説明

耐フレッティング摩耗性チタン部材

【課題】フレッティングの発生によるフレッティング疲労、フレッティング摩耗に耐え、疲労強度の向上した耐フレッティング摩耗性チタン部材を供する。
【解決手段】チタン部材20において、少なくとも、他部材と接しフレッティングが発生する当接面20eに、酸化処理を行い表面硬さHmv(荷重0.1kg)を550以上800未満とした後に、ショットピーニングを行い表面硬さHmv(荷重0.1kg)を600以上1000以下とし、酸素拡散層の厚さを10μmから30μmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度に優れた耐フレッティング摩耗性チタン部材に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の性能向上の観点から、内燃機関の高速回転化を図るために、動弁系部材の慣性力を低減させることを目的として、動弁系のうち慣性力を発生する主要部材である吸気用又は排気用の弁を鉄合金部材からチタン部材へと置き換えることにより軽量化が図られてきた。
【0003】
しかし内燃機関の吸気・排気用の弁は、弁の軸部がコッタにより保持されており、内燃機関の燃焼に伴う弁の上下動により、弁の軸部とコッタとの間でフレッティングという微小振幅の振動が発生する。このフレッティングにより、またチタン材は耐摩耗性が劣るので、弁の軸部とコッタとの当接面にフレッティング摩耗が発生して摩耗粉が生じ、これにより弁の軸部のコッタとの当接面に表面損傷が発生して損傷部に応力が集中し、損傷部を起点とした疲労破壊が起こり、弁の疲労強度が大幅に低下していた。
【0004】
このようなフレッティング摩耗を低減し、チタン部材の疲労強度を向上させるために、内燃機関の吸気・排気用の弁の軸部のコッタとの当接面、すなわちフレッティングが発生する当接面に、ショットピーニングを施したチタン合金製弁が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−195730号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載されたチタン材を用いた内燃機関の吸気・排気用の弁は、フレッティングが発生する当接面にショットピーニングを施し、ショットピーニングによる加工硬化によって耐摩耗性を向上させ、フレッティング摩耗を低減させているものの、フレッティング摩耗の低減化は充分でなく、チタン製部材のさらなる耐フレッティング摩耗性および疲労強度の向上が求められていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、フレッティングの発生によるフレッティング疲労、フレッティング摩耗に耐え、疲労強度の向上した耐フレッティング摩耗性チタン部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決したものであって、請求項1に記載の発明は、少なくとも、他部材と接しフレッティングが発生する当接面に、酸化処理を行い表面硬さHmv(荷重0.1kg)を550以上800未満とした後に、ショットピーニングを行い表面硬さHmv(荷重0.1kg)を600以上1000以下とし、酸素拡散層の厚さを10μmから30μmとしたことを特徴とする耐フレッティング摩耗性チタン部材に関するものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材において、前記ショットピーニングは、粒径300♯から400♯の金属微粒粉からなるメディアを用いて行われることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材において、前記ショットピーニングは、粒径100♯から200♯のガラスビーズからなるメディアを用いて行われることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材において、前記ショットピーニングは投射圧0.5MPa、投射距離100mmで行われることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材において、前記チタン部材はTi-6Al-4V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、IMI834の何れかのチタン合金からなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材において、前記ショットピーニングは、100%から300%のショットピーニングガバレージで行われることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1記載ないし請求項6のいずれかに記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材において、前記チタン部材は内燃機関の吸気弁または排気弁であり、前記当接面はバルブスプリングリテーナ取付け用コッタとの当接面であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の本発明の耐フレッティング摩耗性チタン部材によれば、チタン部材の少なくとも他部材と接しフレッティングが発生する当接面に、酸化処理を施すことによって耐摩耗性を向上させると共に、ショットピーニングにより残留応力を与えることで、フレッティング摩耗を低減させ、疲労強度を向上させることができ、チタン部材の耐摩耗性、耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度の向上を図ることができる。
【0016】
請求項2記載の本発明の耐フレッティング摩耗性チタン部材によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、粒径の小さいメディアを用いてショットピーニングを行うことにより、ショットピーニング処理後の表面粗さを小さいものとし、より耐フレッティング摩耗性の向上を図ることが可能となる。
【0017】
請求項3の発明によって、請求項1記載の発明の効果に加えて、粒径の小さいメディアを用いてショットピーニングを行うことにより、ショットピーニング処理後の表面粗さを小さいものとし、より耐フレッティング摩耗性の向上を図ることが可能となる。
【0018】
請求項4の発明によって、請求項2または請求項3に記載の発明の効果に加えて、ショットピーニングの処理を最適な条件で行うことにより、より耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度を向上することができる。
【0019】
請求項5の発明によって、請求項1ないし請求項4に記載の発明の効果に加えて、チタン部材がTi-6Al-4V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、IMI834の何れかのチタン合金からなることにより、加工性、機械的性質のバランスが良好な部材となり、耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度を向上することが容易になる。
【0020】
請求項6の発明によって、請求項1ないし請求項5に記載の発明の効果に加えて、ショットピーニングの効果をより適切にチタン部材に与えることができ、より一層耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度を向上することができる。
【0021】
請求項7の発明によって、請求項1ないし請求項6に記載の発明の効果に加えて、内燃機関に用いられる吸気・排気用の弁の耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の耐フレッティング摩耗性チタン部材による吸気・排気用弁が使用された内燃機関の主要構造を示す縦断面図である。
【図2】前記内燃機関1の要部縦断面図である。
【図3】内燃機関の弁の室温単体疲労試験の試験装置を示す縦断面図である。
【図4】内燃機関の弁の室温単体疲労試験の試験結果を示すグラフである。
【図5】室温単体疲労試験において破断した弁の要部拡大図である。
【図6】室温単体疲労試験において破断した弁の要部拡大図である。
【図7】残留応力試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図1、図2を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の耐フレッティング摩耗性チタン部材が適用されたバルブ20が使用される動弁装置11を備えた内燃機関1の、動弁装置周辺構造が図示されたものである。
【0025】
内燃機関1では、図示されないクランクケースの上にシリンダブロック2が重ねられ、さらにシリンダブロック2の上にシリンダヘッド3が重ねられて、図示されないボルトによりクランクケース、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3が一体に締結されている。シリンダヘッド3の上方はヘッドカバー4に覆われている。
【0026】
クランクケース内には、図示されないクランク軸が回転自在に軸受けにより支持されており、シリンダブロック2には上下に貫通するシリンダボア2aが形成され、シリンダボア2a内にピストン6が上下方向に摺動可能に嵌合されており、クランク軸のクランクピンはコンロッド5を介してピストン6と連結されている。シリンダヘッド3には燃焼室7が設けられ、内燃機関1の燃焼室7における燃焼エネルギーは、ピストン6の運動エネルギーへ変換され、これによりピストン6が上下動されて、コンロッド5を介してクランク軸が回転駆動されるようになっている。
【0027】
さらに、シリンダヘッド3には、前記燃焼室7の上壁面に開口する吸・排気弁口8、9、および吸・排気弁口8、9に通じてシリンダヘッド3内を貫通する吸・排気ポート10、11が設けられ、また吸・排気弁口8、9には、吸・排気弁口8、9を開閉するための吸・排気用の弁20が設けられており、この弁20による弁口8、9の開閉作動をなすための作動機構である動弁装置12がシリンダヘッド3上部に設けられている。動弁装置12は、カム軸14と、カム軸14に支持された動弁カム13と、動弁カム13のカム面13aにより揺動されるロッカーアーム15と、ロッカーアーム15を揺動自在に支持しているロッカーアーム軸16を備えており、ロッカーアーム15の押圧部15aによる押動によりシム25を介して弁20が開口されるようになっている。
【0028】
吸・排気用の弁20は傘部20aと軸部20bとよりなっており、傘部20aはバルブシート21が圧入された弁口8、9を開閉する弁体であって、軸部20aはシリンダヘッド3に嵌合されたステムガイド筒22に摺動自在に嵌装されている。
【0029】
弁20の軸端部20cはステムガイド筒22の上方に突出されており、この軸部20bの端部寄りには環状溝部20dが設けられ、軸部20bの端部周辺の外周は、前記環状溝部20dと嵌合する凹部23aが設けられた2つ割の鉄製のコッタ23により挟み込まれ、弁の軸部の端部周辺の外周面とコッタ23の内周面とが当接された状態で、スプリングリテーナ24のテーパ状の孔に嵌合されて、弁の軸端部はスプリングリテーナ24に保持される。このときの弁20の軸部20bがコッタ23に接している面をコッタ当接面20eといい、コッタ23が弁20の軸部20bに接している面を軸部当接面23bという。
【0030】
前記スプリングリテーナ24と、これと対向するようにシリンダヘッド3に支持されたバネ受け部材26との間に、弁20の軸部20b周りを囲むようにコイル状弁バネ27が圧縮状態で取り付けられており、当該コイル状弁バネ27により弁20は常に閉じられる方向に付勢されており、前記動弁カム13の回転に応じてロッカーアーム15が揺動し、ロッカーアーム15の押圧部15aにより弁20の軸端部20cが押圧されると、コイル状弁バネ27の付勢力に反して弁20が開き、ロッカーアーム15の押圧部20aの押圧が解除されるとコイル状弁バネ27の付勢力により弁20が閉じるようになっている。
【0031】
前述の弁20についてさらに以下詳細に説明する。
【0032】
弁20は、軽量化と強度的な要求を満たすためにチタンあるいはチタン合金が用いられ、好適にはTi-6Al-4V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、IMI834のいずれかのチタン合金が用いられる。
【0033】
弁20の少なくともコッタ当接面20eには酸化処理が施され、酸化処理により、弁20の表面に酸化層および酸素拡散層が形成され、この酸素拡散層の形成により弁20の表面硬さが向上する。好適には、コッタ当接面20eの表面硬さが、試験荷重0.1kgのマイクロビッカース試験において、550Hmv以上800Hmv未満であり、酸素拡散層の厚さが10μmから30μm以下となるように酸化処理が施される。表面硬さを500Hmv以上800Hmv未満とし、酸素拡散層の厚さを10μmから30μm以下とすることで、弁20のコッタ当接面20eの耐フレッティング摩耗性および耐疲労強度を向上させることが可能となる。この酸化処理は、チタン製あるいはチタン合金製の弁20が、大気雰囲気の高温で、例えば600℃以上、800℃以下の炉内温度に設定された加熱炉内に搬入され、所定時間、例えば1時間〜24時間加熱されて酸化される、あるいは弁20の少なくともコッタ当接面20eが大気雰囲気中にて過熱されることにより酸化されるものである。
【0034】
その後、酸化処理を施した弁20に、少なくとも弁20のコッタ当接面20e周辺付近に、あるいは弁20の全体に、例えば乾式の空気式加速装置あるいは機械式加速装置によりショット加速がされるピーニング機械を用いて、微粒子からなるメディアを投射してショットピーニングを行う。弁20にショットピーニングを行うことにより、酸化処理によって弁20の表面に形成された酸化層を除去することができる。また、ショットピーニングが施された加工面には、ショットピーニングによって残留応力が与えられて耐疲労強度が向上し、また耐フレッティング摩耗性が向上する。
【0035】
ショットピーニングは、好適には、ショットピーニング後の表面硬さが、試験荷重0.1kgのマイクロビッカース試験において、600Hmv以上1000Hmv以下であり、酸素拡散層の厚さが10μmから30μmとなるように行われる。
【0036】
ショットピーニングの投射材としてのメディアは、好ましくは粒径が300#から400#の金属微粒粉、または粒径が100#から200#のガラスビーズが用いられ、投射して破砕されたメディアは自動風力分級にて集塵し、不足した分は、新品のメディアが継ぎ足され、メディアの劣化状態は常に一定に保たれるようになっている。メディアとして、粒径が300#から400#の金属微粒粉、または粒径が100#から200#のガラスビーズを用いることにより、ショットピーニング後の表面の凹凸が小さく、より耐フレッティング性を向上することが可能となる。
【0037】
また、ショットピーニングは、弁20の全体、あるいはマスキングにより弁20のコッタ当接面20e周辺付近に行われるが、その投射距離は、専用の治具を用いることにより、好ましくは80mm以上から100mm以下で、より好ましくは90mmの距離で行われる。
【0038】
さらに、ショットピーニングは、例えば0.40MPaから0.55MPaの投射圧で、好ましくは0.50MPaの投射圧でもって行われ、投射開始時にアナログメータにて0.05Mpa程度の精度で投射圧の調整を行う。
【0039】
また、好ましくは100%から300%のショットピーニングカバレージになるような処理条件において行われる。
【0040】
このようにして酸化処理を行った後にショットピーニング処理を行ったチタン合金製の吸気・排気用の弁20は、酸化処理により耐摩耗性が向上されると共に、ショットピーニングにより残留応力を与えることで摩耗を低減し、疲労強度を向上させることができる。
【0041】
酸化処理を施した弁に、投射圧、投射距離をパラメータとして変化させたショットピーニングを行い、耐フレッティング摩耗性および疲労強度の向上を図ることができた上限品、センター品および下限品の、ショットピーニング条件を、以下の表1に示している。このことから、ショットピーニングは、好適には0.40MPaから0.55MPaにおいて、最適には0.50MPaの投射圧において行われると、耐フレッティング摩耗性および疲労強度の向上を図ることができるといえる。
【0042】
【表1】

【0043】
さらに、酸化処理後ショットピーニングを施した吸気・排気用の弁において、耐フレッティング摩耗性および疲労強度の向上を図ることができた上限品および下限品の断面を観察したところ、表2に示したような酸素拡散硬化層厚さ、径変化、表面硬度および内部硬度についての結果が得られた。このことから、酸化処理後にショットピーニングを行って、表面硬さHmv(荷重0.1kg)を600以上1000以下とし、酸素拡散層の厚さが10μmから30μmとなるよう処理することにより、耐フレッティング摩耗性および疲労強度の向上を図ることができるといえる。
【0044】
【表2】

【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0046】
(試験1) 吸気・排気用の弁の室温単体疲労試験
内燃機関の吸気・排気用であってTi-6Al-4Vチタン合金を用いた弁20の、未処理品、ショットピーニング処理品、酸化処理後ショットピーニング処理品のそれぞれについて、図3に示すような5tSUMの油圧疲労試験機30によって、室温単体疲労試験を行った。油圧疲労試験機30は、コッタ23およびリテーナ24がセットされる上部治具31と、バルブシート21が圧入される弁口33、およびステムガイド筒22の内径に相当する孔34が設けられた下部治具32を具備している。弁20は、弁傘部20aがバルブシート21が圧入された弁口33に配設され、軸部20bが下部治具32の孔34に摺動可能に嵌装され,弁20の軸端部20cがコッタ23およびリテーナ24を介して上部治具31に保持されて、引張試験機30にセットされている。この引張試験機30により、弁20にあらかじめ設定された引張り応力荷重を30Hzの周波数で繰り返し与えて、弁20に破断が生じるまでのサイクル回数を測定したものである。
【0047】
図4は、上記試験の結果を示すグラフであり、△は無処理品、□はショットピーニング処理品、○は酸化処理後ショットピーニング処理品の試験結果であって、これらの試験結果を曲線で結んだものを表している。これらの結果を比較すると、熱処理後ショットピーニング処理品は、ショットピーニング処理品に比べ、各引張り応力荷重条件下の疲労試験において、いずれも耐疲労強度が向上していることがわかる。
【0048】
また、未処理品およびショットピーニング処理品の各条件下において破断した弁は、図5に示すように、軸端部20c近傍であってコッタにより抱持されている部分に破断面29が発生しており、この破断の起点部にはフレッティングと思われる凹みが認められ、さらに軸部20bのコッタ当接面20e周辺部分には、鉄製コッタ23のフレッティング摩耗と思われる鉄粉28の付着が認められており、弁20はフレッティング摩耗により軸20bに傷が生じて応力が集中し、疲労破壊したものと考えられる。
【0049】
一方、酸化処理後ショットピーニング処理品の各条件下において破断した弁、例えば、は、図6に示すように、弁20の傘部20aと軸部20bとのつなぎ部分であるR部分20fに破断面29が発生しており、軸部20bのコッタに抱持されている部分周辺には破断面は生じていない。これは、コッタ当接面20eに酸化処理およびショットピーニングを施したことにより、フィレッティングが発生する当接面の耐フレッティング摩耗性が向上して破断部位が他に移動し、傘部20aと軸部20bとのつなぎ部分であるR部分20fに応力が集中し、通常の疲労破壊により破断したものと考えられる。
【0050】
以上より、熱処理後ショットピーニングを施すことにより、チタン部材のフレッティングが発生する当接面での耐フィレッティング摩耗性および耐疲労強度が向上する効果を確認することができた。
【0051】
(試験2) 残留応力試験
Ti-6Al-4V材の、無処理品、酸化処理品、ショットピーニング処理品、酸化処理後ショットピーニング処理品のそれぞれについて、表面からの距離における残留応力分布を測定した。図7は、上記試験の結果を示すグラフであり、○は酸化処理品、●は無処理品、△はショットピーニング処理品、□は酸化処理後ショットピーニング処理品の試験結果であって、これらの試験結果を曲線で結んだものを表している。
【0052】
これによると、酸化処理後ショットピーニング処理品は、無処理品および酸化処理品に比べて、表面からの距離の全てにおいてより高い残留圧縮応力値を示しているので、酸化処理後ショットピーニング処理品の耐疲労強度が増していることがわかる。
【0053】
さらに、酸化処理後ショットピーニング処理品とショットピーニング処理品を比較してみると、表面からの距離が10μm相当までは略同等の値を示し、10μm以上の距離になると酸化処理後ショットピーニング処理品は、ショットピーニング処理品に比べてより高い残留応力値を示しているので、酸化処理後ショットピーニングを施したチタン部材は、ショットピーニングのみを施したチタン部材に比べて、耐疲労強度が向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0054】
1…内燃機関、2…クランクケース、3…シリンダブロック、4…シリンダヘッド、5…ヘッドカバー、6…ピストン、7…燃焼室、8…吸気弁口、9…排気弁口、10…吸気ポート、11…排気ポート、12…動弁カム、13…動弁カム室、14…ロッカーアーム、15…ロッカーアーム軸、
20…バルブ、20a…傘部、20b…軸部、20c…軸端部、20d…環状溝部、20e…コッタ当接面、20f…R部、21…バルブシート、22…ステムガイド筒、23…コッタ、24…スプリングリテーナ、25…シム、26…バネ受け部材、27…コイル状バネ、28…鉄粉、29…破断面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、他部材と接しフレッティングが発生する当接面に、酸化処理を行い表面硬さHmv(荷重0.1kg)を550以上800未満とした後に、ショットピーニングを行い表面硬さHmv(荷重0.1kg)を600以上1000以下とし、酸素拡散層の厚さを10μmから30μmとしたことを特徴とする耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。
【請求項2】
前記ショットピーニングは、粒径300♯から400♯の金属微粒粉からなるメディアを用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。
【請求項3】
前記ショットピーニングは、粒径100♯から200♯のガラスビーズからなるメディアを用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。
【請求項4】
前記ショットピーニングは、投射圧0.5MPa、投射距離100mmで行われることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。
【請求項5】
前記チタン部材はTi-6Al-4V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、IMI834の何れかのチタン合金製からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。
【請求項6】
前記ショットピーニングは、100%から300%のショットピーニングカバレージで行われることを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。
【請求項7】
前記チタン部材は内燃機関の吸気弁(20)または排気弁(20)であり、前記当接面はバルブスプリングリテーナ取付け用のコッタ(22)との当接面(20e)であることを特徴とする請求項1ないし請求項6に記載の耐フレッティング摩耗性チタン部材(20)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144775(P2012−144775A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3953(P2011−3953)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】