説明

耐放射線粘着組成物

【課題】放射線に暴露した後にも、適度の針入度と機械的強度を維持できるような耐放射線粘着組成物を提供することである。
【解決手段】 耐放射線粘着組成物は、ブチルゴム、イソブチレンゴム、ポリプロピレンおよびエピクロルヒドリンゴムからなる群から選ばれた一種以上の第一のエラストマー成分95〜20重量部、および放射線照射により硬化劣化する架橋する第二のエラストマー成分80〜5重量部とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所、使用済核燃料再処理施設、陽子加速器等原子力関連施設において、止水材、防水材、屋上・ドア・壁の目地材、機械・測定器・電気製品などのシール材、制振材・防振材・防音材、コンクリート・金属・ポリマー材に対するパッキン、緩衝材などに使用可能な、耐放射線粘着組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力関連施設等に使用される高分子に関して各種組成物が提案されてきた。既知の高分子組成物は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特許第2893360号公報
【特許文献2】特公平8−869号公報
【特許文献3】特開平8−151490号公報
【非特許文献1】「日立電線」 No.9(1990−1) 第77〜82頁「超耐放射線性ケーブルの開発」
【0003】
一方、粘着組成物としては以下のタイプのものが知られている。
(1) 第一のエラストマー成分に対して、タッキファイヤー、軟化剤、充填剤、アスファルトなどの添加剤を混合して、針入度10から100程度の粘着組成物を作製する。
(2) (2)の配合物を、形状保持性向上、機械的強度向上のため、硫黄もしくは樹脂加硫により架橋させる。
(3) (1)の配合物の第一のエラストマー成分を、加工性、物性改良のためその他の高分子成分に一部置き換える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、原子力発電所、使用済み燃料再処理施設、陽子加速器、放射線研究所関連施設などの放射線を取り扱う施設において、経年による放射線の積算量が5MGy以上になると、ポリマー製品の放射線劣化が予測範囲以上に著しいことがわかってきた。このため、初期の機能を持続する耐放射線を有するポリマー製品が求められるようになってきた。
【0005】
特に、針入度10以上の柔らかくかつ形状保持性を有する粘着性高分子組成物については、このような強度の放射線を照射した場合における特性劣化の研究はなされていない。このため、こうした5MGy以上といった大きさの積算量の放射線を暴露した後においても10以上の針入度を維持し、また適度の形状保持性も有するような高分子組成物の目処は立っていないのが現状である。
【0006】
本発明の課題は、放射線に暴露した後にも、適度の針入度と機械的強度を維持できるような耐放射線粘着組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ブチルゴム、イソブチレンゴム、ポリプロピレンおよびエピクロルヒドリンゴムからなる群から選ばれた一種以上の第一のエラストマー成分95〜20重量部、および放射線照射により硬化劣化する第二のエラストマー成分80〜5重量部とを含有することを特徴とする、耐放射線粘着組成物に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐放射線粘着組成物は、放射線に暴露した後にも、適度の針入度と機械的強度を維持できるものである。この耐放射線粘着組成物を、原子力発電所、使用済み燃料再処理施設、陽子加速器、放射線研究所関連施設などの放射線を取り扱う関連施設の耐放射線性を要求される高分子製品に使用すれば、従来報告されている組成物に比較し、放射線に暴露した後の針入度や機械的強度特性について大きな改善効果を示す。ゆえに、本特許の工業上利用価値は、非常に高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の耐放射線粘着組成物について詳細に説明する。
本発明における放射線に対する劣化防止対策は、従来の耐放射線劣化防止対策とは、本質的に異なる発想に立脚するものである。従来は、劣化防止剤の選定、老化防止剤の組み合わせ、老化防止剤の添加量を調整し、劣化防止剤を耐放射線ポリマーに対して添加していた。確かにこの方法は、低レベルの放射線劣化に対しては、ある程度期待ができるものであった。しかし、高レベルの放射能に対しては、全くといってよいほど効果が無かった。
【0010】
本発明者は、大きな改善を図るべく根本的発想の転換、改善試験を行なった結果、全く新しい配合構成にいたった。つまり、従来報告されている耐放射線ポリマーは、たとえば、エチレン・プロピレン系ポリマー、クロロプレンであるが、これらの耐放射線ポリマーは、高レベルの放射線を照射すると硬化劣化を起こし、ポリマー特有の柔軟性が失われる。
【0011】
本発明者は、こうした硬化劣化性の耐放射線性高分子を、軟化劣化性の特定のエラストマーに適量混合した。これによって、粘着性組成物の架橋劣化と崩壊劣化を同時に進行させ、見かけの物性変化、特に針入度の劣化を最小限に抑えることに成功した。
【0012】
高分子材料が放射線の環境下で使用される場合は、通常低いレベルの放射線に長時間暴露される。このとき、各種ポリマーは放射線により、性能劣化、物性低下がおこる。一般的に、ポリマーに放射線が照射されると、高分子の架橋と切断とが並行して生ずる。この際、架橋と切断のいずれが優先するかによって、ポリマーは架橋型と崩壊型に分かれる。
【0013】
天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリエチレンゴム等は架橋型ポリマーである。ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリプロピレン等は崩壊型ポリマーである。架橋型ポリマーでは、伸びが低下し、モジュラスが増加し、針入度が小さくなる。崩壊型ポリマーでは、引張り強さ、伸びが低下し、針入度が大きくなる。
【0014】
本発明においては、エラストマー成分100重量部において、ブチルゴム、イソブチレンゴム、ポリプロピレンおよびエピクロルヒドリンからなる群から選ばれた一種以上からなる第一のエラストマー成分95〜20重量部と、放射線により硬化劣化する第二のエラストマー成分80〜5重量部とを配合する。第一のエラストマー成分と第二のエラストマー成分との合計量は100重量部とする。
【0015】
ここで、放射線に対して崩壊劣化性の第一のエラストマー成分については、ブチルゴム、イソブチレンゴム、ポリプロピレン、エピクロルヒドリンゴムを使用したときに最も顕著な効果が得られた。これらは、単独であってよく、混合物であってよい。
【0016】
第一のエラストマー成分の総量を95重量部以下とすることによって、耐放射線粘着組成物において適度の架橋劣化を生じさせることができ、第一のエラストマー成分による崩壊劣化による耐放射線粘着組成物の針入度の増加、引張強度および伸びの増加を抑制することができる。こうした観点からは、第一のエラストマー成分の総量を90重量部以下とすることが更に好ましい。
【0017】
第一のエラストマー成分の総量を20重量部以上とすることによって、第二のエラストマー成分による架橋劣化による耐放射線粘着組成物の針入度および伸びの低下を抑制することができる。こうした観点からは、第一のエラストマー成分の総量を30重量部以上とすることが更に好ましい。
【0018】
第一のエラストマー成分において、ブチルゴムは、イソプレンとイソブチレンとの共重合体である。ブチルゴムにおけるイソプレンとイソブチレンとの重合比率、分子量等によって各種グレードが製造されているが、重合比率や分子量は特に限定されない。
【0019】
また、ブチルゴムの中でも、廃タイヤから回収したブチルゴムを再生して製造する再生ブチルゴムが、コストや使い易さの点で最も好ましい。
【0020】
第一のエラストマー成分において、ポリイソブチレンゴムは、イソブチレンからなる単独高分子重合体であり、分子量は特に限定されない。
【0021】
第一のエラストマー成分においては、エピクロルヒドリンゴムは、エピクロルヒドリン、エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルを中心とした開環重合体である。エピクロルヒドリン、エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルの重合比率、分子量等によって各種グレードが製造されているが、重合比率や分子量は特に限定されない。
【0022】
ポリプロピレンはプロピレンの重合体であり、分子量は特に限定されない。また、重合時には、少量の他のモノマー、たとえばエチレンモノマーを含有してもよい。
【0023】
第二のエラストマー成分は、放射線照射により架橋する高分子である。これは、例えば5MGyの放射線に暴露された後に、モジュラスが初期値に比べて増加するエラストマーであり、更に好ましくはモジュラスが初期値に比べて10%以上増加するエラストマーである。モジュラスの測定方法は、JIS K 6251 に準拠する。これは、放射線照射により架橋し、硬化劣化するようなエラストマーであれば特に限定されない。例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリエチレン、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エポキシ化天然ゴム,ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムを例示できる。
【0024】
第一のエラストマー成分、第二のエラストマー成分以外の他の高分子成分を、例えば20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下添加することも可能である。こうした高分子成分としては、後述する「熱可塑性樹脂」の他に、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン共重合体)、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)及びそれらの水添系共重合体を例示できる。
【0025】
本発明の組成物には、タッキファイヤー、軟化剤、充填剤、アスファルト,APP等の各種添加剤や、熱可塑性の樹脂・エラストマー、加硫剤、架橋促進助剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤、発泡剤、難燃剤、着色剤、発泡剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等を必要に応じて添加して、目的にあった耐放射線粘着組成物を作製する。
【0026】
タッキファイヤーは組成物の粘着性を向上させるものである。タッキファイヤーとしては、クマロン樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂。石油樹脂系のC5樹脂、C9樹脂、C5C9系樹脂、又はその水添系。ロジン系樹脂としてロジン、ロジンエステル、又はその水添系。好ましくはテルペン樹脂、石油樹脂系のC5樹脂、C5C9系樹脂が好適である。タッキファイヤーの添加量は特に限定されないが、第一のエラストマー成分および第二のエラストマー成分の合計量100重量部に対して、10重量部以上とすることが好ましく、また、190重量部以下とすることが好ましい。
【0027】
軟化剤は、高分子の硬度の低下を目的として組成物中に添加される添加剤の総称である。軟化剤にはいわゆる可塑剤も含まれる。軟化剤は、高分子との高い相溶性により、分子鎖中に浸透し、分子鎖間の潤滑剤として作用する。
軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、合成軟化剤(合成可塑剤)を含む。鉱物油系軟化剤は、芳香族系、ナフテン系、パラフィン系に分けることができ、普通これら3種類の混合物から成り立っている。
【0028】
好適な実施形態においては、軟化剤が、60℃以下のアニリン点温度を有する鉱物油系軟化剤である。アニリン点温度は、軟化剤中のベンゼン環等の芳香族構造物の含有量を示す尺度として用いられるものである。本発明においては、アニリン点温度が60℃(好ましくは45℃以下)の軟化剤を使用することによって、高分子組成物の硬化劣化を効果的に抑制できる。このような軟化剤としては以下を例示できる。
例えば、出光興産社製ACシーリズ、AHシリース、神戸油化学社製HAシリーズをはじめとして、コスモ石油社、ジャパンエナジー社、日本サン石油社、富士興産社等の製造メーカーにより販売されている。
【0029】
可塑剤は、通常は軟化剤のうちで合成されたものの総称である。可塑剤の種類は限定されないが、多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましい。フタル酸誘導体、テトラヒドロフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、セバシン酸誘導体、ドデカン酸誘導体、マレイン酸誘導体、フマル酸誘導体、トリメリット酸誘導体、ピロメリット酸誘導体、クエン酸誘導体、オレイン酸誘導体、リシノール酸誘導体、ステアリン酸誘導体、スルホン酸誘導体、リン酸誘導体グルタール酸誘導体、モノエステル系軟化剤、グリコール誘導体、グリセリン誘導体、パラフィン誘導体、エポキシ誘導体、ポリエステルもしくはポリエーテルの重合軟化剤を例示できる。特に好ましくは、芳香族多価カルボン酸エステル系可塑剤を使用する。
【0030】
こうした多価カルボン酸としては、ベンゼン環の多価カルボン酸が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸が特に好ましい。また、多価カルボン酸と反応するアルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチルヘキサノール、オクタノール、カプリルアルコール、ノナノール、イソノニルアルコール、デカノール、イソデシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールを例示できる。特に好ましくは、DOP(ジ-2-エチルヘキシルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、BBP(ブチルベンジルフタレート)等に代表されるフタル酸エステル系可塑剤、TBTM(トリブチル・トリメリテート)、TOTM(トリ・2−エチルへキシル・トリメリテート)等に代表されるトリメリット酸エステル系可塑剤である。
【0031】
また、液状ポリマーとしては、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン、液状イソプレン、又はそれらの末端に官能基を付加させたものが好ましい。そして、大豆油、菜種油、ひまし油、亜麻仁油、パーム油、やし油、落下生油、また、それらを硫黄で架橋したサブなどの植物油等が挙げられる。
【0032】
充填剤としては、炭酸カルシウム、クレー、ベントナイト、タルク、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム又はそれらを脂肪酸、樹脂酸等で表面処理したものが好ましい。カーボン、硫酸バリウム、リトポン、硫酸アルミ、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ゼオライト、珪藻土、酸化亜鉛が上げられる。好ましくは、炭酸カルシウム、クレー、カーボン等が好適である。
【0033】
アスファルトとしてはストレートアスファルト、又はアスファルトの水添物を例示できる。APPとしては、ポリプロピレン(PP)製造時の残渣としてのAPP、APPとエチレン、ブテン等とのコポリマー合成物を例示できる。
【0034】
熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ポリフェノール、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン共重合体)、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)、及びそれらの水添系共重合体を例示できる。
【0035】
ゴムの多くは、硫黄を架橋剤として使用するが、本発明においては、その他金属酸化物、有機過酸化物、さらに、耐放射線粘着組成物に1液、もしくは2液硬化性のウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂を添加、末端がOH、COOH、NH2、を有するイソプレン、ブタジエン、NBR等の液状ゴムと硬化剤イソシアネートやエポキシ、アミンなどを添加して半硬化物の耐放射線粘着組成物を成形することができる。
【0036】
本発明の耐放射線粘着組成物中には、耐放射線対策ポリマー処方で公知の劣化防止剤を併用できる。このような劣化防止剤としては、電子・イオン捕捉剤、エネルギー移動剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、ラジカル不活性剤を例示できる。
電子・イオン捕捉剤としては、ピレン、キノン、ジフェニレンジアミン、テトラメチルフェニレンジアミン等がある。エネルギー移動剤としては、アセナフテン、アセナフチレン等がある。ラジカル捕捉剤としては、メルカプタン、フェニルエーテル、ヒドロフェナントレンがある。酸化防止剤としては、各種フェノール、有機チオ酸塩類がある。
【0037】
本発明の組成物の成型方法としては、ミキシングロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類で混合し、非加硫の場合は金型による圧縮成型、射出成型、連続押出しにより常温〜150℃の範囲で成形できる。架橋物の場合は金型による圧縮成型、射出成型、熱空気加硫缶、連続押出しによるマイクロウエーブ加硫により、80℃〜250℃の範囲で成型することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例、比較例をあげながら具体的に説明する。
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表1に示す比較例1〜4、実施例1〜4の各組成物を製造した。具体的には、表1に示す各例の配合で各原料を秤量し、混合した。各配合物を、1リットル加圧ニーダーで100℃にて30分混練り後、混合物を100℃のプレスにてプレス成形し、厚さ3mmのシートを得た。比較例2と実施例4においては、この後、150℃のプレスにて20分架橋成形して厚さ3mmの架橋シートを得た。
【0039】
【表1】

【0040】
表1において、各成分は以下のものを使用した。
*1: 早川ゴム株式会社製 再生ブチルゴム(第一のエラストマー成分)
*2: エクソン株式会社製「ビスタネックス L−100」(第一のエラストマー成分)
*3: 三井化学株式会社製「EP-3075」 (第二のエラストマー成分)
*4: トーネックス製「エスコレッツ 1202」(第二のエラストマー成分)
*5: 出光石油化学製「AH−16」「HV−300」=1:3の混合物
*6: ハンツマン製 「RT−2535」
*7: ハードクレーと軽質炭酸カルシウム(重量比率2:8の混合物)
*8: 亜鉛華 5重量部; ステアリン酸2重量部; 加硫促進剤M 1重量部; 加硫促進剤 TT 1重量部;硫黄 0.5重量部、加工助剤0.5重量部(合計10重量部)の混合物
【0041】
表1の各例の組成物に対して、5または10MGyの放射線を照射した。そして、放射線照射前後において、針入度を「JIS K−2207」に準拠して測定し、引張強さ、及び伸びを「JIS K−6251」に準拠して測定した。この結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2において「不可」とは、試料に形状保持力が無く、引張強度や伸びを測定できないことを意味する。
【0044】
比較例1は、第一のエラストマー成分が100重量部、第二のエラストマー成分が0重量部の例である。放射線5MGy照射の処理後は、針入度91、放射線10MGy照射の処理後は針入度100と極めて大きく変化しており、引張強度、伸びは、測定不能なほど形状保持ができない。
【0045】
比較例2は、比較例1とほぼ同様な混合物に対して、架橋剤を混合し架橋させた粘着組成物である。しかし、放射線5、10MGy照射の処理後の針入度は、初期値に比べて大きく増大しており、引張強度は大きく低下し、伸びは大きく低下していた。
【0046】
比較例3は、第一のエラストマー成分98重量部、第二のエラストマー成分2重量部を混合した例である。第二のエラストマー成分の配合量が少ないため、放射線5MGy照射後の針入度が82、放射線10MGy照射後の針入度が93と大きくなっており、引張強度、伸びが比較例1と同様に測定不能であり、形状保持性が失われた。
【0047】
比較例4は、第一のエラストマー成分15重量部、第二のエラストマー成分85重量部を配合した例である。第二のエラストマー成分が多いため、放射線5MGy照射後の針入度が17、放射線10MGy照射後の針入度が9と極めて小さくなっており、粘着性が損なわれていた。また、放射線照射後は、引張強度、伸びが元の特性値と大きく変化し、特に伸びは著しく低下している。
【0048】
実施例1は、本発明の範囲内の混合物であり、第一のエラストマー成分が90重量部、第二のエラストマー成分が10重量部混合されている。針入度は、放射線5MGy照射後には78であり、放射線10MGy照射後には85であり、変化が小さい。また、引張強度、伸びが初期値に比べてあまり変化していない。
【0049】
実施例2は、本発明の範囲内の組成物であり、第一のエラストマー成分が50重量部混合されており、第二のエラストマー成分が50重量部混合されている。針入度は、放射線5MGy照射後には67、放射線10MGy照射後は67であり、初期値に比べてわずか2しか変化していない。このように大量の放射線に暴露された後に、初期値と同様の適度の針入度を保持するような粘着組成物はかつて知られていないものである。更に、引張強度、伸びも、初期値とあまり変化していない。
【0050】
実施例3の組成物は、本発明の範囲内の混合物であり、第一のエラストマー成分が25重量部混合されており、第二のエラストマー成分が85部混合されている。針入度は、放射線5MGy照射後には41であり、放射線10MGy照射後には27となっており、若干変化しているが、いまだ粘着性は保持されており、十分に使用に耐えるものであった。更に、引張強度、伸びの変化も実用上問題ない水準にとどまっていた。
【0051】
実施例4は、本発明の範囲内であり、第一のエラストマー成分が50重量部混合されており、第二のエラストマー成分が50重量部混合されており、更に架橋剤で架橋されている粘着組成物である。針入度は、放射線5MGy照射後には27、放射線10MGy照射後には30と初期値に比べてほとんど変化しておらず、また引張強度、伸びも初期値とほとんど変わらない。
【0052】
(実施例5)
実施例2の組成物において、再生ブチルゴムをポリプロピレンに変更し、針入度20の粘着組成物を製造した。これに5MGy、10MGyの放射線を照射したところ、針入度の変化は小さく、粘着性、形状保持性が維持されることがわかった。
【0053】
(実施例6)
実施例2の組成物において、再生ブチルゴムを、エピクロルヒドリンゴムに変更し、針入度45の粘着組成物を製造した。これに5MGy、10MGyの放射線を照射したところ、針入度の変化は小さく、粘着性、形状保持性が維持されることがわかった。
【0054】
(エラストマー単独でのモジュラス試験)
上述した例において、再生ブチルゴム(第一のエラストマー成分)、エチレンプロピレンゴム(第二のエラストマー成分)、天然ゴム(NR)(第二のエラストマー成分)について、それぞれ100重量部の配合比率とした場合について、モジュラスを放射線照射前後について測定した。モジュラスの測定方法は、JIS K 6251 に準拠する。この結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
再生ブチルゴムの場合には放射線5MGy照射後にモジュラスが測定不可能なほど低下しており、放射線崩壊性であることがわかる。エチレンプロピレンゴム、天然ゴムの場合には、放射線5MGy照射後にモジュラスが約28%あるいは100%近くまで上昇しており、硬化劣化性である。
【0057】
以上述べたように、本発明により粘着組成物が放射線照射による劣化に対して、放射線量が5MGy照射から放射線10MGyと極めて大きい量の被爆量に対しても、針入度の変化が少なく、引張強度、伸びの変化が少ない耐放射線粘着組成物の製品を提供できる。この結果、粘着組成物が放射線による被曝を受けても、放射線劣化による改修もしくは、交換などの作業手間が不要になり、長期にわたって安定した耐放射線粘着組成物を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム、イソブチレンゴム、ポリプロピレンおよびエピクロルヒドリンゴムからなる群から選ばれた一種以上の第一のエラストマー成分95〜20重量部、および放射線照射により硬化劣化する第二のエラストマー成分80〜5重量部とを含有することを特徴とする、耐放射線粘着組成物。
【請求項2】
前記第二のエラストマー成分が、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリエチレン、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エポキシ化天然ゴム,ポリウレタン、フッ素ゴムおよびシリコーンゴムからなる群より選ばれた一種以上のエラストマーであることを特徴とする、請求項1記載の耐放射線粘着組成物。
【請求項3】
針入度10以上であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐放射線粘着組成物。
【請求項4】
タッキファイヤーを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の耐放射線粘着組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の耐放射線粘着組成物を含むことを特徴とする、耐放射線高分子製品。

【公開番号】特開2006−45381(P2006−45381A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229384(P2004−229384)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】