説明

耐熱性ポリマー成形用樹脂組成物及びその成形体

【課題】耐熱性に優れるポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂成形体に剥離性、金型離型性、金型耐汚染性を付与させる成形用樹脂組成物及びその各種成形方法による表面改質成形体を提供することである。
【解決手段】変性樹脂を含有する成形用樹脂組成物において、前記変性樹脂がポリイミド樹脂及び/又はポリベンゾイミダゾール樹脂(A)と一次変性剤(B−1)とを反応させて一次変性樹脂(C−1)を生成した後、エステル化変性剤(B−2)と反応させて得られるものであり、前記一次変性剤(B−1)がポリイミド樹脂及び/又はポリベンゾイミダゾール樹脂(A)のヘテロ環N部位にカルボキシル基を付与する変性剤であり、前記エステル化変性剤(B−2)が前記カルボキシル基と反応する数平均分子量が10〜10の範囲にあるフッ素系アルコール及び/またはシリコーン化合物である成形用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族系耐熱性ポリマー成形体の表面改質に関し、より詳細には、耐熱性に優れるポリイミド、ポリベンゾイミダゾール等の繰り返し単位構造として芳香環付きNヘテロ環鎖を有する芳香族系耐熱性ポリマー成形体の表面改質として、剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性なるポリマー特性を付与させる成形用樹脂組成物及びその樹脂組成物を用いて各種成形方法による芳香族系耐熱性ポリマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
市販のプラスチックスの中でも代表的な芳香族系耐熱性ポリマーであるポリイミド(PI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)は、優れた耐熱性を有し、また、温度に対する諸特性の変化が少なく、耐衝撃性、摺動性に優れ、寸法安定性、電気絶縁性、耐摩耗性に優れるプラスチックである。このような特徴、諸特性を活かして、絶縁、封止材料、プリント基板などの電気電子分野をはじめ、航空宇宙用のジェットエンジン部材、自動車用エンジン部材、ギヤボックス、電気系統部材、また、一般機械用部材として特に耐熱性、耐摩耗性を要すギヤ、軸受け、摺動部材に使用されている。また、近年は、液晶用の配向膜材料としても注目され、透明性を改善させたポリイミド系配向膜が開発されている。
【0003】
この耐熱性ポリマーは、芳香族環と、芳香環を付属共有するNヘテロ環を、ポリマーの繰り返し単位構造とする耐熱性芳香族系ポリマーであり、融点が他の樹脂に比べ著しく高い耐熱性に優れるポリマーである。しかしながら、ポリイミド(PI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)は高融点であるため加工温度が高く成形加工性が低いポリマーであることも事実である。
【0004】
そこで、従来から、このような芳香族系耐熱性ポリマーの諸特性をより改善又は改質させる提案が種々なされている。例えば、[特許文献1]には、ポリイミド樹脂(A)100重量部と、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体の幹ポリマー樹脂に対して、炭素数3〜10の不飽和カルボン酸、その酸無水物及びエステルから選ばれる少なくとも一種のカルボン酸モノマー及び/又は水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーをグラフト重合させた液状変性エチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B)0.1〜15重量部とからなるポリイミド系の成形用樹脂組成物が提案されている。摺動性、耐摩耗性、成形加工性に優れ、歯車、回転軸、軸受け等の用途の成形用樹脂組成物として、添加混練させる液状樹脂(B)が、混練下にポリイミド樹脂(A)に対して高い親和性を発揮し、その押出成形、射出成形、圧縮成形等の成形体には、金型離型性、金型耐汚染性に優れる加工性に優れたポリイミド系樹脂組成物が記載されている。このように、加工適性を向上させるために、改質樹脂をブレンドする方法が開示されている。
【0005】
また、[特許文献2]には、ファクシミリ、レーザービームプリンター、複写機等の電子写真画像装置の中間転写ベルトとして用いられるポリイミド管状成形体が提案されている。ポリイミド樹脂に、離型効果を発揮させるために、カーボンブラック及び酸化チタン、窒化ホウ素を添加することが記載されている。
【0006】
さらに、[特許文献3]には、ポリイミド樹脂組成物に半導電性の無機フィラーを配合して得られるポリイミド樹脂形成体が、絶縁性が良く、中抵抗値を示し、抵抗値の環境依存性、電圧依存性が少なく、表面粗さが小さく、機械特性に優れ、プリンター、複写機等の電子写真画像装置の転写ベルト等に最適であることが開示されている。
【0007】
そして、[特許文献4]には、側鎖にペルフルオロアルキル基を有する、液晶配向性やガラス板への密着性に優れるポリイミドが提案されている。この方法では、前駆体であるポリアミック酸にペルフルオロアルキル基を導入した後に、加熱して側鎖にペルフルオロアルキル基を有するポリイミドを得ている。
【0008】
[特許文献1]の他の樹脂をブレンドして改質する方法では、ポリイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂を十分に改質することはできず、離型性等の加工適性が十分でなかったり、逆に十分な離型性を与えると樹脂本来のポリマー特性を損なうおそれがあった。[特許文献2]及び[特許文献3]の添加剤により樹脂を改質する方法は、その添加剤と樹脂との親和性にやや難があり、工業的には均質な改質を行うこと難しく、その添加剤の混合の不均質さにより、剥離性、金型離型性、金型耐汚染性等の加工適性や、電気絶縁性、耐薬品性、耐溶剤性、機械特性等が満足できるものではなかった。[特許文献4]の前駆体を変性する方法では、工程が非常に煩雑になると共に、主鎖に不必要な有機基を導入することになり、耐熱性、耐薬品性や耐溶剤性の低下を引き起こし、加工適性も十分でない。
【0009】
【特許文献1】特開平11−71439号
【特許文献2】特開2004−075753号
【特許文献3】特開2003−306553号
【特許文献4】特開平9−87388号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、ポリイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂が有する優れた耐熱特性、耐薬品性、耐溶剤性及び機械特性等の諸特性を維持し、剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性等の加工適性に優れた変性ポリイミド樹脂組成物及び変性ポリベンゾイミダゾール樹脂組成物を提供することである。
【0011】
また、本発明による他の目的は、上記の変性ポリイミド樹脂組成物又は変性ポリベンゾイミダゾール樹脂組成物を用いて、押出成形、圧縮成形、溶融注型成形又は射出成形させて得られる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、無変性のポリイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂に対して、その「芳香環付きNヘテロ環鎖」部位に着目して、熱溶融下に無水マレイン酸と、この酸に反応すると思われるフッ素置換アルコールを加えて、十分に加熱混練させて得た流延性加熱樹脂物を、ステンレス板、アルミセラミック板及びガラス上のそれぞれに流下させて徐冷放置させた後、この流下付着物が容易に剥離されることを見い出して、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明によれば、繰り返し単位構造が芳香環付き窒素ヘテロ環鎖を主鎖構成とする芳香族系耐熱性ポリマーに、樹脂に対して直接反応させて化学的に変性させ、優れた剥離性、金型離形性、金型耐汚染性等の加工適性を有する変性芳香族系耐熱性ポリマーを含有する成形用樹脂組成物を提供する。
【0014】
すなわち、本発明が提供する「第1の成形用樹脂組成物」は、下記式(1)、(2)で表される繰り返し構造を有する芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)を変性させて得られる変性樹脂(D−1)を含有する成形用樹脂組成物である。
【化2】

但し、nは1以上の整数であり、R1,R2はHであり、繰り返し構造のうち一部がアルキル基で置換されていても良い。Xは4価の有機基、Yは2価の有機基であって、それぞれ、Xは下記より選ばれる基であり
【化3】

且つ、Yは2価のアリール基であるか、
もしくは、Xは下記4価の基であり
【化4】

且つ、Yは下記より選ばれる基である。
【化5】

【化6】

但し、nは1以上の整数であり、X’はフェニル基を除く4価のアリール基であり、且つ、Y’は2価のアリール基である、もしくは、X’は4価のフェニル基であり、且つ、Y’は下記より選ばれる基である。
【化7】

【0015】
また、前記変性化剤(B−1)は、ジカルボン酸無水物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明が提供する「第2の成形用樹脂組成物」は、変性樹脂(D−1)100重量部と、重合性二重結合に対して重合反応性を有する化合物10〜100重量部と、熱ラジカル発生剤(又は熱重合開始剤)0.1〜20重量部とを含有することを特徴とする成形用樹脂組成物である。
【0017】
さらに、上記する第1又は第2の成形用樹脂組成物を用いることで、加工適性に優れ、押出成形、圧縮成形、溶融注型成形又は射出成形され、優れた剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性を発揮することを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体を提供する。
【0018】
また、本発明によれば、未変性の芳香族ポリイミド系又は芳香族ベンゾイミダゾール系の耐熱芳香族ポリマー100重量部と、上記する第1又は第2の成形用樹脂組成物50〜150重量部とを混合させてなる混合樹脂組成物(E−1)である「第3の成形用樹脂組成物」を用いて、押出成形、圧縮成形、注型成形又は射出成形され、ポリマー特性として剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性を発揮することを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体を提供する。
【0019】
また、本発明によれば、前記一次変性樹脂(C−1)成分の100重量部と、前記フッ素系アルコール及び/またはシリコーン化合物の10〜200重量部と、重合性二重結合に対して重合反応性を有する化合物10〜100重量部とを、常温〜常温以下の温度下に混合させてなる混合樹脂組成物(E−2)である「第4の成形用樹脂組成物」を用いて押出成形、圧縮成形、溶融注型成形又は射出成形され、ポリマー特性として剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性を発揮することを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体を提供する。
【0020】
更には、本発明によれば、上記する混合樹脂組成物(E−2)の100重量部に、更に常温〜常温以下の温度下に、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリイミドの前駆体ポリアミック酸より選ばれる1種以上を50〜150重量部混合させてなる混合樹脂組成物(E−3)である「第5の成形用樹脂組成物」を用いて、押出成形、圧縮成形、注型成形又は射出成形され、ポリマー特性として剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性を発揮することを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明による成形用樹脂組成物を用いて得られる芳香族系耐熱性ポリマー成形体に発現されるポリマー特性改質としての剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性(なお、本発明におけるこの金型耐汚染性とは、例えば、電子写真画像形成装置等に用いられている熱転写ロール部材等における耐トナー性として称されている耐汚染性なる評価値も含まれるものである。)は、その主成分樹脂であるポリイミド(PI)又はポリベンゾイミダゾール(PBI)成形体に対して、本発明が提案する変性化剤による樹脂中の芳香環付き窒素ヘテロ環鎖部位に対する付加反応によって化学的に構造変化されたことで、変性前の未変性樹脂では困難であった、例えば、従来から公知の成形方法である射出成形、押出し成形、圧縮成形又は溶融注型成形を可能にさせる。
【0022】
また、従来から提案されている変性化対処法としての変性化物では変性化部位が本発明とは異なり、密着性を付与させる芳香族耐熱性ポリマー樹脂である。一方、本発明による樹脂の直接的な変性方法では、芳香環付き窒素ヘテロ環鎖部位に側鎖基が付加変性されて、射出成形、押出し成形、圧縮成形又は溶融注型成形等の成形方法を可能にさせる剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性が付与されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明によるポリイミド、ポリベンゾイミダゾール樹脂成形体にポリマー特性としての成形加工性を付与させる変性樹脂を含有する成形用樹脂組成物の最良の実施形態について更に説明する。
【0024】
本発明が提供する「第1の成形用樹脂組成物」において、芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)成分は下記式(1)(2)で表される芳香族系耐熱性ポリマーである。
【化8】

但し、nは1以上の整数であり、R1,R2はHであり、繰り返し構造のうち一部がアルキル基で置換されていても良い。Xは4価の有機基、Yは2価の有機基であって、それぞれ、Xは下記より選ばれる基であり
【化9】

且つ、Yは2価のアリール基であるか
もしくは、
Xは下記4価の基であり
【化10】

且つ、Yは下記より選ばれる基である。
【化11】

【化12】

但し、nは1以上の整数であり、
X’はフェニル基を除く4価のアリール基であり、且つ、Y’は2価のアリール基であるか、もしくは、X’は4価のフェニル基であり、且つ、Y’は下記より選ばれる基である。
【化13】

【0025】
本発明の(A)は、より耐熱性、機械的強度の高い樹脂であることが好ましく。上記式(1)(2)中のR3,R4,R5,R6は単結合又は芳香族含有基であることが好ましく、あまり長鎖のアルキル基が主鎖に存在すると、ポリイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂が本来有している上記特性を損ねることになるため好ましくない。
【0026】
この成形用樹脂組成物に含有される変性樹脂(D−1)は、次の工程で得られる。まず、上記式に表す未変性のポリイミド樹脂及び/又はポリベンゾイミダゾール樹脂(A)を、芳香環付き窒素ヘテロ環鎖部位に化学的に作用させてカルボキシル基を付与させる一次変性剤(B−1)によって一次変性し一次変性樹脂(C−1)を生成する。
【0027】
ここで、ポリイミド樹脂及び/又はポリベンゾイミダゾール樹脂(A)100重量部に対して、この一次変性剤(B−1)剤は1〜15重量部、更には、ベースポリマーのポリマー特性を損ねず、目的とするポリマー離形性を充分に発揮させる変性が成される観点から、好ましくは、5〜12重量部を、溶融又は半融下に混合させ、一次変性樹脂(C−1)を得る。
【0028】
次に、この一次変性樹脂(C−1)中に含有するカルボキシル基に対して、カルボキシル基を化学的に安定化させ、樹脂に離型性を付与する観点から、エステル化反応させるエステル化変性剤(B−2)を100〜150℃で反応させることで変性樹脂(D−1)を得られる。
【0029】
このエステル化変性剤として、カルボキシル基とエステル化反応するゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が10〜10の範囲にあるフッ素系アルコール及び/又はシリコーン化合物が用いられる。これらエステル化変性剤(B−2)は、一次変性樹脂(C−1)中のカルボキシル基に対して、0.1〜2当量の範囲で、更には、ベースポリマーのポリマー特性を損ねずに、本発明が目的とするポリマー離形性を充分に発揮させる変性が成される観点から、好ましくは、0.5〜1.5当量の範囲で用いられる。
【0030】
本発明においては、上記式(1)、(2)で表される未変性樹脂のGPCによる数平均分子量は1000〜1000000の範囲であり、好ましくは、10000〜500000の範囲であり、繰り返し数nが50〜1000の範囲であることが好適である。分子量が下限値以下では、ポリイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂中に変性化密度が高すぎる分子が生成され、ベースポリマーのポリマー特性を損ねる傾向から好ましくなく、また、上限値を超えるようでは、1分子中の変性密度が低くなり、変性の目的であるポリマーの離形性を充分に発現させることができず好ましくない。また、繰り返し数nが、上記範囲であるとポリイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂への離型性、耐金型汚染性等の性能付与を好適に制御することができる。
【0031】
<未変性のポリイミド樹脂及び/又はポリベンゾイミダゾール樹脂(A)成分>
本発明に用いる未変性ポリイミド及び未変性ポリベンゾイミダゾール樹脂としては、公知の方法で得られる上述の式(1)、(2)で表されるポリイミド及びポリベンゾイミダゾール樹脂が適宜好適に用いられる。
【0032】
<カルボキシル基を付与させる一次変性剤(B−1)>
一次変性剤(B−1)としては、例えば、テトラヒドロフタル酸,マレイン酸,フマル酸,コハク酸,アジピン酸,フタル酸、イソフタル酸,ヘキサヒドロフタル酸,テトラヒドロフタル酸,ダイマー酸,セバチン酸,アゼライン酸,5−Naスルホイソフタル酸,イタコン酸,シトラコン酸,ノルボルネンジカルボン酸,ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸無水物;また、これらの誘導体として、無水マレイン酸,無水イタコン酸,無水シトラコン酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ヘキサヒドロ無水フタル酸,メチルーヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルーテトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物が挙げられる。中でも、反応性が良好であり、さらに、ポリイミド樹脂又はポリベンゾイミダゾール樹脂との反応により、重合性二重結合を導入できるジカルボン酸無水物を使用することが好ましい。
【0033】
<エステル化変性剤>
エステル化変性剤(B−2)として、カルボキシル基とエステル化反応するフッ素系アルコール及び/またはシリコーン化合物が用いられる。好ましくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が10〜10の範囲であり、一次変性樹脂(C−1)のカルボキシル基に対して反応性を有する基が0.1〜2当量の範囲で適宜好適に使用することができる。このエステル化変性剤が上記配合割合から外れ、0.1当量よりも少ないと十分な離型性が得られず、また、2当量よりも多いと一次変性樹脂との相溶性の問題から製膜後の表面平滑性が悪くなるため好ましくない。また、本発明の目的として発現させるポリマー離形性が加熱下においても熱的に安定させる観点から、好ましくは、0.5〜1.5当量の範囲で好適に用いることができる。
【0034】
<エステル化変性剤;フッ素系アルコール>
このエステル化変性剤であるフッ素系アルコールの具体例として、例えば、;2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、6−(パーフルオロエチル)ヘキサノール、2−パーフルオロブチルエタノール、3−パーフルオロブチル−2−プロペン−1−オール、6−(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、3−(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6−(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、6−(パーフルオロ−1−メチルエチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、1H,1H,5H−オクタフルオロペンタノール、2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロパノール等のモノオール化合物、また、3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(2−パーフルオロ−n−オクチル)エトキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(1H,1H−ペンタテカフロ−1−オクチル)オキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(1H,1H−パーフルオロ−1−ラウリル)オキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(2,2,2−トリフルオロエチル)オキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(ヘキサフルオロプロピル)オキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(2−パーフルオロ−n−ブチル)エトキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(4,4,4−トリフルオロ−3,3,−ジメトキシブチル)オキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(n−パーフルオロ−n−オクチル)メチルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(パーフルオロ−n−オクチル)−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(パーフルオロ−n−ブチル)−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−(パーフルオロ−n−ヘキシル)−1,2−ジヒドロキシプロパン、1,4−ビス(1,2−ジヒドロキシプロピル)−パーフルオロ−n−プタン、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオール、3,3,4,4,5,5、6,6−オクタフルオロオクタン−1,8−ジオール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1,4−ブタンジオール、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンタンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−1,8−オクタンジオール等が挙げられる。
【0035】
<エステル化変性剤;シリコーン化合物>
シリコーン系エステル化変性剤の具体例として、水酸基を含有するシラン化合物から導入される反応性有機ラジカルとして、例えば、ビニル基、エポキシ基、(メタ)クリル基、アミノ基等を挙げることができる。すなわち、そのシリコーン化合物(又はシラン化合物)としては、例えば、アルコキシシラン、アシロキシシラン、シランカップリング剤等のシラン化合物を挙げることができる。例えば、アルコキシシランとしては、Si(OMe) ,MeSi(OMe) ,MeSi(OMe),MeSi(OMe) ,CSi(OMe) ,n−CSi(OMe) ,n−C13Si(OMe) ,n−C1021Si(OMe) ,CH=CHSi(OMe) ,CSi(OMe) ,(CSi(OMe) ;特に、通常に知られているシランカップリング剤として、NHCHCHNHCHCHCHMeSi(OMe) ,NHCHCHNHCHCHCHSiMe(OMe),HSCHCHCHSi(OMe) ,CNHCHCHCHSi(OMe) ,CH=(Me)CCOOCHCHCHSi(OMe) ;また、Si(OEt) ,MeSi(OEt) ,MeSi(OEt) ,MeSiOEt等が挙げられ、また、アシロキシシランとしては、MeSi(OCOMe),CSi(OMe) ,CH=CHSi(OCOMe) 等が挙げられ、また、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマーも適宜に用いることができる。ここで、Meはメチル基、Etはエチル基である。
【0036】
本発明による第1の成形用樹脂組成物を特徴を活かすことで、本発明においては、以下の第2〜第5の成形用樹脂組成物を提供することができる。
【0037】
<第2の成形用樹脂組成物>
本発明が提供する「第2の成形用樹脂組成物」は、上記する変性樹脂(D−1)100重量部と、この(D−1)中に含まれる未変性化樹脂組成物(C−1)中の重合性二重結合と重合反応性を有する化合物10〜100重量部と、熱ラジカル発生剤(又は熱重合開始剤)0.1〜20重量部とを含有することを特徴とする成形用樹脂組成物である。
【0038】
重合性二重結合と重合反応性を有する化合物としては、例えば、2−クロロ酢酸、3−クロロプロピオン酸、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクレート,β−メタクロリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート;酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,n−酪酸ビニル,イソ酪酸ビニル,ピバリン酸ビニル,カプロン酸ビニル,ラウリル酸ビニル,ステアリン酸ビニル,安息香酸ビニル,p−t−ブチル安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニリデン,クロロヘキサンカルボン酸ビニル、(メタ)アクリル酸−2−クロロエチル、メタクリル酸−2−クロロエチル等のハロゲン化ビニル化合物;(メタ)アクリル酸アミノエチル,(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル,(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル,(メタ)アクリル酸アミノプロピル,(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル,(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル系誘導体類;N−ビニルジエチルアミン,N−アセチルビニルアミン等のビニルアミン系誘導体類;アリルアミン,メタクリルアミン,N−メチルアクリルアミン等のアリルアミン系誘導体;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド系誘導体;p−アミノスチレン等のアミノスチレン類;6−アミノヘキシルコハク酸イミド,2−アミノエチルコハク酸イミド等のアミノ基含有エチレン性不飽和結合を有するモノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート, 1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等の分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物;(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸ラウリル,(メタ)アクリル酸ノニル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の脂環式アルコールのアクリル酸エステル;エチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジエチルグリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジプロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。また、例えば、アミド基含有ビニル単量体類としては;メタクリルアミド,N−メチロールメタクリルアミド,N−メトキシエチルメタクリルアミド等が挙げられ、アクリルアミド,N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド系誘導体,p−アミノスチレン等のアミノスチレン類,N−メチロール(メタ)アクリルアミド及びジアセトンアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類,6−アミノヘキシルコハク酸イミド,2−アミノエチルコハク酸イミド等が挙げられる。また、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル,(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル,メタクリル酸ジメチルアミノエチル,(メタ)アクリル酸アミノプロピル,メタクリル酸フェニルアミノエチル,N−ビニルジエチルアミン,N−アセチルビニルアミン等のビニルアミン系誘導体類,アリルアミン,メタクリルアミン,N−メチルアクリルアミン,N,N−ジメチルアクリルアミド,N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのアリルアミン系誘導体,アクリルアミド,N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド系誘導体,N−アミノスチレン等のアミノスチレン類,6−アミノヘキシルコハク酸イミド,2−アミノエチルコハク酸イミド等のアミノ基含有エチレン性不飽和結合を有するモノマー;スチレン,メチルスチレン,ジメチルスチレン,トリメチルスチレン,エチルスチレン,ジエチルスチレン,トリエチルスチレン,プロピルスチレン,ブチルスチレン,ヘキシルスチレン,ヘプチルスチレン及びオクチルスチレン等のアルキルスチレン;フロロスチレン,クロルスチレン,ブロモスチレン,ジブロモスチレン,クロルメチルスチレン等のハロゲン化スチレン;ニトロスチレン,アセチルスチレン,メトキシスチレン、α−メチルスチレン,ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0039】
これらの化合物は、特に、一次変性剤(B−1)によって導入される二重結合と反応させることが好ましく、特に、無水マレイン酸,無水イタコン酸,無水シトラコン酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ヘキサヒドロ無水フタル酸等のジカルボン酸無水物によって導入された二重結合と反応させることが好ましい。なお、これらの重合性化合物の量は、(D−1)中に含有する変性基の作用を妨げないように、変性樹脂(D−1)100重量部に対して20〜60重量部の量で使用することがより好ましい。
【0040】
<第3の成形用樹脂組成物>
また、本発明によれば、未変性の芳香族ポリイミド樹脂又は芳香族ベンゾイミダゾール樹脂100重量部と、上記する第1又は第2の成形用樹脂組成物50〜150重量部とを混合させてなる混合樹脂組成物(E−1)であることを特徴とする「第3の成形用樹脂組成物」を提供することができる。
【0041】
<第4の成形用樹脂組成物>
前記一次変性樹脂(C−1)100重量部に、前記エステル化変性剤(B−2)10〜200重量部と、重合性二重結合に対して重合反応性を有する化合物10〜100重量部とを、常温〜常温以下の温度下に混合させてなる混合樹脂組成物(E−2)であることを特徴とする「第4の成形用樹脂組成物」を提供することができる。
【0042】
<第5の成形用樹脂組成物>
前記混合樹脂組成物(E−2)100重量部に、更に常温〜常温以下の温度下に、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリイミドの前駆体ポリアミック酸より選ばれる1種以上50〜150重量部を混合させてなる混合樹脂組成物(E−3)であることを特徴とする「第5の成形用樹脂組成物」を提供することができる。この第5の成形用樹脂組成物においては、その未変性ポリイミド樹脂、未変性ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂の前駆体ポリアミック酸(以後、PIPAと略称する)の構造によって、多少の差異があるが、より好適、効果的にポリマー特性を向上させる観点から、好ましくは、PIPAを60〜120重量部範囲で適宜添加することにより好適な成形用樹脂組成物とすることができる。
【0043】
<各種の成形方法による芳香族系耐熱性ポリマー成形体>
前記本発明の第1〜第5の成形用樹脂組成物を250〜350℃で熱溶融状又は熱半融状に予熱処理することで、押出成形、射出成形、ブロー成形又は延伸成形を適宜可能にすることができる。また、本発明による変性によって熱硬化性を損ねない限り注型成形、射出成形又は圧縮成形を適宜可能にさることができる。
【0044】
本発明の成形用樹脂組成物を使用することで、その成形体に剥離性、金型離型性又は金型耐汚染性なる加工適性を付与させて、上記する押出成形、圧縮成形、溶融注型成形、射出成形、ブロー成形又は延伸成形を可能にするものである。本発明によって成形時におけるポリマー特性が活かされて、このポリマー樹脂が有する耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、寸法安定性等が損なわれずに、各種の形状及び各種の用途に使用できる耐熱性成形体を提供することができる。
【0045】
また、本発明においては所望するポリマー特性を損ねない範囲において、上記する本発明による成形用樹脂組成物に、予め従来から一般に公知の各種の添加剤を添加させることができる。例えば、硬化促進剤、低収縮剤、増粘剤、内部離型剤、分散剤、可塑剤、滑剤、被膜形成助剤、剥離剤、消泡剤、防炎剤、難燃性付与材、帯電防止剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、紫外線増感剤、蛍光増白剤、抗菌・防カビ剤、繊維状を含む有機及び無機フィラー、染料、顔料等を必要に応じて適宜添加させることができる。また、本発明においては、これらの添加剤をそれぞれ個々に配合してもよく、2種以上を組合わせて適宜配合させてもよく、その添加量はその添加剤種にもよるが、通常、変性前の芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−1)100重量部当たり、0〜100重量部、好ましくは、50重量部以下、更に好ましくは、20重量部以下で適宜好適に添加することができる。
【0046】
上述した添加剤の内で、例えば、シート材の引張り強度の改善・補強や、撓み防止や、シート表面のAB(アンチブロッキング)性等の特性改善のために、各種の微粉状、鱗片状、繊維状(又はウイスカー状)の無機・有機のフィラーを適宜添加させることができる。このようなフィラーとして、例えば、炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,硫酸バリウム,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,アルミナ粉末、ベンガラ、シリカ、合成スメクタイト、合成ゼオライト、チタン酸マグネシウム、合成塩基性炭酸リチウム・アルミニウム塩、合成塩基性炭酸リチウム・マグネシウム塩、合成ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸マグネシウム、合成雲母、オラストナイト、ネフェリンサイト、タルク、ケイソウ土、マイカ、カオリン、ガラス粉、各種有機ポリマー微粒子等が挙げられる。これらの単独又は二種以上を組合わせて使用することができる。また、繊維補強材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、有機系繊維、チタン酸カリ繊維等が挙げられ、これらの繊維長は0.1〜20mm、好ましくは1〜10mmのものが使用される。また、これらの微粉状、繊維状フィラーは、本発明の樹脂との相容性、分散性の観点から、例えば、予めシラン系やチタネート系のカップリング剤等で表面処理をするか、また、適宜好適な分散剤を併用させて使用することができる。また、特に着色剤としては、耐熱性であることから、無機系の酸化物顔料である、ベンガラ、黒色フェライト、酸化チタン等が挙げられる。
【0047】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例にいささかも限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例及び比較例において用いた原料ポリイミド樹脂の種類及び試料の評価は、以下の通りである。
ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−1):数平均分子量10万のポリ−2,2’−(ジフェニレン−2’’,2’’’)−5,5‘−ジベンゾイミダゾール のN−メチル−2−ピロリドン10%溶液
ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−2):数平均分子量10万のポリ−2,2’−(ジフェニレン−4’’,4’’’)−5,5‘−ジベンゾイミダゾール のN−メチル−2−ピロリドン10%溶液
ポリイミド樹脂(A−3):
3,5−ジアミノ安息香酸を溶解したN−メチル−2−ピロリドン溶液に、1:1当量となるようにビシクロ(2,2,2)オクト−7−エンー2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物を添加、反応させポリアミック酸を生成し、生成したポリアミック酸を分離、精製した後、N−メチル−2−ピロリドンに溶解させ、γ−ブチルラクトン、ピリジンを加えて加熱して脱水閉環することで得られる数平均分子量10万のポリイミド樹脂溶液(N−メチル−2−ピロリドン溶液の10%溶液)
【0049】
[離型性]
ポリイミドフィルム上に試料を乾燥後の膜厚が10μmになるように塗布し、150℃×10分の乾燥を行った後、200℃×1時間の熱処理を行って塗膜を形成した。製膜後の塗工面に23℃×65RH%下にて、市販のセロハンテープを15分貼り付けた後の90°剥離強度(N/cm)により評価した。
剥離強度2.5N/cm以下であれば実用上問題なく使用できるレベルであり。剥離強度2.0N/cm以下であれば作業性が格段に向上するレベルである。
【0050】
[平滑性]
ポリイミドフィルム上に試料を乾燥後の膜厚が10μmになるように塗布し、150℃×10分の乾燥を行った後、200℃×1時間の熱処理を行って塗膜を形成した。製膜後の表面状態を目視により観察し、下記の評価を行った。
○:表面に斑点等が全く見られない
△:斑点模様が見られる
×:表面の厚みの異なる斑点模様又は縞模様が見られる
【0051】
(製造例1)一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂の製造
温度計と窒素導入管とを装着した、容量1リットルの四つ口フラスコに、未変性ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)成分であるポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(A−1)を1000重量部(ポリベンゾイミダゾール樹脂固形分100重量部)、一次変性剤(B−1)である無水マレイン酸を5重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分撹拌して窒素置換を行った。その後、フラスコ内の内容物を95℃まで昇温し、そのまま95℃に維持しながら3時間反応させた。反応後、室温まで冷却し、一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂を得た。
【0052】
(製造例2)一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂の製造
無水マレイン酸の量を0.1重量部に代えた以外は製造例1と同様にして一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂を得た。
【0053】
(製造例3)一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂の製造
ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(A−1)をポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(A−2)に代えた以外は製造例1と同様にして一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂を得た。
【0054】
(製造例4)一次変性ポリイミド樹脂の製造
温度計と窒素導入管とを装着した、容量1リットルの四つ口フラスコに、未変性ポリイミド樹脂(A)成分であるポリイミド樹脂溶液(A−3)を1000重量部(ポリイミド樹脂固形分100重量部)、一次変性剤(B−1)である無水マレイン酸を5重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分撹拌して窒素置換を行った。その後、フラスコ内の内容物を95℃まで昇温し、そのまま95℃に維持しながら3時間反応させた。反応後、室温まで冷却し、一次変性ポリイミド樹脂を得た。
【0055】
(製造例5)一次変性ポリイミド樹脂の製造
無水マレイン酸の量を0.1重量部に代えた以外は製造例4と同様にして一次変性ポリイミド樹脂を得た。
【0056】
(実施例1)
製造例1で得られた一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂が入れられたフラスコに、エステル化変性剤(B−2)としてポリジメチルシリル基含有アルコールFM−042(チッソ(株)製)5重量部を入れ、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分撹拌して窒素置換を行った。
次いで、フラスコ内の内容物を95℃まで昇温し、そのまま95℃に維持しながら3時間反応させた。反応後室温まで冷却し、変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0057】
(実施例2)
エステル化変性剤(B−2)としてFM−042の代わりにフッ素化アルキル含有アルコールCHEMINOX FA−8(ユニマテック(株)製)5重量部を用いた以外は実施例1と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0058】
(実施例3)
エステル化変性剤(B−2)のポリジメチルシリル基含有アルコールFM−042(チッソ(株)製)5重量部を10重量部にした以外は実施例1と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0059】
(実施例4)
エステル化変性剤(B−2)のフッ素化アルキル含有アルコールCHEMINOX FA−8(ユニマテック(株)製)5重量部を10重量部にした以外は実施例2と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0060】
(実施例5)
実施例1で得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液が入れられたフラスコに、重合反応性化合物FM−0721(チッソ(株)製)を10重量部、熱ラジカル発生剤AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を1重量部を入れ、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分撹拌して成形用樹脂組成物溶液を得た。得られた成形用樹脂組成物溶液を用いて、離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0061】
(実施例6)
実施例1で得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂の固形分100重量部に対して、未変性ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−1)の固形分10重量部を混合して成形用樹脂組成物を得た。得られた成形用樹脂組成物溶液を用いて離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0062】
(実施例7)
未変性ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−1)の固形分100重量部を混合した以外は、実施例6と同様にして成形用樹脂組成物を得た。得られた成形用樹脂組成物溶液を用いて離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0063】
(実施例8)
製造例1で得られた一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂を使用した以外は実施例1と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0064】
(実施例9)
製造例4で得られた一次変性ポリイミド樹脂が入れられたフラスコに、エステル化変性剤(B−2)としてポリジメチルシリル基含有アルコールFM−042(チッソ(株)製)5重量部を入れ、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分撹拌して窒素置換を行った。
次いで、フラスコ内の内容物を95℃まで昇温し、そのまま95℃に維持しながら3時間反応させた。反応後室温まで冷却し、変性ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた変性ポリイミド樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0065】
(実施例10)
エステル化変性剤(B−2)としてFM−042の代わりに、フッ素化アルキル含有アルコールCHEMINOX FA−8(ユニマテック(株)製)5重量部を用いた以外は実施例9と同様にして変性ポリイミド樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリイミド樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0066】
(実施例11)
実施例10で得られた変性ポリイミド樹脂の固形分100重量部に対して、未変性ポリイミド樹脂(A−3)の固形分10重量部を混合して成形用樹脂組成物を得た。得られた成形用樹脂組成物溶液を用いて離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0067】
(比較例1)
未変性ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−1)を用いて、離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0068】
(比較例2)
製造例2で得られた一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0069】
(比較例3)
製造例2で得られた一次変性ポリベンゾイミダゾール樹脂を用いた以外は実施例2と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0070】
(比較例4)
エステル化変性剤(B−2)ポリジメチルシリル基含有アルコールFM−042(チッソ(株)製)5重量部を0.1重量部にした以外は実施例1と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0071】
(比較例5)
エステル化変性剤(B−2)フッ素化アルキル含有アルコールCHEMINOX FA−8(ユニマテック(株)製)5重量部を0.1重量部にした以外は実施例2と同様にして変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリベンゾイミダゾール樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0072】
(比較例6)
未変性ポリイミド樹脂(A−3)を用いて、離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0073】
(比較例7)
製造例5で得られた一次変性ポリイミド樹脂を用いた以外は実施例9と同様にして変性ポリイミド樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリイミド樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0074】
(比較例8)
製造例5で得られた一次変性ポリイミド樹脂を用いた以外は実施例10と同様にして変性ポリイミド樹脂溶液を得た。
得られた変性ポリイミド樹脂溶液(成形用樹脂組成物)の離型性及び表面平滑性評価を行い、その結果を表1に示した。
【0075】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0076】
市販されているポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂に対して、著しく簡便な樹脂への付加反応で、カルボキシル基を導入させ、次いで、このカルボキシル基に対するエステル化変性剤を添加させてなるポリマー特性を改質させる変性ポリベンゾイミダゾール樹脂、変性ポリイミド樹脂を含有する成形用樹脂組成物を提供することができる。
このような成形用樹脂組成物を用いて、ガラス、セラミック、ステン板等の耐熱性基板上で、キュア処理させることで、剥離性に優れるポリイミド、ポリベンゾイミダゾール等の耐熱性のシート状成形体を調製することができる。
また、このような成形用樹脂組成物を用いることで、従来困難な傾向にあった射出成形、押出成形、圧縮成形又は溶融注型成形等を可能にさせるポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂含有成形用樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)(2)で表される繰り返し構造を有する芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)を変性させて得られる変性樹脂(D−1)を含有する成形用樹脂組成物であって、
前記変性樹脂(D−1)が、芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)と一次変性剤(B−1)とを反応させて一次変性樹脂(C−1)を生成した後、さらにエステル化変性剤(B−2)と反応させて得られる変性樹脂であり、
前記、一次変性剤(B−1)が、芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)の複素環N部位にカルボキシル基を付与する変性剤であり、
前記、エステル化変性剤(B−2)が、カルボキシル基とエステル化反応するゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が10〜10の範囲にあるフッ素系アルコール及び/またはシリコーン化合物であり
芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A)100重量部に対して、一次変性剤(B−1)1〜15重量部を反応させ、
一次変性樹脂(C−1)のカルボキシル基に対して、0.1〜2当量のエステル化変性剤(B−2)を反応させて得られることを特徴とする成形用樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
前記一次変性剤(B−1)がジカルボン酸無水物であることを特徴とする請求項1項記載の成形用樹脂組成物。
【請求項3】
変性樹脂(D−1)100重量部と、重合性二重結合に対して重合反応性を有する化合物10〜100重量部と、熱ラジカル発生剤(又は熱重合開始剤)0.1〜20重量部とを含有することを特徴とする請求項1項又は2項に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載する何れかの成形用樹脂組成物を用いて、押出成形、圧縮成形、溶融注型成形又は射出成形させて得られることを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体。
【請求項5】
請求項1〜3に記載する何れかの成形用樹脂組成物50〜150重量部に、変性前の芳香族ポリイミド樹脂及び/又は芳香族ポリベンゾイミダゾール樹脂(A−1)100重量部を添加して得られる混合樹脂組成物(E−1)を含有することを特徴とする成形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記、混合樹脂組成物(E−1)を用いて押出成形、圧縮成形、注型成形又は射出成形させて得られることを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体。
【請求項7】
前記一次変性樹脂(C−1)100重量部と、前記エステル化変性剤(B−2)10〜200重量部と、重合性二重結合に対して重合反応性を有する化合物10〜100重量部とを、常温〜常温以下の温度下に混合させてなる混合樹脂組成物(E−2)を含有することを特徴とする成形用樹脂組成物。
【請求項8】
前記、混合樹脂組成物(E−2)を用いて押出成形、圧縮成形、溶融注型成形又は射出成形させて得られることを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体。
【請求項9】
前記一次変性樹脂(C−1)100重量部と、前記フッ素系アルコール及び/またはシリコーン化合物10〜200重量部と、重合性二重結合に対して重合反応性を有する化合物10〜100重量部とを、常温〜常温以下の温度下に混合させてなる混合樹脂組成物(E−2)100重量部に対して、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリイミドの前駆体ポリアミック酸より選ばれる1種以上を50〜150重量部混合させてなる混合樹脂組成物(E−3)を含有することを特徴とする成形用樹脂組成物。
【請求項10】
前記、混合樹脂組成物(E−3)を用いて押出成形、圧縮成形、溶融注型成形又は射出成形させて得られることを特徴とする芳香族系耐熱性ポリマー成形体。

【公開番号】特開2007−217497(P2007−217497A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37966(P2006−37966)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】