説明

繊維強化複合材料

【課題】再生可能な資源を用いた材料であって、透明性と力学物性とを両立することが可能な複合材料を提供する。
【解決手段】植物由来のエポキシ樹脂と平均繊維径100〜2000ナノメートルの樹脂繊維とを用いることにより、透明性を実質的に損なうことなく力学物性を改良することが可能となる。好ましくは、植物由来の樹脂が、植物油由来の樹脂であり、より好ましくは、エポキシ化された植物油(例えば、エポキシ化大豆油)である。樹脂繊維としては、ポリ乳酸繊維、脂肪酸ポリエステル繊維、またはアクリル繊維などが使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能な資源を用いた材料であって、透明性と力学物性とを両立することが可能な複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の合成樹脂製品の大量消費に伴い、原料である石油資源の枯渇が懸念されるとともに、その廃棄先が問題となっている。また、廃棄に伴う環境問題も深刻である。
【0003】
これらの問題を解決する為に、リサイクルが可能な樹脂製品が注目されており、かつ検討されている。そして、近年、出発原料に再生可能資源を用いる高分子材料の開発研究が注目を浴びている。再生可能資源とは、植物などの生物由来の資源のことである。再生可能資源を用いた高分子材料も焼却処分によって炭酸ガスを排出するという点では合成樹脂と変わらない。しかし、排出された炭酸ガスが光合成によって、再び植物に還元される為、空気中の二酸化炭素濃度を上昇させること無く、持続的に原料が供給可能となる(カーボンニュートラル)。このカーボンニュートラルの特徴は、化石資源に比べて、非常に速い速度で炭素の循環が行われるという点にある。
【0004】
再生可能資源の中でも油脂は、生産量が多く、安価であるという特徴を有しており、環境調和型高分子の出発原料として有望である。
【0005】
しかし、油脂そのものの反応性は低く、石油を主原料とする材料に物性・機能が劣るために油脂を主体とする高分子材料はほとんど実用化されていない。そこで本発明者らは、油脂の不飽和部位をエポキシ化することによって得られるエポキシ化油脂(例えば、エポキシ化大豆油やエポキシ化亜麻仁油)に着目し、その重合・硬化反応を利用した架橋型の新規バイオベース材料の開発を行っている。
【0006】
しかし、エポキシ化油脂を単独で硬化させると機械的強度が低く、脆いという欠点がある。また、エポキシ化油脂をモノマーとして用い、無機物と混合しても、得られる硬化ポリマー複合材料は脆く、力学物性が不十分である。また、エポキシ化油脂に添加剤等を添加すると、着色が起こりやすく、透明性が損なわれやすいという欠点が存在する。
【0007】
このため、エポキシ化油脂を樹脂材料として実用化することは困難を極めている。
【0008】
また、バイオマス材料として、発酵合成により製造される数十nm程度の微生物系セルロース繊維が研究されているが、その発酵効率の低さのためにプラスチック補強剤としての実用化が難しい。また、数十nmという細すぎる繊維径のために取扱が難しいという欠点がある。また、セルロースの溶解性が極めて低いために、電解紡糸法では製造することができないという欠点がある。
【0009】
このように、植物由来の材料を樹脂材料として実用化することは極めて困難であった。
【0010】
特許文献1および2には、バイオマス繊維を利用した材料が開示されている。特許文献3および4には、油脂ネットワークポリマーを用いる材料が開示されている。これらの技術によっても、透明性と力学物性とを両立することは困難であった。
【特許文献1】特開2003−201695号公報
【特許文献2】特開2005−60680号公報
【特許文献3】特許3718718号公報
【特許文献4】特開2004−331804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、光学的性能(特に透明性)と力学物性とを両立することが可能な再生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の材料および方法などによって上記課題が解決されることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0013】
(1) エポキシ樹脂と平均繊維径100〜2000ナノメートルの樹脂繊維とを含む、複合材料。
【0014】
(2) 前記エポキシ樹脂が、エポキシ化植物油脂である、上記項1に記載の複合材料。
【0015】
(3) 前記エポキシ樹脂が、エポキシ化大豆油である、上記項1に記載の複合材料。
【0016】
(4) 前記樹脂繊維が、電解紡糸不織布である、上記項1に記載の複合材料。
【0017】
(5) 前記樹脂繊維が、ポリ乳酸繊維、脂肪酸ポリエステル繊維、ゼラチン繊維またはアクリル繊維である、上記項1に記載の複合材料。
【0018】
(6) 前記樹脂繊維が、ポリ乳酸繊維である、請求項1に記載の複合材料。
【0019】
(7) 複合材料成形品の製造方法であって、
電界紡糸法によって、樹脂繊維の不織布を得る工程、
該不織布に、植物由来のエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させる工程、および
該植物由来のエポキシ樹脂を硬化させる工程
を含む、方法。
【0020】
(8) 上記項7に記載の複合材料成形品の製造方法であって、さらに、
含浸前の前記不織布を所望の形状に成形する工程、または、
前記含浸させた不織布を所望の形状に成形する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、透明性と力学物性とを両立することが可能な再生材料を用いた複合材料が提供される。より具体的には、本発明によれば、透明性を損なうことなく、硬度、強度、耐熱性および耐溶剤性などの性能が改良された材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
(エポキシ樹脂)
本願明細書において、エポキシ樹脂とは、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物をいう。本発明においては、好ましくは、植物由来のエポキシ樹脂を用いる。
【0024】
植物由来のエポキシ樹脂は、植物由来の原料をエポキシ化して得ることができる。
【0025】
植物由来の原料としては、例えば、従来から、バイオマスと呼ばれる材料が使用可能である。例えば、油脂が使用できる。
【0026】
油脂とは脂肪酸のカルボキシル基とグリセロールの3つのヒドロキシル基が結合したトリグリセリドである。天然の油脂においては同一の脂肪酸のみからなるトリグリセリドは少なく、複数種の脂肪酸から構成されているのが普通である。また、脂肪酸は不飽和基を有する不飽和脂肪酸と不飽和基を有さない飽和脂肪酸に分別され、植物油脂には不飽和脂肪酸が多く含まれている。
【0027】
植物由来の原料の具体例としては、植物油等が挙げられる。植物油の例としては、大豆油、亜麻仁油、魚油、ひまわり油、桐油、ヒマシ油、とうもろこし油、菜種油、ごま油、オリーブ油、パーム油、グレープシード油、米ヌカ油、綿実油、サフラワー油、などが挙げられる。
【0028】
植物由来のエポキシ樹脂として、具体的には、例えば、不飽和油脂の不飽和基をエポキシ化して得られる樹脂がある。すなわち、グリセリンの不飽和脂肪酸トリグリセリドの不飽和基をエポキシ化することにより、エポキシ樹脂が得られる。
【0029】
以下に、本発明に使用可能なエポキシ樹脂の1例の一般式を示す。
【0030】
【化1】


ここで、R〜Rは、それぞれ、独立して、飽和または不飽和の脂肪酸残基であって、その不飽和基の一部または全部がエポキシ化されており、R〜Rの合計として、1つ以上のエポキシ基を含む。エポキシ基の数は、R〜Rの合計として、1以上であり、好ましくは2以上である。R〜Rの合計として、3以上または4以上のエポキシ基が存在してもよい。エポキシ基の数に特に上限はないが、1つの実施態様では、R〜Rの合計として10以下であり、8以下であってもよく、6以下であってもよい。
【0031】
また、RとRは、同一であってもよく、異なってもよい。RとRは、同一であってもよく、異なってもよい。RとRは、同一であってもよく、異なってもよい。R〜Rのすべてが同一であってもよく、ひとつが異なって残りの2者が同一であってもよく、3者がそれぞれ異なってもよい。
【0032】
〜とRの炭素数は、それぞれ、独立して、好ましくは、3以上であり、より好ましくは、6以上であり、さらに好ましくは9以上であり、いっそう好ましくは12以上であり、特に好ましくは15以上である。また、好ましくは、32以下であり、より好ましくは、29以下であり、さらに好ましくは26以下であり、いっそう好ましくは23以下であり、特に好ましくは20以下である。
【0033】
〜Rに残存する不飽和基の数は、それぞれ、独立して、0であってもよく、1以上であっても良い。1つの実施態様では、すべての不飽和基がエポキシ化されていてもよい。
【0034】
〜Rは、また、それぞれ、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。
【0035】
エポキシ樹脂の分子量は、特に限定されない。ただし、物性などの点から、分子量300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましく、600以上であることがいっそう好ましく、700以上であることが特に好ましく、800以上であることが最も好ましいい。また、取り扱い易さなどから、分子量2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1300以下であることがさらに好ましい。く、1200以下であることがいっそう好ましく、1100以下であることが特に好ましく、1000以下であることが最も好ましい。
【0036】
具体的には、例えば、以下に、エポキシ化油脂の化学構造式の1つの例を示す。この様なエポキシ化油脂は本発明に好ましく利用できる。
【0037】
【化2】


上記の化学式においては油脂中にオレイン酸、リノール酸、リノレイン酸が含まれていた場合に、その不飽和結合がエポキシ化された構造が模式的に示されている。このように、油脂中に、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などの不飽和酸が含まれている場合に、その不飽和結合をエポキシ化することにより、本発明に好ましく使用可能なエポキシ化油脂が得られる。
【0038】
不飽和植物油をエポキシ化した油脂として、代表的には、エポキシ化大豆油(ESO)が挙げられる。ESOは、本発明に好ましく利用できる。
【0039】
また、エポキシ樹脂として、工業的に生産されるエポキシ樹脂も使用可能である。具体的には例えば、ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂や、水添ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂などの脂環式エポキシ樹脂などが使用可能である。
【0040】
(エポキシ樹脂の製造方法)
エポキシ樹脂としては、市販のものを用いることができる。また、エポキシ樹脂は、公知の方法により合成することもできる。
【0041】
(反応触媒)
エポキシ樹脂には、必要に応じて、反応触媒を添加することができる。
【0042】
反応触媒としては、従来からエポキシ樹脂に用いられる反応触媒が使用可能である。特に、エポキシ化油脂に使用されている反応触媒を好ましく用いることができる。
【0043】
好ましい反応触媒としては、例えば、カチオン熱性潜在性触媒、カチオン性光硬化触媒、アミン触媒、酸無水物触媒などが挙げられる。
【0044】
反応触媒の使用量は特に限定されないが、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上であることが好ましく、0.05重量部以上であることがより好ましく、0.1重量部以上であることがさらに好ましく、0.5重量部以上であることが特に好ましい。また、エポキシ樹脂100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましく、15重量部以下であることがより好ましく、12重量部以下であることがさらに好ましく、10重量部以下であることが特に好ましい。1つの実施態様では、7重量部以下または5重量部以下、あるいはさらに3重量部以下とすることもできる。
【0045】
(樹脂繊維)
本願明細書において、樹脂繊維とは、樹脂を用いて製造された繊維をいう。樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂であるが、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0046】
熱可塑性樹脂は、合成樹脂であってもよく、天然樹脂であってもよい。植物資源から得られる再生可能な樹脂が好ましい。
【0047】
樹脂繊維に用いられる樹脂の分子量は、繊維に加工し得る程度の範囲内であれば、特に限定されない。好ましくは、2000以上であり、より好ましくは1万以上である。また、重合の容易さの観点からは、好ましくは、300万以下であり、より好ましくは100万以下である。
【0048】
とうもろこしから得られるポリ乳酸も再生可能資源として有望なものである。ポリ乳酸から樹脂繊維を製造した場合、機械的強度が大きく、再生可能資源であり、繊維状にし易く、硬化前のエポキシ樹脂(例えば、ESO)に溶けにくいという利点を有する。
【0049】
以下に、ポリ−L−乳酸(PLLA)の構造式を示す。
【0050】
【化3】


ポリ乳酸はとうもろこしから得られるグリーンポリマーである。出発原料である乳酸は、とうもろこしから得られるでんぷんの発酵・酸調整・分離の三工程によって合成される。乳酸から環状二量体であるラクチドを合成し、それを開環重合させることによって熱可塑性樹脂であるポリ乳酸が得られる。
【0051】
また、樹脂繊維として、ゼラチン、脂肪族ポリエステル、アクリルポリマーなどからなる繊維も使用可能である。アクリルポリマーとしては、ポリメチルメタクリレートなどのホモポリマーの他、メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体などのコポリマーも使用可能である。
【0052】
樹脂繊維の太さは、平均繊維径として、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることがさらに好ましい。1つの実施態様では、300nm以上である。また、5000nm以下であることが好ましく、3000nm以下であることがより好ましく、2500nm以下であることがさらに好ましく、2000nm以下であることが特に好ましい。1つの実施態様では、1500nm以下である。100nm〜2000nmの範囲が、電界紡糸法を利用した製造が容易である点で好ましい。透明性の観点から、繊維径は細いほうが好ましい。また、細過ぎる場合には、製造方法および製造した後の取り扱いが難しくなり、例えば、樹脂原料が繊維に含浸しにくくなって複合化作業が困難になる傾向がある。
【0053】
樹脂繊維の長さは、特に限定されない。すなわち、製造される繊維をそのまま切断せずに用いてもよい。また、繊維を短く切断して用いてもよい。繊維の長さは、0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましく、10mm以上であることがいっそう好ましい。通常、繊維の長さに特に上限はないが、複雑な形状に成形する必要がある場合などには、繊維の長さが長すぎないことが望まれる場合がある。従って、繊維の長さは、10cm以下であることが好ましく、5cm以下であることがより好ましく、3cm以下であることがさらに好ましい。複雑な形状に成形する必要がない場合などには、より長い繊維(例えば、5cm以上、または10cm以上)を用いることが好ましい。
【0054】
樹脂繊維の使用量は、エポキシ樹脂が充分に含浸できる限り、特に限定されない。そのため、製品に要求される物性などに応じて適宜設計することができる。充分な力学的物性を改良するためには、エポキシ樹脂100重量部に対して樹脂繊維を1重量部以上用いることが好ましく、3重量部以上用いることがより好ましく、5重量部以上用いることがさらに好ましく、10重量部以上用いることがいっそう好ましく、20重量部以上用いることがひときわ好ましく、25重量部以上用いることが特に好ましい。1つの実施形態(例えば、強度が特に要求される場合など)においては、30重量部以上用いることもできる。
【0055】
また、含浸作業を容易にするという観点からは、エポキシ樹脂100重量部に対して樹脂繊維を200重量部以下用いることが好ましく、100重量部以下用いることがより好ましく、80重量部以下重量部以上用いることがさらに好ましく、70重量部以下用いることがいっそう好ましい。60重量部以下が特に好ましい。1つの実施態様(過大な強度が要求されない場合など)においては、50重量部以下または45重量部以下とすることもできる。
【0056】
従って、特に好ましい実施態様においては、エポキシ樹脂と樹脂繊維の混合重量比を60〜90:40〜10の割合とする。最も好ましい実施態様においては、エポキシ樹脂と樹脂繊維の混合重量比を70〜80:30〜20の割合とする。
【0057】
(樹脂繊維の製造方法)
樹脂繊維は、公知の方法によって製造することができる。具体的には、例えば、電界紡糸法を用いることにより、機械的強度に優れるポリ−L−乳酸(PLLA)ナノファイバーから成る不織布を作製することができる。
【0058】
樹脂繊維は、必要に応じて、エポキシ樹脂に含浸させる前に、所望の形態に加工してもよい。例えば、樹脂繊維を織物、不織布または編物などの形態にしてもよい。あるいは、プリフォームと呼ばれる、目的とする成形品の形状に近似した形態に加工してもよい。
【0059】
1つの好ましい実施態様において、電界紡糸装置(図1)を用いて電界紡糸を行うことができる。電界紡糸装置は、シリンジ、電源装置、コレクターから構成されている。電界紡糸法とは、シリンジ針−コレクター間に高電圧を印加することによって、シリンジ内に充填されたポリマー溶液を射出させ、コレクター上でファイバー状のポリマーを回収するという紡糸方法である。この方法によれば、容易に、所望の径の繊維からなる不織布を得ることができる。
【0060】
電解紡糸法において使用可能な樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、アクリル、ゼラチン、脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。なお、セルロースのように紡糸溶媒への溶解性の低い材料は、電解紡糸法に適さない。
【0061】
電界紡糸法において、得られる不織布のファイバーの直径に影響を与える因子としては、ポリマーの種類、溶媒の種類、ポリマー溶液の濃度、ポリマー溶液の量、ポリマー溶液の押し出し速度、シリンジ針の直径、シリンジ針−コレクター間の距離、印加電圧、ドラムの回転数がある。
【0062】
(電解紡糸不織布)
本願明細書においては、電解紡糸装置を用いて電解紡糸法により製造された不織布を、電解紡糸不織布という。
【0063】
(その他の成分)
本発明の材料には、エポキシ樹脂および樹脂繊維に加えて、必要に応じて、公知の添加剤等を適当量を配合してもよい。
【0064】
具体的には、たとえば、触媒、充填材、着色料(顔料または染料)、補強剤(例えば、繊維)、酸化防止剤、離型剤、溶媒、増粘剤などを用途に応じて添加することができる。
【0065】
触媒としては、エポキシ樹脂の種類に応じて、そのエポキシ樹脂の官能基の反応を触媒し得る任意のタイプの触媒を使用することが可能である。
【0066】
また本発明の材料には、必要に応じて、エポキシ樹脂以外の樹脂材料(熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂)をブレンドして用いてもよい。
【0067】
(含浸方法)
樹脂繊維は、公知の含浸方法により、エポキシ樹脂に含浸することができる。
【0068】
(成形方法および硬化反応)
本発明の材料は、各種の方法で成形して所望の形状とすることが可能である。有機材料の成形方法として公知の各種の方法が利用可能である。例えば、型へ材料を流し込んで硬化反応させた後に脱型する注型成形、塗工機などにより平面上に材料を所定の厚みに塗布するキャスティング成形などが使用可能である。具体的には、例えば、エポキシ樹脂および樹脂繊維の混合物を型に入れ、加熱して硬化させれば、その型の形状を有する硬化物を得ることができる。また例えば、エポキシ樹脂および樹脂繊維の混合物を平滑な平面上に塗布して所定の厚みのフィルム状として、その後加熱して硬化させれば、フィルム状の硬化物を得ることが可能である。
【0069】
本発明の材料は、フィルム状に成形することも可能である。このようなフィルムの厚みとしては、そのフィルムの用途などに応じて任意に設計できるが、一般的には、0.001mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.005mm以上であり、さらに好ましくは0.01mm以上であり、特に好ましくは0.02mm以上である。特に厚みに上限はないが、コストなどの観点から、厚み5mm以下であることが好ましく、より好ましくは3mm以下であり、さらに好ましくは1mm以下であり、特に好ましくは0.5mm以下である。
【0070】
(硬化反応条件)
硬化反応の条件は、エポキシ樹脂の硬化反応について公知の条件が使用される。ただし、温度が低すぎる場合には、硬化反応に極めて長時間を有するので、加熱を行うことが好ましい。硬化反応の際の温度は、好ましくは、30℃以上であり、より好ましくは、50℃以上であり、さらに好ましくは、70℃以上であり、いっそう好ましくは、80℃以上であり、特に好ましくは、90℃以上である。また、好ましくは、200℃以下であり、より好ましくは、150℃以下であり、さらに好ましくは、120℃以下である。
【0071】
硬化反応の際の加熱時間は、硬化を十分に行うためには、好ましくは、30分以上であり、より好ましくは、1時間以上であり、さらに好ましくは、2時間以上であり、いっそう好ましくは、5時間以上であり、特に好ましくは、10時間以上である。ただし、プロセス全体の長さを短縮するためには、好ましくは、3日以下であり、より好ましくは、2日以下であり、さらに好ましくは、1日以下である。
【0072】
加熱は、多段階の加熱工程による加熱であってもよい。例えば、比較的低温での第1段の加熱工程を行い、その後比較的高温で第2段の加熱工程を行うことが可能である。急激に加熱を行うと、製品が変形する場合があるが、このように、前半の加熱工程を比較的低温で行えば、加熱時の変形を防げるという利点がある。この場合、第1段の加熱工程の温度は、好ましくは、30℃以上であり、より好ましくは、40℃以上であり、さらに好ましくは、50℃以上である。また、好ましくは、90℃以下であり、より好ましくは、70℃以下であり、さらに好ましくは、60℃以下である。第1段の加熱時間は、好ましくは、1時間以上であり、より好ましくは、2時間以上であり、さらに好ましくは、3時間以上であり、いっそう好ましくは、5時間以上であり、特に好ましくは、7時間以上である。また、好ましくは、3日以下であり、より好ましくは、2日以下であり、さらに好ましくは、1日以下である。第2段の加熱温度は、好ましくは、60℃以上であり、より好ましくは、70℃以上であり、さらに好ましくは、80℃以上であり、いっそう好ましくは、90℃以上である。また、好ましくは、200℃以下であり、より好ましくは、170℃以下であり、さらに好ましくは、150℃以下である。第2段の加熱時間は、好ましくは、1分間以上であり、より好ましくは、5分間以上であり、さらに好ましくは、10分間以上であり、いっそう好ましくは、15分間以上であり、特に好ましくは、20分間以上である。また、好ましくは、1日以下であり、より好ましくは、12時間以下であり、さらに好ましくは、6時間以下であり、いっそう好ましくは、2時間以下であり、特に好ましくは、1時間以下である。
【0073】
(性能)
本発明の材料は、硬化させた後に、優れた透明性、硬度、耐熱性、耐溶剤性を示す。特に、エポキシ樹脂として植物由来のエポキシ化油脂を用いた場合には、ひときわ優れた力学的物性を有する透明な硬化物が得られる。
【0074】
(用途)
本発明の繊維複合材料は環境調和型の新規高分子材料として幅広い分野における応用が期待される。従来から繊維複合材料が用いられていた成形品などにおいて本発明の材料は使用可能である。特に優れた透明性および強度を有することから、複合樹脂材料が用いられていた用途において有用である。例えば、コンピューター関連などの電気・電子機械の部品、建材、家庭用品など各種製品を構成する材料として有用である。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
(材料の調製)
エポキシ樹脂として、花王株式会社から提供されたESO(商品名:カポックスS−6、分子量:約940、脂肪酸鎖長:平均炭素数18、エポキシ基の数:1分子あたり約4)をそのまま使用した。
【0076】
PLLAは株式会社島津製作所より提供されたものをそのまま使用した。
【0077】
カチオン熱性潜在性触媒は三新化学工業株式会社から提供されたもの(商品名:サンエイドSI−60L)をそのまま使用した。
【0078】
上記以外の試薬は高純度の市販品をそのまま使用した。
【0079】
(電界紡糸PLLA不織布の作製)
電界紡糸装置を用いて、電界紡糸を行った。本実験ではコレクターに回転式のドラムを使用し、ファイバーを巻き取ることによって不織布の作製を行った。本実験で用いた電界紡糸条件を以下に示す。作製した電界紡糸PLLA不織布のSEM画像を図2に示す。得られた不織布が直径0.5〜1μmのファイバーで構成されている事がわかった。
【0080】
(電界紡糸条件)
溶媒:1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール
ポリマー溶液の濃度 :9 %
ポリマー溶液の量:0.5 mL
ポリマー溶液の押し出し速度:3 mL/h
シリンジ針の直径:25 G
シリンジ針−コレクター間の距離:20 cm
印加電圧:17 kV
ドラムの回転数:100 rpm 。
【0081】
(ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットの合成)
質量比で1%のカチオン熱潜在性触媒(SI−60L)を含む硬化前のESOを電界紡糸PLLA不織布に含浸させ、加熱処理(55℃、10h後、100℃、30min)を行ったところ、ESOの架橋反応が進行し、ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットが得られた(スキーム2−2)。なお、PLLAの導入率は、得られたESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットとESO含浸前の電界紡糸PLLA不織布の重量差から算出した。
(スキーム2−2:ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジット)
【0082】
【化4】


なお、上記スキームにおいて示されているエポキシ化大豆油(ESO)の化学構造式は、原料油脂中にオレイン酸、リノール酸、リノレイン酸が含まれていた場合の構造を例示的に示すものであり、エポキシ化大豆油(ESO)の厳密な化学構造式を示しているものではない。
【0083】
(測定方法)
以下の分析機器を用いて測定を行った。
【0084】
(1)動的粘弾性測定装置
ESO/フェノール系樹脂コンポジットは20mm×10mm×1mmを、ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットは10mm×10mm×0.1mmを測定部位として、周波数1 Hz、昇温速度3.0℃ min−1で測定を行った。
【0085】
測定装置:EXSTAR6000(Seiko Instruments 社製)
(2)引っ張り試験測定装置
10mm×5mm×1mmを測定部位とし、5.0mm min−1で伸長を行った。
【0086】
測定装置:EZ Graph(SMIMADZE 社製)
(3)熱重量分析装置(TG/DTA)
5−10mgのサンプルを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度5.0℃ min−1で測定を行った。
【0087】
測定装置:SSC/5200(Seiko Instruments 社製)
(4)走査型電子顕微鏡
5mm×5mmのサンプルを用いて測定を行った。
【0088】
測定装置:S−3000N(HITACHI 社製)
(SEM観察)
得られたESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットの断面のSEM観察を行った。断面のSEM像から、PLLAがファイバーの状態を維持しており、ESO硬化物中で凝集を起こしていない事がわかった(図3)。
【0089】
(動的粘弾性測定)
得られたESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジット(ESO/PLLA:70/30)の動的粘弾性測定を行った。ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットの貯蔵弾性率(E’)は−30℃、60℃、170℃付近で大きく減少した。これは、順に、ESO樹脂硬化物のガラス転移現象、PLLAのガラス転移現象、PLLAファイバーの融解が原因であると考えられる(図4)。
【0090】
ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットは、室温(25度)付近でESO単独硬化物に比べて高い貯蔵弾性率を有しており、PLLAファイバーがESO樹脂硬化物を補強していることがわかる。貯蔵弾性率と損失弾性率の比で表されるtanδのカーブは単分散ではなく、PLLAファイバーがESOに溶解せずに分散している事を示唆している(図5)。
【0091】
(一軸伸張試験)
ESO単独硬化物、電界紡糸PLLA不織布、ならびにESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジット(ESO/PLLA:70/30)の一軸伸張試験結果を図6に示す。ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットはESO単独硬化物や電界紡糸PLLA不織布に比べて高い破断応力を有することがわかった。
【0092】
電界紡糸PLLA不織布をフィラーとしてESO樹脂硬化物の機械的強度の向上を試みた。
【0093】
ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットのSEM観察と動的粘弾性測定から、PLLAが、ファイバーの状態を維持しており、ESO樹脂硬化物中で凝集していないことを明らかとした。一軸伸張試験によって、得られたコンポジットはESO単独硬化物や電界紡糸PLLA不織布に比べて高い破断応力を有することを明らかとした。
【0094】
ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットは主要成分を植物のみから得られる新規グリーンポリマーとして、幅広い分野への応用が期待される。
【0095】
(透明度の評価)
得られた硬化物について、以下のとおり透明度を評価した。
【0096】
白い紙に、8ポイント(8pt)から12ポイント(12pt)までの活字を用いて「OSAKA UNIVERSITY」との文字を印字し、その中央部分に縦×横=30mm×30mm、厚み約0.09mmの硬化物を乗せた。この印刷紙の上に硬化物を乗せた状態を写真に撮影し、白黒に変換したものを図7に示す。後述する比較例2の図8における不織布の位置と同様の位置に硬化物が乗せられているが、硬化物の透明度が高く、印刷紙の文字がはっきりと読み取れた。
【0097】
(比較例1)
樹脂繊維を用いなかった以外は実施例1と同様に硬化物を作成した。すなわち樹脂繊維を含まないESO樹脂を硬化させた。得られた硬化物は実施例1で得られた硬化物に比べて、著しく強度が低かった。
【0098】
(比較例2)
比較として、樹脂を含浸していない電界紡糸PLLA不織布(縦×横=30mm×30mm、厚み約0.08mm)を印刷紙の上に乗せて写真撮影した。実施例1と同様に白黒に変換した結果を図8に示す。
【0099】
図8の写真から理解されるように、電界紡糸PLLA不織布は不透明であり、図7に示すとおり、樹脂を含浸することによって透明になることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
再生可能資源の有効利用は社会的に重要なテーマであり、その中でも植物由来の樹脂は天然に極めて豊富にあることから、植物由来の樹脂の利用は極めて有利である。
【0101】
この複合材料は環境調和型の新規高分子材料として幅広い分野における応用が期待される。
【0102】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】電界紡糸装置を示す。
【図2】PLLA不織布のSEM像を示す。
【図3】ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットの断面のSEM像を示す。
【図4】(A)ESO単独硬化物と(B)ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジット(ESO/PLLA:70/30)の貯蔵弾性率を示す。
【図5】(A)ESO単独硬化物と(B)ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジット(ESO/PLLA:70/30)の損失正接を示す。
【図6】(A)ESO単独硬化物(B)PLLA不織布(C)ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジット(ESO/PLLA:70/30)の一軸伸張試験の結果を示す。
【図7】ESO/電界紡糸PLLA不織布コンポジットの透明度の試験の写真を示す。
【図8】電界紡糸PLLA不織布の透明度の試験の写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と平均繊維径100〜2000ナノメートルの樹脂繊維とを含む、複合材料。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が、エポキシ化植物油脂である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が、エポキシ化大豆油である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記樹脂繊維が、電解紡糸不織布である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記樹脂繊維が、ポリ乳酸繊維、脂肪酸ポリエステル繊維、ゼラチン繊維またはアクリル繊維である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記樹脂繊維が、ポリ乳酸繊維である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
複合材料成形品の製造方法であって、
電界紡糸法によって、樹脂繊維の不織布を得る工程、
該不織布に、植物由来のエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させる工程、および
該植物由来のエポキシ樹脂を硬化させる工程
を含む、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の複合材料成形品の製造方法であって、さらに、
含浸前の前記不織布を所望の形状に成形する工程、または、
前記含浸させた不織布を所望の形状に成形する工程
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−302718(P2007−302718A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129706(P2006−129706)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】