説明

縦結合多重モード弾性表面波フィルター

【課題】一つの素子に複数の弾性表面波共振子を配置して複数の減衰極を形成することを可能とした共振子型の構成をとる多重モード弾性表面波フィルターを提供する。
【解決手段】縦結合二重モードSAWフィルター1は、圧電基板5上に、複数対の正規型IDT電極50、および、その正規型IDT電極50と同じ対数の反射反転型IDT電極60が、弾性表面波の伝搬方向(縦方向)に隣接して並設されたいわゆる縦結合の多重モードSAWフィルターである。圧電基板5上の、隣接して並設された正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60の、さらに弾性表面波の伝搬方向の両側には、正規型IDT電極50の反射反転型IDT電極60とは反対側には、正規型IDT電極50と同じ電極構造の正規型反射器31Aが配置され、反射反転型IDT電極60の正規型IDT電極50とは反対側には、反射反転型反射器32Aが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子に関し、特に、縦結合多重モード弾性表面波フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波デバイスの分野では、圧電基板の表面に形成したIDT(Interdigital Transducer)電極により圧電体表面に弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を励振させたり、弾性表面波を検出したりするように構成された弾性表面波素子が様々な電子機器に用いられている。特に、小型・軽量でかつフィルターとしての急峻遮断性能が高い弾性表面波フィルターは、量産性にも優れていることから、携帯電話など移動体通信分野において多用されるようになってきており、電子機器の小型・軽量化の一翼を担っている。
【0003】
図10は、従来の1次−3次縦結合二重モードSAWフィルター(以下二重モードSAWフィルターと記す)の電極パターンの一例を模式的に示す平面図である。図10において、従来の二重モードSAWフィルター200は、圧電基板205上に弾性表面波の伝搬方向に沿って三つのIDT電極212,213,214が近接配置され、これらのIDT電極212,213,214の両側に反射器215Aおよび反射器215Bを配設したものである。IDT電極212,213,214は、それぞれ互いに間挿し合う複数の電極指を有する二つの交差指電極により構成され、いずれか一方の交差指電極の電極指2本の間に他方の交差指電極の電極指一本が間挿された態様において、その一方の交差指電極の電極指2本の電極間距離(1ピッチ)を1波長(1λ)とするいわゆる正規型IDT電極である。そして、IDT電極212の一方の交差指電極が入力端子に接続され、他方の交差指電極が接地される。そして、IDT電極213およびIDT電極214の一方の交差指電極は互いに連結して出力端子に接続され、IDT電極213およびIDT電極214の他方の交差指電極は互いに接続して接地されている。
【0004】
このような従来の二重モードSAWフィルター200の動作は、周知のように、IDT電極212,213,214によって励起される弾性表面波が反射器215A,215Bの間に閉じ込められ、IDT電極212,213,214の間で音響結合を生ずる結果、1次と3次の縦共振モードが強勢に励振され、これら二つのモードを利用した二重モードSAWフィルター200として動作する。なお、この二重モードSAWフィルター200の通過帯域は1次共振モードと3次共振モードとの周波数差に比例することは周知のことである。また、上記二重モードSAWフィルター200を一つの圧電基板上に複数個併置し、それらを弾性表面波の伝搬方向に沿った方向に縦続接続してSAWフィルターの減衰傾度および保証減衰量を改善することは周知の手段である。
【0005】
ところで、上記のように、正規型のIDT電極212,213,214を用いて広帯域の二重モードSAWフィルターを実現しようとすると、そのフィルター特性において、通過帯域近傍の高域側の減衰傾度が、低域側の減衰傾度のように一様に増加せず、減衰量が一旦、劣化してから増加する特性、いわゆるダレ特性を呈することが周知の課題とされている。
【0006】
このような通過帯域近傍の減衰特性や帯域外減衰量の改善要求に応えるべく、一つの圧電基板上に、IDT電極の電極対数を変えることにより形成された周波数の異なる多数のSAW共振器を接続し、このうち、特に電極対数を多くして形成された共振器をノッチフィルターとして用いる構成とした多重モード弾性表面波フィルター(多電極型弾性表面波フィルター)が、例えば特許文献1に紹介されている。
特許文献1に記載の多重モード弾性表面波フィルターによれば、電極指の重み付けのために劣化した減衰特性が改善される。また、ノッチフィルターとして用いる共振器が多重モード弾性表面波フィルターの通過帯域内において静電容量として動作するため、電極対数を多くしたことにより本来必要となる整合回路の直列容量を不要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−177697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の多重モード弾性表面波フィルターでは、通過帯域近傍の減衰特性をより大きくするためには二つのSAW共振子を用いて減衰極を形成しているため、圧電基板上のSAWフィルターの設計面積が増大してしまいデバイスの小型化には不利であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0010】
〔適用例1〕本適用例にかかる縦結合多重モード弾性表面波フィルターは、圧電基板上に、弾性表面波の伝搬方向に沿って、複数のIDT電極と、その両側に配置された反射器と、が設けられた縦結合多重モード弾性表面波フィルターと、前記縦結合多重モード弾性表面波フィルターの入力側または出力側の少なくとも一方に直列または並列に接続されたIDT電極とその両側に反射器を有する1端子対弾性表面波共振子と、を備え、前記1端子対弾性表面波共振子の前記IDT電極は、幅員の同じ電極指を等間隔に互いに間挿した正規型IDT電極と、幅員W1の第1の電極指と、その隣に間隙g1をおいて配置した幅員W2の第2の電極指と、さらにその隣に間隙g2をおいて配置した幅員W3の第3の電極指と、前記第1の電極指および前記第3の電極指の隣にそれぞれ配置した(g3)/2のスペースからなる単位区間を複数区間繰り返して構成され、前記第1の電極指と前記第3の電極指とを同相とし、それら前記第1の電極指および前記第3の電極指と前記第2の電極指とを逆相とするとともに、前記第1の電極指の幅員W1と前記第3の電極指の幅員W3とをW1=W3とし、前記間隙g1と前記間隙g2とをg1=g2とした前記複数のIDT電極のうちの他方のIDT電極としての反射反転型弾性表面波変換器と、が、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に沿って隣接して配置されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ワンチップの弾性表面波フィルターにて、フィルター特性の通過帯域の低域側および高域側の両域に渡り複数の減衰極が形成できることを発明者は見出した。これにより、フィルター特性の通過帯域の全域に渡って帯域外減衰量が改善されて十分な減衰量が確保され、フィルター特性における挿入損失を向上させることができ、高精度なワンチップの弾性表面波フィルターを提供することができる。
【0012】
〔適用例2〕上記適用例にかかる縦結合多重モード弾性表面波フィルターにおいて、前記1端子対弾性表面波共振子の前記反射器は、隣接する前記正規型IDT電極または前記反射反転型弾性表面波変換器と同じ電極構造を有して配置されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、隣接するIDT電極と反射器との位相が揃うので、IDT電極と反射器とのレイアウト設計において位相を考慮する必要がなくなり、設計が容易になる。
【0014】
〔適用例3〕上記適用例にかかる縦結合多重モード弾性表面波フィルターにおいて、前記正規型IDT電極および前記反射反転型弾性表面波変換器において、それぞれの1波長分の電極指の対数が同じであることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、隣接する正規型IDT電極および反射反転型IDT電極において、1波長(1λ)分の電極配列が同一周期形成されるので、より安定した周波数特性を有する縦結合多重モード弾性表面波フィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】縦結合多重モード弾性表面波フィルターとしての縦結合二重モードSAWフィルターの一実施形態を模式的に説明する平面図。
【図2】1端子対弾性表面波共振子としての1端子対SAW共振子の電極構造の説明図。
【図3】(a)は、正規型IDT電極を模式的に説明する部分平面図、(b)は、(a)のB−B線断面における周波数特性を示す説明図。
【図4】(a)は、正規型IDT電極の1波長における4つの反射面を示す側面図、(b)は、4つの反射面の反射ベクトルとその合成ベクトルを示す説明図。
【図5】正規型IDT電極が形成するストップバンドの下端における定住波(実線)、上端における定住波(一点鎖線)、駆動力分布(破線)、励振中心(○印)、および反射中心(□印)を示す説明図。
【図6】(a)は、反射反転型IDT電極を模式的に説明する部分平面図、(b)は、(a)のA−A線断面における周波数特性を示す説明図。
【図7】(a)は、反射反転型IDT電極の1波長に配列した3つの電極指の6個のエッジ面を示す側面図、(b)は、6個のエッジ面における反射ベクトルとその合成ベクトルを示す説明図。
【図8】反射反転型IDT電極が形成するストップバンドの下端における定住波(実線)、上端における定住波(一点鎖線)、駆動力分布(破線)、励振中心(○印)、および反射中心(□印)を示す説明図。
【図9】本実施形態の縦結合二重モードSAWフィルターの周波数特性のシミュレーション結果を示す説明図。
【図10】従来の1次−3次縦結合二重モードSAWフィルターの電極パターンの一例を模式的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、縦結合多重モード弾性表面波フィルターの一例としての縦結合二重モードSAWフィルターについて図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の縦結合二重モードSAWフィルターを模式的に説明する平面図である。
図1において、縦結合二重モードSAWフィルター1は、圧電基板のSAWの伝搬方向に沿って近接配置したIDT電極1、IDT電極2、IDT電極3、および該IDT電極1〜3の両外側に反射器4a、4bを配置した縦結合二重モードSAWフィルター10と、IDT電極5およびその両外側に反射器6a、6bを配置した1端子対SAW共振子20とから構成される。IDT電極1〜3はそれぞれ互いに間挿し合う複数の電極指を有する二つの交差指電極により構成され、いずれか一方の交差指電極の電極指2本の間に他方の交差指電極の電極指一本が間挿される。IDT電極2の一方の交差指電極は入力端子に接続され、他方の交差指電極が接地される。そして、IDT電極1およびIDT電極3の一方の交差指電極は互いに連結して1端子対SAW共振子20の一方の交差指電極に接続され、IDT電極1およびIDT電極3の他方の交差指電極は互いに接続して接地されている。1端子対SAW共振子20の他方の交差指電極は出力端子に接続される。
【0019】
図2は、1端子対SAW共振子20の電極構造を詳細に示した図であり、IDT電極5は少なくとも正規型IDT電極50と反射反転型IDT電極60とを隣接した構造となっており、正規型IDT電極50と反射反転型IDT電極60の両外側に正規型反射器(図1の反射器6a)および反射反転型反射器(図1の反射器6b)を配置している。
本発明の特徴は、縦結合二重モードSAWフィルターに直列に接続する1端子対SAW共振子のIDT電極を正規型IDT電極と反射反転型IDT電極とを隣接して構成する点である。以下、正規型IDT電極と反射反転型IDT電極の構造、および動作原理について述べる。
【0020】
〔正規型IDT電極〕
まず、本発明の理解を得るために、1端子対SAW共振子20における通常の正規型IDT電極およびその動作原理について図面に沿って簡単に説明する。図3は、正規型IDT電極の一構成例を模式的に説明するものであり、(a)は部分平面図、(b)は(a)のB−B線断面における周波数特性を示す説明図である。
図3(a)において、正規型IDT電極50は二つの櫛型の交差指電極を有し、一方の交差指電極のバスバーに連結された複数の連続する電極指(図中、電極指11,13の側)と、他方の交差指電極のバスバーに連結された複数の連続する電極指(図中、電極指12の側)とが、互いに接触しないように等間隔ピッチにて間挿し合って構成されている。
【0021】
ここで、図中の記号λは、正規型IDT電極50によって励振される弾性表面波の1波長であり、この波長λは、正規型IDT電極50における一方の交差指電極の連続する任意の電極指11の中央から電極指13の中央までに相当し、それらの電極指11と電極指13との間には、他方の交差指電極の連続する任意の電極指12が間挿されている。本発明では、波長λに相当する電極指11,12,13を、正規型IDT電極50における1対の電極指と定義する。
【0022】
図3(b)に示す正規型IDT電極50においては、二つの交差指電極のそれぞれに逆相の高周波電圧を印加して正規型IDT電極50を駆動したときの、ある瞬間の表面電位を破線にて示している。正規型IDT電極50は、幅の等しい電極指がλ/2周期で並んで配置されており、このときの、任意の電極指の中央を基準とした1対(1基本単位を電極指2本で構成)あたりの反射計数(反射ベクトル)について、次に、図4を用いて説明する。図4は(a)は、正規型IDT電極の1波長における4つの反射面を示す側面図、(b)は4つの反射面の反射ベクトルとその合成ベクトルを示す説明図である。また、図5は、正規型IDT電極が形成するストップバンドの下端における定住波(実線)、上端における定住波(一点鎖線)、駆動力分布(破線)、励振中心(○印)、および反射中心(□印)を示す説明図である。
【0023】
図4(a)において、正規型IDT電極50の任意の1波長λ分の反射を考えるにあたって、1波長λ分の1対の電極指11,12,13の各々の圧電基板5に対して垂直なエッジ面をR1〜R4とする(ここで、記号R1〜R4はそれぞれエッジ面を表すとともに、そのエッジ面からの反射ベクトルも表すものとする)。この四つのエッジ面R1〜R4からの反射ベクトルは、図4(b)に示すように、エッジ面R1,R3からの反射ベクトルR1,R3はそれぞれ等しく、すなわち大きさと位相角が同じとなり、エッジ面R2,R4からの反射ベクトルR2,R4はそれぞれ等しくなる。したがって、図4(b)に示すように、四つの反射ベクトルR1〜R4を合成した反射ベクトルが、1基本単位(1対)あたりの反射ベクトルΓ1となり、電極指12の中央を基準としたとき−π/2の位相となっている。
【0024】
すなわち、いわゆる反射中心は反射係数の位相が−π/2となる位置と定義されているため、各電極指の中央に位置することになる。このような正規型IDT電極を多数並べた周期構造(SAW共振子、SAW共振型フィルター等)で、その周期的な反射のためにストップバンドが形成されることがよく知られている。その意味するところは、ストップバンド内の周波数を有する弾性表面波は伝搬することができず、定住波が形成されることであり、この共振状態を利用してSAW共振子やSAWフィルターを構成する。
【0025】
「モード結合理論を用いたIDTの特性解析法」(第21回EMシンポジウム、P.87〜94、1992)に示されているように、正規型IDT電極によって形成されるストップバンドの下端(下限)および上端(上限)の周波数において、それぞれの定住波の腹(または節)の位置がπ/2ずれている。図5は、正規型IDT電極のストップバンドの両端(下端および上端)におけるそれぞれの定住波の分布を示す図であり、図5は、1次〜3次モードSAWフィルターの濾波特性を示す説明図である。図5において、実線で示すストップバンドの下端における定住波は電極指中央位置、すなわち反射中心位置で腹となり、一点鎖線で示すストップバンド上端における定住波は反射中心位置において節となる。なお、一点鎖線で示したストップバンド上端の定住波は、無限周期構造では励振されないが、実際のIDT構造のように有限構造となると、ストップバンド下端における定住波よりも弱いものの励振されることになる。
一方、弾性表面波(波長λ)を励起する駆動力(くし形電極に印加した電圧により機械的な変位を起こす力)は、周知のように、図3(b)に示した表面電位分布をフーリエ級数展開したときの最低次成分となる。計算して求めた駆動力は波長λの正弦波となり、図5中に破線で示す。この破線で示された正弦波の極値の位置が励振中心になる。なお、図5中に示した□印は反射中心を示し、○印は励振中心を示している。
【0026】
図5に示すように、励振中心(○印)と反射中心(□印)とが重なると、実線で示したストップバンド下端の定住波は、破線で示した駆動力分布と同相となり、強勢に励振されることになる。このように、正規型IDT電極を用いた従来の縦結合多重モードSAWフィルターでは強勢に励振されるストップバンド下端の最低次の共振周波数(f1)と、その縦の高次モードの共振周波数(fn)とを用いてフィルターを構成している。これら縦の高次モードは、その最低次がストップバンド下端に近く、高次モードになるほど低い周波数において励起されることが既に実験的にもシミュレーションでも確認されている通りである。
【0027】
〔反射反転型IDT電極〕
次に、縦結合二重モードSAWフィルター1において、上記の正規型IDT電極50とともに備わる反射反転型IDT電極、およびその動作原理について図面に沿って説明する。図6は、縦結合二重モードSAWフィルターにおける反射反転型IDT電極の一構成例を模式的に説明するものであり、(a)は部分平面図、(b)は(a)のA−A線断面における周波数特性を示す説明図である。
図6(a)において、圧電基板5上に弾性表面波の伝搬方向に沿って正規型IDT電極50に隣接して配置される反射反転型IDT電極60は、二つの櫛型の交差指電極を有し、一方の交差指電極のバスバーに連結された複数の連続する電極指(図中、電極指22の側)と、他方の交差指電極のバスバーに連結された複数の連続する電極指(図中、電極指21,23の側)とが、互いに接触しないように間挿し合って構成されている。
【0028】
詳細には、反射反転型IDT電極60は、一方の交差指電極の幅員W2の電極指22と、その電極指22の図中左方に間隙g1をおいて配置された他方の交差指電極の幅員W1の電極指21と、電極指22の図中右方に間隙g2をおいて配置された他方の交差指電極の幅員W3の電極指23と、電極指21の図中左方および電極指23の図中右方のそれぞれの隣接する電極指との間隙g3の半分((g3)/2)のスペースからなる単位区間、すなわち、1波長λあたり三本の電極指21,22,23で構成される単位区間を圧電基板5上に繰り返し複数区間配列したものである。本発明では、この波長λに相当する電極指21,22,23を、反射反転型IDT電極60における1対の電極指と定義する。すなわち、図3に示した正規型IDT電極50では1波長λあたり正負の電極指が1対であるが、反射反転型IDT電極60においては三つの電極指(1波長λあたり)にて正規型IDT電極50の1対に相当する。
【0029】
ここで、他方の交差指電極の電極指21,23それぞれの幅員W1,W3は等しく、また、電極指21,23それぞれと一方の交差指電極の電極指22との間隙g1と間隙g2とは等しい。そして、一方の交差指電極のバスバーに連結された複数の連続する電極指22と、他方の交差指電極のバスバーに連結された複数の連続する電極指21,23とに逆相の高周波電圧を印加して反射反転型IDT電極60を駆動させるものとする。
【0030】
図6(a)のA−A線断面を示す図6(b)の反射反転型IDT電極60においては、二つの交差指電極のそれぞれに逆相の高周波電圧を印加して反射反転型IDT電極60を駆動したときの、ある瞬間の表面電位を破線にて示している。
ここで、1波長λあたりの電極指21,22,23の三本とした反射反転型IDT電極60の単位区間あたりの反射ベクトルΓ2を求めると、図7(a)に示すように、反射反転型IDT電極60の任意の一区間、すなわち、電極指21〜23それぞれの両端の六つのエッジ面E1〜E6(E1〜E6はエッジ面を示すと同時に、そのエッジからの反射ベクトルも示すものとする)を求めてみると、図7(b)に示すように、六つの反射ベクトルE1〜E6が求まる。この場合、図4と比較するために一方の交差指電極の電極指22の中央を反射の基準としている。この反射ベクトルE1〜E6の合成ベクトルは、図7(b)に示すように反射ベクトルΓ2となる。
【0031】
反射ベクトルΓ2は、図4(b)に示した正規型IDT電極50の反射ベクトルΓ1とは異なり、電極指22の中央においてπ/2の位相を示している。したがって、正規型IDT電極50の位相と反射反転型IDT電極60の位相とはπだけ異なることになる。この位相差による反射中心の空間的位置は、弾性表面波の位相回転は往復が寄与するので、電極指22の中央から空間的にπ/4だけ離れた位置になる。すなわち、反射反転型IDT電極60では、ストップバンドの上端および下端の周波数におけるそれぞれの定住波分布が図8に示すようになる。図8は、反射反転型IDT電極が形成するストップバンドの下端における定住波(実線)、上端における定住波(一点鎖線)、駆動力分布(破線)、励振中心(○印)、および反射中心(□印)を示す説明図である。
図8において、実線はストップバンド下端の周波数における定住波を示し、一点鎖線はストップバンドの上端の周波数における定住波を示している。すなわち、図5に示す正規型IDT電極50の定住波分布と比べると明らかなように、反射中心が励振中心に対してπ/4だけずれたのにともない各定住波分布もそれぞれπ/4だけずれ、結果として駆動分布に対する定住波のそれぞれの腹と節の位置関係が図5のそれとは入れ替わっている。
【0032】
一方、図6(b)に破線で示す表面電位分布をフーリエ級数展開したときの最低次成分が駆動力となることは前述したとおりであり、これを計算した駆動力分布は図8中に破線で示した正弦波の曲線になる。この図8からも明らかなように、励振中心(○印)は電極指22の中心に位置し、反射中心(□印)は電極指22の中央からπ/4離れた位置になる。
【0033】
したがって、一点鎖線で示すストップバンド上端の周波数における定住波の腹が、励振中心と一致するため、ストップバンド上端の周波数が強勢に励振される。
一方、実線で示すストップバンド下端の周波数における定住波の節が、励振中心と一致し、無限周期構造では励振されないことを示している。
【0034】
しかし、実際の有限周期構造では、実線で示すストップバンド下端の定住波は、一点鎖線で示すストップバンド上端の定住波に比べて弱いものの励振される。このような電極構成の反射反転型IDT電極60を用いると、ストップバンド上端の定住波は強く励振されることになる。このストップバンド上端の周波数の縦の高次モードは、シミュレーションの結果によると次数が高いほど高い周波数に現れ、最低次モードと高次モードとを複数個用いて縦結合多重モードのSAW変換器を構成することができる。
【0035】
〔縦結合二重モードSAWフィルター〕
次に、縦結合二重モードSAWフィルターに上述した正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60を隣接して配置した1端子対SAW共振子を直列接続した構造について説明する。
図2において、本実施形態の縦結合二重モードSAWフィルターに直列接続される1端子対SAW共振子は、圧電基板5上に、上述した複数対の正規型IDT電極50、および、その正規型IDT電極50と同じ対数の反射反転型IDT電極60が、弾性表面波の伝搬方向(縦方向)に隣接して並設されている。本実施形態では各100対ずつの正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60が設けられている。
【0036】
また、隣接して並設された正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60の、さらに弾性表面波の伝搬方向の両側には反射器が設けられている。すなわち、圧電基板5の弾性表面波の伝搬方向において、正規型IDT電極50と隣接する反射器は正規型IDT電極50と同じ電極構造の正規型反射器31Aが配置されている。また、圧電基板5の弾性表面波の伝搬方向において、反射反転型IDT電極60と隣接する反射器は反射反転型IDT電極と同じ電極構造の反射反転型反射器32Aが配置されている。そして、隣接して並設された正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60から伝搬された弾性表面波を、正規型反射器31Aと、反射反転型反射器32Aとで反射させて、圧電基板5の中央部に弾性表面波エネルギーを封じ込める役目を果たしている。
【0037】
上記構成のように、隣接して並設された正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60の両側に設ける反射器の配置において、正規型IDT電極50または反射反転型IDT電極60のそれぞれと同じ電極構造の正規型反射器31Aまたは反射反転型反射器32Aを隣接させて配置することにより、設計が容易になるという効果を奏する。すなわち、隣接するIDT電極と反射器との電極構造が同じなので、あらためてIDT電極と反射器との位相を考慮して設計する必要がない。
【0038】
なお、本実施形態では、正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60それぞれには同じ電極構造の反射器を隣接して設けることが望ましく、また、並設された正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60の両側には同数の反射器を配設することが望ましい。
【0039】
次に、上記構成の縦結合二重モードSAWフィルター1の周波数特性について説明する。図9は、図1に示す本実施形態の縦結合二重モードSAWフィルター1に正規型IDT電極と反射反転型IDT電極とを隣接させた1端子対SAW共振子を直列接続したときの周波数特性のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、図9において、本実施形態の縦結合二重モードSAWフィルター1の周波数特性は実線にて示され、破線は比較用の従来の縦結合二重モードSAWフィルターに正規型IDT電極のみから構成される1端子対SAW共振子を直列接続したときの周波数特性を示している。
【0040】
図9に示すように、実線に示す本発明のフィルター特性は破線に示す従来のフィルター特性と比較して、通過帯域の高域側の減衰量が改善されていることが分かる。これは縦結合二重モードSAWフィルターに直列接続する1端子対SAW共振子を従来のように正規型IDT電極のみで形成すると、1端子対SAW共振子の反共振点により生じる減衰極は1点しか得られないため、局所的に減衰量を改善することは可能であるが、高域に渡って減衰量を改善することは難しい。一方、本発明のように縦結合二重モードSAWフィルターに直列接続する1端子対SAW共振子を正規型IDT電極と反射反転型IDT電極とを隣接させた構造とすることにより、1端子対SAW共振子の反共振点が複数発生し、それにより生じる減衰極が複数生じるため、高域に渡って減衰量を改善することが可能となる。
【0041】
(変形例)
上記実施形態の縦結合二重モードSAWフィルターでは、圧電基板5上において縦結合二重モードSAWフィルターに1端子対SAW共振子を直列に接続した。これに限らず、縦結合二重モードSAWフィルターに1端子対SAW共振子を並列接続しても良い。
【0042】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、圧電基板5上に弾性表面波の伝搬方向に、100対ずつの正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60が隣接して1周期配置した構成を説明した。これに限らず、各IDT電極のそれぞれは任意の対数とすることができ、また、正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60を弾性表面波の伝搬方向に複数周期隣接させて配置する構成としてもよい。
【0044】
また、上記実施形態の縦結合二重モードSAWフィルターでは、圧電基板5上において縦結合二重モードSAWフィルターに1端子対SAW共振子を直列に接続した。これに限らず、縦結合二重モードSAWフィルターに1端子対SAW共振子を並列接続しても良い。
【0045】
また、上記実施形態では、隣接して並設された正規型IDT電極50および反射反転型IDT電極60の両側に設ける反射器の配置において、正規型IDT電極50または反射反転型IDT電極60のそれぞれと同じ電極構造の正規型反射器31Aまたは反射反転型反射器32Aを隣接させて配置したが、IDT電極と反射器との位相を考慮して設計するのであればこの限りでない。
【0046】
また、上記実施形態で説明した圧電基板5としては、圧電基材として一般的な水晶に限定されず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、四ほう酸リチウム(Li247)などの酸化物基板や、ガラス基板上に窒化アルミニウム、五酸化タンタル(Ta25)などの薄膜圧電材料を積層させて構成された圧電基板を用いることができる。
【0047】
また、上記実施形態では、弾性表面波素子の一例として、縦結合二重モードSAWフィルター1について説明したが、縦結合多重モードSAWフィルターに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,10…縦結合多重モード弾性表面波フィルターとしての縦結合二重モードSAWフィルター、4a,4b,6a,6b…反射器、5…圧電基板、11〜13,21〜23…電極指、20…1端子対弾性表面波共振子としての1端子対SAW共振子、31A…正規型反射器、32A…反射反転型反射器、50…正規型IDT電極、60…反射反転型IDT電極、200…従来の二重モード弾性表面波フィルターとしての二重モードSAWフィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、弾性表面波の伝搬方向に沿って、複数のIDT電極と、その両側に配置された反射器と、が設けられた縦結合多重モード弾性表面波フィルターと、前記縦結合多重モード弾性表面波フィルターの入力側または出力側の少なくとも一方に直列または並列に接続されたIDT電極とその両側に反射器を有する1端子対弾性表面波共振子と、を備え、
前記1端子対弾性表面波共振子の前記IDT電極は、幅員の同じ電極指を等間隔に互いに間挿した正規型IDT電極と、
幅員W1の第1の電極指と、その隣に間隙g1をおいて配置した幅員W2の第2の電極指と、さらにその隣に間隙g2をおいて配置した幅員W3の第3の電極指と、前記第1の電極指および前記第3の電極指の隣にそれぞれ配置した(g3)/2のスペースからなる単位区間を複数区間繰り返して構成され、前記第1の電極指と前記第3の電極指とを同相とし、それら前記第1の電極指および前記第3の電極指と前記第2の電極指とを逆相とするとともに、前記第1の電極指の幅員W1と前記第3の電極指の幅員W3とをW1=W3とし、前記間隙g1と前記間隙g2とをg1=g2とした前記複数のIDT電極のうちの他方のIDT電極としての反射反転型弾性表面波変換器と、が、
前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に沿って隣接して配置されていることを特徴とする縦結合多重モード弾性表面波フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の縦結合多重モード弾性表面波フィルターにおいて、
前記1端子対弾性表面波共振子の前記反射器は、隣接する前記正規型IDT電極または前記反射反転型弾性表面波変換器と同じ電極構造を有して配置されていることを特徴とする縦結合多重モード弾性表面波フィルター。
【請求項3】
請求項1または2に記載の縦結合多重モード弾性表面波フィルターにおいて、
前記正規型IDT電極および前記反射反転型弾性表面波変換器において、それぞれの1波長分の電極指の対数が同じであることを特徴とする縦結合多重モード弾性表面波フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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