説明

耐熱性感温性粘着剤

【課題】高い耐熱性を有するとともに、易剥離可能な耐熱性感温性粘着剤を提供することである。
【解決手段】側鎖結晶性ポリマーを含有し、該側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、側鎖結晶性ポリマーが、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種と、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を少なくとも重合させて得られる、重量平均分子量20万〜100万の共重合体からなるようにした耐熱性感温性粘着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を有する感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘着力を熱によって可逆的に制御できる粘着剤として、感温性粘着剤がある(例えば、特許文献1参照)。感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを含有しており、この側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にまで加熱すると、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって粘着力が発現し、融点未満の温度にまで冷却すると、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する。
【0003】
感温性粘着剤の一使用形態である粘着テープは、特許文献2に記載されている液晶表示装置、有機発光表示装置等の平板表示装置の製造等に使用することができる。具体的には、まず、基材フィルムの両面に感温性粘着剤からなる粘着剤層を設けた粘着テープを介して、可撓性基板を支持体上に固定する。この固定は、粘着剤層を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にまで加熱して、粘着力を発現させることによって行う。
【0004】
ついで、固定した可撓性基板の表面に、所定の薄膜パターンを形成する。最後に、粘着剤層を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却して粘着力を低下させ、可撓性基板を支持体から剥離する。
【0005】
一方、特許文献1に記載されているような従来の感温性粘着剤は、易剥離性を有するものの、耐熱性が十分でないという問題がある。そのため、従来の感温性粘着剤を用いた粘着テープでは、高温雰囲気下の工程において、可撓性基板と支持体との熱膨張差に起因する反りや、粘着剤層中の水分・残留溶剤等の揮発による反り・浮き応力等に対応することができず、粘着剤層と可撓性基板との間で剥離が生じてしまう。
【0006】
本出願人は、耐熱性を有する感温性粘着剤として、先に特許文献3〜5に記載のような感温性粘着剤を開発した。これら特許文献3〜5に記載されている感温性粘着剤の耐熱性は150℃近傍の雰囲気温度に対するものであるが、工程によっては雰囲気温度が230℃近傍になることもある。したがって、より高い耐熱性を有する感温性粘着剤の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−251923号公報
【特許文献2】特開2006−337983号公報
【特許文献3】特開2008−179744号公報
【特許文献4】特開2010−126558号公報
【特許文献5】特開2010−184979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高い耐熱性を有するとともに、易剥離可能な耐熱性感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)側鎖結晶性ポリマーを含有し、該側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、前記側鎖結晶性ポリマーが、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種と、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を少なくとも重合させて得られる、重量平均分子量20万〜100万の共重合体からなることを特徴とする耐熱性感温性粘着剤。
(2)前記130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種が、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーおよびヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーであり、前記反応が、エステル化反応である前記(1)記載の耐熱性感温性粘着剤。
(3)前記側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーが、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、を含む前記(1)または(2)記載の耐熱性感温性粘着剤。
(4)金属キレート化合物をさらに含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤。
(5)貼着した被着体を、220〜240℃の雰囲気温度に曝した後、前記融点未満の温度で取り外す前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤。
(6)230℃の雰囲気温度を経た後の5℃の雰囲気温度における180°剥離強度が、0.6N/25mm以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤からなることを特徴とする耐熱性感温性粘着シート。
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの片面または両面に設けたことを特徴とする耐熱性感温性粘着テープ。
(9)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの両面に設けた耐熱性感温性粘着テープを用いて、平板表示装置を製造する方法であって、粘着力を発現させた前記耐熱性感温性粘着テープを介して、可撓性基板を支持体上に固定する工程と、固定した前記可撓性基板の表面に、薄膜パターンを形成する工程と、ついで前記耐熱性感温性粘着テープを側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却して粘着力を低下させ、前記可撓性基板を前記支持体から剥離する工程と、を含むことを特徴とする平板表示装置の製造方法。
【0010】
なお、本発明における前記「130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種」とは、官能基(a)を有するモノマー(A)と、130℃以上の雰囲気温度で官能基(a)と反応する官能基(b)を有するモノマー(B)であることを意味する。
また、本発明における前記「シート」は、シート状のみに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない限りにおいて、シート状ないしフィルム状をも含む概念である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種をモノマー単位として含有するので、高温雰囲気下では前記官能基が互いに反応することによって熱硬化を起こし、その結果、弾性率が飛躍的に高まるようになる。そして、この弾性率の高まりと、側鎖結晶性ポリマーを構成する共重合体の重量平均分子量を20万〜100万とすることによる凝集力の向上とが相まって、耐熱性を大きく向上させることができる。それゆえ、例えば230℃近傍の高温雰囲気下で被着体を加工中に、外的応力や被着体の熱的変形による応力等を受けたとしても、被着体が外れるのを抑制することができる。
【0012】
また、被着体から剥離する際には、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度にまで冷却すれば、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下するので、被着体からの剥離を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる粘着剤は、耐熱性感温性粘着剤(以下、「感温性粘着剤」と言うことがある。)である。感温性粘着剤とは、温度変化に対応して粘着力が変化する粘着剤を意味する。本発明の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを含有する。側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度で相転移して流動性を示すポリマーである。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こすポリマーである。
【0014】
前記感温性粘着剤は、融点未満の温度で側鎖結晶性ポリマーが結晶化した際に粘着力が低下する割合で側鎖結晶性ポリマーを含有する。つまり、前記感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有する。これにより、被着体から感温性粘着剤を剥離する際には、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却すれば、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する。
【0015】
融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態となる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)により10℃/分の測定条件で測定して得られる値である。融点としては20℃以上であるのが好ましく、20〜60℃であるのがより好ましい。これにより感温性粘着剤が、通常、室温下で粘着力を発現するようになるので、被着体の固定を室温で行うことができる。融点を所定の値とするには、側鎖結晶性ポリマーの組成等を変えることによって任意に行うことができる。
【0016】
側鎖結晶性ポリマーは、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種と、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を少なくとも重合させて得られる共重合体からなる。
【0017】
130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種としては、例えばカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーと、ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとが好適である。これらのモノマーは、通常、130〜140℃の雰囲気温度でカルボキシル基とヒドロキシル基とが互いに反応してエステル化反応(熱硬化)するので、これらのモノマーをモノマー単位として含有すると、感温性粘着剤の高温雰囲気下における弾性率を飛躍的に高めることができる。
【0018】
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。なお、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種としては、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーおよびヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーに限定されるものではなく、上述した効果が得られる限り所望のモノマーを採用することができる。また、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマーは、少なくとも2種であればよく、必要に応じて3種以上を用いてもよい。
【0019】
側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーとしては、例えば炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
側鎖結晶性ポリマーの組成としては、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種を合計で1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーを合計で80〜99重量部、好ましくは85〜95重量部とするのがよい。
【0022】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。例えば溶液重合法を採用する場合には、上述したモノマーを溶剤に混合し、40〜90℃程度で2〜10時間程度攪拌すればよい。
【0023】
側鎖結晶性ポリマーを構成する共重合体の重量平均分子量としては、20万〜100万であり、好ましくは50万〜90万である。共重合体の重量平均分子量があまり小さいと、側鎖結晶性ポリマーの凝集力が不足して耐熱性が低下する傾向があるとともに、被着体から感温性粘着剤を剥離する際に感温性粘着剤が被着体上に残る、いわゆる糊残りが多くなるおそれがある。また、共重合体の重量平均分子量があまり大きいと、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却しても側鎖結晶性ポリマーが結晶化し難くなるので、粘着力が低下し難くなる。重量平均分子量は、共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0024】
一方、感温性粘着剤は、架橋剤をさらに含有するのが好ましい。架橋剤としては、例えばイソシアネート化合物、アジリジン化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物等が挙げられ、特に金属キレート化合物が好ましい。金属キレート化合物をさらに含有すると、感温性粘着剤の耐熱性がより向上する傾向にある。
【0025】
金属キレート化合物としては、例えば多価金属のアセチルアセトン配位化合物、アセト酢酸エステル配位化合物等が挙げられ、多価金属としては、例えばアルミニウム、ニッケル、クロム、鉄、チタン、亜鉛、コバルト、マンガン、ジルコニウム等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。例示したこれらの金属キレート化合物のうち、アルミニウムのアセチルアセトン配位化合物またはアセト酢酸エステル配位化合物が好ましく、アルミニウムトリスアセチルアセトナートが好適である。
【0026】
架橋剤の含有量としては、側鎖結晶性ポリマーを構成する共重合体100重量部に対して0.1〜10重量部であるのが好ましく、0.5〜10重量部であるのがより好ましい。
【0027】
本発明の感温性粘着剤の使用形態としては、特に限定されるものではなく、例えば基材レスのシート状の形態で使用することもでき、あるいは感温性粘着剤に適当な溶剤を加えて、被着体に直接塗布して乾燥するようにしてもよい。
【0028】
感温性粘着剤をシート状の形態にし、耐熱性感温性粘着シート(以下、「粘着シート」と言うことがある。)として使用する場合には、その厚さを5〜60μmとするのが好ましい。粘着シートの厚さがあまり薄いと、粘着力が低下し、加工時に被着体を固定し難くなるので好ましくない。また、粘着シートの厚さがあまり大きいと、粘着シートの厚さにバラツキを生じるおそれがあるので好ましくない。
【0029】
粘着シートの両面には、離型処理を施したフィルム、すなわち離型フィルムを設けるのが好ましい。離型フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート等からなるフィルムの表面に、シリコーン等の離型剤を塗布したものが挙げられる。粘着シートの両面に離型フィルムを設けるには、例えば感温性粘着剤を溶剤に加えた塗布液を、離型フィルム上に塗布して乾燥させて粘着シートを得、この粘着シートの表面に離型フィルムを配置すればよい。
【0030】
塗布液には、例えば可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を添加することができる。塗布は、一般的にナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター等により行うことができる。また、塗工厚みや塗布液の粘度によっては、グラビアコーター、ロッドコーター等により行うこともできる。なお、感温性粘着剤は、塗布の他、例えば押し出し成形やカレンダー加工によってもシート状に成形することができる。
【0031】
本発明の感温性粘着剤は、粘着テープの形態で使用することもできる。粘着テープの形態によれば、上述した粘着シートと同様の効果を奏するとともに、基材フィルムを含む分、粘着シートよりも剛性が高く、取り扱い性に優れるという効果を奏する。
【0032】
感温性粘着剤を粘着テープの形態にし、耐熱性感温性粘着テープ(以下、「粘着テープ」と言うことがある。)として使用する場合には、本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの片面または両面に設ければよい。
【0033】
基材フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂フィルムが挙げられる。これらのうち、230℃近傍の雰囲気温度に曝されても熱変形し難い耐熱性を有するものが好ましい。
【0034】
基材フィルムは、単層体または複層体からなるものであってもよく、厚さは、通常、5〜500μm程度である。基材フィルムには、粘着剤層に対する密着性を向上させるため、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施すことができる。
【0035】
基材フィルムの片面または両面に粘着剤層を設けるには、感温性粘着剤を溶剤に加えた塗布液を、基材フィルムの片面または両面に塗布して乾燥させればよい。塗布は、上述した粘着シートで説明したのと同じ方法で行うことができる。
【0036】
粘着剤層の厚さとしては、5〜60μmであるのが好ましく、5〜50μmであるのがより好ましく、5〜40μmであるのがさらに好ましい。基材フィルムの両面に粘着剤層を設ける場合には、片面の粘着剤層の厚さと、他面の粘着剤層の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
粘着テープは、片面の粘着剤層が本発明の感温性粘着剤からなる限り、他面の粘着剤層の組成は、特に限定されない。他面の粘着剤層を、例えば片面の粘着剤層と同様に本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層で構成する場合には、片面の粘着剤層の組成と、他面の粘着剤層の組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
また、他面の粘着剤層として、例えば感圧性接着剤からなる粘着剤層を用いることもできる。感圧性接着剤は、粘着性を有するポリマーであり、例えば天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン/ブタジエンラテックスベース接着剤、アクリル系接着剤、シリコン系接着剤等が挙げられる。
【0039】
ここで、本発明の感温性粘着剤は、230℃近傍の雰囲気温度に対する耐熱性を有しているので、貼着した被着体を220〜240℃の雰囲気温度に曝した後、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で取り外す粘着剤として使用するのが好ましい。雰囲気温度がこのような高温雰囲気になり易い用途としては、例えば上述した平板表示装置の製造用等が挙げられる。次に、本発明の感温性粘着剤の一使用形態である粘着テープの一使用例について、上述した平板表示装置の製造を例に挙げて説明する。
【0040】
まず、基材フィルムの両面に本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層を設けた粘着テープを介して、可撓性基板を支持体上に固定する。この固定は、雰囲気温度をヒータ等の加熱手段を用いて側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にまで加熱して行う。これにより、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示し粘着剤層の粘着力が発現するので、粘着テープを介して可撓性基板が支持体上に固定される。
【0041】
可撓性基板は、可撓性を有しており、その構成材料としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、薄膜ガラス、金属箔等が挙げられる。支持体を構成する材料としては、例えばガラス等が挙げられる。
【0042】
可撓性基板を固定した後、該可撓性基板の表面に所定の薄膜パターンを形成する。この薄膜パターン形成中には、雰囲気温度が230℃近傍の高温になることがある。粘着テープには、本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層が設けられているので、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種をモノマー単位として含有している。したがって、高温雰囲気下では前記官能基が互いに反応して熱硬化を起こし、その結果、弾性率が飛躍的に高まるようになる。そして、この弾性率の高まりと、側鎖結晶性ポリマーを構成する共重合体の重量平均分子量を20万〜100万とすることによる凝集力の向上とが相まって、高い耐熱性を示すようになる。それゆえ、この粘着テープによれば、雰囲気温度が230℃近傍の高温になったとしても、可撓性基板と支持体との熱膨張差に起因する反りや、粘着剤層中の水分・残留溶剤等の揮発による反り・浮き応力等に対して十分に対応することができ、可撓性基板を支持体上に固定し続けることができる。
【0043】
一方、本発明の感温性粘着剤に代えて、一般的なアクリル系粘着剤を用いた場合には、以下の問題がある。すなわち、一般的なアクリル系粘着剤を備えたアクリル系粘着テープを被着体に貼着した状態で高温雰囲気下に曝すと、粘着剤層が柔軟になる。その結果、耐熱性が低下する。また、被着体表面に対する粘着剤層の濡れ性が向上し、粘着剤層が被着体表面に存在する凹凸形状によく追従するようになり、いわゆるアンカー効果が発現する。それゆえ、アクリル系粘着テープは、雰囲気温度が下がった際に、初期粘着力に比べて粘着力が高くなり、剥離不良を生じることが多い。
【0044】
本発明の粘着テープは、側鎖結晶性ポリマーを含有しているため、高温雰囲気下に曝されることで粘着力が初期粘着力より高くなったとしても、雰囲気温度を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度にまで冷却すれば、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する。具体的には、230℃の雰囲気温度を経た後の5℃の雰囲気温度における180°剥離強度(以下、「5℃剥離強度」と言うことがある。)が、通常、0.6N/25mm以下になる。したがって、薄膜パターンを形成した後、雰囲気温度をファン等の冷却手段を用いて側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度にまで冷却すれば、粘着剤層の粘着力が十分に低下するので、可撓性基板を支持体から簡単に剥離することができる。
【0045】
なお、平板表示装置の製造は、上述した粘着テープに代えて、本発明の感温性粘着剤やその粘着シートを用いても行うことができる。また、本発明の感温性粘着剤、粘着シートおよび粘着テープの用途は、平板表示装置の製造用に限定されるものではなく、例えば半導体、積層セラミックインダクター、抵抗器、フェライト、センサー素子、サーミスタ、バリスタ、セラミック電子部品等のように、耐熱性と易剥離性とが要求される分野において、好適に用いることができる。
【0046】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明で「部」は重量部を意味する。
【0047】
(合成例1)
ステアリルアクリレート(日油社製)を45部、メチルアクリレート(日本触媒社製)を45部、アクリル酸を5部、2−ヒドロキシエチルアクリレートを5部、およびパーブチルND(日油社製)を0.2部の割合で、それぞれ酢酸エチル230部に添加して混合し、55℃で4時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は70万、融点は34℃であった。
【0048】
(合成例2)
ステアリルアクリレートを45部に代えて30部にし、メチルアクリレートを45部に代えて60部にした以外は、合成例1と同様にしてモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は70万、融点は27℃であった。
【0049】
(比較合成例1)
ステアリルアクリレートを45部に代えて35部にし、メチルアクリレートを45部に代えて60部にし、2−ヒドロキシエチルアクリレートを添加しなかった以外は、合成例1と同様にしてモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は70万、融点は29℃であった。
【0050】
(比較合成例2)
ステアリルアクリレートを45部に代えて35部にし、メチルアクリレートを45部に代えて60部にし、アクリル酸を添加しなかった以外は、合成例1と同様にしてモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は70万、融点は29℃であった。
【0051】
(比較合成例3)
ステアリルアクリレートを45部に代えて30部にし、メチルアクリレートを45部に代えて60部にし、攪拌する際の温度を55℃に代えて80℃にした以外は、合成例1と同様にしてモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は15万、融点は27℃であった。
【0052】
(比較合成例4)
ブチルアクリレートを98部、アクリル酸を2部、およびパーブチルND(日油社製)を0.2部の割合で、それぞれ酢酸エチル230部に添加して混合し、55℃で4時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は100万であった。
【0053】
合成例1,2および比較合成例1〜4の各共重合体を表1に示す。なお、重量平均分子量は、共重合体をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点は、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0054】
【表1】

【0055】
[実施例1,2および比較例1〜4]
<粘着シートの作製>
まず、合成例1,2および比較合成例1〜4で得た各共重合体を、酢酸エチルを用いて固形分が30重量%になるよう調整して共重合体溶液を得た。ついで、この共重合体溶液100部に対して固形分換算で架橋剤を1部の割合で添加して塗布液を得た。添加した架橋剤は、以下の通りである。
・実施例1,2および比較例1,3,4:アルミニウムトリスアセチルアセトナート(川研ファインケミカル社製)
・比較例2:コロネートL(日本ポリウレタン社製)
【0056】
この塗布液を離型フィルム上に塗布し、100℃で10分間加熱して架橋反応させ、厚さ20μmの粘着シートを得、この粘着シートの表面に離型フィルムを配置し、これにより両面に離型フィルムが配置された粘着シートを得た。なお、離型フィルムには、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面にシリコーンを塗布した厚さ50μmのものを用いた。
【0057】
<評価>
得られた粘着シートについて、230℃耐熱性および5℃剥離強度を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表2に示す。
【0058】
(230℃耐熱性)
まず、両面の離型フィルムを取り外した粘着シートを介して、厚さ38μmのポリイミドフィルム(東レデュポン社製の「カプトン100H」)と、厚さ0.7mmの無アルカリガラス(コーニングジャパン社製の「Corning1737」)とを貼着し、試験片を得た。
【0059】
得られた試験片を、230℃の雰囲気温度に設定した真空乾燥機内にポリイミドフィルムが上方を向くようにして1時間静置した。その後、真空乾燥機内から試験片を取出し、ポリイミドフィルムが剥離しているか否かを、目視観察して評価した。判定基準は以下のものを用いた。
○:ポリイミドフィルムが剥離しなかった。
×:ポリイミドフィルムが剥離した。
【0060】
(5℃剥離強度)
230℃の雰囲気温度を経た後の5℃の雰囲気温度における180°剥離強度を、JIS Z0237に準拠して測定した。具体的には、まず、上述した230℃耐熱性を評価した後の試験片を5℃の雰囲気温度に20分間静置した。ついで、この5℃の雰囲気温度において、ポリイミドフィルムを、ロードセルを用いて300mm/分の速度で180°剥離した。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から明らかなように、実施例1,2は、230℃耐熱性に優れ、かつ5℃剥離強度も低い値を示しており、易剥離性に優れるのがわかる。これに対し、130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種を添加していない比較例1,2、重量平均分子量が20万未満である比較例3、および一般的なアクリル系粘着剤である比較例4はいずれも、230℃耐熱性に劣る結果を示した。なお、一般的なアクリル系粘着剤である比較例4は、230℃耐熱性の評価において、ポリイミドフィルムが全て剥離してしまい、それゆえ5℃剥離強度を評価することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖結晶性ポリマーを含有し、該側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、
前記側鎖結晶性ポリマーが、
130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種と、
側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を少なくとも重合させて得られる、
重量平均分子量20万〜100万の共重合体からなることを特徴とする耐熱性感温性粘着剤。
【請求項2】
前記130℃以上の雰囲気温度で各々の有する官能基が互いに反応するモノマー2種が、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーおよびヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーであり、
前記反応が、エステル化反応である請求項1記載の耐熱性感温性粘着剤。
【請求項3】
前記側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーが、
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、
炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、を含む請求項1または2記載の耐熱性感温性粘着剤。
【請求項4】
金属キレート化合物をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤。
【請求項5】
貼着した被着体を、220〜240℃の雰囲気温度に曝した後、前記融点未満の温度で取り外す請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤。
【請求項6】
230℃の雰囲気温度を経た後の5℃の雰囲気温度における180°剥離強度が、0.6N/25mm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤からなることを特徴とする耐熱性感温性粘着シート。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの片面または両面に設けたことを特徴とする耐熱性感温性粘着テープ。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの両面に設けた耐熱性感温性粘着テープを用いて、平板表示装置を製造する方法であって、
粘着力を発現させた前記耐熱性感温性粘着テープを介して、可撓性基板を支持体上に固定する工程と、
固定した前記可撓性基板の表面に、薄膜パターンを形成する工程と、
ついで前記耐熱性感温性粘着テープを側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却して粘着力を低下させ、前記可撓性基板を前記支持体から剥離する工程と、
を含むことを特徴とする平板表示装置の製造方法。

【公開番号】特開2012−197387(P2012−197387A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63670(P2011−63670)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】