説明

繊維状カーボンの製造方法

【課題】紡糸工程及び不融化工程を必要とせず、導電性に優れ、特に直径が数十〜数百nmで、固体高分子型燃料電池の電極材料や、各種樹脂製品のフィラーとして好適な繊維状カーボンの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させる工程(A)と、前記繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離して繊維状カーボンを回収する工程(B1)、又は前記導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成して繊維状カーボンを生成させる工程(B2)とを含むことを特徴とする繊維状カーボンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状カーボンの製造方法、特に導電性に優れ、電極材料として好適であり、また、フィラーとしてポリマー等と複合化して補強性及び機能性を付与することが可能な繊維状カーボンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維状カーボンとしては、液相炭素化によるピッチ系炭素繊維、固相炭素化によるポリアクリロニトリル系及びレーヨン系炭素繊維、気相炭素化による気相成長炭素繊維、並びにレーザー法やアーク放電法によるカーボンナノチューブ類等が知られている。これらのうち、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びレーヨン系炭素繊維の製造工程においては、繊維状前駆体を得るために紡糸工程が必要であり、製造工程が複雑となると共に、1μmより細い繊維を得ることが困難である。また、気相成長炭素繊維の製造においては、製造設備が高価で且つ収率が高くないなど量産方法が必ずしも確立されているとはいえないという問題がある。更に、カーボンナノチューブ類の製造についても製造設備が高価である上、効率的な量産技術は検討段階にあり、0.1μmを超える繊維径のものを得ることが難しいという問題がある。
【0003】
一方、特開平5−178603号公報(特許文献1)には、不融化工程を必要とせず、導電率等の電気特性を制御することが可能で、残炭率が高く且つ導電性に優れた炭素質粉末を得る方法が記載されているが、該方法ではポリアニリン粉末を原料とするため、紡糸工程を経ずに繊維状カーボンを得ることができなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−178603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、昨今、固体高分子型燃料電池等の電極材料や、各種樹脂製品のフィラーとして、導電性が高く、補強性及び機能性に優れた繊維状カーボンが求められているが、上述した既存の炭素繊維では、これらの要求を十分に満足できないことがあり、新規な繊維状カーボンが求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、紡糸工程及び不融化工程を必要とせず、導電性に優れ、特に直径が数十〜数百nmで、固体高分子型燃料電池の電極材料や、各種樹脂製品のフィラーとして好適な繊維状カーボンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させた後、(1)該繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離したり、又は(2)導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成して得た繊維状カーボンが、導電性に優れ、直径が数十〜数百nmで、固体高分子型燃料電池の電極材料や、各種樹脂製品のフィラーとして好適であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の繊維状カーボンの製造方法は、
導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させる工程(A)と、
前記繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離して繊維状カーボンを回収する工程(B1)、又は前記導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成して繊維状カーボンを生成させる工程(B2)と
を含むことを特徴とする。ここで、繊維状ポリマー構造体とは、導電性基板上において三次元連続構造をなしている繊維状ポリマーの構造体であり、繊維状カーボン構造体とは、導電性基板上において三次元連続構造をなしている繊維状カーボンの構造体である。
【0009】
本発明の繊維状カーボンの製造方法は、更に、前記繊維状カーボンを粉砕する工程(C)を含んでもよい。
【0010】
本発明の繊維状カーボンの製造方法の好適例においては、前記焼成を非酸化性又は弱酸化性雰囲気中で行う。
【0011】
本発明の繊維状カーボンの製造方法において、前記芳香環を有する化合物としては、ベンゼン環又は芳香族複素環を有する化合物が好ましく、アニリン、ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体が特に好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させた後、(1)該繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離したり、又は(2)導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成することで、導電性に優れ、直径が数十〜数百nmで、固体高分子型燃料電池の電極材料や、各種樹脂製品のフィラーとして好適な繊維状カーボンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の繊維状カーボンの製造方法は、導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させる工程(A)と、前記繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離して繊維状カーボンを回収する工程(B1)、又は前記導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成して繊維状カーボンを生成させる工程(B2)とを含むことを特徴とする。本発明の繊維状カーボンの製造方法は、紡糸工程及び不融化工程が不要であることに加え、炭化反応の温度範囲が広いため、焼成温度をコントロールすることにより、導電性、熱伝導性等の特性が異なる繊維状カーボンを製造することができ。また、得られる繊維状カーボンは、直径が数十〜数百nmと細く、また、3次元連続状で、枝分かれ構造を有し、従来の繊維状カーボンと異なる特性を示す。
【0014】
本発明の繊維状カーボンの製造方法は、工程(A)で、導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させる。ここで、使用する導電性基板は、導電性を有する限り特に限定されるものではなく、例えば、ステンレススチール、白金、カーボン等の良導電性物質からなる板や多孔質材等が挙げられ、カーボンペーパー等が好ましい。
【0015】
上記繊維状ポリマー構造体の原料として用いる芳香環を有する化合物としては、ベンゼン環を有する化合物や、芳香族複素環を有する化合物を挙げることができる。ここで、ベンゼン環を有する化合物としては、アニリン及びアニリン誘導体が好ましく、芳香族複素環を有する化合物としては、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体が好ましい。これら芳香環を有する化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記芳香環を有する化合物を電解重合して得られる繊維状ポリマー構造体は、一般に三次元連続構造を有し、直径が数十〜数百nmと細く、通常30nm〜数百nmであり、好ましくは40nm〜500nmであり、長さが通常0.5μm〜100mmであり、好ましくは1μm〜10mmである。
【0017】
上記電解重合においては、電解溶液中に原料の芳香環を有する化合物と共に、酸を混在させることが好ましい。この場合、酸の負イオンがドーパントとして合成される繊維状ポリマー構造体中に取り込まれ、導電性に優れた繊維状ポリマー構造体が得られ、この繊維状ポリマー構造体を用いることにより繊維状カーボンの導電性を更に向上させることができる。なお、電解重合の際に混在させる酸としては、種々のものを使用することができ、HBF4、H2SO4、HCl、HClO4等を例示することができる。ここで、該酸の濃度は、0.1〜3mol/Lの範囲が好ましく、0.5〜2.5mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0018】
電解重合により繊維状ポリマー構造体を得る場合には、芳香環を有する化合物を含む溶液中に作用極(導電性基板)及び対極となる一対の電極板を浸漬し、両極間に前記芳香環を有する化合物の酸化電位以上の電圧を印加するか、または該芳香環を有する化合物が重合するのに充分な電圧が確保できるような条件の電流を通電すればよく、これにより作用極(導電性基板)上に繊維状ポリマー構造体が生成する。この電解重合法による繊維状ポリマー構造体の合成方法の一例を挙げると、作用極及び対極としてステンレススチール、白金、カーボン等の良導電性物質からなる板や多孔質材等を用い、これらをH2SO4、HBF4等の酸及び芳香環を有する化合物を含む電解溶液中に浸漬し、両極間に0.1〜1000mA/cm2、好ましくは0.2〜100mA/cm2の電流を通電して、作用極側に繊維状ポリマー構造体を重合析出させる方法などが例示される。ここで、芳香環を有する化合物の電解溶液中の濃度は、0.05〜3mol/Lの範囲が好ましく、0.25〜1.5mol/Lの範囲が更に好ましい。また、電解溶液には、上記成分に加え、pHを調製するために可溶性塩等を適宜添加してもよい。
【0019】
次に、本発明の繊維状カーボンの製造方法は、工程(B1)として、前記繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離して繊維状カーボンを回収する、又は工程(B2)として、前記導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成して繊維状カーボンを生成させる。即ち、焼成工程と導電性基板からの分離工程の順序は、任意選択的である。なお、焼成工程及び分離工程の前に、作用極(導電性基板)上に得られたフィブリル状ポリマーを、水や有機溶剤等の溶媒で洗浄し、乾燥させることが好ましく、ここで、乾燥方法としては、特に制限されるものではないが、風乾、真空乾燥の他、流動床乾燥装置、気流乾燥機、スプレードライヤー等を使用した方法を例示することができる。
【0020】
上記焼成工程は、非酸化性又は弱酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。ここで、焼成条件としては、特に限定されるものではなく、最適導電率となるように設定すればよいが、特に高導電率を必要とする場合は、温度500〜3000℃、好ましくは600〜2800℃で、0.5〜6時間とすることが好ましい。なお、非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等を挙げることができ、場合によっては水素雰囲気とすることもできる。
【0021】
また、本発明の繊維状カーボンの製造方法では、分離工程により、導電性基板と繊維状カーボン構造体又は繊維状ポリマー構造体とを分離する。なお、導電性基板からの上記構造体の分離は、一般的な方法で行うことができる。
【0022】
上記の各工程を経て得られる繊維状カーボンは、枝分かれ構造を有し、直径が数十〜数百nmと細く、通常30nm〜数百nmであり、好ましくは40nm〜500nmであり、長さが通常0.5μm〜100mmであり、好ましくは1μm〜10mmであり、表面抵抗が通常106〜10-2Ωであり、好ましくは104〜10-2Ωであり、残炭率が通常95〜30%であり、好ましくは90〜40%である。該繊維状カーボンは、枝分かれ構造を有するため、粒状カーボンよりも導電性が高い。
【0023】
本発明の製法方法は、更に、前記繊維状カーボンを粉砕する工程(C)を含むでもよい。該粉砕工程(C)は、一般的な粉砕機を用いて実施することができる。繊維状カーボンを粉砕して得られ繊維状カーボンは、粉砕条件によっては、従来の繊維状カーボンにはない枝分かれ構造を維持しており、従来の繊維状カーボンに比べて補強性に優れる。
【0024】
本発明の方法で得られる繊維状カーボンは、導電性、熱伝導性等に優れるため、ポリマー等に配合し、複合化して、ポリマー等に導電性、熱伝導性等の機能を付与することができる。
【0025】
また、本発明の方法で得られる繊維状カーボンは、バインダーを用いることで、成形体とすることもでき、該成形体は、導電性、熱伝導性等に特に優れる。ここで、使用するバインダーは特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0026】
更に、本発明の方法で得られる繊維状カーボンは、表面積が広く、導電性に優れるため、固体高分子型燃料電池の電極の触媒層の担体して特に好適である。また、本発明の方法で得られる繊維状カーボンは、導電性に優れるため、その他の電池の電極材料としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
アニリンモノマー 0.5mol/LとHBF4 1.0mol/Lとを含む酸性水溶液中に、カーボンペーパー[東レ製, 導電性基板]からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて20mA/cm2の定電流を印加し、電気量が合計32C/cm2になるまで電解重合を行い、ポリアニリンを作用極上に電析させた。得られたポリアニリンをイオン交換水で洗浄し、100℃で1時間乾燥した後、カーボンペーパーごとAr雰囲気中7℃/分の昇温速度で900℃まで加熱し、その後900℃で1時間保持して焼成処理した。更に、Ar雰囲気中20℃/分の昇温速度で1800℃まで加熱し、その後1800℃で2時間保持して焼成を完了させた。冷却後、導電性基板(カーボンペーパー)上に生成した繊維状カーボン構造体を導電性基板から削り落とし、粉砕機により30分間粉砕処理を行い、繊維状カーボンを得た。
【0029】
(実施例2)
アニリンモノマー 0.5mol/LとHBF4 1.0mol/Lとを含む酸性水溶液中に、カーボンペーパー[東レ製, 導電性基板]からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて20mA/cm2の定電流を印加し、電気量が合計32C/cm2になるまで電解重合を行い、ポリアニリンを作用極上に電析させた。得られたポリアニリンをイオン交換水で洗浄し、100℃で1時間乾燥した後、カーボンペーパーごとAr雰囲気中7℃/分の昇温速度で900℃まで加熱し、その後900℃で1時間保持して焼成処理した。更に、Ar雰囲気中20℃/分の昇温速度で2300℃まで加熱し、その後2300℃で2時間保持して焼成を完了させた。冷却後、導電性基板(カーボンペーパー)上に生成した繊維状カーボン構造体を導電性基板から削り落とし、粉砕機により30分間粉砕処理を行い、繊維状カーボンを得た。
【0030】
(比較例1)
カーボンペーパー[東レ製, 導電性基板]を粉砕機により30分間粉砕処理を行い、繊維状カーボンを得た。
【0031】
<繊維状カーボンの評価>
上記実施例及び比較例で得られた繊維状カーボンについて、カンタクローム社製の全自動真密度測定装置により真密度を、また、ダイヤインスツルメント社製の粉体抵抗測定装置により体積抵抗率を、また、SEM写真より繊維径を評価した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、本発明の方法に従って製造された繊維状カーボンは、導電性に優れ、また、通常の繊維状カーボンに比べて繊維径が小さいことが確認された。また、焼成温度を変えることにより、新密度や導電性がことなる繊維状カーボンが得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合して繊維状ポリマー構造体を生成させる工程(A)と、
前記繊維状ポリマー構造体を焼成して繊維状カーボン構造体を生成させ、該繊維状カーボン構造体を前記導電性基板から分離して繊維状カーボンを回収する工程(B1)、又は前記導電性基板から前記繊維状ポリマー構造体を分離して繊維状ポリマーを回収し、該繊維状ポリマーを焼成して繊維状カーボンを生成させる工程(B2)と
を含むことを特徴とする繊維状カーボンの製造方法。
【請求項2】
更に、前記繊維状カーボンを粉砕する工程(C)を含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維状カーボンの製造方法。
【請求項3】
前記焼成を非酸化性又は弱酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1に記載の繊維状カーボンの製造方法。
【請求項4】
前記芳香環を有する化合物がベンゼン環又は芳香族複素環を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状カーボンの製造方法。
【請求項5】
前記芳香環を有する化合物が、アニリン、ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の繊維状カーボンの製造方法。

【公開番号】特開2008−81854(P2008−81854A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260291(P2006−260291)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】