説明

繊維強化複合材料の製造方法および繊維強化複合材料

【課題】平滑であり、なおかつ、耐熱性、耐溶剤性が優れた表面を有する繊維強化複合材料を、短時間で得るための製造方法を提供すること。
【解決手段】次の構成要素[A]、[B]をセットした型内に構成要素[C]を注入し、構成要素[A]に含浸、硬化させた後、成形品を脱型することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
[A]強化繊維基材
[B]熱硬化性樹脂シート
[C]液状の熱硬化性樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維基材をセットした型内に液状の熱硬化性樹脂を注入し、強化繊維基材に含浸、硬化させた後、繊維強化複合材料の成形品を脱型する成形法であるレジン・トランスファー・モールディング法(以下、RTM法と記す)において、写像が鮮明に映し出される様な、平滑な表面を有する繊維強化複合材料を、短時間で得るための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、およびボロン繊維などの強化繊維と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物とからなる繊維強化複合材料は、軽量であり、なおかつ強度、弾性率といった機械物性が優れるため、航空機部材、自動車部材、鉄道車両部材、船舶部材、およびスポーツ用品などの数多くの用途で利用されている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法としては、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM法、マトリックス樹脂を強化繊維に含浸したシート状中間基材であるプリプレグを用いる方法などが知られている。これらの製造方法のなかで、複雑な形状を有する大型の部材を短時間で成形できるという利点を有することから、RTM法が注目を集めている。
【0004】
しかしながら、RTM法では、得られる繊維強化複合材料において、使用する強化繊維基材の凹凸に応じた表面凹凸が発生するため、写像が鮮明に映し出されるような平滑な表面が得られないという問題があった。このため、ユーザーが直接目にすることが多く意匠性が求められる外板部材、特に、フード、ルーフ、トランクリッドなどの自動車外板部材にRTM法で得られる成形品を適用する際には、繊維強化複合材料の表面を研磨し、表面凹凸を小さくする工程が新たに必要となるため、成形から仕上げまでの工程全体に要する時間は実質的に短縮されず、RTM法の利点である成形の短時間化の効果は得られなかった。
【0005】
平滑な表面を有する繊維強化複合材料を、RTM法により得る方法として、以下の技術が知られている。
【0006】
1つめの方法として、ゲルコートを用いる方法がある。この方法では、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などからなるの液状の樹脂組成物(ゲルコート)を、型上に所定の厚さになるよう塗布、硬化させ、樹脂層(ゲルコート層)を形成した後、繊維強化基材を積層してRTM法を行う(例えば、特許文献1、2参照)。この方法では、繊維強化複合材料の表面にゲルコート層が形成されることにより、表面凹凸が小さくなり、比較的平滑な表面を得ることができる。しかしながら、この方法では、ゲルコートの塗布、硬化に通常数10分から数時間を要するため、繊維強化複合材料の表面を研磨し、表面凹凸を小さくする方法と比較して、成形時間短縮の効果はほとんどないものであった。
【0007】
別の方法として、熱可塑性樹脂のシートを用いる方法がある。この方法では、熱可塑性樹脂シートを用いて型面に密着させ得る形状を備えた表面層を予め作製し、この表層材を型にセットした後、強化繊維基材を積層してRTM法を行う(例えば、特許文献3、4参照)。この方法では、繊維強化複合材料の表面に熱可塑性樹脂からなる樹脂層が形成されることにより、表面凹凸が小さくなり、比較的平滑な表面を得ることができる。また、短時間での成形が可能である。しかしながら、この方法では、熱可塑性樹脂のシートを用いるため、耐熱性、耐溶剤性を両立する材料を選択することが困難であるという別の問題があった。
【特許文献1】特開平8−207149号公報、2頁
【特許文献2】特開2003−48263号公報、2頁
【特許文献3】特開平7−214677号公報、3頁
【特許文献4】特開2001−288230号公報、2頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、平滑であり、なおかつ、耐熱性、耐溶剤性が優れた表面を有する繊維強化複合材料を、短時間で得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、次の構成を有する。すなわち、下記の構成要素[A]、[B]をセットした型内に構成要素[C]を注入し、構成要素[A]に含浸、硬化させた後、成形品を脱型することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法を提供することにある。
[A] 強化繊維基材
[B] 熱硬化性樹脂シート
[C] 液状の熱硬化性樹脂
【発明の効果】
【0010】
強化繊維複合材料の表面に熱硬化性樹脂シートを配置したRTM法により、平滑な表面を有する強化繊維複合材料を短時間で得ることができ、自動車外板などの意匠性が求められる部材を効率よく製造することが可能となる。また熱硬化性樹脂シートを用いるため、耐熱性、耐溶剤性が優れた表面が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、熱硬化性樹脂の硬化物が耐熱性、耐溶剤性に優れることに着目し、繊維強化複合材料の表面に熱硬化性樹脂の硬化物からなる樹脂層を形成し、平滑であり、なおかつ、耐熱性、耐溶剤性に優れる表面を得ることを考えた。さらに、短時間での成形を実現するために、RTM法において、熱硬化性樹脂をシート状にしたものを型にセットする方法を着想した。この方法では、熱硬化性樹脂を短時間で型へセットできるため、繊維強化複合材料の表面を研磨する方法、ゲルコートを用いる方法と比較して大幅な成形時間短縮が可能である。また、熱硬化性樹脂をシート状にしたものを用いることにより、複雑形状を有する型へのセットも容易となる。
【0012】
本発明に適用する強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、および、ボロン繊維などが用いられる。なかでも、軽量でありながら、高強度、高弾性率であるという優れた特徴を有するため、炭素繊維が好ましく用いられる。
【0013】
本発明における強化繊維基材としては、強化繊維の織物、ブレイド、マットなどが用いられ、さらに、これらを積層し、賦形し、接着剤やステッチなどの手段で形態を固定しプリフォームとしたものも好ましく用いられる。
【0014】
本発明における熱硬化性樹脂シートは、繊維強化複合材料の表面に硬化物からなる樹脂層を形成し、平滑な表面を得るために用いられる。
【0015】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおける熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが用いられる。なかでも、硬化収縮が小さく、成形品が反るという問題が生じにくいことから、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。また、エポキシ樹脂を炭素繊維と組み合わせて用いる場合、炭素繊維との接着性が優れるという利点も有する。
【0016】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおけるエポキシ樹脂としては、1分子あたり平均2個以上のエポキシ基を有するものを用いることが好ましい。具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルエーテルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラフェニルグリシジルエーテルエタンなどが挙げられる。なかでも、耐熱性と靭性のバランスが優れる硬化物が得られるため、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0017】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおけるエポキシ樹脂と組み合わせる硬化剤としては、ポリアミン、ヒドラジド、ジシアンジアミド、酸無水物、フェノールなどの付加型硬化剤、3級アミンなどのアニオン重合型硬化剤、3フッ化硼素塩などのカチオン重合型硬化剤などが用いられる。なかでも、適度な保存安定性と硬化性を有するため、ジシアンジアミドが好ましく用いられる。
【0018】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにエポキシ樹脂を含む場合、硬化触媒を用いることもできる。硬化触媒としては、イミダゾール系の硬化触媒、ウレア系の硬化触媒を用いられる。なかでも、適度な保存安定性と硬化性を有するため、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3クロロ4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)などのウレア系の硬化触媒が好ましく用いられる。
【0019】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおいて、適度なタックを有し、型へのセットを容易にすることができるため、熱可塑性樹脂を配合することができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどが好ましく用いられる。
【0020】
また、本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおいて、適度な揺変性を有し、過度の流動を抑えることができるため、無機フィラーを配合することができる。無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラスナイトなどが好ましく用いられる。
【0021】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおいて、シートに適度な強度を持たせることができるため、ガラス繊維、ポリエステル、ポリアミドなどの織物、編み物、不織布を担持体として用いることができる。具体的には、織物、編み物、不織布に熱硬化性樹脂を完全に含浸、あるいは部分的に含浸させ、シート状にしたものを用いることができる。
【0022】
本発明に適用する熱硬化性樹脂シートにおいて、厚みが50〜800μmの範囲内であることが好ましい、50μmより薄いと平滑な表面が得られない場合がある。また、800μmより厚いと軽量であるという繊維強化複合材料の特徴が損なわれる場合がある。
【0023】
本発明に適用する液状の熱硬化性樹脂は、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として用いられる。
【0024】
本発明に適用する液状の熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが用いられるが、上述の熱硬化性樹脂シートとの接着性が優れることから、熱硬化性樹脂シートと同じ種類の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。あるいは、共有結合を形成することができる組み合わせを選択することが好ましい。なかでも、炭素繊維との接着性が優れるエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
本発明に適用する液状の熱硬化性樹脂におけるエポキシ樹脂としては、1分子あたり平均2個以上のエポキシ基を有するものを用いることが好ましい。具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルエーテルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラフェニルグリシジルエーテルエタンなどが挙げられる。なかでも、耐熱性と靭性のバランスが優れる硬化物が得られるため、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
本発明に適用する液状の熱硬化性樹脂シートにおけるエポキシ樹脂と組み合わせる硬化剤としては、ポリアミン、ヒドラジド、ジシアンジアミド、酸無水物、フェノールなどの付加型硬化剤、3級アミンなどのアニオン重合型硬化剤、3フッ化硼素塩などのカチオン重合型硬化剤などが用いられる。
【0027】
本発明に適用する型としては、キャビティーが剛性材料のみで囲まれた密閉型、あるいは、キャビティーが剛性材料とバギングフィルムで囲まれた開放型などを用いることができる。
【0028】
本発明に適用する型の材料としては、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル合金などの金属、FRP(Fiber Reinforced Plastic)、木材などを用いることができる。また、開放型で用いるバギングフィルムの材料としては、ポリアミド、ポリエステル、シリコーンなどを用いることができる。
【0029】
本発明において、構成要素[A]の強化繊維基材、構成要素[B]の熱硬化性樹脂シートを型にセットする1つめの方法としては、熱硬化性樹脂シートを型にセットした後、強化繊維基材を積層する方法が挙げられる。この方法では、複雑な曲面を有する型への熱硬化性樹脂シートのセットが容易に行える利点を有する。
【0030】
本発明において、構成要素[A]の強化繊維基材、構成要素[B]の熱硬化性樹脂シートを型にセットする別の方法としては、強化繊維基材の少なくとも片面に熱硬化性樹脂シートを積層した予備積層体を作製した後、この予備積層体を型にセットする方法が挙げられる。この方法では、熱硬化性樹脂シートを型にセットした後、強化繊維基材を積層する方法と比較して、型上での作業時間を短縮することができる利点を有する。RTM法において、繊維強化複合材料の生産量は、「1つの型あたりの生産量」に「型の数」を乗じた量で決まるため、型上での作業時間を短縮することにより、「1つの型あたりの生産量」を高めることができ、この結果、繊維強化複合材料の生産量を高めることができる。
【0031】
本発明において、強化繊維基材間を固定して取り扱い性を良くするために、タッキファイヤーなどの接着材料を用いることができる。また、強化繊維基材と熱化成樹脂フィルムとを固定して取り扱い性を良くするために、タックを有する熱硬化性樹脂シート用いる、あるいは、タッキファイヤーなどの接着材料などを用いることができる。
【0032】
本発明では、型に強化繊維基材、熱硬化性樹脂シートをセットした後、型を閉じる。密閉型を用いる場合は、ボルト、クランプなどを用いて上型と下型を型締めする、あるいは、上型と下型をプレスに取り付けておき、プレス圧により上型と下型を型締めするなどの方法で型を閉じる。開放型を用いる場合は、シール材などを用いる方法などで剛性材料からなる型とバギングフィルムを閉じる。
【0033】
本発明において、型を閉じた後、構成要素[C]の液状の熱硬化性樹脂を型内に注入する。
【0034】
本発明において、液状の熱硬化性樹脂の注入を開始する時間としては、短時間での成形を実現するために、熱硬化性樹脂シートを型にセットし終わった時点から30分以内であることが好ましい。なお、本発明において、注入を開始する時間とは、液状の熱硬化性樹脂が型内に流入し始める時間を指す。
【0035】
また、本発明において、特に平滑な表面の繊維強化複合材料を得るために、熱硬化性樹脂シートを型にセットし終わった後、熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度(Tg)が下記条件(5)を満たす状態で、液状の熱硬化性樹脂の型内への注入を開始することが好ましい。熱硬化性樹脂シートのTgが下記条件(5)を満たす状態であれば、熱硬化性樹脂シートは十分な剛性を有しており、液状の熱硬化性樹脂の硬化収縮による表面凹凸の発生をより効果的に抑えることができる。
【0036】
Tg≧Tm(MAX)―30 ・・・(5)
Tg :構成要素[B]のガラス転移温度(℃)
Tm(MAX):型温の最高値(℃)
ここで、熱硬化性樹脂シートのTgが上記条件(5)を満たすか否かは次の方法で判定する。型上に熱硬化性樹脂シートを約2mmの厚みになるようにセットする。型温を成形条件通りにコントロールしながら、任意の時間毎に熱硬化性樹脂シートをサンプリングし、Tgを測定する。また、この際、下型の中心付近に熱電対を取り付けて型温を測定し、型温の最高値(Tm(MAX))を求める。熱硬化性樹脂シートを型にセットし終わった時点を0(分)として、サンプリング時間に対して、測定したTgをプロットして時間ーTg曲線を作製し、Tgが上記条件(5)を満たすのに必要な最小時間t(分)を求める。以降、同一の成形条件を用いる場合、熱硬化性樹脂シートを型にセットし終わった時点からt(分)以上経過していれば、Tgが上記条件(5)を満たすものと判定する。
【0037】
ここで、熱硬化性樹脂シートのTgは、粘弾性測定装置を用い、SACMA SRM 18Rー94に準拠して測定する。ただし、測定はRectangular Torsionモードで行い、測定振動数は1Hzとし、昇温速度は5℃/minとする。得られる温度ー貯蔵弾性率曲線において、ガラス領域での接線と、ガラス領域からゴム領域への転移領域での接線との交点を求め、この交点の温度をガラス転移温度とする。
【0038】
本発明において、型の温度は、一定の温度に保持することも可能であるし、昇温、降温、および、一定温度で保持することを組み合わせることも可能である。なかでも、型の昇温、降温の工程を省略でき、短時間での成形が実現できるため、全行程にわたって、60〜180℃の範囲に含まれる特定温度Tmに対し、Tm±10℃に保持することが好ましい。Tmが60℃より低いと、熱硬化性樹脂シート、および、液状の熱硬化性樹脂を硬化して得られる硬化物の耐熱性が不足する場合がある。また、Tmが180℃より高いと、液状の熱硬化性樹脂の粘度上昇が速く、繊維強化複合材料に未含浸部が生じる場合がある。
【0039】
本発明において、注入に要する時間、および、注入開始から脱型開始までの時間は、注入に要する時間を十分に確保でき比較的大きな繊維強化複合材料の成形が可能であることと、短時間での成形を実現することを両立できるため、型温を60〜180℃の範囲に含まれる特定温度Tmに対し、Tm±10℃に保持した状態で、下記条件(6)〜(8)を満たすことが好ましい
ti≧10 ・・・(6)
tm≦60 ・・・(7)
1<tm/ti≦6.0 ・・・(8)
ti:注入開始から注入終了までの時間(分)
tm:注入開始から成形品の脱型開始までの時間(分)。
【実施例】
【0040】
以下、実施例、比較例によって本発明を具体的に説明する。実施例、比較例の主要データは表1にまとめた。
【0041】
実施例、比較例で用いた材料は以下の通りである。
1.炭素繊維織物
本発明に適おける構成要素[A]の強化繊維基材には、炭素繊維織物であるCO6343B(品番、“トレカ”T300−3K使用、198g/m目付け、東レ(株)製)を用いた。
2.熱硬化性樹脂シート
“エピコート”(登録商標)828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)100重量部、“アドマファイン” (登録商標)SO−C5(真球状シリカ粒子、粒径1.3〜2.0μm、アドマッテクス(株)製、)95重量部、Dicy7(ジシアンジアミド、硬化剤、ジャパンエポキシレジン(株)製)4.2重量部、DCMUー99(品番、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、硬化触媒、保土谷化学工業(株)製)3重量部、“ビニレックK”(登録商標)(ポリビニルホルマール、熱可塑性樹脂、チッソ(株)製)10重量部を、MEKに加えて混合し、樹脂ワニスを作製した。これを三本ロール(EXAKT80、EXAKT社製)を用いてよく分散させた後、小型アプリケータ(型番350FA B型、膜厚600μm、コーティングテスター(株)製)を用いて離型紙上に厚さ600μmのシート状にフィルミングした。次に、このシートを55℃の熱風乾燥機にて30分、30℃に設定した真空乾燥機中にて減圧下、7時間放置してMEKを乾燥させた後、シートを離型紙より剥がして、熱硬化性樹脂シートを作製した。乾燥後の熱可塑性樹脂シートの厚みは350μmであった。
3.液状の熱硬化性樹脂
“エピコート”(登録商標)828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)100重量部に、“キュアゾール” (登録商標)2E4MZ(2ーエチル−4ーメチルイミダゾール、アニオン重合型硬化剤、四国化成工業(株)製)3重量部を加え、よく撹拌して、液状の熱硬化性樹脂を作製した。
4.ゲルコート
比較例のゲルコートとしては、NR−AC0001P(品番、アクリル樹脂系ゲルコート、東罐マテリアルテクノロジー(株)製)を用いた。
【0042】
次に、実施例、比較例における測定法を以下に示す。
1.表面粗さ測定
成形して得られた繊維強化複合材料を、長さ5cm、幅2cmのサイズにダイヤモンドカッターを用いてカットしサンプルを作製した。サンプルの任意の5箇所で、接触式の表面粗さ計、サーフコーダSE3400((株)小坂研究所製)を用い、表面凹凸のプロファイルを得た。この際、測定の方向が異なるようにした。また、表面凹凸のプロファイルは、凹凸の高さが十分に認識できるように拡大して出力した。次に、図1に示すように、凹凸の凹部から凸部までの高さRを、各プロファイルにつき3箇所、合計15箇所計測し、平均値を算出した。
2.熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度(Tg)測定
型上に熱硬化性樹脂シートを約2mmの厚みになるようにセットし、所定条件で硬化させ、サンプルを作製した。次に、粘弾性測定装置を用い、SACMA SRM 18Rー94に準拠してTgを測定した。ただし、測定はRectangular Torsionモードで行い、測定振動数は1Hzとし、昇温速度は5℃/minとした。得られた温度ー貯蔵弾性率曲線において、ガラス領域での接線と、ガラス領域からゴム領域への転移領域での接線との交点を求め、この交点の温度をガラス転移温度とした。
3.繊維強化複合材料の耐薬品性試験
繊維強化複合材料の表面に、メチルエチルケトン、エタノール、トルエン、塩化メチレンを、ピペットを用いて2、3滴滴下した後、布で拭き取り、溶剤滴下前、および滴下後の表面の様子を観察した。耐溶剤性が劣る場合、布で拭き取った際に樹脂分が周囲に広がる傾向が見られるので、この様な傾向が見られるか否かで耐溶剤性の良、不良を判定した。
(比較例1)
熱硬化性樹脂シートを用いず、強化繊維基材と液状の熱硬化性樹脂のみを用いて繊維強化複合材料を成形し、各種測定を行った。まず、各辺が経糸、緯糸のいずれかと平行な1辺300mmの正方形になるようにカットした炭素繊維織物CO6343B、4plyを100℃に保持した型に積層し、その上にピールプライと樹脂配分媒体であるナイロン製のネットを積層した。次に、ナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧ー0.1](MPa)に減圧した後、液状の熱硬化性樹脂を注入した。注入開始から5分後に注入を終了し、注入開始から25分後に脱型を開始し、繊維強化複合材料を得た。成形中、型温は100℃に保持した。炭素繊維織物の型へのセットを開始してから脱型が終了するまでの時間(成形時間)は40分であり、十分に短時間であった。
【0043】
繊維強化複合材料の表面粗さは1.6μmであり、平滑とは言えないことがわかった。
(実施例1)
熱硬化性樹脂シートを用い、繊維強化複合材料を成形し、各種測定を行った。まず、100℃に保持した型に1辺300mmの正方形の熱硬化性樹脂シートをセットした。その後、比較例1と同様の手順で繊維強化複合材料を得た。ただし、熱硬化性樹脂シートをセットした後、10分後に注入を開始した。100℃10分硬化後の熱硬化性樹脂シートのTgは25℃であり、Tm(MAX)ー30=70(℃)を下回った。また、熱硬化性樹脂シートの型へのセットを開始してから脱型が終了するまでの時間(成形時間)は52分であり、十分に短時間であった。
【0044】
繊維強化複合材料の耐溶剤性試験の結果はいずれも良好であった。また、繊維強化複合材料の表面粗さは0.80μmであり、十分に平滑であった。
(実施例2)
熱硬化性樹脂シートを用い、繊維強化複合材料を成形し、各種測定を行った。まず、100℃に保持した型に1辺300mmの正方形の熱硬化性樹脂シートをセットした。その後、比較例1と同様の手順で繊維強化複合材料を得た。ただし、熱硬化性樹脂シートをセットした後、40分後に注入を開始した。100℃40分硬化後の熱硬化性樹脂シートのTgは82℃であり、Tm(MAX)ー30=70(℃)を上回った。また、熱硬化性樹脂シートの型へのセットを開始してから脱型が終了するまでの時間(成形時間)は72分であり、十分に短時間であった。
【0045】
繊維強化複合材料の耐溶剤性試験の結果はいずれも良好であった。また、繊維強化複合材料の表面粗さは0.64μmであり、十分に平滑であった。
(実施例3)
熱硬化性樹脂シートを用い、繊維強化複合材料を成形し、各種測定を行った。まず、1辺300mmの正方形の熱硬化性樹脂シートと、各辺が経糸、緯糸のいずれかと平行な1辺300mmの正方形になるようにカットした炭素繊維織物CO6343B、4plyを予め積層し、予備積層体を作製した。次に、100℃に保持した型に、型面に熱硬化性樹脂シートが接するように予備積層体をセットした、その後、比較例1と同様の手順で繊維強化複合材料を得た。ただし、予備積層体をセットした後、40分後に注入を開始した。100℃40分硬化後の熱硬化性樹脂シートのTgは82℃であり、Tm(MAX)ー30=70(℃)を上回った。また、予備積層体の型へのセットを開始してから脱型が終了するまでの時間(成形時間)は67分であり、十分に短時間であった。
【0046】
繊維強化複合材料の耐溶剤性試験の結果はいずれも良好であった。また、繊維強化複合材料の表面粗さは0.66μmであり、十分に平滑であった。
【0047】
(比較例2)60℃に保持した型に、ゲルコート NRーAC0001Pを350μmの厚みに一様に塗布した後、60分間放置し、ゲルコートを硬化させた。ゲルコートの塗布には10分を要した。型温を100℃まで20分かけて昇温した後、比較例1と同様の手順で繊維強化複合材料を得た。ゲルコートの型への塗布を開始してから脱型が終了するまでの時間(成形時間)は115分であり、短時間とは言えなかった。
【0048】
繊維強化複合材料の表面粗さは1.20μmであり、比較的平滑であった。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法により、平滑であり、耐熱性、耐溶剤性が優れる表面を有する繊維強化複合材料が短時間で成形可能であり、ユーザーが直接目にすることが多く意匠性が求められる自動車外板などの外板部材の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】表面粗さを算出する際に用いる、接触式の表面粗さ計による表面凹凸のプロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成要素[A]、[B]をセットした型内に構成要素[C]を注入し、構成要素[A]に含浸、硬化させた後、成形品を脱型することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
[A]強化繊維基材
[B]熱硬化性樹脂シート
[C]液状の熱硬化性樹脂組成物
【請求項2】
構成要素[B]が、厚みが50〜800μmの範囲内である請求項1記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項3】
構成要素[B]が、エポキシ樹脂を含む請求項1または2のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項4】
構成要素[B]が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、あるいは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む請求項3記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項5】
構成要素[B]が、熱可塑性樹脂を含む請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項6】
構成要素[B]が、織物、編み物、および、不織布からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる担持体を含む請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項7】
構成要素[A]が炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
構成要素[C]がエポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
型内に構成要素[A]、[B]をセットする前に、構成要素[A]の少なくとも片面に構成要素[B]を積層した予備積層体を作製する請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
型内に構成要素[B]をセットした後、構成要素[A]をセットする請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
構成要素[B]を型にセットした後30分以内に、構成要素[C]の型内への注入を開始する請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項12】
構成要素[B]を型にセットした後、構成要素[B]のガラス転移温度(Tg)が下記条件(1)を満たす状態で、構成要素[C]の型内への注入を開始する請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
Tg≧Tm(MAX)―30 ・・・(1)
Tg :構成要素[B]のガラス転移温度(℃)
Tm(MAX):型温の最高値(℃)
【請求項13】
構成要素[A]、[B]の型へのセットを開始してから成形品の脱型を完了するまでの全工程にわたって、60〜180℃の範囲に含まれる特定温度Tmに対し、Tm±10℃に型温を保持する請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項14】
下記条件(2)〜(4)を満たす請求項13記載の繊維強化複合材料の製造方法。
ti≧10 ・・・(2)
tm≦60 ・・・(3)
1<tm/ti≦6.0 ・・・(4)
ti:注入開始から注入終了までの時間(分)
tm:注入開始から成形品の脱型開始までの時間(分)
【請求項15】
請求1〜14のいずれかに記載の方法を用いて製造された繊維強化複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111737(P2006−111737A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301061(P2004−301061)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】