説明

耐火物厚み測定方法及びその装置

【課題】耐火物測定装置において放射線を用いて照射側耐火物と検出側耐火物のそれぞれの耐火物厚みを検出できないという課題があった。
【解決手段】耐火物厚み測定方法は、放射線を管材料に照射し、管材料と管材料内側の耐火物とを通過した減衰放射線を検出し、放射線を照射した管材料の表面の照射位置表面温度、及び、減衰放射線を検出した管材料の表面の検出位置表面温度を検出し、検出した減衰放射線の減衰強度から管材料の減衰強度を取り除いて、耐火物の減衰強度を算出し、耐火物の減衰強度から、耐火物厚みを算出し、照射位置表面温度と検出位置表面温度を用いて、耐火物厚みから照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出する耐火物厚み測定方法を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物厚み測定方法及びその装置に関し、特に、放射線を用いて照射側の耐火物厚みと検出側の耐火物厚みとを検出する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所における高炉及び熱風炉等の付帯設備又は焼結及びコークス炉等の煙突では、鉄拡石から銑鉄を取り出すために高炉及びその付帯設備は、極めて高温の雰囲気に晒されているため、鉄皮の内側に耐火物を有する。さらに、高炉は稼動開始後シャットダウンせずに連続操業するため、耐火物の剥離を内側から判断することはできず、外側から放射線を用いて検出する等の非破壊検査を行っている。
そのため、非破壊検査において管材料の耐火物の欠陥部を精度良く発見し、欠陥部を修繕することで、事故を未然に防止すると共に装置の延命化を実現することが重要な課題となっている。
【0003】
また、放射線を用いた管材料の減肉及び付着物厚みを算出する方法として、管材料と付着物との吸収係数の比が互いに異なる少なくとも2種類の放射線の線源を用い、管の同一部分に照射し、透過放射線の強さを測定し、各々の放射線に対する減衰量から管肉厚みと付着物の厚みを算出する方法が目示されている(下記特許文献1)。
【0004】
また、宇宙線であるミューオンを用いて管材料の耐火物厚みを算出する方法として、宇宙線に対する減衰量から耐火物の厚みを算出する方法が開示されている(下記特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−210707号公報
【特許文献2】特開平8−263741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、提案されている方法では、測定に用いる放射線や字宙線の減衰は照射側の鉄皮及び耐火物と、検出側の鉄皮及び耐火物との両方において生じるが、照射側の耐火物の厚さと検出側の耐火物の厚さのそれぞれを判別することができない等の不都合があった。
【0007】
上述のような問題点に鑑み、本発明は管材料内側の耐火物に対して放射線を照射し、放射線照射側の耐火物厚みと放射線検出側の耐火物厚みのそれぞれを算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、耐火物厚み測定方法は、放射線を管材料に照射し、管材料と管材料内側の耐火物とを通過した減衰放射線を検出し、放射線を照射した管材料の表面の照射位置表面温度、及び、減衰放射線を検出した管材料の表面の検出位置表面温度を検出し、検出した減衰放射線の減衰強度から管材料の減衰強度を取り除いて、耐火物の減衰強度を算出し、耐火物の減衰強度から、耐火物厚みを算出し、照射位置表面温度と検出位置表面温度を用いて、耐火物厚みから照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出する。
管材料の減衰強度は、超音波測定により検出された管材料の厚みに基づいて算出することができる。放射線照射の照射位置と、減衰放射線の検出位置は、水平方向において同じ位置であっても良い。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明に係わる耐火物厚み測定方法は、放射線を管材料に照射し、管材料と管材料内側の耐火物とを通過した第1の減衰放射線を検出し、放射線を照射する照射位置、又は、放射線を検出する検出位置を変化し、放射線を管材料に照射し、管材料と管材料内側の耐火物とを通過した第2の減衰放射線を検出し、第1の減衰放射線の減衰強度と、第2の減衰放射線の減衰強度とを比較することで、耐火物厚みの異常を判別する。
【0010】
さらに、上記課題を解決するために、放射線を管材料に照射する放射線照射部と、管材料と管材料内側の耐火物を通過して減衰した放射線を検出する放射線検出部と、放射線を照射した管材料の表面の照射位置表面温度、及び、減衰放射線を検出した管材料の表面の検出位置表面温度を検出する温度検出部と、減衰強度から管材料及び耐火物の厚みを算出し、算出された管材料及び耐火物の厚みから、管材料厚みを減算して耐火物厚みを算出し、照射位置表面温度と検出位置表面温度を用いて、耐火物厚みから照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出する演算処理部と、を有する。
管材料の減衰強度は、超音波測定により検出された管材料の厚みに基づいて算出することができる。また、放射線照射部と、放射線検出部は、水平方向において同じ位置であっても良い。
【0011】
また、上記課題を解決するために、耐火物厚み測定装置放射線を管材料に照射する放射線照射部と、管材料と管材料内側の耐火物とを通過した第1の減衰放射線を検出し、宜つ、放射線を照射する管材料の表面を変化させ、又は、減衰放射線を検出する管材料の表面を変化させることで第2の減衰放射線を検出する放射線検出部と、第1の減衰放射線の減衰強度と、第2の減衰放射線の減衰強度とを比較することで、耐火物厚みの異常部を判別する判別部を有する。
さらに、管材料の滅衰強度は、超音波測定により検出された管材料の厚みに基づいて算出しても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射線を用いた耐火物の厚み測定において、測定した耐火物厚みを鉄皮表面温度により放射線照射側の耐火物厚みと放射線検出側の耐火物厚みを算出できるようにしたので、管材料内のどの部分の耐火物厚みが減少しているかを発見することができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、検出した放射線の減衰強度を、他の検出部又は照射部を用いて検出した放射線の減衰強度と比較することで、管材料内のどの部分の耐火物厚みが減少しているかを発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、耐火物厚み測定装置の一例を示した上面図である。
【図2】図2は、耐火物厚み測定装置の一例を示し側面図である。
【図3】図3は、測定装置の詳細の一例を示す図である。
【図4】図4は、耐火物厚み測定装置による耐火物厚測定の処理フローの一例を説明する図である。
【図5】図5は、放射線検出部で検出された減衰放射線の減衰強度を示す図である。
【図6】図6は、減衰強度と耐火物厚みの関係を示す図である。
【図7】図7は、耐火物厚み測定装置による耐火物厚み測定の処理フローの一例を説明する図である。
【図8】図8は、放射線照射位置と検出位置の関係を示す図である。
【図9】図9は、減衰放射線の放射線強度を示すグラフである。
【図10】図10は、図9(a)及び(b)に示した減衰放射線をノイズ除去した減衰放射線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、耐火物厚み測定装置の一例を示した上面図である。高炉の付帯設備である焼結煙突1は、鉄鉱石を溶解して銑鉄を製造する炉であって、厚い鉄皮3に耐火物5を内張りした円筒容器又は管材料である。測定装置10は、焼結煙突1に取り付けられ且つ矢印7で示される放射線を照射する放射線照射部11、放射線の照射側50の鉄皮3aと鉄皮3aの内側の耐火物5a、放射線の検出側60の耐火物5b及び鉄皮3bを通過して減衰した放射線を検出るために半導体検出素子を備える放射線検出部14、及び、入出力部15、コンピュータ16を有する。
【0016】
放射線照射部11は、高い線量率を持つ放射線源イリジウム(Ir−192)等を収納する線源容器12と線源容器12からのガンマ線やX線等の放射線を伝送するための伝送管で接続されており、線源容器12は、管理区域からの放射線放射制御を行うための操作器13とレリーズワイヤ等で接読されている。管理区域から操作器13により線源容器12のシャッターの開閉動作をすることで、線源容器12から放射線が放出され、焼結煙突1の鉄皮3aに取り付けた放射線照射部11から、鉄皮3aに放射線が照射され、矢印7で示すように焼結煙突1を貫通し、鉄皮3bに取り付けた放射線検出部14で減衰された放射線が検出される。なお放射線検出部14は、放射線の電離作用により生じる電圧を検出する。また操作器13は、入出力部15とシリアルケーブル等で有線接続し、入出力部15を介して後述するコンピュータ16と通信接続され得る。そのため、操作器13を、コンピュータ16で操作可能となる。さらに、放射線検出部14は、検出した電圧をデジタルデータに変換し、シリアルケーブル等で接続される入出力部15を介してコンピュータ16に電圧データを送信可能である。
【0017】
図2は、耐火物厚み測定装置の一例を示した画面図である。焼結煙突1には、鉄皮3の内側に耐火物5が内張りされている。測定装置10は、焼結煙突1に取り付けられ、矢印7で示される放射線を照射する放射線照射部11、放射線の照射側の鉄皮3aと鉄皮3aの内側の耐火物5a、及び、放射線の検出側60の耐火物5b及び鉄皮3bを通過して減衰した放射線を検出するために半導体検出素子を備える放射線検出部14を有する。
【0018】
図3は、測定装置の詳細の一例を示す図である。測定装置10は、焼結煙突1に取り付けられ、放射線を照射する放射線照射部11、鉄皮3及び図示されない耐火物5を通過して減衰した矢印7で示される放射線を検出する放射線検出部14を有する。
【0019】
放射線照射部11には、放射線を照射した管材料の表面の照射位置表面温度を測定するための温度検出部36a、及び超音波により鉄皮厚さを測定する超音波測定部38aが取り付けられてもよい。放射線照射部11は、制御部31aを有し、温度検出部36aの検出した鉄皮3の温度データを記憶し、有線又は無線通信によりコンピュータ16に記録した各種検出データを送信することができる。また、制御部31aは、このデータは、記憶媒体に記録し、記憶媒体をコンピュータ16に搬送し、データの送受信を行うことも可能である。
【0020】
放射線検出部14は、移動可能なようにレール35b上に取り付けられ、半導体検出素子を備えるスキャナ部37を有し、スキャナ部37の周りに、減衰放射線を検出した管材料の表面の検出位置表面温度を検出する温度検出部36bを取り付けても良い。また、放射線検出部14は、スキャナ部37の周りに、超音波測定部38bを有する。さらに、放射線検出部14には、制御部31bを有し、放射線検出部14の検出した放射線データ、超音波測定部38bが測定した超音波データ、温度検出部36bの検出した鉄皮3の温度データを記億し、有線又は無線通信によりコンピュータ16に記億した各種検検データを送信する。また、制御部31bは、これらのデータは、記憶媒体に記録し、記億媒体をコンピュータ16に搬送し、データの送受信を行うことも可能である。
【0021】
なお、温度検出部36a、36bは、近赤外線等を検出する検出素子により温度を検出するものであっても良い。また、図示しないが、放射線照射部11も、移動可能なようにレール35a上に取り付けられ、移動可能としても良い。
【0022】
超音波測定部38a、38bは、超音波を鉄皮3に照射し、超音波の減衰量の変化や反射、吸収、移送時間差などの特性により鉄皮3の厚みを検出することができる。なお、超音波測定部38a、38bは、既知の超音波厚さ計により実装可能である。なお、この超音波厚さ計は、鉄皮3に付着したトランスデューサー(プローブ、探触子)と呼ばれるセンサーから発信した超音波が、測定物の反対面に反射し戻ってくる時間(伝播時間)をもとに、鉄皮3の厚さを算出する。
【0023】
また、温度検出部36a、36b、超音波測定部38a、38bは、シリアルケーブル又はイーサネット(登録商標)ケーブルで接続した入出力部15を介してコンピュータ16にデータを送信可能である。
また、温度検出部36a、36bは、超音波測定部38a、38bは、必ずしも放射線検出部14や放射線照射部11と一体化したものである必要は無く、作業員が、照射位置及び検出位置を既知の可搬型サーモトレーサを用いて測定することで、それぞれの表面温度を検出し、コンピュータ16の入力部24又は記憶部21に記録させても良い。
【0024】
コンピュータ16は、処理部25、処理部25の動作を規定するブログラムや各種データを記録する記憶部21、有線又は無繰通信によりデータの送受信を行う通信部22、入力部24、表示部23を有する。
【0025】
コンピュータ16は、超音波測定部38a、38bで検出した鉄皮3の厚さに対応する放射線の減衰強度を、下記に示すランベルトの法則により(式1)、求めることができる。
【0026】
【数1】

【0027】
αは、線現弱係数である。ここで、xは、鉄皮厚みである。鉄皮に入射する前の放射線の放射強度をI0が鉄皮中を距離x移動したときの放射線の強度をIが算出できる。つまり、xが超音波測定部18により既知となれば、鉄皮通過後のIの強度が算出可能となる。そして、コンピュータ16は、式1を用いて算出した鉄皮の減衰強度を、検出した放射線の減衰強度から減算する。このようにして減算して算出した減衰強度は、照射側及び検出側の耐火物厚みのみの減衰強度となる。
そして、コンピュータ16は、放射線減衰強度と耐火物厚みの検量線から(後述する図6に示す)、耐火物厚みの減衰強度に対応する耐火物厚みを算出する。
【0028】
コンピュータ16は、算出した耐火物厚みを、照射位置表面温度及び検出位置表面温度を用いて、照射側耐火物厚みと検出側耐火物厚みを算出する。なお、算出方法は、耐火物の伝導伝熱量と、鉄皮表面からの放射伝熱量及び対流伝熱が平衡状態にあることを想定した下記の式を用いる。なお、鉄皮の熱伝導は熱伝導率が極めて高く熱抵抗は極めて小さいため無視する。また、焼結煙突は円筒型であるが、鉄皮表面の極率は平板壁モデルを摘要できるほど小さいため、伝導伝熱量の計算式には平板壁の伝導伝熱計算式を用い、円筒形の伝導伝熱計算式は用いないこととした。
【0029】
【数2】

【0030】
【数3】

【0031】
q1は、平衡状態の照射側鉄皮からの熱量であり、放射伝熱及び対流伝熱である。また、q2は、平衝状態の検出側鉄皮からの熱量であり、放射伝熱及び対流伝熱である。t0は炉内温度、t1は炉外温度(照射側)、t2は炉外温度(検出側)、b1は照射側断熱材厚み、b2は検出側断熱材厚み、εはステファンボルツマン係数(例えば、高炉や煙突だと、0.7程度)、λは熱伝導率である。
式2の左辺は、フーリエの法則で示される伝導伝熱量を示し、式2の右辺第1項は、ステファンボルツマンの法則で示される放射伝熱を示し、式2の左辺第2項は、対流伝熱量を示す(なお、hcは、形状によって使いわけされる。垂直壁面の場合hc=2.2、上向壁面の場合hc=2.8、下向壁面の場合hc=1.5)。式3も同様である。
【0032】
なお、λは、検出側及び照射側同じ値とする。これは、検出側及び照射側の水平位置を同じとしたためである。つまり、一般に熱伝導率は炉内環境によって流体が染み込み、耐火物内の成分が蒸発する等の現象によって時々変化するが、高炉や煙突等の環境では、高さ方向に依存して炉内環境は共通するため、耐火物の水平位置が同じであれば、耐火物の物性は同じと考えられるからである。さらに、図2で示したように、コンクリート等の液状材料から成形した耐火物や、れんがのように予め固体の耐火物は、高さ方向において同じ形状又は物性の材料を用いられるため、物性変化前の性質も同じである。したがって、表面温度を用いて照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出する場合、計算精度向上のために、検出側及び照射側は熱伝導率が同じと想定される位置関係として水平位置に設置されるのが好ましい。式2及び式3を式変形することで、b1(照射側断熱材厚み)を算出するための式3、b2は(検出側断熱材厚み)を算出するための式4を、導き出すことができる。
【0033】
【数4】

【0034】
このようにして、コンピュータ16は、伝導伝熱、対流伝熱、放射伝熱の平衡状態を想定した式を利用して、b1(照射側断熱材厚み)、b2は(検出側断熱材厚み)を算出可能である。しかしながら、式4及び式5の分母部分である対流伝熱および放射伝熱の式は、外気環境(温度、湿度、気圧、風)、表面形状の関係から算出結果と、実際の値とが一致しないことが多い。そのため、このようにして計算されたb1、b2は、精度が低いため、そのまま利用することは困難である。
一方、放射線による計測は、正確な値を算出可能である。しかしながら、照射側と検出側のトータル厚さしか算出できない。そのため、本実施例においては、放射線を用いて計測した値に対して、式3及び式4で算出した厚さb1、b2を比率計算に用いることとする。
【0035】
【数5】

【0036】
式6は、b1及びb2から得られる比率を示す式である。この式6、及び、放射線測定値の厚さLを用いて、放射線測定値及び伝熱計算に基づく比率をL1(照射側断熱材厚み)、L2は(検出側断熱材厚み)、以下のように定義することができる。
【0037】
【数6】

【0038】
式7及び式8では、計算精度の低い式4及び式5を、照射側の耐火物厚みと検出側の耐火物厚みを求めるための比率として利用する。このようにすることで、計算精度の高い放射線測定による耐火物厚みを、照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みに分けることができる。このように、測定装置10は、照射位置表面温度及び検出位置表面温度を用いて、照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出可能である。
【0039】
また、コンピュータ16は、表面温度を用いないで耐火物厚みの検出又は耐火物厚みの異常判断を行うこともできる。例えば、測定装置10は、放射線を照射する照射位置と放射線を検出する検出位置とを固定して管材料と前記管材料内側の耐火物とを通過した減衰放射線を検出し、次に、放射線検出部14を水平方向又は垂直方向に移動することで、検出位置を変更し、又は、放射線照射部11を水平方向又は垂直方向に移動することで、照射位置を変更して、第2の減減衰放射線を検出する。
【0040】
そして、コンピュータ16が、検出した第1及び第2の減衰放射線の減衰強度の差が生じる場含、その減衰強度の差に対応する耐火吻の厚みを算出して、検出位置変更前と検出位置変更後(或いは、照射位直変更前と照射位置変更後)の厚みの差を放射線減衰強度と耐火物厚みの検量線から(後述する図6に示す)から求めることができる。
【0041】
このように、検出位置又は照射位置を変更することで、放射線強度並びに耐火物厚みの差分量を求めることができる。そして差分量が大きい場合に異常箇所として検出位置又は照射位置を判別することも可能である。また、その検出した複数の減衰強度の平均値を平均耐火物厚みavLとし、差分値の変動が無く正常な状態の耐火物と判断される箇所の厚みを平均耐火物厚みavLとすることで、差分値△Lにより、平均耐火物厚みavLに差分値を加算又は減算することで耐火物厚みを求めることも可能となる。
【0042】
図4を用いて、耐火物厚み測定装置による耐火物厚み測定の処理フローの一例を説明する。最初に、放射線照射部11から放射線を管状の材料からなる円筒容器である焼結煙突1の鉄皮3の裏面に照射する(ステップ101)。放射線は、焼結煙突1を通過するとき、照射側の鉄皮3aと耐火物5aとの相互作用により減衰し、焼結煙突1の内部を通過し、さらに、検出側の鉄皮3bと耐火物5bとの相互作用により減衰する。このように、管状の材料からなる円筒容器である焼結煙突1の鉄皮3a、3bと耐火物5a、5bとを通過した減衰放射線を、放射線検出部14が検出する(ステップ102)。
【0043】
図5を用いて、放射線検出部14で検出された減衰放射線の減衰強度を示す。この減衰強度は、管径6600mmの焼結煙突に対して放射線照射部11に対して180度の位置にある放射線検出部14が測定したものである。測定したデータは、放射線検出部14及び放射線照射部11がレール移動により、水平位置1mm〜750mmを移動して、検出した放射線の減衰強度である。
【0044】
図4に戻ると、次に、放射線を照射した管材料の表面の照射位置表面温度、及び、減衰放射線を検出した管材料の表面の検出位置表面温度を検出する(ステップ103)。このステップでは、例えば、照射側の温度検出部36a、検出側の温度検出部36bが、検出対象となる焼結煙突の表面から発射される赤外線を検出することで温度を測定し、測定データは、入出力部15を介してコンピュータ16の記億部21に記億される。また、このステップは、作業員がサーモトレーサを用いて計測し、入力部24を介してコンピュータ16の記憶部21に記憶させても良い。
【0045】
次に、検出した放射線の減衰強度から管材料の減衰強度を取り除いて、前記耐火物の減衰強度を算出する(ステップ104)。
このステップは、コンピュータ16の処理部25が、超音波測定部18が検出した鉄皮3の厚さを受信する。次に、コンピュータ16の処理部25は、受信した鉄皮3の厚さに対応する鉄皮3における放射線の減衰強度を算出する。
例えば、超音波測定部18が検出した鉄皮3の厚さが、照射側11mm、検出側11mm、トータル22mmであり、放射線の放射強度が300keVで、線減弱係数は0.864であった場合、コンピュータ16の処理部25は、上述した式1を用いて、鉄皮3の減衰強度は、300×e(−0.864×2.22)=45[μSv/s]と算出できる。次に、その鉄皮3の減衰強度を、図5で示すように検出した放射線の減衰強度から減算する。このようにすることで、図5に示される鉄皮と耐火物厚みによる減衰強度から、鉄皮3の減衰強度が減算されたため、耐火物の減衰強度が算出される。
【0046】
次に、耐火物の減衰強度から、耐火物厚みを算出する(ステップ105)。
図6は、減衰強度と耐火物厚みの関係を示す図である。図示のように、予め実験により求めた減衰強度と耐火物厚みの関係を利用することで、検出された減衰強度から耐火物厚みを算出すことができる。したがって、ステップ104では、鉄皮減衰強度を減算した減衰強度から、図6に示した検量線に基づいて耐火物厚みを算出する。
【0047】
次に、ステップ105で算出した耐火物厚みを、照射位置表面温度と検出位置表面温度を用いて、照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出する(ステップ106)。この算出計算は、コンピユータ20が上記したように式7及び8を用いて算出する。そして、耐火物厚み測定の処理フローは終了する。
【0048】
下に示す表1は、図5に示した水平位置領域、a、b、c、d、eにおいて、上記処理フローによる計算の結果を示したものである。
【0049】
【表1】

【0050】
伝熱計算で求めた耐火物厚みb1、b2は、伝熱計算で分配した耐火物厚みL1、L2は、上記したように伝熱計算の計算精度上一致した値となっていない。しかしながら、伝熱計算で求めた耐火物厚みb1、b2を比率計算で利用することで、計算精度が向上した耐火物厚みL1、L2を算出可能となった。
【0051】
図7を用いて、耐火物厚み測定装置による耐火物厚み測定の処理フローの一例を説明する。最初に、放射線照射部11から放射線を管状の材料からなる円筒容器である焼結煙突1の鉄皮3の表面に照射し(ステップ201)、放射線検出部14は、管材料と管材料内側の耐火物とを通過した減衰放射線を検出する(ステップ202)。
【0052】
図8は、放射線照射位置と検出位置の関係を示す図である。ステップ201では、まず検出位置60aに対して180度の位置にある照射位置50aで放射線を放射する。
【0053】
再び図7に戻ると、放射線を照射する照射位置、又は、放射線を検出する検出位置を変更する(ステップ203)。これは、例えば、検出位置60aを固定したまま、図8に示す照射位置50aを半時計回りに、例えば、13.1度照射位置50bを変更することを示す。また、図8に示していないが、照射位置50aを固定したまま検出位置60aを変更したことも同様に行うことが可能である。
【0054】
次に、放射線照射部11から放射線を管状の材料からなる円筒容器である焼結煙突と同様な円筒容器焼結煙突1の鉄皮3の表面に照射し(ステップ204)、管材料と前記管材料内側の耐火物とを通過した減衰放射線を検出する(ステップ205)。
【0055】
図9に検出された減衰放射線の放射線強度を示すグラフである。(a)は、照射位置変更前の検出された放射線の減衰強度を示すグラフであり、(b)は、照射位置変更後の検出された放射線の減衰強度を示すグラフである。図(a)及び(b)のグラフの縦軸は、煙突高さ方向を示し、横軸は減衰強度である。352aで示した減衰強度波形は、他の波形と比較して大きな減衰強度を示すため、当該高さ及び位置において耐火物厚みが薄くなっていると考えられる。しかしながら、検出した放射線強度は、照射側の耐火物と検出側の耐火物によって減衰させられたものであるため、図(a)だけでは、照射位置、検出位置のどちらの耐火物厚みが薄いのか判別できない。
【0056】
そのため、図(b)に示すように、照射位置を変更して放射線強度を検出し、高さ基準の同じ352bの波形を碓認すると、放射線の減衰強度が滅少したことが分かる。そのため、照射位置を変更することで減衰強度が減少したため、照射位置50a耐火物厚みが薄くなっていることが判別可能となる。
【0057】
そして、図(a)及び(b)で示される検出した減衰放射線は、放射線検出部の記憶部31bに記憶される。そして、記憶部31bから図示されない記録媒体又は無線通信等を用いて、コンピュータ16の記憶部21に減衰放射線のデータを格納する。
【0058】
再び図7に戻ると、コンピュータ16の処理部は、格納した減衰放射線のデータに対してノイズ除去処理を行う(ステップ206)。この減衰放射線データは、垂直方向に標本化された信号から構成されるため、例えば、垂直方向1mm単位で標本化されたデータ値を平均化することでノイズ除去処理を実行する。
【0059】
図10(a)は、図9(a)及び(b)に示した減衰放射線をノイズ除去した減衰放射線を示す。図10(b)は、(a)に示した2つの減衰放射線を高さ方向を基準として重ね合わせた図を示す。ノイズ除去を行うことで明確になった減衰放射線によって、コンピュータ16を用いて図(a)及び(b)に示すデータの比較が実施可能になる。
【0060】
再び図7に戻ると、照射位置の異なる2つの減衰放射線の減衰強度を比校する(ステップ207)。図10の352cに示すピーク部分は、照射位置を変えることでなくなることが明確となる。そのため、照射位置50aの位置で減衰強度が小さくなる、つまり、耐火物の剥離等が生じていることが判明する。また、コンピュータ16の処理部25は、2つの減衰放射線の減衰強度の差分△Lを検出し、差分△Lがある閾値を超えることで、耐火物の剥離が生じる異常部を判断することが可能となる(ステップ208)。また、減衰強度ではなく透過放射線強度を用いた差分△Lでも評価可能である。
【0061】
また、放射線の減衰強度を多地点で検出しコンピュータ16の記憶部21に記憶させ、その検出した複数の減衰強度の平均値を平均耐火物厚みavLとし、差分値の変動が無く正常な状態の耐火句と判断される箇所の原みを平均耐火物厚みavLとすることで、差分値ΔLにより、平均耐火物厚みavLに差分値を加算又は漬算することで耐火物厚みを求めることも可能となる。
このようにして、耐火物厚み測定の処理フローは終了する。
【0062】
焼結煙突1を例にして述べが、本発明は、焼結煙突1への適用に限定されない。本発明は、例えぱ、高炉、内張り耐火物を有する配管材料、加熱炉など非破壊検査が必要な様々な円筒容器及び/又は管材料に広く適用可能である。また、耐火物を例にしで述べたが、断熟材、保温材など非破壊検査で検査が必要な様々な管材料に内張りとなる材料に広く適用可能である。
【0063】
また、以上説明した実施形態は典型例として挙げたに過ぎず、その各実施形態の構成要素を組み合わせること、その変形及びバリエーションは当業者にとって明らかであり、当業者であれば本発明の原理及び講求の範囲に記載した発明の範囲を逸脱することなく上述の実施形態の種々の変形を行えることは明らかである。
【符号の説明】
【0064】
1 焼結煙突
3 鉄皮
5 耐火物
10 測定装置
11 放射線照射部
14 放射線検出部
20 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を管材料に照射し、
前記管材料と前記管材料内側の耐火物とを通過した減衰放射線を検出し、
前記放射線を照射した前記管材料の表面の照射位置表面温度、及び、前記減衰放射線を検出した前記管材料の表面の検出位置表面温度を検出し、
前記検出した減衰放射線の減衰強度から前記管材料の減衰強度を取り除いて、前記耐火物の減衰強度を算出し、
前記耐火物の減衰強度から、前記耐火物厚みを算出し、
前記照射位置表面温度と前記検出位置表面温度を用いて、前記耐火物厚みから照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出することを特徴とする耐火物厚み測定方法。
【請求項2】
前記管材料の減衰強度は、前記超音波測定により検出された前記管材料の厚みに基づいて算出する請求項1に記載の耐火物厚み測定方法。
【請求項3】
前記放射線照射の照射位置と、前記減衰放射線の検出位置は、水平方向において同じ位置である請求項1又は2に記載の耐火物厚み測定方法。
【請求項4】
放射線を管材料に照射し、
前記管材料と前記管材料内側の耐火物とを通過した第1の減衰放射線を検出し、
前記放射線を照射する照射位置、又は、前記放射線を検出する検出位置を変化し、
放射線を管材料に照射し、
前記管材料と前記管材料内側の耐火物とを通過した第2の減衰放射線を検出し、
前記第1の減衰放射線の透過強度又は減衰強度と、前記第2の減衰放射線の透過強度又は減衰強度とを比較することで、耐火物厚みの異常部を判別することを特徴とする耐火物厚み測定方法。
【請求項5】
放射線を管材料に照射する放射線照射部と、
前記管材料と前記管材料内側の耐火物を通過して減衰した放射線を検出する放射線検出部と、
前記放射線を照射した前記管材料の表面の照射位置表面温度、及び、前記減衰放射線を検出した前記管材料の表面の検出位置表面温度を検出する温度検出部と、
前記減衰強度から前記管材料及び前記耐火物の厚みを算出し、前記算出された管材料及び耐火物の厚みから、管材料厚みを減算して耐火物厚みを算出し、前記照射位置表面温度と前記検出位置表面温度を用いて、前記耐火物厚みから照射側耐火物厚み及び検出側耐火物厚みを算出する演算処理部と、を有することを特徴とする耐火物厚み測定装置。
【請求項6】
前記管材料の減衰強度は、前記超音波測定により検出された前記管材料の厚みに基づいて算出する請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記放射線照射部と、前記放射線検出部は、水平方向において同じ位置である請求項5又は6に記載の耐火物厚み測定方法。
【請求項8】
放射線を管材料に照射する放射線照射部と、
前記管材料と前記管材料内側の耐火物とを通過した第1の減衰放射線を検出し、且つ、前記放射線を照射する前記管材料の表面を変化させ、又は、前記減衰放射線を検出する前記管材料の表面を変化させることで第2の減衰放射線を検出する放射線検出部と、
前記第1の減衰放射線の透過強度又は減衰強度と、前記第2の透過強度又は減衰放射線の減衰強度とを比較することで、耐火物厚みの異常部を判別する判別部を有することを特徴とする耐火物厚み測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−258115(P2009−258115A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141136(P2009−141136)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【分割の表示】特願2008−1349(P2008−1349)の分割
【原出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】