説明

編成車両制御装置

【課題】マスコンを操作するだけで最適速度での運転操作が容易に行え、駅ホームでの定位置停止を容易に行える編成車両制御装置を提供することである。
【解決手段】複数台の車両が連結された編成車両の速度指令を出力するマスコン13と、マスコン13からの速度指令値と編成車両の実速度との速度差の大きさに応じた加減速度を演算する加減速度演算手段18と、編成車両の荷重と加減速度演算手段18で演算された加減速度とに基づいてトルク指令を出力するトルク指令演算手段19と、トルク指令演算手段19で演算されたトルク指令に基づきブレーキ力を発生するブレーキ制御装置16と、トルク指令演算手段19で演算されたトルク指令に基づきけん引力を発生する主電動機制御装置17とを備え、電気車の速度が指令速度に到達したところで定速運転を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の車両が連結された編成車両の速度を制御する編成車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車では運転士はマスコン(マスターコントローラー)のハンドルを手前に引くことで複数段の力行指令を出力し、押すことで複数段のブレーキ指令を出力する。そして、最後まで押し込むことで非常ブレーキを指令として出力し、その指令を編成の中央装置が受けて、編成に引き通された指令伝送ラインを介して編成車両内のブレーキ制御装置や主電動機制御装置に指令する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は従来の編成車両の編成速度制御装置の構成図である。電気車の編成車両は動力車(M車)11と付随車(T車)12とで編成され、マスコン13は電気車の前方と後方の2つの運転台に設置されている。電気車の運転の操作に使用されるマスコン13は、2つのうちのいずれか1つである。
【0004】
マスコン13のノッチを支持することにより、ノッチ指令Nrが伝送指令中央装置14に出力される。伝送指令中央装置14は、端末15を介して各車両のブレーキ制御装置16や主電動機制御装置17にマスコン13からのノッチ指令を出力する。各車両のブレーキ制御装置16は各車両が持っている荷重情報及びノッチ指令に基づいてブレーキ力を演算し、主電動機制御装置17は各車両が持っている荷重情報及びノッチ指令に基づいてブレーキ力及びけん引力を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−325375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の編成速度制御装置では、近年の都市交通の次のようなニーズに対して対応が難しい状況がでてきている。通勤・近郊車両の乗客混雑緩和対策として高密度運転というニーズがあり、安全面では駅ホームからの落下防止にホーム可動柵や固定柵といった設備を設けるニーズがあるが、これらのニーズに対応した運転が難しくなっている。また、熟練した運転士の不足といった状況がある。そこで、自動運転することが考えられるが、一般道路と交差する踏切等のある路線を走行する電気車では、運転士を伴わないドライバレスといった運転は困難である。
【0007】
運転の難しさはマスコンの出力がけん引力やブレーキ力を出力し、速度を直接対象としていないということが挙げられる。また、駅停車にしても速度を見ながらブレーキ力を調整して停止するという熟練技術が要求されるという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、マスコンを操作するだけで最適速度での運転操作が容易に行え、駅ホームでの定位置停止を容易に行える編成車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の編成車両制御装置は、複数台の車両が連結された編成車両の速度指令を出力するマスコンと、前記マスコンからの速度指令値と編成車両の実速度との速度差の大きさに応じた加減速度を演算する加減速度演算手段と、編成車両の荷重と加減速度演算手段で演算された加減速度とに基づいてトルク指令を出力するトルク指令演算手段と、前記トルク指令演算手段で演算されたトルク指令に基づきブレーキ力を発生するブレーキ制御装置と、前記トルク指令演算手段で演算されたトルク指令に基づきけん引力を発生する主電動機制御装置とを備え、電気車の速度が指令速度に到達したところで定速運転を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マスコンを操作するだけで最適速度での運転操作が容易に行え、駅ホームでの定位置停止を容易に行える編成車両制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係わる編成車両制御装置の構成図。
【図2】本発明の実施の形態における加減速度演算手段での速度差に応じて演算される加減速度の特性曲線の実施例1を示すグラフ。
【図3】本発明の実施の形態における加減速度演算手段での速度差に応じて演算される加減速度の特性曲線の実施例2を示すグラフ。
【図4】本発明の実施の形態における加減速度演算手段での速度差に応じて演算される加減速度の特性曲線の実施例3を示すグラフ。
【図5】本発明の実施の形態における加減速度演算手段での速度差に応じて演算される加減速度の特性曲線の実施例4を示すグラフ。
【図6】本発明の実施の形態におけるマスコン13の一例を示すイメージ図。
【図7】本発明の実施の形態における駅停車の定位置停車をする場合の速度パターンの説明図。
【図8】従来の編成車両の編成速度制御装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の実施の形態に係わる編成車両制御装置の構成図である。図8に示した従来例に対し、マスコン13からは編成車両の速度指令を出力するようにしたものであり、伝送指令中央装置14は、加減速度演算手段18及びトルク指令演算手段19を備えている。図8と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0013】
マスコン13は、複数台の車両(動力車11や付随車12)が連結された編成車両の速度指令Vrを伝送指令中央装置14の加減速度演算手段18に出力する。加減速度演算手段18はマスコン13からの速度指令値Vrと編成車両の実速度Vとを入力し、その速度差の大きさに応じた加減速度αを演算し、トルク指令演算手段19に出力する。トルク指令演算手段19は、編成車両の荷重Wと加減速度演算手段18で演算された加減速度αとに基づいてトルク指令Trを出力する。トルク指令演算手段19で演算されたトルク指令Trは、端末15を香椎手各車両のブレーキ制御装置16や主電動機制御装置17に出力される。ブレーキ制御装置16はトルク指令Trに基づきブレーキ力を発生する。また、主電動機制御装置17は、トルク指令Trに基づきけん引力を発生し、図示省略の主電動機を駆動制御する。
【0014】
すなわち、マスコン13からは速度指令Vrが伝送指令中央装置14に出力され、伝送指令中央装置14の加減速度演算手段18では編成車両の実速度Vに基づき速度指令Vrと実速度Vとの速度差で予め規定する加減速度を求める。そして、伝送指令中央装置14のトルク指令演算手段19は、この加減速度αと編成車両の荷重Wから編成に必要なけん引力又はブレーキ力を求め、各車両のブレーキ制御装置16及び主電動機制御装置17に分配出力する。
【0015】
各車両のブレーキ制御装置16や主電動機制御装置17は、ブレーキ力やけん引力を図示省略の各車両のブレーキ装置や主電動機に出力する。これにより、力行モード、惰行モード及びブレーキモードが指令できるので、1台の主電動機制御装置がけん引力を発生し、他のブレーキ制御装置はブレーキ力を出しているという、モードは作られない点、より正確な速度制御ができることになる。すなわち、各々の編成車両の主電動機制御装置17及びブレーキ制御装置16が加減速制御中や定速運転において同じ運転モードとなるように速度指令を出力することになる。
【0016】
図2乃至図5は、加減速度演算手段18での速度差に応じて演算される加減速度の特性曲線の一例を示すグラフである。図2は、マスコン13からの速度指令Vrと実速度Vの速度差ΔVに応じて加減速度αが比例して変わる特性を示すグラフである。加減速度演算手段18に図2に示す特性を持たせておくと、速度指令Vrと実速度Vの速度差ΔVに比例した加減速度αが得られる。
【0017】
例えば、列車速度Vが0km/hである状態から速度指令Vrとして80km/hを指令すると、最初は速度偏差ΔVが大きいので加速度大で加速し、列車速度Vが指令速度Vrの近くとなると速度偏差ΔVが小さくなり、速度偏差ΔVが0となると、指令速度Vrに列車速度Vを保つべく加速度を0とする制御を行う。これにより、電気車の速度Vが指令速度Vrに到達したところで定速運転を行うことになる。この場合、定速運転を行う際の力行モード、惰行モード、回生ブレーキモードへの切換えは無駄な動作を防ぐ目的で一般に時素を持って切換えられる。図2は直線の特性を示したが曲線の特性であってもよい。
【0018】
図3は、マスコン13からの速度指令Vrと実速度Vの速度差ΔVが0付近のゲインを高めた特性を有するグラフを示す。この場合は、速度指令Vrと実速度Vの速度差ΔVが0付近で定速運転を行っている場合に、速度変化があった場合に、迅速に定速運転を保持できるような運転が可能となる。
【0019】
図4は、マスコン13からの速度指令Vrと実速度Vの速度差ΔVに比例して加減速度αが変化する領域と、速度差ΔVが一定幅以上に変化した場合に加減速度αが変化する領域との2段の領域を有している。すなわち、速度差ΔVが0付近では速度差ΔVに比例して加減速度αを変化させ、速度差ΔVが大きくなるにつれて、速度差ΔVが一定幅以上に変化した場合に加減速度αを段階的に変化させる特性である。
【0020】
図5は、図4の特性に対して速度差ΔVに比例する領域が2つあり、速度差ΔVが0付近の比例係数よりも、速度差ΔVが大きな領域での比例係数を小さくした比例領域を有した特性である。
【0021】
図6は、本発明の実施の形態におけるマスコン13の一例を示すイメージ図である。図6に示すように、ハンドル20の位置を下に引くことで速度を指令し、通常は0km/hから120km/hの範囲でハンドル20を操作し、力行又は回生ブレーキを作用させて運転する。また、微移動に対しては速度指令領域で0km/hに近い位置にけん引力を指令する位置1Nが設けられている。さらに、停車については急を要するケースがあるため、非常ブレーキ以外に2つの強制ブレーキ位置が加えられている。
【0022】
図7は駅停車の定位置停車をする場合の速度パターンの説明図である。加減速度演算手段18は、駅停車時には駅近くに設置された地上子信号とマスコン13からの0速度指令を条件に、第1地上子を通過したときの速度V1、V2に応じて、定位置停止の速度パターンS1’、S2’を生成し、その速度パターンS1’、S2’に沿った速度制御を行う。
【0023】
例えば、マスコン13は停車したいときは速度0を指令する。そのときの速度パターンが速度パターンS1、S2であるときは、通常の場合には、第1地上子を踏むと点線の特性で減速するが、本発明の実施の形態では、第1地上子を通過したときの速度V1、V2に応じて、定位置停止の速度パターンS1’、S2’を生成し、その速度パターンS1’、S2’に沿った速度制御を行う。すなわち、駅停車で第1地上子を踏んでいる場合は駅停止の速度パターンS1’、S2’に切り換わり、ホームでは定位置に停車する。これにより、定位置に停車できる。
【0024】
このように、本発明の実施の形態では、運転士の扱うマスコン13において従来の力行出力を速度指令Vrとし、直接速度Vを対象にする指令とする。また、速度指令Vrまでの加速力や減速力は速度指令Vrと実速度Vとの大小を判定した性能とすることで、感覚に合致した運転の容易さを出すことができる。また、異常の事態に備えてマスコン13のハンドル20には速度指令位置以外に強制ブレーキ位置と非常ブレーキ位置を設けるので、通常運転では、運転士は区間区間での速度を指令することで最適な運転が実現でき、高密度運転にもつながり、駅の定位置停止に関しては、マスコン13からの0速度指令と地上子との情報伝達により、定位置に停止する速度パターンを発生して定位置停止を実現する。
【0025】
本発明の実施の形態によれば、速度指令が無段階となるので、最適速度での運転操作が容易に行える。また、駅ホームでの定位置停止が運転士がマスコン13を操作するだけで自動的に行える。これは安全や安心対策として駅ホーム上に固定安全柵や移動安全柵又はホームドアが設置された場合、停車時には電車のドア位置とホーム上の柵設備の出入り口が合う必要があり、運転のやり易さという点で大きな効果をもたらす。
【符号の説明】
【0026】
11…動力車、12…付随車、13…マスコン、14…伝送指令中央装置、15…端末、16…ブレーキ制御装置、17…主電動機制御装置、18…加減速度演算手段、19…トルク指令演算手段、20…ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台の車両が連結された編成車両の速度指令を出力するマスコンと、前記マスコンからの速度指令値と編成車両の実速度との速度差の大きさに応じた加減速度を演算する加減速度演算手段と、編成車両の荷重と加減速度演算手段で演算された加減速度とに基づいてトルク指令を出力するトルク指令演算手段と、前記トルク指令演算手段で演算されたトルク指令に基づきブレーキ力を発生するブレーキ制御装置と、前記トルク指令演算手段で演算されたトルク指令に基づきけん引力を発生する主電動機制御装置とを備え、電気車の速度が指令速度に到達したところで定速運転を行うことを特徴とする編成車両制御装置。
【請求項2】
前記加減速度演算手段は、前記マスコンからの速度指令値と編成車両の実速度との速度差がある範囲内では一定の加減速度を出力することを特徴とする請求項1に記載の編成車両制御装置。
【請求項3】
前記マスコンは、速度指令位置以外に強制ブレーキ位置と非常ブレーキ位置とを有したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の編成車両制御装置。
【請求項4】
前記マスコンは、速度指令位置の0km/h位置の近傍位置に微移動用のけん引力指令位置を有したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の編成車両制御装置。
【請求項5】
前記加減速度演算手段は、駅停車時には駅近くに設置された地上子信号と前記マスコンからの0速度指令を条件に定位置停止の速度パターンを生成し、その速度パターンに沿った速度制御を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の編成車両制御装置。
【請求項6】
前記加減速度演算手段は、各々の編成車両の前記主電動機制御装置及び前記ブレーキ制御装置が加減速制御中や定速運転において同じ運転モードとなるように速度指令を出力することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の編成車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−166731(P2010−166731A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7953(P2009−7953)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】