説明

耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板およびその製造方法

【課題】自動車のボディシート等の素材として、特に耐リジング性が確実かつ安定して優れた成形加工用アルミニウム合金板、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Al−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金からなり、板厚方向と直交する板表面、板厚方向と直交しかつ板表面から板厚の1/4の深さの面、板厚方向と直交しかつ板表面から板厚の1/2の深さの面の3つの面のうち、少なくとも一つ以上の面で、圧延幅方向に10mm、圧延方向に2mmにとった任意の領域を圧延幅方向に10等分に分割した同一面内での各分割領域における、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内である、アルミニウム合金板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車ボディシート、ボディパネルのような各種自動車、船舶、航空機等の部材、部品、あるいは建築材料、構造材料、そのほか各種機械器具、家電製品やその部品等の素材として、成形加工および塗装焼付を施して使用されるAl−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系のアルミニウム合金圧延板に関するものであり、特に耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では地球温暖化抑制やエネルギーコスト低減等のために、自動車を軽量化して燃費を向上させる要望が高まっており、そこで従来の冷延鋼板に代えて冷延鋼板とほぼ同等の強度で比重が約1/3であるアルミニウム合金板を自動車のボディシートに使用する傾向が増大しつつある。また自動車以外電子・電気機器等のパネル、シャーシの様な成形加工部品についても、最近ではアルミニウム合金板を用いることが多くなっている。
【0003】
例えば自動車のボディシートはプレス加工を施して使用するところから、成形加工性が優れていることはもちろんであるが、アウターパネルとインナーパネルとを接合して一体化させるために、板の縁部にヘム加工を施して使用することが多いところから、成形性のうちでも特にヘム加工性が優れていることが要求される。このヘム加工は、曲げ半径が極端に小さい180°曲げであるため、材料に対して極めて過酷な加工であると言うことができる。また自動車のボディシートは、塗装焼付を施して使用するのが通常であることから、成形性と強度のバランスにおいて強度を重視する場合に、塗装焼付後に高強度が得られること、逆に成形性を重視する場合には、塗装焼付後に若干の強度を犠牲にする代わりに高いプレス成形性が得られることが要求される。さらに特に最近では、より苛酷な成形加工が施されることが多くなっていること、また表面外観品質が重視されるようになっていることから、より苛酷な成形加工時においても、リューダースマークが発生しないことはもちろん、リジングマークが発生しないことが強く要求されている。
【0004】
ここで、リジングマークとは、板に成形加工を施した際に、素材の板の製造工程における圧延方向と平行な方向に筋状に現れる微細な凹凸模様であり、このようなリジングマークが発生すれば、板表面に塗装を施した後にも、例えば光沢の少ない箇所などとして、表面外観品質を損なうおそれがある。そのため、特に表面外観品質が優れていることが要求される自動車ボディシートなどの素材としては、成形加工時にリジングマークの発生がないことが強く要求される。なお、以下この明細書では、成形加工時にリジングマークが発生しにくい性質を「耐リジング性」と記す。
【0005】
なお一般に自動車用ボディシート向けのアルミニウム合金としては、Al−Mg系合金のほか、時効性を有するAl−Mg−Si系合金もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金が主として使用されている。これらの時効性Al−Mg−Si系合金、時効性Al−Mg−Si−Cu系合金は、塗装焼付前の成形加工時においては比較的強度が低くて成形性が優れている一方、塗装焼付時の加熱によって時効されて塗装焼付後の強度が高くなる利点を有するほか、リューダースマークが発生しにくい等の長所を有する。
【0006】
ところでリジングマークの発生は、材料の再結晶挙動と深く関わっていることから、リジングマークの発生を抑制するためには、板製造過程での再結晶の制御が不可欠とされている。そこで耐リジング性を向上させるための従来の技術としては、主として板の製造工程における再結晶の制御の観点、さらにはそれによる結晶方位の制御の観点から、例えば特許文献1〜4に示すような提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2823797号公報
【特許文献2】特許第3590685号公報
【特許文献3】特開2004−292899号公報
【特許文献4】特開2008−045192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近ではデザインの意匠性などから材質、特に表面外観品質の一層の向上が求められ、 特に前述のような自動車用ボディシート向けの時効性Al−Mg−Si系、Al−Mg−Si−Cu系合金板ついても、より優れた耐リジング性を有することが強く要求されている。しかしながら前述のような従来技術では、その要求性能を十分に満足させることは困難であった。
【0009】
すなわち、特許文献1に示されている方法では、熱間圧延の開始温度が350℃から450℃までの範囲とされており、この場合、熱間圧延中の粗大な結晶粒の形成はそれなりに抑制されるものの、未だその抑制が不充分であって、一部に粗大結晶粒が形成されてしまい、その結果、必ずしも充分な耐リジング性が得られないことが本発明者等の実験により判明している。
【0010】
一方特許文献2の方法の場合、熱間圧延の開始温度を450℃以下としながらも、好ましくは350℃以上としており、しかも中間焼鈍は昇温速度の遅い(約30℃/h)バッチ方式との組み合わせを前提としており、そのため実際には結晶粒が粗くなり易く、特許文献1に記載の方法と同様に、耐リジング性が低下することが判明した。また、後に改めて詳細に説明するように、本発明者等は、テイラー因子を指標として板の集合組織を適切かつ厳密に制御することが耐リジング性の充分な向上に有効であることを見出したが、これらの特許文献1、2では、集合組織制御を充分に行なっておらず、耐リジング性向上の強い要求に対しては未だ不充分であった。
【0011】
さらにまた、特許文献3、4に記載のように板の特定の結晶方位を制御する従来技術は、耐リジング性の向上に一定の効果はあるものの、最近の耐リジング性向上の強い要求に対しては、その効果が未だ不充分であった。
【0012】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、自動車のボディシートをはじめとする各種車両部品、あるいは電子・電気機器のパネル等の各種電子・電気機器部品等として、成形加工を施して使用される成形加工用アルミニウム合金圧延板として、特に耐リジング性が確実かつ安定して優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述のような課題を解決するべく本発明者等が種々の実験・検討を重ねた結果、板の集合組織を、前記各従来技術とは異なる態様で規制することにより、特に耐リジング性が確実かつ安定して優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板が得られることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
【0014】
その知見について説明すれば、従来、耐リジング性の向上に関する集合組織の制御方法としては、もっぱらCube方位やGoss方位等の特定の結晶方位の体積分率、あるいは分布状態を制御することばかりが注目されていたが、本発明者等は、改めて集合組織と耐リジング性の関係を精査したところ、集合組織中に存在する特定方位のみを制御する方法では、近年要求されているような過酷な成形条件下においては耐リジング性向上効果が不十分であることが判明し、さらに実験、検討を進めた結果、集合組織中に存在する全ての結晶方位から算出される平均テイラー因子が、耐リジング性に大きく関係していること、そして平均テイラー因子の値が特定の条件を満たすように集合組織を制御することによって、耐リジング性を確実かつ安定して向上させ得ることを見出したのである。
【0015】
なおここでテイラー因子とは、金属の多結晶体についての巨視的降伏挙動に関する因子であって、シュミット因子の逆数に相当し、塑性加工のし易さを表す指標の一つとされている。より具体的には、多結晶体が巨視的に降伏する際において、多重すべりを起こすために必要な平均的分解せん断応力(巨視的応力)をτ、引張変形による単軸降伏応力をσとすれば、次の一般式
τ=σ/M
が成り立ち、このMの因子を、テイラー因子と称している。このテイラー因子の値は、材料の集合組織の影響を受けるから、集合組織の状態を表す一つの指標となり得るものである。一方最近では、電子回折装置などによる集合組織の方位情報の測定結果から、解析ソフトを用いてテイラー因子の値を比較的容易に算出することが可能になってはいるが、耐リジング性に関しては、これまでテイラー因子との関係について十分な研究がなされていなかった。しかるに本発明者等は、テイラー因子の値を用いて集合組織を制御すれば、従来集合組織の制御状態を表すために用いられていた特定の結晶方位の密度による制御の場合よりも、より確実かつ安定して耐リジング性を向上させ得ることを見出したのである。
【0016】
具体的には、請求項1の発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板は、Al−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金からなるアルミニウム合金圧延板であって、板厚方向と直交する板表面、板厚方向と直交しかつ前記板表面から全板厚の1/4の深さにある面、および板厚方向と直交しかつ前記板表面から全板厚の1/2の深さにある面の3つの面のうち、いずれか少なくとも一つ以上の面で、圧延幅方向に10mm、圧延方向に2mmにとった任意の領域を圧延幅方向に10等分に分割した同一面内での各分割領域における、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内であることを特徴とするものである。
【0017】
また請求項2の発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板は、請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板において、さらに、圧延方向と直交する板断面における圧延幅方向に10mm、板厚方向に全板厚にとった任意の領域を圧延幅方向に10等分に分割した同一板断面内での各分割領域における、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内であることを特徴とするものである。
【0018】
さらに請求項3の発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板は、請求項1、2のいずれか一つの請求項に記載された成形加工用アルミニウム合金圧延板において、アルミニウム合金として、Mg0.2〜1.5%(mass%、以下同じ)、Si0.3〜2.0%を含有し、かつMn0.03〜0.6%、Cr0.01〜0.4%、Zr0.01〜0.4%、V0.01〜0.4%、Fe0.03〜1.0%、Ti0.005〜0.3%、Zn0.03〜2.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにCuが1.5%以下に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金を用いていることを特徴とするものである。
【0019】
一方請求項4の発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法は、請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板を製造するにあたり、素材アルミニウム合金の鋳塊に対して熱間圧延を施した後、190℃〜310℃の温間温度域において、対となる上下圧延ロールの周速が異なる温間異周速圧延を行い、さらに中間焼鈍を施した後、室温〜110℃の冷間温度域において、対となる上下の圧延ロールの周速が異なる冷間異周速圧延を施して所定の板厚に仕上げ、その後、溶体化処理を施すことを特徴とするものである。
【0020】
そしてまた請求項5の発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法は、請求項4に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法において、前記温間異周速圧延における上下の圧延ロールの周速比を、1.4〜2.6の範囲内とするとともに、その温間異周速圧延での圧延率を40%以上とし、かつ前記冷間異周速圧延における上下の圧延ロールの周速比を、1.4〜2.1の範囲内とするとともに、その冷間異周速圧延での圧延率を40%以上とすることを特徴とするものである。
【0021】
さらに請求項6の発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法は、請求項4に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法において、温間異周速圧延と冷間異周速圧延との間で施す中間焼鈍を、材料到達温度が430℃〜590℃の条件で行い、かつ冷間異周速圧延の後の溶体化処理を、材料到達温度が500℃以上、590℃以下の条件で行うものである。
【発明の効果】
【0022】
この発明の成形加工用アルミニウム圧延板は、請求項1で規定しているように、成形加工が圧延幅方向板を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形とみなしたときのテイラー因子の値を指標とし、板厚方向と直交する面内における圧延幅方向での局所的な平均テイラー因子のばらつきを適切な条件で規制しているため、耐リジング性が確実かつ安定して優れており、さらに請求項2で規定しているように、板厚方向と直交する面内のみならず、圧延方向と直交する板断面における圧延幅方向での平均テイラー因子をも適切な条件で規制することにより、より一層耐リジング性を向上させることができる。したがってこの発明による成形加工用アルミニウム合金圧延板は、自動車のボディシートなど、特に表面外観特性が優れていることが求められる成形加工用の板として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、この発明において規定している、アルミニウム合金圧延板の各面についての分割領域を説明するための、模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板は、基本的にはAl−Mg−Si系合金もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金からなるものであれば良く、その具体的な成分組成は特に制約されるものではないが、通常は請求項3で規定するような成分組成の合金を用いることが好ましい。
【0025】
上述の請求項3で規定しているように成分組成を限定する理由について説明する。
【0026】
Mg:
Mgはこの発明で対象としている系の合金で基本となる合金元素であって、Siと共同して強度向上に寄与する。Mg量が0.2%未満では塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾーンの生成量が少なくなるため、充分な強度向上が得られず、一方1.5%を越えれば、粗大なMg−Si系の金属間化合物が生成され、プレス成形性、特に曲げ加工性が低下するから、Mg量は0.2〜1.5%の範囲内とした。なお最終板のプレス成形性、特に曲げ加工性をより良好にするためには、Mg量は0.3〜0.9%の範囲内が好ましい。
【0027】
Si:
Siもこの発明の系の合金で基本となる合金元素であって、Mgと共同して強度向上に寄与する。またSiは、鋳造時に金属Siの晶出物として生成され、その金属Si粒子の周囲が加工によって変形されて、溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなるため、再結晶組織の微細化にも寄与する。 Si量が0.3%未満では上記の効果が充分に得られず、一方2.0%を越えれば粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系の金属間化合物が生じて、プレス成形性、特に曲げ加工性の低下を招く。したがってSi量は0.3〜2.0%の範囲内とした。なおプレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si量は0.5〜1.3%の範囲内が好ましい。
【0028】
Mn、Cr、Zr、V、Fe、Zn、Ti:
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、あるいは時効性(焼付硬化性)の向上や表面処理性の向上に有効であり、いずれか1種または2種以上を添加する。これらのうちMn、Cr、Zr、Vは強度向上と結晶粒の微細化および組織の安定化に効果がある元素であるが、Mnの含有量が0.03%未満、もしくはCr、Zr、Vの含有量がそれぞれ0.01%未満では、上記の効果が充分に得られず、一方Mnの含有量が0.6%を越えるか、あるいはCr、Zr、Vの含有量がそれぞれ0.4%を越えれば、上記の効果が飽和するばかりでなく、多数の金属間化合物が生成されて成形性、特にヘム曲げ性に悪影響を及ぼすおそれがある。したがってMnは0.03〜0.6%の範囲内、Cr、Zr、Vはそれぞれ0.01〜0.4%の範囲内とした。またFeも強度向上と結晶粒微細化に有効な元素であるが、その含有量が0.03%未満では充分な効果が得られず、一方1.0%を越えれば、多数の金属間化合物が生成されて、プレス成形性、曲げ加工性が低下するおそれがあり、したがってFe量は0.03〜1.0%の範囲内とした。なお、曲げ加工性の低下を最小限に抑えたい場合、Fe量は0.03〜0.5%の範囲が好ましい。またZnは時効性向上を通じて強度向上に寄与するとともに表面処理性の向上に有効な元素であるが、Znの添加量が0.03%未満では上記の効果が充分に得られず、一方2.5%を越えれば成形性が低下するから、Zn量は0.03〜2.5%の範囲内とした。さらにTiは、鋳塊組織の微細化を通じて最終板の強度向上、肌荒れ防止、耐リジング性向上に効果があることから、鋳塊組織の微細化のために添加するが、その含有量が0.005%未満では充分な効果が得られず、一方0.3%を越えればTi添加の効果が飽和するばかりでなく、粗大な晶出物が生じるおそれがあるから、Ti量は0.005〜0.3%の範囲内とした。なおTiと同時にBを添加することもあり、BをTiとともに添加することによって、鋳塊組織の微細化と安定化の効果が一層顕著となるが、この発明の場合も、Tiとともに500ppm以下のBを添加することは許容される。
【0029】
Cu:
Cuは強度向上および成形性向上のために添加されることがある元素であるが、その量が1.5%を越えれば耐食性(耐粒界腐食性、耐糸錆性)が劣化するから、Cuの含有量は1.5%以下に規制することとした。なお、より耐食性の改善を図りたい場合はCu量は1.0%以下が好ましく、さらに特に耐食性を重視する場合は、Cu量は0.05%以下に規制することが望ましい。
【0030】
以上の各元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良い。
【0031】
また時効性Al−Mg−Si系合金、時効性Al−Mg−Si−Cu系合金においては、高温時効促進元素あるいは室温時効抑制元素であるAg、In、Cd、Be、あるいはSnを微量添加することがあるが、この発明の場合も微量添加であればこれらの元素の添加も許容され、それぞれ0.3%以下であれば特に所期の目的を損なうことはない。さらに、鋳塊組織の微細化にはScの添加も効果があるとされており、この発明の場合も微量のScを添加しても良く、Sc0.01〜0.2%の範囲内であれば特に支障はない。
【0032】
さらにこの発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板において特に耐リジング性を確実かつ安定して向上させるためには、合金の成分組成を前述のように調整するばかりでなく、最終板であるアルミニウム合金圧延板の集合組織を、テイラー因子を指標として適切に制御することが極めて重要である。すなわち、本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、各特定領域の平均テイラー因子の差(特に圧延幅方向でのばらつき)が適切な範囲内となるよう集合組織を制御することによって、高レベルの耐リジング性を実現することができたのである。
【0033】
すなわち、請求項1で規定しているように、板厚方向と直交する板表面、板厚方向と直交しかつ前記板表面から全板厚の1/4の深さにある面、および板厚方向と直交しかつ前記板表面から全板厚の1/2の深さにある面の3つの面のうち、いずれか少なくとも一つ以上の面で、圧延幅方向に10mm、圧延方向に2mmにとった任意の領域を圧延幅方向に10等分に分割した同一面内での各分割領域における、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内である、という条件を満たすように制御することによって、苛酷な成形加工が施される部位でも、リジングマークの発生を確実に防止することが可能となったのである。
【0034】
このような請求項1で規定する条件について、次に、より詳細に説明する。
【0035】
前述のように、リジングマークは、圧延板を成形加工したときに、圧延方向と平行な方向に筋状に生じる微小な凹凸模様であり、このようなリジングマークの発生は、成形加工時において、隣接する結晶方位の塑性変形量が異なってしまうことが原因であると考えられている。
【0036】
一方、圧延板をプレス成形したときの実際のプレス成形部品のひずみ状態は、主に、平面ひずみ状態と等二軸ひずみ状態の間の領域に分布することが知られているが、本発明者等が検討を重ねた結果、この領域内のひずみのうち、圧延幅方向(圧延方向に対して直交しかつ板表面と平行な方向)が主ひずみ方向である平面ひずみにより、最も顕著にリジングマークが発生することが判明した。ここで、圧延幅方向への平面ひずみ変形とは、圧延幅方向への伸長と、板厚の減少のみが起こるひずみ状態、と言うことができる。すなわち、図1において、圧延板について、圧延幅方向Qを3次元直交座標系のx軸、板厚方向Tをy軸、圧延方向Pをz軸にとれば、x軸方向およびy軸方向へのひずみ変形、すなわちx−y平面内でのひずみ変形、と考えることができる。
【0037】
さらに前述のような知見を前提にして研究をすすめたところ、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときのテイラー因子の値のばらつき、特に圧延幅方向でのテイラー因子のばらつき(変動幅)が、耐リジング性についての有効な指標となることを知見した。すなわち、テイラー因子は、集合組織中に存在するすべての結晶方位から算出されるものであるが、圧延板の板表面、あるいはそれと平行な板内部の面において、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときのテイラー因子の、圧延幅方向へのばらつきを抑えることが、耐リジング性の向上に有効であることを見出したのである。
【0038】
具体的に図1を参照して説明すれば、板厚方向Tと直交する板表面S1、板厚方向Tと直交しかつ前記板表面S1から全板厚tの1/4の深さにある面S2、および板厚方向Tと直交しかつ前記板表面S1から全板厚tの1/2の深さにある面S3の3つの面S1、S2、S3のうち、いずれか少なくとも一つ以上の面において、圧延幅方向Qに10mm、圧延方向Pに2mmの領域SAを、その面内の任意の箇所にとり、その領域SAを圧延幅方向Qに10等分に分割して同一面内で分割領域SA1、SA2、・・・、SA10をとり、それらの各分割領域SA1、SA2、・・・、SA10のそれぞれについての平均テイラー因子の値(但し、前述のように成形加工が圧延幅方向Qを主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときのテイラー因子の平均値)を測定したときの、各分割領域SA1、SA2、・・・、SA10での測定値の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内となるように制御すること、換言すれば、前記各面S1、S2、S3のうちのいずれか一つ以上の面における微小な領域(各分割領域SA1、SA2、・・・、SA10)の平均テイラー因子の値の、圧延幅方向におけるばらつきの最大値を1.0以内に抑えることによって、成形加工時のリジングマークの発生を確実かつ安定して抑制することが可能となったのである。
【0039】
ここで、上述のように規定される各分割領域SA1、SA2、・・・、SA10の平均テイラー因子の値の最大値と最小値の差の絶対値が、前記各面S1、S2、S3のいずれにおいても1.0を越えれば、圧延幅方向における局所的な塑性変形量のばらつきが顕著となって、耐リジング性が低下する。なおこの発明においては、圧延幅方向に10mm、圧延方向に2mmにとった領域を圧延幅方向に10等分に分割した分割領域における平均テイラー因子の値を測定し、その最大値と最小値との差を耐リジング性評価の指標としているが、本発明者等は、上述のように平均テイラー因子の測定領域の形状・寸法および分割数を定めて測定することにより、耐リジング性を確実かつ有効に評価し得ることを、実験により確認している。
【0040】
なお上記範囲内でもより一層高いレベルの耐リジング性を有するためには、板厚方向と直交する3つの面S1、S2、S3のうち、いずれか一つ以上の面において、同一面内における平均テイラー因子の最大値と最小値の差の絶対値が、好ましくは0.4以内、さらにより好ましくは0.1以内であることが望ましい。
【0041】
また、上述のところでは、板厚方向と直交する3つの面S1、S2、S3うち、いずれか一つ以上の面において、平均テイラー因子の最大値と最小値の差の絶対値を1.0以内(好ましくは0.4以内、さらにより好ましくは0.1以内)に規制するとしており、これらの面S1、S2、S3のうち、一つの面だけが前記条件を満たしているだけでも、優れた耐リジング性を確保することができる。すなわち圧延材の場合、深さ方向で集合組織は異なるが、深さ方向のいずれか一つの面でも変形量の違いが抑えられた面があれば、結果として各面の集合体である板厚全体でも変形量の違いを抑えることが可能となるからである。但し、深さ方向の3つの面S1、S2、S3うちのいずれか二つの面について、平均テイラー因子の最大値と最小値の差の絶対値が前記規定を満たすことが、耐リジング性の、より確実かつ安定した向上のためには有効であり、さらには、3つの面S1、S2、S3のすべての面について前記条件を満たすことが、より好ましい。
【0042】
一方、以上のところでは、板厚方向Tに対して直交する面S1、S2、S3についてだけ規定しているが、板厚方向Tに対して直交する面S1、S2、S3の一つ以上の面について前記条件を満足させて、その面での平均テイラー因子の値の圧延幅方向でのばらつきを抑制するばかりでなく、それと同時に、請求項2で規定するように、圧延方向に対して直交する板断面S0についても、平均テイラー因子の値の圧延幅方向Qでのばらつきを抑制することが、より確実にリジングマークの発生を抑制するために有効である。
【0043】
すなわち、図1中に模式的に示しているように、圧延方向Pと直交する板断面S0において、圧延幅方向Qに10mm、板厚方向Tに全板厚tの領域SBを、板断面の任意の箇所にとり、その領域SBを、圧延幅方向Qに10等分に分割して同一板断面S0内に分割領域SB1、SB2、・・・・・、SB10をとり、その分割領域SB1、SB2、・・・・・、SB10における平均テイラー因子(前記同様に、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子)を測定したときの、各分割領域での測定値の最大値と最小値の差(したがって圧延幅方向Qでのばらつき)が、絶対値で1.0以内となるように制御することが、耐リジング性の確実かつ安定した向上のために、より好適である。なおこの場合の測定領域の形状・寸法および分割数についても、前記と同様に、耐リジング性評価に有効であることが本発明者等の実験により確認されている。
【0044】
このような板断面S0における各分割領域SB1、SB2、・・・・・、SB10での平均テイラー因子の最大値と最小値の差の絶対値についても、好ましくは0.4以内、より好ましくは0.1以内であることが望ましい。
【0045】
なおこの発明では、一般的な成形加工時におけるひずみ状態のうち、耐リジング性にとっては最も過酷なひずみ状態である、圧延幅方向への平面ひずみ変形における平均テイラー因子のばらつきを規制しているが、このように圧延幅方向への平面ひずみ変形における平均テイラー因子のばらつきを規制しておけば、等二軸ひずみ変形、あるいは圧延方向への平面ひずみ変形など、実際の成形加工において想定されるその他のひずみ状態においても、確実にリジングマークを防止することができる。
【0046】
次に、板厚方向と直交する板表面S1、板厚方向と直交しかつ前記板表面S1から全板厚の1/4の深さにある面S2、板厚方向と直交しかつ前記板表面S1から全板厚の1/2の深さにある面S3、あるいは圧延方向と直交する板断面S0における、前記所定の各分割領域における平均テイラー因子の値の、具体的な測定方法について説明する。
【0047】
板厚方向と直交する3つの面のうち、板表面S1については、組織観察用試験片の圧延面に対して電解研磨のみを施し、極表層の加工層のみを除去した。同じく全板厚の1/4面S2、1/2面S3については、苛性エッチングで減厚した後に、機械研磨、バフ研磨、電解研磨を行うことで所定の測定面を露出させた。また、圧延方向と直交する板断面については、機械研磨、バフ研磨、電解研磨を行った。それぞれの研磨面において、圧延幅方向に連続する前記所定の各分割領域範囲を、一視野ずつ、走査型電子顕微鏡に付属の後方散乱電子回折測定装置(SEM-EBSD)で測定することによって集合組織の方位情報を取得した。なお、測定のSTEPサイズは結晶粒径の1/10程度とすれば良い。
【0048】
得られた方位情報から、EBSD解析ソフトを使用して平均テイラー因子を求めるが、解析ソフトとしては例えばTSL社製の「OIM Analysis」を用いれば良い。具体的には、まず上述の方法で得られた集合組織の方位情報に対し、必要に応じて回転操作を行い、測定データが板厚方向から見た際の方位情報を示すようにする。次に、板厚が減少し、圧延幅方向が伸長する平面ひずみ状態下での平均テイラー因子を、各視野の測定データごとに計算することで、各分割領域における平均テイラー因子を算出した。なお、活動する主すべり系を{111}<110>と仮定して計算を行った。
【0049】
次にこの発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板を製造するための方法について説明する。
【0050】
この発明の成形加工用アルミニウム合金圧延板を製造する方法は、基本的には、特に限定されるものではなく、要は板厚方向と直交する面(S1、S2、S3の一つ以上)における平均テイラー因子のばらつき、あるいはそれに加えて圧延方向と直交する板断面S0における平均テイラー因子のばらつきが、前述の規定を満足するよう集合組織が制御されれば良く、そのための方法としては種々考えられるが、次に述べるように、所定の成分組成の鋳塊に対して熱間圧延を施した後に、温間での異周速圧延、中間焼鈍、そして冷間での異周速圧延、さらに溶体化処理を組み合わせて行うことが、前記条件を満たす板を得るために最適である。
【0051】
そこで次にこの発明の成形加工用アルミニウム合金板を得るための代表的かつ最適な製造方法について説明する。
【0052】
例えば、まず前述のような成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。そして得られた鋳塊に対し、必要に応じて均質化処理を施した後、熱間圧延を行う。
【0053】
ここで、均質化処理を行う場合の処理条件は特に限定されないが、通常は、480℃以上、590℃以下の温度で0.5時間以上、24時間以下の加熱をすればよい。なお、高い焼付け硬化性を得るためには、均質化処理温度に加熱、保持した後に、450℃未満の温度域に50℃/h以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。
【0054】
上述のように必要に応じて均質化処理を行って、450℃未満の温度域に冷却した後には、従来の一般的な方法に従って熱間圧延を施せばよいが、熱間圧延開始までの過程においては、必要に応じて以下のいずれかの処理方法を適用することができる。すなわち、均質化処理後の冷却過程で常温もしくは常温近くまで冷却させた後、改めて熱間圧延の開始温度まで加熱して熱間圧延を開始しても、あるいは均質化処理後の冷却過程で熱間圧延の開始温度まで冷却し、そのまま熱間圧延を開始しても良い。熱間圧延は、通常の条件に従えばよいが、通常は熱間圧延開始温度を350℃未満、250℃以上とし、熱間圧延終了温度を350℃未満、150℃以上とすることが好ましい。
【0055】
熱間圧延後には、対となる上下圧延ロールの回転数が異なる異周速圧延を、190℃〜310℃の、いわゆる温間領域で行う。この温間異周速圧延の条件としては、上記の温度域内で、上下の圧延ロールの周速比を、1.4〜2.6の範囲内、圧延率を40%以上とすることが好ましい。
【0056】
ここで、温間異周速圧延における諸条件が上記規定を満たさない場合は、各面の平均テイラー因子の差で表される集合組織の状況が、この発明で規定する条件を満足しなくなるおそれがある。
【0057】
温間での異周速圧延を施した後には、中間焼鈍を行ってから、室温〜110℃の冷間温度域で、対となる上下の圧延ロールの周速が異なる異周速圧延を行う。ここで、中間焼鈍の条件は、材料到達温度が430℃〜590℃の範囲内とすることが適切である。材料到達温度が430℃未満では、固溶度を高める効果が少なく、成形性、焼付け硬化性が低下する。一方590℃を越えれば、共晶融解が起こる可能性がある。またその材料到達温度での保持時間は特に限定しないが、通常は5分以内 〜保持無しとすることが好ましい。
【0058】
中間焼鈍後の室温〜110℃の温度域での冷間異周速圧延は、周速比を1.4〜2.1の範囲内、圧延率を40%以上とすることが好ましい。
【0059】
ここで、冷間異周速圧延における諸条件が上記規定を満たさない場合は、各面の平均テイラー因子の差で表される集合組織の状況もこの発明で規定する条件を満足しなくなるおそれがある。
【0060】
以上のようにして所定の板厚としたAl−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金板に対しては、さらに再結晶処理と兼ねて溶体化処理を施すことにより、前述した集合組織の規定を満足する、耐リジング性に特に優れた成形加工用アルミニウム合金板を得ることができる。
【0061】
ここで、この発明で対象とするAl−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金においては、再結晶処理と兼ねた溶体化処理条件は、材料到達温度500℃以上、590℃以下とし、その材料到達温度での保持は5分以内〜保持無しとすることが好ましい。
【0062】
なお、良好な焼付け硬化性を得るためには、溶体化処理後に、直ちに50〜150℃の温度範囲で1時間以上保持する予備時効処理を行うのが好ましい。但し、この予備時効処理は、集合組織に対しては本質的な影響は与えず、したがってこの発明において、予備時効処理を行うか否かは、本質的な要件ではない。
【実施例】
【0063】
以下にこの発明の実施例を比較例とともに記す。なお以下の実施例は、この発明の効果を説明するためのものであり、実施例記載のプロセスおよび条件がこの発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0064】
表1の合金符号A〜Dに示す各成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶解し、DC鋳造法によりスラブに鋳造した。
【0065】
得られた各スラブに対して530℃、8hの条件で均質化処理を施した後、350℃/hの平均冷却速度でスラブを200℃以下まで冷却し、その後さらに室温付近まで放冷した。次いで、表2に示す熱間圧延開始温度から15℃以内の温度域で2時間保持する予備加熱を行った後、表2に示す各条件で熱間圧延を実施した。次に、同じく表2に記載の条件で温間での異周速圧延を含む一回目の各種圧延加工を実施した後、硝石炉を使用して530℃、5分の条件で中間焼鈍を行い、室温までファンにて強制空冷した。強制空冷に続いて、表2に記載された条件で冷間異周速圧延を含む二回目の各種圧延加工を行ってから、硝石炉で530℃、1分の条件で溶体化処理を施し、室温付近までファンにて強制空冷後、直ちに80℃、5時間の予備時効処理を施した。ここで、表2中の各種圧延加工(一回目、二回目ともに)前には、各元材をそれぞれ所定の圧延温度で2時間保持する予備加熱を行った。なお各種圧延加工は、外部に取り付けたヒーターで加熱を行い、ロールを所定の温度に維持しながら圧延を行った。
【0066】
以上のようにして得られた各板材について、前述した方法でSEM-EBSD測定を行い、
前記所定の面(S1、S2、S3、S0)において、前述したような任意領域の代表例として板幅方向の中央部に領域SA、SBを設定し、その内部の、各分割領域SA1、SA2、・・・、SA10:SB1、SB2、・・・・・、SB10における集合組織の方位情報を取得した。得られた方位情報から、前述した方法で平均テイラー因子を計算し、前記所定の同一面、あるいは同一板断面における各分割領域の平均テイラー因子の最大値と最小値の差を絶対値で算出した。
【0067】
さらに、前述のようにして得られた各板材について圧延方向と平行な方向にJIS5号試験片を切り出し、引張試験により0.2%耐力(ASYS)と伸び(ASEL)を評価した。また、それぞれ2%ストレッチ後、オイルバスを用いて170℃×20分の塗装焼付け処理を施した0.2%耐力値(BHYS)も測定した。
【0068】
さらにまた、前述のようにして得られた各板材について、従来から行われている簡便な評価手法を用いて耐リジング性の評価を行った。具体的には、圧延方向に対し45°をなす方向に沿ってJIS5号試験片を採取し、それぞれ10%、13%、16%ストレッチを行い、表面に圧延方向に沿って生じた筋模様(筋状凹凸模様)をリジングマークとして、その発生の有無、程度を目視で判定した。◎印は筋模様なし、○印は軽度の筋模様が目視された状態を示し、△印は中程度の筋模様を、×印は筋模様が強い状態を示す。
【0069】
各項目の評価結果を表3に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
表3中の製造プロセス番号1〜16の例は、いずれも合金の成分組成がこの発明で規定する範囲内であって、かつ各面の平均テイラー因子の差で表される集合組織の状況も、この発明で規定する条件を満たしたものであるが、これらの場合、耐リジング性が良好であることが確認された。
【0074】
これに対し製造プロセス番号17〜28の例は、いずれも合金の成分組成はこの発明で規定する範囲内であるが、製造プロセス条件のいずれかがこの発明で規定する範囲を逸脱し、その結果、各面の平均テイラー因子の差で表される集合組織の状況もこの発明で規定する条件を満足せず、発明例に比べて耐リジング性が劣化してしまった。
【符号の説明】
【0075】
P 圧延方向
Q 圧延幅方向
T 板厚方向
S1 板表面
S2 板表面から板厚の1/4の深さの面
S3 板表面から板厚の1/2の深さの面
S0 板断面
SA、SB 領域
SA1、SA2、・・・、SA10:SB1、SB2、・・・、SB10 分割領域
t 板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金からなるアルミニウム合金圧延板であって、板厚方向と直交する板表面、板厚方向と直交しかつ前記板表面から全板厚の1/4の深さにある面、および板厚方向と直交しかつ前記板表面から全板厚の1/2の深さにある面の3つの面のうち、いずれか少なくとも一つ以上の面で、圧延幅方向に10mm、圧延方向に2mmにとった任意の領域を圧延幅方向に10等分に分割した同一面内での各分割領域における、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内であることを特徴とする、耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板。
【請求項2】
請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板において、
さらに、圧延方向と直交する板断面における圧延幅方向に10mm、板厚方向に全板厚にとった任意の領域を圧延幅方向に10等分に分割した同一板断面内での各分割領域における、成形加工が圧延幅方向を主ひずみ方向とする平面ひずみ変形であるとみなしたときの平均テイラー因子の最大値と最小値の差が、絶対値で1.0以内であることを特徴とする、耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板。
【請求項3】
請求項1、2のいずれか一つの請求項に記載された成形加工用アルミニウム合金圧延板において、
アルミニウム合金として、Mg0.2〜1.5%(mass%、以下同じ)、Si0.3〜2.0%を含有し、かつMn0.03〜0.6%、Cr0.01〜0.4%、Zr0.01〜0.4%、V0.01〜0.4%、Fe0.03〜1.0%、Ti0.005〜0.3%、Zn0.03〜2.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにCuが1.5%以下に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金を用いていることを特徴とする、耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板。
【請求項4】
請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板を製造するにあたり、
素材アルミニウム合金の鋳塊に対して熱間圧延を施した後、190℃〜310℃の温間温度域において、対となる上下圧延ロールの周速が異なる温間異周速圧延を行い、さらに中間焼鈍を施してから、室温〜110℃の冷間温度域において、対となる上下の圧延ロールの周速が異なる冷間異周速圧延を施して所定の板厚に仕上げ、その後、溶体化処理を行うことを特徴とする、耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法において、
前記温間異周速圧延における上下の圧延ロールの周速比を、1.4〜2.6の範囲内とするとともに、その温間異周速圧延での圧延率を40%以上とし、かつ前記冷間異周速圧延における上下の圧延ロールの周速比を、1.4〜2.1の範囲内とするとともに、その冷間異周速圧延での圧延率を40%以上とすることを特徴とする、耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法において、
温間異周速圧延と冷間異周速圧延との間で施す中間焼鈍を、材料到達温度が430℃〜590℃の条件で行い、かつ冷間異周速圧延の後の溶体化処理を、材料到達温度が500℃以上、590℃以下の条件で行う、耐リジング性に優れた成形加工用アルミニウム合金圧延板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77318(P2012−77318A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220916(P2010−220916)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】