挙げられる。溶媒抽出方法については、特に限定されるものではなく、例えば、アムラの果肉そして果皮の何れかまたは両方を、各種溶媒を用いて抽出することができる。抽出の際、抽出に用いる溶媒中にこれらのアムラの部分を浸漬し、その後に抽出処理を行ってもよい。この浸漬は、室温で行ってもよく、また必要に応じて加熱あるいは冷却を行ってもよい。またこの浸漬中に撹拌を行ってもよい。
【0026】
抽出に用いる溶媒としては、例えば、水(上水、精製水、イオン交換水など)、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)などが挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール等の極性溶媒であり、特に好ましくは、水、エタノールである。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
抽出溶媒として水を用いる場合は、上記浸漬中に酵素を加えてもよい。酵素を加えることによって、果肉および/または果皮の細胞組織を崩壊させることができ、そしてこれにより抽出効率をより高めることができる。加えることができる酵素として、細胞組織崩壊酵素を用いるのが好ましい。このような酵素として、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α−アミラーゼ、フィターゼなどが挙げられる。これらの酵素は1種類のみを用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本発明に好ましく用いられるアムラの抽出方法の一例として、抽出対象となるアムラの部分を、上記抽出溶媒中に、0〜95℃で3分〜24時間浸漬および撹拌し、その後、ろ過または遠心分離する方法が挙げられる。ろ過または遠心分離により得られた沈殿物を用いて、再度抽出操作を行ってもよい。
【0029】
超臨界抽出方法は特に限定されず、圧力変化による分離法(定温下で超臨界流体を減圧、膨張させ、溶媒ガスの密度を下げて分離する方法)、温度変化による分離法(定圧下で昇温或いは降温して超臨界流体と溶質を分離する方法)、吸着分離法(分離槽中に抽出された溶質を吸着するような吸着剤を充填することにより分離する方法)などを用いることができる。これらの操作は、単独で行ってもよく、また複数の操作を組み合わせて行ってもよい。
【0030】
超臨界抽出方法で用いられる流体として、超臨界流体または亜臨界流体を用いることができる。このような流体として、二酸化炭素、ジメチルエーテル、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、アンモニア、窒素、酸化窒素等が挙げられる。中でも、比較的常温付近で超臨界流体となり、無味、無臭、爆発性がなく、工程上安全で経済的である二酸化炭素が最も好ましい。
【0031】
超臨界抽出方法において、抽出を補助するための溶媒(エントレーナー)を用いてもよい。このような溶媒として、上記溶媒抽出に用いることができる溶媒が挙げられる。
【0032】
超臨界抽出方法は、例えば、抽出対象となるアムラの部分の粗粉砕物を超臨界抽出容器に入れ、容器を二酸化炭素などの超臨界流体の臨界温度および臨界圧力以上に加温および加圧することにより行うことができる。ここでの抽出圧力は10〜100MPaであるこのが好ましく、25〜40MPaであるのがより好ましい。また抽出温度は20〜200℃であるのが好ましく、30〜100℃であるのがより好ましい。
【0033】
また上記抽出方法に代えて、水蒸気蒸留などの蒸留方法により抽出物を得ることもできる。
【0034】
このようにして得られる抽出物は、未精製のまま用いることができ、さらに必要に応じて濃縮、希釈、濾過、脱色、脱臭などの処理を行うこともできる。これらの処理は常法により行うことができる。さらに、こうして得られる抽出物を、分画・精製処理を行ってもよい。分画・精製処理として、例えば、順相および/または逆相クロマトグラフィーによる精製などが挙げられる。更には、抽出物に必要に応じて適当な賦形剤を使用して、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行ってもよい。
【0035】
こうして得られるアムラの抽出物は、線維芽細胞増殖促進剤としてそのまま利用することができる。線維芽細胞増殖促進剤として用いる場合、その形状および性状は特に制限されず、例えば固形状、半固形状、ゲル状、液体状、粉末状、そして可溶系、乳化系、粉末分散系、液体分散系などが挙げられ、さらにアンプル剤、錠剤、カプセル剤、液剤、粉末剤、顆粒剤などの形状で用いることもできる。
【0036】
本発明はさらに、上記アムラの抽出物を有効成分として含有する美容用飲食品も提供する。これらの美容用飲食品の形態は特に制限されるものではなく、例えば各種の和菓子、洋菓子、氷菓、清涼飲料水、乳製品、大豆加工品、ペースト類、魚介類製品、燻製品、レトルト食品、調味料、油脂加工品、冷凍食品などの一般的な飲食品が挙げられる。
【0037】
これらの美容用飲食品への、アムラの抽出物の配合量は、特に制限されるものではなく、配合する飲食品(製品)の種類、品質、そして期待する効果の程度に応じて、種々の配合量をとることができる。好ましい配合量として、例えば飲食品の乾燥固形分に換算して0.1〜90.0重量%、更に好ましくは1.0〜10.0重量%が挙げられる。
【0038】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤は、必須成分のアムラの抽出物に加え、必要に応じて、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の製剤に使用する際に一般的に使用される成分および/または添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で併用して製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、製造例、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0040】
実施例1
アムラ生果から種子を除去して果肉および果皮の状態とし、これを破砕して抽出原料とした。抽出原料25gに水を100mL加え80℃にて2時間攪拌後、ガラスフィルター(G1)を用いて吸引ろ過し、液状の抽出物を得た。更に、残渣に水を100mL加え、同様に操作して液状の抽出物を得て、先の抽出物と混合して50℃で減圧下にて濃縮し、更に、凍結乾燥機で乾燥してアムラ果肉および果皮抽出物1.5gを得た。
【0041】
実施例2
アムラ乾果から種子を除去して果肉および果皮の状態とし、これを破砕して抽出原料とした。抽出原料6gに50質量%エタノールを30mL加え20〜25℃で20分間攪拌後、遠心分離(3,000rpm、5分)し上清を分離することにより、液状の抽出物を得た。更に、沈澱に50質量%エタノールを30mL加え、同様に操作して液状の抽出物を得て、先の抽出物と混合して50℃で減圧下にて濃縮し、更に、凍結乾燥機で乾燥してアムラ果肉および果皮抽出物2.2gを得た。
【0042】
実施例3
実施例2と同様に調製した抽出原料6gに50質量%エタノールを30mL加え20〜25℃で20分間攪拌後、遠心分離(3,000rpm、5分)し上清を分離することにより、液状の抽出物を得た。更に、沈澱に70質量%アセトンを30mL加え、同様に操作して液状の抽出物を得て、先の抽出物と混合して50℃で減圧下にて濃縮し、更に、凍結乾燥機で乾燥してアムラ果肉および果皮抽出物2.0gを得た。
【0043】
実施例4
実施例2と同様に調製した抽出原料5gに水40mLを加え、ペクチナーゼ(スミチームSPC 新日本化学工業製)を0.05重量%、セルラーゼ(スミチームAC 新日本化学工業製)を0.5重量%添加し、55〜60℃で3時間攪拌後、ガラスフィルター(G1)を用いて吸引ろ過し、液状の抽出物を得た。この抽出物を50℃で減圧下にて濃縮し、更に、凍結乾燥機で乾燥してアムラ果肉および果皮抽出物2.5gを得た。
【0044】
実施例5
実施例2と同様に調製した抽出原料5gを用いて、COを用いた超臨界流体抽出(ISCO社 SFX1220 超臨界流体抽出システム 抽出圧力40MPa 抽出温度90℃)を行い、アムラ果肉および果皮抽出物1.2gを得た。
【0045】
比較例1
陽性対象として、線維芽細胞増殖作用を有することが知られているアスコルビン酸(和光純薬工業(株)社製)を用いた。
【0046】
上記実施例により得られたアムラの抽出物および比較例について、MTT還元法を用いて、皮膚真皮正常線維芽細胞の増殖促進作用を評価した。
【0047】
尚、MTT還元法とは、細胞毒性及び細胞賦活評価法(成長及び生存細胞の迅速な色彩定量(Tim Mosmann;Journal of Immunological Methods p55-63(1983)参考)の一つであり、MTT(3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)が細胞に取り込まれ、細胞内のミトコンドリアに存在するNADHによって還元され開裂し、ブルーホルマザンを生成する性質を利用したものであるが、このブルーホルマザンは水不溶性であるため、酸性イソプロパノールやドデシル硫酸ナトリウムに溶解させる必要があった(特許文献1、8参照)。そのため、MTT還元法と同じ原理で、水溶性のホルマザンを生成させる新規テトラゾリウム塩(2-(2-Methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium,monosodium salt:WST-8)を含んだ生細胞数測定試薬(Tetra Color ONE、生化学工業株式会社製)を用い、培養後の吸光度を経時的に測定し細胞増殖率を算出した。
【0048】
線維芽細胞増殖促進作用の測定
0.5重量%FBS(牛胎児血清)含有MEM培地を用い、皮膚線維芽細胞(NB1RGB、RIKEN Cell Bankより購入)を1穴あたり1×104個の密度で96穴マイクロプレートに分注した。これを、24時間5重量%CO2、37℃の条件で培養した。その後、実施例1〜5のアムラの抽出物および比較例の試料を試験試料として、0.5重量%FBS含有MEM培地に、それぞれ任意の濃度になるように溶解し、マイクロプレートに添加した。マイクロプレートで72時間培養した後、培地を5重量% Tetra Color ONE、及び10重量%FBS含有MEM培地に交換した。CO2インキュベーターにて2時間培養後、450nmと620nmの吸光度差を測定し、このときブランクの吸光度差を100として、それに対する試験試料添加群の皮膚線維芽細胞の細胞増殖率(%)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表から明らかであるように、本発明のアムラの抽出物は線維芽細胞増殖促進作用を有することが確認された。そして表1から明らかであるように、本発明のアムラの抽出物が有する線維芽細胞増殖促進作用は、線維芽細胞増殖作用を有することが知られているアスコルビン酸による作用よりも優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤は、アムラの抽出物が有する線維芽細胞増殖促進作用を通じて、皮膚における線維芽細胞の増殖機能を促進することができる。この結果、コラーゲンやエラスチン等の線維成分の産生量が増加し、皮膚の機能維持およびかさつき、肌荒れ、しわ、たるみ等の老化現象の遅延、又は改善をすることができる。ただし、本発明の線維芽細胞増殖促進剤はこれらの用途以外にも、線維芽細胞増殖促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0052】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤は、線維芽細胞増殖を促進し、皮膚の機能維持や老化現象の防止、遅延又は改善に有用であり、また美容用飲食品としても効果が期待出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アムラ(Phyllanthus emblica)の抽出物を含む、線維芽細胞増殖促進剤。
【請求項2】
前記アムラの抽出物が、アムラの果肉および果皮から選択される少なくとも1種の抽出物である、請求項1記載の線維芽細胞増殖促進剤。
【請求項3】
前記アムラの抽出物が、抽出溶媒として極性溶媒を用いて抽出される抽出物である、請求項1または2記載の線維芽細胞増殖促進剤。
【請求項4】
前記アムラの抽出物が、超臨界流体を用いた超臨界抽出法によって抽出される抽出物である、請求項1または2記載の線維芽細胞増殖促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載されるアムラの抽出物を有効成分として含有する、美容用飲食品。


【公開番号】特開2008−24615(P2008−24615A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197002(P2006−197002)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(592004998)三基商事株式会社 (12)
【Fターム(参考)】