説明

繊維複合材料製部品の製造方法及びその製造方法のための中間生産物

繊維複合材料製部品の製造方法であって、この方法においては、複数枚の強化繊維層(4)を、縫目(6)が所定の糸張力を付与された糸(6)で縫着し互いに結合させて、強化繊維プレフォーム(2)を製作し、その縫着により前記強化繊維プレフォーム(2)を圧縮するようにしており、また、前記強化繊維プレフォーム(2)を射出成形型の中に装填し、該射出成形型を閉塞し、該射出成形型の中へ樹脂を射出注入して該樹脂を硬化させるようにしている。この方法の特徴は、先ず、複数層の強化繊維層(4)を縫着する際に、前記強化繊維プレフォーム(2)を予圧縮寸法にまで予圧縮し、続いて、前記射出成形型の中に装填した前記溶加繊維プレフォーム(2)を、前記射出成形型の閉塞に際して、最終圧縮寸法(D2)にまで最終圧縮し(F)、前記最終圧縮が行われることにより、所定の糸張力が付与されていた前記縫目(6)に張力減失が生じるようにすることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した種類の繊維複合材料製部品の製造方法と、その製造方法のための中間生産物とに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維複合材料製部品を製造するための公知の製造方法として、次のような方法がある。その製造方法においては、複数枚の強化繊維層を、所定の糸張力を付与した糸で縫着することによって互いに縫い合わせて、強化繊維プレフォームを製作し、その縫着によりその強化繊維プレフォームを圧縮する。そして、多数枚の強化繊維プレフォームを射出成形型の中に装填し、その射出成形型を閉塞し、その射出成形型の中へ樹脂を射出注入してその樹脂を硬化させる。この公知の方法では、縫着により強化繊維プレフォームを圧縮する際に、最終圧縮寸法である目標厚さにまで、或いは、略々その厚さにまで圧縮するようにしている。
【0003】
しかしながら、この従来の方法には、様々な不都合が付随している。先ず、縫着により圧縮する際に、強化繊維を強く折り曲げてしまい、破断させてしまうことすらあり、それによって、繊維複合材料製部品の強度が部分的に著しく低下することがある。このことは特に、軽量であるばかりでなく高強度であることも要求される、航空機産業ないし宇宙航空産業において繊維複合材料製部品が用いられる場合に、否定的に評価されることになる。更に、多数枚の強化繊維プレフォームを、正しい順序で、きちんと積み重ねて射出成形型の中に装填する作業は、高コストで、面倒で、しかも、時間のかかる作業である。また更に、容易に理解されることであるが、射出成形型を閉塞しようとする際に、支障が生じることがしばしばある。そして、射出成形型を適切に閉塞することができない場合には、樹脂が漏出するおそれや、強化材料に樹脂が完全に含浸しないおそれが生じる。
【0004】
更に、繊維複合材料製部品を製造するための公知の製造方法として、RTM法(レジントランスファ成形法)を用いた方法があり、これは独立した圧縮工程において、強化繊維プレフォーム(以下、単にプレフォームという)を製作するようにしたものである。この種の製造方法の一例を、図4に模式図で示した。図4の方法において、プレフォーム12を製作するには、少量の樹脂を含浸させた1枚または複数枚の強化繊維層を、製造しようとする部品に合わせて製作しておいた賦形用型枠上に敷設し、樹脂を硬化させるようにしており、これによって、ある程度の自立強度を有するプレフォーム12が得られる(S1)。この方式で多数枚のプレフォーム12を製作する。続いて、それら多数枚のプレフォーム12を、正しい順序で積み重ねるようにして、射出成形型14の中に装填する(S2)。その射出成形型14を閉塞し(S3)、その射出成形型14の中を真空状態にないし減圧状態にして(S4)、その射出成形型14の中へ樹脂16を射出注入し(S5)、そしてその注入した樹脂16を硬化させる(S6)。続いて、以上によって製造された繊維複合材料製部品18を、射出成形型14から取出す(S7)。
【0005】
この公知の方法でも、多数枚の強化繊維プレフォームを、厳密に定められた順序で積み重ねるようにして射出成形型の中に装填する作業は、比較的高コストで、面倒で、時間のかかる作業であり、また、この方法でも、射出成形型を閉塞しようとする際に、上述した不都合を生じるおそれがあることが問題となっている。
【0006】
特許文献1により公知となっている繊維複合材料製部品の製造方法においては、複数枚の強化繊維層並びに局所的強化材を、糸で縫着することによって互いに縫い合わせて結合させ、その全体を単一体として取扱うことのできる強化繊維プレフォームを製作するようにしている。局所的強化材は、強化繊維プレフォームの縁部にのみ縫着するようにしている。この縫着により、複数枚の強化繊維層並びに局所的強化材を互いに縫い合わせることで、輸送、保管、並びに、後に行うプレス成型機による立体的即ち三次元的な成形工程において、強化繊維層の繊維がずれたり折れ曲がったりするのを防止するようにしている。尚、プレス成型機による三次元的な成形工程並びに貼り合わせ工程は、高圧、高温下で行われる。
【0007】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第196 08 127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的、即ち、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上に説明した種類の繊維複合材料製部品の製造方法であって、従来の方法に付随していた短所をできる限り軽減すると共に、機械的特性に優れた高品質で高価値の繊維複合材料製部品の製造を可能にする、繊維複合材料製部品の製造方法を提供することにある。また更に、かかる製造方法に用いるのに適した中間生産物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的は、その第1の態様においては、請求項1に記載した特徴を備えた本発明に係る方法により達成される。
【0010】
その方法とは、
複数枚の強化繊維層を、縫目が所定の糸張力を付与された糸で縫着し互いに結合させて、強化繊維プレフォームを製作し、その縫着により前記強化繊維プレフォームを圧縮し、
前記強化繊維プレフォームを射出成形型の中に装填し、該射出成形型を閉塞し、該射出成形型の中へ樹脂を射出注入して該樹脂を硬化させる、
繊維複合材料製部品の製造方法において、
先ず、複数層の強化繊維層を縫着する際に、前記強化繊維プレフォームを予圧縮寸法にまで予圧縮し、
続いて、前記射出成形型の中に装填した前記溶加繊維プレフォームを、前記射出成形型の閉塞に際して、最終圧縮寸法にまで圧縮し、
前記最終圧縮が行われることにより、所定の糸張力が付与されていた前記縫目(すなわち、2枚以上の互いに隣接し或いは互いに重ね合わされた強化繊維層同士を縫い合わせ、また場合によっては、強化繊維プレフォーム同士を縫い合わせている縫目)に張力減失が生じるようにする、
ことを特徴とする方法である。
また、前記最終圧縮は、製造しようとする部品を構成するための個々の強化繊維プレフォームの繊維配列に応じて、一方向圧縮として実行することもあれば、多方向圧縮として実行することもある。また、強化繊維プレフォームに対して実行することもあれば、複数枚の強化繊維プレフォームから形成されたプレフォーム・サブユニットに対して実行することもあるが、ただし、それらの場合には、一様な方向の圧縮として実行する。
【0011】
縫い合わせる複数枚の強化繊維層は、互いに同一の繊維組織、又は繊維構成のものであることもあれば、それらが互いに異なるものであることもある(例えば、ガラス繊維布であることもあれば、炭素繊維布であることもあり、また、繊維配列を単一方向としたものであることもある)。そして、そのような複数枚の強化繊維層を縫い合わせるには、それら強化繊維層を乾燥状態で縫い合わせることが好ましい。即ち、定着材であって後に母材を形成することになる樹脂を強化繊維層に含浸させる前に、それら強化繊維層を縫い合わせるようにするのがよい。本発明に係る方法においては、基本的に、繊維複合材料製部品を製造する際には、複数枚の繊維強化層を縫い合わせて製作した1枚の強化繊維プレフォームを射出成形型の中に装填して、或いは、複数枚の強化繊維プレフォームを縫い合わせて製作した1枚のプレフォーム・サブユニットを射出成形型の中に装填して、その繊維複合材料製部品を製造するようにしているが、ただし、所定枚数の、即ち複数枚の強化繊維プレフォームないしプレフォーム・サブユニットを射出成形型の中に装填して、繊維複合材料製部品を製造するようにしてもよく、これについては後に更に詳細に説明する。
【0012】
繊維複合材料製部品を製造するために用いる強化繊維プレフォームは、製造しようとする部品ないしはその部品部分の形状に合わせて、また、使用する射出成形型の形状に合わせて製作するものである。ただし、複数枚の強化繊維プレフォームを使用する場合に、それら強化繊維プレフォームが互いに同一ないし同様の形状であるとは限らない。製造しようとする繊維複合材料製部品の形状によっては、その部品の内部を形成するために、様々な形状の強化繊維プレフォームを使用することもあり、また、複数枚の強化繊維プレフォームから成るプレフォーム・アセンブリやプレフォーム・サブユニットとして、様々な形状のものを使用することがある。また、複数枚の強化繊維プレフォームを射出成形型の中に装填する際には、その便宜を考慮して、適切な順序で、或いは所定の配列形態ないし配置形態に従って装填して行くようにする。尚、このようにして装填する複数枚の強化繊維プレフォームないし複数枚のプレフォーム・アセンブリは、射出成形型の中で互いに完全に重なり合うように装填することもあれば、部分的にのみ重なり合うように装填することもある。
【0013】
本発明に係る方法によれば、従来の方法に付随していた様々な短所を、簡明で、効果的で、しかも有利な方式により、最大限に軽減することができ、また、機械的特性に優れた高品質で高価値の繊維複合材料製部品を製造することができる。
【0014】
ここに提示する新規な製造方法の発明者の認識するところによれば、従来の方法においては、複数枚の強化繊維層を縫い合わせる縫着の段階で既に、それら強化繊維層を圧縮して、最終厚さ即ち最終圧縮寸法にしていたため、特に縫目の部分において、強化繊維を強く折り曲げてしまい、破断させてしまうことすらあった。また、縫着の際には必然的に、縫目の糸穴が形成され、その糸穴は、所与の工程が進行して行く際に、形成された糸穴が元に戻ることはなかった。更に、強化繊維を折り曲げてしまうことによって生じる不都合に加えて、縫目の糸穴の部分では、強化繊維プレフォームの外面に比較的大きな漏斗形の窪み部が形成され、これに続いて樹脂の射出注入を行ったときに、繊維で強化されていないために非常に脆弱で破損しやすい樹脂溜まりがその窪み部に形成されるため部品の強度にとって有害であった。
【0015】
これに対して、本発明に係る解決方法によれば、先ず、縫着によって予圧縮が行われることにより、複数枚の強化繊維層が、確実に、十分強固に、互いにずれることのないように結合されて、少なくとも1つの強化繊維プレフォームの形態とされ、それによって、射出成形型の中に容易に装填することができるようになる。また、その強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)は、この段階ではまだ、最終厚さないし最終材料密度になっておらず、後に射出成形型の閉塞に際して更に圧迫されることによってはじめて、最終圧縮寸法にまで最終圧縮される。これによって、強化材料の厚さが、最終厚さになる。
【0016】
容易に理解されるように、先に実行した縫着の工程において所定の糸張力が付与された縫目に、この段階で張力減失が生じる。張力減失が生じる理由は、最終圧縮を行ったことによって、強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)の厚さが更に減少したにもかかわらず、糸の長さが変化していないからである。この張力減失の効果は、当然のことながら、緩み易い糸を使用することによって強化される。また、この糸の張力減失の結果、縫目の部分の糸により、あるいは、その部分に形成される糸穴により、強化繊維が締め付けられて折り曲げられた状態が解消し、或いは、それまでの強く締め付けられて折り曲げられた状態が緩和される。そのため、不都合な繊維のずれや、繊維の破断などまでも、効果的に回避することができる。
【0017】
従って、複数枚の強化繊維層を縫い合わせて形成された強化繊維プレフォームの断面を見れば、張力減失を生じた縫目(現行の一般的な縫着法においては、縫目は、上糸と下糸とから成る)の延在経路の形状は、略々矩形を呈するようになる。そのため、従来の方法を用いたときには、強化繊維プレフォームの外面に(またはプレフォーム・サブユニットの外面及び構造中に)形成されていた比較的大きな漏斗形の窪み部は、本発明の方法によれば、もはや形成されない。従って、続いて樹脂を射出注入したときに、繊維で強化されていない大きな樹脂溜まりが形成されるということもない。そのため、本発明に係る方法によって製造した繊維複合材料製部品の強度は、非常に優れたものとなる。
【0018】
尚、以上に説明した数々の利点は、かなり多くの枚数の強化繊維層を互いに縫い合わせて1枚の強化繊維プレフォームにした場合にも得られるものである。
【0019】
以上によって、繊維複合材料製部品を製造するために必要とされる強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)の枚数が、比較的少なくて済み、そのため、それらを射出成形型の中に整然と積み重ねて装填する作業が、容易に、迅速に、且つ経済的に行えるようになっている。また更に、強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)を僅かな枚数しか必要としないため、射出成形型の中で強化繊維プレフォームの位置が大きくずれることがなく、それによって、射出成形型を閉塞する際に、強化繊維やプレフォームの一部がはみ出て射出成形型が閉塞しないという事態が発生するおそれを減少させており、ひいては、強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)の仕上げ処理の必要性もなくしている。更に、予圧縮の結果として生じる予圧縮寸法は、強化材料の最終厚さ寸法とは異なるため、強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)が圧縮容易な状態にあり、それによって、射出成形型の閉塞も容易化されている。
【0020】
縫着工程の段階で最終寸法にまで圧縮した強化繊維プレフォームや、樹脂を含浸させた強化繊維層を独立した圧縮工程で圧縮して製作したプレフォームは、射出成形型に装填したときに、その射出成形型の閉塞を阻害することがあり、なぜならば、そのようにして製作したプレフォームの最終厚さ寸法は、常に生じる製造公差が存在するために、射出成形型の閉塞寸法と同一にはなり得ないからである。これに対して、本発明に係る方法では、射出成形型を閉塞する際に、その中に装填されている強化繊維プレフォームが、容易に圧縮される。このことは、射出成形型の閉塞を何ら支障なく行えるようにして、射出成形型から樹脂が漏出するおそれ、並びに、強化材料への樹脂の浸透不足が発生するおそれを軽減するのみならず、更に、製造しようとする繊維複合材料製部品の強度を損ねることなく、有利な方式で、また寸法許容度の大きな方式で、繊維複合材料製部品を製造することを可能にするものである。
【0021】
本発明に係る方法の好適且つ有利な実施の形態に関する更なる特徴としては、従属請求項である請求項2乃至8に記載した特徴がある。
【0022】
本発明の目的は、その第2の態様においては、請求項9に記載した特徴を備えた中間線産物によって達成される。
【0023】
この中間生産物は、請求項1乃至8の何れか1項記載の方法などに用いるための中間生産物において、少なくとも1枚の強化繊維プレフォームを含み、該強化繊維プレフォームは、所定の糸張力が付与された縫目で縫着されて互いに縫い合わされた複数枚の強化繊維層から成り、該強化繊維プレフォームは、その縫着により、予圧縮寸法にまで予圧縮されており、更に、該強化繊維プレフォームは、最終圧縮寸法にまで最終圧縮することができ、その最終圧縮が行われることにより、所定の糸張力が付与されていた前記縫目に張力減失が生じるようにしてあることを特徴とする中間生産物である。尚、当然のことであるが、本発明に関して縫目というとき、それは、必ずしもただ1本の縫目を意味するのではなく、実施の形態によって、1本の縫目であることもあれば、複数本の縫目であることもある。
【0024】
本発明に係る中間生産物によれば、本発明に係る方法に関連して上で説明した様々な利点と実質的に同様の利点が得られる。
【0025】
本発明に係る中間生産物の好適な実施の形態に係る特徴としては、従属請求項である請求項10に記載した特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態と、本発明を実施する上での細部に関する特徴と、本発明の更なる利点とについて、詳細に説明し明らかにして行く。
【0027】
図1に示したのは、本発明に係る中間生産物の模式的断面図であり、この中間生産物が本発明に係る方法の第1段階にあるときの状態を示したものである。図2に示したのは、図1に示した本発明に係る中間生産物の模式的断面図であり、この中間生産物が本発明に係る方法の第2段階にあるときの状態を示したものである。これらの図から明らかなように、本発明に係る中間生産物は少なくとも1枚の強化繊維プレフォーム2により構成されており、この強化繊維プレフォーム2は、互いに積み重ねられた複数枚の強化繊維層4を含むものである。それら複数枚の強化繊維層4は、縫着された糸(図示例では上糸及び下糸)である縫目6によって、互いに縫着されており、即ち、縫い合わされている。この縫着は、縫目6に所定の糸張力を付与した状態で行われ、それによって、強化繊維プレフォーム2は予圧縮される。この予圧縮により、強化繊維プレフォーム2の厚さは、強化材厚さ寸法である、予圧縮寸法D1とされている(図1参照)。強化繊維プレフォーム2は、その厚さが予圧縮寸法D1となっている状態から、そして、縫目6に所定の糸張力が付与されている状態から、更に圧縮される。この圧縮は、最終圧縮であり、この最終圧縮によって、強化繊維プレフォーム2の厚さは、最終圧縮寸法D2とされ、また、縫目は、図1に示した状態に対して、張力減失状態というべき状態になる(図2参照)。尚、本発明に係る中間生産物としては、予圧縮された状態にある2枚以上の繊維強化プレフォーム2が互いに縫着されて形成された、1枚の予圧縮されたプレフォーム・サブユニットの形態のものも含まれる。
【0028】
本発明に係る中間生産物は、本発明に係る方法において、繊維複合材料製部品を製造するために用いるためのものである。
【0029】
本発明に係る方法によれば、先ず最初に、複数枚の強化繊維層4を製作し、それら強化繊維層4は、製造しようとする繊維複合材料製部品の形状に合わせて、また、本発明に係る方法において用いる射出成形型に合わせて、形成するものである。続いて、それら複数枚の強化繊維層4を縫目6によって縫着して、互いに縫い合わせることにより、強化繊維プレフォームを製作する。複数枚の強化繊維層4を縫い合わせるこの縫着の工程は、例えば、それら強化繊維層4に適当な圧力を作用させた状態で行い、また、適当な縫製機によって糸に調節可能な糸張力を付与して行うものであり、また、この縫着を行うことによって、強化繊維プレフォーム2を予圧縮して、その厚さを先ず、予圧縮寸法D1にする。この予圧縮寸法D1は、最終的な強化材厚さとは異なる。そのため、この段階では、強化繊維プレフォーム2は、大きな力を加えなくとも更に圧縮することのできる状態にある。この状態を示したのが図1であり、縫着が完了した時点で、縫目6は、所定の糸張力が付与された状態にあり、この糸張力の大きさは、縫着のためのパラメータと、互いに縫い合わされた複数枚の強化繊維層4が、復元力の大きさとによって、決まるものである。
【0030】
必須の要件ではないが、この実施の形態では、複数枚の強化繊維層4を縫い合わせるための縫着と、その縫着によって製作される各々の強化繊維プレフォーム2の予圧縮とを、緩み易い性質を備えた同じ糸によって行うようにしている。これによって、後続の段階において、縫目6の張力減失が良好に生じるようにしている。
【0031】
基本的には、予圧縮前、予圧縮中、または予圧縮後の段階で、仮止め手段によって、複数枚の強化繊維層4を1箇所または複数箇所で互いに仮止めしておき、それら強化繊維層4を相互に固定しておくようにするのもよい。仮止め手段としては、例えば熱可塑性樹脂などを用いることができる。ただし、このような仮止めは、通常、必ずしも必要なものではない。
【0032】
各々の強化繊維プレフォーム2は、略々図1に示される。こうして製作した複数枚の強化繊維プレフォーム2は、それらを個別のプレフォームの形態のままで、次の工程へまわすこともあり、或いはまた、射出成形型の中に装填するのに先立って、2枚以上の強化繊維プレフォームを互いに縫い合わせて、予圧縮されたプレフォーム・サブユニットとすることもある。
【0033】
続いて、各々が図1に示した形態となっている複数枚の強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)を、閉塞可能な射出成形型の中に、緩く装填するようにして、次々と積み重ねて装填する。射出成形型としては例えば、下型と、この下型に組付ける上型とから成る射出成形型などを用いることができる。続いて、射出成形型を閉塞する。このとき、上型が、装填されている複数枚の強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)を圧迫して、それらを、強化繊維の主として延在方向に対して略々垂直な方向に更に圧縮する。図2に示した力ベクトルFは、この上型による更なる圧縮を表したものである。このように、射出成形型を閉塞することによって、強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)を最終圧縮して、その厚さ寸法を、最終圧縮寸法D2(ここで、D2<D1である)にするようにしている。この最終圧縮寸法D2は、予圧縮寸法D1の約70〜90%とすることが好ましく、特に75〜80%とすることが好ましい。ただし、用途によっては、かかる数値範囲から数%程度逸脱した値とすることもあり得る。そして、この最終圧縮を行うことによって、それまで所定の糸張力が付与されていた各々の強化繊維プレフォーム2の縫目6に、張力減失が発生する。図2は、1枚の強化繊維プレフォーム2における、前記状態を示した図である。
【0034】
図1と図2とを見比べれば、本発明の根本原理である張力減失がいかなるものであるかを容易に理解することができる。予圧縮した状態(図1)では、互いに縫着された複数枚の強化繊維層4における強化繊維は、かなり強い糸張力が付与されている縫目6によって、比較的強く締め付けられて折れ曲がっている。この縫目6の隣り合う2つの縫目K1とK2との間に延在している部分は、弓形の形状を呈している。また、この縫目6の隣り合う2つの縫目K1とK2との間に延在している部分の長さL(この長さは、縫着を実施する際に設定する縫目幅Wに応じて決まるものである)は、実質的に一定である。そして、最終圧縮を行うことにより、各々の強化繊維プレフォーム2の(または、各々のプレフォーム・サブユニットの)厚さが減少して、予圧縮寸法D1から最終圧縮寸法D2になる。
【0035】
しかるに、隣り合う2つの縫目K1とK2との間の間隔、並びに、それら2つの縫目K1とK2との間を延在している部分の長さLは、最終圧縮の前後で変化することなく、同じ間隔のまま、同じ長さのままである。そのため、縫目6の当該部分の長さLが、最終圧縮寸法M2に関連した、ある程度の余分な長さを含んだものになる。そのため、それまで比較的強い糸張力が付与されていた縫目6が、幾分緩んだ状態になることで、かなりの張力減失が生じる。また、特に縫目の近傍部分において、それまで強く圧迫されて折れ曲がっていた強化繊維は、この縫目6の張力減失によって、縫着が行われる前と殆ど同じ状態にまで復元することができる。張力減失を生じた縫目6は、その延在経路の形状が、略々矩形を呈するようになる。また更に、このことから明らかなように、強化繊維プレフォーム2の外面に(またはプレフォーム・サブユニットの外面及び構造中に)形成される窪み部は、縫目の糸穴の近傍領域だけにしか形成されなくなり、従って、非常に小さな窪み部しか形成されなくなる。そのため、そこには、大きな樹脂溜まりは形成されず、それに伴う不都合も生じなくなる。
【0036】
最終圧縮を行ったならば、続いて、射出成形型の中へ、例えばエポキシ樹脂などの適当な樹脂を射出注入し、そして、例えば加熱下において、その樹脂を硬化させる。樹脂を硬化させたならば、こうして製造された繊維複合材料製部品を、射出成形型から取出し、そして必要ならば、更なる加工にまわすようにする。
【0037】
本発明に係る方法を用いることによって、例えば航空機用ドアの操作ハンドルなどをはじめとする様々な繊維複合材料製部品を、軽量で高強度の部品として製造することが可能である。
【0038】
当然のことであるが、本発明に係る方法を実施する上で必要な強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)の枚数は、製造しようとする繊維複合材料製部品の種類によって、様々に異なったものとなり得る。製造しようとする繊維複合材料製部品ないしその部品部分に対応して射出成形型の中に装填すべき強化繊維層4の総枚数に関して、本発明に係る方法を実施する上では、射出成形型の中に装填する各強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)が、装填する必要のある強化繊維層の総枚数(即ち当該部品ないし当該部品部分を製作するために必要な強化繊維層の総枚数)の平均して10%〜25%、特に10%〜20%となるようにすることが好ましい。この場合、例えば、製造しようとする部品が、合計100枚の強化繊維層4を積み重ねることを必要とするものであるならば、4〜10枚、ないしは、5〜10枚の強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)を積み重ねるだけで、その部品を製造することができる。
【0039】
また特に、例えば、航空機のドアの操作レバーを製造する場合に、本発明に係る方法を用いれば、必要とされる強化繊維プレフォーム(またはプレフォーム・サブユニット)の枚数が7〜8枚で済むのに対して、公知の方法を用いたならば、必要とされるプレフォームの枚数が約100枚に達したりもする。従って、本発明に係る方法を採用することによって、優れた作業性及び経済性が達成できると共に、機械的特性も向上させることができる。更に、射出成形型の中に装填する強化繊維プレフォーム2(またはプレフォーム・サブユニット)の枚数が減少するため、それらの位置を、相対的にずらす必要がある場合には、それも容易に行うことができる。
【0040】
図3は、比較のために、従来の方法を用いて製造した繊維複合材料製部品の部分領域を示した大概略化した模式的断面図であり、この繊維複合材料製部品は、複数枚の強化繊維プレフォーム2で構成されており、それら強化繊維プレフォーム2は、強化繊維層4を縫目6で縫着することによって、互いに縫い合わされている。同図から明らかなように、ここでは、強化繊維が強く折り曲げられていて、縫目の糸穴の近傍領域に比較的大きな漏斗形の窪み部8が形成されており、更にその窪み部8に、脆弱で破損しやすい樹脂溜まり10(ハッチングで示した)が形成されている。
【0041】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。上述した実施の形態は、本発明の主題を概括的に説明するためのものに過ぎない。本発明は、その保護範囲内において、以上に具体的に説明した実施の形態以外の様々な形態ともなし得るものである。特に、最終圧縮は、射出成形型が閉塞された後に行われるようにしてもよい。そのようにする場合には、例えば、射出成形型の内部に、例えば加圧可能な膜体や、移動可能な壁体を配設して、それらを、射出成形型を閉塞状態にした後に作動させて、装填してある強化繊維プレフォームに圧力を印加してそれらを最終圧縮するようにすればよい。従って、本発明において、射出成形型の閉塞に際しての最終圧縮なるものは、より広く解釈されるべきものである。
【0042】
特許請求の範囲の記載に記入した参照符号、発明の詳細な説明の記載、並びに、図面の記載は、本発明の理解を容易にすることを目的としたものであり、本発明の権利範囲は、それらによって限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る中間生産物の大概略化した模式的断面図であり、この中間生産物が本発明に係る方法の第1段階にあるときの状態を示した図である。
【図2】図1に示した本発明に係る中間生産物の大概略化した模式的断面図であり、この中間生産物が本発明に係る方法の第2段階にあるときの状態を示した図である。
【図3】第1の従来の方法を用いて製造した繊維複合材料製部品の部分領域を示した高度に簡略化した模式的断面図である。
【図4】繊維複合材料製部品を製造するための従来の第2の公知の方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0044】
2 強化繊維プレフォーム
4 2の強化繊維層
6 縫目/糸
8 漏斗形の窪み部(従来例)
10 樹脂溜まり(従来例)
12 プレフォーム(従来例)
14 射出成形型(従来例)
16 樹脂(従来例)
18 部品(従来例)
D1 予圧縮寸法
D2 最終圧縮寸法
F 最終圧縮のための押圧力
K1 6の縫目
K2 6の縫目
L K1とK2との間の糸の部分の長さ
S1、S7 工程(従来例)
W 6の縫目幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の強化繊維層(4)を、縫目(6)が所定の糸張力を付与された糸(6)で縫着し互いに結合させて、強化繊維プレフォーム(2)を製作し、その縫着により前記強化繊維プレフォーム(2)を圧縮し、
前記強化繊維プレフォーム(2)を射出成形型の中に装填し、該射出成形型を閉塞し、該射出成形型の中へ樹脂を射出注入して該樹脂を硬化させる、
繊維複合材料製部品の製造方法において、
先ず、複数層の強化繊維層(4)を縫着する際に、前記強化繊維プレフォーム(2)を予圧縮寸法(D1)にまで予圧縮し、
続いて、前記射出成形型の中に装填した前記溶加繊維プレフォーム(2)を、前記射出成形型の閉塞に際して、最終圧縮寸法(D2)にまで最終圧縮し(F)、
前記最終圧縮が行われることにより、所定の糸張力が付与されていた前記縫目(6)に張力減失が生じるようにする、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記最終圧縮寸法(D2)が、前記予圧縮寸法(D1)の約70〜90%であり、また特に75〜80%であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
複数枚の強化繊維層(4)を縫い合わせる縫着と、前記強化繊維プレフォーム(2)の予圧縮とを、緩み易い性質を有する糸によって行うようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
予圧縮前、予圧縮中、または予圧縮後の段階において、止め手段によって、複数枚の強化繊維層(4)を1箇所または複数箇所で互いに仮止めしておくことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の方法。
【請求項5】
複数枚の予圧縮された強化繊維プレフォーム(2)を、前記射出成形型の中に装填するのに先立って、互いに縫い合わせて、予圧縮されたプレフォーム・サブユニットとすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
予圧縮された強化繊維プレフォーム(2)または予圧縮されたプレフォーム・サブユニットを、前記射出成形型の中に、緩く装填するようにして装填することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
製造しようとする繊維複合材料製部品ないしその部品部分に対応して前記射出成形型の中に装填すべき強化繊維層(4)の総枚数に関して、射出成形型の中に装填する強化繊維プレフォーム(2)またはプレフォーム・サブユニットのそれぞれが、かかる強化繊維層(4)の総枚数の平均して10%〜25%、特に10%〜20%となるようにすることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
製造する繊維複合材料製部品が、航空機のドアの操作レバーであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項記載の方法などに用いるための中間生産物において、
少なくとも1枚の強化繊維プレフォーム(2)を含み、該強化繊維プレフォームは、所定の糸張力が付与された縫目(6)で縫着されて互いに縫い合わされた複数枚の強化繊維層(4)から成り、該強化繊維プレフォームは、その縫着により、予圧縮寸法(D1)にまで予圧縮されており、更に、該強化繊維プレフォームは、所定の糸張力が付与されていた前記縫目(6)に張力減失が生じるように最終圧縮寸法(D2)にまで最終圧縮(F)可能であることを特徴とする中間生産物。
【請求項10】
2枚以上の予圧縮された強化繊維プレフォーム(2)が互いに縫い合わされて、予圧縮されたプレフォーム・サブユニットとされていることを特徴とする請求項9記載の中間生産物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−504029(P2007−504029A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529919(P2006−529919)
【出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005649
【国際公開番号】WO2004/103665
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(500228126)ユーロコプター・ドイッチェランド・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (4)
【Fターム(参考)】