繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法
【課題】鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて、有限要素法によりコンピュータを用いて解析することのできる繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法を提供する。
【解決手段】塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱10の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、鉄筋コンクリート柱10の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の鉄筋コンクリート柱10の挙動を解析する。
【解決手段】塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱10の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、鉄筋コンクリート柱10の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の鉄筋コンクリート柱10の挙動を解析する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東海地震や、東南海、南海地震等が懸念される中、橋梁などの鉄筋コンクリート構造物の設計法は性能設計が主流となりつつある。性能設計では、構造物の耐力やじん性能を的確に表現する必要があるが、鉄筋コンクリート構造物の塑性域での繰返し載荷による耐荷力の劣化機構には未解明の部分もあり、またその挙動を表現する解析手法も確立されていないのが現状である。
【0003】
一方、土木・建設分野においては、有限要素法(FEM)を用いた解析手法が汎用されており、コンピュータ技術の発展に伴って、種々の構造解析プログラムや設計システムが開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−20649号公報
【特許文献2】特開2005−299203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば橋梁の下部構造を構成する鉄筋コンクリート柱は、例えばフーチング基礎に近接する柱基部における軸方向鉄筋に囲まれたコアコンクリートのせん断変形と、これに伴う軸方向鉄筋の座屈と、被りコンクリートの剥落とによって耐荷力を失うのが一般的な挙動である。従来のFEM解析では、この挙動を表現しようとする場合、耐荷力がピークに達するまでは比較的良好に再現することができるが、ピークに達した後に耐荷力を失う領域(ポストピーク領域)を再現することはできなかった。すなわち、従来のFEM解析では、鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて解析することは困難だった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて、有限要素法によりコンピュータを用いて解析することのできる繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、前記鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の前記鉄筋コンクリート柱の挙動を解析することを特徴とする繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0007】
また、本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法は、前記繰返し載荷が水平方向の載荷であり、前記座屈モデルが組み込まれる前記軸方向鉄筋の要素は、前記鉄筋コンクリート柱の基部における圧縮側及び引張側の1要素であることが好ましい。
【0008】
以下、本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法をさらに詳細に説明する。 本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法は、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、前記鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の前記鉄筋コンクリート柱の挙動を解析する。
【0009】
本発明の挙動解析方法によれば、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動は、コンピュータにインストールされた、公知の有限要素法(FEM)を用いた解析ソフトによる種々の構造解析プログラムを用いて解析することができる。このようなFEM解析ソフトとしては、例えば汎用線形及び非線形構造解析システムとして公知の商品名「DIANA」(TNO DIANA社製、販売代理店JIPテクノサイエンス株式会社)を好ましく使用することができる。DIANAは、土木・建設分野において、特にコンクリートのひび割れ進展解析、鋼構造物の疲労破壊解析・耐荷力解析、地盤の段階施工解析などの非線形解析に有利な解析システムである。またDIANAは、鉄筋コンクリート構造物中の配筋を、埋込鉄筋要素としてモデル化することにより、例えばコンクリートのメッシュ形状を意識することなく、任意の位置に鉄筋やPC鋼線を配置することが可能な機能を備えている。さらに、DIANAは、例えばコンクリートや鉄筋に関する種々の構成側を備えると共に、ユーザーサブルーチン機能を備えている。
【0010】
本発明では、例えばDIANAのユーザーサブルーチン機能を使用して、鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込むことにより、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失うポストピーク領域の鉄筋コンクリート柱の挙動を解析する。
【0011】
ここで、例えばユーザーサブルーチン機能を使用して、鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に組み込まれる座屈モデルとしては、例えば図1に応力ひずみ関係を示す、鉄筋単体を用いた座屈実験結果を基に提案された田上らの提案モデルを好ましく採用することができる(田上和也、中村光、斉藤成彦、檜垣勇:繰り返し荷重を受ける鉄筋の座屈モデルに関する研究、土木学会構造工学論文集vol.47A,2001.3参照)。
【0012】
田上らの提案モデルを座屈モデルとして組み込んだユーザーサブルーチンでは、図2に示すように、ユーザーサブルーチンをスタートさせると、引張応力を受ける場合はトリリニヤモデルとなり(図1のOA−AB−BC参照)、引張降伏後に軸圧縮ひずみを受ける場合は初期勾配で除荷される(図1のCD参照)。引き続き圧縮応力を受けると座屈点(図1のD参照)に達する。なお、座屈点は、オイラーやエンゲッサ・カルマン等の理論式によって求めることができる。
【0013】
座屈後の挙動(図1のDE参照)は、式(1)のモデルで表される。すなわち、座屈後急激に応力が低下し、次第に緩やかな曲線になり、残存応力に向かう。再引張時の挙動は、圧縮応力を受けている間は初期勾配となり(図1のEF参照)、その後の挙動(図1のFG参照)は、式(2)に従って、座屈後の圧縮ひずみ量に応じて引張応力を低減した点を目指す直線となる。すなわち、座屈後に引張ひずみを受ける場合、式(2)に示す(σt,max,σt,i)の点に向かう直線でモデル化することができる。
【0014】
【数1】
【0015】
【数2】
【0016】
ここで、式(2)は、前サイクルの最大引張ひずみに対応する応力σt,i -1に対し、新たなサイクルを行う場合は、前サイクルの最大引張ひずみに対応する引張応力σt,iが座屈後の圧縮ひずみ増分量εbにより低下することを表している。
【0017】
さらに、G点から再圧縮される場合は初期勾配で除荷される(図1のGI参照)。この時、I点の座屈応力を算定する場合、式(3)に示すようにC点(C点の応力:σC)からG点(G点の応力:σG)までの応力低下量だけI点の降伏応力(σI)が低下するととして降伏応力を算定し、定変位繰り返しでの応力低下を考慮する。以降、応力状態に応じて上記の座屈後の挙動で順次計算する。
【0018】
【数3】
【発明の効果】
【0019】
本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法によれば、鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて、有限要素法によりコンピュータを用いて解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好ましい第1実施形態では、図3(a),(b)及び図4(a),(b)に示すような構造を備える、地震時に曲げ破壊する鉄道高架橋を模擬した鉄筋コンクリート柱10を解析対象として、水平交番載荷実験を行うと共に、本発明の鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法により、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域(ポストピーク領域)までの挙動解析を有限要素法(FEM)解析により行って、水平交番載荷実験による実験結果と比較検討した。
【0021】
鉄筋コンクリート柱10は、断面寸法が50×50cm、高さが200cmの大きさを有しており、フーチング基礎11との接合部から150cmの高さを加力点として、水平方向の載荷を繰返すことにより、水平交番載荷実験を行った。図3(a),(b)に鉄筋コンクリート柱10の構造図を、図4(a),(b)に鉄筋コンクリート柱10の配筋図を、表1に鉄筋コンクリート柱10の諸元を示す。水平交番載荷実験により、鉄筋コンクリート柱10は、水平方向の載荷が繰返されて、フーチング基礎11と近接する柱基部において、圧縮側コンクリートの圧壊(軸方向鉄筋の座屈、かぶりコンクリートのはらみ出し、剥落)を生じて曲げ破壊した。
【0022】
【表1】
【0023】
一方、FEM解析では、コンピュータにインストールする有限要素法による解析ソフトとして、上述の商品名「DIANA」(TNO DIANA社製、販売代理店JIPテクノサイエンス株式会社)を使用した。また解析モデルは、図5(a),(b)に示す2次元モデルとし、底辺を完全固定とした。さらに、解析要素として、コンクートは4節点の四辺形要素、軸方向鉄筋はトラス要素、帯鉄筋は埋込み鉄筋要素を用いた。
【0024】
コンクリートの構成則は、Vecchio and Collins( F.J.Vecchio, M. P.Collins: The modified compression field theory for reinforced concrete elements subjected to shear,ACI Journal 83,pp.219-231,22(1986)参照)、及びSelby and Vecchio(R.G.Selby, F.J.Vecchio : Three-dimensional Constitutive Relations for Reinforced Concrete. Tech.Rep. 93-02, Univ. Toronto, dept. Civil Eng., Toronta,Canada, 1993.参照)により提案されている全ひずみ理論による回転ひび割れモデルを用いた。このモデルのひび割れ方向はひずみベクトルの主方向とともに連続的に回転する。
【0025】
コンクリートの応力−ひずみ関係は、引張側にHordijk(D.A.Hordijk:Local approach to fatigue of concrete, PhD thesis, Delft University of Technology,1991.参照)の引張破壊エネルギーに基づく非線形軟化曲線を用い、圧縮側にFeenstra(P.H.Feenstra:Computational Aspects of Biaxial Stress in Plain and Reinforced Concrete,PhD thesis,Delift University of Technology,1993.参照)の圧縮破壊エネルギーに基づく非線形軟化曲線を用いた。なお、引張破壊エネルギーは土木学会コンクリート標準示方書(2002年制定 コンクリート標準示方書 構造性能照査編,土木学会.参照)の方法で算定し、圧縮破壊エネルギーは中村ら(H.Nakamura,T.Higai:Compressive Fracture Energy and Fracture Zone Length of Concrete,Seminar on Post-Peak Behavior of Structures Subjected to Seismic Loads,JCI,Vol.2, pp. 259-272, 1999.10参照)の方法で算定した。
【0026】
計算ステップは、鉛直加力点に所定の鉛直荷重を考慮した後に、1δy(=7.5mm)の1/10の変位ステップで、水平加力点に強制変位を作用させた。
【0027】
求解法にはBFGS法を使用し、収束誤差は1/1000、繰り返し回数は50回とし、収束しなかった場合に誤差は持ち越すものとした。
【0028】
なお、軸方向鉄筋の座屈を考慮しない場合の鉄筋の構成則は、弾塑性とし、降伏基準としてVon Misesの基準を使用した。
【0029】
軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込む際には、上述のDIANAのユーザーサブルーチン機能を使用し、上述の田上らの提案モデルを座屈モデルとして、鉄筋コンクリート柱10の基部における軸方向鉄筋の圧縮側及び引張側の1要素(要素長75mm)に座屈モデルを組み込んだ。その他の軸方向鉄筋は、座屈を考慮しないモデルとした。
【0030】
なお、軸方向鉄筋の座屈応力は鉄筋の降伏応力とした。これは、水平交番載荷実験における軸方向鉄筋の座屈長が帯状鉄筋間隔75mmの3倍以下であり、この座屈長では弾性理論によるオイラーの理論式の適用範囲外となることから、近似的に定めたものである。
【0031】
そして、本第1実施形態によれば、FEM解析により塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱10の挙動をコンピュータを用いて解析するには、例えば図6に示すように、DIANAによってまず線形計算を行う。コンクリート要素、鉄筋要素が非線形領域に達したら、各々の非線形特性を考慮して、引き続き各載荷ステップにおける非線形計算を行い、収束計算により解を求める。
【0032】
また、本第1実施形態では、鉄筋コンクリート柱10の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルが組み込まれているので、コンクリートの圧壊や軸方向鉄筋の座屈の発生が反映された挙動解析が行われる。コンクリートの圧壊や軸方向鉄筋の座屈によって耐荷力が劣化し、荷重が降伏荷重として例えば最大荷重の50%以下程度に低下したら、挙動解析を終了する。
【0033】
なお、本第1実施形態では、DIANAを用いた鉄筋コンクリート柱10の挙動解析として、図5(a),(b)に示す2次元モデルによる解析モデルについて、従来と同様の軸方向鉄筋の座屈を考慮しない解析も行った。
【0034】
図7は、本第1実施形態において解析された、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱10の挙動を、鉄筋コンクリート柱10に載荷した水平荷重と鉄筋コンクリート柱10の水平変位との関係として、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すものである。図7に示す解析結果によれば、座屈を考慮しない場合の解析値は、水平変位75mmに至っても実験結果のような荷重の低下を示さない。これに対して、座屈を考慮した場合の解析値は、10δy(75mm)において荷重が低下している。また荷重の載荷時における座屈を考慮した場合の解析値は、実験値の荷重と同等である。
【0035】
このように、塑性域において繰返し載荷を受けて破壊する鉄筋コンクリート柱10を対象として、軸方向鉄筋の構成側に座屈挙動を組み込んで耐荷力が低下するまでFEM解析を行った結果、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮すれば、水平交番載荷実験による実験結果の水平荷重−水平変位関係を、荷重が低下するまで、良好に再現できることが判明した。またこれによって、曲げ破壊する鉄筋コンクリート柱10のポストピーク挙動をFEM解析によって表現する一手法として、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析する方法が有効であることが判明した。
【0036】
本発明の好ましい第2実施形態では、図8(a),(b)に示すような構造を備える、図3(a),(b)及び図4(a),(b)の鉄筋コンクリート柱のフーチング基礎11から3〜122cmの部分を、スパイラ筋による吹付モルタル厚さ4cmのスパイラル巻立工法で補強した補強鉄筋コンクリート柱12を解析対象として、上記第1実施形態と同様に、水平交番載荷実験を行うと共に、本発明の鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法により、上記第1実施形態と同様に、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域(ポストピーク領域)までの挙動解析を有限要素法(FEM)解析により行って、水平交番載荷実験による実験結果と比較検討した。
【0037】
また、本第2実施形態では、解析モデルを図9(a),(b)に示す3次元モデルとし、解析要素として、コンクートは4節点の四辺形要素、軸方向鉄筋はトラス要素、帯鉄筋は埋込み鉄筋要素を用いた。軸方向鉄筋の構成側に組み込む座屈モデルは、基部の軸方向鉄筋の両外縁の要素に適用し、その他の要素はバイリニアとした。座屈長は帯状鉄筋間隔として設定し、座屈応力は、最終的には降伏応力の1.5倍に設定した。なお、本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、DIANAを用いた補強鉄筋コンクリート柱12の挙動解析として、図9(a),(b)に示す3次元モデルによる解析モデルについて、従来と同様の軸方向鉄筋の座屈を考慮しない解析も行った。
【0038】
図10は、本第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析された、塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱12の挙動を、補強鉄筋コンクリート柱12に載荷した水平荷重と補強鉄筋コンクリート柱12の水平変位との関係として、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すものである。また図11は、本第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮しない従来の方法で解析された、塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱12の挙動を、補強鉄筋コンクリート柱12に載荷した水平荷重と補強鉄筋コンクリート柱12の水平変位との関係として、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すものである。
【0039】
図10及び図11に示す解析結果によれば、座屈を考慮しない場合の解析値は、水平変位が増大しても実験結果のような荷重の低下を示さない。これに対して、座屈を考慮した場合の解析値は、水平変位の増大に伴って、実験結果と同様に、階段状に荷重が低下している。また荷重の載荷時における座屈を考慮した場合の解析値は、実験値の荷重と略同等である。
【0040】
したがって、3次元モデルによる本第2実施形態によっても、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮すれば、水平交番載荷実験による実験結果の水平荷重−水平変位関係を、荷重が低下するまで、良好に再現できることが判明する。また、鉄筋コンクリート柱のポストピーク挙動をFEM解析によって表現する一手法として、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析する方法が有効であることが判明する。
【0041】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、コンピュータにインストールする有限要素法による解析ソフトは、DIANAである必要は必ずしも無く、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込むことが可能な、その他の種々の有限要素法による解析ソフトを用いることができる。また、コンクリートの構成則やコンクリートの応力−ひずみ関係は、上述の理論や標準示方書等に基づくものである必要は必ずしもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】軸方向鉄筋の構成側に組み込まれる座屈モデルの一例を説明する、応力ひずみ関係のグラフである。
【図2】座屈モデルを組み込んだユーザーサブルーチンの一例を説明するフローチャートである。
【図3】第1実施形態において解析対象となる鉄筋コンクリート柱の構造を説明する、(a)は正面構造図、(b)は上面構造図である。
【図4】第1実施形態において解析対象となる鉄筋コンクリート柱の配筋状態を説明する、(a)は横断配筋図、(b)は縦断配筋図である。
【図5】第1実施形態においてFEM解析で使用する、(a)はコンクリートの二次元解析モデル、(b)は鉄筋の二次元解析モデルである。
【図6】軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んだFEM解析による鉄筋コンクリート柱の挙動の解析手順を説明するフローチャートである。
【図7】第1実施形態において解析された塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すグラフである。
【図8】第2実施形態において解析対象となる補強鉄筋コンクリート柱の構造を説明する、(a)は上面構造図、(b)は正面構造図である。
【図9】第2実施形態においてFEM解析で使用する、(a)はコンクリートの三次元解析モデル、(b)は鉄筋の三次元解析モデルである。
【図10】第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析された塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱の挙動を、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すグラフである。
【図11】第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮しないで解析された塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱の挙動を、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
10 鉄筋コンクリート柱
11 フーチング基礎
12 補強鉄筋コンクリート柱
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東海地震や、東南海、南海地震等が懸念される中、橋梁などの鉄筋コンクリート構造物の設計法は性能設計が主流となりつつある。性能設計では、構造物の耐力やじん性能を的確に表現する必要があるが、鉄筋コンクリート構造物の塑性域での繰返し載荷による耐荷力の劣化機構には未解明の部分もあり、またその挙動を表現する解析手法も確立されていないのが現状である。
【0003】
一方、土木・建設分野においては、有限要素法(FEM)を用いた解析手法が汎用されており、コンピュータ技術の発展に伴って、種々の構造解析プログラムや設計システムが開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−20649号公報
【特許文献2】特開2005−299203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば橋梁の下部構造を構成する鉄筋コンクリート柱は、例えばフーチング基礎に近接する柱基部における軸方向鉄筋に囲まれたコアコンクリートのせん断変形と、これに伴う軸方向鉄筋の座屈と、被りコンクリートの剥落とによって耐荷力を失うのが一般的な挙動である。従来のFEM解析では、この挙動を表現しようとする場合、耐荷力がピークに達するまでは比較的良好に再現することができるが、ピークに達した後に耐荷力を失う領域(ポストピーク領域)を再現することはできなかった。すなわち、従来のFEM解析では、鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて解析することは困難だった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて、有限要素法によりコンピュータを用いて解析することのできる繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、前記鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の前記鉄筋コンクリート柱の挙動を解析することを特徴とする繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0007】
また、本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法は、前記繰返し載荷が水平方向の載荷であり、前記座屈モデルが組み込まれる前記軸方向鉄筋の要素は、前記鉄筋コンクリート柱の基部における圧縮側及び引張側の1要素であることが好ましい。
【0008】
以下、本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法をさらに詳細に説明する。 本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法は、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、前記鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の前記鉄筋コンクリート柱の挙動を解析する。
【0009】
本発明の挙動解析方法によれば、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動は、コンピュータにインストールされた、公知の有限要素法(FEM)を用いた解析ソフトによる種々の構造解析プログラムを用いて解析することができる。このようなFEM解析ソフトとしては、例えば汎用線形及び非線形構造解析システムとして公知の商品名「DIANA」(TNO DIANA社製、販売代理店JIPテクノサイエンス株式会社)を好ましく使用することができる。DIANAは、土木・建設分野において、特にコンクリートのひび割れ進展解析、鋼構造物の疲労破壊解析・耐荷力解析、地盤の段階施工解析などの非線形解析に有利な解析システムである。またDIANAは、鉄筋コンクリート構造物中の配筋を、埋込鉄筋要素としてモデル化することにより、例えばコンクリートのメッシュ形状を意識することなく、任意の位置に鉄筋やPC鋼線を配置することが可能な機能を備えている。さらに、DIANAは、例えばコンクリートや鉄筋に関する種々の構成側を備えると共に、ユーザーサブルーチン機能を備えている。
【0010】
本発明では、例えばDIANAのユーザーサブルーチン機能を使用して、鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込むことにより、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失うポストピーク領域の鉄筋コンクリート柱の挙動を解析する。
【0011】
ここで、例えばユーザーサブルーチン機能を使用して、鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に組み込まれる座屈モデルとしては、例えば図1に応力ひずみ関係を示す、鉄筋単体を用いた座屈実験結果を基に提案された田上らの提案モデルを好ましく採用することができる(田上和也、中村光、斉藤成彦、檜垣勇:繰り返し荷重を受ける鉄筋の座屈モデルに関する研究、土木学会構造工学論文集vol.47A,2001.3参照)。
【0012】
田上らの提案モデルを座屈モデルとして組み込んだユーザーサブルーチンでは、図2に示すように、ユーザーサブルーチンをスタートさせると、引張応力を受ける場合はトリリニヤモデルとなり(図1のOA−AB−BC参照)、引張降伏後に軸圧縮ひずみを受ける場合は初期勾配で除荷される(図1のCD参照)。引き続き圧縮応力を受けると座屈点(図1のD参照)に達する。なお、座屈点は、オイラーやエンゲッサ・カルマン等の理論式によって求めることができる。
【0013】
座屈後の挙動(図1のDE参照)は、式(1)のモデルで表される。すなわち、座屈後急激に応力が低下し、次第に緩やかな曲線になり、残存応力に向かう。再引張時の挙動は、圧縮応力を受けている間は初期勾配となり(図1のEF参照)、その後の挙動(図1のFG参照)は、式(2)に従って、座屈後の圧縮ひずみ量に応じて引張応力を低減した点を目指す直線となる。すなわち、座屈後に引張ひずみを受ける場合、式(2)に示す(σt,max,σt,i)の点に向かう直線でモデル化することができる。
【0014】
【数1】
【0015】
【数2】
【0016】
ここで、式(2)は、前サイクルの最大引張ひずみに対応する応力σt,i -1に対し、新たなサイクルを行う場合は、前サイクルの最大引張ひずみに対応する引張応力σt,iが座屈後の圧縮ひずみ増分量εbにより低下することを表している。
【0017】
さらに、G点から再圧縮される場合は初期勾配で除荷される(図1のGI参照)。この時、I点の座屈応力を算定する場合、式(3)に示すようにC点(C点の応力:σC)からG点(G点の応力:σG)までの応力低下量だけI点の降伏応力(σI)が低下するととして降伏応力を算定し、定変位繰り返しでの応力低下を考慮する。以降、応力状態に応じて上記の座屈後の挙動で順次計算する。
【0018】
【数3】
【発明の効果】
【0019】
本発明の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法によれば、鉄筋コンクリート柱の塑性域における繰返し載荷による耐荷力の劣化機構を、ポストピーク領域を含めて適切に反映させて、有限要素法によりコンピュータを用いて解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好ましい第1実施形態では、図3(a),(b)及び図4(a),(b)に示すような構造を備える、地震時に曲げ破壊する鉄道高架橋を模擬した鉄筋コンクリート柱10を解析対象として、水平交番載荷実験を行うと共に、本発明の鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法により、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域(ポストピーク領域)までの挙動解析を有限要素法(FEM)解析により行って、水平交番載荷実験による実験結果と比較検討した。
【0021】
鉄筋コンクリート柱10は、断面寸法が50×50cm、高さが200cmの大きさを有しており、フーチング基礎11との接合部から150cmの高さを加力点として、水平方向の載荷を繰返すことにより、水平交番載荷実験を行った。図3(a),(b)に鉄筋コンクリート柱10の構造図を、図4(a),(b)に鉄筋コンクリート柱10の配筋図を、表1に鉄筋コンクリート柱10の諸元を示す。水平交番載荷実験により、鉄筋コンクリート柱10は、水平方向の載荷が繰返されて、フーチング基礎11と近接する柱基部において、圧縮側コンクリートの圧壊(軸方向鉄筋の座屈、かぶりコンクリートのはらみ出し、剥落)を生じて曲げ破壊した。
【0022】
【表1】
【0023】
一方、FEM解析では、コンピュータにインストールする有限要素法による解析ソフトとして、上述の商品名「DIANA」(TNO DIANA社製、販売代理店JIPテクノサイエンス株式会社)を使用した。また解析モデルは、図5(a),(b)に示す2次元モデルとし、底辺を完全固定とした。さらに、解析要素として、コンクートは4節点の四辺形要素、軸方向鉄筋はトラス要素、帯鉄筋は埋込み鉄筋要素を用いた。
【0024】
コンクリートの構成則は、Vecchio and Collins( F.J.Vecchio, M. P.Collins: The modified compression field theory for reinforced concrete elements subjected to shear,ACI Journal 83,pp.219-231,22(1986)参照)、及びSelby and Vecchio(R.G.Selby, F.J.Vecchio : Three-dimensional Constitutive Relations for Reinforced Concrete. Tech.Rep. 93-02, Univ. Toronto, dept. Civil Eng., Toronta,Canada, 1993.参照)により提案されている全ひずみ理論による回転ひび割れモデルを用いた。このモデルのひび割れ方向はひずみベクトルの主方向とともに連続的に回転する。
【0025】
コンクリートの応力−ひずみ関係は、引張側にHordijk(D.A.Hordijk:Local approach to fatigue of concrete, PhD thesis, Delft University of Technology,1991.参照)の引張破壊エネルギーに基づく非線形軟化曲線を用い、圧縮側にFeenstra(P.H.Feenstra:Computational Aspects of Biaxial Stress in Plain and Reinforced Concrete,PhD thesis,Delift University of Technology,1993.参照)の圧縮破壊エネルギーに基づく非線形軟化曲線を用いた。なお、引張破壊エネルギーは土木学会コンクリート標準示方書(2002年制定 コンクリート標準示方書 構造性能照査編,土木学会.参照)の方法で算定し、圧縮破壊エネルギーは中村ら(H.Nakamura,T.Higai:Compressive Fracture Energy and Fracture Zone Length of Concrete,Seminar on Post-Peak Behavior of Structures Subjected to Seismic Loads,JCI,Vol.2, pp. 259-272, 1999.10参照)の方法で算定した。
【0026】
計算ステップは、鉛直加力点に所定の鉛直荷重を考慮した後に、1δy(=7.5mm)の1/10の変位ステップで、水平加力点に強制変位を作用させた。
【0027】
求解法にはBFGS法を使用し、収束誤差は1/1000、繰り返し回数は50回とし、収束しなかった場合に誤差は持ち越すものとした。
【0028】
なお、軸方向鉄筋の座屈を考慮しない場合の鉄筋の構成則は、弾塑性とし、降伏基準としてVon Misesの基準を使用した。
【0029】
軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込む際には、上述のDIANAのユーザーサブルーチン機能を使用し、上述の田上らの提案モデルを座屈モデルとして、鉄筋コンクリート柱10の基部における軸方向鉄筋の圧縮側及び引張側の1要素(要素長75mm)に座屈モデルを組み込んだ。その他の軸方向鉄筋は、座屈を考慮しないモデルとした。
【0030】
なお、軸方向鉄筋の座屈応力は鉄筋の降伏応力とした。これは、水平交番載荷実験における軸方向鉄筋の座屈長が帯状鉄筋間隔75mmの3倍以下であり、この座屈長では弾性理論によるオイラーの理論式の適用範囲外となることから、近似的に定めたものである。
【0031】
そして、本第1実施形態によれば、FEM解析により塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱10の挙動をコンピュータを用いて解析するには、例えば図6に示すように、DIANAによってまず線形計算を行う。コンクリート要素、鉄筋要素が非線形領域に達したら、各々の非線形特性を考慮して、引き続き各載荷ステップにおける非線形計算を行い、収束計算により解を求める。
【0032】
また、本第1実施形態では、鉄筋コンクリート柱10の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルが組み込まれているので、コンクリートの圧壊や軸方向鉄筋の座屈の発生が反映された挙動解析が行われる。コンクリートの圧壊や軸方向鉄筋の座屈によって耐荷力が劣化し、荷重が降伏荷重として例えば最大荷重の50%以下程度に低下したら、挙動解析を終了する。
【0033】
なお、本第1実施形態では、DIANAを用いた鉄筋コンクリート柱10の挙動解析として、図5(a),(b)に示す2次元モデルによる解析モデルについて、従来と同様の軸方向鉄筋の座屈を考慮しない解析も行った。
【0034】
図7は、本第1実施形態において解析された、塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱10の挙動を、鉄筋コンクリート柱10に載荷した水平荷重と鉄筋コンクリート柱10の水平変位との関係として、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すものである。図7に示す解析結果によれば、座屈を考慮しない場合の解析値は、水平変位75mmに至っても実験結果のような荷重の低下を示さない。これに対して、座屈を考慮した場合の解析値は、10δy(75mm)において荷重が低下している。また荷重の載荷時における座屈を考慮した場合の解析値は、実験値の荷重と同等である。
【0035】
このように、塑性域において繰返し載荷を受けて破壊する鉄筋コンクリート柱10を対象として、軸方向鉄筋の構成側に座屈挙動を組み込んで耐荷力が低下するまでFEM解析を行った結果、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮すれば、水平交番載荷実験による実験結果の水平荷重−水平変位関係を、荷重が低下するまで、良好に再現できることが判明した。またこれによって、曲げ破壊する鉄筋コンクリート柱10のポストピーク挙動をFEM解析によって表現する一手法として、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析する方法が有効であることが判明した。
【0036】
本発明の好ましい第2実施形態では、図8(a),(b)に示すような構造を備える、図3(a),(b)及び図4(a),(b)の鉄筋コンクリート柱のフーチング基礎11から3〜122cmの部分を、スパイラ筋による吹付モルタル厚さ4cmのスパイラル巻立工法で補強した補強鉄筋コンクリート柱12を解析対象として、上記第1実施形態と同様に、水平交番載荷実験を行うと共に、本発明の鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法により、上記第1実施形態と同様に、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域(ポストピーク領域)までの挙動解析を有限要素法(FEM)解析により行って、水平交番載荷実験による実験結果と比較検討した。
【0037】
また、本第2実施形態では、解析モデルを図9(a),(b)に示す3次元モデルとし、解析要素として、コンクートは4節点の四辺形要素、軸方向鉄筋はトラス要素、帯鉄筋は埋込み鉄筋要素を用いた。軸方向鉄筋の構成側に組み込む座屈モデルは、基部の軸方向鉄筋の両外縁の要素に適用し、その他の要素はバイリニアとした。座屈長は帯状鉄筋間隔として設定し、座屈応力は、最終的には降伏応力の1.5倍に設定した。なお、本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、DIANAを用いた補強鉄筋コンクリート柱12の挙動解析として、図9(a),(b)に示す3次元モデルによる解析モデルについて、従来と同様の軸方向鉄筋の座屈を考慮しない解析も行った。
【0038】
図10は、本第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析された、塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱12の挙動を、補強鉄筋コンクリート柱12に載荷した水平荷重と補強鉄筋コンクリート柱12の水平変位との関係として、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すものである。また図11は、本第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮しない従来の方法で解析された、塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱12の挙動を、補強鉄筋コンクリート柱12に載荷した水平荷重と補強鉄筋コンクリート柱12の水平変位との関係として、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すものである。
【0039】
図10及び図11に示す解析結果によれば、座屈を考慮しない場合の解析値は、水平変位が増大しても実験結果のような荷重の低下を示さない。これに対して、座屈を考慮した場合の解析値は、水平変位の増大に伴って、実験結果と同様に、階段状に荷重が低下している。また荷重の載荷時における座屈を考慮した場合の解析値は、実験値の荷重と略同等である。
【0040】
したがって、3次元モデルによる本第2実施形態によっても、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮すれば、水平交番載荷実験による実験結果の水平荷重−水平変位関係を、荷重が低下するまで、良好に再現できることが判明する。また、鉄筋コンクリート柱のポストピーク挙動をFEM解析によって表現する一手法として、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析する方法が有効であることが判明する。
【0041】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、コンピュータにインストールする有限要素法による解析ソフトは、DIANAである必要は必ずしも無く、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込むことが可能な、その他の種々の有限要素法による解析ソフトを用いることができる。また、コンクリートの構成則やコンクリートの応力−ひずみ関係は、上述の理論や標準示方書等に基づくものである必要は必ずしもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】軸方向鉄筋の構成側に組み込まれる座屈モデルの一例を説明する、応力ひずみ関係のグラフである。
【図2】座屈モデルを組み込んだユーザーサブルーチンの一例を説明するフローチャートである。
【図3】第1実施形態において解析対象となる鉄筋コンクリート柱の構造を説明する、(a)は正面構造図、(b)は上面構造図である。
【図4】第1実施形態において解析対象となる鉄筋コンクリート柱の配筋状態を説明する、(a)は横断配筋図、(b)は縦断配筋図である。
【図5】第1実施形態においてFEM解析で使用する、(a)はコンクリートの二次元解析モデル、(b)は鉄筋の二次元解析モデルである。
【図6】軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んだFEM解析による鉄筋コンクリート柱の挙動の解析手順を説明するフローチャートである。
【図7】第1実施形態において解析された塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すグラフである。
【図8】第2実施形態において解析対象となる補強鉄筋コンクリート柱の構造を説明する、(a)は上面構造図、(b)は正面構造図である。
【図9】第2実施形態においてFEM解析で使用する、(a)はコンクリートの三次元解析モデル、(b)は鉄筋の三次元解析モデルである。
【図10】第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで解析された塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱の挙動を、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すグラフである。
【図11】第2実施形態において、軸方向鉄筋の構成側に座屈を考慮しないで解析された塑性域において繰返し載荷を受ける補強鉄筋コンクリート柱の挙動を、水平交番載荷実験による実験結果と比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
10 鉄筋コンクリート柱
11 フーチング基礎
12 補強鉄筋コンクリート柱
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、
前記鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の前記鉄筋コンクリート柱の挙動を解析することを特徴とする繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法。
【請求項2】
前記繰返し載荷が水平方向の載荷であり、前記座屈モデルが組み込まれる前記軸方向鉄筋の要素は、前記鉄筋コンクリート柱の基部における圧縮側及び引張側の1要素である請求項1に記載の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法。
【請求項1】
塑性域において繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動を、有限要素法によりコンピュータを用いて解析する鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法において、
前記鉄筋コンクリート柱の軸方向鉄筋の構成側に座屈モデルを組み込んで、耐荷力がピークに達した後に耐荷力を失う領域の前記鉄筋コンクリート柱の挙動を解析することを特徴とする繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法。
【請求項2】
前記繰返し載荷が水平方向の載荷であり、前記座屈モデルが組み込まれる前記軸方向鉄筋の要素は、前記鉄筋コンクリート柱の基部における圧縮側及び引張側の1要素である請求項1に記載の繰返し載荷を受ける鉄筋コンクリート柱の挙動解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−57204(P2008−57204A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235101(P2006−235101)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]