説明

耐燃焼性シート

【課題】難燃性、耐衝撃性、二次加工性に優れた耐燃焼性シートを提供することを目的とする。
【解決手段】耐燃焼性樹脂組成物からなる耐燃焼性層と、被覆層とが積層された耐燃焼性シートであって、前記耐燃焼性層が、熱可塑性樹脂及び黒鉛を含む耐燃焼性樹脂組成物によって形成され、前記[耐燃焼性層の厚み]×[耐燃焼性層の熱伝導率]で規定する[耐燃焼性層の熱伝導量]が1.2mW/K以上であり、前記被覆層が、熱可塑性樹脂と、衝撃改質剤と、加工助剤とを含む熱可塑性樹脂組成物で形成されていることを特徴とする耐燃焼性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐燃焼性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等の物理的性質及び耐溶剤性、耐酸性等の化学的性質に優れた特性を有する材料として、プラント用プレート、パイプ、パイプ継手、シート、フィルム等多くの用途に使用されている。
しかし、燃焼すると有毒ガスや多量の黒煙が発生し、列車などの車両用途では火災の際に乗客の安全性に支障をきたすため、より燃えにくい材料が要求されている。
【0003】
熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる方法としては、例えば、塩化ビニル系樹脂に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの難燃剤を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、塩化ビニル系樹脂に黒鉛を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−25347号公報
【特許文献2】特開平09−227747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような熱可塑性樹脂組成物で、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠した方法で行った燃焼試験において、燃焼抑制効果を発現させるためには、多量の充填量を必要とし、よって、耐衝撃性等の物性や真空成形性等の二次加工性の著しい低下を招くという欠点があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、難燃性、耐衝撃性、二次加工性に優れた耐燃焼性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐燃焼性シートは、
耐燃焼性樹脂組成物からなる耐燃焼性層と、被覆層とが積層された耐燃焼性シートであって、
前記耐燃焼性層が、熱可塑性樹脂及び黒鉛を含む耐燃焼性樹脂組成物によって形成され、前記[耐燃焼性層の厚み]×[耐燃焼性層の熱伝導率]で規定する[耐燃焼性層の熱伝導量]が1.2mW/K以上であり、
前記被覆層が熱可塑性樹脂組成物で形成されていることを特徴とする。
このような耐燃焼性シートでは、
前記耐燃焼性層が、アクリル系加工助剤をさらに含む耐燃焼性樹脂組成物によって形成されてなることが好ましい。
前記被覆層が、衝撃改質剤と加工助剤とを含む塩化ビニル系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物によって形成されてなることが好ましい。
前記被覆層が、スチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物によって形成されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性、耐衝撃性、二次加工性に優れた耐燃焼性シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の耐燃焼性シートは、耐燃焼性層と被覆層とが積層されて構成される。耐燃焼性層は、熱伝導率の異なる複層構造であってもよい。
本発明では、耐燃焼性シートを鉄道車両等の内装材などとして使用する場合、乗客側に露出する面をその表面と称する。また、耐燃焼性効果を効率的に発現させるために、被覆層を耐燃焼性層の裏面側に配置することが好ましい。ただし、目的に応じて、耐燃焼性層の表裏面の双方に被覆層が積層された3層構造であってもよいし、これらの層が交互に積層されるなどの4層以上の積層構造であってもよい。
耐燃焼性層及び/又は被覆層の表層面には、印刷加工が施されていてもよいし、加飾層が設けられてもよい。これにより、熱可塑性樹脂が有する優れた加工特性を発揮させることができる。また、これらの層以外に、保護層、反射防止層などの種々の機能層が形成されていてもよい。
【0010】
耐燃焼性層は、耐燃焼性樹脂組成物によって形成されていればよく、少なくとも、熱可塑性樹脂と黒鉛とを含む層からなり、後述する熱可塑性樹脂と黒鉛との組合せだけでなく、例えば、熱可塑性樹脂と銅、アルミなどの微粒子もしくは微細繊維などの種類の異なる充填材とで構成されている層及び黒鉛を含む層の組合せによる複層構造であってもよい。このように、特定の材料を組み合わせることにより、材料自体が有する優れた特性を十分に発揮させることができる。例えば、鉄道車両等の内装材として、難燃性を向上させることができる。
【0011】
ここで、黒鉛とは、特に限定されず、従来公知の種々のものを用いることができ、天然黒鉛、人工的に作製された黒鉛のいずれを使用してもよい。例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状(塊状)黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛、熱分解黒鉛等が挙げられる。これらの黒鉛は、精錬、乾燥、焼成、粉砕及び/又は分級したもののいずれであってもよい。粉砕処理は、特に限定されず、例えば、ロッドミル、ボールミル、ジェットミル等の従来公知の装置を用いて行うことができる。
このように、黒鉛を熱可塑性樹脂に添加することにより、耐燃焼性シートにおいて、著しく耐燃焼性を向上させることができる。このため、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠した方法で行った燃焼試験において、試験体への着火を抑制する効果を発現させることができる。
【0012】
上記黒鉛の原料となる炭素源は、特に限定されず、天然に存在するもの、人工的に作られたもの等、例えば、天然グラファイト、キッシュグラファイト等のいずれであってもよい。
黒鉛の原料となる炭素源及び後述するコークスの形状は、固体状、粉末状等のいずれであってもよい。
【0013】
鱗状黒鉛は、天然に産出される黒鉛の一種であり、従来公知のものであり、特に限定されず、いかなるものも使用することができる。鱗状黒鉛は粒子のアスペクト比が大きく、厚み方向よりも面方向へ熱を逃がしやすく、内装材の難燃性を向上させるため好ましい。また、鱗状黒鉛の中には、さらにアスペクト比の大きな鱗片状黒鉛や薄片化黒鉛が含まれる。一般に鱗片状黒鉛のアスペクト比は30程度、薄片化黒鉛のアスペクト比は100程度である。
【0014】
人造黒鉛は、原料となる炭素源を高温で加熱することにより、人工的に作られた黒鉛であり、従来から公知のものであれば、特に限定されずいかなるものをも使用することができる。例えば、コークスを熱処理することで得られる黒鉛には、コークスとコールタール等のバインダーを2000℃以上の高温で熱処理して作製された人造黒鉛電極を粉砕して作製されるものを含む。コールタール等のバインダーを含まないものが、熱伝導率が高くなり好ましい。
【0015】
膨張黒鉛とは従来公知のものであり、特に限定されず、いかなるものをも使用することができる。通常、黒鉛を化学処理することにより製造されたものである。例えば、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とを利用して、黒鉛の層間に無機酸を挿入し、酸処理をして得られる炭素の層状構造を維持した結晶化合物等が挙げられる。
【0016】
膨張化黒鉛とは、上記膨張黒鉛を膨張させたものであり、膨張させる方法としては、特に限定されない。例えば、炉の中で数百度〜千度程度の温度で数分〜数時間、加熱処理を施して膨張させる方法等が挙げられる。
膨張化黒鉛は、膨張黒鉛を膨張させた後、粉砕処理をした黒鉛の層間が開くことにより黒鉛の表面積が大きくなり、よって、耐燃焼性シート成形後において黒鉛同士がより近接する確率を高めると考えられる。
【0017】
熱分解黒鉛は、原料となる炭素源を高温で加熱することにより、人工的に作られた黒鉛であり、従来から公知のものであれば、特に限定されずいかなるものをも使用することができる。熱分解黒鉛は、例えば、コークス原料を2000〜3000℃以上の高温で熱処理して作製するか、黒鉛を炭化水素雰囲気中で高温(2000〜3000程度)で加熱することにより、炭化水素の分解重合等で黒鉛表面に炭素が沈積することによって作製されたりするものを含む。上記黒鉛は、特に限定されず、天然に存在するもの、人工的に作られたもの等、例えば、天然グラファイト、キッシュグラファイト等のいずれであってもよい。黒鉛及びコークスの形状は、固体状、粉末状等のいずれであってもよい。
熱分解黒鉛は薄い形状と高温処理による高黒鉛化度により耐燃焼性が高まるため、特に好ましい。
なお、熱分解黒鉛は、コークスを熱処理することで得られる黒鉛として、SiCを製造する際に2000℃以上の高温で熱処理されるコークス粉末なども包含され、不純物が少なく、熱伝導率が高まる傾向にあるため、特に好ましい。
【0018】
用いる黒鉛の大きさ及び形状等は特に限定されないが、熱可塑性樹脂との分散性及び/又は物性発現性を考慮すると、その平均粒径は、500μm程度以下、さらに300μm程度以下とすることが好ましい。後述する熱伝導率を考慮すると、大きいものの方が黒鉛同士の接触確率が増え(熱伝導の低い熱可塑性樹脂などの物質との接触確率が減る)、熱伝導率が上がるため好ましい。熱伝導率をある程度確保するために、15μm程度以上が好ましい。成形体中での分散性及び成形性等を良好に保つためには、25μm〜200μm程度がより好ましく、30〜100μm程度が特に好ましい。平均粒径が小さすぎると、かさ比重が大きくなり、取扱いに不都合が生じることがある。ここで、粒径は、例えば、黒鉛をTHF溶液中に充分分散させ、レーザー回折式粒度分布計SALD−2200(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0019】
また、本発明の耐燃焼性シートが鉄道車両用の内装材として使用された場合、火災時の炎からの熱をすばやく逃がすことで着火を遅らせるという観点から、黒鉛の形状は、球状よりは薄板形状が好ましく、これによって、厚み方向よりも面方向へ熱を逃がしやすくなり、内装材の難燃性を向上させることができる。このために、アスペクト比の大きいものが好ましい。また、特に、耐燃焼性シートを鉄道車両の内装材として用いる場合、径の長い黒鉛を、内装材の面方向に沿って配向させることが好ましい。これによって、炎からの熱を効率的に逃がすことが可能となる。
【0020】
黒鉛の黒鉛化度は、後述するX線回折の半値幅で直接測定される結晶性の指標であり、黒鉛においてはその値が高ければ(半値幅が小さければ)熱伝導率が高くなり、難燃性を向上させるという観点から、高いものがより好ましい。同様の目的から、黒鉛の不純物は少ないものがより好ましい。
黒鉛化度は、例えば、以下の方法によって相対的な大きさを測定することができる。
X線回折で2θが52°〜57°付近に現れる最も大きなピークの半値幅(FWHM)を測定し、この値が小さいほど黒鉛化度が高いという指標となる。
例えば、ブルガーAXS社製のX線回折装置を用いてこの半値幅を測定すると、土状黒鉛は0.47、人造黒鉛は0.53と半値幅が大きく、黒鉛化が進んでいないが、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、熱分解黒鉛は0.23程度と小さく、黒鉛化度が高いため、熱伝導率が高まり、好ましい。なかでも、高黒鉛化のみならず、より薄く、不純物も少ないことから、熱分解黒鉛が特に好ましい。
本発明で用いる黒鉛の黒鉛化度は限定されないが、上述した半値幅の値が0.4以下であることが適しており、好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0021】
黒鉛は、熱可塑性樹脂を含む耐燃焼性樹脂組成物に対して、その含有量が多くなると、耐燃焼性樹脂組成物、この組成物からなるシート(単層)及び本発明の耐燃焼性シート等の熱伝導率を上昇させる。よって、黒鉛の添加量は、一観点から、耐燃焼性樹脂組成物の熱伝導率、つまり、耐燃焼性樹脂組成物を単層とした場合の熱伝導率が0.5W/m・K以上になる範囲で添加されることが適している。鉄道車両の内装材として使用される場合など、より高い難燃性を付与するためには、2.2W/m・K以上が好ましく、3.8W/m・K以上がより好ましく、6.1W/m・K以上がさらに好ましい。
耐燃焼性層が他の層と積層等される場合には、その材料や厚みにもよるが、通常、熱伝導率が所定の範囲で低下することが確認されている。よって、塩化ビニル樹脂などのラミネートにより加飾を施す場合には、その積層構造において、特に4.6W/m・K以上が好ましい。
熱伝導率の上限は25W/m・K以下が適しており、13W/m・K以下、さらに8W/m・K以下が好ましい。
なお、黒鉛の種類又は状態等によって、上述した熱伝導率を得るための含有量が変動することがあるため、例えば、黒鉛は、後述する添加量を加味して、適宜調整することが好ましい。
【0022】
本発明において、熱伝導率は、以下のように測定した値を意味する。
試験片の作製方法としては、1例として、樹脂組成物を二軸押出機に供給し、溶融混練して所定の厚み(例えば、1mm〜数十mm、具体的には、3.2mm)のシートを得る方法がある。
別の例として、樹脂組成物を、混練機に供給し、温度185程度で溶融混練して、厚さ1mmのシートを得る。次いで、この複数枚を積層して熱プレス成形機に供給し、温度190、20MPaで加圧し、3.2mmのシートを得る方法である。
なお、熱伝導率は材料固有の値であるが、測定対象層の厚みが約10mm以下である場合又は積層構造の場合には下地の影響を受けることがある。測定対象層が約10mm以下の場合又は積層構造のシートの場合には測定対象層のみを単離して試験片としてもよい。
そして、上述した試験片を、熱伝導率が既知である標準板(シリコン、石英、ジルコンレンガ)の上に試験片を密着させて重ね、室温で、熱伝導率計を用いて、試験片の表面にプローブを当てて熱伝導率を測定する。ここで、熱伝導率計としては、Kemtherm.QTM−D3(商品名)(京都電子工業株式会社製)を用いることができる。
続いて、標準板の熱伝導率と、測定された熱伝導率の偏差をプロットし、得られる直線と偏差=0との交点より熱伝導率を求める。
【0023】
本発明の耐燃焼性シートにおいて、耐燃焼性を有効に発現させるためには、上述した耐燃焼性層の熱伝導率を所定の範囲に調整することが適しているが、さらに、その耐燃焼性層の熱伝導率に、耐燃焼性層の厚みを考慮することが好ましい。
耐燃焼性層の総厚みは、単層及び2層以上の積層構造のいずれにおいても、その材料、求められる特性等によって適宜調整することができ、特に限定されるものではないが、例えば、0.1mm以上が挙げられる。また、耐燃焼性層の総厚みは、0.2mm以上が適しており、0.8mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましい。耐燃焼性の総膜厚が小さすぎると、耐燃焼性層の熱伝導率を高めても耐燃焼性を発現しにくくなる傾向がある。
従って、熱の分散に寄与する耐燃焼性層の総厚みが0.2mm以上であり、かつ[耐燃焼性層の厚み]×[耐燃焼性層の熱伝導率]で規定する[耐燃焼性層の熱伝導量]を1.2mW/K以上に調整することが適している。また、耐燃焼性層の熱伝導量が、2.9mW/K以上であることが好ましく、5.2mW/K、9.1mW/K以上がより好ましく、11.0mW/K、14.3mW/K以上が特に好ましい。
なお、耐燃焼性層が、熱伝導率の異なる複層の耐燃焼性層から構成されている場合には、[耐燃焼性層の熱伝導量]=[第1層の耐燃焼層の厚み]×[第1層の耐燃焼性層の熱伝導率]+[第2層の耐燃焼層の厚み]×[第2層の耐燃焼性層の熱伝導率]+・・・+[第n層の耐燃焼層の厚み]×[第n層の耐燃焼性層の熱伝導率]を意味する。
【0024】
また、別の観点から、黒鉛の添加量は、耐燃焼性樹脂組成物の全重量に対して、10.0重量%以上であることが好ましい。より好ましくは20.0重量%以上であり、さらに好ましくは40.0重量%である。表層に塩化ビニル樹脂ポリ塩化ビニルのラミネートなどの加飾を施す場合は、好ましくは50重量%、より好ましくは59.1重量%、65重量%以上が特に好ましい。添加しすぎると、成形性が悪化することがあるため、80重量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは70重量%以下である。よって、10〜80重量%で含有されることが適しており、好ましくは、15〜70重量%、20〜70重量%、さらに好ましくは、20〜65重量%又は35〜70重量%である。この範囲とすることにより、適切な熱伝導率及び難燃効果を得ることができるとともに、成形性の低下を防止することができる。
特に、黒鉛の添加量は、上述したような熱伝導率の大小を支配するが、後述するような形状、耐燃焼性シートの製法等によっても影響されるため、上述した熱伝導率を示し、かつ、上述した添加量となる範囲で適宜調整することがより好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂としては、従来公知のものであり、特に限定されず、種々のものを用いることができる。ただし、ここでの熱可塑性樹脂は、一般に加工助剤として機能する樹脂、特に後述する加工助剤を除く。例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂〔例えば、ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレンを含む)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル−アクリレート−スチレン(AAS)樹脂等〕、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル系樹脂、塩素化塩化ビニル系樹脂、エチレン系共重合体〔例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸メチルコポリマー(EMA)、エチレン−アクリル酸エチルコポリマー(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチルコポリマー(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー(EMMA)、上述したAESも含む等〕などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、黒鉛添加による耐衝撃性の低下、真空成形性等の二次加工性の低下を補うことができ、耐燃焼性に優れる塩化ビニル系樹脂、耐衝撃性、二次加工性に優れる塩素化ポリオレフィン等が好ましい。また、塩化ビニル系樹脂を用いた場合には、塩化ビニル系樹脂を含有する被覆層を積層する点においても、層間接着がより強固となり有利である。
本発明で用いる熱可塑性樹脂の分子量は特に限定されないが、例えば、1万〜100万程度の重量平均分子量が挙げられる。この重量平均分子量は、スチレン系エラストマーのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である(以下、重量平均分子量の測定方法について同じ)。特に、(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量の測定方法では、具体的に以下の条件で測定した値とすることができる。 装置:HLC−8120(東ソー社製)、 溶媒:THFを用い、分子量が既知のポリスチレンの分子量によって検量線を作製する。 カラムは、各分子量によって適宜選択する。例えば300万以上の場合は、 使用カラム:GMHHR−H(30)×2本 溶媒:THF、サンプル濃度:0.05%、注入量:50μl、流量:0.5ml/minとするが、分子量により、サンプル濃度なども調整する。
【0026】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独重合体(塩化ビニルホモポリマー)、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマー(好ましくは、50重量%以上含む)との共重合体、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられる。これら重合体は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0027】
塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
塩化ビニル樹脂をグラフト共重合する重合体としては、塩化ビニル樹脂をグラフト重合させるものであれば特に限定されず、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記塩化ビニル系樹脂の重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を利用することができる。例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。
【0030】
塩素化塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系モノマーの重合前に塩素化を行ったものを用いて重合したものでもよいし、塩化ビニル系樹脂を重合した後、塩素化を行ったものでもよい。 塩化ビニル系樹脂の塩素化方法としては、特に限定されず、従来公知の塩素化方法を利用することができる。例えば、熱塩素化方法、光塩素化方法等が挙げられる。
【0031】
上記塩化ビニル系樹脂の重合度は、小さくなると機械的物性が低下する傾向があり、大きくなると成形性が悪化する傾向があるため、400〜2500程度が好ましく、より好ましくは600〜2000程度、600〜1600程度である。
重合度を調整する方法としては、主に重合温度等が例示される。一般に重合温度が高いほど重合度は低くなる。重合度は、JIS K 6720−2に準拠して測定することができる。
【0032】
塩素化ポリオレフィン、例えば、塩素化ポリエチレンは、ポリエチレンの一部を塩素化したものであり、一般に単独で柔軟性、耐候性、耐熱老化性、難燃性、耐薬品性に優れるエラストマーとして使用される。また、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、ABSなどの汎用樹脂又はEPDM、クロロスルホン化ポリエチレン、クロロプレン、SBRなどのゴム類の物性改良剤として使用される。中でも塩素化ポリエチレンが好適に用いられる。塩素化ポリエチレンは、従来公知の塩素化方法を利用して得ることができる。
【0033】
樹脂成分に黒鉛を添加すると、弾性率が著しく上昇し、組成物全体が剛直となるため、耐衝撃性や二次加工性に必要な高温での伸び性が低下することがある。特に、塩素化ポリエチレンを用いることによって、黒鉛の添加により硬く、脆くなったマトリックス中で網目構造をとり、柔軟性を付与することで、黒鉛で低下した耐衝撃性を効率よく補うことができ、高温での伸び性向上効果を発現すると考えられる。
塩素化ポリエチレンは、5万〜40万程度の重量平均分子量が適しており、比較的高い範囲(例えば、32万程度以上)であることが好ましい。また、塩素化度は、20%〜40%程度が適している。さらに、15万〜35万程度の分子量かつ25%〜36%の塩素化度であることが好ましい。
特に、耐燃焼性樹脂組成物に他の樹脂が含有されている場合には、分子量をこの範囲とすることにより、他の樹脂(例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリレート重合体等)との分子鎖レベルでの絡み合いを発現させて、相溶性を向上させることができる。また、塩素化度を比較的高める(例えば、34%程度以上)ことによって、特に、他の樹脂(例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル系加工助剤等)に近い極性を付与し、相溶性を向上させることができると考えられる。
【0034】
上記熱可塑性樹脂の添加量は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、真空成形などの二次加工性、成形性及び燃焼性を考慮して適宜調整することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂は、全耐燃焼性樹脂組成物に対して、1重量%以上、好ましくは5重量%、さらに好ましくは8重量%以上、特に好ましくは15重量%以上である。また、上限としては、85重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。添加量が少なすぎると、物性が悪化する傾向がある。また、添加量が多すぎると、黒鉛、他の樹脂等の量が減少するため、燃焼性、二次加工性が低下する場合がある。
【0035】
耐燃焼性樹脂組成物には、二次加工性を改善するアクリル系加工助剤が添加されていることが好ましい。アクリル系加工助剤を添加することにより、特に、真空成形性を向上させることができる。アクリル系加工助剤は、種々の耐燃焼性樹脂組成物との相溶性にも優れている。
アクリル系加工助剤としては、(メタ)アクリレート重合体が挙げられる。(メタ)アクリレート重合体は、アクリレート系モノマー又はメタクリレート系モノマーを主体とする重合体の総称であり、加工助剤などの役割を果たす。
例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマーの単独重合体もしくは共重合体;上記(メタ)アクリレート系モノマーとスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル等の他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
アクリル系加工助剤の添加量は、黒鉛の添加量、黒鉛の添加で低下した真空成形などの二次加工性、成形性及び燃焼性を考慮して適宜調整することができる。
耐燃焼性樹脂組成物において、黒鉛の含有量が多くなると、成形性の低下を防ぐ目的から(メタ)アクリレート重合体の添加量の添加量も増やす必要がある。一方で、表層に塩化ビニル樹脂のラミネートなどの加飾を施す場合や、車両燃焼性試験において着火がない(不燃)と判断されるためには、さらに、黒鉛の添加量(組成物に占める割合)を増やす必要があるため、添加可能な(メタ)アクリレート重合体量が制限される。よって、(メタ)アクリレート重合体の添加量は、耐燃焼性樹脂組成物の全重量に対して、1重量%以上、好ましくは4重量%、さらに好ましくは12重量%以上、特に好ましくは23重量%以上である。また、上限はとしては、60重量%以下、好ましくは40重量%以下、30重量%以下である。例えば、1〜60重量%、4〜40重量%、12〜40重量%、12〜30重量%等が挙げられる。この範囲に設定することで、黒鉛を添加したことによる耐燃焼性の向上と、二次加工性を両立することができる。添加量が多すぎると熱可塑性樹脂の量(割合)が減少するため、より物性が悪化する方向になる。
【0037】
耐燃焼性樹脂組成物の真空成形は、一般に、樹脂組成物の表面温度が180℃〜220℃程度に加熱されて行われる。このような高温状態では耐燃焼性樹脂組成物、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂の張力が低下し、破断しやすくなることがある。そのため、高温領域でより張力の高い(メタ)アクリレート重合体が好適に使用される。無機物、特に黒鉛などの非球状タイプの無機物を添加すると、高温で破断しやすくなるため、(メタ)アクリレート重合体の添加が有効である。
高温での伸びを向上させる化合物としては、NBR、エルバロイ等の熱可塑性エラストマー、DOP等の可塑剤も使用できるが、高温での張力付与等の観点から(メタ)アクリレート重合体が特に好ましい。
【0038】
上記(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は特に限定されない。ただし、高温での張力がより高くなるという観点で、より高分子量のものが好ましい。例えば、100万以上が好ましく、さらに好ましくは300万以上である。一方、分子量が高くなりすぎると成形性や物性に悪影響を及ぼすため、600万以下が好ましい。さらに好ましくは500万以下である。
【0039】
耐燃焼性樹脂組成物には、耐衝撃性に優れる衝撃改質剤が添加されていることが好ましい。
衝撃改質剤としては、当該分野で通常用いられているものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)、塩素化ポリエチレン(CPE)、ABS樹脂、アクリル系改質剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ここでアクリル系改質剤とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの1種からなる群から選択される少なくとも1つアクリル系共重合体で、特にアクリル成分が主成分であり、架橋して球状になったものをいう。なかでも、黒鉛の添加により硬く、脆くなったマトリックス中で網目構造を採り、柔軟性を付与することで、黒鉛で低下した耐衝撃性を効率良く補うことができる塩素化ポリエチレンが好適に用いられる。
衝撃改質剤の添加量は、黒鉛の添加量、衝撃改質剤の種類等を考慮して適宜調整することができる。
【0040】
本発明の耐燃焼性樹脂組成物には、上述したアクリル系加工助剤及び/又は衝撃改善剤の他に、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、燃焼抑制効果を補助する目的で難燃剤、熱安定剤、安定化助剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
難燃剤としては、例えば、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、三酸化モリブデン、二硫化モリブデン、アンモニウムモリブデート等のモリブデン化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロムエタン等の臭素系化合物、トリフェニルフォスフェート、アンモニウムポリフォスフェート等のリン系化合物などが挙げられる。
【0042】
熱安定剤としては、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫系安定剤、鉛白、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、シリカゲル共沈硅酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛系安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤、ハイドロタルサイト、ゼオライト等の無機系安定剤が挙げられる。
【0043】
安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。
【0044】
滑剤としては、特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。
【0045】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、ホスファイト系抗酸化剤等が挙げられる。
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。
【0046】
添加剤の添加方法及び添加順序は、特に限定されるものではなく、任意の方法及び順序とすることができる。例えば、添加方法としては、特に限定されず、塩化ビニル系樹脂に、ホットブレンド法、コールドブレンド法等により添加することができる。
【0047】
本発明の耐燃焼性シートにおける被覆層は、熱可塑性樹脂を含む熱可塑製樹脂組成物によって形成されることが適しており、さらに、衝撃改質剤及び/又は加工助剤を含む熱可塑性樹脂組成物で形成されていることが好ましく、熱可塑性樹脂、衝撃改質剤及び加工助剤を含む熱可塑性樹脂組成物で形成されていることがより好ましい。
熱可塑性樹脂及び衝撃改質剤は、上述したものの中から1種以上を適宜選択することができる。なかでも、熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂及び/又は塩化ビニル系樹脂を用いることが好ましい。スチレン系樹脂は、上述したものの他、上述したスチレン系樹脂と他の樹脂とのポリマーアロイも含まれる。例えば、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ(PC/ABS)、ポリカーボネート樹脂とAES樹脂とのアロイ(PC/AES)等が挙げられる。
加工助剤としては、上述したアクリル系加工助剤が好ましい。
この場合、熱可塑性樹脂100重量部に対して、衝撃改質剤は、耐衝撃性の改善、耐熱性、機械的強度等を考慮して、1〜30重量部が適しており、好ましくは3〜20重量部である。加工助剤は、真空成形性及びシートの表面平滑性の向上を考慮して、1〜30重量部が適しており、好ましくは3〜20重量部である。
【0048】
衝撃改質剤及び加工助剤の好ましい組み合わせは、(MBS樹脂)と重量平均分子量が100万〜600万の(メタ)アクリレート重合体、塩素化ポリエチレン(CPE)と重量平均分子量が100万〜600万の(メタ)アクリレート重合体、アクリル系衝撃改質剤と重量平均分子量が100万〜600万の(メタ)アクリレート重合体又はこれらの組み合わせ等が例示される。
このような構成とすることにより、難燃性、物性、二次加工性に優れた耐燃焼性シートを得ることができる。
被覆層を構成する熱可塑製樹脂組成物は、耐燃焼性樹脂組成物と同様に、種々の添加剤を添加してもよい。
【0049】
なお、本発明の耐燃焼性シートは、上述したように、鉄道車両等の内装材などに使用された場合に、乗客側に露出する面をその表面と称するが、その表面に対する着火性等によって燃焼性が評価される。例えば、鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)の第5節車両の火災対策等第83条に準拠した方法で行う燃焼試験が、この評価の一つの指標となる。
【0050】
本発明の耐燃焼性シートは、当該分野で公知の任意の方法によって形成することができる。例えば、耐燃焼性層及び被覆層を別個にシート状に形成し、両者を張り合わせる方法、耐燃焼性層又は被覆層のいずれか一方をシート状に形成し、他方の原料を塗布する方法、耐燃焼性層及び被覆層を、インフレーション法、Tダイ法等の公知の方法で共押出することにより積層一体化方法などが挙げられる。
【0051】
耐燃焼性層及び被覆層の厚みは、特に限定されず、任意の厚みとすることができる。
耐燃焼性層は厚ければ厚い程、耐燃焼性効果が大きくなり、黒鉛の添加量を抑制することができる。これは耐衝撃性等の物性、真空成形性等の二次加工性の面で有利に働く。
被覆層の組成及び厚みは、耐燃焼性層の厚み、黒鉛の添加量等に応じて、さらに上述した熱伝導量等をも考慮して、決定すればよい。これによって、耐燃焼性を阻害せずに効率よく物性及び二次加工性を補うことができる。
耐燃焼性シートを鉄道車両等の内装材として使用する場合は、耐燃焼性効果を効率的に発現させるために、被覆層を耐燃焼性層の裏面側に配置することが好ましい。上述したように、表面に被覆層や印刷、加飾層等の種々の機能層を設けることも可能である。これらの被覆層等は、耐燃焼性を考慮して、難燃性の高い材料(例えば、塩化ビニル樹脂等)を使用することが好ましく、耐燃焼性を阻害しない範囲で、つまり耐燃焼性に対する影響が少なくなるように、あるいは、上述した範囲内で熱伝導率がなるべく高くなるように、最小限の厚みとすることが好ましい。例えば、被覆層等の厚みとしては、3mm程度以下が挙げられ、0.5mm以下程度に抑えることが適しており、好ましくは0.05〜0.3mmである。
【0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。なお、実施例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準の値を示す。また、表中の各成分の組成は、特に断りのない限り重量%を示す。
本発明の実施例及び比較例において使用した材料は以下の通りである。
(1)塩化ビニル樹脂:徳山積水工業社製、商品名「TS−800E」、重合度800 (2)塩素化ポリエチレン(CPE):ダウケミカル社製、商品名「タイリン3615P」
(3)衝撃改質剤:メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体(MBS)、カネカ社製、商品名「M511」
(4)加工助剤((メタ)アクリレート重合体):
商品名「メタブレンP−530A」、三菱レイヨン社製、分子量310万 商品名「メタブレンP−570A」、三菱レイヨン社製、分子量40万
商品名「メタブレンP−501A」、三菱レイヨン社製、分子量80万
商品名「メタブレンP−551A」、三菱レイヨン社製、分子量150万
商品名「カネエースPA60」、カネカ社製、分子量390万
(5)熱安定剤:商品名「TVS #1380」(日東化成工業社製)
(6)滑剤1:HW220MP(商品名「Hiwax220MP」、三井化学社製)
(7)滑剤2:ステアリン酸(商品名「ルナックS30」、花王社製)
(8)滑剤:G70S(商品名「LOXIOL G70S」、エメリーオレオケミカルズジャパン社製)
(9)黒鉛:
熱分解黒鉛(商品名「PC99−300M」、伊藤黒鉛社製、平均粒径42μm)
熱分解黒鉛(商品名「PC10」、伊藤黒鉛社製、平均粒径10μm)
熱分解黒鉛(商品名「PC60」、伊藤黒鉛社製、平均粒径30μm)
鱗状黒鉛(商品名「CFW18AK」、中越黒鉛社製、平均粒径18μm)
鱗状黒鉛(商品名「CFW100」、中越黒鉛社製、平均粒径100μm)
鱗状黒鉛(商品名「CFW300」、中越黒鉛社製、平均粒径300μm)
膨張後粉砕黒鉛(商品名「CS−F400」、丸豊鋳材社製、平均粒径200μm)
人造黒鉛(商品名「4443」、ASBURY社製、平均粒径300μm)
鱗状黒鉛(商品名「F#2」、日本黒鉛工業社製)
(10)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA):商品名「エバフレックスEV−260」、三井デュポンポリケミカル(株)社製(酢酸ビニル含有率 28重量%)
(11)PC/ABS:(商品名「テクニエースT−105」、日本エイアンドエル社製)
(12)アルキル(メタ)アクリレート、4フッ化エチレン混合物:商品名「メタブレンA−3000」、三菱レイヨン社製
(13)ABS樹脂:
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂シート、Allen社製、商品名「ABS 556/499」
商品名「クララスチックGA−501」、日本エイアンドエル社製
(14)AES樹脂:商品名「ユニブライトUB−700A」、日本エイアンドエル社製
(15)耐衝撃性ポリスチレンシート:商品名「FR HIPS」、Allen Extruders, LLC製
【0053】
A.実施例及び比較例 表1に示した所定量(重量%)の各成分を、20Lスーパーミキサー(カワタ社製)に供給し、攪拌混合して樹脂組成物を得た。
【0054】
得られた樹脂組成物を8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度185℃で溶融混練して、厚さ1mmのロールシートを得た。
次いで、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧し、表1に記載した厚みのB5プレスシート(耐燃焼性層又は被覆層)を得た。
さらに、耐燃焼性層と被覆層(裏側)とを重ね合わせ、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧し、表1に記載した厚さのB5プレスシートを得た(耐燃焼性シート)。
なお、加飾層は、得られた耐燃焼性シートと塩化ビニル樹脂製ラミネートフィルム(厚さ120μm)を熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧して、耐燃焼性シートの耐燃焼性層の表面に形成した。
【0055】
次いで、耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット)、引張破断伸び率、車両燃焼試験を以下の方法で評価した。
<耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット)>
得られたB5プレスシートを切断して試験片を作成し、ASTM D−256に準拠して、23℃で測定した。
【0056】
<引張破壊伸び率>
(ダンベル作製)
得られたB5プレスシートを切断し、JIS K6741(2004)の図1に記載されている呼び径25以下の管から切り出される引張ダンベル形状と同サイズのダンベルを作製した。
(測定)
JIS K7113に準拠して、130℃で引張試験を行った。 試験機は島津製作所社製オートグラフAGS−Jを使用し、試験速度は500mm/min、状態調節は2時間とした。
(引張破壊伸び率の算定)
標線間距離a(mm)を23℃にて測定した。ダンベルが破壊するまで引張試験を行い、引張試験前後のチャック移動距離をb(mm)とし、b÷a×100(%)を引張破壊伸び率とした。高温での引張破壊伸び率は真空成形などの二次加工性を反映することから真空成形性の代用評価法として本評価を用いた。
【0057】
<車両燃焼試験>
着火:「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠して評価した。
アルコールの炎を接触させる面はすべて耐燃焼性層側からである。
判定基準:
◎:着火無し(不燃相当)
○:着火時間が70秒以上であり、着火後の火勢も弱い(極難燃相当)
△:30秒を超え、70秒未満に着火(難燃相当)
×:30秒以内に着火
【0058】
B.実施例及び比較例
表2に示した所定量(重量%)の各成分を、20Lスーパーミキサー(カワタ社製)に供給し、攪拌混合して樹脂組成物を得た。
【0059】
得られた耐燃焼性樹脂組成物を、SLM50二軸押出機(長田製作所社製)に供給し、さらに、40mmシングル押出機に被覆層用の樹脂組成物を供給、樹脂温度185℃で溶融混練して、マニフォールド二層金型を使用し、二層構成の耐燃焼性シートを得た。
なお、加飾層は、得られた耐燃焼性シートと各ラミネートフィルムを熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧して、耐燃焼性シートの表面に形成した。
表2のラミネートフィルムは、以下のとおりである。
ラミ(1) 塩化ビニル樹脂ラミネートフィルム 120μm、熱伝導率0.2W/m・K
ラミ(2) アクリル樹脂ラミネートフィルム 40μm、熱伝導率0.2W/m・K
ラミ(3) 塩化ビニル樹脂ラミネートフィルム 180μm、熱伝導率0.2W/m・K
【0060】
次いで、上記と同様に、耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット)、引張破断伸び率を測定し、車両燃焼試験を行った。
なお、引張破壊伸び率における判定基準は、以下のとおりとした。
◎○:130℃引張破壊伸び率が400%以上
◎:130℃引張破壊伸び率が200%以上400%未満
○:130℃引張破壊伸び率が100%以上200%未満
△:130℃引張破壊伸び率が30%以上100%未満
×:130℃引張破壊伸び率が30%未満
【0061】
また、熱伝導率及び成形体中の黒鉛の平均粒径を以下の方法で評価した。
(熱伝導率)
得られたシートを切断し、150×100mmのシートを試験片とした。
室温で、熱伝導率計(商品名Kemtherm.QTM−D3(商品名)京都電子工業株式会社製)を用いて、熱伝導率が既知である標準板(シリコン、石英、ジルコンレンガ)の上に試験片を密着させて重ね、試験片(単層)の表面にプローブを当てて伝導率を測定した。
具体的には、熱伝導率が1.4以上の場合、石英標準板上にサンプルを密着させ、その上にプローブを置いて2分間静置後、測定を行った。測定後、プローブをアルミ放冷板上に2分間静置し、続いて、ジルコンレンガ標準板上にサンプルを密着させ、その上にプローブを置いて2分間静置後、測定を行った。
続いて、他のサンプルの測定を行う場合は、プローブをアルミ放冷板上に15分間静置した後、上記の操作を行った。
標準板の熱伝導率と、測定された試験片の熱伝導率の偏差をプロットし、得られる直線と偏差=0との交点より熱伝導率を求めた。
熱伝導率の算出にはQTM−D3(京都電子工業製)ソフトを用いた。
【0062】
(成形体中の黒鉛の平均粒子径)
得られた耐燃焼性シート30mgをTHF30gに溶解し(質量%濃度0.1%)、黒鉛を溶液中に分散させた状態とし、黒鉛の粒度分布をレーザー回折式粒度分布計SALD−2200(島津製作所)を用いて測定した。表には黒鉛の体積平均粒子径(μm)を記載した。
【0063】
C.実施例及び比較例
表3に示した被覆層の所定量(重量%)の各成分を、20Lスーパーミキサー(カワタ社製)に供給し、攪拌混合して樹脂組成物を得た。
【0064】
得られた樹脂組成物を8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度185℃で溶融混練して、被覆層用のロールシートを得た。
同様に表3に示した耐燃焼層の所定量(重量%)の各成分を8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度170℃で溶融混練して、耐燃焼層用のロールシートを得た。
次いで、各層の厚みに応じた型枠内に設置して熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧し、表に示す各厚みのB5判サイズのプレスシートを得た。 得られた各耐燃焼性層及び被覆層と加飾層を重ね合わせて厚さ3.5mmの型枠内に設置し、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧してB5判サイズのプレスシートを得た(3層シート)。
加飾層は厚み0.2mmの塩化ビニル樹脂ラミネートフィルムを使用した。
なお、比較例は、上記と同様にして、単層のB5判サイズのプレスシートとした。
【0065】
次いで、耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット)、引張破断伸び率を上記と同様に測定し、車両燃焼試験を上記と同様にして行った。
【0066】
D.実施例及び比較例
表4に示した所定量(重量%)の各成分を、20Lスーパーミキサー(カワタ社製)に供給し、攪拌混合して樹脂組成物を得た。
【0067】
得られた樹脂組成物を8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度185で溶融混練してロールシートを得た。
次いで、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190、20MPaで加圧し、各厚みのB5プレスシートを得た。
加飾層を有する耐燃焼性シートは、耐燃焼性層、被覆層及び加飾層を重ね合わせ、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190、20MPaで加圧し、B5プレスシートを得た(3層シート)。
また、耐燃焼性層と被覆層を重ね合わせ、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190、20MPaで加圧し、B5プレスシートを得た(2層シート)。
【0068】
次いで、耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット)、引張破断伸び率を上記と同様に測定し、車両燃焼試験を上記と同様にして行った。
【0069】
E.実施例及び比較例
(耐燃焼層)
表5に示した所定量(重量%)の各成分を、8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度170℃で溶融混練して、ロールシートを得た。 次いで、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧し、表5に記載した厚みのB5プレスシートを得た。
(被覆層:ABS、AES)
原料樹脂を8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度190℃で溶融混練して、ロールシートを得た。 次いで、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧し、表5に記載した厚みのB5プレスシートを得た。
(被覆層:PC/ABSアロイ)
原料樹脂を8インチミキシングロール混練機(安田精機社製)に供給し、温度220℃で溶融混練して、ロールシートを得た。 次いで、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度220℃、20MPaで加圧し、表1に記載した厚みのB5プレスシートを得た。
(被覆層:耐衝撃性ポリスチレンシート)
厚さ1mmおよび3.5mmのシート成形品を使用した。
(積層体の作製)
表5に記載した加飾層と耐燃焼性層と被覆層を重ね合わせ、熱プレス成形機(東邦マシナリー社製)に供給し、温度190℃、20MPaで加圧し、厚さ3.5mmのB5プレスシートを得た(3層シート)。加飾層は厚さ0.2mmのアクリル樹脂ラミネートフィルムを用いた。
【0070】
次いで、耐衝撃性(ノッチ付きアイゾット)、引張破断伸び率を上記と同様に測定し、車両燃焼試験を上記と同様にして行った。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【表2−5】

【0073】
【表3−1】

【表3−2】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の耐燃焼性シートは、耐燃焼性が要求されるあらゆる分野、例えば、車両等の内装材として、特に、鉄道車両、自動車、飛行機等の内装材として、その他、各種機能性を付与した機能性シート等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐燃焼性樹脂組成物からなる耐燃焼性層と、被覆層とが積層された耐燃焼性シートであって、
前記耐燃焼性層が、熱可塑性樹脂及び黒鉛を含む耐燃焼性樹脂組成物によって形成され、前記[耐燃焼性層の厚み]×[耐燃焼性層の熱伝導率]で規定する[耐燃焼性層の熱伝導量]が1.2mW/K以上であり、
前記被覆層が熱可塑性樹脂組成物で形成されていることを特徴とする耐燃焼性シート。
【請求項2】
前記耐燃焼性層が、アクリル系加工助剤をさらに含む耐燃焼性樹脂組成物によって形成されてなる請求項1に記載の耐燃焼性シート。
【請求項3】
前記被覆層が、衝撃改質剤と加工助剤とを含む塩化ビニル系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物によって形成されてなる請求項1又は2に記載の耐燃焼性シート。
【請求項4】
前記被覆層が、スチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物によって形成されてなる請求項1から3のいずれか1つに記載の耐燃焼性シート。

【公開番号】特開2011−140209(P2011−140209A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121848(P2010−121848)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】