説明

耐荷重同期装置を有するスクロールポンプ

【課題】ベアリングの設計が簡略化され、ベアリングにかかる費用を削減できるスクロールポンピング装置を提供する。
【解決手段】スクロールポンピング装置は、第1スクロール要素44および第2スクロール要素46と、第1スクロール要素44に対する第2スクロール要素46の周回運動を生成するために第2スクロール要素46に動作可能に結合させた駆動機構と、第1スクロール要素と第2スクロール要素との間に結合された同期装置140であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置140と、を備えている。同期装置は、大略的に正方形の形状を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型ポンプに関し、さらに詳しくは、スクロール型ポンプにおける周回および固定スクロール要素を同期するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール装置は真空ポンプおよびコンプレッサの分野で周知である。スクロール装置では、ハウジング内の固定された螺旋ブレードに対して可動螺旋ブレードが周回する。この可動螺旋ブレードは偏心駆動機構に連結されている。スクロールブレードの形状およびそれらの相対運動は、気体の1つもしくは複数の容積または「ポケット」をブレード間に捕捉し、この装置を通じて移動させる。ほとんどの用途では、この装置を通じてその気体をポンプで送るために回転出力を利用する。油潤滑式スクロール装置は冷媒圧縮機として広く使用されている。他の用途として、エキスパンダ(コンプレッサとは逆に作動する)および真空ポンプが挙げられる。スクロールポンプは真空ポンプとしては広く採用されていない。主な理由として、スクロールポンプを製造するには、同程度の大きさの油潤滑式羽根ポンプよりもコストがかなりかかるためである。ドライ式スクロールポンプは、油汚染が許されないような用途に使用されている。高容積押しのけ率のスクロールポンプが、1997年4月1日付でLiepertに対して発行された特許に係る下記特許文献1に記載されている。
【0003】
スクロールポンプは、固定および周回スクロール要素と、駆動機構と、を含む。固定スクロール要素および周回スクロール要素は、それぞれスクロール板とそのスクロール板から延びる螺旋スクロールブレードと、を含む。これらのスクロールブレードは、相互に噛み合ってブレード間ポケットを画成する。また、駆動機構は、ブレード間ポケットがポンプ出口へと移動していくように、固定スクロール要素に対する周回スクロール要素の周回運動を生成する。
【0004】
スクロールポンプは、典型的には噛み合ったスクロールブレードを同期させる1つまたは複数の装置を利用する。同期装置は、それぞれ直接的または間接的に固定スクロール要素と周回スクロール要素との間に結合され、それらスクロール要素の相対的な回転を防ぎながら、周回運動を可能にする必要がある。先行技術の一手法では、3つのクランク機構が周回スクロール要素と固定スクロール要素との間に連結されている。
【0005】
1999年9月14日付でPottier外に対して発行された特許に係る下記特許文献2には、噛み合ったスクロールブレードを同期させるために金属ベローズを利用したスクロールポンプが開示されている。この金属ベローズは、クランク軸を取り囲んでおり、一端でクランク軸に、他端で固定壁に連結されている。金属ベローズは、ねじり変形に対する抵抗が高いため、周回スクロール要素の回転を防ぐために使用することができる。しかし、起動中およびポンプが異物を吸い込んだ場合に生じる異常なねじり負荷が過大に加わり、金属ベローズの破損を引き起こすおそれがある。
【0006】
1974年4月9日付でVulliezに対して発行された特許に係る下記特許文献3には、分離に金属ベローズを利用し、同期にクランク機構を使用したスクロールポンプが開示されている。この金属ベローズは、両端を固定して連結されているため、上述のように異常なねじり負荷があると、過大に負荷を受けてしまう場合がある。また、開示の設計がねじれて過度に圧迫され、クランク機構が金属ベローズにねじり負荷を与えてしまう場合がある。さらに、クランク機構は、スクロールブレード周縁部の外側に位置しており、実質的にポンプの大きさを増やしてしまう。
【0007】
1983年2月1日付でFischer外に対して発行された特許に係る下記特許文献4には、2つの押しのけ要素のねじれに対して剛性のある相対移動を確実にするために、板ばねの配置を含む少なくとも1つの平行運動案内装置を有するスクロール装置が開示されている。この同期方法には、軸方向荷重を支える能力がない。
1985年8月13日付でBlainに対して発行された特許に係る下記特許文献5には、第1スクロールおよび第2スクロールを有し、同期のために、これらスクロールがスクロール周縁に位置した可撓性を有する環状バンドによって相互接続されているスクロール装置が開示されている。また、この環状バンドを使用して、スクロールによって発生した軸方向荷重を支えることもできる。
【特許文献1】米国特許第5,616,015号明細書
【特許文献2】米国特許第5,951,268号明細書
【特許文献3】米国特許第3,802,809号明細書
【特許文献4】米国特許第4,371,323号明細書
【特許文献5】米国特許第4,534,718号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
出願人は、上記特許文献5に開示された環状バンドが、幾つかの用途において満足な性能を提供しないことを見出した。例えば、環状バンドは、スクロール装置の作動に伴う軸方向荷重を強固に支持しない。また、環状バンド内の横曲げ応力も高いことから、同期装置の寿命を制限することがある。
したがって、改良されたスクロール型のポンピング装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面によれば、スクロールポンピング装置が提供される。このスクロールポンピング装置は、第1スクロール要素および第2スクロール要素と、前記第1スクロール要素に対する前記第2スクロール要素の周回運動を生成するために前記第2スクロール要素に動作可能に結合された駆動機構と、前記第1スクロール要素と前記第2スクロール要素との間に結合された同期装置であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置と、を備えている。
【0010】
同期装置は、周回運動中に第1スクロール要素と第2スクロール要素との間に同期を与え、ポンプ作動時に生じる軸方向荷重を支持する。同期装置が軸方向荷重を支持するので、ポンプベアリングの設計は簡略化され、ベアリングにかかる費用は削減される。
同期装置は大略的に正方形の形状を有していてもよい。この同期装置の実質的に平坦な部分は、連結部によって接合されていてもよい。連結部は、半径を有していてもよく、または実質的に平坦であってもよい。前記連結部に半径を有する実施形態においては、前記正方形の形状の側部寸法に対する前記連結部の半径の比率が約0.25以下であってもよい。他の実施形態において、同期装置は角が直角である大略的に正方形の形状を有していてもよい。
【0011】
同期装置の帯片は単層または2つ以上の層を含んでいてもよい。この2つ以上の層が、複数の層構造を形成するために積層されてもよく、または隔置されてもよい。
同期装置は、大略的に正方形の形状を有していてもよく、その場合、正方形の形状の互いに対向する側に第1および第2の実質的に平坦な部分を有していてもよい。これら第1および第2の実質的に平坦な部分は第2スクロール要素に結合されていてもよい。さらに、同期装置は、その正方形の形状の互いに対向する側に第3および第4の実質的に平坦な部分を備えていてもよい。これら第3および第4の実質的に平坦な部分は第1スクロール要素に結合されていてもよい。
【0012】
本発明の第2の局面によれば、スクロールポンピング装置が提供される。このスクロールポンピング装置は、入口および出口を有し、固定スクロールブレードを含む固定スクロール要素と周回スクロールブレードを含む周回スクロール要素とを備えたスクロールセットを備えている。これら固定および周回スクロールブレードは、共に相互に噛み合って1つ以上のブレード間ポケットを画成する。さらに、スクロールポンピング装置は、前記固定スクロールブレードに対する前記周回スクロールブレードの周回運動を生成して、その1つ以上のブレード間ポケットが前記出口へと移動していくようにするため、前記周回スクロール要素に動作可能に結合された駆動機構と、前記周回スクロール要素と当該スクロールポンピング装置の固定部品との間に結合された同期装置であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置と、を備えている。
【0013】
本発明の第3の局面によれば、第1スクロール要素と第2スクロール要素とを備えたタイプのスクロールポンピング装置を作動する方法が提供される。本方法は、前記第2スクロール要素に対する前記第1スクロール要素の周回運動を生成する工程と、第1スクロール要素と第2スクロール要素との間に結合された同期装置であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置によって、前記周回運動中に前記第1スクロール要素および前記第2スクロール要素を同期させる工程と、を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明をよりよく理解できるように、ここに引用により組み込まれた下記の添付図面を参照する。
本発明の第1の実施形態によるスクロールポンプを図1および図2に示す。典型的には空気である気体が、真空チャンバ、またはポンプの入口12に連結された他の装置(図示せず)から排気される。ポンプハウジング14は、固定スクロールプレート16とフレーム18とを含む。このポンプはさらに、ポンプで送られる気体を排気するための出口20を含む。
【0015】
スクロールポンプは、相互に噛み合った、螺旋形のスクロールブレードを一組含む。スクロールセットは、固定スクロールプレート16から延びる固定スクロールブレード30と、周回スクロールプレート34から延びる周回スクロールブレード32と、を備えている。スクロールブレード30および32は、好ましくは、それぞれスクロールプレート16および34と一体に形成されて、熱伝導を容易にし、ポンプの機械的な剛性および耐久性が高められる。スクロールブレード30およびスクロールプレート16は固定スクロール要素44を構成し、スクロールブレード32およびスクロールプレート34は周回スクロール要素46を構成する。スクロールブレード30および32は、相互に向かって軸方向に延びており、共に相互に噛み合ってブレード間ポケット40を形成している。それらスクロールブレードの先端にある溝に位置するチップシール42は、スクロールブレード間に封止を与える。スクロールブレード30に対するスクロールブレード32の周回運動によって、気体がスクロールブレード間のブレード間ポケット40に進入していく、スクロール型ポンピング動作が生成される。
【0016】
スクロールポンプ用の駆動機構50は、クランク軸54を介して周回スクロールプレート34に結合されたモータ52を備えている。クランク軸54の一端64は、クランク軸54の主部に対して偏心するように構成されており、周回プレートベアリング70を介して周回スクロールプレート34に取り付けられている。クランク軸54は、主軸受72および74を介してポンプハウジング14に取り付けられている。モータ52に通電すると、クランク軸54は軸76を中心に主軸受72および74内で回転する。クランク軸端部64が偏心した構成は、スクロールブレード30に対するスクロールブレード32の周回運動を生成し、これによって入口12から出口20へとポンプで気体を送る。
【0017】
このスクロールポンプは、真空ポンプの固定部品と周回スクロールプレート34との間に結合されたベローズアセンブリ100を含んでいてもよい。これは、ベローズアセンブリ100の内側にある第1の容積(空間)とベローズアセンブリ100の外側にある第2の容積(空間)とを分離するためである。固定スクロールブレード30に対する周回スクロールブレード32の運動時、ベローズアセンブリ100の一端は自由に回転する。その結果、ベローズアセンブリ100は、スクロールブレードを同期せず、作動中に大きなねじり応力を受けない。図1および図2の実施形態において、ベローズアセンブリ100は、ベローズ102と、ベローズ102の第1の端部にシールされた第1フランジ104と、ベローズ102の第2の端部にシールされた第2フランジ106と、を備えている。フランジ104はクランク軸54に回転可能に装着されたリングであってもよい。フランジ106は周回スクロールプレート34への固定取り付け具を有していてもよい。あるいは、フランジ106は周回スクロールプレート34に回転可能に装着されていてもよく、フランジ104はポンプハウジング14への固定取り付け具を有していてもよい。
【0018】
スクロールポンプは、さらに周回スクロールプレート34とフレーム18などの真空ポンプの固定部品との間に結合された同期装置140を含む。同期装置140は、スクロールブレード32の周回運動時に周回スクロールブレード32と固定スクロールブレード30との間に同期を与え、ポンプ作動時に生じる軸方向荷重を支持する。同期装置140が軸方向荷重を支持するので、従来技術のスクロールポンプと比較してポンプベアリングの設計は簡略化され、ベアリングにかかる費用は削減される。以下に記載のように、同期装置140は、連結されていて、実質的に平坦な部分を有する帯片またはバンドを含み、同期装置140は大略的に正方形の形状を形成してもよい(図3参照)。同期装置140は、ボルト142および144によって周回スクロール要素46に結合され、ボルト146および148によってフレーム18に結合されている。
【0019】
同期装置140を図3の斜視図に示す。同期装置140は、例えば図3の実施形態における大略的に正方形の形状に形成された、ステンレス鋼片などの帯片を含んでいてもよい。この大略的な正方形の形状は、丸みをつけた、角張った、または面取りした角を有していてもよい。その帯片は、スクロールポンプ作動時の横方向の可撓性および軸方向の剛性を目的として選択された厚みおよび幅を有する。一例では、その帯片は厚さ0.06cm(センチメートル)、幅3.8cmのステンレス鋼で作られている。この実施形態では、平坦な部分間の側面寸法は9cmであり、クランク軸オフセット(周回運動の半径)は0.157cmである。これらの寸法は単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。好ましくは、帯片の断面は、同期装置に横方向の可撓性および軸方向の剛性を与えるために比較的薄く、比較的幅広である。
【0020】
同期装置140は、疲労寿命の長い材料で作る必要があり、鉄の材料が適している。適当な材料の一つに、321ステンレス鋼などのステンレス鋼がある。他の適当な材料として、重合体、およびグラスファイバーなどの複合体が挙げられる。
同期装置140の帯片は、実質的に平坦な部分160、162、164、166、および168を含む。図3の実施形態において、平坦な部分160および168が重なり合って大略的に正方形の同期装置の一側面を形成している。平坦な部分160〜168は連結部170、172、174、および176によって相互接続されている。図3の実施形態において、連結部170〜176は、丸みがつけられ、半径を有する。他の実施形態において、連結部170〜176は実質的に平坦であってもよい。さらなる実施形態において、連結部を使用せず、平坦な部分が直角に交差する。上述の例では、同期装置140は、同期装置の対向面間の間隔として定義される側面寸法9cmを有し、連結部170〜176は半径0.6cmを有する。
【0021】
同期装置140が変形しない場合、同期装置140の部分160〜168は実質的に平坦であることが理解されよう。しかし、スクロールポンプ作動中に、同期装置140はスクロール要素44に対するスクロール要素46の周回移動によって変形し、同期装置140の部分160〜168が平坦な形状から逸脱してしまう。また、同期装置140はスクロールポンプに組み付けた後、わずかに変形してもよい。
【0022】
同期装置140の対向面上の平坦な部分162および166は周回スクロール要素46に固定されている。図1および図3に示すように、周回スクロール要素46には突起180および182が設けられている。同期装置140の平坦な部分162は、ボルト144およびクランプ要素190によって周回スクロール要素46の突起180に固定されている。同期装置140の平坦な部分166は、ボルト142およびクランプ要素192によって周回スクロール要素46の突起182に固定されている。したがって、同期装置140の平坦な部分は、周回スクロール要素46の突起とそれぞれのクランプ要素との間でクランプされる。
【0023】
同期装置140の対向面上の平坦な部分164および平坦な部分160、168はボルト148および146によってスクロールポンプのフレーム18に固定されている。ボルト146は部分160および168を貫通していて、これらの部分は重なり合って大略的に正方形の同期装置の一側面を形成している。同期装置140の平坦な部分164は、ボルト148およびクランプ要素194によってフレーム18に固定されている。同期装置140の、重なり合った平坦な部分160および168は、ボルト146およびクランプ要素196によってフレーム18に固定されている。したがって、周回スクロール要素46は、同期装置140の2つの対向面上の第1および第2の実質的に平坦な部分162および164に結合され、フレーム18などの固定部品は、同期装置140の他の2つの対向面上の第3および第4の実質的に平坦な部分164および平坦な部分160、168に結合されている。この実施形態において、平坦な部分160、162、164、166、および168には取り付けボルト用にそれぞれクリアランスホールが設けられている。
【0024】
同期装置140を周回スクロール要素46に連結することで、周回スクロールブレード32に間接的に連結される。同様に、フレーム18および固定スクロール要素16が強固に連結されているので、同期装置140をフレーム18に連結することで、固定スクロールブレード30に間接的に連結される。したがって、固定スクロールブレード30および周回スクロールブレード32は、スクロールポンプ作動時に同期装置140によって同期させられる。同期装置140は、固定スクロールブレード30に強固に連結されている任意のスクロールポンプ要素と周回スクロールブレード32に強固に連結されている任意のスクロールポンプ要素との間に結合されてもよい。これらは、例えば、90°間隔で連結されて、同期装置140の変形を可能にする。
【0025】
作動の際には、駆動機構50は固定スクロール要素44に対する周回スクロール要素46の周回運動を生成する。スクロール要素46の周回運動は、突起180および182を介して同期装置140へと伝達される。したがって、同期装置140と周回スクロール要素46との間の連結点は周回移動を描き、一方、フレーム18への連結点は固定されている。周回移動によって同期装置140が変形するが、同期装置140は、周回スクロール要素46の回転移動を阻止し、それによって同期を行う。
【0026】
同期装置140は軸76に対して垂直な平面においては容易に変形することが認められる場合がある。しかし、同期装置140は軸方向の剛性が高く、スクロールポンプ作動中の軸方向荷重の結果として、軸76に沿って非常に小さな変形を発現する。
本発明の実施形態による同期装置を図4、図4A、図4B、図5、図6、および図9に示す。本発明の第2の実施形態による同期装置200を図4に示す。同期装置200は、丸みをおびた連結部210、212、214、および216によって接続された、4つの実質的に平坦な部分202、204、206、および208を含んでいて、大略的に正方形の形状を有する閉鎖ループを形成する。連結部210、212、214、および216の半径は、同期装置200の側面寸法Dの約10分の1であってもよい。さらに、同期装置200は、平坦な部分にそれぞれ補強部分220、222、224、および226を含んでいてもよい。部分220、222、224、および226は、同期装置200がフレームと周回スクロール要素とに結合される位置で補強してもよい。これら補強部分は、同期装置200の帯片と一体に形成されていてもよく、または例えば、接着剤、リベット、または溶接によって帯片に固定されていてもよい。
【0027】
本発明の第3の実施形態による同期装置228を図4Aに示す。同期装置228は、図4に示す同期装置200に類似しているが、補強部分を含んでいない。図4Aの実施形態は、丸みをおびた連結部210〜216によって接続された、4つの実質的に平坦な部分202〜208を含んでいて、閉鎖ループを形成する。
同期装置の性能は、その側面寸法Dに対する連結部210、212、214、および216の半径Rの比率の関数であることが分かっている。特に、軸方向への偏向がこの比率の関数である。同期装置の設計は、軸方向への偏向を制限することを目指しているので、軸方向への偏向が小さくなる比率を選択することが望ましい。図7を参照すると、軸方向への偏向が側面寸法Dに対する半径Rの比率の関数としてプロットされている。軸方向荷重(224ニュートン)、帯片幅(3.8cm)および帯片厚さ(0.06cm)は一定に保たれている。比率0.5が環形状に相当し、比率0が直角の角を有する正方形に相当することが観測される。軸方向への偏向を小さくするためには、側面寸法Dに対する半径Rの比率は、好ましくは約0.25以下、より好ましくは約0.1以下である。
【0028】
図8は、従来技術に対する本発明のもう一つの利点を示している。正規化された横方向、軸方向、および角度方向の曲げ応力が、側面寸法Dに対する半径Rの比率(R/D比)の関数としてプロットされている。図8において、これら応力は321ステンレス鋼の耐久限度に対して正規化されている。軸方向荷重(224ニュートン)、帯片幅(3.8cm)、帯片厚さ(0.06cm)、側面寸法D(9cm)、およびクランクオフセット(0.157cm)はすべて一定に保たれている。R/D比が増加するに従って、横方向および軸方向の曲げ応力が大幅に増加する。横方向の曲げ応力は、R/D値が0.2より大きい場合、321ステンレス鋼の耐久限度を上回る。従来技術では、R/Dはおよそ0.5(環形状)である。この形状、材料、および印加した軸方向荷重では、同期装置は0.2より大きいR/D値で疲労破損を経験する。
【0029】
図7および図8は、従来技術に対する本発明の利点を明確に示している。曲げ応力を最小限にするため、また軸方向への偏向を最小限にするため、R/D比は小さくなければならず、好ましくは約0.25以下、より好ましくは約0.1以下である。
本発明の第4の実施形態による同期装置240を図4Bに示す。同期装置240は、平坦な部分202、204、206、および208それぞれと接合する実質的に平坦な連結部230、232、234、および236を有する。したがって、同期装置240は面取りした角を有する正方形として構成される。また、同期装置240は八角形として見なしてもよい。連結部230、232、234、および236の長さを調節して同期装置の性能を制御することができる。連結部の長さがゼロに近づくにつれて、同期装置は直角の角を有する正方形に近づく。直角の角を有する正方形が本発明の範囲に包含されることが理解されよう。
【0030】
本発明の第5の実施形態による同期装置242を図5に示す。同期装置242は、同期装置242の帯片が複数の層構造を有し、例えば、溶接、接着剤、またはリベット締めによって一体に固定または積層された2つ以上の層を含んでいるという点において、図4の実施形態と異なっている。複数の層構造は、単一層構造と同じ曲げ応力を発現するが、角度方向および軸方向の剛性がより大きい。
【0031】
本発明の第6の実施形態による同期装置244を図6に示す。同期装置244の帯片は、間隔をあけて配置され、別個の領域において連結されている2つ以上の層を含んでいる。同期装置244は、閉鎖ループ内部層250と、この層250よりわずかに寸法の大きい閉鎖ループ外部層252と、を含む。内部層250および外部層252は間隔をあけて配置され、スペーサ254および256によって相互に固定されている。層の数と層間のスペーサの数および大きさとが本発明の範囲内で変動し、異なった用途に異なった性能を提供してもよいことが理解されよう。
【0032】
本発明の第7の実施形態によるスクロールポンプを図9に模式的に示す。このスクロールポンプは、第1スクロール要素300と、第2スクロール要素302と、同期装置310と、を含む。同期装置310は、角が直角で、大略的に正方形の形状を有する閉鎖ループを形成する4つの実質的に平坦な部分312、314、316、および318を有する帯片を含む。第1スクロール要素300は、接続部材320によって平坦な部分314に固定され、接続部材322によって平坦な部分318に固定されている。第2スクロール要素302は、接続部材324によって平坦な部分312に固定され、接続部材326によって平坦な部分316に固定されている。接続部材320、322、324、および326は、直接接続しても間接的に接続してもよい。間接接続の場合には、同期装置310はスクロール要素にそれぞれ強固に連結されているスクロールポンプ部品に固定される。図9は角が直角で正方形の形状を有するような同期装置310を示しているが、図9のスクロールポンプにおいて本発明の範囲内のどの同期装置を利用してもよい。
【0033】
第1スクロール要素300および第2スクロール要素302は、当該技術で公知の、または今後に開発されるどんなスクロール要素であってもよい。一般に、第2スクロール要素302は、スクロールポンプの作動中、第1スクロール要素300に対して周回運動をする。スクロール要素300および302は、図1および図2に関して上述されたスクロール要素44および46にそれぞれ対するものであってもよい。スクロール要素300および302は、単ステージスクロール要素であってもよく、または2つ以上のステージを有していてもよい。単ステージスクロールポンプの例を図1および図2に示す。1ステージより多いステージを有するスクロールポンプが、上記特許文献1に開示されている。スクロールポンプの各ステージには、1つ以上のスクロールブレードが含まれていてもよい。いくつかの実施形態において、スクロール要素300および302は固定スクロール要素と周回スクロール要素とを含んでいてもよい。他の実施形態において、両方のスクロール要素が回転し、一方のスクロール要素が他方のスクロール要素に対して周回運動を描く、上記特許文献5に開示されているように、スクロール要素300および302は同方向回転形状を有していてもよい。スクロールポンプは、油潤滑式または乾式(オイルフリー)でもよく、真空ポンプとしてまたはコンプレッサとして作動するものであってもよい。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様を説明してきたが、当業者には様々な変更、修正および改良が容易に思いつくものと理解される。かかる変更、修正および改良は、本開示内容の一部であることが意図されており、また本発明の精神および範囲内に含まれることが意図されている。したがって、以上の説明および図面は単なる例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態によるスクロールポンプの模式的な側断面図である。
【図2】図1のスクロールポンプの模式的な平面視による断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による同期装置および周回スクロール要素の斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による同期装置の斜視図である。
【図4A】本発明の第3の実施形態による同期装置の正面図である。
【図4B】本発明の第4の実施形態による同期装置の正面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態による同期装置の斜視図である。
【図6】本発明の第6の実施形態による同期装置の斜視図である。
【図7】同期装置の側面寸法に対する連結部の半径の比率の関数としての、同期装置の軸方向への最大偏向のグラフである。
【図8】同期装置の側面寸法に対する連結部の半径の比率の関数としての、横方向、軸方向、および角度方向における同期装置の応力/耐久強さのグラフである。
【図9】本発明の第7の実施形態によるスクロールポンプの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スクロール要素および第2スクロール要素と、
前記第1スクロール要素に対する前記第2スクロール要素の周回運動を生成するために前記第2スクロール要素に動作可能に結合させた駆動機構と、
前記第1スクロール要素と前記第2スクロール要素との間に結合された同期装置であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置と、
を備えたスクロールポンピング装置。
【請求項2】
前記同期装置が大略的に正方形の形状を有する、請求項1に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項3】
前記同期装置の前記実質的に平坦な部分が、連結部によって接続されている、請求項2に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項4】
前記連結部が半径を有している、請求項3に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項5】
前記正方形の形状の側部寸法に対する前記連結部の前記半径の比率が、約0.25以下、好ましくは約0.1以下である、請求項4に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項6】
前記連結部が実質的に平坦である、請求項3に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項7】
前記帯片が2つ以上の層を含んでいる、請求項1に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項8】
前記同期装置が大略的に正方形の形状を有しており、前記正方形の形状は、その互いに対向する側に第1および第2の実質的に平坦な部分を備えており、前記第1および第2の実質的に平坦な部分は、前記第2スクロール要素に結合されていて、
前記正方形の形状の互いに対向する側に、第3および第4の実質的に平坦な部分が備えられており、前記第3および第4の実質的に平坦な部分は前記第1スクロール要素に結合されている、請求項1に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項9】
前記第1スクロール要素が固定スクロール要素を備え、前記第2スクロール要素が周回スクロール要素を備えた、請求項1に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項10】
真空ポンプとしてまたはコンプレッサとして構成される、請求項1に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項11】
スクロールポンピング装置であって、
入口および出口を有し、固定スクロールブレードを含む固定スクロール要素と周回スクロールブレードを含む周回スクロール要素とを備えたスクロールセットであって、前記固定および周回スクロールブレードが共に相互に噛み合って1つ以上のブレード間ポケットを画成しているスクロールセットと、
前記固定スクロールブレードに対する前記周回スクロールブレードの周回運動を生成して、前記1つ以上のブレード間ポケットが前記出口へと移動していくようにするため、前記周回スクロール要素に動作可能に結合させた駆動機構と、
前記周回スクロール要素と当該スクロールポンピング装置の固定部品との間に結合された同期装置であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置と、を備えたスクロールポンピング装置。
【請求項12】
前記同期装置が大略的に正方形の形状を有しており、
前記同期装置の前記実質的に平坦な部分が連結部によって接続されており、
前記連結部が半径を有している、請求項11に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項13】
前記帯片が、前記周回スクロール要素に連結するための領域と、当該スクロールポンピング装置の前記固定部品に連結するための領域とを含む、請求項11に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項14】
前記帯片の両端が重なり合って大略的に正方形の形状の一側部を形成する、請求項11に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項15】
前記同期装置が閉じたループ形状を有している、請求項11に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項16】
前記実質的に平坦な部分のうちの1つ以上が補強部分を含む、請求項11に記載のスクロールポンピング装置。
【請求項17】
第1スクロール要素と第2スクロール要素とを備えたタイプのスクロールポンピング装置を作動する方法であって、
前記第1スクロール要素に対する前記第2スクロール要素の周回運動を生成する工程と、
前記第1スクロール要素と前記第2スクロール要素との間に結合された同期装置であって、連結された実質的に平坦な部分を有する帯片を備えた同期装置によって、前記周回運動中に前記第1スクロール要素および前記第2スクロール要素を同期させる工程と、を含む方法。
【請求項18】
前記同期装置が大略的に正方形の形状を有しており、前記正方形の形状は、その互いに対向する側に第1および第2の実質的に平坦な部分を備えており、
前記第1および第2の実質的に平坦な部分を前記第2のスクロール要素に結合させる工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記同期装置が、前記正方形の形状の互いに対向する側に第3および第4の実質的に平坦な部分をさらに備えており、前記第3および第4の実質的に平坦な部分を前記第1スクロール要素に結合させる工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1スクロール要素に対する前記第2スクロール要素の軸方向移動を前記同期装置によって制限する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−530870(P2007−530870A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506155(P2007−506155)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/003572
【国際公開番号】WO2005/103495
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】