説明

耐硫酸性セメント組成物およびそれを用いた補修方法

【課題】耐硫酸性、強度発現性などに優れたセメント組成物およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法を提供する。
【解決手段】セメント、スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物、およびアルカリ金属無機硫酸塩を含有する耐硫酸性セメント組成物であり、セメント100質量部に対して、スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物が0.5〜10質量部であることが好ましい。さらに、シリカフューム、スラグ、フライアッシュから選ばれる1種または2種以上の無機粉末を含有することが好ましい。また、前記耐硫酸性セメント組成物を使用したコンクリート構造物の補修方法や、前記耐硫酸性セメント組成物をライニングしたコンクリート二次製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、下水道や温泉地帯などにおける、硫酸によるコンクリート構造物の劣化箇所の修復をするための耐硫酸性に優れたセメント組成物およびそれを用いた補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や温泉地帯などでは、微生物や火山ガスの影響で硫化水素が発生し、これに水が介在すると硫酸となる。このような箇所では、硫酸や硫酸塩によるコンクリート構造物の腐食が問題となっている。コンクリートなどのセメント硬化体は、硫酸のような酸に接触すると、硬化体中に存在する水酸化カルシウムとの反応によってニ水石膏が生じ、さらにはエトリンガイトが生成し劣化が起きる。
このような劣化箇所の補修方法としては、劣化部をウォータージェットにより除去し断面修復してから樹脂ライニングを行う方法が多く実施されている。これに用いる断面修復材としては、高炉水砕スラグにポリマーを配合した材料(特許文献1)、アルミナセメントからなる材料(特許文献2、3)、高炉水砕スラグやシリカフュームなどの微粉末を多量に混和したセメントモルタルが使用されている(特許文献4)。また、アルミナセメントと高炉スラグ微粉末を用いた材料で、5μm以下のアルミナセメント粒子を25重量%以下とし、リチウム塩を含有する材料(特許文献5)、置換基としてスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物を含有する材料(特許文献6)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平03−290348号公報
【特許文献2】特開2003−89565号公報
【特許文献3】特開2004−292245号公報
【特許文献4】特開2000−128618号公報
【特許文献5】特開2002−293603号公報
【特許文献6】特開2003−292362号公報
【0004】
また、下水道に使用されるヒューム管などの二次製品においては、耐酸性を付与する目的でヒューム管内面に耐酸性に優れたシートや耐酸モルタルをライニングすることが提案されている(特許文献7)。
【0005】
【特許文献7】特開2001−88114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐硫酸性、強度発現性などに優れたセメント組成物およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、(1)セメント、スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物、およびアルカリ金属無機硫酸塩を含有する耐硫酸性セメント組成物、(2)セメント100質量部に対して、スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物が0.5〜10質量部である(1)の耐硫酸性セメント組成物、(3)さらに、シリカフューム、スラグ、フライアッシュから選ばれる1種または2種以上の無機粉末を含有することを特徴とする(1)または(2)の耐硫酸性セメント組成物、(4)(1)〜(3)のいずれかの耐硫酸性セメント組成物を使用したコンクリート構造物の補修方法、(5)(1)〜(3)のいずれかの耐硫酸性セメント組成物をライニングしたコンクリート二次製品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐硫酸性セメント組成物およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法により、硫酸で劣化したコンクリート構造物の耐硫酸性、強度発現性などに優れた補修が可能となる。さらに、コンクリート二次製品に適用することにより、耐硫酸性に優れたコンクリート製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明で使用するセメントとは、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、およびJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメントおよびシリカセメント、石灰石粉末などを混合したフィラーセメントから選ばれる1種又は2種以上や、アルミナセメントなどである。
【0011】
本発明で使用するスルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物とは、ナフタレンスルホン酸、メラミンスルホン酸、リグニンスルホン酸、含窒素スルホン酸などのリチウム、ナトリウム、カリウムのアルカリ金属塩が挙げられる。これらの中で、遅延作用が少ないナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩の使用が好ましい。また、ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩は、通常、水溶液あるいは粉体として市販されているものが使用できる。
【0012】
スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物の使用量は、セメント100質量部に対して、固形分で0.5〜10質量部が好ましく、4質量部を超え10質量部以下であることが耐硫酸性と強度発現性の点でより好ましい。
【0013】
本発明で使用するアルカリ金属無機硫酸塩とは、耐硫酸性の向上および初期強度発現性の改善を行うことを目的に使用する。スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物は、配合量が多いほど耐硫酸性が向上する傾向にあるが、多量に添加すると流動性が増加しすぎて材料分離を起こしたり、強度低下を起こす場合がある。
アルカリ金属無機硫酸塩の種類としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウムカリウムなどのミョウバン類などが挙げられる。これらの中で、硫酸ナトリウムが耐硫酸性の向上および強度発現性の点で好ましい。
【0014】
アルカリ金属無機硫酸塩の使用量は、セメント100質量部に対して、0.005〜2質量部が好ましく、0.02〜1質量部がより好ましい。0.005質量部未満では、耐硫酸性、強度発現性の改善が少なく、2質量部を超えると改善効果の向上が少ない。
【0015】
本発明で使用する無機粉末とは、シリカフューム、スラグ、フライアッシュから選ばれる1種または2種以上であり、ポゾラン反応性や潜在水硬性を利用し硬化体を形成させるために使用する。セメント分が少ないことは、水和反応で生成する水酸化カルシウム量を抑制することができるので、酸(硫酸)による劣化に対し有利に働く。
スラグとしては、高炉水砕スラグ、転炉スラグ、高炉徐冷スラグ、脱リンスラグ、下水汚泥や都市ゴミなどの廃棄物に必要により粘土や石灰等を配合し高温で溶融し急冷して得られる下水汚泥溶融スラグや都市ゴミ焼却灰溶融スラグなどが上げられる。フライアッシュとしては、火力発電所などで発生するものが挙げられる。シリカフュームとしては、フェロシリコン製造時に発生するフェロシリコン起源のシリカフューム、電融ジルコニアの製造時に発生するシリカフューム、金属シリコン製造時に発生するシリカフューム、珪石を原料とし高温で溶融し微粉砕した溶融シリカなどが挙げられる。また、これらの無機粉末を2種以上混合して使用してもよい。
【0016】
無機粉末の粒度は、特に限定されるものではないが、スラグおよびフライアッシュについては3000cm/g以上が好ましく、シリカフュームについては、BET比表面積で8m/g以上のものが好ましい。
【0017】
無機粉末の使用量は、セメント100質量部に対して、50〜900質量部が好ましく、150質量部を超え〜600質量部がより好ましく、200〜400質量部がさらに好ましい。50質量部未満では、耐硫酸性の向上が充分でない場合があり、900質量部を超えると強度発現性に影響する場合がある。
【0018】
本発明の耐硫酸性セメント組成物は、骨材を併用したモルタルやコンクリートとすること好ましい。
本発明で使用する骨材は、砂、砂利の他に、例えば、ケイ砂系や石灰石系などの天然骨材、高炉水砕スラグ系、高炉徐冷スラグ系、再生骨材系などの人工骨材が挙げられる。耐酸性などの観点からは、ケイ砂系を選定することが好ましい。また、比重3.0g/cm以上の重量骨材を使用することもでき、その具体例としては、例えば、人工骨材として、電気炉酸化期スラグ系骨材や、フェロニッケルスラグ、フェロクロムスラグ、銅スラグ、亜鉛スラグおよび鉛スラグなどを総称する非鉄精錬スラグ骨材などが、また、天然骨材としては、橄欖岩(かんらん岩)系骨材、いわゆるオリビンサンドや、エメリー鉱などが挙げられる。本発明では、これらの1種または2種以上を併用できる。
【0019】
本発明では、耐硫酸性に影響を与えない範囲で、耐久性能や付着性能等を改善する目的でセメント混和用ポリマーディスパージョン、ひび割れ抵抗性や曲げじん性を改善する目的で短繊維、作業性等を改善する目的に粘土鉱物、凝結時間を速めることを目的に硬化促進剤の他に各種要求される性能を付与する目的で消泡剤、防錆剤、防凍剤、撥水剤、増粘剤、抗菌剤などの各種セメント混和剤を使用することができる。
【0020】
本発明の補修方法としては特に限定されるものではないが、例えば、圧搾空気を用いた湿式・乾式吹付け工法やグラウト工法、コテ塗りによる補修方法等が挙げられる。
【0021】
本発明の耐硫酸性セメント組成物は、硫酸による劣化が懸念されるコンクリート構造物に適用でき、例えば、下水道処理施設の改修工事、温泉地帯でのコンクリート構造物の改修工事、下水道等で使用するヒューム管内の耐酸ライニング、硫酸劣化が起こることが想定される新設コンクリート構造物の予防保全工事等が挙げられる
【0022】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
セメント100質量部に対して、水溶性有機化合物の種類と量を表1に示すように配合し、さらに、アルカリ金属無機硫酸塩(α)を0.5質量部配合しセメント組成物を調製した。このセメント組成物100質量部に対して細骨材を200質量部配合し、さらに、水/セメント組成物比が45質量%となるよう水を加えてモルタルを作製した。硬化したモルタルについて、耐硫酸性、浸透深さ、圧縮強度の試験を行った。結果を表1に示す。
【0024】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製
水溶性有機化合物(A):スルホン酸の金属塩を置換基として有する、第一工業社製、商品名「セルフロー110P」、粉末タイプ
水溶性有機化合物(B):スルホン酸の金属塩を置換基として有する、花王社製、商品名「マイティー100」、粉末タイプ
水溶性有機化合物(C):スルホン酸の金属塩を置換基として有しない、ポリビニルアルコール、電気化学工業社、商品名「B−17」、粉末タイプ
細骨材 :ケイ砂、日瓢鉱業社製、商品名「N−50」、最大粒子径0.8mm
アルカリ金属無機硫酸塩(α):市販の硫酸ナトリウム、試薬
【0025】
(試験方法)
耐硫酸性:モルタルを型枠に詰めてφ7.5cm×15cmの成形体を作製し、1日後に脱型した後、材齢28日まで20℃の水中で養生を行い、5質量%濃度の硫酸溶液に供試体を1ヶ月間浸漬し、供試体の外観の変化や質量減少から耐酸性を評価した。評価基準は、×は外観の変化が著しく、かつ、質量変化率が±5%以上の場合、△は外観の変化が著しいか、あるいは、質量変化率が±5%以上のいずれか一方を満たす場合、○は外観の変化と質量変化ともに上記条件に該当しない場合とした。
浸透深さ:モルタルを型枠に詰めてφ7.5cm×15cmの成形体を作製し、1日後に脱型した後、材齢28日まで20℃の水中で養生を行い5%濃度の硫酸溶液に供試体を1ヶ月間浸漬した。浸漬後の供試体を輪切りにし、フェノールフタレインを用いて硫酸の浸透深さを測定した。
圧縮強度:モルタルを型枠に詰めて4cm×4cm×16cmの成形体を作製し、材齢28日の圧縮強度をJIS R 5201に準じて測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、本発明の耐硫酸性セメント組成物は、耐硫酸性に優れ、硫酸の浸透深さが小さく、さらに、強度発現性が良好であることが分かる。
【実施例2】
【0028】
実施例1の実験No.1-9において、セメント100質量部に対して、アルカリ金属無機硫酸塩の種類と使用量を表2に示すように変化したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0029】
(使用材料)
アルカリ金属無機硫酸塩(β):市販の硫酸リチウム、試薬
アルカリ金属無機硫酸塩(γ):市販の硫酸カリウム、試薬
【0030】
【表2】

【0031】
表2より、本発明の耐硫酸性セメント組成物は、耐硫酸性に優れ、硫酸の浸透深さが小さく、さらに、強度発現性が良好であることが分かる。
【実施例3】
【0032】
実施例1の実験No.1-9において、セメント100質量部に対して、さらに、無機粉末の種類と使用量を表3に示すように配合したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0033】
(使用材料)
無機粉末(イ):市販の高炉水砕スラグ、ブレーン比表面積4000cm/g
無機粉末(ロ):市販のフライアッシュ、ブレーン比表面積4300cm/g
無機粉末(ハ):無機粉末(イ)と無機粉末(ロ)の等量混合物
無機粉末(ニ):市販のシリカフューム、BET比表面積で10m/g
無機粉末(ホ):炭酸カルシウム、平均粒径3.7μm、常陸砕石社製、粉末タイプ
【0034】
【表3】

【0035】
表3より、本発明の耐硫酸性セメント組成物は、無機粉末を加えることにより、より耐硫酸性に優れ、より硫酸の浸透深さが小さくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の耐硫酸性セメント組成物および補修方法により、硫酸で劣化したコンクリート構造物の耐硫酸性、強度発現性などに優れた補修が可能となる。さらに、コンクリート二次製品に適用することにより、耐硫酸性に優れたコンクリート製品が得られるので、土木、建築分野で幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物、およびアルカリ金属無機硫酸塩を含有する耐硫酸性セメント組成物。
【請求項2】
セメント100質量部に対して、スルホン酸の金属塩を置換基として有する水溶性有機化合物が0.5〜10質量部である請求項1記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項3】
さらに、シリカフューム、スラグ、フライアッシュから選ばれる1種または2種以上の無機粉末を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐硫酸性セメント組成物を使用したコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐硫酸性セメント組成物をライニングしたコンクリート二次製品。

【公開番号】特開2008−63162(P2008−63162A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240263(P2006−240263)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】