説明

繊維集合体

【課題】 二酸化炭素発生量を低減できるなど環境に優しく、かつ石油系由来のポリマーを使用した製品と比較してバイオマス由来のポリマーを使用した製品が劣る耐摩耗性等の欠点を解消できる繊維集合体を提供する。
【解決手段】 横断面形状が芯鞘形状を呈し、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維で構成されており、漁業用、農業用、雑貨用のうち、いずれかの用途に供されるものである繊維集合体。複合繊維の鞘部はポリエチレンテレフタレート、芯部はポリ乳酸であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来のポリマーを一成分とする複合繊維で構成され、漁業用、農業用、雑貨用として好適な繊維集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としているが、近年、化石資源はその資源不足が懸念されるだけでなく、二酸化炭素発生量についても社会に大きな影響を与えている。二酸化炭素固定化は地球温暖化防止に効果があることが期待され、特に二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書に対応するために、二酸化炭素固定化物質は非常に注目度が高く、バイオマス由来物質の積極的な使用が望まれている。
【0003】
バイオマス由来の合成繊維や合成樹脂を燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、重要視する傾向となっている。しかしながら、バイオマス由来の合成繊維の多くは、耐摩耗性が従来の汎用合成繊維よりも劣っている。
【0004】
また、石油系由来のポリマーとバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維については、ポリ乳酸系樹脂を芯部に、芳香族ポリエステル系樹脂を鞘部に配した複合繊維が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかし、これらは原糸に関するもので、具体的な用途については詳細が記載されておらず、各用途についての要求特性についても開示さえていない。
【0005】
一方、漁業用繊維集合体については、その形態や縫製方法について各種のものが開示されている(例えば特許文献4〜6参照)。また、農業用繊維集合体についても、その形態や縫製方法について各種のものが開示されている(例えば特許文献7〜9参照)。さらに、雑貨用繊維集合体についても、その形態や縫製方法について各種のものが開示されている(例えば特許文献10〜12参照)。しかし、これらの繊維集合体にはいずれも一般の合成繊維が使用されており、環境に配慮されたものではない。
【0006】
また、バイオマス系の繊維を使用して漁業用繊維集合体を作製する方法についても開示されている(例えば特許文献13、14参照)。次に、バイオマス系の繊維を使用して農業用繊維集合体を作製する方法についても開示されている(例えば特許文献15参照)。さらに、バイオマス系の繊維を使用して雑貨用繊維集合体を作製する方法についても開示されている(例えば特許文献16参照)。
【0007】
しかし、これらの繊維集合体には、ポリ乳酸繊維が用いられているので耐摩耗性が不良であり、環境面に配慮し、かつ耐摩耗性にも優れた漁業用、農業用、雑貨用の繊維集合体は未だ提案されていない。
【特許文献1】特開2004−353161号公報
【特許文献2】特開2005−187950号公報
【特許文献3】特開2005−232627号公報
【特許文献4】特開平7−135872号公報
【特許文献5】特開平8−209512号公報
【特許文献6】特開平8−144125号公報
【特許文献7】特開平6−253690号公報
【特許文献8】特開平8−176934号公報
【特許文献9】特開平9−275824号公報
【特許文献10】特開2000−17578号公報
【特許文献11】特開2002−363838号公報
【特許文献12】特開2003−89982号公報
【特許文献13】特開平6−264377号公報
【特許文献14】特開2005−273082号公報
【特許文献15】特開平6−264343号公報
【特許文献16】特開2005−240219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みて行われたもので、従来の石油系由来のポリマーだけからなる合成繊維ではなく、バイオマス由来のポリマーを少なくとも一部に含有した複合繊維を使用することで、二酸化炭素発生量を低減できるなど環境に優しく、かつ石油系由来のポリマーを使用した製品と比較してバイオマス由来のポリマーを使用した製品が劣る耐摩耗性等の欠点を解消できる漁業用、農業用、雑貨用として好適な繊維集合体を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、横断面形状が芯鞘形状を呈しており、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーで構成される複合繊維を用いた繊維集合体は、耐摩耗性が優れていることを見出して本発明に到達した。すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
【0010】
(1)横断面形状が芯鞘形状を呈し、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維で構成されており、下記(A)に示すいずれかの用途に供されるものであることを特徴とする繊維集合体。
漁業用、農業用、雑貨用…(A)
(2)複合繊維の鞘部がポリエチレンテレフタレート、芯部がポリ乳酸であることを特徴とする上記(1)記載の繊維集合体。
(3)繊維集合体が編地で形成された魚網であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の繊維集合体。
(4)挿入糸とループ糸からなるラッセル編地からなり、前記挿入糸とループ糸の繊度比(挿入糸繊度/ループ糸繊度)が1.0以上であることを特徴とする上記(3)記載の魚網。
(5)複合繊維の鞘部がカルボキシル末端基量20eq/t以下のポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とするポリエステルにモノカルボジイミド化合物を0.3〜2質量%添加した混合物あることを特徴とする上記(3)又は(4)記載の魚網。
(6)複合繊維の芯部がバイオマス由来のポリマーに比重5〜22、比表面積11m2/g以下、平均粒径1μm 以下、最大粒径2μm 以下の金属及び/又は金属化合物からなる高比重微粉末を配合した比重 1.8以上の混合物であることを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれかに記載の魚網。
(7)繊維集合体が織物で形成された寒冷紗であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の繊維集合体。
(8)織物の滑脱抵抗力が5N以上であることを特徴とする上記(7)記載の寒冷紗。
(9)繊維集合体が布帛で形成された鞄地であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の繊維集合体。
(10)布帛の強力が1000N/3cm以上であることを特徴とする上記(9)記載の鞄地。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維集合体は、芯部がバイオマス由来のポリマーで形成された複合繊維を使用しているため、従来の石油系由来のポリマーからなる合成繊維で構成されたものより、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量が低減されて環境に優しく、かつ、バイオマス由来のポリマー単独の繊維を用いた繊維集合体より耐摩耗性等の物性を向上させることができる。
【0012】
したがって、本発明によれば、バイオマス由来のポリマーを一部に使用して環境面に配慮した複合繊維を使用したにもかかわらず、耐摩耗性等の物性が良好で、魚網等の漁業用、寒冷紗等の農業用、鞄地等の雑貨用として優れた繊維集合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維集合体は、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる芯鞘型の複合繊維で構成されるものであり、漁業用、農業用、あるいは雑貨用として使用されるものである。
【0014】
まず、本発明で用いる芯鞘型の複合繊維の鞘部を構成する石油系由来のポリマーは、溶融紡糸が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11及びナイロン12に代表されるポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー、ポリ4フッ化エチレン並びにその共重合体、ポリフッ化ビニリデン等に代表されるフッ素系繊維等が挙げられる。これらの中では、低コストであるポリエステルやポリアミド系ポリマーが好ましい。また、バイオマス由来のポリマーとしては脂肪族ポリエステルが多いため、相溶性を考慮するとポリエステル系のものがより好ましく、コストや取り扱い性も考慮すると、特にPETが好ましい。
【0015】
また、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてポリエステル系ポリマーには、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、及びエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
【0016】
次に、本発明で用いる芯鞘型の複合繊維の芯部を構成するバイオマス由来のポリマーについても、溶融紡糸が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ポリ乳酸(PLA)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチレンサクシネート(PBS)などバイオマス由来のモノマーを化学的に重合してなるポリマー類や、ポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)等の微生物生産系ポリマーを挙げることができる。これらの中では、耐熱性が安定し、比較的量産化が進んでいるポリ乳酸が好ましい。
【0017】
ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体とすることが好ましい。そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。
【0018】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーになると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維を得ることが困難になり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなりやすいため好ましくない。
【0019】
そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上のものが好ましい。また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は融点が200〜230℃と高いため、摩擦熱等の影響を受け難く、特に好ましい。
【0020】
ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合は、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸又はグリコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。ポリ乳酸が80モル%未満になると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点が120℃未満、融解熱が10J/g未満となりやすい。
【0021】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTMD−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上する。また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を添加してもよい。
【0022】
上記したポリ乳酸には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、耐光剤、耐候剤、香料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0023】
上記した石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的にはカーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー等が挙げられる。これらは、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理の後、添加することもできる。価格を抑え、良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合も好ましい。
【0024】
また、石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーには、必要に応じて、顔料、染料等の着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0025】
さらに、上記の石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて可塑剤を配合することもできる。可塑剤を配合することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能となり、場合によっては結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤の種類は、特に限定されるものではないが、バイオマス由来のポリマー、特に脂肪族系ポリエステルの可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点からエーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。
【0026】
具体例として、エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記ポリエーテルとポリエステルの2種以上の組み合わせからなる共重合体、ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマー等、またはこれらのホモポリマー、コポリマー等から選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。さらに、エステル化されたヒドロキシカルボン酸等も用いることができる。上記の可塑剤は、必要に応じて1種もしくは複数種を用いることができる。
【0027】
また、石油系由来のポリマー、特にPET等のポリエステルの可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤等が好ましい。
【0028】
本発明の繊維集合体を構成する複合繊維は、横断面が芯鞘形状を呈しており、鞘部が上記した石油系由来のポリマーで形成されると共に芯部が上記したバイオマス由来のポリマーで形成されていることが必要である。このような複合繊維とすることで、バイオマス由来のポリマーを少なくとも一部、すなわち芯部に含有するので、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量が低減されて環境に優しいものである。また、芯部を石油系由来のポリマーで形成される鞘部で囲んだ複合繊維であるため、石油系由来ポリマーの繊維と比較してバイオマス由来ポリマーの繊維が劣る耐摩耗性等の欠点を解消することができる。このような芯鞘型の複合繊維は、公知の方法によって製造することができる。
【0029】
上記した複合繊維はその芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘型の複合繊維であることが好ましく、このような構成とすることで、鞘部に石油系由来のポリマーを均一に配することができる。芯部と鞘部が偏心状に存在すると、鞘部の石油系由来のポリマー層に薄い箇所ができるが、このポリマー層が薄い箇所において、耐摩耗性が不良となりやすい。
【0030】
また、上記した芯鞘型の複合繊維の芯部と鞘部との比率としては、芯/鞘の質量比率で20/80〜80/20が好ましい。芯/鞘の質量比率が20/80未満になるとバイオマス由来のポリマーの比率が少なくなり、二酸化炭素の低減効果等のバイオマス由来のポリマーを用いるメリットが少なくなるため好ましくない。また、芯/鞘の質量比率が80/20を超えると、本発明の目的とする耐摩耗性の向上が得られ難くなるため好ましくない。なお、複合繊維の形態は長繊維、短繊維を用いた紡績糸のいずれでもよいが、耐摩耗性を向上させるには長繊維が好ましい。
【0031】
本発明の繊維集合体の形態は、特に限定されるものではなく、例えば織物、編地、不織布等の布帛が挙げられるが、上記した芯鞘型の複合繊維のみで構成されるものほか、上記の複合繊維と、例えばナイロン6やナイロン66などのポリアミド、PETやPBT、PTTなどの芳香族ポリエステル等の繊維の中から選ばれた1種以上の繊維とで構成されるものでもよい。
【0032】
しかし、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減できる環境考慮型の繊維集合体とするためには、上記の複合繊維を50質量%以上、特に70質量%以上使用したものが好ましい。
【0033】
本発明の繊維集合体は、用途によってコ−ティング等の付帯加工を施してもよいが、コーティングを施す場合、従来から使用されている基布を構成するポリマーを複合繊維鞘部の石油系由来のポリマーとして使用することにより、従来とほぼ同一の処理で製品を作製できるという利点がある。
【0034】
前述したように、本発明の繊維集合体は、漁業用、農業用、あるいは雑貨用として使用されるものであるが、まず、漁業用繊維集合体について説明する。本発明の漁業用繊維集合体の具体的な用途としては、例えば刺網、定置網、底引き網、巻き網、のり網、養殖用網、カニ網等の漁網あるいは延縄、浮子網、沈子網、張綱、真珠養殖用ロープ、海藻養殖用ロープ等の漁業用ロープあるいはホーサー、曵船索、ガイドロープ、ロングライン、フラグライン等の船舶用ロープあるいはスリングロープ等の荷役用ロープ、遮水シート等のシート類等が挙げられる。
【0035】
漁業用繊維集合体、特に魚網では主に編地が用いられるが、編地を用いれば柔軟性を付与できるだけでなく、組織による伸びが発生するため、魚網等に要求されるタフネス等の物性を満足させることができる。また、編地の組織は特に限定されるものではなく、産業資材用に使用される編組織を採用することができ、具体的にはラッセル編、無結節編及び有結節編等を挙げることができる。編組織については、原糸や使用される状況下によって適時選択することが可能であるが、結節部に応力が集中する有結節編以外のラッセル編や無結節編地がより好ましい。直線強力が求められる際は無結節編が好ましく、使用される状況が過酷で編地の一部が破損されるような場合や原糸の直線強力は比較的弱いが、結節強力が良好な場合等はループで構成されるラッセル編を適用する方が好ましい。
【0036】
挿入糸とループ糸からなるラッセル編地は、挿入糸とループ糸の繊度比(挿入糸繊度/ループ糸繊度)が1.0以上であることが好ましい。繊度比が1.0未満になると、例えば同じ強度の原糸を使用した場合、編地強力は満足するが、挿入糸が切断される以上の強力部分は不要となる。すなわち、ループ糸の不要な部分は編地の質量を大きくすることになる。現場作業者の高齢化が進み、資材の軽量化が求められている昨今においては現状にそぐわなくなる。
【0037】
一般に、漁網は使用した後、浜で干し、漁網に付着した魚介類を腐触分解した後、洗浄と乾燥を行い、再び使用する。そして、魚介類を腐食分解させる際、干してある漁網上にシートを張り、シート内部を高温多湿状態とし、魚介類の分解を促進させ、漁網洗浄工程の短縮簡略化を図ることが行われている。その際、ポリエステル繊維を網の構成糸として用いたものでは、魚介類の分解成分として発生するアンモニアと水分及び熱の相乗効果により漁網がアミン分解や加水分解を起こして劣化し、網の強力が低下し、長期間の使用が不可能になるという問題がある。
【0038】
PET等のポリエステルではカルボキシル末端基量の少ないポリマーほど加水分解速度が遅いので、鞘部用ポリエステルのカルボキシル末端基量を20eq/t以下、特に5〜19eq/tとすることが好ましい。この条件を満足すれば、末端封鎖剤の添加により最終的に複合繊維の鞘層のカルボキシル末端基量を5eq/t以下にすることができる。この場合、原料ポリマーのカルボキシル末端基量が20eq/tを超えると、紡糸、延伸後の複合繊維に加水分解、アミン分解に対する耐性が付与されず、さらに、紡糸、延伸後の複合繊維の鞘層のカルボキシル末端基量を5eq/t以下にするためには末端封鎖剤を多量に添加することが必要となるので、工業的には大きな問題となる。
【0039】
このようなカルボキシル末端基量が5eq/t以下の鞘部用ポリエステルは、例えば次のようにして得ることができる。すなわち、まず、通常の溶融重合法によって、相対粘度が1.30〜1.44のプレポリマーを得る。次いで、このプレポリマーのペレットを減圧下又は不活性ガス流通下に加熱して固相重合反応を行い、所定の相対粘度とカルボキシル末端基量のポリエステルとする。プレポリマーの相対粘度が適当でないと、トータルの重合時間が著しく長くなったり、固相重合後のポリエステルのカルボキシル末端基量を所定の範囲のものとすることができなかったりするので、プレポリマーの相対粘度を上記の範囲とすることが望ましい。
【0040】
なお、固相重合により相対粘度がプレポリマーよりも0.10〜0.40程度高くなるように固相重合の条件を選定することが好ましい。この固相重合によりポリエステルのカルボキシル末端基量が減少するとともに、オリゴマー等の不純物が除去される。
【0041】
上記のような鞘部用のポリエステル、好ましくはPET又はこれを主体とするポリエステルに、末端封鎖剤としてモノカルボジイミド化合物を 0.3〜2質量%添加して溶融紡糸し、複合繊維の鞘部のカルボキシル末端基量を5eq/t以下とすることが好ましい。鞘部のカルボキシル末端基量が5eq/tより多いと、長期間の湿熱処理により糸質低下が顕著となり、目標とする耐湿熱性能を付与できない場合がある。
【0042】
上記で使用するモノカルボジイミド化合物としては、次の一般式で表されるものが好ましく用いられる。
R1 −N=C=N−R2
ただし、式中、R1 及びR2 は、2、4又は6の位置の少なくとも一つが低級アルキル基により置換されたフェニル基である。このようなモノカルボジイミド化合物の具体例としては、N,N′−ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N′−ビス(2−イソプロピルフェニル)カルボジイミド等が挙げられる。
【0043】
モノカルボジイミド化合物の添加量は、0.3〜2質量%とすることが好ましく、この条件が満たされないと目標性能が付与されない場合がある。すなわち、モノカルボジイミド化合物の添加量が 0.3質量%未満になると、カルボキシル末端基の封鎖が不十分となって耐湿熱性能が満足されず、2質量%を超えると製糸性が悪化する場合がある。なお、モノカルボジイミド化合物の添加量は、溶融紡糸して得られる複合繊維の鞘部のカルボキシル末端基量が5eq/t以下となり、未反応のモノカルボジイミド化合物が少量残存する量とすることが好ましい。
【0044】
また、芯部として、バイオマス由来のポリマーに比重5〜22、比表面積11m2/g以下、平均粒径1μm 以下、最大粒径2μm 以下の金属及び/又は金属化合物からなる高比重微粉末を配合した比重 1.8以上の混合物を用いた複合繊維の編地からなる魚網は、優れた耐摩耗性に加えて、高比重特性を有するものとなる。
【0045】
芯部に配合する高比重微粉末は、比重が5〜22のものであることが必要である。比重が5未満の物質を用いると、繊維全体の比重を高くするためには多量の添加が必要となり、得られる繊維の高強度化が困難となる。また、比重が22以上の物質の存在は少なく、経済性の面からも使用が困難である。
【0046】
また、この高比重微粉末は、比表面積が11m2/g以下、好ましく1〜10m2/gのものであることが必要である。比表面積が11m2/gより大きいものではポリマーによる被覆面積が大きくなる結果、芯部材料の流動性が低下し、製糸性が悪化する。しかし、比表面積が小さすぎると粒径が大きくなって芯部材料の流動性が低下するので、比表面積が1m2/g以上のものが好ましい。
【0047】
さらに、高比重微粉末は、平均粒径が1μm 以下、最大粒径が2μm 以下のものであることが必要である。粒径の大きいものは、ポリマー中に均一に分散させることが困難であるとともに製糸性が悪くなり、高強度の繊維を得ることができない。また、高比重微粉末は、球形に近い粒子が望ましい。
【0048】
高比重微粉末の具体例としては、鉄、鉛、銅、銀、ニッケル、亜鉛、スズ、タングステン、金、白金、ステンレス鋼等の各種金属の微粉末、酸化鉛、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、タングステンカーバイド等の金属化合物の微粉末が挙げられ、これらは2種以上併用してもよい。
【0049】
高比重微粉末の種類と添加量を適切に選定して、芯部材料の比重が 1.8以上となるようにすることが必要である。芯部材料の比重が 1.8未満になると、繊維全体の比重を高くするために芯部の鞘部に対する割合を高くしなくてはならず、繊維の高強度化を担う鞘部の割合が減少し、繊維の高強度化が困難となりやすい。
【0050】
複合繊維における高比重微粉末を含有する芯部と鞘部との比率は、前述した高比重微粉末を含有しない場合と同様に芯/鞘の質量比率で20/80〜80/20、特に40/60〜60/40が好ましい。芯部の割合があまり小さいと芯部材料の比重を極度に大きくしなければならず、そのため芯部材料の流動性が悪化し、高強度の繊維を得ることが困難となりやすい。一方、芯部の割合が大きすぎると強度を担う鞘部の割合が少なくなり、やはり高強度の繊維が得られ難くなる。
【0051】
上記複合繊維の製造法については、まず、バイオマス由来のポリマーに高比重微粉末を均一分散し、比重 1.8以上の芯部材料を得る。高比重微粉末を添加する方法としては、溶融紡糸時に原料チップに添加する方法や、溶融紡糸時に溶融ポリマーに添加する方法もあるが、予めポリマーと高比重微粉末とを混合して溶融混練し、チップ化しておくと、作業性がよいとともに、高比重微粉末をポリマー中に均一に分散させることができる。
【0052】
得られた高比重微粉末を含有するポリマーが芯部、石油系由来のポリマーが鞘部となるように複合紡糸装置に供給し、溶融紡糸して目的とする高比重の複合繊維を得る。
【0053】
次に、農業用繊維集合体について説明する。本発明の農業用繊維集合体の具体的な用途としては、例えば防鳥網、結束用テープ、牧草保存用シートや寒冷紗等が挙げられる。
【0054】
また、上記した寒冷紗は、寒冷期には防霜や寒害防止のため,夏期には高温,強日射の一部を遮り,あるいは強風や害虫から守るために農作物や土壌を覆って農作物の生育を助成するものであるが、この寒冷紗は織物で形成するのが好ましい。
【0055】
寒冷紗用の織物については特に限定されるものではなく、用途に応じて種々の形態をとることができ、また、織物の組織については、原糸や使用される状況によって適時選択することが可能である。しかし、織物の滑脱抵抗力は5N以上であることが好ましく、滑脱抵抗力が5N未満になると目ずれが生じてしまい、使用に耐えられない場合がある。滑脱抵抗力を向上させる手段としては、合成樹脂による後加工やバインダー繊維を併用する方法等が挙げられる。
【0056】
次に、雑貨用維集合体について説明する。本発明の雑貨用繊維集合体の具体的な用途としては、例えば鞄地、袋地、寝装品等が挙げられる。
【0057】
上記の鞄地は、ウェストバッグ、セカンドバッグ、各種ポーチ、トートバッグ、ハンドバッグ、ビジネスバッグ、布製ランドセル、リュックサック、ナップサック、デイバッグ、アウトドア用バッグ、スポーツバッグ、カメラバッグ、和装バッグやショルダーバッグ一般の鞄、学童用鞄等の生地として使用されるもので、鞄地は布帛で形成されている。
【0058】
鞄地を形成する布帛については特に限定されるものではなく、鞄用途に応じて織物や編物等の形態を採用することができ、織物や編物の組織については、原糸や使用される状況下によって適時選択することが可能である。一般に、ビジネスバッグ等の鞄地では織物が、ポーチ等の袋地には編物が採用されることが多い。また、鞄地を形成する布帛の強力は1000N/3cm以上であることが好ましく、強力が1000N/3cm未満になると、鞄内に入れる荷物量が制限されるだけでなく、重たい荷物を入れると破損するおそれがある。
【0059】
また、ビジネスバッグ等の多くのバッグ類は裏面に合成樹脂がコーティングされているものが多い。本発明の鞄地においても、種々のコーティングがなされてもよく、撥水性、目ずれ防止、強度アップ及び寸法安定性等、その目的に応じて行うことができる。コーティングに使用する合成樹脂は特に限定されるものではなく、一般に使用されているアクリル系樹脂や合成ゴムエアストマー等を使用することができる。
【0060】
しかし、コーティングにおいても、環境面からバイオマス由来のポリマーを用いることが好ましく、ポリ乳酸、PTTやPBS等のバイオマス由来のモノマーを化学的に重合してなるポリマー類やポリヒドロキシ酪酸等のPHA等の微生物生産系のものを有機溶媒で溶解したものやエマルジョン化した溶液によるコーティングがより好ましい。コーティング方法は特に限定されるものではなく、具体的にはナイフコーティング法、ディッピング法及びラミネート法等を採用することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性は、次の方法にて測定、評価した。
(1)ポリ乳酸の融点(℃)、融解熱(J/g)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
(2)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液との等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiralOA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(3)繊維繊度(dtex)
JIS L−1013正量繊度に準じて測定した。
(4)強度(繊維)(cN/dtex)
JIS L−1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に準じて測定した。
(5)強力(漁業用編地)(N)
ラッセル編については、仮設基材認定基準とその解説(厚生労働省労働基準局安全衛生部建設安全対策室監修)に記載されている1本2節法にて測定を行った。無結節編地(貫通型)については、繊維(直線)方向に則して他方向の編糸を切断し(他方向の編糸長は1cmに切断する)、1節1脚法で300mm/分の引張速度で測定を行った。
【0062】
(6)強力(織物)(N/3cm)
JIS L−1096 引張強さ及び伸び率のA法ラベルドストリップ法(定速伸長系)に準じて測定した。
(7)滑脱抵抗力(織物)
JIS L−1096 ピン引掛け法に準じて測定した。
(8)耐摩耗性
JIS D−4604の耐摩耗性試験に準じて試験を行った。試料(編地又は織物)の一端に試料の強力値の1.25%の荷重を吊るし、他端を丸やすりの上に渡した後、振動ドラムに固定した。次いで、振動ドラムをクランクとクランクアームによって往復運動させ、試料を繰り返し毎分30±1回として5,000回往復摩耗させ、試料の外観を観察した。
(9)実施試験1(漁網用)
編地端部をロープをくぐらせながら3重に縫製し、仕立て寸法が4m×4mとなるようにした。得られた仕立て後の漁網の質量を確認した後、この魚網を鉄枠に展張して半年間福井県小浜沖に浸漬し、鉄枠とのすれ状態や全体の状況を観察した。
(10)実施試験2(鞄地用)
鞄地を巾50cm×100cmに裁断し、中央部から折り曲げ、両端部を縫製して50cm×50cmの袋体を作製した。この袋体内に10kgfの鉄球をいれ、2m上方から10回自由落下させ、落下後の状態を目視で観察した。
【0063】
(実施例1)
ポリ乳酸(PLA)として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/Dが98.5/1.5のものを、芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合した共重合PETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配して芯/鞘の質量比率を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた複合繊維は、繊度1560dtex140フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.3cN/dtex、切断伸度28.9%であった。
次いで、得られた複合繊維を挿入糸とループ糸に用い、9Gのラッセル編機で編の構成が13本格になるように編地を作製した(1辺10mm)。
【0064】
(実施例2)
実施例1で得られた複合繊維を使用し、無結節編機を用いて10本を撚り合わせた無結節編地を作製した(1辺25mm)。
(実施例3)
実施例1と同様な方法で溶融紡糸し、丸断面形状で繊度1560dtex140フィラメントと1670dtex140フィラメントの2種類の複合繊維を得た。これらの複合繊維はいずれも引張強力が4.3cN/dtex、切断伸度が28.9%であった。
次いで、1560dtex140フィラメント糸を挿入糸に、1670dtex140フィラメント糸をループ糸に用い、9Gのラッセル編機で編の構成が13本格になるように編地を作製した(1辺10mm)。
【0065】
(比較例1)
実施例1で使用したポリ乳酸のみを溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られたポリ乳酸繊維は、繊度1430dtexの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度30.9%であった。
次いで、得られた繊維を用いて実施例1と同様にして製編し、編地を得た。
(比較例2)
比較例1で使用した繊維を用いて実施例2と同様にして製編し、編地を得た。
(比較例3)
実施例1で使用した共重合PETのみを融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた繊維は、繊度1430dtexの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度27.8%であった。
次いで、この繊維を用いて実施例1と同様にして製編し、編地を得た。
【0066】
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた編地と、この編地を魚網として評価した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例1〜3で得られた編地は、耐摩耗性等、全ての評価項目が満足できるもので、魚網用として優れたものであり、しかもバイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸を用いた複合繊維を使用しているため、環境にも優しい素材であった。また、挿入糸とループ糸の繊度比が1である実施例1の編地は、この繊度比が0.93である実施例3の編地と強力はほぼ同等であるが、総重量は約5%も軽いものであった。
一方、比較例1、2で得られた編地は耐摩耗性が不良であり、実用に耐え得るものではなかった。また、石油系由来のポリマーである共重合PETからなる繊維を使用した比較例3の編地は、耐摩耗性等の評価項目はよいが、環境に優しい素材ではない。
【0069】
(実施例4)
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/Dが98.5/1.5のものを用い、このポリ乳酸35質量%と、平均粒径0.63μm 、最大粒径1.30μm 、比表面積 2.9/mm2、比重19.3のタングステン微粉末65質量%とを溶融混練し、チップ化して比重 3.4の芯部材料用チップを得た。
この芯部材料用チップをエクストルーダーに供給して 270℃で溶融し、一方、予め減圧乾燥した芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%共重合した共重合PETチップにビス(2,6−ジイソプロピルフェニル) カルボジイミドを 1.0質量%添加して他のエクストルーダーに供給し、 295℃で溶融して鞘部用材料を形成しながら上記芯部用材料と共に複合紡糸した。この際、温度 295℃の紡糸口金パック内で溶融ポリマーの濾過、整流及び芯鞘構造複合流の形成を行い、直径 1.3mmの紡糸孔から吐出し、芯/鞘の質量比率50/50の同心円型複合繊維とした。
【0070】
次いで、この紡出糸条を65℃の水浴中で冷却した後、 100℃の熱媒浴中を通過させて 4.9倍に延伸し、次いで 130℃のオーブンヒータを通過させて1.16倍に延伸 (全延伸倍率 5.7倍) し、さらに、 220℃のオーブンヒータを通過させて弛緩率12%の弛緩熱処理を行い、複合繊維を得た。得られた複合繊維は、比重が1.52、繊度1560dtex140フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.3cN/dtex、切断伸度28.9%であった。
さらに、この複合繊維を挿入糸とループ糸に用いて9Gのラッセル編機で編の構成が13本格になるように編地を作製し(1辺10mm)、高比重特性を有する魚網用の編地を得た。
【0071】
(実施例5)
実施例4で得られた複合繊維を用い、無結節編機を用いて10本を撚り合わせた無結節編地を作製し(1辺25mm)、高比重特性を有する魚網用の編地を得た。
(実施例6)
実施例4と同様な方法で溶融紡糸し、丸断面形状で繊度1560dtex140フィラメント糸と1670dtex140フィラメント糸の2種類の複合繊維を得た。これらの複合繊維はいずれも引張強力が4.3cN/dtex、切断伸度が28.9%であった。
得られた1560dtex140フィラメント糸を挿入糸に、1670dtex140フィラメント糸をループ糸に用いて9Gのラッセル編機で編の構成が13本格になるように編地を作製し(1辺10mm)、高比重特性を有する魚網用の編地を得た。
【0072】
(比較例4)
実施例4で使用したポリ乳酸のみを溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られたポリ乳酸繊維は、繊度1560dtex140フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度は30.9%であった。この糸条を用い、実施例4と同様にして製編し、魚網用の編地を得た。
(比較例5)
比較例4で使用した繊維を用い、実施例5と同様にして製編し、魚網用の編地を得た。
(比較例6)
芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合し、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル) カルボジイミドを 1.0質量%添加した共重合PETを減圧乾燥した後、融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた繊維は、繊度1560dtex192フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度27.8%であった。
次いで、得られた繊維を使用して実施例4と同様に製編し、魚網用の編地を得た。
【0073】
実施例4〜6及び比較例4〜6で得られた編地の評価結果を表2に示す。
【表2】

【0074】
表2から明らかなように、実施例4〜6で得られた高比重特性を有する魚網用の編地は、耐摩耗性等、全ての評価項目が満足できるものであり、しかもバイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸を用いた複合繊維を使用しているため、環境にも優しい素材であった。また、挿入糸とループ糸の繊度比が1である実施例4の編地は、この繊度比が0.93である実施例6の編地と強力はほぼ同等であるが、総重量は約5%も軽いものであった。
一方、比較例4、5で得られた魚網用の編地は耐摩耗性が不良であり、実用に耐え得るものではなかった。また、石油系由来のポリマーである共重合PETからなる繊維を使用した比較例6の編地は、耐摩耗性等の評価項目はよいが、環境に優しい素材ではない。
【0075】
(実施例7)
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/Dが98.5/1.5のものを、芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合した共重合PETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、芯/鞘の質量比率を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
得られた複合繊維を通常の2吋方式により紡績して30番手の紡績糸を得た。この紡績糸を経糸と緯糸に用い、レピア織機にて経糸密度23本/2.54cm、緯糸密度22本/2.54cmの織密度で平織りに製織し、得られた生機にポバール(日本酢ビ・ポバール社製JF-17)を8.3%付与して寒冷紗を得た。
【0076】
(実施例8)
芯成分のポリ乳酸として、実施例7で使用したものと同じものを、鞘成分の芳香族ポリエステルとして、融点110℃のテレフタル酸とイソフタル酸のモル比を60:40としたエチレングリコールとの共重合低融点ポリエステルを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配して芯/鞘の質量比率を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
得られた複合繊維を用い、実施例7と同様にして紡績と製織を行い、得られた生機を循環熱風乾燥式テンターにより120℃、120秒の熱処理を行って寒冷紗を得た。
(実施例9)
実施例7で得た生機にポバール処理を行わず、循環熱風乾燥式テンターにより120℃、120秒の熱処理を行って寒冷紗を得た。
【0077】
(比較例7)
実施例7で使用したポリ乳酸のみを溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られたポリ乳酸繊維を使用する以外は実施例7と同様にして紡績、製織、ポバール処理を施し、寒冷紗を得た。
(比較例8)
実施例7で使用した共重合PETのみを溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた共重合PET繊維を使用する以外は実施例7と同様にして紡績、製織、ポバール処理を施し、寒冷紗を得た。
【0078】
実施例7〜9及び比較例7,8で得られた寒冷紗の評価結果を表3に示す。
【表3】

【0079】
表3から明らかなように、実施例7〜9で得られた寒冷紗は、耐摩耗性等、全ての評価項目が満足できるものであり、しかもバイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸を用いた複合繊維を使用しているため、環境にも優しい素材であった。また、滑脱抵抗力が5Nを超える実施例7、8で得られた寒冷紗は目ずれが生じることがなく、特に優れた実用性を有するものであった。
一方、比較例7で得られた寒冷紗は耐摩耗性が不良であり、実用に耐え得るものではなかった。また、石油系由来のポリマーである共重合PETからなる繊維を使用した比較例8の寒冷紗は、耐摩耗性等の評価項目はよいが、環境に優しい素材ではない。
【0080】
(実施例10)
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/Dが98.5/1.5のものを用い、芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合した共重合PETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、芯/鞘の質量比率を50/50として、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた複合繊維は、繊度470dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.3cN/dtex、切断伸度28.9%であった。
この複合繊維を経糸と緯糸に用い、レピア織機にて経緯共に70本/2.54cmの織密度で製織し、鞄地を得た。
(実施例11)
複合繊維の芯/鞘の質量比率を70/30と変更した以外は、実施例17と同様にして溶融紡糸を行った。得られた複合繊維は、繊度470dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は3.1cN/dtex、切断伸度25.3%であった。
得られた複合繊維を用い、実施例10と同様にして製織し、鞄地を得た。
【0081】
(比較例9)
実施例10で使用したポリ乳酸のみを溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られたポリ乳酸繊維は、繊度470dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度は30.9%であった。
得られたポリ乳酸繊維を用い、実施例10と同様にして製織し、鞄地を得た。
(比較例10)
実施例10で使用した共重合PETのみを溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた共重合PET繊維は、繊度470dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度は27.8%であった。
得られた共重合PET繊維を用い、実施例10と同様にして製織し、鞄地を得た。
【0082】
実施例10、11及び比較例9、10で得られた鞄地の評価結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
表4から明らかなように、実施例10で得られた鞄地は、耐摩耗性等、全ての評価項目が満足できるものであり、また、実施例11で得られた鞄地は、強力がやや小さかったが、鞄地としての実用性は有するものであった。また、これらの鞄地は、バイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸を用いた複合繊維を使用しているため、環境にも優しい素材であった。
一方、比較例9で得られた鞄地は耐摩耗性が不良であり、実用に耐え得るものではなかった。また、石油系由来のポリマーである共重合PETからなる繊維を使用した比較例10の鞄地は、耐摩耗性等の評価項目はよいが、環境に優しい素材ではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面形状が芯鞘形状を呈し、鞘部が石油系由来のポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーからなる複合繊維で構成されており、下記(A)に示すいずれかの用途に供されるものであることを特徴とする繊維集合体。
漁業用、農業用、雑貨用…(A)
【請求項2】
複合繊維の鞘部がポリエチレンテレフタレート、芯部がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の繊維集合体。
【請求項3】
繊維集合体が編地で形成された魚網であることを特徴とする請求項1又は2記載の繊維集合体。
【請求項4】
挿入糸とループ糸からなるラッセル編地からなり、前記挿入糸とループ糸の繊度比(挿入糸繊度/ループ糸繊度)が1.0以上であることを特徴とする請求項3記載の魚網。
【請求項5】
複合繊維の鞘部がカルボキシル末端基量20eq/t以下のポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とするポリエステルにモノカルボジイミド化合物を 0.3〜2質量%添加した混合物あることを特徴とする請求項3又は4記載の魚網。
【請求項6】
複合繊維の芯部がバイオマス由来のポリマーに比重5〜22、比表面積11m2/g以下、平均粒径1μm 以下、最大粒径2μm 以下の金属及び/又は金属化合物からなる高比重微粉末を配合した比重 1.8以上の混合物であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の魚網。
【請求項7】
繊維集合体が織物で形成された寒冷紗であることを特徴とする請求項1又は2記載の繊維集合体。
【請求項8】
織物の滑脱抵抗力が5N以上であることを特徴とする請求項7記載の寒冷紗。
【請求項9】
繊維集合体が布帛で形成された鞄地であることを特徴とする請求項1又は2記載の繊維集合体。
【請求項10】
布帛の強力が1000N/3cm以上であることを特徴とする請求項9記載の鞄地。




【公開番号】特開2008−184695(P2008−184695A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16459(P2007−16459)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】