説明

繊維強化複合材の製造方法、及び繊維強化複合材の製造装置

【課題】繊維基材の全体に樹脂を含浸させることができ、高い寸法精度で成形することのできる、繊維強化複合材の製造方法、及び製造装置を提供する。
【解決手段】第1面18を有する繊維基材2を、前記第1面上が開放された状態で、第1型10に対して固定する工程と、第2面19を有する第2型20を、前記第1面と前記第2面とが隙間を介して対向するように、セットする工程と、前記隙間に、樹脂を充填する工程と、前記第2面が前記第1面に近づくように、前記第2型を前記第1型に対して相対移動させ、前記繊維基材に前記樹脂を含浸させる工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材の製造方法、及び繊維強化複合材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維基材と樹脂との複合材料として、繊維強化複合材が知られている。繊維強化複合材は、軽量でありながら高強度であり、例えば、自動車や航空機等の材料として用いられている。
【0003】
繊維強化複合材の製造方法として、RTM(Resin Transfer Molding)成形法が知られている。図1は、RTM法による成型方法を概略的に示す図である。RTM法では、成形型(図1中では、雌雄一対の型)が用意される。そして、雌型と雄型との間に繊維基材が配置される。雌雄一対の型は、繊維基材の両面に密着するように配置される。雌雄一対の型には、繊維基材に樹脂を注入するための樹脂供給ラインと、繊維基材から樹脂を排出するための樹脂排出ラインとが設けられている。雌雄一対の型を型締めした後、樹脂が樹脂供給ラインを介して繊維基材に供給される。樹脂は、型締め前に供給されることもある。供給された樹脂は、繊維基材に含浸される。余剰の樹脂は、樹脂排出ラインから排出される。樹脂は、繊維基材に含浸された後、硬化される。これにより、繊維強化複合材が製造される。
【0004】
RTMに関連する技術として、特許文献1(特開2004−130598号公報)、及び特許文献2(特開昭56−135025号公報)が挙げられる。
【0005】
繊維強化複合材の別の製造方法として、RFI(Resin Film Infusion)法が挙げられる。図2は、RFI法を概略的に示す説明図である。RFI法では、金型上に繊維基材が配置され、その繊維基材の片面上に樹脂フィルムが配置される。樹脂フィルムが配置された繊維基材は、バッグ材で覆われる。その後、バッグ内の空間を減圧し、加熱や加圧することにより、樹脂フィルムを硬化させる。これにより、繊維強化複合材が得られる。この際、樹脂フィルムは、繊維基材の板厚方向に含浸する。
【特許文献1】特開2004−130598号公報
【特許文献2】特開昭56−135025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に示したRTM法によれば、繊維強化複合材を、雌雄一対の型の間に形成される空間の寸法で製造することができる。従って、寸法精度良く、繊維強化複合材を得ることができる。一方で、繊維基材は、樹脂に対する流動抵抗を有している。樹脂は、樹脂供給ラインが接続された部分から樹脂排出ラインが接続された部分に向かい、含浸していく。繊維基材の流動抵抗により、繊維基材のサイズによっては、樹脂が未含浸になる部分が生じることがある。
【0007】
RTM法において、樹脂を繊維基材の全体に含浸させるために、図3に示されるように、樹脂供給ラインを複数設けることが考えられる。しかし、樹脂供給ラインを複数設けた場合には、成形型の構造が複雑となってしまう。成形型の構造が複雑である場合、成形終了後に成形型の清掃に要する負担が大きくなるなど、デメリットが大きくなる。また、樹脂供給ラインを複数設けた場合には、供給する樹脂の流量などの制御も複雑となり、工程管理が難しくなってしまう。
【0008】
一方、RFI法を用いた場合には、繊維強化複合材の全面に樹脂を配置することができる。しかし、板厚に関して高い寸法精度を得ることが困難である。
【0009】
従って、本発明の目的は、繊維基材の全体に樹脂を含浸させることができ、高い寸法精度で成形することのできる、繊維強化複合材の製造方法、及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用する括弧付き符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために付加されたものであるが、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材の製造方法は、第1面(18)を有する繊維基材(2)を、第1面(18)上が開放された状態で、第1型(10)に対して固定する工程(ステップS10)と、第2面(19)を有する第2型(20)を、第1面(18)と第2面(19)とが隙間(1)を介して対向するように、セットする工程(ステップS20)と、隙間(1)に、樹脂(6)を充填する工程(ステップS30)と、第2面(19)が第1面(18)近づくように、第2型(20)を第1型(10)に対して押し込み、繊維基材(2)に樹脂(6)を含浸させる工程(ステップS40)とを具備する。
【0012】
この発明によれば、隙間(1)に充填された樹脂(6)が、第2型(20)の第2面(19)から押されることにより、繊維基材(2)に含浸する。樹脂(6)は、面で繊維基材(2)に含浸するので、繊維基材(2)全体に行きわたりやすい。また、成形される繊維強化複合材の形状は、第1型(10)及び第2型(20)に対応した形状となる。繊維強化複合材の板厚は、第1型(10)と第2型(20)との間の最終的な距離に一致する厚みになる。すなわち、寸法精度良く、成形を行うことができる。
【0013】
樹脂を充填する工程(ステップS30)は、隙間(1)を減圧する工程(ステップS31)と、減圧する工程(ステップS31)の後に、隙間(1)に樹脂(6)を供給する工程(ステップS32)とを備えることが好ましい。
隙間(1)を減圧することにより、繊維基材(2)中に気泡が混在することを防止することができる。
【0014】
第1型に対して固定する工程(ステップS10)は、繊維基材(2)の端部が、両面から第1型(10)により挟み込まれるように、第1型(10)をセットする工程を含んでいることが好ましい。
この発明によれば、繊維基材(2)が端部で両面から固定される。繊維基材(2)が確実に固定されるので、樹脂(6)を充填する際に繊維基材(2)が動くことが防止される。これにより、成形される繊維強化複合材の寸法精度をより高めることができる。
【0015】
上述の繊維強化複合材の製造方法は、更に、樹脂を含浸させる工程(ステップS40)の後に、含浸した樹脂を硬化させる工程(ステップS50)を具備することが好ましい。
【0016】
樹脂を硬化させる工程(ステップS50)は、含浸した樹脂を、加圧することにより硬化させる工程を含んでいることが好ましい。
【0017】
その加圧することにより硬化させる工程は、樹脂アキュムレータ(7)により、含浸した樹脂(6)を加圧する工程を含んでいることが好ましい。
【0018】
その樹脂を硬化させる工程(ステップS50)は、含浸した樹脂を加温することにより硬化させる工程(ステップS52)を含んでいることが好ましい。
【0019】
繊維基材(2)が、中央領域(2−1)と、中央領域(2−1)よりも端側に設けられた端部領域(2−2)とを備えており、第1面(18)は、中央領域(2−1)と端部領域(2−2)とのそれぞれに設けられているものとする。このとき、第2型(20)は、中央領域(2−1)と端部領域(2−2)のそれぞれに対応して、複数個所に配置されることが好ましい。そして、樹脂を含浸させる工程(ステップS40)は、中央領域(2−1)の第1面(18)に、中央領域(2−1)に対応する第2型(20−1)の第2面(19)を接触させる工程と、この工程の後に、端部領域(2−2)の第1面(18)に、端部領域(2−2)に対応する第2型(20−2)の第2面(19)を接触させる工程とを備えることが好ましい。
この発明によれば、樹脂を含浸させる工程(ステップS40)において、樹脂(6)は、中央領域(2−1)から端部領域(2−2)に向かって含浸していく。これにより、繊維基材(2)中に含まれる気泡を確実に除去することができる。その結果、成形される繊維強化複合材に、ドライスポット(樹脂が未含浸である部分)が含まれることを、より確実に防止することができる。
またこの際、繊維基材(2)は、中央領域(2−1)と端部領域(2−2)との間で折り曲げられていてもよい。
【0020】
本発明に係る繊維強化複合材の製造装置は、第1面(18)を有する繊維基材(2)を、第1面(18)上が開放された状態で固定する第1型(10)と、第2面(19)を有し、第2面(19)で第1面(18)と隙間(1)を介して対向するように配置される第2型(20)と、第2面(19)が第1面(18)に接触するように、第2型(20)を第1型(10)に対して相対移動させる駆動機構(23)とを具備する。この製造装置においては、隙間(1)に樹脂(6)が充填された状態で、駆動機構(23)により第2面(19)を第1面(18)に接触させることにより、樹脂(6)が繊維基材(2)に含浸される。
【0021】
上述の繊維強化複合材の製造装置は、更に、隙間(1)に樹脂(6)を充填することができるように隙間(1)に接続される、樹脂供給ライン(21)を具備することが好ましい。
【0022】
樹脂供給ライン(21)は、隙間(1)内を加圧できるようにも構成されていることが好ましい。
【0023】
上述の繊維強化複合材の製造装置において、更に、隙間(1)内を加圧できるように隙間(1)に接続される、加圧ライン(8)を具備することが好ましい。
【0024】
加圧ライン(8)は、樹脂アキュムレータ(7)と接続可能であることが好ましい。
【0025】
上述の繊維強化複合材の製造装置において、更に、隙間(1)を密閉する密閉部材(22)を具備することが好ましい。
【0026】
第1型(10)は、繊維基材(2)の端部を両面から挟み込むように形成されていることが好ましい。
【0027】
上述の繊維強化複合材の製造装置において、更に、隙間(1)内の樹脂を排出することができるように隙間(1)に接続される、樹脂排出ライン(3)を具備することが好ましい。
【0028】
上述の繊維強化複合材の製造装置は、更に、第2面(19)が予め定められた第1位置(よりも更に繊維基材(2)側に移動しないように、第2型(20)の移動を制限する、ストッパ機構(9)を具備することが好ましい。
この発明によれば、ストッパ機構(9)により、第2型(20)の第1型(10)に対する最終的な相対位置を、精度良く制御することができる。これにより、成形される繊維強化複合材の寸法精度を、更に高めることができる。
【0029】
繊維基材(2)が、中央領域(2−1)と、中央領域(2−1)よりも端側に設けられた端部領域(2−2)とを備えており、第1面(18)は、中央領域(2−1)と端部領域(2−2)とのそれぞれに設けられているものとする。このとき、第2型(20)は、中央領域(2−1)と端部領域(2−2)のそれぞれに対応して、複数個所に配置されていることが好ましく、駆動機構(23)は、複数の第2型(20)のそれぞれを独立して移動させることができるように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、繊維基材の全体に樹脂を含浸させることができ、高い寸法精度で成形することのできる、繊維強化複合材の製造方法、及び製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1の実施形態)
以下に、図面を参照しつつ、本発明の第1の実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係る繊維強化複合材の製造装置を概略的に示す模式図である。この繊維強化複合材の製造装置は、成形対象である繊維基材2に樹脂を含浸させ、含浸された樹脂を硬化する装置である。含浸された樹脂が硬化することにより、繊維強化複合材が得られる。
【0032】
本実施形態で用いられる繊維基材2としては、ガラス繊維基材及び炭素繊維基材が挙げられる。
【0033】
図4に示されるように、繊維強化複合材の製造装置は、第1型10と、第2型20と、駆動機構23と、樹脂供給ライン21と、樹脂排出ライン3とを備えている。
【0034】
第1型10及び第2型20は、例えば鉄、アルミ、インバーなどにより形成される。
【0035】
第1型10は、第1部材11と、第2部材12と、第3部材13とを備えている。
【0036】
第1部材11は、成形対象である繊維基材2を載せる面を備えている。
【0037】
第2部材12は、繊維基材2の側面に当接するように配置されている。第2部材12は、繊維基材2を取り囲むように配置されている。第2部材12により、繊維基材2の基材面方向への移動が制限される。
【0038】
第3部材13は、第2部材12上に配置されている。第3部材13の一部は、繊維基材2の上部に延びている。これにより、繊維基材2は、その端部で第1型10に挟まれて固定されている。第3部材13は、繊維基材2の外周部の形状に対応して、枠形状に形成されている。従って、繊維基材2の上面において、外周部以外の領域は、第3部材13により覆われておらず、開放されている。繊維基材2の上面において開放された領域が、以下、第1面18と定義される。
【0039】
第2型20は、第2面19を有している。第2型20は、第2面19が繊維基材2の第1面18と対向するように、配置される。第2型20は、第1型10に対して相対的に移動可能である。具体的には、第2型20は、第2面19と第1面18との間の距離が可変となるように、構成されている。第2面19が第1面18から離れているとき、第1型10と第2型20との間には隙間1が形成される。この隙間1が密閉空間となるように、第2型の側部は第3部材13と摺接する。
【0040】
第1型10及び第2型20において、各部材同士が接する部分には、シール部材5が取り付けられている。隙間1には、成形時に、樹脂が充填される。シール部材5により、隙間1内に樹脂が充填された際に、樹脂が漏れることが防止される。
【0041】
駆動機構23は、第2型20を移動させる装置である。駆動機構23は、例えば、アクチュエータである。
【0042】
樹脂供給ライン21は、隙間1に樹脂を供給するための流路である。樹脂供給ライン21は、隙間1が外部と連通するように、第2型20に設けられている。樹脂供給ライン21は、図示しない樹脂供給装置と接続可能である。また、樹脂供給ライン21は、樹脂アクチュエータ(図4では図示されていない)と接続可能に構成されている。
【0043】
樹脂排出ライン3は、供給された樹脂を排出するための流路である。樹脂排出ライン3は、第1型10に設けられている。樹脂排出ライン3は、繊維基材2の側面と外部とを連通させるように設けられている。樹脂排出ライン3には、弁4を有するチューブに接続される。弁4を開閉することにより、樹脂排出ライン3における樹脂の流れを制御することができる。また、各樹脂排出ライン3は、チューブを介して、図示しない減圧装置と接続される。
【0044】
続いて、本実施形態に係る複合材料の製造方法について説明する。図5は、この複合材料の製造方法を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS10;繊維基材の固定
まず、第1部材11上に繊維基材2を載せる。そして、繊維基材2が端部で両面から押さえつけられるように、第2部材12及び第3部材13をセットする。
【0046】
ステップS20;第2型のセット
さらに、図4で示したように、第2型20を取り付ける。このとき、第2型20は、第2面19が第1面18と隙間1を介して対向するように、取り付けられる。
【0047】
ステップS30;樹脂の充填
続いて、樹脂排出ライン3に減圧装置を接続し、減圧装置により隙間1内を減圧する(ステップS31)。次に、図示しない樹脂供給装置を樹脂供給ライン21に取り付け、図6に示されるように、樹脂供給ライン21から隙間1内に樹脂6を供給する(ステップS32)。この際、流動性を高める為、樹脂6が加温された状態で供給されてもよい。供給された樹脂6は、隙間1に充填される。また、余った樹脂は、繊維基材2に入り込み、繊維基材2の側部から樹脂排出ライン3を介して排出される。尚、隙間1及び繊維基材2内に空気が残っている場合には、気泡が混じった樹脂が樹脂排出ライン3から排出される。従って、樹脂排出ライン3を流れる樹脂に気泡が含まれているか否かを観察することにより、樹脂6が充填され終わったか否かを確認することができる。
【0048】
ステップS40;樹脂の含浸
続いて、図7に示されるように、樹脂供給ライン21に閉塞部材22を取り付け、樹脂供給ライン21を閉塞する。又は、供給ライン21のバルブを閉じる。そして、駆動機構23により、第2型20を第1型10側に押し込む。第2型20は、第2面19が第1面18に接触する位置にまで、押し込まれる。すなわち、第2型20は、隙間1がなくなるまで、押し込まれる。隙間1中の樹脂6は、繊維基材2に含浸する。
【0049】
本ステップにおいて、隙間1中の樹脂6は、面(第2面19)で押されることにより、繊維基材2内に含浸する。また、繊維基材2に樹脂6が染み込む部分も面(第1面18)である。従って、樹脂6は、速やかに基材全体に含浸する。
【0050】
ステップ50;樹脂の硬化
続いて、弁4を閉じ、閉塞部材22を取り外す。そして、図8に示されるように、樹脂供給ライン21に樹脂アキュムレータ7を取り付ける。そして、樹脂アキュムレータ7により、繊維基材2に含浸した樹脂6を加圧する(ステップS51)。さらに、第1型10及び第2型20をオーブンなどの加熱装置(図示せず)内に搬送し、加熱する(ステップS52)。これにより、樹脂6が硬化し、繊維強化複合材が得られる。得られた繊維強化複合材は、第1型10と第2型20との間に最終的に形成される空間に対応した形状となる。
【0051】
尚、樹脂6を加圧する為に必ずしも樹脂アキュムレータ7を用いる必要はなく、他の加圧装置を使用してもよい。但し、樹脂アキュムレータ7は、圧力源から供給される圧力が少なくても、所望の圧力で樹脂6を加圧することができる点から、好ましい。
【0052】
また、加熱の際には、樹脂6が加熱されればよく、必ずしもオーブンなどの加熱装置が用意される必要はない。例えば、第1型10又は第2型内に加温されたオイルを流す為の流路が設けられていてもよい。この場合、加温されたオイルを流すことにより、第1型10又は第2型20自体が加熱され、それによって樹脂6が加熱される。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、樹脂6が面で押され、面で繊維基材2に含浸するので、速やかに樹脂6を含浸させることができる。
【0054】
また、流動性を高めるために樹脂6を加温して供給した場合、樹脂6を繊維基材2に含浸するのに時間がかかると、樹脂6が硬化してしまうことがある。本実施形態によれば、短時間で樹脂6を染み込ませることができるので、樹脂6が含浸する前に硬化してしまうことを防止できる。これにより、樹脂6を、確実に繊維基材2の全体に染み込ませることができる。
【0055】
加えて、本実施形態では、得られる繊維強化複合材の形状は、第1型10と第2型20により決定される。また、繊維強化複合材の板厚は、第1型10と第2型20との間の最終的な距離によって決まる。繊維強化複合材の寸法は、第1型10と第2型20の形状、及び第1型10と第2型20との間の距離により決まるので、高い寸法精度で繊維強化複合材を成形することができる。
【0056】
尚、本実施形態は、繊維基材2として300mmを超える辺を有する基材を用いたときに特に有効である。このような基材は、樹脂に対する流動抵抗が大きく、通常、基材面全体に樹脂を行き渡らせることが困難となる。しかしながら、本実施形態によれば、300mmを超える辺を有する基材に対しても、基材面全体に樹脂を行き渡らせることができる。
【0057】
また、本実施形態は、繊維基材2として厚みが3mm以上である基材を用いたときに、特に有効である。このような基材は、通常、厚み方向に樹脂が含浸しにくくなる。しかしながら、本実施形態によれば、厚みが3mm以上である基材に対しても、厚み方向で満遍なく樹脂を含浸させることができる。
【0058】
また、本実施形態は、繊維基材2として、繊維体積含有率が50%〜60%である基材を用いたときに特に有効である。通常、繊維体積含有率が50%を超えると、樹脂を含浸させることが著しく困難となる。しかしながら、本実施形態によれば、繊維体積含有率が50%を超える基材に対しても、簡単に樹脂を含浸させることができる。一方、繊維体積含有率が60%を超えると、樹脂が含浸しにくくなる傾向にある。
【0059】
また、本実施形態では、樹脂として、樹脂粘度が100〜500mPa・s(100〜500cp)のものを用いたときに特に有効である。樹脂粘度が500cpを超えると、樹脂が含浸しにくくなる傾向にある。
【0060】
続いて、第1の実施形態の変形例について説明する。
【0061】
図9は、本変形例に係る繊維強化複合材の製造装置を示す概略図である。この変形例に係る繊維強化複合材の製造装置では、樹脂供給ライン21が、第2型20ではなく、第1型10に設けられている。また、樹脂供給ライン21とは別に、加圧ライン8が設けられている。また、本変形例では、樹脂供給ライン21は、その他の点については、第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0062】
加圧ライン8は、第1部材11に設けられている。加圧ライン8は、樹脂アキュムレータ7と接続可能に構成されている。本変形例では、ステップS51にて樹脂6を加圧する際に、加圧ライン8に樹脂アキュムレータ7が接続される。
【0063】
本変形例にて示されるように、樹脂供給時のラインと、加圧時のラインとを別々に設けることも可能である。但し、構成を単純化する観点からは、樹脂供給ライン21と加圧ライン8とは共通であることが好ましい。
【0064】
また、本変形例にて示されるように、樹脂供給ライン21は、必ずしも第2型20に設けられる必要はない。第2型20は、駆動機構23によって動かされる部分である。第2型20樹脂供給ライン21などが設けられている場合、樹脂供給用の装置などが第2型20に対して取り付けられることになる。可動である第2型にそのような外部装置が取り付けられると、第2型20が動きにくくなってしまうことが懸念される。樹脂注入ライン21などが第1型10に取り付けられることで、そのような懸念を解消することができる。
【0065】
続いて、本実施形態の別の変形例について説明する。
【0066】
図10は、本変形例に係る繊維強化複合材の製造装置を示す概略図である。この変形例に係る繊維強化複合材の製造装置では、第2型20に、ストッパ機構9が設けられている。ストッパ機構9は、第2型20の一部から繊維基材2と平行な方向に延びている。ストッパ機構9は、第1部材13と当接することにより、第2型20が所定の位置(第1位置24)よりも第1型10側へ移動することを制限する。
【0067】
ストッパ機構9を設けることにより、第1型10と第2型20との間に最終的に形成される空間の寸法を、精度良くコントロールすることができる。その結果、高い寸法精度で、繊維強化複合材を成形することができる。
【0068】
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施形態について説明する。
【0069】
図11乃至図15は、本実施形態にかかる繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。尚、第1の実施形態と同様の箇所については、適宜説明を省略する。
【0070】
図11に示されるように、本実施形態においては、繊維基材2が折り曲げられている。折り曲げられた部分を境として、繊維基材2の中央側が中央領域2−1と記載され、繊維基材の両端側が端部領域2−2として記載される。第1面18は、中央領域2−1と端部領域2−2とのそれぞれに設けられているものとする。
【0071】
第1型10は、第4部材14と、第5部材15と、第6部材16とを備えている。
【0072】
第4部材14は、折り曲げられた繊維基材2を載せる部材であり、繊維基材2に対応した形状に形成されている。
【0073】
第5部材15は、繊維基材2の端面を下方から支えるように配置されている。
【0074】
第6部材16は、繊維基材2の端部領域2−2を、第4部材14との間で挟むように配置されている。第6部材16には、第2型20を配置するための開口部分が設けられている。さらに、第6部材16には、加圧ライン8が設けられている。
【0075】
第2型20は、中央領域2−1と端部領域2−2のそれぞれに対応して、複数個所に設けられている。すなわち、中央領域2−1に対応する第2型20−1と、端部領域2−2に対応する第2型20−2とが設けられている。第2型20−1及び第2型20−2は、それぞれ、第6部材16に設けられた開口部分の壁面に沿って摺動する。また、第2型20−1及び第2型20−2のそれぞれには、駆動機構23が取り付けられている。
【0076】
各第2型(20−1、20−2)には、樹脂供給ライン(21−1、21−2)が設けられている。
【0077】
続いて、本実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法について説明する。
【0078】
まず、図11に示されるように、折り曲げられた繊維基材2を第1型10に固定し、第2型20−1及び第2型20−2をセットする。このとき、既述の実施形態と同様に、第2型20−1及び第2型20−2のそれぞれは、隙間1−1及び隙間1−2が形成されるように、セットされる。
【0079】
続いて、図12に示されるように、樹脂供給ライン21(21−1、21−2)を介して、隙間1(1−1、1−2)に樹脂6を供給する。
【0080】
隙間1(1−1、1−2)に樹脂を充填した後、第2型(20−1、20−2)を繊維基材2側に押し込み、樹脂6を繊維基材2に含浸させる。この際、図13に示されるように、まず、中央領域2−1に対応する第2型20−1を押し込む。これにより、中央領域2−1に樹脂6が含浸する。その後、図14に示されるように、端部領域2−2に対応する第2型20−2を押し込む。これにより、端部領域2−2に樹脂6が含浸する。
【0081】
その後は、第1の実施形態と同様に、含浸した樹脂6が樹脂アキュムレータ7により加圧硬化され、繊維強化複合材が得られる(図15参照)。
【0082】
樹脂6を中央領域2−1と端部領域2−2とで同時に染み込ませた場合、中央領域と端部領域2−2との間で樹脂6が未含浸である部分が生じ易くなる。特に、繊維基材2が折り曲げられている場合には、折り曲げられた部分で樹脂6が含浸しにくくなる。これに対して、本実施形態では、繊維基材2において、樹脂6は、中央領域2−1から含浸され、その後、端部領域2−2から含浸される。これにより、中央領域2−1と端部領域2−2との間で樹脂6の未含浸領域が形成されにくくなり、繊維基材2の全体に樹脂6を含浸させ易くすることができる。
【0083】
以上、本発明について第1〜第2の実施形態を例に挙げて説明した。尚、既述の実施形態及び変形例は、矛盾の無い範囲内で組み合わせて使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】RTMによる繊維強化複合材の製造方法を示す説明図である。
【図2】RFIによる繊維強化複合材の製造方法を示す説明図である。
【図3】RTMによる繊維強化複合材の製造方法を示す説明図である。
【図4】第1の実施形態に係る繊維強化複合材の製造装置を示す概略図である。
【図5】第1の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図7】第1の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図8】第1の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図9】第1の実施形態の変形例に係る繊維強化複合材の製造装置を示す概略図である。
【図10】第1の実施形態の他の変形例に係る繊維強化複合材の製造装置を示す概略図である。
【図11】第2の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図12】第2の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図13】第2の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図14】第2の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【図15】第2の実施形態に係る繊維強化複合材の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0085】
1 隙間
2 繊維基材
3 樹脂排出ライン
4 弁
5 シール部材
6 樹脂
7 樹脂アキュムレータ
8 加圧ライン
9 ストッパ
10 固定型(第1型)
11 第1部材
12 第2部材
13 第3部材
14 第4部材
15 第5部材(肩締め部材)
16 第6部材
18 第1面
19 第2面
20 可動型(第2型)
21 樹脂供給ライン
22 閉塞部材
23 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面を有する繊維基材を、前記第1面上が開放された状態で、第1型に対して固定する工程と、
第2面を有する第2型を、前記第1面と前記第2面とが隙間を介して対向するように、セットする工程と、
前記隙間に、樹脂を充填する工程と、
前記第2面が前記第1面に近づくように、前記第2型を前記第1型に対して押し込み、前記繊維基材に前記樹脂を含浸させる工程と、
を具備する
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記樹脂を充填する工程は、
前記隙間を減圧する工程と、
前記減圧する工程の後に、前記隙間に前記樹脂を供給する工程とを備える
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記第1型に対して固定する工程は、
前記繊維基材の端部が、両面から前記第1型により挟み込まれるように、前記第1型をセットする工程を含んでいる
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
更に、
前記樹脂を含浸させる工程の後に、含浸した樹脂を硬化させる工程
を具備する
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記樹脂を硬化させる工程は、前記含浸した樹脂を、加圧することにより硬化させる工程を含んでいる
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記加圧することにより硬化させる工程は、樹脂アキュムレータにより、前記含浸した樹脂を加圧する工程を含んでいる
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記樹脂を硬化させる工程は、前記含浸した樹脂を加温することにより硬化させる工程を含んでいる
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記繊維基材は、中央領域と、前記中央領域よりも端側に設けられた端部領域とを備えており、
前記第1面は、前記中央領域と前記端部領域とのそれぞれに設けられ、
前記第2型は、前記中央領域と前記端部領域のそれぞれに対向するように、複数個所に配置され、
前記樹脂を含浸させる工程は、
前記中央領域に対向する前記第2型を押し込む工程と、
前記中央領域に対応する前記第2型を押し込む工程の後に、前記端部領域に対向する前記第2型を押し込む工程とを備える
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載された繊維強化複合材の製造方法であって、
前記繊維基材は、前記中央領域と前記端部領域との間で折り曲げられている
繊維強化複合材の製造方法。
【請求項10】
第1面を有する繊維基材を、前記第1面上が開放された状態で固定する第1型と、
第2面を有し、前記第2面で前記第1面と隙間を介して対向するように配置される第2型と、
前記第2面が前記第1面に近づくように、前記第2型を前記第1型に対して押し込む駆動機構と、
を具備し、
前記隙間に樹脂が充填された状態で、前記駆動機構により前記第2型を前記第1型に押し込むことにより、前記樹脂が前記繊維基材に含浸される
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
更に、
前記隙間に前記樹脂を充填することができるように前記隙間に接続される、樹脂供給ライン
を具備する
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項12】
請求項11に記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
前記樹脂供給ラインは、前記隙間内を加圧できるようにも構成されている
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項13】
請求項10又は11に記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
更に、
前記隙間内を加圧できるように前記隙間に接続される、加圧ライン
を具備する
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項14】
請求項13に記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
前記加圧ラインは、樹脂アキュムレータと接続可能である
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
前記第1型は、前記繊維基材の端部を両面から挟み込むように形成されている
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項16】
請求項10乃至15のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
更に、
前記隙間内の樹脂を排出することができるように前記隙間に接続される、樹脂排出ライン
を具備する
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項17】
請求項10乃至16のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
更に、
前記第2面が予め定められた位置よりも更に前記繊維基材側に移動しないように、前記第2型の移動を制限する、ストッパ機構
を具備する
繊維強化複合材の製造装置。
【請求項18】
請求項10乃至17のいずれかに記載された繊維強化複合材の製造装置であって、
前記繊維基材は、中央領域と、前記中央領域よりも端側に設けられた端部領域とを備えており、
前記第1面は、前記中央領域と前記端部領域とのそれぞれに設けられ、
前記第2型は、前記中央領域と前記端部領域のそれぞれに対応して、複数個所に配置され、
前記駆動機構は、前記複数の第2型のそれぞれを独立して移動させることができるように構成されている
繊維強化複合材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−120271(P2010−120271A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296127(P2008−296127)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】