説明

耐力壁パネルの取付方法、耐力壁パネル、建築構造物

【課題】薄板軽量形鋼からなる耐力壁パネルを機械的性質の異なる木製の柱、梁からなる架構に設置する場合においても、耐力壁パネルに荷重が集中して破壊されることのない耐力壁パネルの取付方法を提供する。
【解決手段】薄板軽量形鋼からなる枠材11a、11b、13a、13bに面材15を取付けてなる耐力壁パネル7を木製の柱3、梁5を備えてなる架構に設置する耐力壁パネルの取付方法であって、耐力壁パネル7を、鉛直力を吸収する取付部材13aを介して取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板軽量形鋼製枠材からなる耐力壁パネルを木製の柱、梁からなる架構に設置する耐力壁パネルの取付方法、耐力壁パネル、該耐力壁パネルが取付けられた建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は屋根がトラス上弦材43a、トラス束材43b、補強束材43c、補強斜材43d、トラス下弦材43eからなるトラス43で構成される一般的なスチールハウスの構造の説明図である(非特許文献1参照)。スチールハウスは、図3に示すように、薄板軽量形鋼製の枠材41に面材またはブレースを取付けてなる耐力壁パネル42を主架構要素としている。
【0003】
そして、スチールハウスの耐力壁はパネル枠をスチールで構成し、面材又はブレースをビス留めに接合構成しているため、製造が容易な上、寸法精度が高く、強度も高いという特徴がある。その他にも作り置きしておき在庫として保持していても、木製耐力壁のように乾燥により形状が反ったり歪んだりすることがないという優れた点が多い。この優れた特徴を持った耐力壁を木質系の構造体に適用した場合に、木質系構造体の耐震、耐風性能を大幅に改善することが期待される。
しかし、スチールと木材という機械的性質の異なるものをそのまま組合せて使用することには、種々の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】KC型スチールハウス工事標準仕様書、スチールハウス協会発行、P105、2004年10月改定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
木質部材は鋼製部材にはない乾燥収縮による寸法変化や、継続荷重によるクリープ現象による寸法変化がある。また、木質部材と鋼製部材では熱膨張率が異なる。
このように機械的性質がまったく異なる木質部材と鋼製部材を、同じ鉛直部材として併用すると、木質部材と鋼製部材の上記の特性の違いから鋼製部材に荷重が集中し、種々の障害が生じ、鋼製部材が破壊に至ることもある。
【0006】
例えば、木製の柱、梁からなる架構に薄板軽量形鋼製の枠材からなる耐力壁パネルを設置する場合において、前述のような一般的なスチールハウスにおける取付方法で設置した場合には以下のような問題が生ずる。
木製の柱、梁の乾燥収縮やクリープ現象によって架構高さが低くなり、このため耐力壁パネルに荷重が集中し、種々の障害が生じ、耐力壁パネルが破壊に至ることもある。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、薄板軽量形鋼製の耐力壁パネルを機械的性質の異なる木製の柱、梁を備えてなる架構に設置する場合においても、耐力壁パネルに荷重が集中して破壊されることのない耐力壁パネルの取付方法を提供することを目的としている。
また、そのような取付方法ができる耐力壁パネル、および当該耐力壁パネルが取付けられている建築構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る耐力壁パネルの取付方法は、薄板軽量形鋼製の枠材に面材またはブレースを取付けてなる耐力壁パネルを木製の柱、梁を備えてなる架構に設置する耐力壁パネルの取付方法であって、前記耐力壁パネルを、鉛直力を吸収する取付部材を介して取り付けることを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、本発明に係る耐力壁パネルは、薄板軽量形鋼製の枠材に面材またはブレースを取付けてなる耐力壁パネルであって、枠を構成する上側横枠材が鉛直力を吸収できる鉛直力吸収機能を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、本発明に係る建築構造物は、上記(2)に記載の耐力壁パネルを設置してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、薄板軽量形鋼製の枠材に面材またはブレースを取付けてなる耐力壁パネルを、木製の柱、梁を備えてなる架構に鉛直力を吸収する取付部材を介して取り付けるようにしたので、乾燥収縮やクリープ現象によって架構高さが低くなっても、取付部材が鉛直力を吸収するので、耐力壁パネルが破壊されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る建築構造物の架構(1階部分および2階部分の一部)を示したものである。
【図2】本発明の一実施の形態に係る上側横枠材13aの説明図である。
【図3】従来の一般的なスチールハウスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の一実施の形態に係る建築構造物の架構(1階部分および2階部分の一部)を示したものである。
本実施の形態の建築構造物は、木製の土台1、柱3および梁5からなる架構に、薄板軽量形鋼製の枠材に面材15を取付けてなる耐力壁パネル7を設置して構成される。なお、薄板軽量形鋼とは、厚さ2.3mm未満の鋼板からなる部材をいう。
以下、各構成要素をさらに詳細に説明する。
【0014】
<架構>
本実施の形態における建築構造物(例えば家屋)の架構は、木製の土台1、木製の柱3、木製の梁5という木製の軸組みからなる。なお、木製の土台1は、図1に示されるように、コンクリートの基礎9の上に設置されている。
【0015】
<耐力壁パネル>
耐力壁パネル7は縦枠材11a、11bと横枠材13a、13bからなる枠材に合板の面材15を取付けて構成される。なお、本例の耐力壁パネル7は枠中央に間柱17が設置され、また高さ方向の中ほどよりも少し上側の位置に横材19が設置されている。
左右の縦枠材11a、11bおよび下側の横枠材13bは薄板軽量形鋼製のリップ溝形鋼からなる。また、上側の横枠材13aも、薄板軽量形鋼製の溝形の部材から構成されるが、鉛直力を吸収する機能が付加されている。この鉛直力吸収機能について以下詳細に説明する。
【0016】
図2は耐力壁パネル7の上端部を耐力壁パネル7のパネル面に直交する断面図で示したものである。図2においては、縦枠材11a、11bを破線で示している。
図1、図2に示されるように、上側の横枠材13aは、両側のフランジの一部に折れ曲がり加工が施され内方に屈曲する屈曲部21を有する形状になっている。そして、両側のフランジにおける屈曲部以外の部分は真直ぐになっている。この真直ぐなフランジの部分が縦枠材11a、11bにビス止めされている。
【0017】
枠材の一方の面に合板からなる面材15が取付けられているが、面材15の上端辺は、図2に示すように、上側横枠材13aの上端面よりも低い位置になるように設定されている。このように設定することで、上側横枠材13aが縮んだときに面材15と梁5とが干渉しないようになっている。このような構成にすることによって横枠材が一定の範囲で自由に伸縮でき、耐力壁パネル7に作用する鉛直力を吸収できる。
【0018】
上記のように構成された耐力壁パネル7は、上側横枠材13aを釘又はビスによって梁5に接合される。また上部に耐力壁がある場合には、上部耐力壁とのつなぎにはボルト23によって相互に接合する。下側横枠材13bは同様に釘又はビスにて土台1に接合される。これにより水平力と面外からの力に対抗する。更に耐力壁パネルへの引き抜き力に対応するために縦枠にホールダウン金物が配設され、土台1に接合される。
【0019】
このようにして、架構に耐力壁パネル7が設置された建築構造物においては、木製の柱3や梁5が乾燥収縮やクリープ現象によって架構の高さに変化が生じたとしても、上側横枠材13aの屈曲部が曲げ変形することによって架構の上下高さの変化を吸収する。したがって、耐力壁パネル7には架構の上下高さの変化に起因する余分な鉛直荷重が作用しない。よって、耐力壁パネル7が架構の上下高さの変化によって破壊されることがない。
【0020】
なお、上側横枠材13aと梁5とは釘又はビスで接合されており、梁5と耐力壁パネル7の間において、水平力は伝達される構造であり、かつパネル端部にはホールダウン金物が設置されているので耐力壁パネル7は構造部材として機能する。つまり、本実施形態では圧縮力と引張り力を分離し、圧縮力は木質部材で負担し、引張り力は鋼製部材で負担する構造であると言える。
【0021】
以上のように、本実施の形態の建築構造物においては、薄板軽量形鋼からなる枠材に面材15を取付けてなる耐力壁パネル7を、鉛直力を吸収する機能を有する上側横枠材13aを介して木製の柱・梁からなる架構に取付けたことにより、木製の柱・梁が伸縮してもそれによって耐力壁パネル7に過大な荷重が作用することがなく、耐力壁パネル7の破壊が防止される。
また、本実施の形態の耐力壁パネル7においては、上側横枠材13aに鉛直力吸収機能を持たせたので、鉛直力の吸収のための別部材を必要とせず、構成が単純であり、また設置も容易である。
【0022】
なお、上記の例では、上側横枠材13aを側壁が内方に屈曲する溝形鋼で構成した例を示したが、上側横枠材13aの形状はこれに限られるものではなく、例えば、側壁が外方に屈曲する溝形鋼で構成してもよい。もっとも、この場合には、面材15との干渉を避けるために、面材15の上辺位置を屈曲部21よりも下になるようにするのが好ましい。
【0023】
また、上記の説明では、建築構造物の1階部分に設置する耐力壁パネル7の取付方法について説明したが、2階あるいはそれ以上の階についても同様であることはいうまでもない。
また、上記の例では、木製の軸組みからなる架構に耐力壁パネル7を設置した例を示したが、本実施の形態に係る耐力壁パネル7をスチールハウスにおける内部耐力壁として用いることもできる。この場合には、内部耐力壁に鉛直力が作用しないことから、設計の単純化を図れるという効果が得られる。
【0024】
また、上記の実施の形態においては上側の横枠材13aに伸縮機能を付加した例であるが、上側の横枠材13aを下側の横枠材13bと同様な溝形鋼から形成し、上側横枠材13aと梁5を伸縮機能を有する取付部材を介して接合するようにしてもよい。この場合に使用する取付部材は、例えば溝形の両側壁を外方に屈曲させたもの、溝形の部材ではなく、例えば軸方向に直交方向の断面がZ形に形成したもの等種々の形状のものが適用できる。
【0025】
また、上記の耐力壁パネル7は枠材に面材15を取り付けた例であるが、面材15に変えて筋交いを設置してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 土台、3 柱、5 梁、7 耐力壁パネル、11a、11b 縦枠材、13a、
13b 横枠材、15 面材、21 屈曲部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板軽量形鋼製の枠材に面材またはブレースを取付けてなる耐力壁パネルを木製の柱、梁を備えてなる架構に設置する耐力壁パネルの取付方法であって、
前記耐力壁パネルを、鉛直力を吸収する取付部材を介して取り付けることを特徴とする耐力壁パネルの取付方法。
【請求項2】
薄板軽量形鋼製の枠材に面材またはブレースを取付けてなる耐力壁パネルであって、枠を構成する上側横枠材が鉛直力を吸収できる鉛直力吸収機能を備えていることを特徴とする耐力壁パネル。
【請求項3】
請求項2に記載の耐力壁パネルを設置してなることを特徴とする建築構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−12547(P2011−12547A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237892(P2010−237892)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2006−85073(P2006−85073)の分割
【原出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】