説明

繊維強化ポリアミド樹脂組成物

【課題】高温高湿度下での物性、低そり性、寸法安定性、耐熱性、軽量化、リサイクル特性、成形性、生産性の優れる繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品、成形方法を提供する。
【解決手段】メタキシリレンジアミンを30モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミド(A)と繊維材料(B)を含む、繊維強化ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックは、繊維材料とマトリックス樹脂を組み合わせたもので、軽量で剛性が高いことから広く用いられており、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂が用いられている。また、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を利用した所謂スタンピング成形材料も知られている。
【0003】
繊維強化プラスチックには、さらなる物性向上が求められており、例えば耐衝撃性、弾性率、低そり性、寸法安定性、耐熱性、軽量化、リサイクル特性、成形性、生産性などの向上も求められている
【0004】
熱可塑性樹脂を用いた繊維強化プラスチックとして、ポリエチレンテレフタレートやナイロン6を用いたものが開示されている(特許文献1、2参照)また、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を同時に用いた繊維強化プラスチックとして、MXナイロンとエポキシ樹脂を用いた成形品が開示されている(特許文献3参照)が、これらの方法では耐衝撃性や低そり性、リサイクル特性、生産性が不足していた。
【0005】
熱可塑性樹脂を用いた繊維強化プラスチックの生産性を向上させる成形方法が開示されている(特許文献4、5参照)が、開示された方法では成形品の強度や寸法安定性が不足していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−81826号公報
【特許文献2】特開昭57−120409号公報
【特許文献3】特開2005−313607号公報
【特許文献4】特許3947560号公報
【特許文献5】特開2009−113369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、高温高湿度下での物性、低そり性、寸法安定性、耐熱性、軽量化、リサイクル特性、成形性、生産性の優れる繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品、成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、メタキシリレンジアミンを30モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミド(A)と繊維材料(B)を含む、繊維強化ポリアミド樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、高温高湿度下での物性、低そり性、寸法安定性、耐熱性、軽量化、リサイクル特性、成形性、生産性に優れたものであり、それを用いてなる成形品は、電気・電子機器の部品または筐体、あるいは自動車部材等に利用でき、その工業的価値は非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、メタキシリレンジアミンを30モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミド(A)と繊維材料(B)を含む。
【0011】
本発明で使用するポリアミド(A)は、メタキシリレンジアミンを30モル%以上、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上含むポリアミドである。ポリアミド(A)は剛性、弾性率が高く、高温高湿度下でも剛性、弾性率が高い。また、吸水率が低く寸法安定性に優れる。ポリアミド(A)としては、例えば、メタキシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と各種ジカルボン酸成分を重縮合することにより得られるポリアミド等が挙げられる。これらのポリアミドは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。ポリアミド(A)は、剛性、弾性率、耐熱性が高く、耐熱性、成形加工性が良好である。ポリアミド(A)は、一種類もしくは複数の樹脂をブレンドして使用することができる。
【0012】
ポリアミド(A)の製造に使用できるメタキシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
ポリアミド(A)の製造に使用できるジカルボン酸成分としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類などを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂組成物を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0015】
本発明で利用できるポリアミド(A)として、たとえば、ポリメタキシリレンイソフタラミド(PA−MXDI)、カプロラクタム/メタキシリレンイソフタラミドコポリマー(PA−6/MXDI)などを例示できる。
【0016】
本発明で好ましく利用できるポリアミド(A)として、上記以外に、メタキシリレンジアミンを含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分とを重縮合することにより得られるポリアミドが挙げられる。炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示できるが、これら中でもアジピン酸とセバシン酸が好ましい。特に植物由来のセバシン酸が、環境面から優れている。また、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等を用いると、ポリアミドの比重が小さくなり、成形品が軽量化されるため好ましい。
【0017】
本発明で好ましく利用できるポリアミド(A)として、メタキシリレンジアミンを30モル%以上、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミドを例示できる。
【0018】
このようなポリアミドとして、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミド、主としてメタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミド、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミド等が例示される。
ジカルボン酸成分としてアジピン酸とセバシン酸との混合物を使用することで弾性性や吸水率、結晶性を任意にコントロールできる。高弾性率を重視する場合は、セバシン酸/アジピン酸比(モル比)が50/50以下が好ましく、40/60以下がより好ましく、30/70以下がさらに好ましい。低吸水性を重視する場合は、50/50以上が好ましく、60/40以上がより好ましく、70/30以上がさらに好ましい。
【0019】
また、本発明で好ましく利用できるポリアミド(A)として、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミドと、主としてメタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミドの混合物を例示できる。主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミドと、主としてメタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミドを混合することで、結晶性を維持したまま、弾性率や吸水率を任意にコントロールできる。高弾性率を重視する場合は、主としてメタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミド/主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミド比が50/50以下が好ましく、40/60以下がより好ましく、30/70以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明で好ましく利用できるポリアミド(A)として、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上、及びイソフタル酸を1〜30モル%含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミドを例示できる。ジカルボン酸成分としてイソフタル酸を加えることで、成形加工性、耐熱性を向上させることができる。
【0021】
また、ジアミン成分として、メタキシリレンジアミンにパラキシリレンジアミンを加えることで、ポリアミド樹脂(A)の融点やガラス転移点、耐熱性を向上させることができる。パラキシリレンジアミンは、ジアミン成分の70モル%を超えない範囲であれば、任意の割合で添加して耐熱性、弾性率や成形加工性をコントロールすることができる。好適なポリアミド(A)としては、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを含み、メタキシリレンジアミンが30モル%以上であるジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミドが例示される。
【0022】
ポリアミド(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法、重合条件により製造される。ポリアミドの重縮合時に分子量調節剤として少量のモノアミン、モノカルボン酸を加えてもよい。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧状態で昇温し、加えた水及び縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法により製造される。また、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を均一な液状状態で保つために、メタキシリレンジアミンをアジピン酸に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0023】
また、ポリアミド(A)は、溶融重合法により製造された後に、固相重合を行っても良い。ポリアミド(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法、重合条件により製造される。
【0024】
ポリアミド(A)の吸水率は、23℃にて1週間、水に浸漬した際に、2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。この範囲であると、高温高湿度下での成形品の剛性が優れ、低そり性、寸法安定性が良好である。
【0025】
ポリアミド(A)の数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定によるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)換算値として、18000〜70000が好ましく、より好ましくは、20000〜50000である。この範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性が良好である。
【0026】
ポリアミド(A)の融点は、150〜300℃が好ましい。この範囲であると、繊維材料(B)と組み合わせて成形した際にポリアミド(A)の繊維材料(B)中への溶融含浸が容易となり、得られる成形品の剛性、寸法安定性が優れ、生産性、成形加工性が良好となる。
【0027】
ポリアミド(A)のガラス転移点(Tg)は、55〜100℃が好ましく、より好ましくは60〜100℃、さらに好ましくは70〜100℃である。この範囲であると、耐熱性が良好である。
【0028】
なお、融点、ガラス転移点は、DSC(示差走査熱量測定)法により測定できる。測定には、例えば、島津製作所(株)製DSC−50を用い、サンプル量は約5mgとし、昇温速度は10℃/分の条件で室温から300℃まで加熱して測定することができる。雰囲気ガスは窒素を30ml/minで流した。ガラス転移点としては、いわゆる中点温度(Tgm)を採用した。なお、Tgmとは広く知られているように、DSC曲線において、ガラス状態ならびに過冷却状態(ゴム状態)のベースラインの接線と転移のスロープの接線との交点の中点温度である。
【0029】
ポリアミド(A)には、溶融成形時の加工安定性を高めるため、あるいはポリアミド(A)の着色を防止するためにリン化合物を添加することができる。リン化合物としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むリン化合物が好適に使用され、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩、次亜リン酸塩、亜リン酸塩が挙げられるが、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の次亜リン酸塩を使用したものがポリアミドの着色防止効果に特に優れるため好ましく用いられる。リン化合物の濃度はリン原子として1〜500ppm、好ましくは1〜350ppm、更に好ましくは1〜200ppmである。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物はポリアミド(A)以外の構成成分として繊維材料(B)を含有する。繊維材料(B)として炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、金属繊維などが挙げられる。種々の繊維束を複数組合わせても良い。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、無機充填材を含んでも良い。無機充填材を用いることによって、成形品の剛性、寸法安定性を向上させることができる。無機充填材は、繊維状、粉末状、粒状、板状、クロス状、マット状を有する種々の充填材であり、たとえば、ガラス繊維、タルク、カタルボ、珪藻土、クレー、カオリン、マイカ、粒状ガラス、ガラスフレーク、中空ガラス等公知の物質を用いることができる。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、艶消剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤等の添加剤等を加えることができる。
【0033】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、ポリアミド(A)以外のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート等の樹脂を一種もしくは複数ブレンドできる。
【0034】
中でも、ポリアミド(A)以外のポリアミドを好ましくブレンドでき、より好ましくは、脂肪族ポリアミド樹脂をブレンドできる。脂肪族ポリアミド樹脂は、成形品の機械物性を改善できることから好ましく用いられる。脂肪族ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612ナイロン666等を単独又は複数以上を使用することができる。
【0035】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物を利用してなる成形品は、高剛性、高弾性率、低そり性、寸法安定性、耐熱性、軽量化、リサイクル特性、成形性、生産性を兼ね備えており、各種部品等に利用でき好ましい。特に、繊維強化ポリアミド樹脂組成物を利用してなる成形品が、電気・電子機器の部品または筐体、あるいは自動車部材として好ましく使用できる。
【0036】
本発明の繊維強化ポリアミド樹脂組成物を利用してなる成形品を製造するに際し、フィルム、シート状あるいは繊維状のポリアミド(A)を連続的に供給し、連続的に供給される繊維材料(B)を加熱し貼り合わせて成形前駆体を製造する工程、及び得られた成形前駆体を金型内で熱プレスする工程を含む製造方法が好ましい。この方法により、熱硬化性樹脂を用いた場合には達成できなかった、高い生産性を達成できる。
【0037】
ポリアミド(A)をフィルム、シート状で供給する場合、その厚みは5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは15〜50μmである。この範囲であると成形前駆体の成形性が良好となる。また、ポリアミド(A)のフィルムは公知の方法で製造することができるが、生産性の観点からキャストフィルム、延伸フィルムを好ましく用いることができる。フィルムを30μm以下に薄くしたい場合には、延伸フィルムが好ましく用いられる。
【0038】
ポリアミド(A)を繊維状で供給する場合、公知の方法により、モノフィラメント等を製造して利用できる。
【0039】
成形前駆体の熱プレスは、金型内で好ましくはポリアミド(A)の融点以上の温度で実施される。融点以上の温度で熱プレスすることによって、ポリアミド(A)の繊維材料(B)間への溶融含浸が容易になり成形品の物性が向上する。
【0040】
本発明の製造方法ではさらに、成形品を熱処理する工程を含むことが好ましい。成形品を熱処理することによって、成形品の低そり性、寸法安定性を向上させることができる。熱処理温度は120〜180℃が好ましく、より好ましくは140〜170℃、さらに好ましくは150〜160℃である。この範囲であると、ポリアミド(A)の結晶化が速やかに進行し、成形品の成形品の低そり性、寸法安定性を向上させることができる。
【0041】
上記熱処理は成形品を金型から取り出した後に行うこともできるし、金型内で行うこともできる。金型内で行う際は成形品を成形した金型とは別の金型内で処理しても良いし、同一の金型の温度を熱処理に適した温度に変化させて処理することもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において各種測定は以下の方法により行った。
【0043】
・ 寸法安定性
試料片(20cm×20cm)の中心より10cmの点でのそり量を測定した。なお、そり量とは、試料片の最大高さより試料片の厚みを引いたものである。そり量が少ないほど寸法安定性が良好であることを意味する。
【0044】
(2)ポリアミドの吸水率
ポリアミドを射出成形し作成した成形片を、23℃の条件下で蒸留水に浸漬し、1週間後に水分率をカールフィッシャー法により測定した。測定には平沼産業製微量水分測定装置 AQ−2000を用いた。測定温度は、ポリアミドの融点−5℃とし、測定時間は30分とした。
【0045】
(3)ポリアミドの融点、ガラス転移点
島津製DSC−60を用いて、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。測定条件は、約5mgのサンプルを10℃/minの条件で昇温し、300℃に到達した時点で急冷し、再び10℃/minの条件で昇温した。
【0046】
(4)数平均分子量
東ソー製HLC−8320GPCを用いて、GPC測定によりPMMA換算値を求めた。なお、測定用カラムはTSKgel SuperHM−Hを用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウムを10mmol/l溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、測定温度は40℃にて測定した。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定し作成した。
【0047】
<製造例1>
(ポリアミド(A1)の合成)
反応缶内でセバシン酸(伊藤製油製TAグレード)を170℃にて加熱し溶融した後、内容物を攪拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)をセバシン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を240℃まで上昇させた。滴下終了後、260℃まで昇温した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットをタンブラーに仕込み、減圧下で固相重合し、分子量を調整したポリアミド(A1)を得た。
ポリアミド(A1)の融点は191℃、ガラス転移点は60℃、数平均分子量は30000、吸水率は0.7%であった。
【0048】
<製造例2>
(ポリアミド(A2)の合成)
アジピン酸(ローディア製)を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を攪拌しながら、パラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)とメタキシリレンジアミンのモル比が3:7の混合ジアミンを、ジアミンとジカルボン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を上昇させた。滴下終了後、所定の粘度になるまで攪拌、反応を続けた後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド(A2)を得た。ポリアミド(A2)の融点は258℃、ガラス転移点は89℃、数平均分子量は25000、吸水率は1.2%であった。
【0049】
<製造例3>
(ポリアミド(A3)の合成)
アジピン酸の代わりにセバシン酸を用いた以外は製造例2と同様にして、ポリアミド(A3)を合成した。ポリアミド(A3)の融点は215℃、ガラス転移点は60℃、数平均分子量は19000、吸水率は0.5%であった。
【0050】
<製造例4>
(ポリアミド(A4)の合成)
パラキシリレンジアミンとメタキシリレンジアミンのモル比が6:4の混合ジアミンを用いた以外は製造例2と同様にして、ポリアミド(A4)を合成した。ポリアミド(A4)の融点は288℃、ガラス転移点は93℃、数平均分子量は21000、吸水率は1%であった。
【0051】
<製造例5>
(ポリアミド(A5)の合成)
アジピン酸とイソフタル酸(エイ・ジイ・インタナショナル・ケミカル(株)製)のモル比が9:1の混合ジカルボン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を攪拌しながら、メタキシリレンジアミンを、ジアミンとジカルボン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を上昇させた。滴下終了後、所定の粘度になるまで攪拌、反応を続けた後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットをタンブラーに仕込み、減圧下で固相重合し、分子量を調整したポリアミド(A5)を得た。
ポリアミド(A5)の融点は226℃、ガラス転移点は94℃、数平均分子量は48000、吸水率は1.3%であった。
【0052】
<製造例6>
(ポリアミド(A6)の合成)
セバシン酸の代わりに、セバシン酸とアジピン酸のモル比が4:6の混合ジカルボン酸を用いた以外は製造例1と同様にしてポリアミド(A6)を合成した。ポリアミド(A6)の融点は185℃、ガラス転移点は75℃、数平均分子量は35000、吸水率は1.1%であった。
【0053】
<実施例1>
アジピン酸とメタキシリレンジアミンからなるポリアミド(三菱ガス化学(株)製MXナイロン グレードS6121)を30mmφのスクリューとTダイを備える単軸押出機にて押出成形し、20μm厚のキャストフィルムを得た。公知の方法(特許3027540号公報参照)により、連続繊維束として繊維径16μmのフィラメントを4000本集束したガラス繊維ロービングを用いて開繊した。次いで開繊されたガラス繊維ストランドを200℃に加熱しながら、連続的に前記キャストフィルムを貼り合わせ、成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を10枚と前記キャストフィルム1枚を積層し、260℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。板状成形品を150℃のオーブン中で1分間熱処理した。得られた成形品のガラス含有率は50容量%であった。評価結果を表1に示す。
【0054】
<実施例2>
ポリアミドを表1記載のものとし、Tダイを備える単軸押出機にて押出成形した後、二軸延伸し15μm厚の延伸フィルムを得た。公知の方法(特開2009−113369号公報参照)により、炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製TR50S-15K)を開繊し、炭素繊維シート材を得た。炭素繊維シートを220℃に加熱しながら、連続的に前記延伸フィルムを貼り合わせ、成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を10枚と前記延伸フィルム1枚を積層し、230℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。引き続き金型温度を160℃まで冷却しながら板状成形品を5分間熱処理した。得られた成形品の炭素繊維含有率は40容量%であった。
【0055】
<実施例3>
ポリアミドを表1記載のものとし、30mmφのスクリューとTダイを備える単軸押出機にて押出成形し、20μm厚のキャストフィルムを得た。炭素繊維織物(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルクロスTR3110)を270℃に加熱し、連続的に前記キャストフィルムを貼り合わせ成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を20枚と前記キャストフィルム1枚を積層し、270℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。引き続き板状成形品を130℃のオーブン中で3分間熱処理した。得られた成形品の炭素繊維含有率は50容量%であった。
【0056】
<実施例4>
ポリアミドを表1記載のものとし、30mmφのスクリューとTダイを備える単軸押出機にて押出成形し、40μm厚のキャストフィルムを得た。炭素繊維シートを270℃に加熱した以外は、実施例2と同様に、連続的に前記キャストフィルムを貼り合わせ成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を25枚と前記キャストフィルム1枚を積層し、240℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。引き続き板状成形品を140℃のオーブン中で4分間熱処理した。得られた成形品の炭素繊維含有率は25容量%であった。
【0057】
<実施例5>
ポリアミドを表1記載のものとし、30mmφのスクリューとTダイを備える単軸押出機にて押出成形し、25μm厚のキャストフィルムを得た。炭素繊維シートを300℃に加熱した以外は、実施例2と同様に、連続的に前記キャストフィルムを貼り合わせ成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を30枚と前記キャストフィルム1枚を積層し、300℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。引き続き板状成形品を180℃のオーブン中で0.5分間熱処理した。得られた成形品の炭素繊維含有率は45容量%であった。
【0058】
<実施例6>
ポリアミドを表1記載のものとし、30mmφのスクリューとTダイを備える単軸押出機にて押出成形し、40μm厚のキャストフィルムを得た。炭素繊維シートを240℃に加熱した以外は、実施例2と同様に、連続的に前記キャストフィルムを貼り合わせ成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を30枚と前記キャストフィルム1枚を積層し、245℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。引き続き板状成形品を120℃のオーブン中で2.5分間熱処理した。得られた成形品の炭素繊維含有率は20容量%であった。
【0059】
<実施例7>
ポリアミドを表1記載のものとし、30mmφのスクリューとTダイを備える単軸押出機にて押出成形し、60μm厚のキャストフィルムを得た。炭素繊維シートを200℃に加熱した以外は、実施例2と同様に、連続的に前記キャストフィルムを貼り合わせ成形前駆体を得た。次に得られた成形前駆体を30枚と前記キャストフィルム1枚を積層し、210℃の金型で熱プレス処理を行い、両面がポリアミドからなる板状の成形品を得た。引き続き板状成形品を180℃のオーブン中で7分間熱処理した。得られた成形品の炭素繊維含有率は15容量%であった。
【0060】
<比較例1>
ポリアミドを表1記載のものとし、成形品の熱処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして板状の成形品を得た。評価結果を表1に示す。
【0061】
尚、表1記載の略号は以下の通りである。
A1:製造例1で得られたポリアミド(A1)
A2:製造例2で得られたポリアミド(A2)
A3:製造例3で得られたポリアミド(A3)
A4:製造例4で得られたポリアミド(A4)
A5:製造例5で得られたポリアミド(A5)
A6:製造例6で得られたポリアミド(A6)
S6121:アジピン酸とメタキシリレンジアミンからなるポリアミド(三菱ガス化学(株)製MXナイロン グレードS6121)、融点は240℃、数平均分子量は65000、ガラス転移点は85℃、吸水率は1.5%であった。
N6:宇部興産製ナイロン6 グレード1030B
【0062】
以上の実施例で示したように、ポリアミド(A)と繊維材料(B)を含むポリアミド樹脂組成物は、優れた弾性率、低そり性、寸法安定性、耐熱性、軽量化、リサイクル特性、成形性、生産性を兼ね備えていた。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミンを30モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミド(A)と繊維材料(B)を含む、繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド(A)のガラス転移点Tgが55〜100℃である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド(A)の吸水率が、23℃にて1週間、水に浸漬した際に2%以下である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド(A)が、メタキシリレンジアミンを30モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド(A)が、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上、及びイソフタル酸を1〜30モル%含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド(A)が、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを含み、メタキシリレンジアミンが30モル%以上であるジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド(A)が、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアミド(A)が、主としてメタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミド(A)が、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
ポリアミド(A)が、主としてメタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミドと、主としてメタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミドの混合物である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を利用してなる成形品。
【請求項12】
熱処理されたものである請求項11記載の成形品。
【請求項13】
用途が電気・電子機器の部品または筐体、あるいは自動車部材である請求項11又は12に記載の成形品。
【請求項14】
メタキシリレンジアミンを30モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを重縮合して得られたフィルム状、シート状あるいは繊維状のポリアミド(A)を連続的に供給し、連続的に供給される繊維材料(B)を加熱し貼り合わせて成形前駆体を製造する工程、及び得られた成形前駆体を金型内で熱プレスする工程を含むことを特徴とする繊維強化ポリアミド樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
さらに、成形品を熱処理する工程を含む請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
熱処理を金型内で行う請求項15記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−102360(P2011−102360A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257964(P2009−257964)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】