説明

繊維機械用圧電アクチュエータ素子およびその製造方法

【課題】耐環境性を有し製造工程が簡略化されて生産性が向上した繊維機械用圧電アクチュエータ素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維機械用圧電アクチュエータ素子が、シム材プレートと、該シム材プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとを有する圧電体を含み、圧電素子は、繊維機械に接続される一方の端部に取り付けられた先端支持部3と、他方の端部に取り付けられた後端支持部8とを備えており、圧電素子の両面の電極膜とシム材プレートには、それらに電流を供給する導線4a,4a,4bが接続されており、かつ導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜が全面的に被覆されており、そして、後端支持部8は、電極膜、シム材プレート及び導線の接続部位ならびにその近傍を被覆した耐水蒸気性および非導電性を有する材料で封止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維機械用圧電アクチュエータ素子およびその製造法に関し、さらに詳しくは、耐環境性を有し且つ製造工程が簡略化されて生産性が向上した繊維機械用圧電アクチュエータ素子およびその製造方法に関するものである。ここで、「繊維機械」とは、編機用選針装置や、圧電アクチュエータ素子が組み合わせて用いられるその他の繊維機械を指す。
【背景技術】
【0002】
近年、柄編み機として、記憶装置に記憶された柄編成手順を編成針の上下動に伝達するために選針装置が用いられている。繊維産業における低コストおよび高速化に対応する必要から、摺動型あるいは揺動型のフィンガを有する編機用選針装置が開発されてきた。このような選針装置としては、例えばフィンガの摺動あるいは揺動がフィンガに対する電磁石の吸引または反発力を利用して与えられるものが使用されてきた。このため、電磁石自体の機能面からこのような選針装置の応答速度は上限が60〜80サイクル程度であり、応答速度の高速化に限界があった。また、従来の電磁石を用いた編機用選針装置では、消費電力が大きいという問題もあった。さらに、選針装置について、繊維産業のグローバル化に伴い、高温多湿の環境においても使用できる耐環境性を考慮したものが必要になっている。
【0003】
このため、応答速度の高速化を可能とし消費電力が小さい編機用選針装置および編機用選針装置に用いられる圧電素子を用いた繊維機械用圧電素子の検討がされてきた(特許文献1〜3)。一方、使用耐久性を改善して信頼性を高めた圧電セラミック素子も提案されている(特許文献4)。
【0004】
具体的に説明すると、特許文献1には、圧電素子を有する圧電体にフィンガを取付け、前記圧電素子に電圧を印加してフィンガを作動させ、フィンガの作動により編機の編成針の選針を行い所定の柄組織の編地の編成を可能とする編機用選針装置において、圧電体の後端部を、支持体またはハウジングの溝部内において可動可能に支持させ、圧電体の先端部をフィンガの後端部に、フィンガの後端部において可動可能に連結させ、圧電体の後端部と先端部との中途位置を、支持体またはハウジングに回転可能に付設した回転体に挟持させ、かつフィンガと圧電体とを一直線上に配設してなり、好適には圧電体の後端部をスリット部を有する棒を溝部内で回動可能に取付け、棒のスリット部に圧電体の後端部を取付けた編機用選針装置が記載されている。この編機用選針装置によれば、応答速度の高速化および消費電力の低減化が可能であるが、耐環境性を有する編機用選針装置の圧電素子については記載されていない。
【0005】
特許文献2には、金属よりなるシム材の片面側に圧電セラミックス層を積層し、積層された圧電セラミックス層の厚みをシム材から外側に向って次第に薄く構成した屈曲変異が可能な繊維機械用積層型圧電アクチュエータが記載されている。この発明によれば、応答速度が格段に速く、発生力、変換効率等が大きい利点を有する圧電アクチュエータを得ることが可能であるが、耐環境性を有する編機用選針装置を与える繊維機械用圧電素子については記載されていない。
【0006】
特許文献3には、圧電素子を有する板状の圧電体と該圧電体と同一直線で運動可能に配設されたフィンガを含み所定の柄組織の編地の編成を可能とする編機用選針装置において、回転体が、支持体又はハウジングに設けた軸受に支承されるようにその両端に設けた軸首と該両軸首間の中央部とからなり、該中央部の圧電体の幅方向の少なくとも一部には前記圧電体を挟持するスリットが設けられており、前記回転体の軸線に垂直であるとともに圧電体の平面に垂直である平面での前記中央部の軸断面構造が、前記圧電体の幅方向の湾曲が圧電体の長手方向の湾曲より小さく抑制されるように構成されていることを特徴とする編機用選針装置が記載されている。この発明によれば、編成針の選針を効率的に行うことが可能である編機用選針装置を得ることは可能であるが、耐環境性を有する編機用選針装置を与える繊維機械用圧電素子については記載されていない。
【0007】
特許文献4には、駆動電極の保護膜がポリパラキシリレン又はその誘導体からなる複数の樹脂皮膜を有するインクジェット用ヘッドとして好適な圧電セラミック素子が記載されており、さらにインク流路を形成後にポリパラキシリレン又はその誘導体から選ばれる複数の樹脂皮膜からなる駆動電極の保護膜をCVD法により形成するインクジェットヘッドの製造方法が記載されている。しかし、この特許文献4で論じられているものはインクジェット用ヘッドであり、耐環境性を有する繊維機械用の圧電素子については言及されていない。
【0008】
【特許文献1】特公平6−94619号公報
【特許文献2】特開平10−225146号公報
【特許文献3】国際公開2005−106088号パンフレット
【特許文献4】特開2000−071451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、従来公知文献に記載の繊維機械用圧電素子では高温多湿の環境においても使用できる耐環境性を達成することは困難であった。また、従来公知の圧電セラミック素子の電極保護の技術を繊維機械用圧電アクチュエータ素子に適用しても、電極にCVD法によりポリパラキシリレン薄膜を形成すると電極上に半田を設けることが不可能であり、CVD法によりポリパラキシリレン薄膜を形成する方法を採用しようとすると多種の絶縁膜を形成する複雑な工程が必要となり、結局、耐環境性を有する繊維機械用圧電アクチュエータ素子を高い生産性で製造することは困難である。
【0010】
このため、従来技術によれば、耐環境性を有し且つ製造工程が簡略化されて生産性が向上した繊維機械用圧電アクチュエータ素子を得ることはできなかったのである。従って、本発明の目的は、耐環境性を有し製造工程が簡略化されて生産性が向上した繊維機械用圧電アクチュエータ素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1つの面において、プレートと、該プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとを有する圧電体を含む圧電素子において、
前記圧電素子は、繊維機械に接続される一方の端部に取り付けられた先端支持部と、他方の端部に取り付けられた後端支持部とを備えており、
前記圧電素子の両面の電極膜とプレートには、それらに電流を供給する導線が接続されており、かつ前記導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜が全面的に被覆されており、そして、
前記後端支持部は、前記電極膜、プレート及び前記導線の接続部位ならびにその近傍を被覆した耐水蒸気性および非導電性を有する材料で封止されていることを特徴とする繊維機械用圧電アクチュエータ素子にある。
【0012】
また、本発明は、もう1つの面において、プレートと、該プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとを有する圧電体を含む圧電素子を製造する方法において、
表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスを作製することと、
前記圧電セラミックスをプレートの表裏両面に接着して、プレートと圧電セラミックスとが積層された圧電素子を形成することと、
前記圧電素子の両面の電極膜とプレートに、電流を供給する導線を接続することと、
前記圧電素子の両面の電極膜とプレートに、前記導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜を被覆することと、
前記圧電素子の相対する二つの端部に先端支持部および後端支持部をそれぞれ取り付けることとを含み、かつ、
前記後端支持部の形成時、耐水蒸気性および非導電性を有する材料で前記電極膜、プレートおよび前記導線の接続部位ならびにその近傍を被覆し、封止することを特徴とする圧電アクチュエータ素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐環境性が良好で且つ製造工程が簡略化されて生産性が向上した繊維機械用圧電アクチュエータ素子を得ることが可能である。
また、本発明によれば、耐環境性を有する繊維機械用圧電アクチュエータ素子を簡略された工程によって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、プレートと、該プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとを有する圧電体を含む圧電素子において、圧電素子は、繊維機械に接続される一方の端部に取り付けられた先端支持部と、他方の端部に取り付けられた後端支持部とを備えており、圧電素子の両面の電極膜とプレートには、それらに電流を供給する導線が接続されており、かつ導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜が全面的に被覆されており、そして、後端支持部は、前記電極膜、プレート及び導線の接続部位ならびにその近傍を被覆した耐水蒸気性および非導電性を有する材料で封止されている。
プレートと、該プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとを有する圧電体を含む圧電素子を製造する方法において、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスを作製することと、圧電セラミックスをプレートの表裏両面に接着して、プレートと圧電セラミックスとが積層された圧電素子を形成することと、圧電素子の両面の電極膜とプレートに、電流を供給する導線を接続することと、圧電素子の両面の電極膜とプレートに、導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜を被覆することと、圧電素子の相対する二つの端部に先端支持部および後端支持部をそれぞれ取り付けることとを含み、かつ、後端支持部の形成時、耐水蒸気性および非導電性を有する材料で前記電極膜、プレートおよび導線の接続部位ならびにその近傍を被覆し、封止することによって、製造工程の簡略化と良好な絶縁性が達成され、耐環境性を有する繊維機械用圧電アクチュエータ素子を簡略された工程によって得ることができる。
【0015】
本発明について、本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子の実施態様の一例の斜視図である図1、および、先端支持部と後端支持部を取り付ける前の中間製品と、それらを取付け後の完成した繊維機械用圧電アクチュエータ素子の斜視図である図2(A)、2(B)を用いて説明する。なお、図では、編機用選針装置として繊維機械に使用している。
図1および図2(A)、2(B)において、繊維機械用圧電アクチュエータ素子1は、図3に示すように、表裏両面に電極膜13を有する圧電セラミックス11がシム材プレート12の表裏両面に積層された圧電体を含む圧電素子2において、繊維機械に接続される一端部に先端支持部3が取り付けられており、片端部には、その両面の電極膜13に電流を供給する2本の導線4a,4aを接続した2個の半田5,5とシム材プレート12に電流を供給する1本の導線(駆動信号線)4bを接続した1個の半田6とが隔離して設けられており、かつ導線4a,4a,4bの接続部位も含めて電気絶縁膜14が全面的に被覆されており、そして、後端支持部8は、両面の電極膜13、シム材プレート12および前記導線の接続部位ならびにその近傍を被覆した耐水蒸気性および非導電性を有する材料で封止されている。導線4a,4a,4bがコネクター9に接続されている。本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子1は、好適にはさらに中間支持部10が一端部と片端部との中間に設けられている。
【0016】
本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子1は、例えば図5(A)〜(F)に示すように、下記の工程:
(1)表裏両面に電極膜13を有する圧電セラミックス11を作製し、圧電セラミックス 11の両面に電極膜13を有する圧電素子を分極すること(図5(A))。
(2)表裏両面に電極膜13を有する圧電セラミックス11をプレート12の表裏両面に 接着剤18によって接着して、プレート12と圧電セラミックス11とが積層され た圧電素子を形成すること(図5(B))。
(3)両面の電極膜13上に半田付け部を除きソルダーレジスト膜15を形成すること( 図5(C))。
(4)両面の電極膜13の半田付け部とプレート12の片端の半田付け部とに隔離して導 線4a,4a,4b(端部にコネクター(図示せず)が接続されている)を半田5 、6により接続すること(図5(D))。
(5)CVD法により両面の電極膜13とプレート12に、導線4a,4a,4bの接続 部位も含めて、電気絶縁膜14(絶縁性高分子膜)を被覆すること(図5(E)) 。
(6)相対する二つの端部に先端支持部3(図5(F)には図示せず)および後端支持部 8をそれぞれ取り付けるとともに、後端支持部8の形成時、耐水蒸気性および非導 電性を有する材料で両面の電極膜13、プレート12及び導線4a,4a,4bの 接続部位ならびにその近傍を封止すること(図5(F))。
によって好適に製造することができる。
【0017】
本発明においては、工程(1)に示すように、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスをシム材プレートの表裏両面に積層した圧電素子を用いることが必要である。
【0018】
圧電セラミックスとしては、PZT(PbZrO−PbTiO)あるいはPZTにPb(Mg、Nb)OやPb(Ni、Nb)O等の鉛系複合ペロブスカイト型化合物を固溶させた3成分系圧電セラミックスなどが挙げられ、これらを総称したPZT系素子が好適に用いられる。前記のPZT系圧電素子としては、厚みが100〜300μm、特に150〜250μmの薄膜が好適に挙げられる。
【0019】
本発明における電極膜としては、銀、金などの薄膜が挙げられ、コストと性能の観点から銀が好適である。電極膜の厚みは0.1〜2μm、特に0.5〜1.5μmであるものが好適である。
両面に電極膜を有する圧電セラミックスは、工程(1)において、例えば圧電セラミックスの薄膜に蒸着法あるいは塗布法によって電極材料の薄膜を形成することによって得ることができる。
【0020】
本発明においては、両面に電極膜を有する圧電セラミックスは、工程(1)において、一般的には分極させて用いられる。
【0021】
シム材プレートとしては、高速運動を考慮して電極膜を有する圧電セラミックスを支持することが可能である強度と導電性を兼ね備えた金属膜、例えばSUSあるいは42アロイなどの薄膜、好適には75μm以上150μm未満、特に75〜125μmの前記金属の薄膜が挙げられる。
本発明においては、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスをシム材プレートの表裏両面に積層、例えば接着剤によって積層したものが用いられる。接着剤としては特に制限はなく、例えばエポキシ樹脂、ポリフェノール樹脂など任意の熱硬化型接着剤、好適にはエポキシ樹脂が挙げられる。この接着剤の厚みは1〜15μm、特に3〜10μmであることが好ましい。
表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスのシム材プレートの表裏両面への接着は、工程(2)において、接着剤を用いて加熱、加圧硬化させることによって行うことができる。加熱、加圧硬化の条件は使用する接着剤によって適宜選択すればよい。
【0022】
本発明の方法においては、図2(A)に示すように、上記のようなサンドイッチ構造を有する圧電体を用意し、工程(3)において、両面の電極膜13上に半田付け部を除き高分子薄膜としてソルダーレジストの薄膜を形成する。
このソルダーレジストとしては、例えば耐熱性高分子材料をスクリーン印刷法や露光現像法によって必要な部分に薄膜を形成することができる。ソルダーレジストとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を主成分とする液状の感光性レジスト材料や、ウレタンアクリレートを主成分とした耐折性に優れた感光性レジスト材料が知られており、好適には耐水蒸気性を有するものである。ソルダーレジストとしては、一般的に緑色又は青色のものが市販されており、これらを使用してもよい。
【0023】
そして、工程(4)において、片端部の電極膜に導線を接続する2個の半田部とシム材プレートの端部の1個の半田部とを隔離して半田付けする。通常は3本の導線の端部にコネクターが接続されているが、必要でなければ省略してもよい。
【0024】
工程(5)において、CVD法により高分子薄膜としてソルダーレジスト薄膜上に電気絶縁膜を形成して半田により導線を接続された両面の電極膜とシム材プレートを被覆する。このCVD法による電気絶縁膜の形成は公知の種々の方法によって行うことができる。
このCVD法による電気絶縁膜の形成によって、ピンホールの生成を防止した絶縁性の良好な高分子薄膜を得ることができる。電気絶縁膜は、例えばp−キシレンを加熱してジパラキシレン(diXと略記することもある)を生成させ、このジパラキシリレンを昇華させて、CVDにより重合させて膜形成すべき材料の表面にポリパラキシリレン薄膜を蒸着することによって得ることができる。
電気絶縁膜としては、環境特性および高速運動を考慮して厚みが5μmより大きく10μm以下であるものが好適である。
【0025】
本発明の方法においては、電気絶縁膜を形成した後、工程(6)において、繊維機械に接続される一端部および片端部に先端支持部および後端支持部、好適にはさらに中間支持部を樹脂成形により取り付ける。
【0026】
本発明の方法においては、工程(6)において、片端部に樹脂成形して取り付けられる後端支持部は、形成時、耐水蒸気性を有するソルダーレジストおよび非導電性を有する樹脂材料で、両面の電極膜、シム材プレートおよび導線の接続部位ならびにその近傍を封止する。
本発明においては、後端支持部は、両面の電極膜、シム材プレートおよび導線の接続部位ならびにその近傍を被覆した耐水蒸気性を有するソルダーレジストおよび非導電性を有する樹脂材料で封止することが可能となる。
【0027】
樹脂成形は、好適にはポリオレフィン、ポリアセタール、フッ素樹脂およびポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂を用いて行うことが好ましい。
これらの樹脂は、疎水性を有し絶縁性、好適には非導電性であるとともに繊維機械用圧電アクチュエータ素子の支持部材として、可動に耐える剛性を有するものが好ましい。
特に好ましい樹脂として、ポリプロピレン、ポリアセタールおよびポリカーボネートを挙げることができる。
【0028】
樹脂成形法として、樹脂のインサート成型が好適に挙げられる。このインサート成型による樹脂成形は、既に形成された部材を型の所定の位置に配置した後、適した樹脂を溶融させて型に注入し、冷却後、型に配置した既に形成された部材と注入・樹脂成形した樹脂とが一体化した成形品を型から取り出すことによって、図2(B)に示すように、本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子を得ることができる。
本発明の維機械用圧電アクチュエータ素子の形状としては特に制限はないが、図6に示す構造を有するものが好適である。
【0029】
この発明においては、シム材プレートは、片端部に、例えば後端支持部において、シム材プレートを横断して設けられた空洞を設けたものが好ましいが、工程(3)において、空洞を有しない圧電素子を用いることも可能である。また、空洞は、任意の形状であってよいが、電極膜および導線の接続部位とシム材プレート及び導線の接続部位とを空間的に隔離していることが好適である。この空洞は、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとシム材プレートとの接着・積層後に形成されてもよく又は接着・積層前に空洞を形成しておいたものを接着してもよい。
この空洞を形成するための穴あけは、例えば公知の機械的技法、例えばパンチング(打ち抜き)加工やドリル加工などによって、あるいは物理的技法、例えばレーザ加工によって、さらに化学的技法によって行ってもよい。
【0030】
前記の工程において、一端部での先端支持部と片端部での後端支持部の樹脂形成、および好適にはさらに中間支持部の樹脂成形は同時に行うことが好ましく、樹脂成形による各支持部の形成を最終工程で行うことが絶縁性の確保の観点から好ましい。
また、導線の半田付けと後端支持部の形成とは、導線の半田付けを行った後に後端支持部の形成を行うことが好ましい。
【0031】
この発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子について、その駆動方法の一例を図3を用いて説明する。
図3において、繊維機械用圧電アクチュエータ素子1の上側の面及び下側の面は、導線4aにより両面の電極膜13にそれぞれ+48V、−48Vを印加することで、正バイアス面及び負バイアス面として働き、駆動信号線である導線4bによりシム材プレート12に+48Vを印加すると、上側の面が同電位となり上側の圧電素子が駆動せず、下側の面が電位差96Vとなり下側の圧電素子が屈曲する。逆に導線4bにより−48Vを印加すると、上側の面が電位差96Vとなり上側の圧電素子が屈曲して、下側の面が同電位となり下側の圧電素子が駆動しない。この場合、繊維機械用圧電素子は、動作するのは片面ずつであるため構造的にはバイモルフ型であるが一般的呼称からすればユニモルフ型の駆動を与える。しかし、この発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子は、この駆動方法に限定されるものではなく、印加する電圧の種類を変えることによって任意の駆動方法を取りえる。
【0032】
本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子は、上述の構成を有することによって高速可動が可能であり、例えば最高200Hz(1秒間200往復)、平均100Hzあるいは150Hzが可能である。
【0033】
よって、本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子を用いて、編機用圧電アクチュエータを得ることができる。
例えば、この発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子を1個〜16個、通常は4個、6個、8個、12個又は16個用いて、繊維機械用圧電アクチュエータ素子が1〜16段の編機用圧電アクチュエータを得ることができる。
これを編機用圧電アクチュエータの一例を示す図4を参照して説明すると、繊維機械用圧電アクチュエータ素子1は、先端支持部3をフィンガ21が係合され、後端支持部8を可動可能に支持され、中間支持部10を回転可能に支持される。フィンガ21は、上側及び下側の圧電素子の屈曲により上向き及び下向きに作動されて編成針の選針を行う。
特に、図1に示す構造の繊維機械用圧電アクチュエータ素子を用いることによって、編機用圧電アクチュエータのコンパクト化が達成され好適である。
【0034】
以下の例は単に説明するためのものであり、この発明を限定するものではない。
例1
繊維機械用圧電アクチュエータ素子の作製
本例では、以下の工程によって繊維機械用圧電アクチュエータ素子を作製した。
厚み1μmのAgの電極膜を圧電セラミックスの両面に有する厚み180μmのPZT系圧電体を分極した後、厚み100μmのシム材プレート(SUS又は42Alloy)の両面に接着剤(3〜5μmのエポキシ樹脂)によって接着したシム材プレートの端部に空洞を穿った圧電素子を用意した。
次いで、電極膜をアルコール洗浄して清浄化し、電極膜上に半田付け部を除きソルダーレジスト膜を形成した。
その後、片端部の電極膜の両面の半田部に2個の導線の半田付けとシム材プレートの端部への導線(コネクターが接続されている)の半田付けを、2個の半田と他の1個の半田とを隔離して設けた。
【0035】
半田付けの完了後、CVDにより厚み7μmのポリパラキシリレン膜からなる電気絶縁膜をソルダーレジスト膜上に形成して、導線を接続する半田が設けられた両面の電極膜およびシム材プレートを被覆した。
次いで、一端部に先端支持部、中間支持部および片端部に後端部支持部をインサート成型による樹脂成形し、その際に耐水蒸気性および非導電性を有する材料から成る後端支持部によって半田部および電極膜を封止した。
【0036】
例2(試験例)
繊維機械用圧電アクチュエータ素子としての評価
前記例1で作製した繊維機械用圧電アクチュエータ素子を、先に図3を参照して説明した駆動方法に従って作動させ、高速可動を評価した。その結果、最高200Hz、平均100Hzで問題なく可動した。
そして、この繊維機械用圧電アクチュエータ素子の電気絶縁膜と後端支持部の接続部分に機械的な力を加えても接続部分の絶縁は良好であると判断した。
また、高温多湿の条件(60℃、80%RH)下で連続運転(96V、240時間連続印加)後、リーク電流値は閾値以下であった。
【0037】
比較例1
前記例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、比較のため、樹脂のインサート成型の代わりに、半田および片端部を覆うようにCVDにより厚み7μmのポリパラキシリレン膜の絶縁膜を形成した。
【0038】
得られた繊維機械用圧電アクチュエータ素子としての評価において、この繊維機械用圧電アクチュエータ素子は電気絶縁膜の接続部分に機械的な力を加えると接続部分の絶縁は不良であると判断した。
【0039】
この発明によって得られる繊維機械用圧電アクチュエータ素子は、耐環境性が良好で且つ製造工程が簡略化されて生産性が向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子の実施態様の一例の斜視図である。
【図2】先端支持部と後端支持部を取付ける前の中間製品(A)と、それらを取付け後の繊維機械用圧電アクチュエータ素子(B)を説明する斜視図である。
【図3】本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子の概略図である。
【図4】編機用圧電アクチュエータの一例の概略図である。
【図5】本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子の製造方法の実施態様の一例の製造工程を順に説明する断面図である。
【図6】本発明の繊維機械用圧電アクチュエータ素子の構造を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0041】
1 繊維機械用圧電アクチュエータ素子
2 圧電素子
3 先端支持部
4a,4b 導線
5 半田
6 半田
8 後端支持部
9 コネクター
10 中間支持部
11 圧電セラミックス
12 プレート(シム材プレート)
13 電極膜
14 電気絶縁膜
15 ソルダーレジスト膜
18 接着剤
21 フィンガ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートと、該プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックとを有する圧電体を含む圧電素子において、
前記圧電素子は、繊維機械に接続される一方の端部に取り付けられた先端支持部と、他方の端部に取り付けられた後端支持部とを備えており、
前記圧電素子の両面の電極膜とプレートには、それらに電流を供給する導線が接続されており、かつ前記導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜が全面的に被覆されており、そして、
前記後端支持部は、前記電極膜、プレート及び前記導線の接続部位ならびにその近傍を被覆した耐水蒸気性および非導電性を有する材料で封止されていることを特徴とする繊維機械用圧電アクチュエータ素子。
【請求項2】
前記先端支持部及び前記後端支持部は樹脂材料の成形体からなる、請求項1に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項3】
前記樹脂材料の成形体はインサート成形体である、請求項2に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項4】
前記電極膜と前記導線及び前記プレートと前記導線がそれぞれ半田を介して電気的に接続されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項5】
前記プレートは、前記後端支持部において、前記プレートを横断して設けられた空洞部をさらに有しており、前記電極膜及び前記導線の接続部位と前記プレート及び前記導線の接続部位とを空間的に隔離している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項6】
前記圧電素子は、そのほぼ中央に取り付けられた中間支持部をさらに備えている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項7】
前記中間支持部は樹脂材料の成形体からなる、請求項6に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項8】
前記電気絶縁膜は高分子材料の蒸着膜からなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項9】
前記電気絶縁膜がポリパラキシリレン膜である、請求項8に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項10】
前記圧電素子が前記プレートに接着剤層を介して積層されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項11】
前記繊維機械が編機用選針装置であり、該選針装置に付属のフィンガに前記圧電素子に設けられた先端支持部を係合させ、前記フィンガの作動により編機の編成針の選針を行う、請求項1〜10のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ素子。
【請求項12】
プレートと、該プレートの表裏両面に積層された、表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスとを有する圧電体を含む圧電素子を製造する方法において、
表裏両面に電極膜を有する圧電セラミックスを作製することと、
前記圧電セラミックスをプレートの表裏両面に接着して、プレートと圧電セラミックスとが積層された圧電素子を形成することと、
前記圧電素子の両面の電極膜とプレートに、電流を供給する導線を接続することと、
前記圧電素子の両面の電極膜とプレートに、前記導線の接続部位も含めて、電気絶縁膜を被覆することと、
前記圧電素子の相対する二つの端部に先端支持部および後端支持部をそれぞれ取り付けることとを含み、かつ、
前記後端支持部の形成時、耐水蒸気性および非導電性を有する材料で前記電極膜、プレートおよび前記導線の接続部位ならびにその近傍を被覆し、封止することを特徴とする圧電アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項13】
前記先端支持部及び前記後端支持部を樹脂材料の成形により形成する、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記圧電素子のほぼ中央部に中間支持部を樹脂材料の成形により形成することをさらに含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂材料の成形が、インサート成形によって行われる、請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂が、ポリオレフィン、ポリアセタール、フッ素樹脂およびポリカーボネートからなる群から選ばれる、請求項13〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記電気絶縁膜を高分子材料の蒸着により形成する、請求項12〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記高分子材料がポリパラキシリレンである、請求項17に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−34149(P2010−34149A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192415(P2008−192415)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000116275)ワックデータサービス株式会社 (10)
【出願人】(592212537)株式会社ビー・アンド・プラス (7)
【Fターム(参考)】