説明

耐火物組成物、不定形耐火物、定形耐火物

【課題】可使時間を長くすることできる耐火物組成物を提供する。
【解決手段】耐火骨材と、バインダー成分としてのフェノール樹脂と、フェノール樹脂の希釈剤としての溶剤と、フェノール樹脂の硬化剤としてのアセタール樹脂とを含有する。アセタール樹脂は高温加熱で分解してホルムアルデヒドを放出し、フェノール樹脂をゲル化させるものであり、耐火物組成物を保管する温度では分解せずフェノール樹脂をゲル化させることはなく、経時変化による粘度上昇を抑制することができる。このため、アセタール樹脂をフェノール樹脂の硬化剤として用いることによって、耐火物組成物の可使時間を長くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、混銑車、転炉、取鍋、溶融還元炉等の溶融金属容器の内張り、連続鋳造設備に具備されるノズル、浸漬ノズル、ロングノズル、スライディングノズル、ストッパー等の定形耐火物や、出銑口充填材、目地材等の不定形耐火物などに使用される耐火物組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような定形耐火物や不定形耐火物の用途に用いられる耐火物組成物は、耐火骨材にバインダー成分としてフェノール樹脂を配合し、これを混練することによって調製されるのが一般的であり、この耐火物組成物を成形した後に熱処理することによって定形耐火物を、あるいは成形せずに熱処理することによって不定形耐火物を得ることができる(例えば特許文献1、特許文献2等参照)。
【0003】
上記の耐火物組成物において、バインダー成分のフェノール樹脂としては、一般的にノボラック型フェノール樹脂が用いられる。そしてノボラック型フェノール樹脂を150〜200℃程度の温度域で硬化させて不融化させ、定形あるいは不定形の耐火物を得るために、硬化剤を配合する必要があり、この硬化剤としてはヘキサメチレンテトラミンが使用されている。ヘキサメチレンテトラミンは、安価であるうえに、耐火物の固定炭素量を向上することができるために、有利に使用することができるのである。
【0004】
しかし、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンは低温でも反応し易く、特に液状で混合した場合にはこの傾向は顕著であり、耐火物組成物の粘度上昇を起こし易い。このため、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンが反応して粘度上昇を起こすと、耐火物組成物は経時変化で使用時に硬くなっている。また耐火物組成物を輸出して海外で使用されることもあり、このときには耐火物組成物を調製した後、使用されるまでの期間が長くなり、特に赤道を通過して輸送される場合には温度の作用でさらに反応が進行し、耐火物組成物はより硬くなっていることが多い。
【0005】
そしてこのように耐火物組成物の粘度が上昇して硬くなっていると、成形して定形耐火物を製造する際に、所定の圧力で成形しても成形体の密度が小さくなって、所定の密度の定形耐火物を得ることができないという問題があった。また不定形耐火物の場合においても、例えば高炉の出銑口に耐火物組成物を充填して塞ぐ出銑口充填材として使用する場合、耐火物組成物の粘度が高く硬くなっていると、出銑口の奥にまで十分に押し込んで充填することができなくなるという問題があった。このように、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを用いる耐火物組成物は、経時変化で粘度が高くなり、可使時間が短いという問題を有するものである。
【0006】
またノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンは反応性が高く、例えば出銑口充填材に使用する場合のように200℃以上に加熱されるときには、ノボラック型フェノール樹脂100質量部にヘキサメチレンテトラミンを0.5〜3.5質量部程度配合するだけで、急激にゲル化させることができる。このことは逆に、ヘキサメチレンテトラミンは使用量に極めて敏感であるということを意味するものであり、ヘキサメチレンテトラミンは使用量を厳密に管理する必要があるという問題を有するものであった。
【0007】
一方、バインダーとして用いられるフェノール樹脂は、固形のものと液状のものがあり、固形のフェノール樹脂を用いる場合にはフェノール樹脂を溶剤に溶解して耐火骨材と混練する必要がある。また液状のフェノール樹脂の場合でも、フェノール樹脂の粘度を低下させるために、フェノール樹脂を溶剤で希釈して耐火骨材と混練する必要がある。この溶剤としては、エチレングリコールやプロピレングリコールなどを用いるのが一般的であるが、耐火物組成物を成形した後に加熱して定形耐火物を製造する際や、出銑口などに耐火物組成物を充填して、高温の銑鉄の作用で加熱されることによって不定形耐火物として使用する際に、耐火物組成物中の溶剤はこの加熱で蒸発して除去される。
【0008】
しかし、耐火物組成物に含有される溶剤は、上記の加熱の温度が溶剤の沸点に達した際に蒸発されるものであり、短時間で急激に蒸発されることになる。そしてこのように溶剤が急激に蒸発すると、定形耐火物や不定形耐火物の組織が崩されて気孔率が高くなり、緻密な耐火物を得ることができないという問題を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−169773号公報
【特許文献2】特開2003−89571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、可使時間を長くすることができる耐火物組成物を提供することを目的とするものであり、さらに緻密な耐火物を得ることができる耐火物組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る耐火物組成物は、耐火骨材と、バインダー成分としてのフェノール樹脂と、フェノール樹脂の希釈剤としての溶剤と、フェノール樹脂の硬化剤としてのアセタール樹脂とを含有して成ることを特徴とするものである。
【0012】
アセタール樹脂は高温加熱で分解してホルムアルデヒドを放出し、フェノール樹脂をゲル化させまた硬化させるものであり、耐火物組成物を保管する温度では分解せずフェノール樹脂をゲル化させることはなく、経時変化による粘度上昇を抑制することができるものである。このため、アセタール樹脂をフェノール樹脂の硬化剤として用いることによって、耐火物組成物の可使時間を長くすることができるものである。
【0013】
また本発明において、上記の溶剤は、沸点が異なる2種以上の混合溶剤であることを特徴とするものである。
【0014】
混合溶剤中の沸点が異なる2種以上の溶剤は、加熱温度が各溶剤の沸点に達する順に蒸発するものであり、耐火物組成物を加熱する際に溶剤が急激に蒸発することを防ぐことができ、緻密な耐火物を得ることができるものである。
【0015】
また本発明において、アセタール樹脂の含有量は、フェノール樹脂100質量部に対して0.1〜30質量部であることを特徴とするものである。
【0016】
アセタール樹脂の含有量をこの範囲に設定することによって、ゲル化や硬化の反応が不十分になることなく、耐火物組成物の可使時間を長くすることができるものである。
【0017】
また本発明は、アセタール樹脂の分解促進剤を含有することを特徴とするものである。
【0018】
このように分解促進剤を含有することによって、耐火物組成物を使用する際の加熱によってアセタール樹脂の分解を促進し、フェノール樹脂の硬化を促進することができるものであり、硬化性を高めることができるものである。
【0019】
また本発明は、フェノール樹脂の硬化剤として、アセタール樹脂の他にヘキサメチレンテトラミンを含有することを特徴とするものである。
【0020】
このようにヘキサメチレンテトラミンを併用することによって、アセタール樹脂の分解温度以下の温度でもフェノール樹脂を硬化させることができ、耐火物組成物の硬化性を高めることができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アセタール樹脂はフェノール樹脂と急激に反応してゲル化させることがなく、経時変化による粘度上昇を抑制することができるものであり、フェノール樹脂の硬化剤として配合することによって、耐火物組成物の可使時間を長くすることができるものである。
【0022】
そして、この耐火物組成物を用いることによって、緻密な定形耐火物や不定形耐火物を得ることができるものであり、また充填性の高い出銑口充填材として使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】TGAのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
本発明に係る耐火物組成物は、耐火骨材と、バインダー成分としてのフェノール樹脂と、フェノール樹脂の希釈剤としての溶剤と、フェノール樹脂の硬化剤としてのアセタール樹脂とを、主成分として含有して調製されるものである。
【0026】
本発明において上記の耐火骨材としては、通常耐火物の原料として使用されているものであれば、特に問題なく使用することができるものであり、粗粒から微粉まで任意の耐火原料を粒度配合して用いることができる。例えば、電融アルミナ、電融マグネシア等の電融品、焼結マグネシア等の焼結品、天然マグネシア、ボーキサイト、アンダリュサイト、シリマナイト等の天然原料の他、仮焼アルミナ、シリカフラワー等の超微粉原料などを使用することができる。また耐食性を向上させるために、溶融スラグとの濡れ性が悪い炭素質材料の粉末を耐火骨材として配合するのが好ましい。この炭素質材料としては天然黒鉛、人造黒鉛、ピッチ、コークス、カーボンブラック、キッシュ黒鉛、メソフェースカーボン、木炭など任意の炭素質のものを用いることができるが、できるだけ高純度のものを用いるのが好ましい。耐火骨材としてはさらに、Al,Mg,Ca,Siやこれらの合金の一種あるいは二種以上を配合して用いることもできる。さらに炭素質材料の酸化防止剤などとして各種の炭化物、硼化物、窒化物、例えばSiC,BC,BN,Si等を用いることもできる。
【0027】
また本発明において上記のフェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって調製したものを用いることができる。
【0028】
フェノール類はフェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであり、例えばフェノールの他にm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類を挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなども用いることができる。勿論、これらから一種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0029】
またアルデヒド類としては、水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものも用いることもでき、その他、ホルムアルデヒドの一部を2−フルアルデヒドやフルフリルアルコールに置き換えて使用することも可能である。
【0030】
上記のフェノール類とアルデヒド類の配合比率は、モル比で1:0.5〜1:3.5の範囲になるように設定するのが好ましい。また反応触媒としては、ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、あるいはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸などの有機酸、さらに酢酸亜鉛などを用いることができる。レゾール型フェノール樹脂を調製する場合は、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ、さらにジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミドなどの脂肪族の第一級、第二級、第三級アミン、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5−ナフタレンジアミンなどの芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミンなどや、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物を用いることもできる。
【0031】
フェノール樹脂として本発明では主としてノボラック型フェノール樹脂を用いるが、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂を併用してもよい。またシリコン変性、ゴム変性、硼素変性などの各種の変性フェノール樹脂を使用することもできるが、保存安定性の面や、耐火骨材が酸性(例えばケイ石)か塩基性(例えばMgO)を問わず使用可能な点などを考慮すると、ノボラック型フェノール樹脂が最も好ましい。
【0032】
また耐火骨材とフェノール樹脂との接着性を高めるために、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤を添加して使用することもできる。
【0033】
また本発明において上記の溶剤としては、フェノール樹脂を溶解するものであれば何でもよいが、沸点が150〜450℃と比較的高いものが好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレンリコール、テトラエチレングリコール、フルフラール、グリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン、n−デカノール、第二ウンデシルアルコール、第二テトラデシルアルコール、第二ヘプタデシルアルコール、ブチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタジオール、ヘキサンジオール−2,5、ヘプタンジオール−2,4、ジプロピレングリコール、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジエチルフタレート、ジヘプチルフタレート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0034】
これらの溶剤は、一種を単独で用いることができるが、複数種の溶剤を混合した混合溶剤として用いることもできる。混合溶剤を用いる場合、沸点が異なる複数種の溶剤を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0035】
本発明においてフェノール樹脂の硬化剤として用いられるアセタール樹脂は、オキシメチレン(−CHO−)を単位構造に持つ樹脂であり、ホルムアルデヒドの重合体である。アセタール樹脂としては、1000個以上のオシキメチレンが直鎖状に連結し側鎖のないホモポリマーと、ポリオキシメチレン主鎖中にオキシエチレン(−CHCHO−)を含むコポリマーとがあるが、いずれでも使用することができる。このアセタール樹脂としては、ポリプラスチックス社、旭化成社、三菱エンジニアリングプラスチックス社、デュポン社、BASFジャパン社、東レ社などから市販されているものを用いることができる。
【0036】
このアセタール樹脂に、アセタール樹脂の分解を促進する分解促進剤を併用することもできる。分解促進剤としては、塩化亜鉛、ベンジルメチル−P−ヒドロキシフェニルスルホニウム−ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアンチモネートなどや、キシレンスルホン酸等の有機酸、リン酸等の無機酸を用いることができる。
【0037】
そして上記の耐火骨材に、フェノール樹脂、溶剤、アセタール樹脂、さらに必要に応じて分解促進剤など他の材料を配合し、これを混練することによって、本発明の耐火物組成物を調製することができるものである。ここで、混練の手順は特に限定されるものではないが、例えば、溶剤にフェノール樹脂を予め溶解したフェノール樹脂液を耐火骨材に配合し、これにさらにアセタール樹脂などを配合して、室温あるいは加温下で混練することによって、耐火物組成物を調製することができる。
【0038】
耐火物組成物の各成分の配合量は、特に限定されるものではないが、耐火骨材100質量部に対してフェノール樹脂を1〜30質量部の範囲に設定するのが好ましい。また溶剤の配合量は、フェノール樹脂100質量部に対して、1〜80質量部の範囲が好ましい。
【0039】
さらにアセタール樹脂の配合量は、フェノール樹脂100質量部に対して0.1〜30質量部の範囲が好ましい。フェノール樹脂100質量部に対してアセタール樹脂の配合量が1質量部未満であると、アセタール樹脂によってフェノール樹脂を十分に硬化させることが難しくなる。逆にフェノール樹脂100質量部に対してアセタール樹脂の配合量が30質量部を超えると、耐火物組成物の可使時間は変らないが、配合量が過剰になって固定炭素量が少なくなる。また分解促進剤の配合量は、アセタール樹脂100質量部に対して、1〜40質量部の範囲が好ましい。
【0040】
上記のように調製される本発明の耐火物組成物は、フェノール樹脂の硬化剤としてアセタール樹脂を配合した点に特徴を有するものである。アセタール樹脂は100℃以上に加熱されると解重合が起こり、ホルムアルデヒド(HCHO)が放出され始め、さらに加熱されると270℃で熱分解が起こり、主鎖が解裂されて大量のホルムアルデヒドが供給される。そしてこのホルムアルデヒドがフェノール樹脂を架橋反応させることによってゲル化させ、フェノール樹脂を硬化させることができるものである。
【0041】
このようにアセタール樹脂は100℃以上の高温の作用で分解してホルムアルデヒドを放出し、ホルムアルデヒドの作用でフェノール樹脂をゲル化させるものであり、耐火物組成物を保管する室温や室温より多少高い程度の温度ではアセタール樹脂はホルムアルデヒドを放出せず、フェノール樹脂をゲル化させることがない。従って、フェノール樹脂の硬化剤としてアセタール樹脂を耐火物組成物に配合して用いることによって、耐火物組成物中のフェノール樹脂が通常の保管状態で高分子化するようなことがなくなり、経時変化による粘度上昇を抑制することができるものであり、耐火物組成物の可使時間を長くすることができるものである。
【0042】
このため、耐火物組成物を1ヶ月程度放置した後であっても、耐火物組成物は粘度上昇が極めて小さく、硬くならずに流動性が高い。従って、耐火物組成物を成形してレンガやノズル等の定形耐火物を製造するにあたって、所定の圧力で成形することによって密度の高い成形体を得ることができ、これを加熱することによって所定の高い密度の定形耐火物を製造することができるものである。また不定形耐火物の場合においても、例えば高炉の出銑口に耐火物組成物を充填して塞ぐ出銑口充填材として使用する場合、耐火物組成物の粘度が低く流動性が高いので、出銑口の奥にまで十分に押し込んで充填することができるものである。
【0043】
このとき、上記のようにアセタール樹脂の分解促進剤を配合しておくことによって、アセタール樹脂を100℃以上の温度で加熱すると分解促進剤の作用で、アセタール樹脂の主鎖中のエーテル結合(−C−O−C−)が切れ易くなり、定形耐火物や不定形耐火物を調製する際の、アセタール樹脂によるフェノール樹脂の硬化作用を促進することができるものである。尚、分解促進剤は、耐火物組成物を保管する温度ではアセタール樹脂を分解させることはないので、耐火物組成物の可使時間を長くする効果に悪影響を与えることは少ない。
【0044】
またアセタール樹脂の分解温度以下の温度の加熱で、フェノール樹脂をゲル化して硬化させたい場合には、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを併用して、耐火物組成物に配合するようにしてもよい。アセタール樹脂にヘキサメチレンテトラミンを併用する場合、アセタール樹脂とヘキサメチレンテトラミンの配合比率は、アセタール樹脂100質量部に対してヘキサメチレンテトラミン1〜200質量部の範囲に設定するのが好ましい。
【0045】
また、上記のように耐火物組成物には溶剤が含有されており、不定形耐火物や定形耐火物を調製する際の加熱で溶剤は蒸発する。そして上記したように、加熱の温度が溶剤の沸点に達した際に溶剤が短時間で急激に蒸発すると、定形耐火物や不定形耐火物の組織が崩されて気孔率が高くなり、緻密な耐火物を得ることができない。
【0046】
そこでこの場合には、沸点が異なる複数種の溶剤を組み合わせた混合溶剤を用いるのが好ましい。このように沸点が異なる複数種の溶剤からなる混合溶剤を用いると、不定形耐火物や定形耐火物を調製するために加熱する際に、加熱温度の上昇に従って、沸点の低い溶剤から順に蒸発し、溶剤が短時間で急激に蒸発することを防ぐことができる。このため、溶剤が蒸発する際に定形耐火物や不定形耐火物の組織が崩されるようなことがなくなり、緻密な耐火物を得ることができるものである。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
(ノボラック型フェノール樹脂の製造例1)
反応容器にフェノール樹脂940質量部、37質量%ホルマリン568質量部、シュウ酸3.76質量部を仕込み、攪拌しながら約1時間を要して還流させ、還流温度で3時間反応させた。次に脱水させながら加熱を内温が170℃になるまで行なった。さらに減圧をしながら40hPa(30トール)で内温が200℃になるまで脱液を行なった後、反応容器の内容物をステンレス製バットの上に払い出した。このようにして得られたノボラック型フェノール樹脂の軟化点は78℃であった。
【0049】
(試験例1)
上記の製造例1で得たノボラック型フェノール樹脂70質量部に、エチレングリコール(沸点197.6℃)とジエチレングリコール(沸点244.3℃)とトリエチレングリコール(沸点287.4℃)を等量ずつ混合した混合溶剤30質量部を加えて良く混合し、フェノール樹脂溶液を得た。このフェノール樹脂溶液の粘度(25℃)は49Pa・sであった。
【0050】
次に、このフェノール樹脂溶液100質量部に、アセタール樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「F30−01F」)の粒径840μm以下の粉末を4質量部加え、良く混合することによって、試験組成物を得た。
【0051】
そしてこの試験組成物について、(株)島津製作所製示差熱・熱重量同時測定装置「DTG−60/60H」を用い、測定雰囲気を空気気流中、昇温速度を10℃/分の条件に設定して、常温から400℃まで、熱重量分析(TGA)の測定を行なった。結果を図1に太破線で示す。
【0052】
(比較試験例1)
上記の試験例1において、アセタール樹脂の代わりにヘキサメチレンテトラミンを用いるようにした他は試験例1と同様にして、比較試験組成物を得た。そしてこの比較試験組成物について、上記と同様にして熱重量分析の測定を行なった。結果を図1に太実線で示す。
【0053】
(試験例2)
上記の製造例1で得たノボラック型フェノール樹脂70質量部に、エチレングリコール(沸点197.6℃)30質量部を加えて良く混合し、フェノール樹脂溶液を得た。このフェノール樹脂溶液の粘度(25℃)は8.5Pa・sであった。
【0054】
次に、このフェノール樹脂溶液100質量部に、試験例1で用いたアセタール樹脂の粉末を4質量部加え、良く混合することによって、試験組成物を得た。
【0055】
そしてこの試験組成物について、上記と同様にして熱重量分析の測定を行なった。結果を図1に細破線で示す。
【0056】
(比較試験例2)
上記の試験例2において、アセタール樹脂の代わりにヘキサメチレンテトラミンを用いるようにした他は試験例2と同様にして、比較試験組成物を得た。そしてこの比較試験組成物について、上記と同様にして熱重量分析の測定を行なった。結果を図1に細実線で示す。
【0057】
図1の試験例1と比較試験例1、試験例2と比較試験例2の比較にみられるように、硬化剤としてアセタール樹脂を用いた試験例1や試験例2は、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを用いた比較試験例1や比較試験例2よりも、重量減少が大きくなっている。すなわち、硬化剤としてアセタール樹脂を用いることによって、硬化の進行が遅いため、加熱による重量減少が大きくなるものであり、このことは、硬化剤としてアセタール樹脂を用いることによって可使時間が長くなることを意味する。
【0058】
また図1の試験例1と試験例2、比較試験例1と比較試験例2の比較にみられるように、溶剤として沸点の異なる3種の混合溶剤を用いた試験例1は、単独の溶剤を用いた試験例2よりも、重量減少が小さくなっており、また同様に比較試験例1は比較試験例2よりも重量減少が小さくなっている。このことは、沸点の異なる溶剤の混合溶剤を用いることによって、溶剤が短時間で急激に蒸発することを防ぐことができることを意味する。
【0059】
(試験例3〜6)
上記の試験例1で得たフェノール樹脂溶液100質量部に、試験例1で用いたアセタール樹脂の粉末を表1の配合量で加え、良く混合することによって、試験組成物を得た。
【0060】
この試験組成物について、300℃におけるゲル化時間と、800℃での固定炭素量を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
ここで、試験管に試験組成物を約5g秤量して入れ、予め300℃にセットした送風式乾燥器にこの試験管を入れて加熱し、試験管を90°倒しても試験組成物が流れなくなったときの時間を、ゲル化時間とした。また固定炭素量の測定は、JIS K6910に準拠して行なった。
【0062】
(比較試験例3〜7)
上記の試験例1で得たフェノール樹脂溶液100質量部に、ヘキサメチレンテトラミンを表1の配合量で加え、良く混合することによって、比較試験組成物を得た。この比較試験組成物について、300℃におけるゲル化時間と、800℃での固定炭素量を測定し、結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1にみられるように、硬化剤としてアセタール樹脂を用いた試験例3〜6では、硬化剤の使用量が3.4質量部から4.5質量部に増加することによって、ゲル化時間は190分から70分になっており、つまり硬化剤1.1質量部の増加でゲル化時間は120分短縮している。これに対して硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを用いた比較試験例3〜7では、硬化剤の使用量が1.6質量部から2.5質量部に増加することによって、ゲル化時間は235分から15分になっており、つまり硬化剤0.9質量部の増加でゲル化時間は220分短縮している。このように、ヘキサメチレンテトラミンはその配合量の増減に対してゲル化時間が敏感に変化し、ヘキサメチレンテトラミンは使用量を厳密に管理する必要があるが、アセタール樹脂はその配合量の増減に対してゲル化時間の変化は鈍感であり、ヘキサメチレンテトラミンに比べてアセタール樹脂は配合量を厳密に管理する必要がないことが確認される。尚、硬化剤としてアセタール樹脂を用いた試験例3〜6も、ヘキサメチレンテトラミンを用いた比較試験例3〜7も、同様に配合量の増加と共に固定炭素量は増大するものであった。
【0065】
(試験例7)
試験例4で得た試験組成物に、アセタール樹脂の分解促進剤として、塩化亜鉛を全量に対して1質量%加えて、試験組成物を得た。
【0066】
(試験例8)
試験例4で得た試験組成物に、アセタール樹脂の分解促進剤として、キシレンスルホン酸を全量に対して1質量%加えて、試験組成物を得た。
【0067】
試験例7〜8で得た試験組成物について、300℃におけるゲル化時間と、800℃での固定炭素量を測定し、結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表1の試験例4と比較して明らかなように、分解促進剤を加えることによって、ゲル化時間が短くなっており、硬化時間を短縮できることが確認される。
【0070】
(実施例1)
上記の「ノボラック型フェノール樹脂の製造例1」で得たノボラック型フェノール樹脂に、上記の試験例1と同様にエチレングリコールとジエチレングリコールとトリエチレングリコールを加えて混合し、フェノール樹脂溶液Aを得た。
【0071】
そして耐火骨材として電融アルミナ70質量部、純度98%の天然黒鉛30質量部を用い、これらをミキサーに投入し、さらにフェノール樹脂溶液Aを8質量部、硬化剤としてアセタール樹脂を0.6質量部加え、20分間混練することによって、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0072】
(実施例2)
硬化剤としてアセタール樹脂0.3質量部とヘキサメチレンテトラミン0.3質量部を用いるようにした他は、実施例1と同様にして、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0073】
(実施例3)
上記の「ノボラック型フェノール樹脂の製造例1」で得たノボラック型フェノール樹脂に、上記の試験例2と同様にエチレングリコールを加えて混合し、フェノール樹脂溶液Bを得た。
【0074】
そして耐火骨材として電融アルミナ70質量部、純度98%の天然黒鉛30質量部を用い、これらをミキサーに投入し、さらにフェノール樹脂溶液Bを8質量部、硬化剤としてアセタール樹脂を0.6質量部加え、20分間混練することによって、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0075】
(実施例4)
硬化剤としてアセタール樹脂を0.3質量部とヘキサメチレンテトラミン0.3質量部を用いるようにした他は、実施例3と同様にして、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0076】
(実施例5)
実施例1において、さらに分解促進剤として塩化亜鉛を0.2質量部加えるようにした他は、実施例1と同様にして、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0077】
(比較例1)
硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン0.6質量部を用いるようにした他は、実施例1と同様にして、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0078】
(比較例2)
硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン0.6質量部を用いるようにした他は、実施例3と同様にして、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0079】
上記のように実施例1〜5及び比較例1〜2で得た耐火物組成物を内径45mmの成形型に250g入れ、油圧プレスを用いて98MPaの圧力で成形することによって、成形物を得た。次にこの成形物を250℃に加熱した熱風循環式乾燥器に入れて10時間熱処理することによって、成形物のフェノール樹脂が硬化した成形耐火物を得た。
【0080】
このようにして得た成形耐火物について、かさ比重、揮発分、圧縮強さ、外観を測定した。かさ比重の測定はJIS R2001に準拠して、圧縮強さの測定はJIS R2206に準拠して、それぞれ行なった。
【0081】
揮発分は、熱処理を行なう前と、熱処理を行なった後の質量を測定し、次の式から求めた。
【0082】
[100−(熱処理後の質量(g)/熱処理前の質量(g))×100](%)
外観の測定は目視観察で行ない、フクレや亀裂の発生がないものを「◎」、数箇所のフクレがあるが、亀裂がないものを「○」、フクレが無数にあり、亀裂もあるものを「×」と判定した。
【0083】
一方、上記のように得た成形物を耐熱箱に入れた後、これをコークスで被覆し、電気炉((株)シリコニット製「シリコニット電気炉 型式BSH−1530」)内にセットした。そして10℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、さらにこの温度で3時間保持した後に降温する条件で焼成処理することによって、焼成耐火物を得た。
【0084】
このようにして得た焼成耐火物についても、かさ比重、揮発分、圧縮強さ、外観を測定した。
【0085】
【表3】

【0086】
表3にみられるように、各実施例のものは、かさ比重が高く、揮発分が少なく、フクレや亀裂の発生が抑制されており、圧縮強さが高いものであり、緻密な耐火物が得られるものであった。
【0087】
(実施例6〜9、比較例3〜4)
電融アルミナ44質量部、コークス12質量部、炭化珪素19質量部、窒化珪素25質量部の組成の耐火骨材100質量部に、表4の配合量で、フェノール樹脂溶解液A,B、硬化剤(アセタール樹脂、ヘキサメチレンテトラミン)を加え、シンプソンミキサーで30分間混練することによって、湿潤状態の耐火物組成物を得た。
【0088】
この耐火物組成物について、出銑口充填材などの充填材としての性能を評価するために、内径75mm、長さ300mmの一方を閉塞したパイプに耐火物組成物を充填し、これを600℃の炉に入れて30分間熱処理した。そしてこの熱処理をした焼成耐火物を取り出して冷却した後、長手方向に切断して2分割し、焼成耐火物の組織を目視観察した。
【0089】
また、炉内温度1200℃においても同様な熱処理を行ない、同様に焼成耐火物の組織を目視観察した。
【0090】
さらに上記のように熱処理して焼成した耐火物から縦横各30mm、高さ50mmの試験片を切り出し、圧縮強さ及び気孔率を測定した。
【0091】
また、耐火物組成物の経時変化を調べるために、いずれも湿潤状態で圧縮強度がほぼ等しい実施例6〜9及び比較例3〜4の耐火物組成物をポリ袋に入れて80℃の乾燥器に入れ、そのまま24時間熱養生を行ない、圧縮強さを測定した。
【0092】
【表4】

【0093】
表4にみられるように、各実施例のものは、熱処理した焼成耐火物に亀裂は発生せず、組織も良好であり、圧縮強さが高く、気孔率が小さいものであって、緻密な耐火物が得られるものであった。また経時変化の結果にみられるように、各実施例のものは硬化の進行が急速ではなく、可使時間を長くすることができるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材と、バインダー成分としてのフェノール樹脂と、フェノール樹脂の希釈剤としての溶剤と、フェノール樹脂の硬化剤としてのアセタール樹脂とを含有して成ることを特徴とする耐火物組成物。
【請求項2】
上記の溶剤は、沸点が異なる2種以上の混合溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の耐火物組成物。
【請求項3】
アセタール樹脂の含有量は、フェノール樹脂100質量部に対して0.1〜30質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火物組成物。
【請求項4】
アセタール樹脂の分解促進剤を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐火物組成物。
【請求項5】
フェノール樹脂の硬化剤として、アセタール樹脂の他にヘキサメチレンテトラミンを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐火物組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の耐火物組成物からなる不定形耐火物。
【請求項7】
出銑口充填材として用いられることを特徴とする請求項6に記載の不定形耐火物。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の耐火物組成物からなる定形耐火物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254497(P2010−254497A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104405(P2009−104405)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000115658)リグナイト株式会社 (34)
【Fターム(参考)】