説明

緩衝系としてのボレート−ポリオール混合物

液剤がそこで使用されるように設計された環境に基づいて選択しうるpKaを有する緩衝系。本発明の緩衝系を含有する液剤は、ボレート-ポリオール複合体を一次緩衝剤として含有し、1つまたはそれ以上の下記物質を含有しうる:水性液体媒体;抗微生物成分;界面活性剤成分;粘度誘発成分;および/または張度成分。ボレート-ポリオール緩衝系は、従来の系より低いpKaを有するように配合しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物ならびにその配合法および使用法に関し、特に、ボレート-ポリオール混合物を一次緩衝剤として含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは、レンズに存在しうるかまたは生育しうる有害微生物を殺すために、かつ、レンズに蓄積しているあらゆる付着物を除去するために、消毒し、洗浄する必要がある。いくつかの最も一般的なレンズ消毒用製剤は、レンズを洗浄し、消毒し、湿潤させ、次に、濯がずに直接挿入(眼に配置)するのに使用することができる多目的液剤である。
【0003】
コンタクトレンズケアに単一の液剤を使用しうることは、多くの使用者にとって有利である。そのような液剤は、レンズに存在しうるかまたは生育しうる有害な微生物を殺すのに充分に有効でなければならない。さらに、少なくともいくらかの該液剤が、挿入した際にレンズに存在し、眼と接触するので、眼に特に優しくなければならない。さらに、そのような液剤は、全てのコンタクトレンズ材料、特に、技術水準のコンタクトレンズ材料であるシリコーンヒドロゲル材料と適合性でなければならない。
【0004】
液剤の消毒有効性を向上させる重大な取り組みは、同時に、液剤のコンタクトレンズ材料適合性および快適性を向上させ又は維持することでもある。眼科用組成物の1つの重要な成分は緩衝剤であり、それは、組成物のpHを、許容される生理的範囲に維持するのを助ける。
【0005】
眼科用組成物に一般に使用されている従来の緩衝剤は、抗微生物有効性を減少させる第四アンモニウム基剤抗微生物剤との相互作用の課題(例えば燐酸緩衝液)、またはそれらのpKa値(水性媒体中でプロトンを供与するイオン性基の能力)が、一般に、許容される生理的範囲外であるという課題を有する。例えば、硼酸塩緩衝液は9.0のpKaを有する。これは、明らかに、所望される眼のpH範囲7.0〜7.8の範囲外である。これは、該緩衝液濃度を増加させることによって克服しうるが、この濃度増加は、生理学的観点から使用者に望ましくないと考えられる。
同様の問題が、レンズ再湿潤液剤および人工涙液に関して存在する。
【0006】
ボレート-ポリオール複合体を抗微生物剤として使用することが当分野において既知である。これは、例えば、Chowhanらの米国特許第6849253号に開示されている。しかし、該特許は、得られた液剤が使用される用途に基づいて、生理的適合性のために選択しうるpKaを有する緩衝系を開示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、生理的性能のために調整されたpKaを有するように設計しうる緩衝系を開発することが望ましい。例えば、眼科用液剤において、約7.0〜7.8の正常生理的範囲内のpH緩衝能力を与えるpKaを有する緩衝系を含有することが望ましい。そのような系は、その範囲内のpH緩衝能力を有する緩衝剤を使用しうるあらゆる組成物(限定されないが、例えば、多目的コンタクトレンズ液剤、再湿潤剤および人工涙液)に使用しうる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ボレート-ポリオール緩衝系は、硼酸/硼酸塩のpKaよりかなり低いpKaを有するように設計しうる。本発明の緩衝系を使用する関連組成物および方法は、向上した生理学的に許容される液剤および処置、ならびに該液剤配合および処置の容易性を付与する。
【0009】
本発明の緩衝系のpKaは、液剤がそこで使用されるように設計された環境に基づいて選択しうる。一般的に言えば、ポリオール/硼酸のモル比が大きいほど、複合体生成がより多くなる。緩衝能力は、硼酸-ポリオール複合体によって付与されるので、液剤における複合体の量は、総pKa値に影響を与える。即ち、複合体の量が多くなるほど、pKa値が低くなる。同様に、複合体の量が少なくなるほど、pKa値がより高くなる。従って、pKaは、硼酸およびポリオールの量および比率を変化させることによって調節できる。従って、本発明の緩衝剤は、ほぼ生理的pH6〜9の広い範囲の緩衝能力を提供できる点で独特である。
【0010】
本明細書において使用されるポリオールは、相互に隣接する2個またはそれ以上のヒドロキシル(-OH)基を有する有機化合物である。
【0011】
本明細書において使用される「硼酸」という用語は、硼酸(H3BO3)、硼酸の金属塩(MH2BO3)、および硼酸塩(M2B4O7)を意味し、それらは全てポリオールとの複合体を生成する。硼酸のナトリウム塩は、硼酸の金属塩の一例である。硼酸ナトリウムは、硼酸塩の一例である。硼酸がポリオールとの複合体を生成する場合、それはボレート-ポリオール複合体である。本発明の液剤におけるボレート-ポリオール複合体の濃度は、約0.005%〜約2% w/w、好ましくは約0.01%〜約0.5% w/w、最も好ましくは約0.04%〜約0.4% w/wである。
【0012】
緩衝剤成分は、組成物または液剤のpHを所望の範囲、例えば、約4または約5または約6から、約8または約9または約10までの生理的に許容される範囲に維持するのに有効な量で存在する。特に、液剤が約6〜約8のpH範囲を有するのが好ましい。
【0013】
本発明組成物は、有効量の1つまたはそれ以上の下記のような付加的成分をさらに含んで成るのが好ましい:1つまたはそれ以上の抗微生物剤;洗浄または界面活性成分;粘度誘発または増粘成分;界面活性剤;キレート化または金属イオン封鎖成分;張度成分など、およびそれらの混合物。本発明組成物は、有用なアミノ酸も含有しうる。付加的成分は、コンタクトレンズケア組成物に有用であることが既知の物質から選択でき、所望の作用または利点を与えるのに有効な量で含有される。付加的成分が含有される場合、該成分は、一般的な使用および保存条件下に、組成物の他の成分と適合性であることが好ましい。例えば、前記の1つまたはそれ以上の付加的成分は、本明細書に記載する抗微生物成分および緩衝剤成分の存在下に、実質的に安定であることが好ましい。
【0014】
本発明の組成物および方法を使用して、5つのFDAコンタクトレンズ消毒パネル(panel)微生物のうちの4つ(P. aeruginosa、S. aureus、S. marcescensおよびF. solani)に対する独立型(stand-alone)消毒基準、および第5微生物C. albicansに対するレジメン(regimen)消毒を達成しうる。
【0015】
本発明の緩衝系と共に使用しうる抗微生物成分は、コンタクトレンズを汚染するような細菌または微生物との化学的または生理化学的相互作用から抗微生物活性を誘導する化学物質を包含する。そのような付加的抗微生物成分は、眼科用途に一般に使用される下記の物質を包含するが、それらに限定されない:第四アンモニウム塩、例えば、ポリ[ジメチルイミノ-2-ブテン-1,4-ジイル]クロリド、α-[4-トリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム]-ジクロリド(化学登録番号75345-27-6、Onyx Corporationから商標Polyquaternium 1(登録商標)として入手可能)、ハロゲン化ベンザルコニウム、およびビグアニド、例えば、アレキシジンの塩、アレキシジン-遊離塩基、クロルヘキシジンの塩、ヘキサメチレンビグアニドおよびそれらのポリマー、およびそれらの塩、抗微生物性ポリペプチド、二酸化塩素先駆物質など、およびそれらの混合物。一般に、ポリアミノプロピルビグアニド(PAPB)とも称されるヘキサメチレンビグアニドポリマー(PHMB)は、約100,000までの分子量を有する。そのような化合物は既知であり、Ogunbiyiらの米国特許第4759595号に開示されており、その開示は参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0016】
一般に、使用者が消毒されたレンズを液体水性媒体から取り出し、その後、安全かつ快適な着用のために直接的にレンズを眼に入れることができるように、抗微生物成分は、眼科的に許容されるかまたは安全な濃度で液体水性媒体に存在する。または、抗微生物成分は、眼科的に許容されるかまたは安全な濃度において、かつ防腐有効性を維持するのに充分であるように、液体水性媒体に存在する。本発明に有用な付加的抗微生物成分は、好ましくは約0.00001%〜約0.01%(w/w)の濃度、より好ましくは約0.00005%〜約0.001%(w/w)の濃度、最も好ましくは約0.00005%〜約0.0005%(w/w)の濃度で、液体水性媒体に存在する。
【0017】
本発明に含有させるのに好適な抗微生物成分は、二酸化塩素先駆物質を包含する。二酸化塩素先駆物質の特定の例は、安定化二酸化塩素(SCD)、金属亜塩素酸塩、例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属亜塩素酸塩など、およびそれらの混合物を包含する。工業銘柄の亜塩素酸ナトリウムは、極めて有用な二酸化塩素先駆物質である。二酸化塩素含有複合体、例えば、二酸化塩素と炭酸塩の複合体、二酸化塩素と重炭酸塩との複合体、およびそれらの混合物も、二酸化塩素先駆物質に包含される。多くの二酸化塩素先駆物質、例えばSCDの、正確な化学組成は完全には分かっていない。特定の二酸化塩素先駆物質の製造または生成が、McNicholasの米国特許第3278447号に開示されており、該特許は参照により全体として本明細書に組み入れられる。有用なSCD製剤の特定の例は、商標Dura Klor(登録商標)としてRio Linda Chemical Company, Inc.によって市販されている製剤、および商標Anthium Dioxide(登録商標)としてInternational Dioxide, Inc.によって市販されている製剤である。
【0018】
本発明に使用しうるpolyquaternium-1は、純粋な液体、液体濃厚物、塩、または水溶液中の塩の形態であってよい。1つの特に有用なpolyquaternium-1の形態は、水溶液中のpolyquaternium-1クロリドである。同様に、本発明に使用しうるPHMBも、純粋な液体、液体濃厚物、塩、または水溶液中の塩の形態であってよい。1つの特に有用なPHMBの形態は、1〜20w/w%における水溶液中の塩酸塩である。
【0019】
二酸化塩素先駆物質を本発明組成物に含有させる場合、それは、一般に、有効な防腐またはコンタクトレンズ消毒量で存在する。そのような有効な防腐または消毒濃度は、一般に、本発明組成物の約0.002〜約0.06%(w/w)である。二酸化塩素先駆物質は、他の抗微生物成分、例えば、ビグアニド、ビグアニドポリマー、それらの塩およびそれらの混合物と共に使用しうる。
【0020】
二酸化塩素先駆物質を抗微生物成分として使用する場合、組成物は、一般に、少なくとも約200 mOsmol/kgの重量オスモル濃度を有し、許容される生理的範囲のpH、例えば約6〜約10のpHを維持するために緩衝される。
【0021】
一態様において、付加的抗微生物成分は非酸化性である。本発明組成物における減少した量の非酸化性抗微生物成分は、例えば、約0.1ppm〜約3ppmまたは5ppm(w/w)未満において、コンタクトレンズを消毒するのに有効であり、かつ、そのような抗微生物成分が眼の不快感および/または刺激を生じるリスクを減少させることが見出された。抗微生物成分をビグアニド、ビグアニドポリマー、それらの塩およびそれらの混合物から選択した場合に、そのような減少した濃度の抗微生物成分は極めて有用である。
【0022】
塩化セチルピリジニウム(CPC)は、本発明の緩衝剤系と共に使用しうる抗微生物剤の一例である。本発明者の1人は、先に、非イオン性ポリ(オキシプロピレン)-ポリ(オキシエチレン)ブロックコポリマー界面活性剤と組み合わせた、低濃度の塩化セチルピリジニウム(CPC)が、コンタクトレンズ消毒剤として有効でありうることを見出した。そのような有効性は、0.1ppmまたは0.3ppmの低濃度〜約8ppm、9ppmまたは10ppmの濃度において見られる。CPCの使用によって得られる利点は、Zhi-Jian Yuらの米国特許出願第10/820486号(発明の名称「Cetylpyridinium Chloride as an Antimicrobial Agent」)に開示されており、該特許出願は参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
本発明液剤に使用しうる粘度誘発成分は、低いまたは減少した濃度において有効であり、本発明液剤の他の成分と適合性であり、かつ非イオン性であるのが好ましい。そのような粘度誘発成分は、界面活性剤成分の洗浄および湿潤活性を強化しかつ/または延長し、かつ/またはコンタクトレンズ表面を状態調節して、より親水性(より低い親油性)にし、かつ/または粘滑剤として眼に作用するのに有効である。溶剤の粘性を増加させることによって、レンズに薄膜を生じ、該薄膜は処理されたコンタクトレンズの快適着用を促進しうる。本発明の緩衝系を再湿潤剤または多目的液剤に組み込んだ場合、粘度誘発成分は、レンズの挿入の際に眼の表面における衝撃を緩和する作用もし、かつ眼の刺激を軽減する作用もしうる。
【0024】
好適な粘度誘発成分は、水溶性天然ゴム、ゼラチン、ポリオール(限定されないが、例えば、グリセリンおよびプロピレングリコールを含む)、セルロース誘導ポリマーなどであるがそれらに限定されない。有用な天然ゴムは、グアーゴム、トラガカントゴムなどを包含する。有用なセルロース誘導粘度誘発成分は、セルロース誘導ポリマー、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸塩(HA)などである。ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400およびポリソルベート80も有用である。より好ましくは、粘度誘発剤は、セルロース誘導体(ポリマー)およびそれらの混合物から選択される。極めて有用な粘度誘発成分は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。
【0025】
付加的な粘滑剤は、United States Ophthalmic Demulcents Monographに記載されている認可された眼科用粘滑剤を包含するがそれに限定されない。21 CFR 349.12(2003)参照。
【0026】
本発明は、ヒアルロン酸(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)を、主活性粘滑剤成分として含有してもよい。当業者に理解されるように、粘滑剤は、眼に局所的に適用されて、粘膜表面を保護し潤滑し、乾燥および刺激を緩和する薬剤(一般に水溶性ポリマー)である。本発明のこの態様において、ヒアルロン酸は、好ましくは、約200,000〜約4,000,000ダルトンの分子量を有する。好ましくは、その範囲は約750,000〜約2,000,000ダルトンである。より好ましくは、その範囲は約800,000〜約1,750,000ダルトン、または約900,000〜約1,500,000ダルトンである。一態様において、ヒアルロン酸の濃度は、約0.005%〜約0.5%(w/w)である。好ましくは、ヒアルロン酸の濃度は、約0.01〜約0.3%w/wである。より好ましい態様において、ヒアルロン酸の濃度は、約0.02〜約0.2%w/wである。他の好ましい態様において、ヒアルロン酸の濃度は、約0.05〜約2%w/w、より好ましくは約0.1〜約0.5%w/wである。
【0027】
粘度誘発成分は、液剤の粘度を、好ましくはUSP試験法No.911(USP 23, 1995)によって測定して、25℃において好ましくは約1.5cps〜約30cps、または約75cpsもの高さに増加させるのに有効な量で使用される。この範囲の粘度増加を得るために、約0.01%〜約5%(w/w)の量の粘度誘発成分を使用するのが好ましく、約0.05%〜約0.5%、または0.2%〜約2.5%の量がより好ましい。
【0028】
安定化オキシ-クロロ複合体を防腐剤として使用しうる。好ましくは、安定化オキシ-クロロ複合体濃度は、約0.0015〜約0.05%w/wである。より好ましくは、安定化オキシ-クロロ複合体濃度は、約0.0025〜約0.03%w/wである。他の好ましい安定化オキシ-クロロ複合体濃度は、約0.003〜約0.02%w/wである。他の好ましい態様において、安定化オキシ-クロロ複合体濃度は、約0.0035〜約0.01%w/wである。より好ましくは、安定化オキシ-クロロ複合体濃度は、約0.004〜約0.009%w/wである。
【0029】
本明細書において使用される「安定化オキシ-クロロ複合体」は、その一般的意味で使用される広義な用語である。該用語は、限定するものではないが、二酸化塩素先駆物質、または平衡状態の二酸化塩素先駆物質と二酸化塩素、を含んで成る安定溶液を包含する。二酸化塩素先駆物質は、亜塩素酸塩成分、例えば金属亜塩素酸塩、例えばアルカリ金属およびアルカリ土類金属亜塩素酸塩を包含するが、それらに限定されない。1つの特に好ましい金属亜塩素酸塩は、亜塩素酸ナトリウムである。安定化二酸化塩素としての安定化オキシ-クロロ複合体は、Advanced Medical Optics, Inc.からOCUPURE(商標)として、Allergan, Inc.からPURITE(登録商標)として、およびBiocide, Inc.からPUROGENEとして入手可能である。
【0030】
本明細書において使用される安定化オキシ-クロロ複合体の濃度は、潜在的二酸化塩素に関して測定される。潜在的二酸化塩素は、その一般的意味において使用される広義な用語である。従って、該用語の1つの意味は、全ての二酸化塩素先駆物質、例えば亜塩素酸ナトリウムが二酸化塩素に変換された場合に潜在的に生じる二酸化塩素の量を意味する。亜塩素酸ナトリウムを二酸化塩素に変換する一方法は、亜塩素酸ナトリウムを溶解させ、得られた溶液を酸性化することである。亜塩素酸ナトリウムを二酸化塩素に変換する他の方法は当業者に既知であり、遷移金属への暴露を包含するが、それに限定されない。
【0031】
液体水性媒体は、液体媒体に所望の張度を与えるために有効量の張度成分を含有するのが好ましい。使用しうる好適な張度調節成分として、コンタクトレンズケア製剤に一般に使用される物質、例えば、種々の無機塩および非イオン性ポリオールが挙げられる(当業者が認識するように、非イオン性ポリオールが使用される場合、緩衝系の濃度を調節すべきである)。塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムなどは、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトールなどと同様に、極めて有用な張度成分である。含有される張度成分の量は、溶液に所望される程度の張度を与えるのに有効な量である。そのような量は、例えば、約0.4%〜約1.5%(w/w)であってよい。塩化ナトリウムと塩化カリウムの組合せを使用する場合、塩化ナトリウムと塩化カリウムの重量比は約3〜約6または約8であるのが好ましい。
【0032】
本発明の他の態様において、液剤は、平衡塩類を含んで成ってよい。平衡塩類は、重量オスモル濃度約140〜約400 mOsm/kg、好ましくは約240〜約330mOsm/kg、さらに好ましくは約260〜約300mOsm/kg、最も好ましくは約270mOsml/kgを与える比率で、NaCl、KCl、CaCl2およびMgCl2を含有するのが好ましい。一態様において、NaClは、約0.1〜約1%w/w、好ましくは約0.2〜約0.8%w/w、より好ましくは約0.39%w/wであり;KClは、約0.02〜約0.5%w/w、好ましくは約0.05〜約0.3%w/w、より好ましくは約0.14%w/wであり;CaCl2は、約0.0005〜約0.1%w/w、好ましくは約0.005〜約0.08%w/w、より好ましくは約0.06%w/wであり;MgCl2は、約0.0005〜約0.1%w/w、好ましくは約0.005〜約0.08%w/w、より好ましくは約0.06%w/wである。
【0033】
キレート化または金属イオン封鎖成分は、抗微生物成分の有効性を強化し、かつ/または金属イオンとの錯体を生成して、コンタクトレンズのより有効な洗浄を付与するのに有効な量で含有されるのが好ましい。
【0034】
種々の、有機酸、アミン、または酸基およびアミン官能基を有する化合物は、本発明組成物においてキレート化成分として作用しうる。例えば、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ヒドロキシエチルアミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリホスフェート、クエン酸およびその塩、酒石酸およびその塩など、およびそれらの混合物は、キレート化成分として有用である。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびそのアルカリ金属塩が好ましく、エデト酸二ナトリウムとしても既知のEDTAの二ナトリウム塩が特に好ましい。
【0035】
キレート化成分は、有効量、例えば、液剤の約0.01%〜約1%(w/w)の量で存在するのが好ましい。
【0036】
極めて有用な態様において、特に、キレート化成分がEDTA、その塩、およびそれらの混合物である場合、減少した量、例えば、約0.05%(w/w)未満、または約0.02%(w/w)またはそれ以下の量が使用される。そのような減少した量のキレート化成分は、本発明の組成物において有効であり、それと同時に、不快感および/または眼の刺激を減少させることが見出された。
【0037】
有利なアミノ酸も本発明組成物に含有しうる。限定するものではないが、例えば、タウリン、グリシンおよびセリンを含有しうる。眼組織に関して膜保護機能を果たすことが示されているタウリンを、眼内で使用される本発明の態様に含有しうる。本発明の組成物に添加しうるアミノ酸の量は、一般に、約0.0001w/w%〜約0.1w/w%である。
【0038】
タウリンを含有する利点は、S. Huthの米国特許出願第10/328641号(発明の名称「Contact Lens Care Compositions, Methods of Use, and Preparation which Protect Ocular Tissue」)に開示されており、それは参照により本明細書に組み入れられる。特にコンタクトレンズ着用中に、眼組織細胞膜完全性を維持するために本発明において有用なタウリンの量は、客観的臨床測定、例えば、角膜上皮細胞からの涙液LDH放出、またはフルオレセイン障壁透過率測定(fluorescein barrier permeability measurements)、または眼細胞膜完全性を評価する他の手段、例えばフルオレセインまたはローズベンガル染色によって決定しうる。眼細胞膜完全性を評価する他の方法は、上皮細胞領域を測定する共焦点顕微鏡の使用である。涙液LDHをレスポンスファクターとして使用する代わりに、涙液中の他の炎症伝達物質を測定して、タウリンからの有利な作用を示しうる。タウリンの有効量は、かゆみ、涙液分泌(流涙)および快適性のような主観的臨床尺度によって決定することもできる。本発明に有用なタウリンの量は、一般に、約0.01〜約2.0w/w%であり、約0.05〜約1.00w/w%であってもよい。
【0039】
界面活性剤成分は、好ましくは、洗浄に有効な量で存在し、即ち、界面活性剤含有液剤と接触したコンタクトレンズからの破片(debris)または付着物の除去を少なくとも促進するのに有効な量、好ましくは除去するのに有効な量で存在する。
【0040】
界面活剤性成分は、好ましくは非イオン性であり、より好ましくは、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーおよびそれらの混合物から選択される。そのような界面活性剤成分は、商標Pluronic(登録商標)またはTetronic(登録商標)としてBASF Corporationから商業的に入手できる。Pluronic(登録商標)ブロックコポリマーは、第一級ヒドロキシル基を末端とするポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン縮合ポリマーとして一般に記述できる。それらは、プロピレンオキシドを、プロピレングリコールまたはグリセリンの2個のヒドロキシル基に制御付加することによって所望分子量の疎水性物質を先ず生成することによって合成しうる。合成の第二段階において、エチレンオキシドを付加して、この疎水性物質を親水基の間に挟む。Tetronic(登録商標)界面活性剤はポロキサミンとしても既知であり、エチレンジアミンとポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンとの対称ブロックコポリマーである。
【0041】
本発明に使用されるいくつかの非イオン界面活性剤の例は、例えば、下記文献に示されており、それらは全て参照により本明細書に組み入れられる:Kirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 第3版, 第22巻(John Wiley E Sons, 1983)、Sislet & Wood, Encyclopedia of Surface Active Agents (Chemical Publishing Co., Inc. 1964)、McCutcheon's Emulsifiers & Detergents, North American and International Edition (McCutcheon Division, The MC Publishing Co., 1991), Ash, The Condensed Encyclopedia of Surfactants (Chemical Publishing Co., Inc., 1989), Ash, What Every Chemical Technologist Wants to Know About …Emulsifiers and Wetting Agents, 第1巻 (Chemical Publishing Co., Inc., 1988), Tadros, Surfactants (Academic Press, 1984), Napper, Polymeric Stabilization of Colloidal Dispersion (Academic Press, 1983)およびRosen, Surfactants & Interfacial Phenomena, 第2版 (John Wiley & Sons, 1989)。
【0042】
本発明のより好ましい態様によれば、約2500〜13,000ダルトンの分子量を有するそのようなブロックコポリマーが好ましく、約6000〜約12,000ダルトンの分子量がより好ましい。満足の行く界面活性剤の特定の例は、下記の界面活性剤である:ポロキサマー 108、ポロキサマー 188、ポロキサマー 237、ポロキサマー 238、ポロキサマー 288、ポロキサマー 407、Tetronic(登録商標)1107、Tetronic(登録商標)1304(分子量10,500)およびTetronic(登録商標)1307。ポロキサマー 237およびTetronic(登録商標)1304を使用して、特に良好な結果が得られる。ポロキサマー 237はPluronic F87としても既知である。
【0043】
他の例示的界面活性剤成分は下記の物質を包含するが、それらに限定されない:非イオン界面活性剤、例えば、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20-商標Tween 20)、トコフェロールポリエチレングリコールスクシネート(「TPGS」)、ポリエチレングリコール(PEG)-400、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール/ポリ(オキシエチレン)ポリマー(例えば、商標Tyloxapolとして市販されているポリマー)、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーなど、およびそれらの混合物。
【0044】
界面活性剤成分が存在する場合、その量は、多くの要因、例えば、使用される1つまたは複数の特定界面活性剤、組成物中の他の成分などに依存して、広範囲に変化する。多くの場合、界面活性剤の量は、約0.005%または約0.01%〜約0.1%または約0.5%または約1.0%(w/w)である。好ましい界面活性剤濃度は、約0.05%〜約0.20%(w/w)である。
【0045】
本発明の緩衝系が、眼科用液剤、例えば、多目的液剤、再湿潤剤または涙液として使用される場合、使用される液体水性媒体は、処理されるレンズ、または処理されたレンズの着用者に実質的な有害作用を有さないように選択される。水性媒体は、本発明組成物による1つまたは複数のレンズ処理を可能にし、さらには促進するように構成される。液体水性媒体は、少なくとも約200 mOsmol/kg〜約300または約350 mOsmol/kgの重量オスモル濃度を有するのが好都合である。液体水性媒体は、より好ましくは、実質的に等張性または低張性(例えば、わずかに低張性)であり、かつ/または眼科的に許容される。
【0046】
一態様において、本発明組成物は下記の物質を含んで成る:液体水性媒体;組成物のpHを生理的に許容される範囲に維持するのに有効な量のボレート-ポリオール緩衝剤;液剤の他の成分と共に、組成物に接触するコンタクトレンズを消毒するのに有効な量の抗微生物剤;組成物に接触するコンタクトレンズを洗浄するのに有効な量の非イオン界面活性剤成分;有効量の粘度誘発成分;および有効量の張度成分。本発明組成物は、有効量の、より好ましくは0.05%(w/w)未満の、キレート化または金属イオン封鎖成分も含有しうる。本発明の液剤および配合液剤に含有される使用濃度の各成分は、一般に眼科的に許容される。さらに、本発明の液剤に含有される使用濃度の各成分は、一般に、液体水性媒体に可溶性である。
【0047】
液剤またはその成分は、眼組織と適合性である場合、即ち、眼組織と接触した際に有意なまたは過度の有害作用を生じない場合に、「眼科的に許容される」。本発明組成物の各成分は、本発明組成物の他の成分とも適合性であるのが好ましい。本発明組成物は、実質的に眼科的に至適化されるのがより好ましい。眼科的に至適化された組成物は、成分化学の制約内で、眼応答を最小化するか、または逆に、レンズを着用している眼に眼科的有益性を与える組成物である。
【0048】
コンタクトレンズを本発明組成物で消毒することが求められる場合、レンズを消毒するのに有効な量の抗微生物成分を本発明組成物に添加する。好ましくは、そのような有効量の抗微生物成分は、コンタクトレンズにおける微生物量または負荷量を、3時間で1 対数オーダーで減少させる。より好ましくは、有効量の消毒剤は微生物負荷量を、1時間で1対数オーダーで減少させる。
【0049】
現在有用な付加的抗微生物成分は、コンタクトレンズを汚染するような細菌または微生物との化学的または生理化学的相互作用によってそれらの抗微生物活性を引き出す化学物質を包含する。好適な抗微生物成分は、眼科的用途に一般に使用される下記の物質を包含するが、それらに限定されない:眼科的用途に使用される第四アンモニウム塩、例えば、α-4-[1-トリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム-2-ブテニル]ポリ[1-ジメチルアンモニウム-2-ブテニル]-ω-トリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド(商標Onamer M(登録商標)としてOnyx Chemical Company, Jersey City, NJから入手可能;Polyquad(登録商標)(Alcon Laboratories, Inc., Ft. Worth, TX)としても既知;polyquaternium-1としても既知)、ハロゲン化ベンザルコニウム、およびビグアニド、例えば、アレキシジンの塩、アレキシジン-遊離塩基、クロルヘキシジンの塩、ヘキサメチレンビグアニドおよびそれらのポリマー、およびそれらの塩、抗微生物性ポリペプチドなど、およびそれらの混合物。一般に、ポリアミノプロピルビグアニド(PAPB)とも称されるヘキサメチレンビグアニドポリマー(PHMB)は、約100,000までの分子量を有する。そのような化合物は既知であり、Ogunbiyiらの米国特許第4759595号に開示されており、その開示は参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0050】
本発明に有用な抗微生物成分は、約0.00001%〜約0.05%(w/w)、または約0.0001%〜約0.3%w/wの濃度で、液体水性媒体に存在するのが好ましい。
【0051】
あるとしても最小限の、角膜上皮点状フルオレセイン染色の発生(incidence of corneal epithelial punctate fluorescein staining)において、使用者が液体水性媒体から消毒レンズを取り出し、その後、安全かつ快適な着用のためにレンズを眼に直接的に入れることができるように、液剤を配合するのがより好ましい。
【0052】
付加的緩衝剤成分を液剤に任意に含有しうる。そのような付加的緩衝剤成分は、1つまたはそれ以上の燐酸塩またはトロメタミン(TRIS、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)緩衝剤、例えば、第一燐酸塩、第二燐酸塩などの組合せ、またはトロメタミンおよび塩酸トロメタミンを包含しうる。特に有用な燐酸塩緩衝液は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の燐酸塩から選択される緩衝液である。好適な燐酸塩緩衝液の例は、1つまたはそれ以上の第二燐酸ナトリウム(Na2HPO4)、第一燐酸ナトリウム(NaH2PO4)、および対応する燐酸カリウム塩である。緩衝剤成分は、硼酸およびその塩および/または硼酸ナトリウムも包含しうる。緩衝剤成分は、タウリンのようなアミノ酸も包含しうる。本発明の緩衝剤成分は、多くの場合、緩衝剤塩に基づいて約0.01%または約0.02%〜約0.5%(w/w)の量で使用される。
【0053】
本発明の緩衝剤を、コンタクトレンズの処理のために設計された配合物において使用する場合、配合物は、処理されるレンズ、または処理されたレンズの着用者に、実質的な有害作用を有さないように選択される。液体媒体は、本発明組成物による1つまたは複数のレンズ処理を可能にし、さらには促進するように構成される。液体水性媒体は、少なくとも約200 mOsmol/kg、例えば、約300または約350〜約400 mOsmol/kgの重量オスモル濃度を有するのが好都合である。液体水性媒体は、より好ましくは、実質的に等張性または低張性(例えば、わずかに低張性)であり、かつ/または眼科的に許容される。
【0054】
本明細書に記載する組成物を使用してコンタクトレンズを処理する方法は、本発明の範囲内に含まれる。そのような方法は、コンタクトレンズに所望の処理を行うのに有効な条件において、コンタクトレンズをそのような組成物に接触させることを含んで成る。
【0055】
接触温度は、好ましくは約0℃〜約100℃、より好ましくは約10℃〜約60℃、さらに好ましくは約15℃〜約30℃である。周囲温度またはほぼ周囲温度での接触が、極めて好都合であり、有効である。接触は、大気圧またはほぼ大気圧において行うのが好ましい。接触は、約5分または約1時間〜約12時間またはそれ以上の時間にわたって行うのが好ましい。
【0056】
コンタクトレンズは、本発明の緩衝剤を含有する液剤を使用して、該液剤にレンズを浸漬することによって処理しうる。接触時間の少なくとも一部において、例えば、液体媒体およびコンタクトレンズ含有容器を振ることによって、コンタクトレンズ含有液体媒体を攪拌して、レンズからの付着物の除去を少なくとも促進することができる。そのような接触段階の後に、コンタクトレンズを手で擦って、レンズから付加的付着物を除去しうる。洗浄法は、レンズを着用者の眼に戻す前に、レンズを液体水性媒体で濯ぐか、または液体水性媒体を実質的に濯ぎ落とすことも含みうる。しかし、該方法は、レンズを液剤に接触させ、レンズを直接的に眼に入れる簡単な方法であってもよい。
【0057】
2つまたはそれ以上の前記成分の種々の組合せを、本明細書に記載する少なくとも1つの利点を付与するのに使用しうる。従って、あらゆるそのような組合せは、本発明に含まれる。
【0058】
以下の非限定的実施例は、本発明の特定の局面を例示する。
【0059】
実施例1
先に記載したように、本発明のボレート-ポリオール緩衝系は、現在まで当分野で既知であるより有意に低いpKaを有するように設計しうる。図1AおよびBは、ソルビトールと硼酸との混合物についてのpH緩衝特性を示す。詳細な配合を表1に示す。
【0060】
より低いボレート-ポリオール濃度を有する配合物番号1についてのpH緩衝領域は4.1〜9.0であり、より高いボレート-ポリオール濃度を有する配合物番号2についてのpH緩衝領域は6.5〜9.7であることが分かる。2つの配合物のpKa値は、それぞれ6.6および8.1である(表1参照)。
【0061】
これらの液剤において示された緩衝系は、眼科用調製物に広く使用されている従来の硼酸緩衝液と容易に対照しうる。硼酸緩衝液の欠点は、そのpKa(9.0)が生理的pH範囲からかなり離れていることである。この高いpKa値を克服するために、眼科用調製物は10倍多い硼酸/硼酸塩緩衝液を一般に必要とする。そのような高い濃度の従来の硼酸緩衝液は、角膜細胞に高い細胞毒性を生じうる。
【0062】
先に示したボレート-ポリオール緩衝剤は、ほぼ生理的pH値にダウンシフトしたpKa値を示す。従って、液剤中の硼酸塩/硼酸の濃度は、0.06%未満であることができ、しかも、図1および2に示すように、やはり生理的に許容される範囲に近いpKaでの強い緩衝能力を示す。
【表1】

【0063】
実施例2
本発明のボレート-ポリオール複合体緩衝剤は、広い緩衝領域範囲を有し、生理的組成物についてのあらゆるpH緩衝要求を満たすように調節しうるpKa値を有する。
【0064】
表2は、硼酸およびソルビトールが複合体を生成した場合の、重量オスモル濃度の変化を示す。重量オスモル濃度は、当分野で周知の方法を使用して測定した。例えば、重量オスモル濃度は、Advanced(登録商標)2020 Multi-Sample Osmometer(Advanced Instruments, Inc., Norwood, Massachusetts, USA)のようなオスモメーターを使用して測定しうる。
【0065】
表2の第3欄は、液剤における重量オスモル濃度の減少を示し、これは、硼酸/硼酸塩とソルビトールとの複合体生成を示す。硼酸とソルビトールとの1:1または1:2の複合体生成比の場合(それぞれ、表2の第4欄および第5欄を参照)、ポリオールとの複合体を生成する硼酸のパーセントは、利用しうる全硼酸の小部分である。ソルビトール対硼酸のモル比が大きいほど、複合体生成はより多くなる。緩衝能力は、ボレート-ソルビトール複合体によって付与されるので、液剤における複合体の量は総pKa値に作用する。即ち、複合体の量が多いほど、pKa値はより低くなる。同様に、複合体の量が少ないほど、pKa値はより高くなる。従って、pKa値は、硼酸およびポリオールの量および比率を変化させることによって調節することができる。従って、本発明の緩衝剤は、ほぼ生理的pH6〜9の広範囲の緩衝能力を付与できる点で独特である。
【表2】

【0066】
実施例3
コンタクトレンズ洗浄、消毒、再湿潤および/または保存液剤用の従来の硼酸緩衝液の不利点は、いくつかのタイプのコンタクトレンズを膨潤させることである。そのようなコンタクトレンズの例は、Aquavisionレンズ(以前のActisoftレンズ(Bahrain Optics Co W.L.L.))である。Aquavisionレンズの場合、ボレート(単独か、または硼酸と混合されている)緩衝剤は、レンズ材料中にポリオール基を含有するコンタクトレンズを膨潤させる。
【0067】
従来の硼酸緩衝液と対照的に、本発明のボレート-ポリオール複合体は、現在市販されているどのようなコンタクトレンズも膨潤させない。
【0068】
表3は、Actisoftレンズにおける5つの液剤の作用を示す:初めの3つの液剤は、従来の硼酸緩衝液を含有し、後の2つは本発明の緩衝剤を含有する。液剤3によって示されるように、硼酸緩衝液は0.57mmもレンズを膨潤しうる。硼酸ナトリウムも、Aquavision(登録商標)レンズを0.3mmも膨潤させる(液剤1)。第3欄において、0.1%のグリセリンを添加してボレートとの複合体を生成させたが、液剤中の過剰量のボレートは、やはりレンズを有意に膨潤させた。
【0069】
コンタクトレンズ液剤メインテナンスについてのFDA基準は、レンズ直径の変化が0.2mm以内であることである。これは、コンタクトレンズのメインテナンスのための、硼酸の適用を制限する。
【0070】
表3において、液剤4および5を、液剤1〜3と対比しうる。液剤4および5は、有意過剰のボレート/硼酸を有さないボレート-ポリオール緩衝系が、Aquavision(登録商標)コンタクトレンズを膨潤させないことを示す。
【表3】

【0071】
実施例4
本発明のボレート-ポリオール複合緩衝剤は、無細胞毒性である。図3は、4つの配合物の細胞毒性の結果を示し、3つの配合物の配合は表4に示されている。第4配合物は、商業的に入手可能なOpti-free(登録商標)(Alcon Laboratories, Forth Worth, TX, USA)である。Opti-free液剤は、硼酸緩衝液を含有することが既知である。
【0072】
製剤と対比した場合、ニュートラルレッド保持は生体動物細胞の尺度である。
【0073】
より多い量(0.5%より大)のボレート-ポリオール複合体が、抗微生物活性を有することが既知である。しかし、この微生物活性は諸刃の剣である。それは、望ましくない微生物に対して有効でありうるが、角膜細胞に細胞毒性を誘発しうる。この細胞毒性は、配合物番号2、および0.5%より多いマンニトール-ボレートを含有するOptiFreeによって示される(図3参照)。図から分かるように、配合物番号2およびOptiFreeのニュートラルレッド保持は、暴露の最初の1時間でさえ急激に減少している。
【0074】
本発明のボレート-ポリオール緩衝剤(配合物番号3)は、極めて低い細胞毒性を示し、硼酸だけ(配合物番号1)の場合よりさらに低い細胞毒性である。従って、本発明のボレート-ポリオール緩衝系は、強い緩衝能力を有しつつ、眼科用調製物において非刺激性であると考えられる。
【表4】

【0075】
実施例5
脱イオン水に表5の成分を溶解させることによって、本発明のボレート-ポリオール緩衝系を使用した2種類の配合物を調製した。
【0076】
両液剤に関して得られたpHは7.7であり、液剤の重量オスモル濃度は250〜270 mOsm/kgであった。当分野で周知の方法を使用して、抗微生物活性を、FDAコンタクトレンズ消毒パネルに関して試験した。6時間の液剤接触における対数減少を表6に示す。表から分かるように、両液剤は、独立型消毒有効性基準を満たす。
【0077】
このおよび他の実施例において、成分濃度がw/w%で示されていることに留意すること。しかし、本明細書における多目的液剤密度が実質的に1.00gm/mLであれば、これらのw/w%濃度は実質的にw/w%濃度に等しい。
【表5】

【表6】

【0078】
実施例6
表5の液剤1に示した成分をともにブレンドすることによって、液剤を調製する。脂質、油およびタンパク質付着物が負荷された親水性またはソフトコンタクトレンズを含有するレンズ容器に、約3mLのこの液剤を導入する。コンタクトレンズを、この液剤中において室温で少なくとも約4時間維持する。この処理は、コンタクトレンズを消毒するのに有効である。さらに、レンズに先に存在していた付着物のかなりの部分が除去されたことも分かる。これは、この液剤が実質的な受動コンタクトレンズ洗浄能力を有することを示す。受動洗浄とは、機械的または酵素的増強を行わずにコンタクトレンズの浸漬中に起こる洗浄を意味する。
【0079】
次に、レンズを液剤から取り出し、安全かつ快適な着用のために、レンズ着用者の眼に入れる。または、レンズを液剤から取り出した後に、別の量のこの液剤で濯ぎ、次に、濯いだレンズを、安全かつ快適な着用のために、レンズ着用者の眼に入れる。
【0080】
実施例7
レンズをレンズ容器に入れる前に、別の量の液剤を用いて擦り、濯ぐ以外は、実施例6を繰り返す。この処理は、コンタクトレンズを消毒するのに有効である。さらに、レンズに先に存在していた付着物のかなりの部分が除去されたことも分かる。少なくとも約4時間後に、レンズを液剤から取り出す。次に、レンズを安全かつ快適な着用のために、レンズ着用者の眼に入れる。
【0081】
実施例8
実施例6の液剤を、親水性コンタクトレンズ用の長時間浸漬媒体として使用する。即ち、約3mLのこの液剤を容器に入れ、コンタクトレンズを液剤中において室温で約60時間維持する。この浸漬時間後に、レンズを液剤から取り出し、安全かつ快適な着用のためにレンズ着用者の眼に入れる。この処理は、コンタクトレンズを消毒するのに有効である。さらに、レンズに先に存在していた付着物のかなりの部分が除去されたことも分かる。または、レンズを液剤から取り出した後に、レンズを別の量のこの液剤で濯ぎ、次に、濯いだレンズを、安全かつ快適な着用のために、レンズ着用者の眼に入れる。
【0082】
実施例9
親水性コンタクトレンズは着用が容易である。そのような着用を促進するために、レンズ着用者の眼にレンズを入れる直前に、1滴または2滴の実施例6の液剤をレンズに適用する。このレンズの着用は快適かつ安全である。
【0083】
実施例10
コンタクトレンズを着用しているレンズ着用者が、レンズを着用している眼に、1滴または2滴の実施例6の液剤を適用する。これは、レンズを再湿潤させる作用をし、快適かつ安全なレンズ着用を付与する。
【0084】
眼科分野における使用に重点を置いて本発明を記載した。そのような使用の記載は例示するものにすぎない。本発明の緩衝系は、種々の状況において、かつ種々のタイプの液剤において使用するのに好適であることが当業者に理解される。従って、種々の特定の実施例および態様に関して本発明を記載したが、本発明はそれらに限定されず、請求の範囲内でさまざまに実施しうるものと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】ソルビトールと硼酸との混合物(配合物番号1)についてのpH緩衝特性を示すグラフ。
【図2】ソルビトールと硼酸との混合物(配合物番号2)についてのpH緩衝特性を示すグラフ。
【図3】4つの配合物の細胞毒性の結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液体媒体;および
ボレート-ポリオール複合体を含んで成る約0.005%w/w〜約0.47%w/wの緩衝成分;
を含んで成る液剤。
【請求項2】
約0.01〜約0.3%w/wのボレート-ポリオール複合体を含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項3】
約0.04〜約0.4%w/wのボレート-ポリオール複合体を含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項4】
ボレート-ポリオール複合体が、6〜9のpKaを有する請求項1に記載の液剤。
【請求項5】
ボレート-ポリオール複合体が、液剤中のボレート-ポリオール複合体の量を調節することによって選択されるpKaを有する請求項1に記載の液剤。
【請求項6】
ポリオールがソルビトールである請求項1に記載の液剤。
【請求項7】
液剤に接触しているコンタクトレンズを洗浄するのに有効な量の界面活性剤をさらに含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項8】
界面活性剤が、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーおよびそれらの混合物から成る群から選択され、約0.01%〜約1.0%(w/w)の量で存在する請求項1に記載の多目的液剤。
【請求項9】
セルロース誘導体およびそれらの混合物から成る群から選択される粘度誘発成分を、全液剤の約0.05%〜約5.0%(w/w)の範囲でさらに含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項10】
粘度誘発成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1に記載の多目的液剤。
【請求項11】
キレート化成分を、全液剤の0.05%(w/w)未満の量でさらに含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項12】
キレート化成分がEDTAである請求項1に記載の多目的液剤。
【請求項13】
張度成分を、液剤に所望される張度を与えるのに有効な量でさらに含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項14】
張度成分が、塩化ナトリウムと塩化カリウムとの組合せを含んで成り、約0.4%〜約1.5%(w/w)の範囲で存在する請求項1に記載の多目的液剤。
【請求項15】
ヒアルロン酸を、約0.005%〜約1.5%(w/w)の量でさらに含んで成る請求項1に記載の液剤。
【請求項16】
水性液体媒体;および
ボレート-ポリオール複合体を含んで成る緩衝成分;
を含んで成る液剤であって、該緩衝成分のpKaが約6〜約9のpH範囲であり、さらに、該pKaが液剤中のボレート-ポリオール複合体の量によって決まる液剤。
【請求項17】
約0.01〜約0.3%w/wのボレート-ポリオール複合体を含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項18】
約0.04〜約0.4%w/wのボレート-ポリオール複合体を含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項19】
ポリオールがソルビトールである請求項16に記載の液剤。
【請求項20】
液剤に接触しているコンタクトレンズを洗浄するのに有効な量の界面活性剤をさらに含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項21】
界面活性剤が、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーおよびそれらの混合物から成る群から選択され、約0.01%〜約1.0%(w/w)の量で存在する請求項16に記載の多目的液剤。
【請求項22】
セルロース誘導体およびそれらの混合物から成る群から選択される粘度誘発成分を、全液剤の約0.05%〜約5.0%(w/w)の範囲でさらに含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項23】
粘度誘発成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項16に記載の多目的液剤。
【請求項24】
キレート化成分を、全液剤の0.05%(w/w)未満の量でさらに含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項25】
キレート化成分がEDTAである請求項16に記載の液剤。
【請求項26】
張度成分を、液剤に所望される張度を与えるのに有効な量でさらに含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項27】
張度成分が、塩化ナトリウムと塩化カリウムとの組合せを含んで成り、約0.4%〜約1.5%(w/w)の範囲で存在する請求項16に記載の液剤。
【請求項28】
ヒアルロン酸を、約0.005%〜約1.5%(w/w)の量でさらに含んで成る請求項16に記載の液剤。
【請求項29】
選択されたpKaを有する緩衝系を含有する液剤の配合法であって、硼酸およびポリオールを水溶液中で合わせてボレート-ポリオール緩衝系を形成することを含んで成り、該緩衝系のpKaが、溶液におけるボレート-ポリオール複合体の量を調節することによって選択される方法。
【請求項30】
選択されたpKaが6〜9の範囲である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
緩衝系が、6〜9のpH範囲における緩衝能力を生じる請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ポリオールがソルビトールである請求項29に記載の方法。
【請求項33】
溶液におけるボレート-ポリオール複合体の濃度が、約0.01%w/w〜約1%w/wである請求項29に記載の方法。
【請求項34】
溶液混合物中のボレート/ポリオールの比率が、約100:1〜約0.01:1である請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−538823(P2008−538823A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506527(P2008−506527)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/012886
【国際公開番号】WO2006/110482
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(502049837)アドバンスト メディカル オプティクス, インコーポレーテッド (50)
【Fターム(参考)】