説明

織物用極細ポリアミドフィラメント繊維

【課題】細繊度・高伸度でもWJLでの製織性が良好な織物用ポリアミド繊維を提供すること、特に、WJLでの製織に際して緯糸として使用することが良好な織物用ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】単繊維繊度が0.2デシテックス以上0.8デシテックス以下、伸度が50%以上であり、かつ油剤付着処理がされているポリアミドフィラメント繊維であり、該油剤は、油剤組成物全体に対し25〜80重量%の平滑剤を含み、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が10000センチポイズ以下で、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が100センチポイズ以下のものであることを特徴とする織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物用極細ポリアミドフィラメント繊維に関する。
更に詳しくは、ウォータージェットルーム織機(以下、WJLと呼ぶことがある)での製織性が良好な織物用極細ポリアミドフィラメント繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スキーウエア、ダウンジャケット、ウインドブレイカー、ゴルフウエア、レインウエアなどに代表されるスポーツウエア、カジュアルウエアは、ポリアミドフィラメント繊維やポリエステルフィラメント繊維が広く使用されている。
【0003】
中でも、ポリアミドフィラメント繊維は、ポリエステルフィラメント繊維に比較して、高強度、耐摩耗性、ソフト性、発色性に優れており好ましく使用されている。しかしながら、近年の薄地化やソフト性を追求するニーズの高まりの背景下、必要な耐久性を備えながらもより薄地化、ソフト化を達成する要請が高まってきた。
【0004】
かかる要請を実現する手段として、繊維糸条の総繊度の細繊度化および単繊維繊度の細繊度化が進行している。
【0005】
例えば、従来は、繊維糸条の総繊度が75〜150デシテックスで単繊維繊度が1〜3デシテックスというようなポリアミド繊維糸条が一般的だったのに対して、近年は、例えば、繊維糸条の総繊度が56デシテックスで68フィラメントというようなポリアミド繊維糸条が注目されている。
【0006】
このようなポリアミド繊維糸条では、単繊維繊度は約0.8デシテックスとなり、このような0.8デシテックス以下、小さい方では概して0.2デシテックス程度までの合成繊維糸条は、溶融紡糸により直接製造されるものにしては非常に細めのものであり、その結果、従来の溶融紡糸によって得られるポリアミドフィラメント繊維の場合と相違する問題が生じてきた。
【0007】
すなわち、単繊維が細くかつ単繊維数が多い場合、エマルジョンタイプの紡糸油剤が単繊維の1本1本に付着しやすく良好であり、これは毛細管現象により浸透性が向上していることによる。しかし、その反面で水分が蒸発しやすいというという現象があって、水分が蒸発する際に繊維中に含まれるモノマーやオリゴマー(水溶性成分)が繊維表面に析出しやすいということがあった。
【0008】
また、一般に高速度で溶融紡糸するという高速製糸手法が採用される結果、伸度が50%〜65%程度と概して高い繊維として製造され、この伸度が50〜65%という繊維は、伸度−強度曲線の初期の立ち上がりが低い(一般に、ヤング率が低いとも言う)ものである。そのため、同じ品種(繊度、単繊維数)の糸条からなる織物に比較してソフト性には優れているものの、その反面、繊維の結晶構造がルーズになることから、モノマー、オリゴマーが繊維中から析出しやすいものであった。
【0009】
一方、製織に供されるポリアミド繊維やポリエステル繊維のような熱可塑性合成繊維は、溶融紡糸法によって製糸されるが、その製糸工程における溶融紡出後の冷却固化工程に続いて、水系あるいは非含水系の油剤液が一般に付与されている。この紡出時付与の油剤液は、糸条に平滑性を与え、製糸時やウォータージェットルーム製織時の静電気障害や糸切れなどによる製織効率の低下防止のために必要なものである。
【0010】
そして、この紡糸油剤は、一般に、鉱物油、脂肪酸エステルなどの平滑材を主体とし、さらに、乳化剤、制電剤、集束剤等を必要に応じて配合し、含水系で給油する場合は、通常、濃度5〜25重量%程度のエマルジョン油剤として用いられている。
【0011】
フィラメントの高速紡糸油剤においては、従来の低速紡糸方式において顕在化していなかったさまざまな問題が発生してきた。中でも、油剤の飛散と糸道ガイドや給油ノズルの汚れは、高速紡糸固有の問題点として製糸性に大きく影響している。
【0012】
ガイドやノズルの汚れは、一部はポリマーの削れによるが、多くは油剤と水の複合物であるペースト状のスカムである。そのスカムの組成は原液の組成に近いから、油剤エマルジョンの水が蒸発する過程で、油剤−水複合体が高粘性となったと考えられている。いわゆる、oil in water(O/W)型エマルジョンからwater in oil(W/O)型エマルジョンへの転相粘性がきわめて高いためである。
【0013】
そしてまた、転相粘性が高いとき、ウォータージェットルームのように、糸条が水で濡れた場合、糸表面の油剤と水が高粘性の複合物を形成し緯糸の飛走性不良やおさ汚れを発生させて製織性を大きく低下させる。
【0014】
近年、織機の機械性能の向上には著しいものがあり、製織速度は1000〜2000回転/分の高速に達しており、ウォータージェットルーム織機が広く使用されている。
【0015】
そして、以上のような糸条の細繊度化、高伸度化や製糸高速化、製織・織機の高速回転化に伴い、走行糸条からの油剤の脱落・飛散量が著しく増大し、この脱落・飛散した油剤は糸道上の装置類に付着したりして、装置汚染を引き起こす。そして、汚れた装置上を糸条が高速で接触走行する際に、糸切れ、毛羽立ち等のトラブルを誘発するという問題が生じていた。
【0016】
かかる装置汚染は、油剤の飛散範囲を局限化させるという方法により、ある程度は改善できるが、走行糸道上の装置(繊維ガイド等)の油剤汚染については有効な手段は見出されておらず、ガイド等の装置類を頻繁に清掃して油剤付着物を除去するという方法をとらざるを得なかった。
【0017】
かかる問題点を解決せんとして、油剤などに関わるさまざまな提案がされている(特許文献1−3参照)。
【0018】
それらの提案は、主として高速製糸用の油剤というものであり、また高速製糸方法に関するものも多いが、本発明者等の各種知見によれば、特に、前述したような細繊度・高伸度のポリアミドフィラメント糸の製糸においては、未だ改善されるべき点が多くあった。
【特許文献1】特開平3−40867号公報
【特許文献2】特公平7−84707号公報
【特許文献3】特開平8−259110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、特に、細繊度・高伸度でもWJLでの製織性が良好な織物用ポリアミド繊維を提供すること、特に、WJLでの製織に際して緯糸として使用することが良好な織物用ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した目的を達成する本発明の織物用極細ポリアミド繊維は、以下(1)の構成からなる。
【0021】
(1)単繊維繊度が0.2デシテックス以上0.8デシテックス以下、伸度が50%以上であり、かつ油剤付着処理がされているポリアミドフィラメント繊維であり、該油剤は、油剤組成物全体に対し25〜80重量%の平滑剤を含み、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が10000センチポイズ以下で、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が100センチポイズ以下のものであることを特徴とする織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【0022】
また、かかる本発明の織物用極細ポリアミド繊維において、より具体的に好ましくは、以下の(2)〜(6)のいずれかの構成からなるものである。
【0023】
(2)前記油剤が、油剤組成物全体に対し15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、および非イオン系界面活性剤を含有するものであり、前記平滑剤が実質的に鉱物油、脂肪酸モノエステルおよび脂肪酸ジエステルのうちの1種以上からなり、前記ポリエーテルエステル化合物が実質的にポリエチレンオキシドである重合度2以上のポリエーテル鎖を分子中に持ちその末端が脂肪族化合物で封鎖されてなるエステル化合物であることを特徴とする上記(1)記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【0024】
(3)前記油剤が、油剤組成物全体に対し、平滑剤60重量%以下40重量%以上、乳化剤30重量%以下15重量%以上、制電剤15重量%以下5重量%以上、粘性低下剤10%以下3重量%以上である油剤であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【0025】
(4)ウォータージェットルーム織機によって製織する際の緯糸用であることを特徴とする請求項1、2または3記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【0026】
(5)繊維に付与された油剤の有効成分付着量が、繊維重量に対して0.4〜0.8重量%であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【0027】
(6)ポリアミド繊維が、ナイロン66繊維であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、(4)または(5)記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【発明の効果】
【0028】
請求項1にかかる本発明によれば、細繊度・高伸度でも、WJLでの製織に際して、停台が少なく、またWJLの測長ドラムへの白粉堆積が少なく、製織性が良好な織物用ポリアミド繊維糸条を提供することができ、特に、WJL製織の緯糸用として優れた細繊度・高伸度の織物用ポリアミド繊維糸条を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、更に詳しく本発明の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維について、説明する。
【0030】
本発明の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維は、単繊維繊度が0.2デシテックス以上0.8デシテックス以下、伸度が50%以上のポリアミドフィラメント繊維であって、かつ、油剤付着処理がなされているものである。該油剤は、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が10000センチポイズ以下でかつ水添加量が60重量%において加水粘度が100センチポイズ以下のものであることが重要である。
【0031】
本発明の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維において、単繊維繊度が0.2デシテックス以上0.8デシテックス以下であるのは、特に、該範囲内に入る極細のポリアミドフィラメント繊維において本発明の効果が顕著だからであり、好ましい単繊維繊度の範囲は、0.3〜0.7デシテックスである。
【0032】
本発明の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維において付着処理されている油剤は、該油剤の油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が10000センチポイズ以下で、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が100センチポイズ以下のものであることが重要であり、該加水粘度の下限は、本発明者らの知見によれば5センチポイズまでである。特に、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値、および、水添加量が60重量%においての加水粘度値を、評価のパラメータとするのは、本発明の糸条がウォータージェットルームで製織される際に水と接触して水を含むこととなるからであり、その状態での物性を評価基準とすることに意味があるからである。
【0033】
本発明の糸条において、油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が10000センチポイズ以下で、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が100センチポイズ以下のものであるとは、要は、WJL内で糸条から脱落した油剤が水を含むことにより、油中水(W/O型エマルジョン)から水中油(O/W型エマルジョン)に相転する際に増粘して、各部に付着することが起きにくく、更に水を含むことで系外に流出されやすいことを示しているものである。特に好ましくは、本発明者らの知見によれば、該加水粘性の最大値が9000センチポイズ以下で、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が50センチポイズ以下の範囲内にあるものである。かかる条件を満足することにより、本発明の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維糸条は、WJL用の織糸(経糸と緯糸、主に、特に緯糸)として優れた性能を示す。
【0034】
油剤の付与は、通常の溶融紡糸工程の引取りローラの直前等で行えばよいが、特別には限定されない。付与は、給油方式として通常の方式、例えばローラ給油方式、油剤を定量的にノズルから供給するガイド給油方式等を、適宜に用いればよい。
【0035】
特に好ましい本発明の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維は、前述した油剤が、油剤組成物全体に対し25〜80重量%の平滑剤、油剤組成物全体に対し15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、および非イオン系界面活性剤を含有するものであって、かっ該平滑剤が実質的に鉱物油、脂肪酸モノエステルおよび脂肪酸ジエステルのうちの1種以上からなり、ポリエーテルエステル化合物が実質的にポリエチレンオキシドである重合度2以上のポリエーテル鎖を分子中に持ち、その末端が脂肪族化合物で封鎖されてなるエステル化合物であるものである。
【0036】
また、更に好ましくは、該油剤が、油剤組成物全体に対し、平滑剤60重量%以下40重量%以上、乳化剤30重量%以下15重量%以上、制電剤10重量%以下5重量%以上、粘性低下剤15%以下3重量%以上である油剤であるものである。
【0037】
本発明に用いられる油剤の説明において、「平滑剤」とは、繊維表面を処理し摩擦を変化させる作用・機能を有するものをいい、ここで、平滑剤としては、鉱物油および/または脂肪酸エステルのように疎水性であってかつ高い平滑性を示す化合物が用いられる。
【0038】
鉱物油としては、ナフテン系、パラフィン系等の鉱物油またはこれらの混合物が挙げられる。また、脂肪酸エステルとしては、ブチルラウレート、ラウリルラウレート、オクチルパルミテート、トリデシルパルミテート、トリデシルオレート、トリデシルステアレート等のモノエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルセバケート、ジデシルアジペート、ジトリデシルセバケート等のジエステルが用いられ、これらエステルは脂肪酸からのエステルでもよいし、あるいはまた脂肪族アルコールからのエステルでもよい。
【0039】
これらの平滑剤は、単独成分で用いても2種以上の混合成分で用いてもよいが、その合計量は25〜80重量%であることが重要である。この平滑剤の配合量が少な過ぎると製編織に必要な平滑性が得られ難い。逆に多過ぎると水乳化性が悪化し、油剤エマルション調合後の安定性に問題があるので、実用に供し難い。さらに平滑剤の配合量は35〜70重量%が好ましい。
【0040】
また、ポリエーテルエステル化合物の配合は、油剤組成物の加水粘性を低下させるために必要であり、その配合量は油剤組成物全体に対し15〜60重量%の範囲とする必要がある。その配合量が少な過ぎると所望の低い加水粘性特性が得られ難いし、逆に多過ぎると摩擦特性が高くなり過ぎて高速製糸、織物用に不適当となる。さらにその配合量は20〜45重量%が好ましい。
【0041】
ここでいうポリエーテルエステル化合物とは、分子中に、実質的にポリエチレンオキシドである重合度2以上のポリエーテル鎖を持ちその末端を脂肪族化合物で封鎖してなる化合物である。なかでも、下記式で示される親水性度(HLB)が6〜10となるように、エチレンオキシド付加モル数および脂肪族化合物の種類を選定することが、加水粘性低下効果を大きくするために好ましい。
親水性度(HLB)=(親水性成分の分子量/ポリエーテルエステル化合物の分子量)×20
【0042】
すなわち、エチレンオキシド付加モル数が比較的大きい場合には、炭素数が比較的大きい化合物を用いることが好ましい。さらにまた、上記エチレンオキシド付加モル数は10以下であること、脂肪族化合物の炭素数は14以下であることが、一般的に好ましい。
上記ポリエーテルエステル化合物としては、例えば、ブチルアルコールエチレンオキシド付加物のラウリルエステルやオクチルエステル、ラウリルアリコールエチレンオキシド付加物のラウリルエステルやオクチルエステルのような、炭素数14以下の脂肪族化合物のエチレンオキシド付加物の有機酸エステル、また、例えば重合度8のポリエチレンオキシドのジラウレートやジオクタノエートなどのような、重合度2〜10のポリエチレンオキシドの炭素数14までの脂肪酸のエステルが挙げられる。また、上記化合物を任意に混合して配合してもよい。
【0043】
また、本発明に用いられる油剤の説明において、「乳化剤」とは、油と水の間の界面張力を引き下げ、油と水が広い面積で接触し微液的分散を可能にする作用・機能を有するものをいい、一般には、水のような液体中に水に溶けない油のような液体を細かい粒子(0.1〜数10μm)の状態まで均一に分散させることをいい、この乳化を助けるために加える界面活性剤あるいはその物質をいう。本発明においては、該乳化剤としては、乳化剤が主体とする非イオン系界面活性剤としては、従来から知られている高級脂肪酸や脂肪族アルコール、多価アルコール等の活性水素含有化合物の実質的なエチレンオキシド付加物も用いえる。
【0044】
また、本発明に用いられる油剤の説明において、「制電剤」とは、繊維表面に吸湿性とイオン性を与え、繊維表面の導電度を高めるための作用・機能を有するものをいい、一般には、加工工程の高速化に伴う静電気の障害(ローラーへの糸付着、フィラメント単糸同士の反発)を抑制させるものである。本発明においては、該制電剤として、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、両性活性剤などを使用することができる。
【0045】
また、本発明に用いられる油剤の説明において、「粘性低下剤」とは、加水粘度の増加を抑制する作用・機能を有するものをいい、一般には、油剤の基本特性を損なうことなく相転移時に起こる粘度上昇(相転粘度)を低下させるものである。本発明においては、該粘性低下剤としては、適切な分子量の脂肪族アルコールのエチレンオキシド、プロピレンオキシドなどを使用することができるものである。なお、本発明における「粘性低下剤」は、前述した特許文献2に記載説明されている「粘性低下剤」とは相違する概念のものであり、本発明の粘性低下剤は、特に相転粘度に着目して、これを低下させる点で、特許文献2に記載されているものと比べて特異なものである。
【0046】
さらにまた、乳化剤の主体とする非イオン系界面活性剤としては、従来から知られている高級脂肪酸、脂肪族アルコール、多価アルコール等の活性水素含有化合物の実質的なエチレンオキシド付加物が挙げられる。牛脂アルコールやヒマシ油等の天然物アルコールの実質的なエチレンオキシド付加物も用い得る。そのエチレンオキシドの付加モル数は3〜10モル程度が好ましい。
【0047】
上記した平滑剤や乳化剤の外に、通常、紡糸油剤に用いられている制電剤、制電補助剤、集束剤、防腐剤等の成分を配合してもよい。
【0048】
本発明において、繊維に付与される油剤の有効成分付着量は、好ましくは、繊維重量に対して0.4〜0.8重量%、より好ましくは、0.5〜0.7重量%である。
【0049】
本発明のポリアミド繊維は、ポリアミド繊維の全般に対して良好な効果を奏するが、特に好ましいのはナイロン66繊維の場合である。ナイロン66繊維は、その理由は定かではないが、ナイロン66低分子物と水中の金属イオンとの相互作用で凝集物が析出しやすい傾向であるため水に対してやや不安定な特質を有するからである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例、比較例に基づいて本発明の織物用極細ポリアミド繊維の具体的構成、効果について説明する。
【0051】
なお、本発明の説明において使用したパラメータは、以下の測定法によるものである。
(1)油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値:
各成分を混合してなる油剤組成物(実質的に水を含有しない)をビーカにとり、攪拌しつつ常温水を所定量ずつ(本発明では、油剤組成物試料の5重量%)添加し、十分混合する。
【0052】
十分混合された水混合液の粘性をE型粘度計((株)東京計器製)により測定し、その測定値をセンチポイズでもって表示する。測定は、粘度計の回転数は、粘度水準に応じた低水準とした低シアー条件下で行えばよく、例えば、粘度1万〜10万センチポイズ程度では回転数0.5rpm程度が好ましい。
【0053】
そして、常温水を上述の所定量ずつ(本発明では、5重量%)順次追加添加するごとに、その粘度測定を行い、その測定値のうちの最大の値を、加水粘性の最大値とする。
【0054】
測定は、含水率15重量%から60重量%の水混合液とするまでの範囲内で行った。
測定はn数を4回として行い、その平均値をとった。
【0055】
(2)繊維中のモノマ量:
試料繊維の水分を測定した後、ステンレス製の抽出用バスケットに入れ、沸騰水浴中で4時間抽出する。抽出後の試料をバスケットから取り出し、流水中で試料物を軽く洗い、秤量瓶に入れて田葉井製熱風乾燥機にて、105℃×2時間乾燥させる。
【0056】
続いて、乾燥後の試料を吸湿剤入りの真空乾燥機(井和式、CL−1005−2型)に入れ、真空度8mmHgで一夜乾燥させ、乾燥後、秤量瓶の蓋をして直示化学天秤で精秤し、下記の計算式で繊維中のモノマ量(%)を算出した。
繊維中のモノマ量(%)
={(W2 −W3 )/(W2 −W1 )×100}−油分の量(%)
1 :空秤量瓶重量(g)
2 :空秤量瓶重量(g)+乾燥後の試料重量(g)
3 :秤量瓶重量(g)+モノマ抽出乾燥後の試料重量(g)
【0057】
(3)繊維中の油分:
油分測定方法は、以下のとおりである。
・油分測定方法:
抽出装置に水を注入し、抽出フラスコをセットする。抽出器に測定試料10g、トリクロロエチレンを70ml入れ5分間浸漬後、試料を攪拌しながらトリクロロエチレンをおとす。続いて、再び試料入りの抽出器にトリクロロエチレンを70ml入れ攪拌後、抽出フラスコにおとし、試料を押し棒でしぼった後、試料を取り出す。
【0058】
抽出装置より抽出フラスコを取り出し、フラスコに回収管をセットしトリクロロエチレン回収装置の抽出コンデンサーにセットし、電熱器(500W×4/100V)でトリクロロエチレンを回収し、抽出フラスコを真空度10Torr以下、35℃×60分の条件で五酸化リンを吸湿剤として、真空冷凍乾燥機(共和式(CL−100S−2))で乾燥させ、終了後、下記計算式で糸中の油分を算出した。
糸中の油分(%)={(W2 −W1 )/10}×100
1 :抽出フラスコ空重量(g)、
2 :抽出フラスコ空重量(g)+抽出油剤量(g)
【0059】
(4)WJL停台率:
津田駒工業(株)製のウォータージェットルームZW303を用いて、緯糸に試験サンプル糸条を用いて、次の条件でWJL製織を行った。
回転数:500rpm、 ヨコ糸密度: 102本/インチ
連続運転時間:24時間
【0060】
このときの総停台回数(回/日・台)を、下記式により算出した。
総停台回数(回/日・台)=総停台回数/総生産量(m)/1日1台生産量
1日1台生産量(m/日・台)=1440分×(織機回転数/ヨコ糸密度×2.54/100)×稼働率
【0061】
(5)WJLローラへの白粉堆積:
WJLで24時間を連続して稼働した後、目視で、WJLローラへの白粉堆積状態を評価した。評価の基準は、「白粉堆積が少なく良好である」を「○」とし、「白粉堆積が普通である」を「△」とし、「白粉堆積が多く、良くない」を「×」とする3段階の評価で行った。
【0062】
実施例1〜3
98%硫酸相対粘度が2.6であり、酸化チタン粒子(平均粒径0.3μm)を0.3重量%含むポリヘキサメチレンアジパミドチップを290℃で溶融し、孔径0.15mm丸型の吐出孔(98ホール)を有する紡糸口金から吐出し、一方向からの冷却風によって冷却し、表1に示した組成で構成された油剤3種(実施例1〜3)を用いて給油し、さらに交絡処理を施して、第一ゴデットローラにて引き取り、引き続いて、第一ゴデットローラと第二ゴデットローラの間で延伸倍率1.05倍での延伸を行い、4500m/分の巻取り速度で巻取って、本発明にかかる56デシテックス−98フィラメントのポリアミドマルチフィラメント糸条を得た。該ポリアミドマルチフィラメント糸条は、強度が4.0cN/dtex、伸度が60%、沸騰水収縮率が4.5%、ウースター斑が0.8%、交絡数が35個/mであった。
【0063】
得られたポリアミドマルチフィラメント糸条を、ダブルツィスターにかけ250回/mの加撚をした。
【0064】
こうして得られたポリアミドマルチフィラメント糸条を、経糸と緯糸に用いて、ウォータージェットルームZW303を用いて、緯糸に試験サンプル糸条を用いて、WJL製織を行いポリアミドタフタ織物を製織した。このとき、経糸の準備は1000本整経を行いビームに巻き、該糸は糊付け・乾燥処理を施されたものである。
【0065】
こうして得られたポリアミドマルチフィラメント糸条とその糸を緯糸に用いたWJL製織について、評価した結果は表1の実施例1〜3に記載したとおりである。
【0066】
比較例1〜3
比較例1として、緯糸のみを、処理油剤を変更して製造したポリアミドマルチフィラメント糸条に変えた他は実施例1と同一の条件にして、ポリアミドタフタ織物をWJL製織により製造し、その評価結果を表1に示した。この比較例1の繊維糸条は、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が500000センチポイズで、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が110センチポイズであった。
【0067】
比較例2
比較例2として、緯糸のみを、更に他の処理油剤に変更して製造したポリアミドマルチフィラメント糸条に変えた他は実施例1と同一の条件にして、ポリアミドタフタ織物をWJL製織により製造し、その評価結果を表1に示した。この比較例2の繊維糸条は、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が3000センチポイズで、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が3センチポイズであった。
【0068】
この比較例2に使用した油剤は、平滑剤が20%と少なく、製織時の平滑性が悪く、生産困難なレベルであった。
【0069】
比較例3
比較例3として、緯糸のみを、更に他の処理油剤に変更して製造したポリアミドマルチフィラメント糸条に変えた他は実施例1と同一の条件にして、ポリアミドタフタ織物をWJL製織により製造し、その評価結果を表1に示した。この比較例3の繊維糸条は、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が20000センチポイズで、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が10センチポイズであった。
【0070】
上述の比較例1〜3の結果についても表1に示した。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.2デシテックス以上0.8デシテックス以下、伸度が50%以上であり、かつ油剤付着処理がされているポリアミドフィラメント繊維であり、該油剤は、油剤組成物全体に対し25〜80重量%の平滑剤を含み、該油剤組成物を含水率15〜60重量%の水混合液とした際の加水粘性の最大値が10000センチポイズ以下で、かつ水添加量が60重量%において加水粘度が100センチポイズ以下のものであることを特徴とする織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【請求項2】
前記油剤が、油剤組成物全体に対し15〜60重量%のポリエーテルエステル化合物、および非イオン系界面活性剤を含有するものであり、前記平滑剤が実質的に鉱物油、脂肪酸モノエステルおよび脂肪酸ジエステルのうちの1種以上からなり、前記ポリエーテルエステル化合物が実質的にポリエチレンオキシドである重合度2以上のポリエーテル鎖を分子中に持ちその末端が脂肪族化合物で封鎖されてなるエステル化合物であることを特徴とする請求項1記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【請求項3】
前記油剤が、油剤組成物全体に対し、平滑剤60重量%以下40重量%以上、乳化剤30重量%以下15重量%以上、制電剤15重量%以下5重量%以上、粘性低下剤10%以下3重量%以上である油剤であることを特徴とする請求項1または2記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【請求項4】
ウォータージェットルーム織機によって製織する際の緯糸用であることを特徴とする請求項1、2または3記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【請求項5】
繊維に付与された油剤の有効成分付着量が、繊維重量に対して0.4〜0.8重量%であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。
【請求項6】
ポリアミド繊維が、ナイロン66繊維であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の織物用極細ポリアミドフィラメント繊維。

【公開番号】特開2007−247120(P2007−247120A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75945(P2006−75945)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】