説明

繊維強化複合材料及びその製造方法

【課題】マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を、繊維集合体に含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させることにより繊維強化複合材料を製造するに当たり、繊維強化複合材料の繊維含有率を十分に少なく、また、所望の任意の繊維含有率に調整する。
【解決手段】含水繊維集合体をフリーズドライにより乾燥し、この乾燥繊維集合体に含浸用液状物を含浸させた後、含浸用液状物を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維集合体と、該繊維集合体に含浸されたマトリクス材料とを備える繊維強化複合材料及びその製造方法に関する。
本発明はまた、このような繊維強化複合材料を利用した有機電界発光素子及び受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料として最も一般的なものに、ガラス繊維に樹脂を含浸させたガラス繊維強化樹脂が知られている。通常、このガラス繊維強化樹脂は不透明なものであるが、ガラス繊維の屈折率とマトリクス樹脂の屈折率とを一致させて、透明なガラス繊維強化樹脂を得る方法が、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0003】
一方、バクテリアの中には、セルロース繊維を生産するものがあることは知られており、バクテリアにより産生されたセルロース繊維(以下「バクテリアセルロース」と称す。)をシート状、糸状、立体状などの各種の形状に成形してなる成形材料が特許文献3,4に開示されている。
【0004】
特許文献1,2等に開示される従来のガラス繊維強化樹脂は、使用条件によっては不透明となる場合がある。即ち、物質の屈折率は温度依存性を有しているため、特許文献1,2等に開示されるガラス繊維強化樹脂は、ある温度条件では透明であっても、その温度条件と異なる条件においては、半透明ないし不透明となる。また、屈折率は、物質ごとに波長依存性を有しており、可視光波長のうち特定波長において繊維とマトリクス樹脂との屈折率を合わせても、可視帯域全域においては屈折率がずれる領域が存在する可能性があり、この領域においては、やはり透明性を得ることができない。
【0005】
一方、特許文献3,4に開示されるバクテリアセルロースは、繊維径4nmの単繊維よりなり、可視光の波長に比べて繊維径は格段に小さいため、可視光の屈折が生じにくい。しかし、特許文献3,4では、バクテリアセルロースを樹脂との複合材料とする場合、バクテリアセルロースを離解して用いている。このように、バクテリアにより産生された産生物にグラインダー等により機械的剪断力を付与して離解した場合には、離解過程でバクテリアセルロース同士が互いに密着し、可視光の屈折、散乱が生じるような繊維径の太い束状となり、その結果、このような離解セルロースを使用したものは透明性に劣るものとなる。
【0006】
このように、従来においては、温度条件や波長域によらず、常に高い透明性を保持する繊維強化複合材料は提供されていなかった。
【0007】
そこで、温度条件や波長等に影響を受けることなく、常に高い透明性が維持され、かつ、繊維とマトリクス材料との複合化により様々な機能性が付与された繊維強化複合材料として、本出願人らは、先に、平均繊維径が4〜200nmの繊維とマトリクス材料とを含有し、50μm厚換算における波長400〜700nmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料と、マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を、繊維に含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させることにより、この繊維強化複合材料を製造する方法を提案した(特願2004−218962。以下「先願」という。)。
【0008】
先願の繊維強化複合材料は、より具体的には次のような手順で製造される。
[繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合]
(1) バクテリアを培養してバクテリアセルロースを産生させた後、培地からバクテリアを除去して含水バクテリアセルロースを得る。
(2) この含水バクテリアセルロースを、コールドプレス及びホットプレスないしは乾燥処理することにより水分を除去して乾燥バクテリアセルロースを得る。
(3) 得られた乾燥バクテリアセルロースに含浸用液状物を含浸させた後硬化させる。
【0009】
[繊維として植物繊維から分離されたものを用いる場合]
(1) パルプ等を高圧ホモジナイザーで処理して平均繊維径0.1〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(以下、「MFC」と略記する。)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、更にグラインダー等で繰り返し磨砕ないし融砕処理して平均繊維径10〜100nm程度のナノオーダーのMFC(以下、「Nano MFC」と略記する。)を得る。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することにより、シート化して含水Nano MFCとする。
(2) 得られた含水Nano MFCを、コールドプレス、ホットプレスないしは乾燥処理することにより水分を除去して乾燥Nano MFCを得る。
(3) 得られた乾燥Nano MFCに含浸用液状物を含浸させた後硬化させる。
【0010】
この先願の繊維強化複合材料及びその製造方法によれば、次のような効果が奏される。
[1] 可視光の波長(380〜800nm)より小さい平均繊維径を有する繊維を用いたものであるため、可視光がマトリックスと繊維との界面で殆ど屈折しない。そのため、全可視光領域において、また材料の屈折率に関わりなく、繊維とマトリクス材料との界面での可視光の散乱ロスが殆ど発生しない。このため、全可視光波長域において、温度に関わりなく、50μm厚可視光透過率60%以上の高い透明性を有する。
[2] ガラス繊維強化樹脂並の低い線熱膨張係数とすることができるため、雰囲気温度によって歪みや変形、形状精度低下が問題となりにくく、光学機能が向上し、光学材料として有用である。また、たわみ、歪みや変形等が少ないので、構造材料としても有用である。
[3] ガラス繊維強化樹脂より低い比重とすることができるため、ガラス繊維強化樹脂の応用分野において、その代替材料として用いることにより、軽量化を図ることができる。
[4] 低い誘電率を有するものとすることができるため、通信用光ファイバー等に有用であり、高速伝送が可能である。
[5] 繊維として生分解性のセルロース繊維を用いることにより、廃棄する際に、マトリクス材料の処理法のみに従って処理することができ、廃棄処分ないしはリサイクルにも有利である。
【特許文献1】特開平9−207234号公報
【特許文献2】特開平7−156279号公報
【特許文献3】特開昭62−36467号公報
【特許文献4】特開平8−49188号公報
【特許文献5】特願2004−218962
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記先願によれば、上述の如く優れた効果が奏されるが、先願に記載される繊維強化複合材料の製造方法では、次のような不具合があった。
【0012】
即ち、含水バクテリアセルロースからコールドプレス、ホットプレスないしは乾燥処理により水分を除去する工程において、バクテリアセルロースよりなる繊維集合体が自己収縮したり、或いは、この脱水工程におけるホットプレスにより加圧収縮したりする。このため、培地からバクテリアを除去して得られる含水バクテリアセルロースは、水:バクテリアセルロース=99.9:0.1〜95:5(体積比)程度の低繊維含有率のものであるのにもかかわらず、脱水後に得られるバクテリアセルロースの繊維含有率は70体積%にもなり(空気:バクテリアセルロース=30:70(体積比))、このため、このような高繊維含有率のバクテリアセルロースの繊維集合体に含浸用液状物を含浸、硬化させる先願の繊維強化複合材料の製造方法では、繊維含有率70体積%もの高繊維含有率の繊維強化複合材料しか製造し得ない。
【0013】
含水Nano MFCを乾燥して乾燥Nano MFCとし、この乾燥Nano MFCから繊維強化複合材料を製造する場合も同様の問題がある。
【0014】
しかし、このように繊維含有率の多い繊維強化複合材料では、次のような欠点がある。
<1> 繊維は吸湿率が高いため、繊維含有率の多い繊維強化複合材料では、吸湿の問題がある。
<2> 繊維は樹脂等のマトリクス材料に比べて高価であるため、繊維含有率の多い繊維強化複合材料では、高コストとなる。
<3> セルロース繊維はナノファイバーといえども、混入することで透明性が下がっていく傾向を示すため、繊維含有率が高くなればなるほどエポキシ樹脂などの透明性が損なわれることとなる。
【0015】
また、先願の方法では、上述の如く繊維含有率が制約を受けるために、所望の任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を製造することが困難であるという不具合もある。
【0016】
従って、本発明は上記先願の不具合を解決し、繊維集合体と、この繊維集合体に含浸されたマトリクス材料とを備える繊維強化複合材料であって、繊維含有率を十分に少なくすることができ、また、所望の任意の繊維含有率に調整することができる繊維強化複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明(請求項1)の繊維強化複合材料の製造方法は、繊維集合体と、該繊維集合体に含浸されたマトリクス材料とを備える繊維強化複合材料を製造する方法であって、水を含む該繊維集合体(以下「含水繊維集合体」と称す。)を製造し、該マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を、前記繊維集合体に含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させる繊維強化複合材料の製造方法において、該含水繊維集合体をフリーズドライすることにより乾燥繊維集合体を得る第1の工程と、該第1の工程で得られた乾燥繊維集合体に前記含浸用液状物を含浸させる第2の工程と、その後、該含浸用液状物を硬化させる第3の工程とを備えてなることを特徴とする。
【0018】
請求項2の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1において、前記含水繊維集合体をコールドプレスした後、フリーズドライすることを特徴とする。
【0019】
請求項3の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1又は2において、前記含水繊維集合体に含まれる水を、水以外の他の液体に置換した後、フリーズドライすることを特徴とする。
【0020】
請求項4の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記乾燥繊維集合体を減圧条件及び/又は加圧条件下で前記含浸用液状物中に浸漬することにより、該乾燥繊維集合体に該含浸用液状物を含浸させることを特徴とする。
【0021】
請求項5の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記含浸用液状物を含浸させた後の繊維集合体をコールドプレスした後該含浸用液状物を硬化させることを特徴とする。
【0022】
請求項6の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、繊維含有率が10重量%以上であることを特徴とする。
【0023】
請求項7の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記繊維集合体は平均繊維径が4〜200nmの繊維の集合体であることを特徴とする。
【0024】
請求項8の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項7において、前記繊維がセルロース繊維であることを特徴とする。
【0025】
請求項9の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項8において、前記セルロース繊維がバクテリアセルロースであることを特徴とする。
【0026】
請求項10の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項8において、前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることを特徴とする。
【0027】
請求項11の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項10において、前記セルロース繊維がミクロフィブリル化セルロース繊維を更に磨砕処理してなることを特徴とする。
【0028】
請求項12の繊維強化複合材料の製造方法は、請求項1ないし11のいずれか1項において、前記マトリクス材料が合成高分子であることを特徴とする。
【0029】
本発明(請求項13)の繊維強化複合材料は、このような本発明の繊維強化複合材料の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0030】
本発明(請求項14)の有機電界発光素子は、このような本発明の繊維強化複合材料からなる透明基板を備えてなることを特徴とする。
【0031】
本発明(請求項15)の受光素子は、このような本発明の繊維強化複合材料からなる透明基板を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、繊維集合体と、この繊維集合体に含浸されたマトリクス材料とを備える繊維強化複合材料における繊維含有率を十分に少なくすることができる。また、繊維強化複合材料の繊維含有率を所望の任意の値に容易に調整することができる。
【0033】
即ち、含水バクテリアセルロース又は含水Nano MFC等の含水繊維集合体に含まれる水を除去して乾燥させるに当たり、フリーズドライを採用することにより、以下のような作用機構で、繊維同士の凝集を防止して、含水バクテリアセルロース又は含水Nano MFC等の含水繊維集合体と同等の低繊維含有率を維持した乾燥繊維集合体を得ることができる。
【0034】
フリーズドライ(凍結乾燥)は、冷凍手段を備えた真空装置で凍結状態のまま水分(固体の氷)を直接昇華させて乾燥する方法である。
【0035】
先願の方法で採用される、ホットプレスや通常の乾燥処理では含水繊維集合体中の水を液体状態から気体状態へと蒸発させる際に、凝集力が働き、繊維同士が接近し、水素結合によってくっついてしまう。
【0036】
これに対して、フリーズドライであれば、氷が昇華する際に生じる凝集力が弱いため、繊維同士が凝集することがない。そのため、フリーズドライにより得られる乾燥繊維集合体は体積収縮せず、乾燥前の含水繊維集合体とほぼ同等の繊維含有率の低い状態を維持する。
【0037】
従って、このような乾燥繊維集合体に含浸用液状物を含浸させて硬化させることにより、繊維含有率の低い繊維強化複合材料を得ることができる。また、含水繊維集合体のフリーズドライの前にコールドプレスすることにより、乾燥繊維集合体の繊維含有率を任意に調整することができ、この乾燥繊維集合体を用いて、所望の任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を製造することができる。また、含浸用液状物含浸後の繊維集合体をコールドプレスすることによっても、得られる繊維強化複合材料の繊維含有量を調整することができ、これにより、所望の任意の繊維含有率の繊維強化複合材料を製造することができる。
【0038】
本発明により提供される繊維強化複合材料は、先願の繊維強化複合材料と同様に前述の[1]〜[5]の優れた特性を有し、しかも、繊維含有率を抑えて低吸湿性で安価な繊維強化複合材料とすることもできる。
【0039】
なお、繊維含有率を低減させても、セルロース繊維で補強された本発明の繊維強化複合材料は、後述の実施例に示す如く、線熱膨張率が大きく変化することはなく、10−5−1オーダーの低線熱膨張率の繊維強化複合材料とすることができる。
【0040】
このような本発明の繊維強化複合材料により、高品質の透明基板を製造することができ、この透明基板は有機電界発光素子や受光素子の透明基板として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に本発明の繊維強化複合材料及びその製造方法の実施の形態を、本発明の繊維強化複合材料の製造手順に従って詳細に説明する。
【0042】
[含水繊維集合体の製造]
まず、本発明に係る含水繊維集合体について説明するが、それに先立ち、本発明に好適な繊維集合体の構成繊維について説明する。
【0043】
本発明では、繊維として、好ましくは平均繊維径4〜200nmのものを用いる。この繊維は、単繊維が、引き揃えられることなく、且つ相互間にマトリクス材料が入り込むように十分に離隔して存在するものより成ってもよい。この場合、平均繊維径は単繊維の平均径となる。また、本発明に係る繊維は、複数(多数であってもよい)本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよく、この場合、平均繊維径は1本の糸条の径の平均値として定義される。バクテリアセルロースは、後者の糸条よりなるものである。
【0044】
本発明において、繊維の平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料との界面で可視光の屈折が生じ易くなり、透明性が低下することとなるため、本発明で用いる繊維の平均繊維径の上限は200nmとする。平均繊維径4nm未満の繊維は製造が困難であり、例えば繊維として好適な後述のバクテリアセルロースの単繊維径は4nm程度であることから、本発明で用いる繊維の平均繊維径の下限は4nmとする。本発明で用いる繊維の平均繊維径は、好ましくは4〜100nmであり、より好ましくは4〜60nmである。
【0045】
なお、本発明で用いる繊維は、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であれば、繊維中に4〜200nmの範囲外の繊維径のものが含まれていても良いが、その割合は30重量%以下であることが好ましく、望ましくは、すべての繊維の繊維径が200nm以下、特に100nm以下、とりわけ60nm以下であることが望ましい。
【0046】
なお、繊維の長さについては特に限定されないが、平均長さで100nm以上が好ましい。繊維の平均長さが100nmより短いと、補強効果が低く、繊維強化複合材料の強度が不十分となるおそれがある。なお、繊維中には繊維長さ100nm未満のものが含まれていても良いが、その割合は30重量%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明においては、繊維としてセルロース繊維を用いると、後述するように、得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数をより小さくすることができるので好ましい。
【0048】
セルロース繊維とは、植物細胞壁の基本骨格等を構成するセルロースのミクロフィブリル又はこれの構成繊維をいい、通常繊維径4nm程度の単位繊維の集合体である。このセルロース繊維は、結晶構造を40%以上含有するものが、高い強度と低い熱膨張を得る上で好ましい。
【0049】
本発明において、用いるセルロース繊維は、植物から分離されるものであってもよいが、バクテリアセルロースによって産生されるバクテリアセルロースが好適であり、特にバクテリアからの産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去して得られるものを離解処理することなく用いるのが好適である。
【0050】
以下に含水バクテリアセルロースの製造方法について説明する。
地球上においてセルロースを生産し得る生物は、植物界は言うに及ばず、動物界ではホヤ類、原生生物界では、各種藻類、卵菌類、粘菌類など、またモネラ界では藍藻及び酢酸菌、土壌細菌の一部に分布している。現在のところ、菌界(真菌類)にはセルロース生産能は確認されていない。このうち酢酸菌としては、アセトバクター(Acetobacter)属等が挙げられ、より具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、バクテリアセルロースを生産する生物は2種以上を用いても良い。
【0051】
このようなバクテリアを培養することにより、バクテリアからセルロースが産生される。得られた産生物は、バクテリアとこのバクテリアから産生されて該バクテリアに連なっているセルロース繊維(バクテリアセルロース)とを含むものであるため、この産生物を培地から取り出し、それを水洗、又はアルカリ処理などしてバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースを得ることができる。
【0052】
培地としては、寒天状の固体培地や液体培地(培養液)が挙げられ、培養液としては、例えば、ココナッツミルク(全窒素分0.7重量%,脂質28重量%)7重量%、ショ糖8重量%を含有し、酢酸でpHを3.0に調整した培養液や、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)等が挙げられる。
【0053】
培養方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。ココナッツミルク培養液に、アセトバクター キシリナム(Acetobacter xylinum)FF−88等の酢酸菌を植菌し、例えばフリーズドライ−88であれば、30℃で5日間、静置培養を行って一次培養液を得る。得られた一次培養液のゲル分を取り除いた後、液体部分を、上記と同様の培養液に5重量%の割合で加え、30℃、10日間静置培養して、二次培養液を得る。この二次培養液には、約1重量%のセルロース繊維が含有されている。
【0054】
また、他の培養方法として、培養液として、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培養液)を用いる方法が挙げられる。この場合、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株にSH培養液を加え、1週間静置培養する(25〜30℃)。培養液表面にバクテリアセルロースが生成するが、これらのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加える。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行う。バクテリアセルロースは、このように、「既存の培養液の一部を新しい培養液に加え、約7〜30日間静置培養を行う」ことの繰りかえしにより得られる。
【0055】
菌がセルロースを作りにくいなどの不具合が生じた場合は、以下の手順を行う。即ち、培養液に寒天を加えて作成した寒天培地上に、菌培養中の培養液を少量撒き、1週間ほど放置してコロニーを作成させる。それぞれのコロニーを観察して、比較的セルロースをよく作るようなコロニーを寒天培地から取り出し、新しい培養液に投入し、培養を行う。
【0056】
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する。その方法として、水洗またはアルカリ処理などが挙げられる。バクテリアを溶解除去するためのアルカリ処理としては、培養液から取り出したバクテリアセルロースを0.01〜10重量%程度のアルカリ水溶液に1時間以上注加する方法が挙げられる。そして、アルカリ処理した場合は、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去する。
【0057】
このようにして得られる含水バクテリアセルロースは、通常、含水率95〜99.9重量%、繊維含有率0.1〜5体積%であり、平均繊維径が50nm程度の単繊維の三次元交差構造の繊維集合体(以下、三次元交差構造をとるバクテリアセルロースを「三次元交差バクテリアセルロース構造体」と称す場合がある。)に水が含浸された状態のものである。
【0058】
この「三次元交差バクテリアセルロース構造体」とは「バクテリアセルロースが三次元的な交差構造をとることにより嵩高(スカスカ)の状態ではあるが一つの構造体として扱えるようになっている物体」を意味し、セルロース繊維を産生するバクテリアを前述の如く、培養液で培養することにより形成される。
【0059】
即ち、バクテリアがセルロースを産生(排出)しながらランダムに動き回ることによりセルロースが複雑に(三次元的に)交差している構造となった状態を云う。この複雑な交差はバクテリアが分裂してセルロースが分岐を生ずることにより更に複雑化した交差状態となる。
【0060】
なお、このような三次元交差バクテリアセルロース構造体は適当な形状、即ちフィルム状、板状、ブロック状、所定の形状(例えばレンズ状)等の形状で培養すれば、その形状に従って形成される。従って、目的に応じ任意の形状の三次元交差バクテリアセルロース構造体を得ることができる。
【0061】
なお、含水バクテリアセルロースの製造にあたっては、前述したようにバクテリアを除去するためのアルカリ処理や水等での洗浄処理が行われるが、これらの処理によっては三次元交差したバクテリアセルロースはその三次元交差が解除されることはない。また、後述の如く、含水バクテリアセルロース中の水を媒介液と置換する工程や、その前後でのプレス工程を経ても、この三次元交差状態はそのまま維持される。
【0062】
本発明において、繊維としては、好ましくは、上述のようなバクテリアセルロースを用いるが、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁等に、叩解・粉砕等の処理、高温高圧水蒸気処理、リン酸塩等を用いた処理等を施したセルロース繊維を用いても良い。
【0063】
この場合、上記叩解・粉砕等の処理は、リグニン等を除去した植物細胞壁や海草やホヤの被嚢に、直接、力を加え、叩解や粉砕を行って繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0064】
より具体的には、後述の実施例に示すように、パルプ等を高圧ホモジナイザーで処理して平均繊維径0.1〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、更にグラインダー等で繰り返し磨砕ないし融砕処理して平均繊維径10〜100nm程度のナノオーダーのMFC(Nano MFC)を得ることができる。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することにより、シート化する。
【0065】
上記磨砕ないし融砕処理は、例えば、栗田機械製作所製グラインダー「ピュアファインミル」等を用いて行うことができる。
【0066】
このグラインダーは、上下2枚のグラインダーの間隙を原料が通過するときに発生する衝撃、遠心力、剪断力により、原料を超微粒子に粉砕する石臼式粉砕機であり、剪断、磨砕、微粒化、分散、乳化、フィブリル化を同時に行うことができるものである。また、磨砕ないし融砕処理は、増幸産業(株)製超微粒磨砕機「スーパーマスコロイダー」を用いて行うこともできる。スーパーマスコロイダーは、単なる粉砕の域を越えた融けるように感じるほどの超微粒化を可能にした磨砕機である。スーパーマスコロイダーは、間隔を自由に調整できる上下2枚の無気孔砥石によって構成された石臼形式の超微粒磨砕機であり、上部砥石は固定で、下部砥石が高速回転する。ホッパーに投入された原料は遠心力によって上下砥石の間隙に送り込まれ、そこで生じる強大な圧縮、剪断、転がり摩擦力などにより、原料は次第にすり潰され、超微粒化される。
【0067】
また、上記高温高圧水蒸気処理は、リグニン等を除去した植物細胞壁や海草やホヤの被嚢を高温高圧水蒸気に曝すことによって繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0068】
また、リン酸塩等を用いた処理とは、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁等の表面をリン酸エステル化することにより、セルロース繊維間の結合力を弱め、次いで、リファイナー処理を行うことにより、繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。例えば、リグニン等を除去した植物細胞壁や、海草やホヤの被嚢を50重量%の尿素と32重量%のリン酸を含む溶液に浸漬し、60℃で溶液をセルロース繊維間に十分に染み込ませた後、180℃で加熱してリン酸化を進める。これを水洗した後、3重量%の塩酸水溶液中、60℃で2時間、加水分解処理をして、再度水洗を行う。その後、3重量%の炭酸ナトリウム水溶液中において、室温で20分間程処理することで、リン酸化を完了させる。そして、この処理物をリファイナーで解繊することにより、セルロース繊維が得られる。
【0069】
なお、これらのセルロース繊維は、異なる植物等から得られるもの、或いは異なる処理を施したものを2種以上混合して用いても良い。
【0070】
このようにして得られる含水Nano MFCは、通常、平均繊維径が100nm程度の単繊維のサブネットワーク構造(前述のバクテリアセルロースのような完全な(綺麗な)ネットワーク構造は取っていないが、局所的にネットワークを形成している構造)の繊維集合体に水が含浸された状態のものである。
【0071】
[第1の工程]
本発明では、上述のようにして得られた含水繊維集合体をフリーズドライすることにより乾燥する。ここで、繊維集合体としては、前述の含水バクテリアセルロースのみを用いても含水Nano MFCのみを用いても良く、これらを併用しても良い。
【0072】
このフリーズドライは、通常の凍結乾燥機を用いて常法に従って行えば良く、例えば凍結乾燥機としては(株)東京理化製凍結乾燥機「FDU−506」等を使用することができる。なお、フリーズドライの処理条件には特に制限はなく、繊維集合体に含まれている溶媒の凝固点温度以下、107〜1Paで、時間は処理量にもよるが1〜2日程度である。
【0073】
このフリーズドライに先立ち、含水繊維集合体をコールドプレスして、繊維集合体中に含まれる水分の一部を除去し、繊維含有率を調整することができる。
【0074】
このプレスの程度は、後述の乾燥繊維集合体への含浸用液状物の含浸後のプレスとで、目的とする繊維含有率の繊維強化複合材料が得られるように設計されるが、一般的には、プレスにより、含水繊維集合体の厚さがプレス前の厚さの1/2〜1/20程度となるようにすることが好ましい。このコールドプレス時の圧力、保持時間は、0.01〜100MPa、0.1〜30分間の範囲でプレスの程度に応じて適宜決定される。ただし10MPa以上でプレスする場合は、繊維集合体が破壊される場合があるので、プレススピードを遅くする等してプレスする。プレス温度は、0〜60℃程度とすることが好ましいが、通常は室温で行われる。このプレス処理により厚さが薄くなった含水繊維集合体は、フリーズドライを行っても、ほぼその厚さが維持される。ただし、このプレスは必ずしも必要とされず、含水繊維集合体をそのままフリーズドライに供しても良い。
【0075】
[第2の工程]
第1の工程で得られた乾燥繊維集合体に含浸用液状物を含浸させる。
【0076】
乾燥繊維集合体に含浸用液状物を含浸させる方法としては特に制限はないが、乾燥繊維集合体を含浸用液状物中に浸漬して減圧条件下及び/又は加圧条件下に、保持する方法が好ましい。特に、減圧条件と加圧条件とを交互に繰り返し行うことが好ましい。これにより、乾燥繊維集合体中に含浸用液状物を円滑に浸入させて、含浸用液状物が含浸された繊維集合体を得ることができる。
【0077】
この減圧条件については特に制限はないが、0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)が好ましい。減圧条件が93.3kPa(700mmHg)より大きいと、繊維集合体への含浸用液状物の浸入が不十分となり、繊維集合体の繊維間に空隙が残存する場合が生じることがある。一方、減圧条件は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0078】
減圧条件下における含浸工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この温度が0℃より低いと、繊維集合体への含浸用液状物の浸入が不十分となり、繊維間に空隙が残存する場合が生じることがある。なお、温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(当該減圧条件下での沸点)が好ましい。この温度より高くなると、溶媒の揮散が激しくなり、かえって、気泡が残存しやすくなる傾向がある。
【0079】
また、加圧条件としては、1.1〜10MPaが好ましい。加圧条件が1.1MPaより低いと、繊維集合体への含浸用液状物の浸入が不十分となり、繊維間に空隙が残存する場合が生じることがある。一方、加圧条件は10MPaより高くてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0080】
加圧条件下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。この温度が0℃より低いと、繊維集合体への含浸用液状物の浸入が不十分となり、繊維間に空隙が残存する場合が生じることがある。一方、300℃より高いと、含浸用液状物が変性するおそれがある。
【0081】
含浸用液状物の含浸工程で減圧条件と加圧条件とを交互に繰り返し行う場合、各々の条件に2〜12時間程度保持し、これを各々1〜5回程度繰り返すことが好ましい。
【0082】
なお、この含浸用液状物の含浸を行うに際しては、乾燥繊維集合体を複数枚積層して含浸用液状物中に浸漬しても良い。また、乾燥繊維集合体への含浸用液状物の含浸を行った後の含浸用液状物を含む繊維集合体を複数枚積層して後の硬化工程に供しても良い。
【0083】
なお、本発明で採用し得るマトリクス材料及び含浸用液状物は以下の通りである。
【0084】
〈マトリクス材料〉
本発明の繊維強化複合材料のマトリクス材料は、本発明の繊維強化複合材料の母材となる材料であり、後述の好適な物性を満たす繊維強化複合材料を製造することができるものであれば特に制限はなく、有機高分子、無機高分子、有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子等の1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0085】
以下に本発明に好適なマトリクス材料を例示するが、本発明で用いるマトリクス材料は何ら以下のものに限定されるものではない。
【0086】
マトリクス材料の無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料などのセラミックス等が挙げられ、これらは例えばアルコラートの脱水縮合反応により形成することができる。また、有機高分子としては、天然高分子や合成高分子が挙げられる。
【0087】
天然高分子としては、再生セルロース系高分子、例えばセロハン、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
【0088】
合成高分子としては、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等が挙げられる。
【0089】
上記ビニル系樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。これらは、各樹脂内において、構成される各単量体の単独重合体や共重合体であっても良い。
【0090】
上記ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレン等の単独重合体又は共重合体、あるいはノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0091】
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0092】
上記酢酸ビニル系樹脂とは、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルに、ホルムアルデヒドやn−ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやブチルアルデヒド等を反応させたポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0093】
上記フッ素樹脂としては、テトラクロロエチレン、ヘキフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0094】
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。なお、この明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。ここで、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。また、(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0095】
上記重縮合系樹脂としては、アミド系樹脂やポリカーボネート等が挙げられる。
【0096】
上記アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0097】
上記ポリカーボネートとは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物をいう。
【0098】
上記重付加系樹脂としては、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
【0099】
上記エステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。上記芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の後述するジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。上記脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体、上述するジオール類、上記脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等が挙げられる。上記不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及び必要に応じてスチレン等のビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0100】
上記Uポリマーとしては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸及びイソフタル酸等からなる共重合体が挙げられる。
【0101】
上記液晶ポリマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸と、テレフタル酸、p,p’−ジオキシジフェノール、p−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレン等との共重合体をいう。
【0102】
上記ポリエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンや4,4’−ジヒドロベンゾフェノン等の単独重合体や共重合体が挙げられる。
【0103】
上記ポリエーテルエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノン等の共重合体が挙げられる。
【0104】
上記アルキド樹脂としては、ステアリン酸、パルチミン酸等の高級脂肪酸と無水フタル酸等の二塩基酸、及びグリセリン等のポリオール等からなる共重合体が挙げられる。
【0105】
上記ポリスルホンとしては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体が挙げられる。
【0106】
上記ポリフェニルレンスルフィドとしては、p−ジクロロベンゼンや硫化ナトリウム等の共重合体が挙げられる。
【0107】
上記ポリエーテルスルホンとしては、4−クロロ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体が挙げられる。
【0108】
上記ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリト酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンや、後述するジイソシアネート化合物等からなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン等からなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等からなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4’−ジアミノジフェニルメタン等からなるビスマレイイミド型ポリイミド等が挙げられる。
【0109】
上記重付加系樹脂としては、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0110】
上記ウレタン樹脂は、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体である。上記ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、上記ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0111】
上記付加縮合系樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0112】
上記フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0113】
上記尿素樹脂やメラミン樹脂は、ホルムアルデヒドや尿素、メラミン等の共重合体である。
【0114】
上記開環重合系樹脂としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。上記ポリアセタールとしては、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド等の共重合体が挙げられる。上記エポキシ樹脂とは、エチレングリコール等の多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0115】
本発明においては、このようなマトリクス材料のうち、特に非晶質でガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子が透明性に優れた高耐久性の繊維強化複合材料を得る上で好ましく、このうち、非晶質の程度としては、結晶化度で10%以下、特に5%以下であるものが好ましく、また、Tgは110℃以上、特に120℃以上、とりわけ130℃以上のものが好ましい。Tgが110℃未満のものでは、例えば沸騰水に接触した場合に変形するなど、透明部品、光学部品等としての用途において、耐久性に問題が発生する。なお、TgはDSC法による測定で求められ、結晶化度は、非晶質部と結晶質部の密度から結晶化度を算定する密度法により求められる。
【0116】
本発明において、好ましい透明マトリクス樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ノボラック樹脂、ユリア樹脂、グアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂等の熱硬化樹脂が挙げられ、これらの中でも特に透明性の高いアクリル樹脂、メタクリル樹脂が好ましい。
【0117】
これらのマトリクス材料は、1種単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0118】
〈含浸用液状物〉
本発明で用いる含浸用液状物としては、流動状のマトリクス材料、流動状のマトリクス材料の原料、マトリクス材料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、及びマトリクス材料の原料の溶液から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0119】
上記流動状のマトリクス材料としては、マトリクス材料そのものが流動状であるもの等をいう。また、上記流動状のマトリクス材料の原料としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体等が挙げられる。
【0120】
更に、上記マトリクス材料を流動化させた流動化物としては、例えば、熱可塑性のマトリクス材料を加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
【0121】
更に、上記マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体が固形状の場合、これらを加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
【0122】
また、上記マトリクス材料の溶液やマトリクス材料の原料の溶液とは、マトリクス材料やマトリクス材料の原料を溶媒等に溶解させた溶液が挙げられる。この溶媒は、溶解対象のマトリクス材料やマトリクス材料の原料に合わせて適宜決定されるが、後工程でこれを除去するに当たり、蒸発除去する場合、上記マトリクス材料やマトリクス材料の原料の分解を生じさせない程度の温度以下の沸点を有する溶媒が好ましい。
【0123】
[第3の工程]
繊維集合体に含浸させた含浸用液状物を硬化させるには、当該含浸用液状物の硬化方法に従って行えば良く、例えば、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の場合は、架橋反応、鎖延長反応等が挙げられる。また、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の原料の場合は、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等が挙げられる。
【0124】
また、含浸用液状物がマトリクス材料を流動化させた流動化物の場合は、冷却等が挙げられる。また、含浸用液状物がマトリクス材料の原料を流動化させた流動化物の場合は、冷却等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等の組合せが挙げられる。
【0125】
また、含浸用液状物がマトリクス材料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の蒸発や風乾等による除去等が挙げられる。更に、含浸用液状物がマトリクス材料の原料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の除去等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等との組合せが挙げられる。なお、上記蒸発除去には、常圧下における蒸発除去だけでなく、減圧下における蒸発除去も含まれる。
【0126】
なお、本発明においては、この含浸用液状物の硬化を行うに先立ち、含浸用液状物を含む繊維集合体をコールドプレスして成形することが好ましい。即ち、フリーズドライにより得られた乾燥繊維集合体は表面が荒れている場合が多いため、このようなフリーズドライを経た乾燥繊維集合体に含浸用液状物を含浸させた後は、コールドプレスにより形を整えることが好ましい。
【0127】
このコールドプレスの程度は、目的とする繊維強化複合材料の繊維含有率に応じて適宜決定されるが、一般的には、プレスにより、乾燥繊維集合体の厚さがプレス前の厚さの1/2〜1/20程度となるようにすることが好ましい。このコールドプレス時の圧力、保持時間は、0.1〜100MPa、1〜10分間の範囲でプレスの程度に応じて適宜決定されるが、プレス温度は0〜60℃程度、通常は室温とすることが好ましい。ただし10MPa以上でプレスする場合は、繊維集合体が破壊される場合があるので、プレススピードを遅くする等してプレスする。
【0128】
[その他の工程]
<化学修飾>
本発明においては、繊維は、化学修飾を行って機能性を高めたものであっても良い。ここで、化学修飾としてはエーテル化、エステル化、イソシアナート化等によってアセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等を付加させること等が挙げられる。化学修飾の方法としては、例えば、フリーズドライにより得られた乾燥繊維集合体を無水酢酸中に浸漬し、必要に応じて加熱してアセチル化する方法が挙げられ、アセチル化により、光線透過率を低下させることなく、吸水性の低下、耐熱性の向上を図ることができる。この場合には、アセチル化後の繊維集合体に含浸用液状物を含浸させれば良い。また、化学修飾方法としては、含水繊維集合体を有機溶媒で置換し、含有機溶媒繊維集合体を作成し、その後、この含有機溶媒繊維集合体の有機溶媒を無水酢酸に置換し、必要に応じて加熱してアセチル化する方法も挙げられる。この場合、得られたアセチル化含無水酢酸繊維集合体の無水酢酸をエタノール、t−ブチルアルコールで順次置換し、その後フリーズドライすれば良い。
【0129】
<フリーズドライに先立つ溶媒置換>
本発明では、フリーズドライを行う場合、含水繊維集合体中の水が、氷の状態から水蒸気へと昇華する際の凝集力が弱いために、繊維同士の凝集が防止されるが、この凍結乾燥時の凝集力の点では、t−ブチルアルコールの方がより小さく、従って、繊維同士の凝集防止には有効である。このため、フリーズドライに先立ち、含水繊維集合体中の水をt−ブチルアルコール等の低凝集性溶媒に置換し、t−ブチルアルコールを含む繊維集合体を凍結乾燥に供することも、凝集の少ない乾燥繊維集合体を得る上で好ましい。また、水と上記低凝集性溶媒とは比較的相溶性が低く、含水繊維集合体中の水をt−ブチルアルコールのような低凝集性溶媒と直接置換することが困難であるため、水と低凝集性溶媒とを置換するに先立ち、水と低凝集性溶媒との双方に相溶性を有する溶媒、例えば、低凝集性溶媒としてt−ブチルアルコールを用いる場合にはエタノール等の相溶性溶媒を用い、含水繊維集合体中の水を、このような相溶性溶媒と置換し、その後、このような相溶性溶媒を低凝集性溶媒と置換するようにしても良い。
【0130】
含水繊維集合体中の水を他の溶媒と置換する方法としては特に制限はないが、含水繊維集合体を溶媒中に浸漬して所定の時間放置することにより含水繊維集合体中の水を溶媒側へ浸出させ、浸出した水を含む溶媒を適宜交換することにより繊維集合体中の水を溶媒と置換する方法が挙げられる。この浸漬置換の温度条件は、溶媒の揮散を防止するために、0〜60℃程度とすることが好ましく、通常は室温で行われる。
【0131】
なお、前述の如く、繊維集合体を構成する繊維は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。即ち、化学修飾してある繊維と化学修飾してない繊維とを併用しても良く、異なる化学修飾を施した繊維を混合して用いても良く、また、バクテリアセルロースと植物由来のNano MFCとを併用しても良い。また、バクテリアセルロースについても、異なる菌株から得られたものを併用しても良く、培養時に異なる菌株を2種以上用いても良い。
【0132】
[繊維強化複合材料]
本発明の方法により製造される繊維強化複合材料は、0.1〜70体積%ないしは0.1〜70重量%の幅広い範囲で任意の繊維含有率のものとすることができる。ただし、繊維強化複合材料中の繊維の含有率が少な過ぎると繊維による曲げ強度及び曲げ弾性率向上、又は線熱膨張係数低減の効果が不十分となる傾向があり、多過ぎると、マトリクス材料による繊維間の接着、又は繊維間の空間の充填が十分でなくなり、強度や透明性、表面の平坦性が低下するおそれがあり、また、前述の如く、吸湿性、コスト等の面においても好ましくない。従って、本発明により得られる繊維強化複合材料の繊維含有率は10重量%以上、特に20〜70重量%であることが好ましい。
【0133】
このようにして得られる本発明の繊維強化複合材料は、波長400〜700nmの光の50μm厚可視光透過率が60%以上、特に65%以上、特に70%以上、特に80%以上、とりわけ90%以上の高透明性材料であることが好ましい。繊維強化複合材料の50μm厚可視光透過率が60%未満では、半透明又は不透明となり、本発明の目的を達成し得ず、自動車、電車、船舶等の移動体の窓材料、ディスプレイ、住宅、建築物、各種光学部品等、透明性が要求される用途への使用が困難となる場合がある。
【0134】
なお、ここで、波長400〜700nmの光の50μm厚可視光透過率とは、本発明に係る繊維強化複合材料に対して、厚さ方向に波長400〜700nmの光を照射した時の全波長域における光線透過率(直線光線透過率=平行光線透過率。以下「直線透過率」と称す場合がある。)の平均値を50μm厚に換算した値である。この光線透過率は、空気をレファレンスとして、光源とディテクターを被測定基板(試料基板)を介して、かつ基板に対して垂直となるように配置し、直線透過光(平行光線)を測定することにより求めることができる。
【0135】
また、本発明の繊維強化複合材料は、線熱膨張係数が、好ましくは0.05×10−5〜5×10−5−1であり、より好ましくは0.2×10−5〜2×10−5−1であり、特に好ましくは0.3×10−5〜1×10−5−1である。繊維強化複合材料の線熱膨張係数は0.05×10−5−1より小さくてもよいが、セルロース繊維等の線熱膨張係数を考えると、実現が難しい場合がある。一方、線熱膨張係数が5×10−5−1より大きいと、繊維補強効果が発現しておらず、ガラスや金属材料との線熱膨張係数との違いから、雰囲気温度により、窓材でたわみや歪みが発生したり、光学部品で結像性能や屈折率が狂う等の問題が発生したりする場合がある。
【0136】
また、本発明の繊維強化複合材料は、曲げ強度が、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上である。曲げ強度が30MPaより小さいと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。曲げ強度の上限については、通常600MPa程度であるが、繊維の配向を調整するなどの改良手法により、1GPa、更には1.5GPa程度の高い曲げ強度を実現することも期待される。
【0137】
また、本発明に係る繊維強化複合材料は、曲げ弾性率が、好ましくは0.1〜100GPaであり、より好ましくは1〜40GPaである。曲げ弾性率が0.1GPaより小さいと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。一方、100GPaより大きいものは実現が困難である。
【0138】
また、本発明の繊維強化複合材料は、熱伝導率が好ましくは0.5W/mK以上、より好ましくは1.0W/mK(石英ガラスの熱伝導率と同等)以上、更に好ましくは1.1W/mK以上である。熱伝導率がこのように大きいことにより、熱移動を促進して放熱性に優れた部材とすることができる。なお、本発明の繊維強化複合材料の熱伝導率は、繊維含有率が多い程高く、従って、繊維含有率の調整により所望の値に容易に調整することができる。
【0139】
また、本発明の繊維強化複合材料の比重は、1.0〜2.5であることが好ましい。より具体的には、マトリクス材料としてガラス等のシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナ等の無機高分子以外の有機高分子や、無機高分子であっても多孔質材料を用いる場合は、本発明の繊維強化複合材料の比重は、1.0〜1.8が好ましく、1.2〜1.5がより好ましく、1.3〜1.4が更に好ましい。ガラス以外のマトリクス材料の比重は1.6未満が一般的であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5付近であるので、比重を1.0より小さくしようとすると、セルロース繊維等の含有率が低下し、セルロース繊維等による強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.8より大きいと、得られる繊維強化複合材料の重量が大きくなり、ガラス繊維強化材料と比較して、軽量化をめざす用途に使用することが不利となる。
【0140】
また、マトリクス材料としてガラス等のシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナ等の無機高分子(多孔質材料を除く)を用いる場合は、本発明の繊維強化複合材料の比重は、1.5〜2.5が好ましく、1.8〜2.2がより好ましい。ガラスの比重は2.5以上が一般的であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5付近であるので、比重を2.5より大きくしようとすると、セルロース繊維等の含有率が低下し、セルロース繊維等による強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.5より小さくなると、繊維間の空隙の充填が不十分になる可能性がある。
【0141】
なお、本発明において、線熱膨張係数は、繊維強化複合材料を50℃から150℃に昇温させた際の線熱膨張係数であり、ASTM D 696に規定された条件下で測定された値である。曲げ強度及び曲げ弾性率は、JIS K 7203に規定された方法に従って測定した値である。また、繊維強化複合材料の熱伝導率は、光交流法(面内方向)に従って測定した値である。また、繊維強化複合材料の比重は、20℃において、単位体積当たりの質量を測定して密度を求め、水の密度(1.004g/cm(20℃))とから換算して求めることができる。
【0142】
本発明の繊維強化複合材料は、透明性等に優れ、更に繊維とマトリクス材料との複合化で様々な優れた機能性を有するため、光学分野、構造材料分野、建材分野等の種々の用途に好適に使用することができる。
【0143】
また、本発明の繊維強化複合材料よりなる透明基板は透明性が高く、有機電界発光素子、あるいはイメージセンサや太陽電池等の受光素子に用いる透明基板の材料として好適に用いることができる。
本発明の繊維強化複合材料よりなる透明基板を用いることにより、電子機器(デジカメ、スキャナ等)の性能向上(光学特性、消費電流の低減、使用時間の延長等)が期待できるようになる。
また、本発明の繊維強化複合材料を用いて光ファイバを形成することもできる。
【実施例】
【0144】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、繊維強化複合材料の各種物性等の測定方法は次の通りである。
【0145】
[線熱膨張係数の測定]
窒素雰囲気下にて60℃で2時間加熱して、樹脂のポストキュアを行ったサンプルについて、セイコーインスツルメンツ製「TMA/SS6100」を用い、ASTM D 696に規定された方法に従って下記の測定条件で測定した。
〈測定条件〉
昇温速度:5℃/min
雰囲気:N
加熱温度:20〜150℃
荷重:3g
測定回数:3回
試料長:4×15mm
試料厚さ:試料により異なる
モード:引っ張りモード
【0146】
[直線透過率の測定]
<測定装置>
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−4100形分光光度計」(固体試料測定システム)を使用。
<測定条件>
・6mm×6mmの光源マスク使用
・測定サンプル(厚さ50μm)を積分球開口より22cm離れた位置において測光した。サンプルをこの位置に置くことで、拡散透過光は除去され、積分球内部の受光部に直線透過光のみが届く。
・リファレンスサンプルなし。リファレンス(試料と空気との屈折率差によって生じる反射。フレネル反射が生じる場合は、直線透過率100%ということはあり得ない。)がないため、フレネル反射による透過率のロスが生じている。
・スキャンスピード:300nm/min
・光源:タングステンランプ、重水素ランプ
・光源切り替え:340nm
【0147】
[繊維含有率の測定]
製造された繊維強化複合材料の重量と、この繊維強化複合材料の製造に供した繊維集合体の重量から求めた。
【0148】
実施例1
〈含水バクテリアセルロースの製造〉
まず、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株に培養液を加え、1週間静置培養した(25〜30℃)。培養液表面に生成したバクテリアセルロースのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加えた。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行った。培養液には、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)を用いた。
【0149】
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、2重量%のアルカリ水溶液で2時間煮沸し、その後、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去し、バクテリアセルロース中のバクテリアを溶解除去して、厚さ1cm、繊維含有率1体積%、水含有率99体積%の含水バクテリアセルロースを得た。
この含水バクテリアセルロースを、金属メッシュシートではさみ、室温にてそれを厚さ0.5cmまでコールドプレスして水を除去した。
【0150】
〈フリーズドライによる乾燥〉
コールドプレスした含水バクテリアセルロースを、冷凍庫(−5℃)で凍結させた後、凍結乾燥機の容器の中へ入れて、30分ほど容器ごと再び冷凍庫で冷やした。
その後、この容器を凍結乾燥機((株)東京理化製 凍結乾燥機「FDU−506」)に取り付け、0℃以下、8Pa(常圧を101.3KPaとしたときの容器内の圧力(十分、真空状態といえる。))で2日間凍結乾燥を行うことにより乾燥バクテリアセルロースを得た。得られた乾燥バクテリアセルロースの厚さは0.5cm程度のままであり、殆ど厚さに変化はなかった。
【0151】
〈含浸用液状物の含浸〉
乾燥バクテリアセルロースを、紫外線硬化型アクリル樹脂のモノマー液であるTCDDMA(三菱化学(株)社製)に浸漬し、室温にて0.09MPaの減圧条件と、5〜10MPaの加圧条件とを各々5〜6時間ずつ交互に繰り返す減圧・加圧処理を3日間行うことにより、乾燥バクテリアセルロース中にモノマー液を十分に含浸させた。
【0152】
〈硬化〉
モノマー液を含浸させたバクテリアセルロースをスライドガラスではさみ、2MPaで3分間コールドプレスして成形した後、スライドガラスで挟んで紫外線を照射して(8分間、20J/cm)、樹脂を硬化させた。更に、窒素雰囲気下、160℃で2時間ポストキュアして繊維強化複合材料を製造した。
【0153】
得られた繊維強化複合材料の厚さ、繊維含有率、線熱膨張係数、及び平均直線透過率は表1に示す通りであった。また、直線透過率は図1に示す通りであった。
【0154】
実施例2
含水バクテリアセルロースのコールドプレス条件を0.2cmまでとしたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化複合材料を製造した。得られた繊維強化複合材料の厚さ、繊維含有率、線熱膨張係数、及び平均直線透過率は表1に示す通りであった。また、直線透過率は図2に示す通りであった。
【0155】
実施例3
〈含水Nano MFCの製造〉
ミクロフィブリル化セルロース:MFC(高圧ホモジナイザー処理で、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)をミクロフィブリル化したもの、平均繊維径1μm)を水に十分に撹拌し、1重量%濃度の水懸濁液を7kg調製し、グラインダー(栗田機械作成所製「ピュアファインミルKMG1−10」)にて、この水懸濁液を、ほぼ接触させた状態の1200rpmで回転するディスク間を、中央から外に向かって通過させる操作を30回(30pass)行った。
【0156】
グラインダー処理により得られたNano MFC(平均繊維径60nm)を、0.2重量%水懸濁液に調製後、ガラスフィルターで濾過して製膜した。
【0157】
この含水Nano MFCを含水バクテリアセルロースの代りに用い、樹脂含浸後(樹脂硬化前)に0.1MPaで2分間コールドプレスしたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化複合材料を製造した。得られた繊維強化複合材料の厚さ、繊維含有率、線熱膨張係数、及び平均直線透過率は表1に示す通りであった。
【0158】
比較例1
実施例1と同様にして製造した含水バクテリアセルロースを2MPa、130℃で3分間ホットプレスして脱水し、水を完全に除去して乾燥バクテリアセルロースを製造し、この乾燥バクテリアセルロースを用いて実施例1と同様にして含浸処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして繊維強化複合材料を製造した。得られた繊維強化複合材料の厚さ、繊維含有率、線熱膨張係数及び平均直線透過率は表1に示す通りであった。
【0159】
【表1】

【0160】
表1より明らかなように、本発明によれば、繊維含有率の低い繊維強化複合材料を製造することができる。これに対して、先願の方法に係る比較例1では、脱水時のホットプレスによりバクテリアセルロースの厚さが著しく小さくなり、繊維含有率の高い繊維強化複合材料しか製造することはできない。
【0161】
また、本発明によれば、フリーズドライ前の含水繊維集合体のコールドプレスの程度や、含浸用液状物含浸後のコールドプレスの程度を調整することにより、様々な繊維含有率の繊維強化複合材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】実施例1で得られた繊維強化複合材料の直線透過率を示すグラフである。
【図2】実施例2で得られた繊維強化複合材料の直線透過率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体と、該繊維集合体に含浸されたマトリクス材料とを備える繊維強化複合材料を製造する方法であって、
水を含む該繊維集合体(以下「含水繊維集合体」と称す。)を製造し、該マトリクス材料を形成し得る含浸用液状物を、前記繊維集合体に含浸させ、次いで該含浸用液状物を硬化させる繊維強化複合材料の製造方法において、
該含水繊維集合体をフリーズドライすることにより乾燥繊維集合体を得る第1の工程と、
該第1の工程で得られた乾燥繊維集合体に前記含浸用液状物を含浸させる第2の工程と、
その後、該含浸用液状物を硬化させる第3の工程と
を備えてなることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記含水繊維集合体をコールドプレスした後、フリーズドライすることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記含水繊維集合体に含まれる水を、水以外の他の液体に置換した後、フリーズドライすることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記乾燥繊維集合体を減圧条件及び/又は加圧条件下で前記含浸用液状物中に浸漬することにより、該乾燥繊維集合体に該含浸用液状物を含浸させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記含浸用液状物を含浸させた後の繊維集合体をコールドプレスした後該含浸用液状物を硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、繊維含有率が10重量%以上であることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記繊維集合体は平均繊維径が4〜200nmの繊維の集合体であることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記繊維がセルロース繊維であることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記セルロース繊維がバクテリアセルロースであることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項8において、前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記セルロース繊維がミクロフィブリル化セルロース繊維を更に磨砕処理してなることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、前記マトリクス材料が合成高分子であることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料の製造方法により製造されたことを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項14】
請求項13に記載の繊維強化複合材料からなる透明基板を備えてなることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項15】
請求項13に記載の繊維強化複合材料からなる透明基板を備えてなることを特徴とする受光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−240295(P2006−240295A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28531(P2006−28531)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】