説明

耐放射線用分子ポンプ

【課題】 加速器や核融合炉等の強い放射線が照射される場所で使用した場合にも、内部配線に使用されている電線の絶縁性が劣化することのない、放射線及び高温ベーキングに対して優れた耐久性を有する分子ポンプを提供する。
【解決手段】 分子ポンプの筐体内に、ロータ4に直結固定した回転軸5を軸支するラジアル磁気軸受12、13及びスラスト磁気軸受14と、前記回転軸5を駆動するためのインダクションモータ11とを備えたターボ分子ポンプ1において、これら磁気軸受12、13及び14やインダクションモータ11に連なる内部電線16をポリエーテル・エーテル・ケトンからなる被覆材で被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加速器や核融合炉等の強い放射線が照射される場所で使用される耐放射線用分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
耐放射線用分子ポンプとして、出願人は先に磁気軸受と駆動用モータを備えた分子ポンプにおいて、該分子ポンプの内部に使用する電線の被覆材をすべてセラミックスにより形成したことを特徴とする分子ポンプを提案した(引用特許文献1参照。)。
【0003】
これは、前記磁気軸受や駆動用モータ等のコイル及び内部配線に使用する電線が、従来の電線では加速器や核融合炉から発生する高エネルギー・高線量の放射線によって絶縁性が劣化するので、これら高エネルギー・高線量の放射線にも耐えられるようにするため、ポンプ筐体内の電線の被覆をすべてセラミックスにより形成したものである。
【特許文献1】特開平8−338394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載の技術では、分子ポンプの内部に使用する電線の被覆材をすべてセラミックスにより形成するとしたが、セラミックスを被覆した電線はコスト高になるという問題点があった。
【0005】
又、セラミックスを被覆した電線を内部配線に使用した場合、電線を曲げると、セラミックスの被覆が剥離することがあるという問題点があった。
【0006】
本発明はこれらの問題点を解消し、電線を曲げても被覆の剥離がなく、しかも低コストで製作が可能な被覆材を用いた耐放射線用分子ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の目的を達成すべくポンプ筐体内にロータの磁気軸受部と駆動用モータ部を備えた分子ポンプにおいて、これら磁気軸受部や駆動用モータ部に連なる内部電線をポリエーテル・エーテル・ケトンからなる被覆材により被覆した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分子ポンプの内部配線に使用する電線の絶縁性が、高エネルギー・高線量の放射線に耐えられると共に高温ベーキングによる加熱にも耐えられるので、加速器や核融合炉等の真空排気用装置として使用するのに適した分子ポンプを提供できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の耐放射線用分子ポンプの最良の形態の各実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0010】
本発明の実施例1を図面により説明する。
【0011】
図1は実施例1の複合分子ポンプ1の縦断面図である。
【0012】
複合分子ポンプ1はターボ分子ポンプ部2と、該ターボ分子ポンプ部2の後段に連設されたねじ溝真空ポンプ部3とからなる。
【0013】
4はロータで、該ロータ4は有蓋円筒状をなし、該ロータ4の上方部には前記ターボ分子ポンプ部2が形成され、該ロータ4の下方部には前記ねじ溝真空ポンプ部3が形成されている。
【0014】
前記ロータ4の中心部を回転軸5が挿通しており、該回転軸5の頂部を前記ロータ4の頭部の裏面に当接して固定されている。
【0015】
6は上部ケーシングで、該上部ケーシング6は前記ターボ分子ポンプ部2の外周を覆うように形成されており、上端部に吸気口2aを有している。
【0016】
7は中間ケーシングで、該中間ケーシング7は前記上部ケーシング6の下側に連設されており、前記ねじ溝真空ポンプ部3の外周部を覆うように形成されている。
【0017】
8は下部ケーシングで、該下部ケーシング8は前記中間ケーシング7の下側に連設されており、内部にベアリングハウジング9を有し、外部に排気口8aを有している。
【0018】
そして前記上部ケーシング6と中間ケーシング7と下部ケーシング8とにより前記ポンプ筐体が形成される。
【0019】
尚、10はベース部で、該ベース部10は前記下部ケーシング8の下面を覆っており、当該複合分子ポンプ1の土台を形成している。
【0020】
前記回転軸5は、回転軸駆動用のインダクションモータ11や上下のラジアル磁気軸受12、13及びスラスト磁気軸受14を介して前記ベアリングハウジング9内に支承されている。
【0021】
尚、回転軸駆動用のモータ11としてDCブラシレスモータでもよい。
【0022】
ここで、前記ラジアル磁気軸受12、13はそれぞれラジアル位置センサ(ギャップセンサ)12a又は13a及び電磁石励磁用コイル12b又は13bを具備しており、又、前記スラスト磁気軸受14はアキシャル位置センサ(ギャップセンサ)14a及び電磁石励磁用コイル14bを具備している。
【0023】
更に又、前記インダクションモータ11はステータコイル11aを具備している。
【0024】
15は外部配線とのコネクタで、該コネクタ15は下部ケース8に突設されている。該コネクタ15内には複数のピン15aが平行に配置され、これら各ピン間をポリエーテル・エーテル・ケトンの絶縁材15bで固めて絶縁している。
【0025】
前記ピン15aは、ニッケルメッキ或いは金メッキによりコーティングされた鉄合金或いは銅合金からなっている。
【0026】
又、前記ピン15aは、ポリエーテル・エーテル・ケトンで被覆した電線16を用いて、前記ギャップセンサ12a、13a、14a及び前記コイル11a、12b、13b、14bにそれぞれ連結されている。
【0027】
前記絶縁材ポリエーテル・エーテル・ケトンは耐熱性や強い放射線の照射に対する耐久性に優れたエンジニアリングプラスチックスである。
【0028】
ポリエーテル・エーテル・ケトンの一例としてPEEK450G(商品名)がある。
【0029】
又、前記コネクタ15は、図2に示す如く、分子ポンプ1の筐体外部に設置されたコントローラ17とは外部電線18により接続されており、該コントローラ17内に前記ギャップセンサ12a、13a、14aからの信号の増幅部17aと、前記コイル11a、12b、13b、14bへの電流の制御部17bとを設けると共に、該コントローラ17を加速器や核融合炉等が発する強い放射線の影響を受けない場所に設置した。
【0030】
又、図1において19a、19b、19c、19d及び19eには、それぞれ金属チューブからなるメタル製Oリングを用いた。これは従来のシリコンゴム等よりなるOリングよりも耐熱性及び耐放射線の面で優れている。
【0031】
次に本実施例の複合分子ポンプ1の作動及びその特徴について説明する。
【0032】
複合分子ポンプ1は、核融合炉等の排気を行なう装置側に吸気口2aを接続し、インダクションモータ11でロータ4を高速回転させて装置側から真空排気を行なう。
【0033】
排気ガス(核融合炉の場合は水素やその同位元素等)は吸気口2aから吸入され、ターボ分子ポンプ部2、続いてねじ溝真空ポンプ部3を通り、排気口8aから排出される。
【0034】
前記ロータ4に固定されている回転軸5は、該回転軸5の上部及び下部のラジアル磁気軸受12、13及び該回転軸5の下端部にあるスラスト磁気軸受け14により軸支されており、これら各軸受部では、各軸受部のギャップを計測するためのギャップセンサ12b又は13b又は14aを具備していて、これらギャップセンサからの信号は、外部のコントローラ17にある増幅部17aへと伝えられる。
【0035】
該増幅部17aで増幅された前記ギャップ信号は、該コントローラ17内にある制御部17bへ伝達され、前記磁気軸受12、13、14の各軸受ギャップが所定値内となるような自動制御を行なっている。
【0036】
ここで、前記磁気軸受12、13、14及び前記インダクションモータ11とコネクタ15のピン15aとを結ぶ内部配線の電線16は、いずれも耐熱性及び耐放射性の優れたポリエーテル・エーテル・ケトンからなる被覆を有するものであることから、加速器や核融合炉等からの強い放射線に対しても前記内部電線16の絶縁が劣化することがなく、又、複合分子ポンプ1内に付着した水素分子を除去するための高温ベーキングにも充分耐えることができ、更に又、前記内部配線用電線16を折り曲げても前記被覆が電線から剥離することがない。
【0037】
又、前記コネクタ15も各ピン15aとの間にポリエーテル・エーテル・ケトンを充填して絶縁した。
【0038】
このように耐熱性及び耐放射性に優れた電気部品を用いて、耐放射線用の分子ポンプを形成した。
【0039】
尚、本実施例では、前記内部電線16のみをポリエーテル・エーテル・ケトンの被覆とし、磁気軸受12、13、14の各コイル12b、13b、14b及び前記インダクションモータ11のコイル11aには、いずれもセラミックスの被覆を用いたが、これらコイルも総てポリエーテル・エーテル・ケトンによる被覆としてもよい。
【実施例2】
【0040】
本実施例は、前記実施例1における内部配線の電線16に、前記ポリエーテル・エーテル・ケトンで被覆した電線を用いる代りに、従来のテフロン(登録商標)等のフッソ樹脂又はナイロン等のポリアミド樹脂の被覆を有する電線の外周部にポリイミド又はポリイミド・アミドで被覆したものを用いた点が、前記実施例1とは異なっている。
【0041】
ポリイミドは高い強度と耐熱性を有するプラスチックであるが、硬くて加工に難があるので、ポリアミド(ナイロン)と混じて、適当な硬さと弾力性を有するものとすれば、耐熱性、耐放射線性に優れた電線被覆材となることが判った。
【0042】
本実施例の複合分子ポンプも加速器や核融合炉等の強い放射線が照射される場所での使用に適している。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は核融合炉の実験装置や加速器等の強い放射線が照射される装置の真空排気を行なう分子ポンプに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1の複合分子ポンプの縦断面図である。
【図2】前記実施例1の制御系の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 分子ポンプ
6、7、8 ポンプ筐体
11 駆動用モータ部
12、13、14 磁気軸受部
12b、13b、14a ギャップセンサ
15 コネクタ
15a ピン
16 内部電線
17 コントローラ
17a ギャップセンサの増幅部
19a、19b、19c、19d、19e メタル製Oリング









【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ筐体内にロータの磁気軸受部と駆動用モータ部を備えた分子ポンプにおいて、これら磁気軸受部や駆動用モータ部に連なる内部電線をポリエーテル・エーテル・ケトンからなる被覆材により被覆したことを特徴とする耐放射線用分子ポンプ。
【請求項2】
ポンプ筐体内にロータの磁気軸受部と駆動用モータ部を備えた分子ポンプにおいて、これら磁気軸受部や駆動用モータ部に連なる内部電線は、フッソ樹脂又はポリアミド樹脂の被覆を有する電線の外周部に更にポリイミド又はポリイミド・アミドにより被覆したことを特徴とする耐放射線用分子ポンプ。
【請求項3】
前記磁気軸受部のギャップセンサの増幅部を前記ポンプ筐体の外部に設置したコントローラ内に設けた請求項1又は請求項2に記載の耐放射線用分子ポンプ。
【請求項4】
前記ポンプ筐体内の前記内部電線と該ポンプ筐体外の外部電線とを特徴とするコネクタのピンはニッケルメッキ或いは金メッキによりコーティングされた鉄合金或いは銅合金からなる請求項1乃至請求項3のいずれか1に記載の耐放射線用分子ポンプ。
【請求項5】
前記コネクタは、複数の前記ピンを平行に配置して有すると共に、これらのピン間にポリエーテル・ケトンを充填して絶縁した構造の請求項4に記載の耐放射線用分子ポンプ。
【請求項6】
ポンプ筐体のシール部に設けたOリングは、総て金属チューブからなるメタル製Oリングとした請求項1乃至請求項5のいずれか1に記載の耐放射線用分子ポンプ。

























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−2664(P2006−2664A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179752(P2004−179752)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(000149170)株式会社大阪真空機器製作所 (38)
【Fターム(参考)】