説明

耐スライム性および貯蔵安定性が改良された銅化合物を含有する防汚塗料組成物

【課題】優れた耐スライム性を賦与する防汚塗膜を形成でき、かつ、防汚剤の塗料中での再結晶が抑制された防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明の防汚塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)に、防汚剤として、亜酸化銅等の無機銅系防汚剤(B)と、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド(C)とを配合することを特徴とする。防汚剤(B)は、塗
膜形成樹脂(A)100重量部に対して60〜1000重量部の割合で含まれていることが好ましく、防汚剤(C)は、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して1.4〜80重量部の割合で含まれていることが好ましく、また、防汚剤(C)は、防汚剤(B)100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含まれていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水棲生物による基材の汚損を防止するために使用される、亜酸化銅等の防汚剤を含有する防汚塗料組成物、ならびにそのような防汚塗料組成物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、船底塗料としては、耐フジツボ性に優れる等の理由から、亜酸化銅等の銅化合物を含むものが広く使用されている。しかしながら、船の稼動率が低い場合や海域の条件などによっては、珪藻類などのスライム(微生物皮膜)が付着し、船底の色がうす緑色になりやすく、特にプレジャーボート等の見栄えも要求される船舶で問題視されることが多い。
【0003】
そこで、従来の防汚塗料では、亜酸化銅等の銅化合物に加え、スライムの付着を防止するための耐スライム剤として、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の有機防汚剤が配合されて用いられることがあった。
【0004】
たとえば、特開2006−152205号公報(特許文献1)の実施例には、金属塩結合を有する加水分解性アクリル樹脂等の樹脂成分と、N,N'−ジメチル−N'−フェニル
−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、亜酸化銅等の防汚剤とを含有する防汚塗料組成物が記載されている。特許第3396349号公報(特許文献2)の実施例には、トリオルガノシリル基を有する加水分解性共重合体と、亜酸化銅およびN,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミドとを含有する防
汚塗料組成物が記載されている。また、特開2004−315810号公報(特許文献3)には、酸化亜鉛等の無機担持体と、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド等の有機防汚剤とを含有する、防汚効果持続性の向上な
どの効果をうたった防汚塗料の発明が記載されている。
【特許文献1】特開2006−152205号公報
【特許文献2】特許第3396349号公報
【特許文献3】特開2004−315810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の防汚塗料組成物の耐スライム性には改善の余地があり、また、耐スライム性を向上させようと防汚剤の塗料への配合量を増加させると、貯蔵中に再結晶して塗料性状が不良となりやすく、塗装作業中にスプレーガンの先が詰まるなどの不具合が起きるようになるといった問題があった。
【0006】
本発明は、優れた耐スライム性を賦与する防汚塗膜を形成でき、かつ、塗料中での防汚剤の再結晶が抑制された防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、塗膜形成樹脂に、防汚剤として、亜酸化銅やロダン銅などの銅化合物と、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミドとを
組み合わせて配合することにより、貯蔵中に再結晶が起こらず、かつ顕著な耐スライム性を有する防汚塗膜を形成しうる防汚塗料組成物が得られることを見出し、本発明を完成さ
せるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の防汚塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)と、防汚剤として、亜酸化銅、チオシアン酸銅、塩基性硫酸銅、塩化銅、酸化銅、および銅粉からなる群より選択される少なくとも1種の無機銅系防汚剤(B)とを含有する防汚塗料組成物であって、さらに耐スライム剤として、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド(C)を含有することを特徴とする。
【0009】
上記防汚剤(B)は、加水分解性共重合体(A)100重量部に対して60〜1000重量部の割合で含まれていることが好ましく、上記防汚剤(C)は、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して1.4〜80重量部の割合で含まれていることが好ましい。また、上記防汚剤(C)は、防汚剤(B)100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含まれていることが好ましい。
【0010】
また、上記塗膜形成樹脂(A)としては、金属塩結合含有アクリル樹脂、トリアルキルシリル基含有アクリル樹脂、アクリル樹脂(上記金属塩結合またはトリアルキルシリル基を含有するものを除く。)、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体、塩化ゴム系樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、合成ゴム、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、石油樹脂、油性樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、アルキッド樹脂、およびクマロン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。塗膜形成樹脂(A)は、さらに、ロジン、ロジンエステル系樹脂、ロジン系石鹸、ナフテン酸、バーサチック酸、およびトリフェニルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の防汚塗料組成物は、さらに必要に応じて、銅ピリチオン等の有機防汚剤のような上記防汚剤(B)および(C)以外の防汚剤(D)、弁柄等の着色顔料(E)、タルク等の体質顔料(F)、無水石膏等の脱水剤(G)、または可塑剤(H)としての防汚塗料組成物中の全固形分に対して0.5〜5重量%の量の塩素化パラフィンのうちの1種以上を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防汚塗料組成物を用いることにより、塗料中の再結晶物により塗料性状が不良となる、あるいはそれに伴い塗装作業に支障をきたすといった問題を引き起こすことなく、見栄えが要求される船舶等に対して、十分な耐スライム性を有する防汚塗膜を形成できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において成分の含有量を規定する際の基準となる物質の重量は、樹脂の重合用溶媒や塗料の希釈用溶剤等の揮発性成分を除いた乾燥塗膜を構成しうる成分、すなわち「固形分」の重量である。
【0014】
また、本発明において「スライム」とは、藻類(ケイ藻、緑藻等)、バクテリアその他の微生物などからなる膜状の集合体であり、「耐スライム性」とは、このようなスライムが基材表面に形成されることを防止する性能をいう。
【0015】
防汚塗料組成物の成分
< 塗膜形成樹脂(A) >
本発明の塗膜形成樹脂(A)としては、以下に挙げるような、公知の防汚塗料組成物で
も用いられている各種の樹脂を使用することができる。これらの塗膜形成樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
たとえば、塗膜形成樹脂(A)が、所定の金属塩結合またはトリアルキルシリル基を含有するアクリル樹脂(詳細は後述する。)のような、海水中等のアルカリ雰囲気下における加水分解性を有する樹脂は、防汚塗膜の自己研磨性や防汚剤の徐放性などの観点から望ましい。
【0017】
また、塗膜形成樹脂(A)は、加水分解性および水溶性樹脂の他、上記金属塩結合およびトリアルキルシリル基を含有しないアクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体、塩化ゴム系樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、合成ゴム、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、石油樹脂、油性樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、アルキッド樹脂、クマロン樹脂等の非水溶性ないし難水溶性の樹脂を含んでいてもよい。
【0018】
塗膜形成樹脂(A)は、さらに、ロジン類(ロジン、ロジンエステル系樹脂、ロジン系石鹸等)やパインタールなどの樹脂や、ナフテン酸、バーサチック酸、トリフェニルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸などの一塩基性有機酸を含んでいてもよい。これらの成分は、塗膜形成樹脂(A)の溶出助剤(塗膜の溶解を助ける材料)としても機能する。たとえば、ロジンと、所定の金属塩結合またはトリアルキルシリル基を含有するアクリル樹脂あるいは塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0019】
なお、本発明において、上記ロジン類やナフテン酸等を塗膜形成樹脂(A)に配合して用いる場合は、それらの重量も、後述するような防汚剤(B)および(C)その他の各種成分の配合量の規定において、塗膜形成樹脂(A)の重量に算入するものとする。
【0020】
金属塩結合を含有するアクリル樹脂(金属塩結合含有共重合体)としては、下記式(I
)で表される「側鎖末端型」の金属塩結合、または下記式(II)で表される「架橋型」の金属塩結合、あるいはこの両方を含有するアクリル樹脂が好適である。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
式(I)または(II)中、Mは亜鉛または銅を示し、Rは水素原子またはメチル基を示
し、R1は有機基を示す。なお、金属塩結合含有アクリル樹脂には通常、式(I)または(II)で表される金属塩結合が複数存在するが、それぞれのR、R1、M同士は、互いに同
一でも異なっていてもよい。
【0024】
式(I)中の有機基R1としては、一塩基酸から形成される有機酸残基であって、炭素原子数2〜30の飽和もしくは不飽和脂肪族炭化水素基、炭素原子数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式炭素水素基、炭素原子数6〜18の芳香族炭化水素基、またはこれらの置換体であることが好ましく、炭素原子数10〜20の飽和もしくは不飽和脂肪族炭化水素基、炭素原子数3〜20の飽和もしくは不飽和脂肪族炭化水素基、またはこれらの置換体であることがより好ましい。なかでも、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸(これらの不飽和脂肪酸の構造異性体(イソステアリン酸等)を含む。)、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、12−ヒドロキシステアリン酸またはナフテン酸から形成される有機酸残基を有するものが特に好ましい。このようなR1を有するアクリル樹脂は調製が容易であり、また
、防汚塗膜の加水分解性や重ね塗り性を優れたものにすることができる。
【0025】
このような側鎖末端型または架橋型の金属塩結合を含有するアクリル樹脂は、たとえば、下記式(III)で表される金属塩結合を有する単量体、下記式(IV)で表される金属塩
結合を有する単量体、およびこれらの単量体と共重合し得るその他の(金属塩結合を含有しない)アクリル樹脂用の重合性不飽和単量体を共重合することにより調製することができる。
【0026】
CH2=C(R)−COO−M−O−COR1 ……(III)
CH2=C(R)−COO−M−O−CO−C(R)=CH2 ……(IV)
式(III)または(IV)中、Mは亜鉛または銅を示し、Rは水素原子またはメチル基を
示し、R1は有機基を示す(前記式(I)および(II)と同様である)。ただし、式(IV)で表される金属含有単量体と区別するため、式(III)におけるR1は、ビニル基[−CH=CH2]およびイソプロペニル基[−C(CH3)=CH2]を含まないものとする。なお
、式(III)中のR1の好ましい種類は、前述の式(I)中の好ましいものと同様である。
【0027】
あるいは、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メ
タ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートアクリル等を用いてアクリル
樹脂を調製した後、この樹脂の側鎖にある未だ金属塩結合を形成していないカルボキシル基に、銅または亜鉛(M)を介して有機基(R1)が結合した構造を導入する反応を行う
ことによっても、式(I)で表される側鎖末端基を有するアクリル樹脂を調製することが
できる。なお、上記の方法により導入される場合であっても、前記式(I)におけるR1の好ましい種類は前述したものと同様である。
【0028】
式(IV)で表される単量体は、たとえば、無機金属化合物(亜鉛または銅の酸化物、水酸化物、塩化物等)と(メタ)アクリル酸またはそのエステル化合物とを、アルコール系有機溶媒および水の存在下で、金属塩の分解温度以下で加熱、撹拌するなど、公知の方法により調製することができる。
【0029】
また、式(III)または(IV)で表される金属塩結合を有する単量体と共重合し得るそ
の他の(金属塩結合を含有しない)単量体としては、アクリル樹脂用の重合性不飽和単量体として公知のものから適宜選択することができるが、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが好ましく、なかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メ
タ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが特に好ましい。その
他、スチレンおよびスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;(メタ)アクリロニトリルなどを用いることもできる。
【0030】
上述のような金属塩結合含有共重合体は、式(I)の構造に起因する亜鉛および/また
は銅の含有量が、当該共重合体の0.5〜20重量%であることが好ましく、1〜19重量%であることがより好ましい。このような条件を満たす金属塩結合含有共重合体を用いることにより、防汚性および消耗性の両面に優れた防汚塗膜を形成できるようになる。亜鉛および/または銅の含有量は、金属塩結合含有共重合体の調製に用いられる、これらの金属を含有する単量体とそれ以外の単量体との配合割合、あるいは、アクリル樹脂に後から反応させる亜鉛および/または銅を含有する化合物の添加量を調節することなどにより、上記範囲内のものとすることが可能である。
【0031】
また、金属塩結合含有アクリル樹脂の数平均分子量(Mn:GPCによるポリスチレン換算値)および重量平均分子量(Mw:GPCによるポリスチレン換算値)は、防汚塗料組成物の粘度や貯蔵安定性、防汚塗膜の溶出速度などを考慮し、適宜調整することができるが、Mnは、通常1,000〜100,000程度、好ましくは1,000〜50,000であり、また、Mwは、通常1,000〜20,000程度、好ましくは1,000〜10,000である。
【0032】
一方、トリアルキルシリル基を含有するアクリル樹脂としては、下記式(V)で表され
る(メタ)アクリル酸のトリアルキルシリルエステルから誘導される成分単位を(好ましくは20〜65重量%の割合で、より好ましくは30〜55重量%の割合で)含有するアクリル樹脂が好適である。
【0033】
【化3】

【0034】
式(V)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。なお、トリアルキルシリル基含有アクリル樹脂には通常、式(V)で表される構造が複数存在するが、それぞれのR2、R3およびR4同士は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0035】
このようなトリアルキルシリル基含有アクリル樹脂は、たとえば、下記式(VI)で表される(メタ)アクリル酸トリアルキルシリルエステル単量体と、この単量体と共重合し得るその他の(トリアルキルシリル基を含有しない)アクリル樹脂用の重合性不飽和単量体を共重合することにより調製することができる。
【0036】
CH2=C(R)−COO−SiR234 ……(VI)
式(VI)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R2、R3およびR4はそれぞれ独立
に、炭素原子数1〜18のアルキル基を表す(前記式(V)と同様である)。
【0037】
式(VI)で表される(メタ)アクリル酸トリアルキルシリルエステルとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸トリメチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリエチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリブチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリイソブチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸モノメチルジプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸メチルエチルプロピルシリルエステル等が挙げられ、なかでも、(メタ)アクリル酸トリプロピルシリルエステ
ル、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリブチルシリルエステル、(メタ)アクリル酸トリイソブチルシリルエステルが好ましい。
【0038】
また、式(VI)で表される金属塩結合を有する単量体と共重合し得るその他の(トリアルキルシリル基を含有しない)単量体としては、前述の金属塩結合含有アクリル樹脂についてと同様、アクリル樹脂用の重合性不飽和単量体として公知のものから適宜選択することができるが、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが好ましく、なかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが特に好ましい。その他、スチレンおよびスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;(メタ)アクリロニトリルなどを用いることもできる。
【0039】
上述のようなトリアルキルシリル基含有アクリル樹脂の数平均分子量(Mn:GPCによるポリスチレン換算値)、重量平均分子量(Mw:GPCによるポリスチレン換算値)、分子量分布(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)、粘度などの性状は、防汚塗料組成物の貯蔵安定性や塗装作業性、防汚塗膜の溶出速度などを考慮し、適宜調整することができるが、一般的には以下の通りである。
【0040】
数平均分子量(Mn)は、通常3,000〜50,000、好ましくは3,000〜20,000、さらに好ましくは4,000〜15,000、特に好ましくは5,000〜12,000である。重量平均分子量(Mw)は、通常4,000〜150,000、好ましくは4,000〜60,000、さらに好ましくは6,000〜30,000である。分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.0〜4.0、好ましくは1.0〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.5である。ガラス転移温度(Tg)は、通常15〜80℃、好ましくは25〜80℃、さらに好ましくは30〜70℃、特に好ましくは35〜60℃である。50%キシレン溶液における粘度(25℃)は、通常30〜1000CPS、好ましくは40〜600CPSである。
【0041】
< 防汚剤 >
本発明の防汚塗料組成物は、防汚剤として、少なくとも、亜酸化銅等の無機銅系防汚剤(B)と、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルフ
ァミド(C)とを含有する。
【0042】
無機銅系防汚剤(B)としては、公知の防汚塗料組成物の防汚成分として使用されているものを本発明においても使用することができ、たとえば、亜酸化銅、チオシアン酸銅、塩基性硫酸銅、塩化銅、酸化銅などの無機系銅化合物および銅粉が挙げられる。これらの無機銅系防汚剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
一方、防汚剤(C)として用いられるN,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミドは、下記式(VII)で表される化合物である。この防汚剤は、たとえばランクセス(株)製「プリベントールA−5S」として入手できる。
【0044】
【化4】

【0045】
本発明の防汚塗料組成物中の防汚剤(B)の含有量は、塗膜形成樹脂(A)100重量
部に対して、60〜1000重量部の割合であることが好ましく、65〜900重量部の割合であることがより好ましく、70〜800重量部の割合であることが特に好ましい。
【0046】
また、防汚剤(C)の含有量は、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して、1.4〜80重量部の割合であることが好ましく、2〜75重量部の割合であることがより好ましく、3〜70重量部の割合であることが特に好ましい。
【0047】
さらに、防汚剤(B)および(C)の配合比は、防汚剤(B)100重量部に対して、防汚剤(C)を0.1〜100重量部とすることが好ましく、0.5〜80重量部とすることがより好ましく、1.0〜70重量部とすることが特に好ましい。
【0048】
このような条件を満たすことにより、本発明の防汚塗料組成物は、塗料中での再結晶物を抑制し、防汚性(耐スライム性、耐フジツボ性等)に優れたものとなるという効果の面で、さらに望ましいものとなる。
【0049】
本発明の防汚塗料組成物は、上記防汚剤(B)および(C)を含有することにより優れた防汚性(耐スライム性、耐フジツボ性等)を有するものであるが、このような防汚性をより一層向上させる、あるいはその他の生物の付着を防止する効果を向上させるため、必要に応じて、上記防汚剤(B)および(C)以外のその他の防汚剤(D)を含有してもよい。
【0050】
本発明で用いることのできる「その他の防汚剤」(D)としては、たとえば、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩(「銅ピリチオン」ともいう。)、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩(「ジンクピリチオン」ともいう。)、4,5−ジクロロ−2−
n−オクチル−4−イソチアゾリン−3オン、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、
2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル
、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ジンクジメチ
ルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2,3−ジクロロ−N
−(2',6'−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−
メチルフェニル)マレイミドなどの有機防汚剤が挙げられる。これらの防汚剤は、1種単
独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0051】
< その他の成分 >
本発明の防汚塗料組成物には、上述した塗膜形成樹脂(A)や防汚剤(B)〜(D)の他に、(E)着色顔料、(F)体質顔料、(G)脱水剤、(H)可塑剤、(I)タレ止め・沈降防止剤、溶剤など、一般的な塗料組成物に用いられている各種成分を配合することができる。
【0052】
・(E)着色顔料
本発明の防汚塗料組成物に配合することのできる着色顔料としては、たとえば、弁柄、バライト粉(硫酸バリウム)、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄等の無機系顔料や、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の有機系顔料が挙げられる。特に、無機系顔料の内弁柄、チタン白、黄色酸化鉄は着色力の点で好ましく、また、上記有機系顔料は鮮やかな色彩の塗膜を提供できて変色も少ないなどの点で好ましい。これらの着色顔料は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、着色顔料には、さらに染料等の各種着色剤が含まれていてもよい。また、体質顔料の配合量は適宜調整することができるが、たとえば、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対し
て0.05〜125重量部の割合である。
【0053】
・(F)体質顔料
体質顔料は、屈折率が小さく、油やワニスと混練した場合に透明で被塗面を隠さないような顔料である。本発明の防汚塗料組成物に配合することのできる体質顔料としては、たとえば、タルク、シリカ、マイカ、クレー、酸化亜鉛、沈降防止剤としても用いられる炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、艶消し剤としても用いられるホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウムなどが挙げられ、なかでも、タルク、シリカ、マイカ、クレー、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムが好ましい。これらの体質顔料は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、体質顔料の配合量は適宜調整することができるが、たとえば、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して2.5〜250重量部の割合である。
【0054】
・(G)脱水剤
脱水剤は、塗料の貯蔵安定性の向上に寄与する成分である。本発明の防汚塗料組成物に配合することのできる脱水剤としては、たとえば、無水石膏、半水石膏(焼石膏)、合成ゼオライト系吸着剤(商品名「モレキュラーシーブ」等)などの無機系脱水剤や、オルソエステル類(オルソギ酸メチル、オルソ酢酸メチル、オルソホウ酸エステル等)、シリケート類、イソシアネート類などの無機系脱水剤が挙げられる。なかでも、無機系の脱水剤である無水石膏、半水石膏(焼石膏)が好ましい。これらの脱水剤は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、脱水剤の配合量は適宜調整することができるが、たとえば、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して1.0〜25重量部の割合である。
【0055】
・(H)可塑剤
可塑剤は、防汚塗膜の耐クラック性や耐水性の向上および変色の抑制に寄与する成分である。本発明の防汚塗料組成物に配合することのできる可塑剤としては、たとえば、n−パラフィン、塩素化パラフィン、テルペンフェノール、トリクレジルフォスフェート(TCP)、ポリビニルエチルエーテルなどが挙げられ、なかでも、塩素化パラフィン、テルペンフェノールが好ましく、塩素化パラフィンが特に好ましい。これらの可塑剤は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。上記n−パラフィンとしては、日本石油化学(株)製「n−パラフィン」などの商品を、上記塩素化パラフィンとしては、東ソー(株)製「トヨパラックス A−40/A−50/A−70/A−145/A−1
50」などの商品を使用できる。なお、可塑剤の配合量は適宜調整することができるが、たとえば、防汚塗料組成物中の全固形分に対して0.5〜5重量%の割合である。
【0056】
・(I)タレ止め・沈降防止剤
本発明で用いることのできるタレ止め・沈降防止剤(搖変剤)としては、たとえば、有機粘土系化合物(Al、Ca、Znのアミン塩、ステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、合成微粉シリカなどが挙げられ、中でも、有機粘土系化合物、ポリアマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、合成微粉シリカが好ましい。これらのタレ止め・沈降防止剤は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、タレ止め・沈降防止剤の配合量は適宜調整することができるが、たとえば、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して0.25〜50重量部の割合である。
【0057】
・溶剤
本発明の防汚塗料組成物を構成する各種成分は、通常の防汚塗料組成物と同様、溶剤に溶解もしくは分散している。本発明では、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤(キシレン、トル
エン等)、ケトン系溶剤(MIBK、シクロヘキサノン等)、エステル系溶剤、エーテル系溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、アルコール系溶剤(イソプロピルアルコール等)など、防汚塗料用の溶剤として一般的なものを用いることができる。なお、溶剤の配合量は適宜調整することができるが、たとえば、防汚塗料組成物の全固形分率が20〜90重量%となるような割合であり、作業性に応じて塗装時にさらに添加してもよい。
【0058】
防汚塗料組成物の製造方法および用途
本発明の防汚塗料組成物は、公知の一般的な防汚塗料と同様の装置、手段等を用いて調製することができる。たとえば、あらかじめ塗膜形成樹脂(A)を調製した後、この樹脂(反応液)と、防汚剤(B)および(C)と、必要に応じてその他の添加剤等の成分とを、一度にまたは順次溶剤に添加して、撹拌、混合するようにして製造すればよい。
【0059】
また、本発明の防汚塗料組成物は、公知の一般的な防汚塗料と同様の態様で使用することができる。たとえば、基材の表面、特に、水中構造物、船舶外板、漁網、漁具など、海水(汽水を含む。)または真水と常時または断続的に接触する基材の表面に、本発明の防汚塗料組成物を塗布または含浸した後、所定の期間乾燥させることにより、基材の表面に硬化した防汚塗膜を形成することができる。このような防汚塗膜で表面を被覆することにより、水棲生物、特にフジツボやスライムなどの付着による基材の汚損を、長期間にわたって防止することができる。防汚塗膜の(乾燥)膜厚は、塗膜の消耗速度などを考慮して適宜調整することができるが、たとえば、50〜150μm程度とすればよい。
【実施例】
【0060】
以下の実施例における各種物性等の測定方法は下記の通りである。
<固形分率>
調製した共重合体の溶液1gを平底皿にはかり取り、質量既知の針金を使って均一に広げた。125℃で1時間乾燥し、溶剤揮発後の後残渣および針金の質量を測定し、算出された加熱残分(すなわち固形分)から固形分率を求めた。
【0061】
<ガードナー粘度>
ガードナー粘度は、JIS K7233の4.3に準じ、反応液の固形分率を35重量
%に調整した後、25℃で測定した。
【0062】
<Mn・Mw>
数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、測定装置として東ソー(株)製「HLC−8120GPC」を、分離カラムとして東ソー(株)製「TSKgel α−M
」2本を、また、溶離液として20mMのLiBrを添加したジメチルホルムアミド(DMF)を用いたGPCにより、いずれもポリスチレン換算値として測定した。
【0063】
<樹脂のガラス転移温度(Tg)>
島津示差走査熱量計DSC−60((株)島津製作所製)にて、昇温条件 −30℃から120℃まで5℃/min昇温条件で測定し、変曲点の中間点をTgとした。
【0064】
[調製例1]金属含有単量体(a)の調製
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)85.4重量部および酸化亜鉛40.7重量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸(MAA)43.1重量部、アクリル酸(AA)36.1重量部および水5重量部からなる混合物を滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。滴下終了後、反応溶液は乳白色状態から透明となった。さらに2時間撹拌した後、n−ブタノール6.7重量部およびキシレン29.2重量部を添加
して、固形分率44.9重量%である金属含有単量体(a)を含む反応液を得た。調製例1に関する滴下成分・生成物の性状等を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[製造例1]共重合体Aの製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル15重量部、キシレン57重量部およびエチルアクリレート4重量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、前記調製例1:金属含有単量体(a)の調製工程で得られた反応液37.8重量部、メチルメタクリレート13重量部、エチルアクリレート65重量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(日本ヒドラジン工業(株)製)2.5重量部、アゾビスメチルブチロニトリル(AMBN)(日本ヒドラジン工業(株)製)7重量部、連鎖移動剤「ノフマーMSD」(日本油脂(株)製)1重量部およびキシレン10重量部からなる透明な混合物を、滴下ロートから6時間かけて等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート(TBPO)0.5重量部とキシレン7重量部を30分かけて滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを4.4重量部添加して、反応液中に不溶物がなく、淡黄色透明な、金属塩結合含有共重合体Aの反応液を得た。この反応液の固形分率は46.2重量%、ガードナー粘度は+Yであった。また、得られた金属塩結合含有共重合体Aの数平均分子量(Mn)は2200、重量平均分子量(Mw)は5600であった。製造例1に関する滴下成分・生成物の性状等を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
[製造例2]共重合体Bの製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、プロピレングリ
コールモノメチルエーテル(PGM)30重量部およびキシレン40重量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、バーサチック酸亜鉛メタクリレート35重量部、2−メトキシエチルアクリレート10重量部、3−メトキシブチルアクリレート30重量部、エチルアクリレート25重量部およびt−ブチルパーオキサイド6重量部からなる混合物を、滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。滴下終了後に追加触媒としてのt−ブチルパーオクトエート1重量部とキシレン10重量部を2時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌した後、キシレンを20重量部添加することにより、金属塩結合含有共重合体Bの反応液を得た。この反応液の固形分率は50.5重量%、ガードナー粘度は+Zであった。製造例2に関する滴下成分・生成物の性状等を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
[製造例3]共重合体Cの製造
攪拌機、コンデンサー、温度計、温度計、滴下装置および加熱・冷却ジャケットを備えた反応容器にキシレン100重量部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で83℃まで加熱した。この温度を保持しつつ、滴下装置よりこの反応器内に、トリイソプロピルシリルアクリレート60重量部、メチルメタクリレート39.5重量部、エチルアクリレート0.5重量および2,2'−アゾビスイソブチロニトリル1.0重量部からなる混合物を、4
時間かけて等速滴下した。その後、同温度で4時間撹拌を続け、無色透明の共重合体Cの反応液を得た。この反応液の固形分率は49.7重量%、粘度は160CPS(25℃)であった。また、得られた共重合体Cの数平均分子量(Mn)は6800、重量平均分子量(Mw)は24500、分子量分布(Mw/Mn)は3.6、ガラス転移温度(Tg)は45℃であった。製造例3に関する滴下成分・生成物の性状等を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
[実施例1〜27]
防汚塗料組成物の製造
上述の製造例1〜3により得られた共重合体A,B,およびC、防汚剤(B)および(C)、ならびにその他の成分を、表5−1(実施例1〜9)、表5−2(実施例10〜18)および表5−3(実施例19〜27)に示す配合組成(表中の配合量の単位は重量部である。)で配合し、常法に従い攪拌機を用いて均一に混合し、防汚塗料組成物を製造した。
【0073】
防汚剤の再結晶性試験
上記実施例により製造した防汚塗料組成物を200gずつ分取し、5℃に設定された恒温器に1ヶ月貯蔵した後、塗料を撹拌して、塗料貯蔵中の防汚剤の再結晶物の有無を目視で評価した。結果は表5−1〜5−3に示す通りである。
【0074】
<再結晶性の評価基準>
○……目視にて再結晶なし
△……目視にて再結晶が確認される
×……目視にて再結晶が全面的に(多量に)確認される。
【0075】
防汚塗膜の静置防汚性試験
サンドブラスト処理鋼板(縦300mm×横100mm×厚み3.2mm)に、エポキ
シ系防錆塗料(エポキシAC塗料、商品名「バンノー500」、中国塗料(株)製)をその乾燥膜厚が150μm厚となるように塗布した後、エポキシ系バインダー塗料(商品名「バンノー500N」、中国塗料(株)製)をその乾燥膜厚が100μm厚となるように塗布した。続いて、上記実施例により製造した防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が150μmとなるように1回塗布し、室温で7日間乾燥させて、防汚塗膜付き試験板を作成した。なお、上記の3回の塗装はいずれも1day/1coatとした。
【0076】
上述のようにして作成した試験板を長崎県長崎湾内に4ヶ月間静置浸漬し、その間1ヶ月毎にスライム(ケイ藻被膜)の付着面積[%]を測定した。そして、下記の基準に従って、防汚塗膜の静置防汚性を評価した。結果は表5−1〜5−3に示す通りである。
【0077】
<スライムの付着面積による静置防汚性の評価基準>
0点……スライムの付着面積が100%程度
1点……スライムの付着面積が 90%程度
2点……スライムの付着面積が 80%程度
3点……スライムの付着面積が 70%程度
4点……スライムの付着面積が 60%程度
5点……スライムの付着面積が 50%程度
6点……スライムの付着面積が 40%程度
7点……スライムの付着面積が 30%程度
8点……スライムの付着面積が 20%程度
9点……スライムの付着面積が 10%程度
10点……スライムの付着なし。
【0078】
[比較例1〜18]
表6−1(比較例1〜9)および表6−2(比較例10〜18)に示す配合組成(表中の配合量の単位は重量部である。)に変更した以外は前記実施例と同様にして、比較例1〜18の防汚塗料組成物を製造した。また、これらの比較例の防汚塗料組成物についても、前記実施例の場合と同様にして、再結晶性試験および静置防汚性試験を行った。結果は表6−1および6−2に示すとおりである。
【0079】
<表5−1〜6−2に記載された成分・商品名>
・ 塗膜形成樹脂(A)/共重合体A:前記製造例1参照。
・ 塗膜形成樹脂(A)/共重合体B:前記製造例2参照。
【0080】
・ 塗膜形成樹脂(A)/共重合体C:前記製造例3参照。
・ 塗膜形成樹脂(A)/塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体C:商品名「ラロフレックスMP−25」(BASF社)。固形分100重量%。
【0081】
・ 塗膜形成樹脂(A)/アクリル樹脂:商品名「TZ−343」(大日本インキ化学工業(株))。MMAおよびBMAの共重合体。固形分45重量%。
・ ロジン:ロジンWWグレード(中国産)。固形分100重量%。キシレン50%溶液にして使用。
・ トリフェニルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸:商品名「A−3000X」(
ヤスハラケミカル(株))。
【0082】
・ バーサチック酸:商品名「バーサチック10」(日本エポキシレジン(株))。
・ 防汚剤(B)/亜酸化銅:商品名「NC−301」(NCテック(株))
・ 防汚剤(B)/チオシアン酸銅:商品名「ロダン銅」(Bardyke Chemicals Ltd)
・ 防汚剤(C)/N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド:商品名「プリベントール A−5S」(ランクセス(株))。
【0083】
・ 防汚剤(D)/4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オ
ン:商品名「シーナイン 211」(ロームアンドハース社)。固形分30重量%。
・ 防汚剤(D)/2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩:商品名「トミサイドCPT」(吉富ファインケミカル(株))。
【0084】
・ 防汚剤(D)/N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド:商品名「プリベントール A−4S」(ランクセス(株))。
・ 防汚剤(D)/2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド:商品名「IT−354」(ケイアイ化成(株))。
【0085】
・ 防汚剤(D)/2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン:
商品名「デンシル S−100」(アイシーアイジャパン(株))。
・ 着色顔料(E)/チタン白:商品名「R−5N」(堺化学工業(株))。
【0086】
・ 着色顔料(E)/ナフトールレッド:商品名「ナフトールレッドB7032C」(Cappelle社)
・ 体質顔料(F)/酸化亜鉛:商品名「亜鉛華3号」(ハクスイテック(株))。
【0087】
・ 無機系脱水剤(G)/焼石膏:商品名「FT−2」((株)ノリタケジプサム)。
・ 可塑剤(H)/塩素化パラフィン:商品名「トヨパラックス(TOYOPARAX)A−15
0」(東ソー(株))。平均炭素数14.5、塩素含有率(量)50%、粘度12ポイズ/25℃、比重1.25/25℃。
【0088】
・ 沈降防止剤(I)/酸化ポリエチレンワックス:商品名「ディスパロン(Disparlon
)4200−20」(楠本化成(株))。キシレンペースト、固形分20%。
・ 沈降防止剤(I)/脂肪酸アマイドワックス:商品名「ディスパロン(Disparlon)
A630−20X」(楠本化成(株))。キシレンペースト、固形分20%。
【0089】
・ 溶剤/プロピレングリコールモノメチルエーテル:商品名「クラレ(Kuraray)PG
M」((株)クラレ)。
【0090】
【表5−1】

【0091】
【表5−2】

【0092】
【表5−3】

【0093】
【表6−1】

【0094】
【表6−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)と、
防汚剤として、亜酸化銅、チオシアン酸銅、塩基性硫酸銅、塩化銅、酸化銅、および銅粉からなる群より選択される少なくとも1種の無機銅系防汚剤(B)とを含有する防汚塗料組成物であって、
さらに耐スライム剤として、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド(C)を含有することを特徴とする防汚塗料組成物。
【請求項2】
防汚剤(B)が、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して60〜1000重量部の割合で含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
防汚剤(C)が、塗膜形成樹脂(A)100重量部に対して1.4〜80重量部の割合で含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
防汚剤(C)が、防汚剤(B)100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含まれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
塗膜形成樹脂(A)が、金属塩結合含有アクリル樹脂、トリアルキルシリル基含有アクリル樹脂、アクリル樹脂(上記金属塩結合またはトリアルキルシリル基を含有するものを除く。)、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体、塩化ゴム系樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、合成ゴム、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、石油樹脂、油性樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、アルキッド樹脂、およびクマロン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
塗膜形成樹脂(A)が、さらに、ロジン、ロジンエステル系樹脂、ロジン系石鹸、ナフテン酸、バーサチック酸、およびトリフェニルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
さらに、防汚剤(B)および(C)以外の防汚剤(D)、着色顔料(E)、体質顔料(F)、脱水剤(G)、可塑剤(H)、タレ止め・沈降防止剤(I)のうちいずれか1種以上を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
防汚剤(D)として、銅ピリチオン、ジンクピリチオン、4,5−ジクロロ−2−n−
オクチル−4−イソチアゾリン−3オン、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−
シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、ビスジ
メチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ジンクジメチルジチオ
カーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2,3−ジクロロ−N−(2',6'−ジエチルフェニル)マレイミド、および2,3ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−メチルフェニル)マレイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機防汚剤を含有する
、請求項7に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
着色顔料(E)として、弁柄、チタン白、黄色酸化鉄および有機顔料からなる群より選
ばれた少なくとも1種を含有する、請求項7に記載の防汚塗料組成物。
【請求項10】
体質顔料(F)として、タルク、シリカ、マイカ、クレー、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、および硫酸バリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する、請求項7に記載の防汚塗料組成物。
【請求項11】
脱水剤(G)として、無水石膏、半水石膏(焼石膏)、合成ゼオライト系吸着剤、オルソエステル類、シリケート類およびイソシアネート類からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する、請求項7に記載の防汚塗料組成物。
【請求項12】
さらに、可塑剤(H)として塩素化パラフィンを、防汚塗料組成物中の全固形分に対して0.5〜5重量%の量で含有する、請求項7に記載の防汚塗料組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項14】
基材の表面が、請求項1〜12のいずれかに記載の防汚塗料組成物を硬化させてなる塗膜で被覆されている塗膜付き基材。
【請求項15】
海水または真水と接触する基材の表面が、請求項1〜12のいずれかに記載の防汚塗料組成物を硬化させてなる塗膜で被覆されている防汚性基材。
【請求項16】
上記基材が、水中構造物、船舶外板、漁網、漁具のいずれかである、請求項15に記載の防汚性基材。

【公開番号】特開2009−108257(P2009−108257A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283948(P2007−283948)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】