説明

耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法

【課題】耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.02%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.50%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.15%、N:0.02%以下、Cr:16〜23%、Ni:0.50%以下、Ti:0.10%以下、Nb:0.01%以下、Zr:0.20〜0.80%、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、仕上焼鈍後のフェライト粒の平均結晶粒径が15μm以下であることを特徴とする耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼板は、オーステナイト系ステンレス鋼板に比較して安価な材料であり、耐食性に優れていることから、建築材料、輸送機器、家庭電化製品、厨房機器等の様々な用途に使用されている。しかし、フェライト系ステンレス鋼は、加工の際にリジングと呼ばれる表面凹凸が発生しやすいという問題点を有している。
【0003】
リジング現象は、類似な結晶方位を有する冷延鋼板のフェライト粒の集合体(以下、コロニーと呼ぶ。)に起因し、その起源はスラブ凝固時に形成される粗大な柱状晶組織と考えられている。すなわち、粗大な柱状晶組織が、熱間圧延とそれに続く熱延板焼鈍後にも粗大なフェライト粒として残存し、冷間圧延、それに続く仕上焼鈍後に結晶方位の分散が小さい再結晶フェライト粒のコロニーを形成する。
【0004】
このような仕上焼鈍後のコロニーの形成を抑制して耐リジング特性を改善するために、これまで数多くの技術が報告されている。主な技術として、(a)スラブ組織の高等軸晶率化、(b)熱延板再結晶の促進、(c)冷延板再結晶の促進が挙げられる。
【0005】
(a)スラブ組織の高等軸晶率化技術として、特許文献1には、フェライト系ステンレス鋼スラブの連続鋳造時の電磁攪拌推力を45〜130mmHdとして電磁攪拌することでリジングの原因となる柱状晶の伸長肥大化を防止する技術が開示されている。
【0006】
(b)熱延板再結晶の促進技術として、特許文献2には、フェライト系ステンレス鋼鋼片の熱間圧延にあたり、その粗圧延段階の圧延に際し、前記粗圧延の最終パスの圧下率とその前のパスの圧下率との合計値を70%以上、前記粗圧延の最終パス出側の圧延速度を200m/min以上とし、前記粗圧延の仕上げ温度を1100〜800℃とすることを特徴とする耐リジング性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法が開示されている。
【0007】
(c)冷延板再結晶の促進技術として、特許文献3には、Al:0.08〜0.5質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼材を熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を焼鈍することなくワ−クロ−ル径300mmφ以上の冷間圧延機で圧下率40%以上の冷間圧延を施して冷延鋼板とし、次いで該冷延鋼板を700〜1050℃の温度範囲で10分間以内の中間焼鈍を行った後、更に40%以上の圧下率で冷間圧延し、仕上焼鈍することを特徴とする表面性状及び加工性のすぐれたフェライト系ステンレス鋼板の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−236717号公報
【特許文献2】特開平7−126757号公報
【特許文献3】特開昭61−23720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された技術では、凝固組織の微細化、等軸晶化に電磁攪拌は有効であるが、そのための高額な設備投資が必要となる。
【0010】
また、特許文献2に開示された技術では、熱延中の再結晶および熱延板焼鈍中の再結晶促進に粗圧延の強圧下による熱延歪の増大は効果的である。しかし、Crを多く含有するフェライト系ステンレス鋼では、耐酸化性が良好であるため、表面に生成するスケールが薄く、圧延ロールとの焼き付きによる表面疵、いわゆる肌荒れが生じやすいという問題がある。熱延板に肌荒れが生じると、酸洗で溶解量を増やすために通板速度を低速にする必要が生じたり、さらにひどい場合には、熱延板の表面をグラインダー等により削る必要が生じるため、生産性・経済性が著しく低下するという問題もある。
【0011】
特許文献3に開示された技術では、冷間圧延回数を増やして仕上焼鈍板の再結晶を促進することは効果的であるが、通常の冷延1回の製造法に比べて、中間焼鈍および冷間圧延の工程が増えることにより、大幅に生産性が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、安価かつ高効率な生産が可能な、耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、高額な鋳造設備の導入や生産性の低下を招くことなく製造できる耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板について鋭意検討を行った結果、
(1)仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径を15μm以下に制御すれば、優れた耐リジング特性が得られること、
(2)仕上焼鈍板の微細な組織制御は、適量のZrの添加と仕上焼鈍温度の制御により得られ、特殊な鋳造条件や熱延条件、更には冷延回数の増加等は不要であることを知見した。
【0014】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は、以下の通りである。
【0015】
第一の発明は、質量%で、C:0.02%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.50%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.15%、N:0.02%以下、Cr:16〜23%、Ni:0.50%以下、Ti:0.10%以下、Nb:0.01%以下、Zr:0.20〜0.80%、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、仕上焼鈍後のフェライト粒の平均結晶粒径が15μm以下であることを特徴とする耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板である。
【0016】
第二の発明は、さらに、質量%で、Cu:0.30〜0.80%、Mo:0.1〜2.5%の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする第一の発明に記載の耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板である。
【0017】
第三の発明は、質量%で、C:0.02%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.50%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.15%、N:0.02%以下、Cr:16〜23%、Ni:0.50%以下、Ti:0.10%以下、Nb:0.01%以下、Zr:0.20〜0.80%、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を900〜1000℃の温度範囲で焼鈍し、次いで、酸洗、冷間圧延した後に880〜960℃の温度範囲で仕上焼鈍してフェライト粒の平均結晶粒径を15μm以下とすることを特徴とする耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【0018】
第四の発明は、前記鋼素材の製鋼段階で、Zr源としてフェロジルコニウムを溶鋼中に添加することを特徴とする耐ジリング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【0019】
第五の発明は、前記鋼素材が、さらに、質量%で、Cu:0.30〜0.80%、Mo:0.1〜2.5%の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする第三の発明または第四の発明に記載の耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、高額な鋳造設備の導入や生産性の低下を伴わずに、耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を製造できる。また、本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、耐食性にも極めて優れていることから、建材、建具、電機、産業機械、自動車、厨房用品、貯水器などの分野にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径とリジング高さの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明で最も重要となる仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径とZr量について説明する。
【0024】
リジング現象は、仕上焼鈍板の各フェライト粒の結晶方位による塑性変形能の差によって生じる鋼板表面の凹凸と考えられる。そこで、仕上焼鈍板のフェライト粒を微細化することが、塑性変形時の鋼板表面の凹凸の低減に寄与するものと考え、C、N安定化元素としてZrを含有させることに着目した。
【0025】
Zrは、Nとの結合力がTiよりも強く、粗大なTiNの生成を抑えるために有効に働く。また、CrやNを無害化して溶接部で粒界腐食が生じるのを防ぐ効果もある。さらに、微細なZrNを生成するため、熱延板焼鈍後の組織を微細化し、冷延板焼鈍においても、フェライト粒の粒成長の進行を抑制する。
【0026】
このような仕上焼鈍後の微細化への寄与以外に、C、N安定化元素としてNbを含有した場合のような再結晶温度の上昇もほとんどないため、普通鋼兼用設備である高速冷延板焼鈍ライン(タンデムーCAL)での製造が可能であり、生産性の面からも有利である。
【0027】
そこで、表1に示すZr量を変化させた組成を有する鋼を溶製し、スラブとした。該スラブを1170℃まで加熱し、6パスの粗圧延と6パスの仕上圧延により、仕上圧延温度を850℃、巻取温度を450℃とする熱間圧延を行って、板厚4.0mmの熱延板とした。次に、この熱延板を950℃で60秒の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、冷間圧延を行って、板厚0.8mmの冷延板とした。更に、900℃で60秒の仕上焼鈍を施した。得られた仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径とリジング高さを、以下の方法により測定した。
【0028】
仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径について
平均結晶粒径は、得られた仕上焼鈍板の圧延方向(L方向)の断面において、板厚1/2位置、1/4位置および1/6位置のフェライト結晶粒度をJIS G0552(切断法)に準拠して求めた。
【0029】
フェライト結晶粒度から結晶粒径への換算は、前記JIS G0552に準じて求めた。断面積1mm当たりの結晶粒の数nをもとに、結晶粒を円近似し、
n×r×π=1mm から、結晶粒半径rを求め、結晶粒径(2r)を算出した。
例えば、粒度番号6.0の場合、n=512個、結晶粒径の平均断面積は0.00195mmとなり、平均結晶粒径は49.8μmが得られる。
【0030】
リジング高さについて
圧延方向と平行にJIS5号引張試験片を採取し、その表面を600番のエメリー紙を用いて研磨した後、20%の引張歪みを付与し、表面粗度計でリジング高さを測定した。JIS B0601:2001で規定される算術平均うねりWaをリジング高さとした。
Waの測定では、測定長16mm、ハイカットフィルターの波長を0.8mm、ローカットフィルターの波長を25mmとした。
【0031】
表1および図1に仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径およびリジング高さを示す。リジング高さが10μm以下を耐リジング特性が良好の判定基準とした。図1から仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径が15μm以下であれば、リジング高さが10μm以下となり、優れた耐リジング特性が得られることがわかる。したがって、仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径は15μm以下とする。
【0032】
Zr:0.20〜0.80質量%
次に、仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径が15μm以下となるためのZr含有量と適正な仕上焼鈍温度範囲を調べるため、表1の鋼No.2、3、5の冷延板を用いて、仕上焼鈍温度を880℃、930℃、960℃、1000℃で60秒焼鈍した仕上焼鈍板を作製し、フェライト粒の平均結晶粒径を評価した。その結果を表2に示す。
【0033】
表2の結果から、Zr量が0.16質量%の仕上焼鈍板(2A〜2D)では、仕上焼鈍温度を880℃まで低温化しても平均結晶粒径が15μmを超えていた。一方、Zr量が0.21質量%の仕上焼鈍板(3A〜3D)では、960℃以下の温度で仕上焼鈍を施した板No.3A、3B、3Cの平均結晶粒径は15μm以下と微細化した。更に、Zr量が0.47質量%の仕上焼鈍板(5A〜5D)では、仕上焼鈍温度を1000℃まで高温化しても平均結晶粒径は15μm以下の値が得られた。
【0034】
このことから、仕上焼鈍板のフェライト粒を微細化するのに必要なZr量は0.20質量%以上とする。また、0.80質量%を超えた含有は原料コストの高騰を招くため、Zr量は、0.20〜0.80質量%の範囲とする。
【0035】
なお、Zrを溶鋼に含有させる際には、原料としてフェロジルコニウムを用いる。Zrは、酸素との親和力が強く、溶鋼の脱酸が不十分な状態で原料を投入したり、スラグ上からフェロジルコニウムを投入するなどすると、その多くが酸化物となってしまい、仕上焼鈍板の結晶粒微細化のために本発明で重要となるZrNの生成の役割を果たさなくなってしまう。このため、フェロジルコニウムの添加にあたっては、例えば、耐火物や鉄で作った筒状のワイヤや鉄製の箱の中にフェロジルコニウムを充填して、溶鋼へ直接投入するなどして、スラグ中の酸素とZrの反応を抑えるよう工夫することが大切である。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
仕上焼鈍温度:880〜960℃
仕上焼鈍温度は低温のほうが仕上焼鈍後のフェライト粒が小さくなるが、880℃未満では再結晶が不十分となり、加工性が劣化するため、880℃以上とする。また、960℃を超えて仕上焼鈍した場合、含有するZr量によって、仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径が15μmを超える場合があるので、仕上焼鈍温度の温度範囲は880〜960℃とする。好ましくは、880〜920℃の範囲である。
【0039】
以下にその他の成分組成及び製造条件について説明する。
【0040】
なお、以下の成分組成における%は全て質量%とする。
【0041】
C:0.02%以下
Cは、強度を高める元素であるが、その量が0.02%を超えると、延性が低下して加工性が劣化する。したがって、C量は0.02%以下とする。
【0042】
Si:0.70%以下
Siは、脱酸剤として用いられる元素である。しかし、多量に含有すると硬質化して延性が低下する。したがって、Si量は0.70%以下とする。好ましくは、0.30%以下である。
【0043】
Mn:0.50%以下
Mnは、鋼の溶製段階で脱酸剤として用いられるが、その量が0.50%を超えると、硫化物として析出し、耐食性を著しく低下させる。従って、Mn量は0.50%以下とする。好ましくは、0.30%以下である。
【0044】
P:0.04%以下
Pが0.04%を超えると、フェライト粒界へ偏析し、脆性破壊を誘起するとともに、硬質化させ、延性を低下させる。したがって、P量は0.04%以下とする。
【0045】
S:0.01%以下
Sは、熱間加工性および耐食性の点から少ないほうが好ましい。したがって、S量は0.01%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。
【0046】
Al:0.01〜0.15%
Alは、溶製段階で鋼の脱酸剤として用いられるが、その効果を得るには0.01%以上必要である。一方、過剰に含有すると粗大なAl系介在物が生成して、表面疵の原因となるとともに、加工性を劣化させる。したがって、Al量は0.01〜0.15%の範囲とする。
【0047】
N:0.02%以下
Nが0.02%を超えると、Cr窒化物として析出し、硬質化して延性が低下する。したがって、N量は0.02%以下とする。
【0048】
Cr:16〜23%
Crは、鋼板表面に不動態皮膜を形成して耐食性を高める元素である。こうした効果を得るには、Cr量を16%以上とする必要がある。一方、Cr量が23%を超えると靭性が低下するほか、強度上昇のため成形性が低下する。したがって、Cr量は16〜23%の範囲とする。
【0049】
Ni:0.50%以下
Niは、隙間腐食を抑制させる効果を有する元素である。しかし、高価であることに加え、その量が0.50%を超えると、硬質化させ、延性を低下させる。したがって、Ni量は0.50%以下とする。
【0050】
Ti:0.10%以下
Tiは、溶接部の加工性や耐食性に有害なCやNをTiCやTiNとして無害化して加工性、耐食性を向上させる効果を持つ一方で、粗大なTiNを生成するため、熱延焼鈍板、および仕上焼鈍板のフェライト粒の粗大化を誘起する。仕上焼鈍板のフェライト粒が粗大化した場合は、耐リジング特性が劣化する。したがって、Ti量は0.10%以下とする。
【0051】
Nb:0.01%以下
Nbは、微細なNbCを生成し、フェライト結晶粒の微細化には有効であるが、0.01%を超えると再結晶温度を上昇させるため、普通鋼を焼鈍するための高速冷延板焼鈍ラインでは焼鈍が不十分となり、仕上焼鈍板の加工性が低下する。したがって、Nb量は0.01%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。
【0052】
本発明の基本成分元素は以上であるが、更に所望の特性を向上させる場合は、Cu、Moの1種または2種を選択元素として含有することができる。
【0053】
Cu:0.30〜0.80%
Cuは、耐食性を向上させる重要な元素であり、特に隙間腐食を低減させるために必要な元素である。この効果を得るには0.30%以上の含有が必要である。一方、0.80%を超えて含有すると、熱間加工性が劣化するため、Cuを含有する場合は、その量は0.30〜0.80%の範囲とすることが好ましい。更に好ましい範囲は0.30〜0.50%である。
ただし、特に高い耐食性を必要としない場合には、Cuを含有しなくても良い。
【0054】
Mo:0.1〜2.5%
Moは、耐食性を向上させる元素であり、高い耐食性を必要とする場合には含有することが有効である。一方で、高価な元素であることに加えて、2.5%を超えて含有すると熱延板の靭性を低下させて製造性を低下させる懸念がある。さらに、仕上焼鈍板を硬質化させて、加工性を劣化させるので、Moを含有する場合は、その量は0.1〜2.5%の範囲とすることが好ましい。
【0055】
なお、残部は、Feおよび不可避的不純物である。ただし、V、Ca、Mg、Bは、不可避的不純物として許容される範囲で含有してもよい。その範囲は、V≦0.3%、Ca≦0.003%、Mg≦0.003%、B≦0.003%である。
【0056】
熱延板焼鈍温度:900〜1000℃
仕上焼鈍後のフェライト粒の結晶方位を分散させるには、熱延板焼鈍で十分に熱延組織を再結晶させる必要があるので、熱延板焼鈍温度は900℃以上とする。一方、熱延板焼鈍温度が1000℃を超えると結晶粒が粗大化した場合、仕上焼鈍後の結晶粒も大きくなるため、熱延板焼鈍温度は、900〜1000℃の温度範囲とする。好ましくは920〜980℃の範囲である。
【実施例1】
【0057】
前掲した表3に示す化学成分のフェライト系ステンレス鋼を溶製し、スラブとした後、1170℃に加熱して6パスの粗圧延と6パスの仕上圧延を行って、仕上温度を850℃、巻取温度を450℃として、板厚4.0mmの熱延板とした。
【0058】
ついで、表4に示す焼鈍温度で60秒の熱延板焼鈍を行い、冷間圧延を行って、板厚0.8mmの冷延板とした。さらに、表4に示す焼鈍温度で60秒の仕上焼鈍を施して、得られた仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径とリジング高さを上述した方法で評価した結果を表4に併記する。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径が15μmを超えて、本発明範囲外である鋼No.1、2、3、8、11、12は、リジング高さが10μm以上と耐リジング特性が悪い。これに対して、仕上焼鈍板のフェライト粒の平均結晶粒径が15μm以下で本発明範囲である鋼No.4、5、6、7、9、10、13、14、15は、リジング高さが10μm以下と良好な耐リジング特性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、耐食性および耐リジング特性に優れていることから、建材、建具、電機、産業機械、自動車、厨房用品、貯水器などの分野にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.02%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.50%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.15%、N:0.02%以下、Cr:16〜23%、Ni:0.50%以下、Ti:0.10%以下、Nb:0.01%以下、Zr:0.20〜0.80%、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、仕上焼鈍後のフェライト粒の平均結晶粒径が15μm以下であることを特徴とする耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、Cu:0.30〜0.80%、Mo:0.1〜2.5%の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
質量%で、C:0.02%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.50%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.15%、N:0.02%以下、Cr:16〜23%、Ni:0.50%以下、Ti:0.10%以下、Nb:0.01%以下、Zr:0.20〜0.80%、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を900〜1000℃の温度範囲で焼鈍し、次いで、酸洗、冷間圧延した後に880〜960℃の温度範囲で仕上焼鈍してフェライト粒の平均結晶粒径を15μm以下とすることを特徴とする耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼素材の製鋼段階で、Zr源としてフェロジルコニウムを溶鋼中に添加することを特徴とする耐ジリング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記鋼素材が、さらに、質量%で、Cu:0.30〜0.80%、Mo:0.1〜2.5%の中から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の耐リジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256440(P2011−256440A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132697(P2010−132697)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】