説明

耐熱光ファイバおよびその製造方法

【課題】極めて耐熱性に優れた耐熱光ファイバを提供する。
【解決手段】コア(1a)およびクラッド(1d)から成る石英またはガラス製の光ファイバ(1)の外周面に、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液からゾル−ゲル法により合成したシリカミクロ多孔体溶液を塗布し、焼付けして、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成する。次いで、有機金属液または有機金属ペーストをシリカミクロ多孔体膜(2)の外周に塗布し、焼き付けして、金属被膜(3)を形成し、耐熱光ファイバ(100)を製造する。
【効果】極めて高い耐熱性が得られ、火山のマグマ付近岩盤などの高温環境下でも使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱光ファイバおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐熱性に極めて優れた耐熱光ファイバおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コアおよびクラッドから成る光ファイバの外周面にポリイミド樹脂被覆を形成し、そのポリイミド樹脂被覆の外周面に金属被覆を形成した耐熱光ファイバが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、光ファイバの外周面にディッピング法や無電解メッキ法により金属被覆を形成する耐熱光ファイバの製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】実開平6−82608号公報
【特許文献2】特許第2567951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の耐熱光ファイバでは、コアおよびクラッドから成る光ファイバの曲げ強度をポリイミド樹脂被覆によって向上すると共に、そのポリイミド樹脂被覆の外周面に金属被覆またはカーボン被覆を形成することによって耐熱性を向上させている。
しかし、例えば火山のマグマ付近岩盤などに多数の光ファイバコイルを設置し、それらの光ファイバコイルにより振動,温度等を測定する用途では、さらに高い耐熱性が求められる。
また、光ファイバの外周面にディッピング法で金属被覆を形成する方法では、溶融金属が固化する際の応力で光ファイバの特性が劣化する問題点がある。また、光ファイバの外周面に無電解メッキ法で金属被覆を形成する方法では、成膜速度が非常に遅いため、生産性が上がらない問題点がある。
そこで、本発明の目的は、耐熱性に極めて優れた耐熱光ファイバおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、コア(1a)およびクラッド(1d)から成る光ファイバ(1)と、前記光ファイバ(1)の外周面に形成した珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)と、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の外周面に形成した金属被膜(3)とを具備したことを特徴とする耐熱光ファイバ(100)を提供する。
上記第1の観点による耐熱光ファイバ(100)では、シリカミクロ多孔体膜(2)のミクロ孔が緩衝作用を有し、クラッド(1d)に多数存在するマイクロクラックが光ファイバ(1)を曲げたときに成長して折れやすくなるのを緩衝・抑制する。このため、ポリイミド樹脂被覆を含まないが、曲げ強度を向上できる。そして、シリカミクロ多孔体膜(2)は、珪素を主成分とするため、光ファイバ(1)自身と同様の高い耐熱性を有する。さらに、金属被膜(3)は、周囲の雰囲気や外力から光ファイバ(1)およびシリカミクロ多孔体膜(2)を保護する。このため、耐熱性に極めて優れた耐熱光ファイバとなる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、コア(1a)およびクラッド(1d)から成る光ファイバ(1)の外周面に、シリカミクロ多孔体溶液を塗布し焼付けして、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成し、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の外周面に、有機金属液または有機金属ペーストの塗布焼付けにより、金属被膜(3)を形成することを特徴とする耐熱光ファイバの製造方法を提供する。
上記第2の観点による耐熱光ファイバの製造方法では、有機金属液または有機金属ペーストを塗布焼付けして金属被膜(3)を形成するため、ディッピング法のように光ファイバの特性が劣化する問題点がない。また、無電解メッキ法に比べて生産性が著しく高くなる。そして、前記第1の観点による耐熱光ファイバ(100)を連続的に高生産性で製造することが出来る。
【0007】
第3の観点では、本発明は、上記構成の耐熱光ファイバの製造方法において、前記有機金属液または有機金属ペーストは、金液、液状又はペースト状の上絵付用貴金属組成物、金レジネートペースト、銀メタロオーガニックペースト、パラジウム含有有機組成物ペーストのいずれかであることを特徴とする耐熱光ファイバの製造方法を提供する。
上記第3の観点による耐熱光ファイバの製造方法では、反射率の高い貴金属中の特に金,銀,白金またはパラジウムの金属薄膜を形成できるため、光ファイバからの漏光を防止でき、光の伝送損失を特に少なくすることが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐熱光ファイバによれば、シリカミクロ多孔体膜(2)のミクロ孔が緩衝作用を有するため、必要な曲げ強度が得られる。また、シリカミクロ多孔体膜(2)は、珪素を主成分とするため、極めて優れた耐熱性が得られる。また、金属被膜(3)は、周囲の雰囲気や外力から光ファイバ(1)およびシリカミクロ多孔体膜(2)を保護する。
さらに、本発明の耐熱光ファイバの製造方法によれば、本発明の耐熱光ファイバを連続的に高生産性で製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1に係る耐熱光ファイバ100を示す断面図である。
この耐熱光ファイバ100は、コア1aおよびクラッド1dから成る石英またはガラス製の光ファイバ1の外周面に、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜2を形成し、そのシリカミクロ多孔体膜2の外周面に、金,銀,白金,パラジウム,ロジウム,クロム,ビスマス,トリウム等またはその合金の金属被膜3を形成した構成である。
【0011】
数値例を示すと、コア1aの直径は10μm、クラッド1dの直径は125μmである。
【0012】
シリカミクロ多孔体膜2は、厚さ約500nm(=0.5μm)であり、外周面に孔径2nm以下のミクロ孔を多数有している。
【0013】
なお、シリカミクロ多孔体膜2を厚くすると、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜2にクラックが発生することがあるので、シリカミクロ多孔体膜2の厚さを1μm以下とし、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜2にクラックが発生することを防止するのが好ましい。
【0014】
金属被膜3は、厚さ20μm以下である。金属薄膜3の組成中の50%以上が金属成分である。
【0015】
実施例1の耐熱光ファイバ100によれば、光ファイバの強度劣化の原因であるクラッド1dに多数存在するマイクロクラックの成長をシリカミクロ多孔体膜2が抑制するので、強度劣化を防止できる。また、シリカミクロ多孔体膜2のミクロ孔が緩衝作用を有するので、光ファイバ1の曲げ強度を向上できる。そして、シリカミクロ多孔体膜2は、珪素を主成分とするため、高い耐熱性を有する。さらに、シリカミクロ多孔体膜2はミクロ孔を有するため、金属被膜3が強固に付着する。この金属被膜3は、周囲の雰囲気や外力から光ファイバ1およびシリカミクロ多孔体膜2を保護する。このため、耐熱性および強度に極めて優れた耐熱光ファイバとなる。
【0016】
図2は、耐熱光ファイバ100の製造過程を示す説明図である。
加熱炉Rのプリフォーム10から引き出した光ファイバ1に、シリカミクロ多孔体溶液塗布部SCでシリカミクロ多孔体溶液を塗布し、焼付け部SRで焼き付けて、シリカミクロ多孔体膜2を形成する。
【0017】
図3は、ゾル−ゲル法によるシリカミクロ多孔体溶液の合成処理を示すフロー図である。
ステップS1では、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液を調製する。
なお、シリコンアルコキシドは、例えばTMOS(テトラメトキシシラン)やTEOS(テトラエチルオルソシリケート)等である。
また、加水分解反応を促進する活性アルコールは、例えばヒドロキシアセトン、1−ペンテン−3−オール、アセトンシアノヒドリン等である。
また、アルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等である。
【0018】
ステップS2では、混合液を攪拌する。
ステップS3では、混合液に塩触媒を添加する。
ステップS4では、混合液を攪拌する。
以上により、シリカミクロ多孔体溶液を合成できる。
なお、上記シリカミクロ多孔体溶液の合成方法は、「化学工学会 第34回秋季大会、2001」で発表されている。また、特願2003−83915号に記載されている。
【0019】
図2に戻り、有機金属塗布部OCで有機金属液または有機金属ペーストをシリカミクロ多孔体膜2の外周に塗布し、焼付け部ORで焼き付けて、金属被膜3を形成し、耐熱光ファイバ100を製造する。
【0020】
有機金属液または有機金属ペーストは、金液,液状またはペースト状の上絵付用貴金属組成物,金レジネートペースト,Agメタロオーガニックペースト,パラジウム含有有機組成物ペースト等である。
【0021】
金液は、例えば日本金液株式会社(愛知県春日井市)から上絵付用金液として市販されている。
また、液状またはペースト状の上絵付用貴金属組成物は、例えば特公平7−6067号公報に記載されている。
また、金レジネートペーストは、例えば特許第3203672号公報に記載されている。
また、Agメタロオーガニックペーストは、例えば特開平10−204297号公報に記載されている。
また、パラジウム含有有機組成物ペーストは、例えば特許第3232057号公報に記載されている。
【0022】
一つの具体例を挙げると、有機金属塗布部OCで株式会社日本金液製の金液HY−1991(商品名)を塗布し、焼付け部ORで150℃で5分間乾燥させると共に600℃で5分間焼成することにより、0.1μm厚の金合金薄膜3(金90%以上で、ロジウム,クロム,ビスマス,トリウム等を含む)を形成する。
【0023】
図2の製造方法によれば、ディッピング法のように光ファイバの特性が劣化する問題点がない。また、無電解メッキ法に比べて生産性を著しく向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の耐熱光ファイバは、火山のマグマ付近岩盤などの高温環境下で振動等を検知する光ファイバコイルとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1に係る耐熱光ファイバを示す断面図である。
【図2】実施例1に係る耐熱光ファイバの製造過程を示す説明図である。
【図3】ゾル−ゲル法によるシリカミクロ多孔体溶液の合成処理を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0026】
1 光ファイバ
1a コア
1d クラッド
2 シリカミクロ多孔体膜
3 金属被膜
10 プリフォーム
100 耐熱光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア(1a)およびクラッド(1d)から成る光ファイバ(1)と、前記光ファイバ(1)の外周面に形成した珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)と、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の外周面に形成した金属被膜(3)とを具備したことを特徴とする耐熱光ファイバ(100)。
【請求項2】
コア(1a)およびクラッド(1d)から成る光ファイバ(1)の外周面に、シリカミクロ多孔体溶液を塗布し焼付けして、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成し、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の外周面に、有機金属液または有機金属ペーストの塗布焼付けにより、金属被膜(3)を形成することを特徴とする耐熱光ファイバの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の耐熱光ファイバの製造方法において、前記有機金属液または有機金属ペーストは、金液、液状又はペースト状の上絵付用貴金属組成物、金レジネートペースト、銀メタロオーガニックペースト、パラジウム含有有機組成物ペーストのいずれかであることを特徴とする耐熱光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−64792(P2006−64792A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244578(P2004−244578)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】