説明

繊維材料又は皮革材料のペーパー捺染法

【課題】風合、繊細性、堅牢性、発色性等に優れた卓越した捺染性能を示すとともに、公知方法の問題点を解決し、加工の再現性と品質の向上を図ることができる、エコロジカルかつエコノミカルな捺染法により捺染された繊維材料又は皮革材料を提供する。
【解決手段】水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られる捺染用紙上に、染料インクをプリントして捺染紙を得る工程、前記捺染紙を繊維材料又は皮革材料に密着して、加圧・加熱して貼り付ける工程、及び、前記捺染紙を前記繊維材料又は皮革材料に貼り付けた状態で、染料の固着処理を行い、捺染紙を除去する工程を有する事を特徴とする繊維材料又は皮革材料のペーパー捺染法により捺染されたことを特徴とする繊維材料又は皮革材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染紙を用いた繊維材料又は皮革材料の捺染法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤からなる混合糊を原紙に付与してなる捺染用紙を用い、該捺染用紙に染料インクをプリントして得た捺染紙を、繊維材料又は皮革材料に貼付けた状態で、染料の固着処理(スチーミング等)を行うことを特徴とする繊維材料又は皮革材料の捺染法に関するものである。
【0002】
なお、この捺染法は、捺染紙を繊維材料又は皮革材料に貼付けた状態でスチーミング処理等を行うことを特徴とする新規な加工法であり、「ペーパー捺染法」と名付ける。又、本明細書及び請求の範囲で用いられている「捺染用原紙」とは捺染用紙の製造に用いられる原紙を、「捺染用紙」とは混合糊が付与された捺染用原紙を、「捺染紙」とは染料インクが付与された捺染用紙を意味する。
【背景技術】
【0003】
布帛に染料で図柄を堅牢・精細に描く方法として、スクリーン捺染、ローラー捺染、ロータリースクリーン捺染、グラビア印刷又はこれらのプリント技法を用いた方法等の製版プリント方式による転写捺染法等が知られており、工業的に実施されている。しかし、これらの製版プリント方式では色数に制約がある。3原色色分解型枠によるプリントでは多色感を表現できるものの、3原色組成の色相・濃度を整える事が困難、多重層を形成する為プリント加工の再現性を欠きやすい、等の問題がある。加えて、小ロット生産では彫刻作製(製版)費用が高価となり、更にプリント加工時、色糊を加工に必要な量より余剰に調製する必要がある等、資材面での無駄や損失が大きいとの問題点が指摘されている。
【0004】
これらの問題点を解決する新たな捺染法として、コンピュータで画像処理を行い、水性の染料インクを用いてインクジェットでプリント(インクジェットプリント方式)する無製版プリントが脚光を浴びている。この無製版プリントは、前処理した布帛への直接プリントに適用されている他、転写プリント分野へも適用されており、その進展も著しい。しかしながら、インクジェットプリンターによって生地や転写用紙に水性染料インクを小ドットプリントした場合、ドット斑による均捺性を欠くとか、染料インクが滲み出し精細性を失う等の問題点が指摘されている。
【0005】
これらの問題点を解決する方法として、水溶性ワニス又は溶剤型ワニスを用いた離型剤層を有する用紙(離型紙)を用い、該離型剤層上に、水溶性糊料を塗布、乾燥して糊層を形成し、該糊層に染料インクをインクジェットプリントする事によって染料を糊層中に均一化保持させて転写紙を作製し、該転写紙を用いて転写捺染をする方法が提案されている。又、転写紙として特殊な多層構造の紙を使う方法も知られている。
【0006】
これらの方法は、熱で昇華する分散染料を用いたポリエステル繊維の昇華転写法(乾式転写捺染法)や、セルロース系繊維又は蛋白質系繊維からなる布帛を水で湿らせ、転写紙と合わせ強く圧着して染料を転写捺染する湿式転写法(特許第2925562号公報、特開06−287870号公報等で開示されている。)には有効である。しかし、昇華転写法の適用はポリエステル繊維に限定される上に堅牢度も低い。又、湿式転写法は図柄の繊細性と再現性に欠けると言う問題が生じやすい。
【0007】
特許第4058470号公報又は特開平06−270596号公報には、離型紙の離型剤層上に、糊及び樹脂等からなる混合糊液を塗布、乾燥してインク受容層を形成し、該インク受容層に染料インクをプリントした後布帛へ乾式転写し、離型紙を剥離した後、布帛上へ乾式転写された染料をスチーミング等で固着処理する方法が開示されている。
【0008】
しかし、この方法で用いられる離型紙は、その製造においてコストが高い離型剤塗布工程を要するので、一般的な原紙の数倍(5〜10倍)の製造原価になる。
【0009】
又、転写工場の湿度や、転写紙の保管条件又は乾式転写条件が不適切であると、インク受容層を100%転写して離型紙のみを綺麗に剥離出来ない場合がある。その様な場合は不良品の発生をもたらし、紙のリサイクル使用も困難となる。又、少量多品種生産に対応するためには、転写紙が細切れ状態になるため、紙を貼り合せてリサイクル使用することは事実上困難である。
【0010】
更に、離型剤の融点は一般的に低いので、混合糊液を塗工した後の乾燥温度を上げる事が出来ない。そのため乾燥時間が長くなり生産効率が非常に悪くなる。例えば、ポリエチレンラミネート離型剤の融点は約110℃である為、乾燥温度を110℃以上に上げる事はできず、生産能力(速度)を上げることは困難であった。
【0011】
即ち、この方法には、次に示すような問題点がある。
(A)高価な離型紙が必要である。従って、コストアップとなる。
(B)インク受容層を布帛に転写する工程での剥離性(紙の剥離の再現性)に難しさがあり、インク受容層を100%布帛へ転写出来ない場合がある(剥離不安定性)。部分的にインク受容層が転写紙に残ると、その部分が斑染めになり不良品が発生する。
(C)インク受容層は布帛へ(望ましくは100%)移されるので、染料固着処理後の布帛の洗浄工程で、使用済の糊と樹脂は全量排水へ流れ出し、余剰染料インクも排水に流れ出すので、排水を汚染する。
(D)汎用の離型剤は融点が低いものが多く、転写性を向上する為に高温例えば150℃以上で転写すると、離型剤を構成する樹脂がメルトして布帛へ付着し、洗浄工程では付着した樹脂の除去ができない為、布帛の風合いが硬くなる。又はメルトした樹脂がインク受容層の一部を紙に接着・残留させ、不良品を発生させる。
(E)生産効率上の問題もある。例えば、離型剤の低い融点により、混合糊液塗工後の乾燥温度が制約され、生産スピードを上げる事が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2925562号公報
【特許文献2】特開06−287870号公報
【特許文献3】特許第4058470号公報
【特許文献4】特開平06−270596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、繊維材料又は皮革材料の捺染法であって、風合、繊細性、堅牢性、発色性等に優れた卓越した捺染性能を示すとともに、前記した公知方法の問題点(A)〜(E)等を解決し、資材コストの削減、加工の再現性と品質の向上、排水負荷の更なる削減、生産効率の向上を図ることができる、エコロジカルかつエコノミカルな捺染法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、インクジェットプリント方式での布帛や皮革への捺染方法について鋭意研究を重ねた結果、
被膜形成性を有し、加熱・加圧により強力な接着力を生じる一方、スチーミング等による染料の固着処理を施すと接着力が容易に低下する水溶性合成系バインダー、この水溶性合成系バインダーとの相容性が良くかつ染料インクを均一に吸収保持する性質の優れる天然系糊剤、及び助剤からなる混合糊を、市販の一般的な紙(原紙)に付与し、乾燥して捺染用紙を得て、
この捺染用紙に染料インクをプリントした捺染紙を、布帛等に貼付けて、スチーミング等の染料固着処理を施すことにより、染料を固着・発色させるとともに、捺染紙と布帛等の間の接着力を低減させて捺染紙を剥離する方法によって、均染性、精細性及び発色性が良好で、且つ経済性とエコロジー性の優れた捺染法が構築できる事を見出し、実用化の目途を得て本発明を完成させた。即ち、前記の本発明の課題は、以下に示す構成からなるペーパー捺染法により解決される。
【0015】
即ち、本発明は、
水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られる捺染用紙上に、染料インクをプリントして捺染紙を得る工程、
前記捺染紙を繊維材料又は皮革材料に密着し、加圧・加熱して貼り付けする工程、及び
前記捺染紙を前記繊維材料又は皮革材料に貼り付けた状態で染料の固着処理を行い、その後捺染紙を除去する工程、
を有する事を特徴とする繊維材料又は皮革材料のペーパー捺染法である(請求項1)。
【0016】
上記構成からなる本発明のペーパー捺染法は、公知方法の問題点、例えば前記した問題点(A)〜(E)を解決する新規な捺染法である。即ち、高価な離型紙ではなく一般的に市販されている安価な紙を使用できる事、公知の転写捺染法における剥離不安定性が原因で発生する不良品の問題を解決出来る事、排水負荷を一層軽減できる事、風合いを維持しながら高温での貼り付けと高濃度染着を可能とする事、(融点の低い)離型剤を使用しないので、混合糊液の乾燥温度を上げて塗工効率を向上できる事(例えば、塗布後の乾燥温度を150〜180℃まで上げて、塗布スピードを3倍以上にスピードアップできる)、等を特徴とする。さらに、本発明によれば、現在染色業界で多用されているローラ型或いは平板型の加圧・加熱設備を活用して、セルロース系繊維、蛋白質系繊維、皮革又は合成繊維の捺染を行う事ができる。
【0017】
前記混合糊を構成する水溶性合成系バインダーとは、水溶性であり、加熱によりポリマー化が進み高分子量となり、被膜形成性を有するものである。又、原紙上又は原紙内に形成されたその被膜を加熱・加圧する事により、繊維や皮革と原紙間を接着させる接着力を生じるものであり、一方、染料の固着処理(スチーミング、加湿、又は高温での乾熱処理)により接着力が低下する性質を有するものである。要は加熱・加圧した後の乾燥状態で接着力が強い被膜を形成でき、湿状態(場合により高温での乾熱処理後の状態)で接着力が弱くなるバインダーが使用できる。
【0018】
この水溶性合成系バインダーとしては、主として石油化学で合成されたものを挙げることができる。又、染着阻害のないバインダーが望まれる。具体的には、水溶性ポリビニルアルコール系バインダー、水溶性アクリル系バインダー、水溶性ウレタン系バインダー、水溶性ウレタン変性エーテル系バインダー、水溶性ポリエチレンオキサイド系バインダー、水溶性ポリアミド系バインダー、水溶性フェノール系バインダー、水溶性酢酸ビニル系バインダー、水溶性スチレンアクリル酸系バインダー、水溶性スチレンマレイン酸系バインダー、水溶性スチレンアクリルマレイン酸系バインダー、水溶性ポリエステル系バインダー、水溶性ポリビニルアセタール系バインダー、水溶性ポリエステル・ウレタン系バインダー、水溶性ポリエーテル・ウレタン系バインダー、水溶性ホットメルト接着剤等を挙げることができ、これらから選ばれた1種又は2種以上の混合物が好ましく使用できる。
【0019】
中でも、水溶性ポリビニルアルコール系バインダー、水溶性アクリル系バインダー、水溶性ポリエステル系バインダー、水溶性ポリエーテル・ウレタン系バインダー、水溶性ホットメルト接着剤が、水溶性、一時的接着性(加熱により接着するが、湿状態で接着力が低下する性質)に優れ、染着の阻害が小さいので好ましい。本発明は、請求項2として、水溶性合成系バインダーが、水溶性ポリビニルアルコール系バインダー、水溶性アクリル系バインダー、水溶性ポリエステル系バインダー、水溶性ポリエーテル・ウレタン系バインダー及び水溶性ホットメルト接着剤からなる群より選択された1種又は2種以上の混合物である事を特徴とする請求項1に記載のペーパー捺染法を提供する。
【0020】
前記混合糊を構成する天然系糊剤とは、天然に産出する糊剤の原料をそのまま又は物理的又は化学的に加工して得られるものである。天然系糊剤は、接着力を示すが、加熱しても、水溶性合成系バインダーのようにポリマー化が進み接着力が上昇することはない。一方、スチーミングや乾燥加熱処理により除去できるものであり、従って、親水性である事が好ましい。又、染料インクとの相溶性が高く、染料インクを均一に吸収保持する性質が求められる。
【0021】
この天然系糊剤は、動物系糊料、植物系糊料、及び鉱物系糊料に分類される。動物系糊料としては、動物の皮膚や骨に含まれるコラーゲンから抽出されるゼラチン等が挙げられる。植物系糊料としては、澱粉やセルロースを出発原料として加工するカルボキシメチルセルロース等が挙げられる。鉱物系糊料としては、粘土鉱物から採取されるクレイ等が挙げられる。より具体的には、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビア系ガム等)、繊維素誘導糊(カルボキシメチルセルロース、エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、多糖類(澱粉、グリコーゲン、デキストリン、アミロース、ヒアルロン酸、葛、こんにゃく、片栗粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等)、海藻類(アルギン酸ソーダ、寒天等)、鉱物性糊料(ベントナイト、陶土、珪酸アルミニウム及びその誘導体、シリカ、珪藻土、クレイ、カオリン、酸性白土等)、動物性糊料(カゼイン、ゼラチン、卵蛋白等)を挙げることができ、これらから選ばれた1種又は2種以上の混合物が好ましく使用できる。
【0022】
中でも、天然ガム糊、カルボキシメチルセルロース等の、セルロース誘導体、エーテル化澱粉等の澱粉誘導体、アルギン酸ソーダ等の海藻類、酸化珪素、珪酸アルミニウム、クレー等の鉱物性糊料、動物性糊料等が好ましい天然系糊剤である。本発明は、請求項3として、天然系糊剤が、天然ガム糊、セルロース誘導体、澱粉誘導体、海藻類、鉱物性糊料、動物性糊料からなる群より選択された1種又は2種以上の混合物である事を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のペーパー捺染法を提供する。
【0023】
本発明は、請求項4として、水溶性合成系バインダーと天然系糊剤との配合割合が、固形分換算で、水溶性合成系バインダー:天然系糊剤=95:5〜20:80(重量比)の範囲である事を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のペーパー捺染法を提供する。
【0024】
水溶性合成系バインダーと天然系糊剤との配合割合は、固形分換算で、水溶性合成系バインダー:天然系糊剤=95:5〜20:80(重量比)の範囲が好ましい。水溶性合成系バインダーの配合割合が、水溶性合成系バインダーと天然系糊剤の合計重量の20重量%未満の場合は、又は、水溶性合成系バインダーの配合割合が95重量%を超える場合、即ち、天然系糊剤が5重量%未満の場合は、染料固着後の紙はがれ性(捺染紙の剥離の容易さ)や染着性・均染性が悪くなる、紙−布間の接着力が低下する、精細性が低下する等の問題が生じる傾向がある。
【0025】
前記混合糊を構成する助剤は、混合糊液の各種物性を向上する、染料の染着性を促進する等の為に加えられるものである。助剤としては、界面活性剤、増粘剤、保湿剤、PH調整剤、アルカリ剤、濃染化剤、防腐剤、防黴剤、脱気剤、消泡剤及び還元防止剤等を挙げることができる。本発明は、請求項5として、前記助剤が、ここで例示された助剤から選択された1種又は2種以上である事を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のペーパー捺染法を提供する。
【0026】
本発明のペーパー捺染法で使用される前記混合糊は、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤が配合された親水性混合物である。この混合糊(親水性混合物)又はその溶液(混合糊液)を原紙に付与して乾燥することにより、本発明で使用する捺染用紙が得られる。
【0027】
原紙への混合糊液を付与した後、乾燥する事によって、原紙上(付与が塗布によりされた場合等。ただし、塗布された場合でも一部は紙内に吸収される。)や原紙内(付与が吸収によりされた場合等)に、混合糊からなる層が形成される。この層は、水溶性合成系バインダーと天然系糊剤の混合物を含み、更に各種助剤が配合された多成分系糊層である。そして、この層は、捺染用紙上にプリントされる染料インクを保持するインク受容層としての機能を有するとともに、捺染紙が布帛等に密着され加熱・加圧されたときには、一時的に、(捺染用紙と多成分系糊層からなる)捺染紙を布帛等の繊維に強く接着する接着剤層でもある。
【0028】
前記のようにして製造された捺染用紙上には、染料インクが、捺染の図柄に基づいてプリントされ、その後乾燥することにより捺染紙が作製される。捺染用紙の一方の表面側に前記混合糊が付与されている場合は、該表面側に染料インクがプリントされる。
【0029】
ここで用いられる染料インクとしては、具体的には、反応染料、酸性染料、金属錯塩型染料、直接染料、分散染料、カチオン染料等を染料として用いるインクを挙げることができる。染料インクとは、これらの染料を水等の染料溶解剤に溶解又は分散してなるものである。
【0030】
本発明は、請求項6として、前記染料インクが含む染料が、反応染料、酸性染料、金属錯塩型染料、直接染料、分散染料及びカチオン染料よりなる群から選択された1種又は2種以上である事を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のペーパー捺染法を提供する。
【0031】
染料インクを転写用紙上にプリントする方法としては、水性染料インクを用い、インクジェットプリントする方法が好ましく挙げることができる。水性染料インクとは、水又は水に溶解する溶剤を主成分として染料を溶解又は分散したインクである。本発明は、請求項7として、前記染料インクが水性染料インクであり、前記プリントがインクジェットプリントにより行われる事を特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のペーパー捺染法を提供する。
【0032】
前記のようにして作製された転写紙は、繊維材料や皮革材料に密着されて、加熱・加圧されるとともに、密着された状態で染料の固着処理が行われる。加熱・加圧の条件は、通常の転写捺染の場合と同様な条件を適用することができるが、圧力をやや高めに設定すると好ましい。この、加熱・加圧により、転写紙と繊維材料や皮革材料間が接着される。
【0033】
染料の固着処理としては、反応染料等を用いる捺染で通常行われているスチームによる加熱の他、加湿や水分の付与等を行った状態で加熱する方法等も挙げることができる。又、ポリエステル繊維や合成繊維の捺染の場合は、乾燥加熱する方法も採用できる。このスチームによる加熱や、加湿や水分の付与等を行った状態での加熱により、転写紙の剥離が可能になる。ポリエステル繊維や合成繊維の捺染の場合は、乾燥加熱する方法により転写紙の剥離が可能となる場合もあるが、乾燥加熱(固着)後、水分を付与すると、より容易に剥離することができる。
【0034】
染料の固着処理は、加熱・加圧がされた後行ってもよいし、前記の加熱・加圧と同時に行ってもよい。加熱・加圧及び染料の固着処理により、捺染用紙上にプリントされた染料インク中の染料の大部分が繊維材料や皮革材料に吸収、染着される。又、染料の固着処理により、繊維材料や皮革材料に染着された染料の固着が行われるとともに、捺染紙と繊維材料や皮革材料間の接着力が低下する。
【0035】
前記のように原紙上又は原紙中に形成された混合糊の層は、前記の加熱・加圧により接着層としての機能を示すものであるが、一方、布帛等から転写紙の剥離が容易に行えるようにするため、スチーミング等による染料の固着処理工程により、その接着力が低下するものである。即ち、混合糊の層は、スチーミング等による染料の固着処理工程、又は捺染紙を剥離する工程で湿気が付与される事により、容易に接着力が低下する性質を有することが望まれる。
【0036】
スチーミング等による処理工程により、繊維材料や皮革材料への染料の固着及び発色が行われ、かつ転写紙が剥離された後は、通常、水洗、ソーピング等の洗浄工程が行われる。混合糊は、この洗浄工程で容易に洗浄され除去できる性質を有することが好ましい。
【0037】
このように混合糊は、インク受容層としての機能、一時的接着剤層としての機能、及びスチーミング等による染料の固着処理工程の最終段階で接着力が低下し、かつ容易に除去される性質が求められる。具体的には、次の条件が満たされる事が求められる。
1.染料インクとの相溶性が良好で、且つ繊維上での染料の染着を妨害しない。即ち、染料染着後の濃度・色相の優れた再現性を与える混合糊である。
2.加熱・加圧処理によって繊維(繊維材料、皮革材料)−紙間を一時的に強く接着出来る。即ち、加圧して熱を加えた後の乾燥状態では繊維−紙間を一時的に(固着処理工程の最終段階まで)強く接着する接着力を有する。
3.インク吸収性が良く、見掛け上のインク乾燥性が良好で、色柄の精細性にも優れている。即ち、インク受容力が大きい。
4.スチーミング等による染料の固着処理工程により容易に接着力が低下する性質を有する。即ち、水分又は湿気が付与されると容易に接着力を失い、転写紙を布帛や皮革から容易に剥離させることが出来る混合糊である。
5.染料固着後の水洗、ソーピング等において発色材料から除去できる。即ち、加熱後も水溶性の大きい混合糊である。
これらの条件が満たされる水溶性合成系バインダーと天然系糊剤との混合糊であれば、本発明の目的を達成できる。
【0038】
本発明は、前記のペーパー捺染法に加えて、この方法に用いられる捺染用紙及び捺染紙を提供する。即ち、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載されたペーパー捺染法に用いられる捺染用紙であって、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られることを特徴とする捺染用紙(請求項8)、及び
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載されたペーパー捺染法に用いられる捺染紙であって、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られる捺染用紙上に、染料インクをプリントし、乾燥して得られることを特徴とする捺染紙である(請求項9)。
【0039】
本発明は、更に、前記のペーパー捺染法より捺染されたことを特徴とする繊維材料又は皮革材料を提供する。即ち、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載されたペーパー捺染法により捺染されたことを特徴とする繊維材料又は皮革材料である(請求項10)。
【0040】
以上述べたように、本発明のペーパー捺染法の特徴は、染着阻害のない水溶性合成系バインダーと天然系糊剤の多成分混合系に、更に各種助剤が配合された混合糊により構成され、スチーミング等による染料の固着処理(湿気の付与、場合により加熱)により接着力が低下するインク受容層兼接着剤層を有する捺染用紙を用いる点にある。そしてこの捺染用紙に染料をプリントして捺染紙を作製し、その捺染紙を布帛や皮革に貼付けた状態で、スチーミング等による染料の固着処理をし、捺染紙を剥離する事を特徴とする全く新規な捺染法である。これらの特徴により品質の優れた捺染製品を得る事ができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明のペーパー捺染法によれば、
高価な離型紙ではなく一般的に市販されている安価な紙を使用できる、
公知の転写捺染法における剥離不安定性が原因で発生する不良品の問題を解決出来る、
排水負荷を一層軽減できる、
風合いを維持しながら高温での貼り付けと高濃度染着が可能になる、
離型剤を使用しないので、混合糊液の乾燥温度を上げて塗工効率を向上できる
等の優れた効果が得られる。その結果、精細な捺染図柄の表現を優れた経済性とエコロジー性の元に再現性良く提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
本発明のペーパー捺染法で使用される原紙としては、前記混合糊を付与することができ、かつ捺染紙とて使用できる強度や柔軟性等を有する紙であれば特に限定されない。従って、一般的に使用されている紙、市販の通常の紙をそのまま原紙として使用することができるので、安価である。コート紙等の加工紙でも良いが、離型層を有する高価な離型紙を用いる必要はない。従って、製造コストを大きく低減することができる。
【0044】
例えば、一般的に使用されている安価な紙で、好ましくは坪量が10g〜100g/m、より好ましくは20〜80g/mの、クラフトパルプ又はグラインドパルプ等のパルプや、リサイクル紙を原料として抄紙されたパルプ紙、再生紙等が用いられる。作業性から厚さは0.01〜0.5mm程度の紙が好ましい。具体例を挙げると、日本製紙社製の純白、晒し又は未晒しクラフト紙、上質紙、日本大昭和板紙社製の銘柄で銀竹、銀嶺、白銀等、大昭和製紙社製の片艶クラフト紙、グラシン紙、晒しクラフト紙、未晒しクラフト紙、三島製紙社製の各種コート紙などを挙げる事が出来るが、これらはほんの一例に過ぎない。
【0045】
この原紙に付与される混合糊を構成する水溶性合成系バインダーとしては、前記例示されたもの(請求項2で列挙されたもの)が好ましく使用できるが、この内、水溶性ホットメルト接着剤としては、マレイン酸交互共重合体のアルカリ水可溶型ホットメルト接着剤、感水性ホットメルト接着剤、ポリビニルアルコール系ホットメルト接着剤等を挙げることができる。
【0046】
混合糊を構成する助剤については、混合糊液中の含有量として、表面張力低下剤や浸透剤として加えられるアニオン系界面活性剤等の場合は0.2〜5重量%、転写紙の布帛等への接着力と染着力向上のために加えられる保湿剤(湿潤剤)、例えばポリエチレングリコール、グリセリン、チオジグリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール類、尿素、チオ尿素、ジシアンジアミド等の場合は1〜15重量%、混合糊液の粘度を増加させて原紙への塗布を容易にする為の増粘剤であるアクリル酸系合成糊の場合は0〜3重量%、防腐剤、防黴剤、消泡剤、脱気剤、還元防止剤の場合は0.1〜5重量%、反応染料を用いる場合に加えられるソーダ灰、重炭酸ソーダ、硅酸ソーダ、酢酸ソーダ等のアルカリ剤の場合は1〜15重量%、分散染料や酸性染料を用いる場合に加えられる硫安や第一リン酸ソーダ等のPH調整剤の場合は0.1〜3重量%、を配合すると好ましい結果が得られる。
【0047】
水溶性合成系バインダー、天然系糊剤、及び助剤からなる混合糊(親水性混合物)又はその溶液(混合糊液)を原紙に付与して乾燥することにより、本発明で使用する捺染用紙が得られる。原紙への付与の方法は、特に限定されないが、混合糊を構成する前記成分を水等の溶媒に溶解してなる混合糊液を原紙上に、塗布する方法、噴霧する方法、又は原紙を、混合糊液に浸漬して吸収させる方法等を挙げることができる。原紙への混合糊液を付与した後、乾燥する事によって、原紙上(付与が塗布によりされた場合等)や原紙内(付与が吸収によりされた場合等)に、混合糊からなる層(インク受容層兼接着層)が形成され、捺染用紙が得られる。
【0048】
原紙に対する混合糊の付与量はドライ換算で10〜100g/mが好ましい。混合糊の付与量は、捺染用紙のコストやバインダー類が布帛へ接着する際の強度及び発色性に関わってくる。そこで、この付与を、コーティング機を使用した塗布で行う場合は、コーターのクリアランスや巻き取りスピードの調整等、付着量の管理が重要である。
【0049】
また、混合糊液と原紙の種類によっては、塗布時に紙の収縮現象を生じ原紙への均一塗布が困難な場合がある。これらの現象は、混合糊の種類と糊固形分、表面張力低下剤の種類(アニオン系、ノニオン系界面活性剤、アルコール類等)と添加量等を、紙の種類や処方条件等に応じて調整することにより改善が可能である。混合糊液の塗布装置の具体例を挙げると、コンマコーター、グラビアコーター、リバースコーター、エアナイフコーター、ジェットコーター、含浸装置等があるが、これらはほんの一例に過ぎない。
【0050】
この様にして得られた捺染用紙に、染料インクをプリントし、乾燥して捺染紙を作製する。プリントの方法としては、インクジェットプリントが好ましいが、その他の方法、例えばグラビア印刷、スクリーンプリント等の方法も挙げることができ、公知の転写捺染の場合と同様の方法、条件によりプリントすることができる。
【0051】
本発明に於いてインクジェットプリントに使用する染料インクとしては、染料を染料溶解剤又は分散剤等により溶解又は分散させたものが使用される。染料溶解剤としては、例えば水、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、εカプロラクタムを挙げることができる。染料インクには、更に、必要に応じて乾燥防止剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、PH調整剤、防腐剤、防黴剤、金属イオン封鎖剤、消泡剤、脱気剤等が添加される。これらの成分を混合して、微量の不溶物を1ミクロン以下のメンブレンフィルターでろ過・脱気した染料インクが使用される。
【0052】
なお、染料の種類は、布帛を構成する繊維の種類に応じて、反応染料、直接染料、酸性染料、金属錯塩型染料、分散染料、カチオン染料等から選択されるが、分散染料をインク化する場合は、0.1〜0.3mmのジルコニュウムビーズを用いて染料の平均粒径を0.1μm程度に微粒化する事が望ましい。
【0053】
前記のようにして作製された捺染紙を、捺染対象の布帛等と密着させ、加圧・加熱する。そして、捺染紙と布帛が接着された状態で、スチーミング等による染料の固着処理を行う。この処理により、布帛又は皮革への染料の染着(発色又は染料の固着)が行われるとともに、インク受容層兼接着層の接着力が低下し、捺染紙の剥離、除去が容易になる。
【0054】
捺染紙の剥離、除去がされた後は、布帛等を洗浄(水洗、ソーピング、水洗)する事によって、少量ながら布帛に付着している水溶性合成バインダーと天然系糊剤を水洗除去し、繊維の風合が良好で精細なプリント生地或いはプリント製品を得る。ポリエステルなど合成繊維の場合は洗浄工程を省略する事も可能である。
【0055】
離型紙を用いる転写捺染の場合は、インク受容層と染料インクが全量布帛へ移行する為、固着されなかった余剰染料と糊剤による排水汚染が大きいと言う問題がある。しかし、本発明の方法においては、布帛等より剥離された捺染紙には、固着されなかった染料(余剰染料)と混合糊剤の大部分が付着しており、一方、布帛等には余剰染料や混合糊剤が殆ど付着していないので、布帛洗浄時の排水負荷が公知方法に比べて大幅に軽減される。従って、この点においても、本発明はエコロジー対応の加工法と言える。
【0056】
本発明のペーパー捺染法は、繊維材料からなる布帛や皮革材料の捺染に適用される。本発明が適用される繊維材料には、天然繊維材料及び合成繊維材料のいずれもが含まれる。天然繊維材料としては、綿、麻、リヨセル、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維材料、絹、羊毛、獣毛等の蛋白質系繊維材料を挙げることができる。合成繊維材料としては、ポリアミド繊維(ナイロン)やビニロン、ポリエステル、ポリアクリル等と呼ばれる繊維を挙げることができる。
【0057】
本発明が適用される皮革材料としては、動物性皮革、例えば、牛、水牛、豚、馬、羊、山羊、カンガルー、鹿、豹、ウサギ、狐、ラクダ等の天然皮革を公知の製革、なめし工程を経て乾燥したものを挙げることができる。本発明のペーパー捺染法は、これらの繊維材料の織物、編物、不織布、皮革等の単独、混紡、混繊又は交織品に適用される。更に複合系繊維でも良い。
【0058】
必要に応じて、染料の染着に影響を及ぼす薬剤或いは染着促進に効果のある薬剤などで布帛等を前処理したのちペーパー捺染に用いても良い。例えば反応染料を捺染する場合は、布帛に、アルカリ剤として炭酸ソーダ、炭酸カリ、重炭酸ソーダ、珪酸ソーダ、酢酸ソーダ、セスキ炭酸ソーダ、トリクロル酢酸ソーダ等を3〜15重量%、転写時の黄変防止、転写性向上、染着向上等の目的で尿素を3〜25重量%、マイグレーション防止剤として親水性増粘物質、例えばアルギン酸ソーダの0.05〜1重量%を含む混合液をパッド乾燥しても良い。又、酸性染料をプリントする場合は、染着促進剤として酸アンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム等を0.5〜5重量%、マイグレーション防止剤として耐酸性の天然ガム類0.05〜0.5重量%を含む混合液をパッド・乾燥しても良い。しかし、通常これら生地の前処理の必要がないのが本発明の特徴である。
【0059】
捺染紙を布帛等に密着させて行われるスチーミング等による染料の固着処理の条件としては、通常の直接捺染法で採用されている染料のスチーミングによる固着条件と同様な条件をそのまま採用できる。例えば、染料が反応染料の場合は、1相スチーム固着法による、100〜105℃、5〜20分間のスチーミング、アルカリを含まないインク受容層の場合は、2相法(例えばコールドフィックス法等)によるスチーミングと同様な条件が適用できる。染料が酸性染料の場合は、100〜105℃、10〜30分間のスチーミング処理を行うことができる。生地から紙をはがす際、スチーミング後の水分や湿気を付与された状態での紙はがし(紙の剥離)は容易である。染料が分散染料の場合は、160〜220℃、1〜15分間のHTスチーミング又は乾熱処理を行う。乾熱処理により紙の剥離は可能になる場合もあるが、乾熱処理後に少量の湿気や水分を付与することにより剥離が容易になる。
【0060】
スチーミング等による染料の固着処理後は、従来の転写捺染法における条件と同様な条件で洗浄(水洗、ソーピング、水洗。分散染料の場合は水洗、還元洗浄、水洗)で処理する事で、風合が良好で精細、濃厚な捺染物を得る事が出来る。分散染料の場合は洗浄を省略しても風合が良好で精細、濃厚な捺染物を得る事が出来る。
【実施例】
【0061】
以下実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。なお、例中、%は重量%を意味する。
【0062】
実施例1
インク受容層兼接着層として、ポバールAP−17(水溶性ポリビニルアルコール系バインダー15%水溶液:日本酢ビ・ポバール社製)134g、ハイドランAP−20(水性ポリエステル・ウレタン系バインダー45%液:DIC社製)100g、尿素20g、ジシアンジアミド10g、ソーダ灰30g、FDアルギンBL(古川化学工業社製:アルギン酸ソーダ低粘度品粉体)10g、水86g、増粘剤F(アクリル系合成糊ペースト:佐野社製)10g、計400gの混合物を、高速デスパー型攪拌機(約5,000r.p.m.)でよく攪拌し、高粘度のペーストを作った。このインク受容層兼接着層となる混合糊液を、塗工機(横山製作所社製)を使用して紙(日本製紙社製、未晒クラフト紙、70g/m、厚さ0.15mm)に塗布・乾燥した。混合糊液の塗工量(乾燥重量)は38g/mであった。この様にして反応染料用の捺染用紙を得た。
【0063】
次いで反応染料インク液(C.I.Reactive Red 226 10%、ポエチレングリコール5%、グリセリン5%、εカプロラクタム5%、イオン交換水75%)を、上記捺染用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェットプリンター)によってプリントを行い、乾燥し、捺染紙を得た。
【0064】
次いでこの反応染料の捺染紙と綿ブロード布を密着させ、加熱・加圧(155℃、0.4Mpa、3m/min.ローラー型)して綿ブロード布に捺染紙を貼り付けた。次いで捺染紙を貼りつけたまま綿ブロード布を105℃・10分間、HTスチーム処理を行った。その後、捺染紙の剥離を行ったが、容易に剥離することができた。捺染紙を除去した後、常法により、水洗・ソーピング・水洗・乾燥した。この様にして得られた捺染布は繊細なデザインが精細・堅牢・濃厚に染着しており、柔軟な風合を示す捺染布であった。
【0065】
実施例2
実施例1に於けるFDアルギンBL10gの代わりに、FDアルギンBL65gを使用し、増粘剤Fを省き、水の使用量を300gに増加して粘度を調整し、捺染紙の貼り付け温度を140℃に変更する以外は同様に処理した結果、実施例1と同様に繊細なデザインが精細・堅牢・濃厚に染着した柔軟な風合を示す捺染布が得られた。
【0066】
実施例3
インク受容層兼接着層として、NKバインダーM−302HN(水溶性アクリル系バインダー46%水溶液:新中村化学工業社製)85g、ポバールAP−17(水溶性ポリビニルアルコール系バインダー15%水溶液:日本酢ビ・ポバール社製)134g、尿素30g、ジシアンジアミド10g、ソーダ灰35g、FDアルギンBL(古川化学工業社製:アルギン酸ソーダ)10g、水96gの混合物を、5,000r.p.m.の高速デスパー型攪拌機でよく攪拌し、高粘度のペーストを作った。このインク受容層兼着剤層用混合糊液を、コーティング機を使用して無機コート紙(三島製紙社製、50g/m)に塗布・乾燥した。混合糊液の塗工量(乾燥重量)は40g/mであった。この様にして反応染料用の捺染用紙を得た。
【0067】
次いで反応染料インク液(C.I.Reactive Yellow95 15%、ポエチレングリコール5%、グリセリン5%、εカプロラクタム5%、イオン交換水70%)を上記捺染用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェットプリンター)によって図柄のプリントを行い乾燥し、捺染紙を得た。
【0068】
次いでこの反応染料の捺染紙とリヨセル(コートルズ社登録商標:テンセル)繊維のサテン生地を密着させ、加熱・加圧(150℃、0.4Mpa、2.5m/min.ローラー型)してリヨセル生地に捺染紙を貼り付けた。次いで捺染紙を貼りつけたままの生地を105℃・8分間、HTスチーム処理を行い、その後、捺染紙の剥離を行ったが、容易に剥離することができた。捺染紙を除去した後、常法により水洗・ソーピング・水洗・乾燥した。この様にして得られたリヨセル生地の捺染布は繊細なデザインを有し、繊維の風合は柔軟であり、耐光、洗濯、汗等の各種堅牢性も4級以上であった。
【0069】
実施例4
インク受容層兼接着層として、ポバールAP−17(水溶性ポリビニルアルコール系バインダー15%水溶液:日本酢ビ・ポバール社製)200g、ハイドランAP−20(水性ポリエステル・ウレタン系バインダー45%液:DIC社製)100g、尿素20g、ジシアンジアミド10g、硫安2g、FDアルギンBL(古川化学工業社製:アルギン酸ソーダ)15g、水53gの混合物を、5,000r.p.mの高速デスパー型攪拌機でよく攪拌し、高粘度のペーストを作った。このインク受容剤及び接着剤糊液を、コーティング機を使用して紙(日本大昭和板紙社製、銀竹、50g/m)に塗布・乾燥した。この糊液の乾燥付与量は35g/mであった。この様にして分散染料用の捺染用紙を得た。
【0070】
次いで分散染料インク液(C.I.Disperse Blue60 6%、エチレングリコール5%、グリセリン15%、ノニオン系分散剤5%、アニオン系分散剤5%、イオン交換水64%)を上記捺染用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェットプリンター)によってプリントを行い乾燥し、捺染紙を得た。
【0071】
次いでこの分散染料の捺染紙とポリエステルサテン生地を密着させ、加熱・加圧(150℃、0.4Mpa、3m/min.ローラー型)してポリエステル生地に捺染紙を貼り付けた。次いで捺染紙を貼りつけたままポリエステル生地を180℃・8分間、HTスチーム処理を行い、その後、捺染紙の剥離を行ったが、容易に剥離することができた。捺染紙を除去した後、常法により水洗・還元洗浄・水洗・乾燥した。この様にして得られたポリエステル捺染布は繊細なデザインを有し、繊維の風合は柔軟であり、各種堅牢性も4級以上であった。
【0072】
実施例5
実施例4に於けるポリエステル生地の代わりにナイロンタフタ生地を用い、染料インクとして酸性染料インク、スチーミングは100℃で30分間処理する以外は同様に処理した結果、ナイロンタフタの捺染布は繊細なデザインを有し、繊維の風合は柔軟で、耐光、洗濯、汗等の各種堅牢性も良好であった。
【0073】
実施例6
インク受容層兼接着層として、プラスコートRZ−142(水溶性ポリエステル樹脂系バインダー25%水溶液:互応化学工業社製)700g、ソルビトーゼC−5(エーテル化澱粉:AVEBE社製)10g、FDアルギンBL(アルギン酸ソーダ低粘度品粉体:古川化学工業社製)198g、エンバテックスD−23(珪酸アルミニューム誘導体:共栄化学社製)190g、マイクロイドML389(酸化珪素:東洋化学社製)5g、ジシアンジアミド70g、ソーダ灰85g、水約1000gの混合物を、5,000r.p.m.の高速デスパー型攪拌機でよく攪拌し、高粘度のペーストを作った。この混合糊液を、コーティング機(横山製作所社製)を使用して紙(日本製紙社製、晒クラフト紙、70g/m、厚さ125μm)に塗布・乾燥した。この捺染用紙の糊塗布量は38g/mであった。この様にして反応染料用の捺染用紙を得た。
【0074】
次いで反応染料インク液(C.I.Reactive Blue 19 15%、ポエチレングリコール5%、グリセリン5%、εカプロラクタム5%、イオン交換水70%)を上記捺染用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェットプリンター)によってプリントを行い乾燥し、捺染紙を得た。
【0075】
次いでこの反応染料の捺染紙と綿ローン布を密着させ、加熱・加圧(150℃、0.4Mpa、3m/min.ローラー型)して綿ブロード布に捺染紙を貼り付けた。次いで捺染紙を貼りつけたまま綿ローン布を100℃・10分間、スチーミング処理を行い、その後、捺染紙の剥離を行ったが、容易に剥離することができた。捺染紙を除去した後、常法により水洗・ソーピング・水洗・乾燥した。この様にして得られた捺染布は繊細なデザインが精細・堅牢・濃厚に染着しており、柔軟な風合を示す捺染布であった。
【0076】
実施例7
インク受容層兼接着層として、ポバールJP−18(水溶性ポリビニルアルコール系バインダー紛体:日本酢ビ・ポバール社製)75g、ソルビトーゼC−5(エーテル化澱粉:AVEBE社製)56g、EX−100S(タマリンドガム:トモエ製糊社製)30g、消泡剤104(佐野社製)5g、水840g、ネオシントールLB(防腐剤:住化エンビロサイエンス社製)2g、ネオシントールTF−1(防黴剤:住化エンビロサイエンス社製)2gの混合物を、5,000r.p.mの高速デスパー型攪拌機でよく攪拌し、高粘度のペーストを作製した。この混合糊液を、コーティング機を使用して紙(日本大昭和板紙社製、銀竹、50g/m)に塗布・乾燥した。この捺染用紙の糊塗布量は40g/mであった。この様にして分散染料用の捺染用紙を得た。
【0077】
次いで分散染料インク液(C.I.Disperse Red86プレスケーキ 4%、エチレングリコール5%、グリセリン15%、ノニオン系分散剤5%、アニオン系分散剤5%、イオン交換水66%)を上記捺染用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェットプリンター)によってプリントを行い乾燥し、捺染紙を得た。
【0078】
次いでこの分散染料の捺染紙とポリエステルサテン生地に密着させ、平板プレス機を用いて210℃、0.5MPa、2分間加熱・加圧してポリエステル生地に捺染紙を貼付けると同時に染料を固着させた。次いで貼付けた紙にスチームを吹き付ける事によって湿気を与えながら捺染紙を剥離したが、容易に剥離することができた。この様にして得たポリエステル捺染布は精細な柄模様を有し、繊維の風合は柔軟であり、各種堅牢性も4級以上であった。この生地を常法に従って還元洗浄した所、洗浄液は無色透明であり、風合いにも変化はなく、還元洗浄が省略できる事を証明した。
【0079】
実施例8
常法の一浴法クロムなめし法によって得た牛革に対して、実施例6で得た捺染紙を合わせて、ハシマ社製平板プレス機HSP−2210にセットし、その上に水で濡らして強く絞った綿生地をあて、120℃、0.9MPaで2分間加圧・加熱する事によって貼付と固着を同時に行った。次いで捺染紙を剥離したが、容易に剥離することができた。その後、水洗して乾燥した。その結果、高濃度で精細に染色された風合いの優れた牛革が得られた。耐光堅牢度は4〜5級、湿潤摩擦堅牢度は3〜4級であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のペーパー捺染法は、全ての繊維材料と皮革材料を対象とし、従来困難視されていた精細な捺染図柄の表現を優れた経済性とエコロジー性の元に再現性良く提供できる転写捺染法である。そして本発明の方法によれば、少量多品種生産や多様性のニーズに敏速で効率的に対応できる生産システムを構築できる。従って、本発明のペーパー捺染法は、環境適合性と共に経済性と品質効果も優れた方法であり、捺染繊維製品及び皮革製品の付加価値向上と用途拡大に大きく寄与する新規な捺染法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性合成系バインダー、天然系糊剤及び助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られる捺染用紙上に、染料インクをプリントして捺染紙を得る工程、
前記捺染紙を繊維材料又は皮革材料に密着し、加圧・加熱して貼り付けする工程、及び
前記捺染紙を前記繊維材料又は皮革材料に貼り付けた状態で染料の固着処理を行い、その後捺染紙を除去する工程、
を有する繊維材料又は皮革材料のペーパー捺染法により捺染されたことを特徴とする繊維材料又は皮革材料。
【請求項2】
水溶性合成系バインダーが、水溶性ポリビニルアルコール系バインダー、水溶性アクリル系バインダー、水溶性ポリエステル系バインダー、水溶性ポリエーテル・ウレタン系バインダー及び水溶性ホットメルト接着剤からなる群より選択された1種又は2種以上の混合物である事を特徴とする請求項1に記載の繊維材料又は皮革材料。
【請求項3】
天然系糊剤が、天然ガム糊、セルロース誘導体、澱粉誘導体、海藻類、鉱物性糊料、動物性糊料からなる群より選択された1種又は2種以上の混合物である事を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維材料又は皮革材料。
【請求項4】
水溶性合成系バインダーと天然系糊剤との配合割合が、固形分換算で、水溶性合成系バインダー:天然系糊剤=95:5〜20:80(重量比)の範囲である事を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の繊維材料又は皮革材料。
【請求項5】
前記助剤が、界面活性剤、増粘剤、保湿剤、PH調整剤、アルカリ剤、濃染化剤、防腐剤、防黴剤、脱気剤、消泡剤及び還元防止剤から選択された1種又は2種以上である事を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の繊維材料又は皮革材料。
【請求項6】
前記染料インクが含む染料が、反応染料、酸性染料、金属錯塩型染料、直接染料、分散染料及びカチオン染料よりなる群から選択された1種又は2種以上である事を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の繊維材料又は皮革材料。
【請求項7】
前記染料インクが水性染料インクであり、前記プリントがインクジェットプリントにより行われる事を特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の繊維材料又は皮革材料。

【公開番号】特開2011−236548(P2011−236548A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149354(P2011−149354)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【分割の表示】特願2011−505049(P2011−505049)の分割
【原出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(308029068)
【Fターム(参考)】