説明

耐腐食性複合シール構造

【課題】真空保持性(密封性能)と耐腐食気体性を具備し、長い使用期間に耐える複合シール構造を提供することを目的とする。
【解決手段】相互に平行な対応平面11,12間に介装され、受圧凹溝7を形成する密封用リップ部13,13を有する弾性シール6と、この弾性シール6が押込まれる密封用リップ部15,15を有する耐腐食性シール3とを、具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置、FPD製造装置、あるいは、食品関連の殺菌設備、又は、その他のプラズマ処理装置等に使用される耐腐食性複合シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の各種用途の内の一つとして、例えば酸素プラズマあるいは酸素ラジカルが存在する環境下の真空配管用継手としては、耐酸素プラズマ性又は耐酸素ラジカル性、及び、長期間の真空保持性(密封性)が要求される。
図11と図12に例示した従来の酸素プラズマ環境又は耐酸素ラジカル環境の真空配管用継手31では、被接続パイプ32,33が一体に連結される一対の金属製カップリング34,35、及び、シール材36等から成り、特に、このシール材36は、弧状凹部37を外周面に有する金属製センターリング38と、弧状凹部37に嵌着されたOリング39と、から構成されている。
【0003】
図14と図15は、JIS B 8365に制定のクランプ形継手用シールであって、公知の形状・構造のものを図示しているが、パイプ32,33及び真空配管用継手31の内部40に真空状態の腐食気体(例えば酸素プラズマ、酸素ラジカル)が流れ、外部41は例えば大気として使用される。このような用途の真空配管用継手31では、真空保持性(密封性)が要求され、Oリング39の材質として、一般に使用されているFKMと称されるフッ化ビニリデン系のふっ素ゴムでは、酸素プラズマ、酸素ラジカル等への耐性が低く、酸素プラズマ、酸素ラジカルが存在する環境下では、プラズマあるいはラジカルに曝されたOリング39の表面が、腐食(エッチング)され、密封性(シール性)が損なわれる。従って、寿命が短く頻繁にOリング39を交換する必要があった。また、図11,図12とは少し形状の異なる管継手も提案されてはいるが、上述のOリングの耐腐食性に関しての問題は解決できなかった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/056743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上記Oリングの材質として、耐プラズマ性及び耐ラジカル性を有するFFKMと称されるテトラフルオロエチレン−パープルオロビニルエーテル系のふっ素ゴムを、上述のような酸素プラズマ又は酸素ラジカルが存在する環境下にて、使用せざるを得ない。
しかしながら、FFKMは高価であるという欠点、及び、(FKMに比較して)真空保持性が劣り、高真空環境には不向きであるという欠点があった。
【0006】
そこで、本発明は、真空保持性(密封性)と耐腐食ガス性(耐酸素プラズマ性、耐酸素ラジカル性)を具備し、その真空保持性(密封性)と耐腐食ガス性(耐酸素プラズマ性、耐酸素ラジカル性)を長期的に維持できる複合シール構造を提供することを目的とする。また、JIS B 8365のセンターリングを流用することができる耐腐食性複合シール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、相互に平行な対応平面間に介装されて、腐食気体が存在する第1空間部と、該第1空間部の圧力よりも高い圧力の非腐食気体が存在する第2空間部とを遮断して密封する耐腐食性複合シール構造に於て、上記第2空間部側に開口する受圧凹溝を形成するように開脚する一対の密封用リップ部と、上記第1空間部側へ突出するくさび形突隆部とを、一体に有する弾性シールと、上記第2空間部側に開口すると共に上記くさび形突隆部が押込まれて開脚方向への力を受けて上記対応平面に密接する一対の密封用リップ部を有する耐腐食性シールと、を具備する。
【0008】
また、自由状態に於て、耐腐食性シールの一対の上記リップ部の外端幅寸法よりも、弾性シールの一対の上記リップ部の外端幅寸法を大きく設定した。
また、断面形状に於て、上記くさび形突隆部は第1空間部側へしだいに幅寸法が減少するテーパ状に形成され、かつ、上記耐腐食性シールの上記一対の密封用リップ部にて形成されるくさび受け用凹溝は、第2空間部側へしだいに幅寸法が増加するテーパ状に形成されている。
【0009】
また、自由状態に於て、上記耐腐食性シールの上記一対の密封用リップ部の外面先端部の相互幅寸法は、第2空間部側へしだいに増加するようにストレート勾配状に形成して、圧縮使用状態に於て、上記対応平面に接触するシール接触面を、腐食気体遮断幅の大きい平面とした。
また、第1空間部寄りに金属製センターリングを配設し、かつ、該センターリングの第2空間部側には、溝底小凹部を有するV字状溝が凹設され、上記耐腐食性シールには、上記V字状溝に嵌着される頂部小突出子付の三角突部が形成されている。
【0010】
また、断面矩形状シール溝に装着されるように構成され、相互に平行な上記対応平面の内の一つは、上記シール溝の溝底面が該当し、さらに、該シール溝の第1空間部側に上記耐腐食性シールを受ける受け金具を嵌着すると共に、該受け金具の第2空間部側には、溝底小凹部を有するV字状溝が凹設され、上記耐腐食性シールには、上記V字状溝に嵌着される頂部小突出子付の三角突部が形成されている。
また、断面矩形状シール溝に装着されるように構成され、相互に平行な上記対応平面の内の一つは、上記シール溝の溝底面が該当し、さらに、上記耐腐食性シールは、溝底肉部の肉厚寸法の大きい断面略U字型であって、溝底肉部が上記シール溝の第1空間部側の溝側面に、当接するよう装着されている。
【0011】
また、第1空間部寄りに金属製センターリングを配設し、該センターリングが第2空間部側に断面円弧状凹溝を有するJIS B 8365のセンターリングであって、上記耐腐食性シールには、上記断面円弧状凹溝に嵌着される円弧状突部が形成されている。
また、上記耐腐食性シールはシリコーンゴム、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、四フッ化エチレン樹脂、又は、パーフロロエラストマーから成り、さらに、上記弾性シールは、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、又は、水素添加ニトリルゴム、若しくは、フッ化ビニリデン系(FKM)ゴムから成る。
また、弾性シールの上記密封用リップ部が上記対応平面に圧接するべき部位の自由状態下の幅寸法が、圧縮使用状態下の上記対応平面の間隔寸法よりも大きく設定されている。
また、上記弾性シールの一対のリップ部の外面先端部に、上記対応平面に接触して弾性圧縮変形する局部面圧上昇のための小突出部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る耐腐食性複合シール構造によれば、耐腐食性シールは、第1空間部からの腐食気体が弾性シールに接触することを阻止でき、かつ、弾性シールは、第2空間部から(大気等の)非腐食気体が浸入するのを阻止でき、各々のシールが最大限に各機能(役目)を果たすことができる。
弾性シールは、腐食気体によって劣化することがなくなるので、真空保持性等の密封性を長期にわたって発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す分解状態の断面図である。
【図2】センターリングの断面図である。
【図3】分解自由状態の耐腐食性シールの断面図である。
【図4】分解自由状態の弾性シールの断面図である。
【図5】自由状態を示す要部拡大断面図である。
【図6】圧縮使用状態を示す要部拡大断面図である。
【図7】第2の実施の形態を示す自由状態の要部拡大断面図である。
【図8】第3の実施の形態を示す自由状態の要部拡大断面図である。
【図9】第4の実施の形態を示す自由状態の要部拡大断面図である。
【図10】圧縮使用状態の要部拡大断面図である。
【図11】第5の実施の形態のセンターリングの断面図である。
【図12】分解自由状態の耐腐食性シールの断面図である。
【図13】自由状態を示す要部拡大断面図である。
【図14】従来例を示す分解状態の断面図である。
【図15】従来例の要部の拡大断面図であって、(A)は自由状態の拡大断面図であり、(B)は圧縮使用状態の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1〜図6に示す第1の実施の形態に於て、本発明に係る耐腐食性複合シール構造Sは、相互に平行な対応平面11,12間に介装され、しかも、酸素プラズマ、酸素ラジカル等の腐食気体(ガス)が存在する第1空間部1と、この第1空間部1の圧力よりも高い圧力の非腐食気体が存在する第2空間部2とを、遮断して密封するシール構成である。
具体的には、図1に於て、クランプ形配管継手シール構造を例示し、被接続パイプ32,33が一体に連結される一対の金属製カップリング4,5の外鍔部の(軸心直交状の)端面4A,5Aが、前述の相互に平行な対応平面11,12に相当する。
【0015】
8は金属製センターリングであって、薄肉短筒部8Aと、その外周面の中央からラジアル外方向へ突設された突出部8Bとから成る。
第1空間部1は、筒状のカップリング4,5の内部と、センターリング8の内部によって形成され、酸素プラズマ、酸素ラジカル等の腐食気体が流れる。第2空間部2とは、例えば大気であり、第1空間部1は大気よりも圧力が低い、いわゆる真空圧である。
【0016】
上記センターリング8の突出部8Bには、V字状溝9が凹設され、そのV字状溝9の奥部には矩形状の小凹部10が形成されている(図2,図5等参照)。即ち、ラジアル内方向の第1空間部1寄りにセンターリング8を配設し、このセンターリング8の第2空間部2側───ラジアル外方向───には、溝底小凹部10を有するV字状溝9が形成され、このV字状溝9に、耐腐食性シール3が嵌着され、さらに、この耐腐食性シール3のラジアル外方には、弾性シール6が配設されている。
【0017】
弾性シール6は、ラジアル外方側───第2空間部2側───に開口する受圧凹溝7を有する。即ち、一対の密封用リップ部13,13が開脚状に、第2空間部2側へ延伸して、その間に受圧凹溝7を形成している。
さらに、この弾性シール6は、ラジアル内方向───第1空間部1側───へ突出するくさび形突隆部14を、一体に有する。
【0018】
耐腐食性シール3は、ラジアル外方向───第2空間部2側───に開口すると共に上記くさび形突隆部14が押込まれて開脚方向への力を受ける一対の密封用リップ部15,15を有する。つまり、耐腐食性シール3は、ラジアル外方向へ開口状の凹溝16が一対の密封用リップ部15,15によって形成されると共に、上記開脚方向の力を受けることによって、対応平面11,12にリップ部15,15が密接する(図6参照)。
【0019】
断面形状に於て、上記くさび形突隆部14は、第1空間部1側(ラジアル内方向)へ、しだいに幅寸法W14が減少するテーパ状に形成される。また、くさび形突隆部14のラジアル内方向の先端面14Aは平坦面状に形成され、しかも、くさび形突隆部14の基部には、略平行部14B,14Bが形成され、図4中に2点鎖線L14にて示した位置よりも左側が、くさび形突隆部14であって、その形状は、2点鎖線L14を底辺とすると共に先端面14Aを上辺とする略台形から、底辺の左右角部を僅かに切欠いて略平行部14B,14Bを形成した略6角形であるといえる。このようにして、くさび形突隆部14は、傾斜辺14C,14Cを有している。
【0020】
一方、図3の断面形状にて示したように、耐腐食性シール3の一対の密封用リップ部15,15によって、上記くさび形突隆部14が押込まれるくさび受け用凹溝16は、第2空間部2側(ラジアル外方向)へしだいに幅寸法W16が増加するテーパ状に形成されている。さらに具体的に説明すれば、凹溝16の溝底部16Aはストレート状(又は図示省略の小円弧状)に形成されると共に、凹溝16の開口端には、略平行部16B,16Bが形成されている。このように、凹溝16の全体断面形状は、2点鎖線L16を底辺とする略台形から、底辺の左右角部を切欠いて略平行部16B,16Bを形成した略6角形であるといえる。このようにして、くさび受け用凹溝16は、傾斜辺16C,16Cを有する。
【0021】
図5に示した組立て自由状態に於て、弾性シール6の傾斜辺(テーパ面)14C,14Cは、耐腐食性シール3の凹溝16の傾斜辺(テーパ面)16C,16Cに、密に接触し、その後の圧縮使用状態(図6参照)では、耐腐食性シール3のリップ部15,15が対応平面11,12からの押圧力(外力)を受けて弾性圧縮変形せんとする際に、凹溝16内に押込まれている弾性シール6のくさび形突隆部14も弾性変形しつつ、リップ部15,15を押し広げる(開脚させる)方向の大きな弾発付勢力(弾性的復元力)を付与する。
【0022】
言い換えると、くさび形突隆部14の傾斜辺14C,14Cが、耐腐食性シール3の凹溝16の傾斜辺16C,16Cに強く弾性的に圧接して、リップ部15,15を押し広げる(開脚させる)方向に大きな弾発付勢力(弾性的復元力)を発生し、もって、耐腐食性シール3の密封用リップ部15,15の対応平面11,12に対するシール面圧を高めることができる。
【0023】
ところで、分解自由状態下に於て、くさび形突隆部14の傾斜辺14C,14Cの成す角度θ14、及び、凹溝16の傾斜辺16C,16Cの成す角度θ16は、15°〜 120°とする。好ましくは、30°〜 110°とし、さらに望ましくは、60°〜 100°とする(図3と図4参照)。
【0024】
図6の状態に於て、第2空間部2からの気体圧力を受けて弾性シール6は第1空間部1側へ押圧されることとなり、その押圧力によって、一層強く、くさび形突隆部14が凹溝16の奥方へ(ラジアル内方向へ)押込まれて、前述した対応平面11,12に対するリップ部15,15の面圧が増大する。
【0025】
ところで、耐腐食性シール3の第1空間部1側(ラジアル内方向側)の形状について説明すれば、図2と図3に示すように、センターリング8の前記V字状溝9に嵌着される頂部小突出子17付の三角突部18が形成され、この小突出子17は略半円形等として、センターリング8の小凹部10に、図5,図6のように嵌合して組立てられる。
【0026】
図3に示すように分解自由状態に於て、耐腐食性シール3の一対の密封用リップ部15,15の外面基端部19,19は、前記三角突部18の勾配面と連続した傾斜線にて描かれるが、このリップ部15,15の外面基端部19,19の成す角度θ19よりも、十分小さい角度θ20(を成す直線L20,L20上)の外面先端部20,20が、角部21を介して連続している。
【0027】
このようにして、一対のリップ部15,15の外面先端部20,20の相互幅寸法W20が、第2空間部2側へ、しだいに増加するストレート勾配状に形成し、図6に示した圧縮使用状態に於て、対応平面11,12に接触するシール接触面22を、腐食気体遮断幅W22の大きい平面としている。これによって、長期にわたって弾性シール6のシール性を維持できて、長寿命のシール構造となる。
【0028】
また、図3と図4の分解自由状態、及び、図5の装着自由状態に示すように、耐腐食性シール3の一対のリップ部15,15の外端幅寸法W15よりも、弾性シール6の一対のリップ部13,13の外端幅寸法W13を大きく設定し、第2空間部2の非腐食性気体を密封するシール面圧を高めている。
【0029】
弾性シール6について、さらに説明すれば、図1〜図6の第1の実施形態、及び、後述の図8〜図10,図13等の他の実施形態では、一対のリップ部13,13の外面先端部23に、対応平面11,12に接触して弾性圧縮変形する局部面圧上昇のための小突出部24を有する。
なお、図7に示した第2の実施形態では、この小突出部24を省略して、リップ部13,13の外面先端部23を、勾配ストレート状に形成した場合を示している。対応平面11,12に圧接したときのシール面圧が確保可能な場合は、この図7に示すような形状とするも自由である。なお、図7は、図5と、それ以外はほとんど同様の構成であるので、説明を省略する(同一符号は同様の構成である)。
【0030】
次に、図8に示した第3の実施の形態では、(図1〜図7で述べたクランプ形配管継手シールとは相違して、)いわゆるフランジ固定用等の場合を例示する。即ち、断面矩形状シール溝25を有する取付部材26と、平面的に対向する相手部材27との間を、密封するために用いられる。
即ち、断面矩形状シール溝25に、耐腐食性シール3と弾性シール6、及び、(前述したセンターリング8に代わる)断面略コの字状受け金具28とを、嵌着する。相互に平行な、上述の実施形態の対応平面11,12の内の一つは、シール溝25の溝底面25Aが該当し、対応平面11,12の内の他方は相手部材27の平坦面が該当している。
【0031】
さらに具体的には、シール溝25の第1空間部1側に、耐腐食性シール3を受けるために受け金具28を嵌着する。
この受け金具28は、第2空間部2側に、溝底小凹部10を有するV字状溝9が凹設されている(即ち、既述の第1・第2の実施形態のセンターリング8と同様の構成を一部分に備えている)。
【0032】
そして、耐腐食性シール3の断面形状は、図1〜図7と同様である。つまり、耐腐食性シール3は、受け金具28のV字状溝9に嵌着される頂部小突出子17付の三角突部18を有する。
この三角突部18の形状、及び、V字状溝9の形状等は、図1〜図7と同様である。
【0033】
次に、図9と図10に示す第4の実施形態では、使用箇所は図8と同様であって、断面矩形状シール溝25を有する取付部材26に、(図8の受け金具28を省略して、)耐腐食性シール3と弾性シール6のみを、嵌着(装着)する。即ち、対応平面11,12の内の一方は溝底面25Aが該当し、他方は相手部材27の平坦面が該当する。
【0034】
そして、耐腐食性シール3は、それ自身が矩形状シール溝25内に安定姿勢を保ち得る断面形状を備えている。即ち、この耐腐食性シール3は、断面略U字型であるが、その溝底肉部29の肉厚寸法T29が大きい。例えば、この肉厚寸法T29は、ラジアル方向全長寸法Tの40%〜70%である。しかも、溝底肉部29は、断面矩形であって、シール溝25の第1空間部1側の溝側面25Bに当接するように装着される。
図9と図10に示した第4の実施形態のものは、図8に示した第3の実施形態に於ける受け金具28を、耐腐食性シール3と同一材質として、両者を完全に一体化した形状であると言うこともできる。
【0035】
図11〜図13は、第5の実施の形態を示す。第1空間部1寄りに金属製センターリング8が配設され、センターリング8が第2空間部2側に断面円弧状凹溝49を有するJIS B 8365のセンターリングである。耐腐食性シール3には、断面円弧状凹溝49に嵌着される円弧状突部50が形成されている。円弧状突部50の断面外形円弧の曲率半径R50は、断面円弧状凹溝49の曲率半径R49と同一乃至わずかに小さく設定する。その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0036】
本発明に於て、弾性シール6の密封用リップ部13,13は(外面形状に於て)角部42にて「くの字」に折曲がった形状であり、しかも、角部42よりも基端寄りの近傍に、小凹窪部43が形成されている。この小凹窪部43は、前述の略平行部14B、及び、対応平面11,12に略垂直の面をもって、構成されるが、適度のアール部が付加された形状である。耐腐食性シール3のリップ部15の第2空間部2側の先端部15Aは、対応平面11,12と略平行であり、前記外面先端部20と最先端面15Bと略平行部16Bをもって、矩形状に構成されると共に、(図5〜図10,図12,図13に示すように)この矩形状の先端部15Aが、弾性シール6の小凹窪部43へ(部分的に)嵌合している。このような嵌合によって、弾性シール6の弾性的圧縮に伴う弾性反発付勢力が(図6,図10の上下方向に)強く作用して、耐腐食性シール3の外面先端部20の最先端部位が、大きな面圧で、対応平面11,12に密接するように補助(補強)している。
【0037】
ところで、弾性シール6に於て、密封用リップ部13,13が、図6や図10に示すように圧縮使用状態下で対応平面11,12に圧接するべき部位(外面先端部23)の自由状態下の幅寸法W23(図5,図7,図8,図9,図13参照)は、圧縮使用状態下の対応平面11,12の間隔寸法Gよりも大きく設定している。
即ち、角部42を含み、外面先端部23の幅寸法W23が、上記間隔寸法Gよりも大きく設定して、密封用リップ部13によるシール面圧にプラスして、角部42の弾性的圧縮変形により、一層、シール面圧を増加できる。
【0038】
そして、耐腐食性シール3の材質としては、シリコーンゴム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、又は、パーフロロエラストマー(FFKM)が適しており、また、弾性シール6の材質としては、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、又は、水素添加ニトリルゴム、若しくは、フッ化ビニリデン系(FKM)ゴムとする。本発明では、材質として高価なFFKM(テトラフルオロエチレン−パープルオロビニルエーテル系のフッ素ゴム)を用いることなく、あるいは、FFKMを従来よりも少量用いるのみにて、酸素プラズマ、酸素ラジカル等が存在する第1空間部1と、例えば、大気(非腐食気体)が存在する第2空間部2とを、安価に製造可能であり、かつ、長期にわたって密封遮断可能となる。
【0039】
本発明は上述の図示の実施の形態に限らず、設計変更自由であって、ラジアル方向の内と外とを入れ替えても良い。即ち、第2空間部2を、配管内等のラジアル内方側とし、第1空間部1を配管の外側等のラジアル外方側として、耐腐食性シール3と弾性シール6の凹溝16,7をラジアル内方に向くように配設するも自由である。
あるいは、真空用に限らずに、第1空間部1よりも第2空間部2の圧力が高ければ、適用自由である。また、センターリング8(図1参照)や受け金具28(図8参照)の断面形状も図示以外に種々変形可能である。また、耐腐食性シール3と弾性シール6と受け金具28(図8参照)等の全体形状は、円環状に限らず、矩形等の多角形や楕円等の環状とするも自由である。
【0040】
本発明は以上述べたように、相互に平行な対応平面11,12間に介装されて、腐食気体が存在する第1空間部1と、第1空間部1の圧力よりも高い圧力の非腐食気体が存在する第2空間部2とを遮断して密封する耐腐食性複合シール構造に於て;第2空間部2側に開口する受圧凹溝7を形成するように開脚する一対の密封用リップ部13,13と、第1空間部1側へ突出するくさび形突隆部14とを、一体に有する弾性シール6と;第2空間部2側に開口すると共にくさび形突隆部14が押込まれて開脚方向への力を受けて対応平面11,12に密接する一対の密封用リップ部15,15を有する耐腐食性シール3と;を具備する複合シール構造であるので、弾性シール6が受圧状態でそのくさび形突隆部14が腐食性シール3の凹溝16へ押込まれて密封用リップ部15,15が対応平面11,12に対して高い面圧をもって密に圧接し、腐食性気体を遮断して、弾性シール6が腐食性気体にて損傷を受けることを防止できる。そして、弾性シール6は、受圧凹溝7内にて受圧して密封用リップ部13,13は開脚する方向へ弾性変形せんとして、高い面圧をもって対応平面11,12に密接し、第1空間部1から第2空間部2への気体の流れを確実に遮断する。
このように、両シール3,6は各々異なる作用・機能を発揮して、各々は高価な前記FFKMのような材料のものを使用せずに、確実にシール性(密封性)及び耐久性を発揮できる。
繰り返して言えば、耐腐食性シール3は、酸素プラズマ、酸素ラジカル等の腐食気体が弾性シール6へ流れることを抑止でき、弾性シール6は腐食気体によって劣化しないので、真空保持性等の密封性能を長期間にわたって維持でき、かつそのような劣化による弾性シール6の発塵をも防止して、半導体製造装置やFPD製造装置に於ける製品に不純物が付着することがなくなる。
【0041】
また、自由状態に於て、耐腐食性シール3の一対のリップ部15,15の外端幅寸法W15よりも、弾性シール6の一対のリップ部13,13の外端幅寸法W13を大きく設定したので、真空保持性等の上記密封性能を、一層、向上できる。
【0042】
また、断面形状に於て、くさび形突隆部14は第1空間部1側へしだいに幅寸法W14が減少するテーパ状に形成され、かつ、耐腐食性シール3の一対の密封用リップ部15,15にて形成されるくさび受け用凹溝16は、第2空間部2側へしだいに幅寸法W16が増加するテーパ状に形成されているので、弾発付勢力に富んだ弾性シール6は、巧妙に内側から耐腐食性シール3を開脚方向へ押拡げて、耐腐食性シール3の前記作用・機能を確実に発揮させる。
【0043】
また、自由状態に於て、耐腐食性シール3の一対の密封用リップ部15,15の外面先端部20,20の相互幅寸法W20は、第2空間部2側へしだいに増加するようにストレート勾配状に形成して、圧縮使用状態に於て、対応平面11,12に接触するシール接触面22を、腐食気体遮断幅W22の大きい平面としたので、例えば、酸素プラズマ、酸素ラジカル等の腐食気体の遮断を確実に行って、弾性シール6の密封性能を長期にわたって維持させ得る。あるいは弾性シール6としては、高価な材質とする必要が、一層なくなる。
【0044】
また、第1空間部1寄りに金属製センターリング8を配設し、かつ、センターリング8の第2空間部2側には、溝底小凹部10を有するV字状溝9が凹設され、耐腐食性シール3には、V字状溝9に嵌着される頂部小突出子17付の三角突部18が形成されているので、センターリング8と耐腐食性シール3とが相互に安定姿勢をもって嵌合し(組立てられ)、シール装着性に優れ、かつ、使用状態に於て、シール3,6の姿勢が常に安定する。
【0045】
また、断面矩形状シール溝25に装着されるように構成され、相互に平行な対応平面11,12の内の一つは、シール溝25の溝底面25Aが該当し、さらに、シール溝25の第1空間部1側に耐腐食性シール3を受ける受け金具28を嵌着すると共に、受け金具28の第2空間部2側には、溝底小凹部10を有するV字状溝9が凹設され、耐腐食性シール3には、V字状溝9に嵌着される頂部小突出子17付の三角突部18が形成されているので、フランジ用や開閉蓋用に好適であり、さらに、受け金具28と耐腐食性シール3とが相互に安定姿勢をもって嵌合し(組立てられ)、シール装着性に優れ、かつ、使用状態に於て、シール3,6の姿勢が常に安定する(図8参照)。
【0046】
また、断面矩形状シール溝25に装着されるように構成され、相互に平行な対応平面11,12の内の一つは、シール溝25の溝底面25Aが該当し、さらに、耐腐食性シール3は、溝底肉部29の肉厚寸法T29の大きい断面略U字型であって、溝底肉部29がシール溝25の第1空間部1側の溝側面25Bに、当接するよう装着されているので、(図9に示すように)部品点数が減少でき、かつ、構造を簡素化できる。しかも、耐腐食性シール3はシール溝25内で安定姿勢を保つ。この構造は、フランジ用や開閉蓋用に好適であるといえる。
【0047】
また、第1空間部1寄りに金属製センターリング8を配設し、センターリング8が第2空間部2側に断面円弧状凹溝49を有するJIS B 8365のセンターリングであって、耐腐食性シール3には、断面円弧状凹溝49に嵌着される円弧状突部50が形成されているので、(図13に示すように、)JIS B 8365のセンターリングを流用することができて至便である。すなわち、従来JIS B 8365とともに使用していたOリングを、本発明の(第5の実施の形態の)耐腐食性シール3及び弾性シール6と交換するのみで、真空保持性と耐腐食ガス性を具備し、その真空保持性と耐腐食ガス性を長期的に維持できる複合シール構造とすることができる。
【0048】
また、耐腐食性シール3は、シリコーンゴム、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、四フッ化エチレン樹脂、又は、パーフロロエラストマーから成り、さらに、弾性シール6は、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、又は、水素添加ニトリルゴム、若しくは、フッ化ビニリデン系(FKM)ゴムから成るので、耐腐食性シール3は、耐酸素プラズマや耐酸素ラジカル性に優れ、劣化が防止でき、弾性シール6の真空保持性等の密封性を長期的に維持する。さらに、弾性シール6は、一層、密封性(弾発力)を長期的に維持できる。そして、複合シールとして、前記FFKMのような高価な材料を使用せずに済み、あるいは、従来よりも少量のみの使用で済む。
【0049】
また、弾性シール6の密封用リップ部13,13が対応平面11,12に圧接するべき部位の自由状態下の幅寸法W23が、圧縮使用状態下の対応平面11,12の間隔寸法Gよりも大きく設定されているので、対応平面11,12の接近に伴う弾性的圧縮変形(つぶし)によって、一層高い面圧が発生して、弾性シール6の密封性能はさらに向上する。
【0050】
また、弾性シール6の一対のリップ部13,13の外面先端部23に、対応平面11,12に接触して弾性圧縮変形する局部面圧上昇のための小突出部24を有するので、局所面圧が高まり、さらなる密封性能が改善される。
【符号の説明】
【0051】
1 第1空間部
2 第2空間部
3 耐腐食性シール
6 弾性シール
7 受圧凹溝
8 センターリング
9 V字状溝
10 小凹部
11,12 対応平面
13 密封用リップ部
14 くさび形突隆部
15 密封用リップ部
15A 先端部
16 凹溝
17 頂部小突出子
18 三角突部
19 外面基端部
20 外面先端部
22 シール接触面
23 外面先端部
24 小突出部
25 シール溝
25A 溝底面
25B 溝側面
28 受け金具
29 溝底肉部
49 断面円弧状凹溝
50 円弧状突部
29 肉厚寸法
14,W16,W23 幅寸法
20 相互幅寸法
22 腐食気体遮断幅
13,W15 外端幅寸法
間隔寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に平行な対応平面(11)(12)間に介装されて、腐食気体が存在する第1空間部(1)と、該第1空間部(1)の圧力よりも高い圧力の非腐食気体が存在する第2空間部(2)とを遮断して密封する耐腐食性複合シール構造に於て、
上記第2空間部(2)側に開口する受圧凹溝(7)を形成するように開脚する一対の密封用リップ部(13)(13)と、上記第1空間部(1)側へ突出するくさび形突隆部(14)とを、一体に有する弾性シール(6)と、
上記第2空間部(2)側に開口すると共に上記くさび形突隆部(14)が押込まれて開脚方向への力を受けて上記対応平面(11)(12)に密接する一対の密封用リップ部(15)(15)を有する耐腐食性シール(3)と、
を具備することを特徴とする耐腐食性複合シール構造。
【請求項2】
自由状態に於て、耐腐食性シール(3)の一対の上記リップ部(15)(15)の外端幅寸法(W15)よりも、弾性シール(6)の一対の上記リップ部(13)(13)の外端幅寸法(W13)を大きく設定した請求項1記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項3】
断面形状に於て、上記くさび形突隆部(14)は第1空間部(1)側へしだいに幅寸法(W14)が減少するテーパ状に形成され、かつ、上記耐腐食性シール(3)の上記一対の密封用リップ部(15)(15)にて形成されるくさび受け用凹溝(16)は、第2空間部(2)側へしだいに幅寸法(W16)が増加するテーパ状に形成されている請求項1又は2記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項4】
自由状態に於て、上記耐腐食性シール(3)の上記一対の密封用リップ部(15)(15)の外面先端部(20)(20)の相互幅寸法(W20)は、第2空間部(2)側へしだいに増加するようにストレート勾配状に形成して、圧縮使用状態に於て、上記対応平面(11)(12)に接触するシール接触面(22)を、腐食気体遮断幅(W22)の大きい平面とした請求項1,2又は3記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項5】
第1空間部(1)寄りに金属製センターリング(8)を配設し、かつ、該センターリング(8)の第2空間部(2)側には、溝底小凹部(10)を有するV字状溝(9)が凹設され、上記耐腐食性シール(3)には、上記V字状溝(9)に嵌着される頂部小突出子(17)付の三角突部(18)が形成されている請求項1,2,3又は4記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項6】
断面矩形状シール溝(25)に装着されるように構成され、相互に平行な上記対応平面(11)(12)の内の一つは、上記シール溝(25)の溝底面(25A)が該当し、さらに、該シール溝(25)の第1空間部(1)側に上記耐腐食性シール(3)を受ける受け金具(28)を嵌着すると共に、該受け金具(28)の第2空間部(2)側には、溝底小凹部(10)を有するV字状溝(9)が凹設され、上記耐腐食性シール(3)には、上記V字状溝(9)に嵌着される頂部小突出子(17)付の三角突部(18)が形成されている請求項1,2,3又は4記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項7】
断面矩形状シール溝(25)に装着されるように構成され、相互に平行な上記対応平面(11)(12)の内の一つは、上記シール溝(25)の溝底面(25A)が該当し、さらに、上記耐腐食性シール(3)は、溝底肉部(29)の肉厚寸法(T29)の大きい断面略U字型であって、溝底肉部(29)が上記シール溝(25)の第1空間部(1)側の溝側面(25B)に、当接するよう装着されている請求項1,2,3又は4記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項8】
第1空間部(1)寄りに金属製センターリング(8)を配設し、該センターリング(8)が第2空間部2側に断面円弧状凹溝(49)を有するJIS B 8365のセンターリングであって、上記耐腐食性シール(3)には、上記断面円弧状凹溝(49)に嵌着される円弧状突部(50)が形成されている請求項1,2,3又は4記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項9】
上記耐腐食性シール(3)はシリコーンゴム、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、四フッ化エチレン樹脂、又は、パーフロロエラストマーから成り、さらに、上記弾性シール(6)は、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、又は、水素添加ニトリルゴム、若しくは、フッ化ビニリデン系(FKM)ゴムから成る請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項10】
弾性シール(6)の上記密封用リップ部(13)(13)が上記対応平面(11)(12)に圧接するべき部位の自由状態下の幅寸法(W23)が、圧縮使用状態下の上記対応平面(11)(12)の間隔寸法(G)よりも大きく設定されている請求項1,2,3,4,5,6,7,8又は9記載の耐腐食性複合シール構造。
【請求項11】
上記弾性シール(6)の一対のリップ部(13)(13)の外面先端部(23)に、上記対応平面(11)(12)に接触して弾性圧縮変形する局部面圧上昇のための小突出部(24)を有する請求項1,2,3,4,5,6,7,8又は9記載の耐腐食性複合シール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−40679(P2013−40679A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114021(P2012−114021)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】