説明

耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物

【課題】耐衝撃性に優れると共に、低吸水性、耐熱性、耐薬品性、機械物性、寸法安定性などの諸性能に優れたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および変性ポリオレフィン(B)を含むポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド(A)100質量部に対して変性ポリオレフィン(B)0.5〜50質量部を含む耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリアミド樹脂組成物および変性オレフィンからなるポリアミド樹脂組成物、このポリアミド樹脂組成物にさらに充填剤を配合してなるポリアミド樹脂組成物、ならびにこれらのポリアミド樹脂組成物からなる成形品に関する。詳しくは耐衝撃性に優れると共に、低吸水性、耐熱性、耐薬品性、機械物性、寸法安定性などの諸性能に優れるポリアミド組成物に関するものである。本発明のポリアミド樹脂組成物は自動車部品、電気電子部品、機械部品などの産業、工業、および家庭用品の材料として有用であり、特に自動車エンジンルーム部品などの高熱条件で使用される種々の部品に好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66に代表される脂肪族ポリアミドは、耐熱性、耐薬品性、剛性、耐磨耗性、成形性などの優れた性質を持つために、エンジニアリングプラスチックとして多くの用途に使用されてきた。しかし、成形直後などの絶乾状態や、低温での衝撃強度は必ずしも十分とは言えなかった。このような問題点に対しては、ポリオレフィンとのアロイ化などが検討され、実際に使用されてきた。その一方で、自動車部品などの高温に晒されるような用途における耐熱性、吸水による寸法安定性が低いなどの問題点が指摘されている。特に近年、表面実装技術を利用する電気電子部品用途、エンジンルーム内の電装部品などの自動車部品用途では耐熱性への要求が高くなる傾向にあり、従来のポリアミドを使用することは困難となってきており、耐熱性、寸法安定性、機械物性に優れたポリアミドの開発が望まれていた。
【0003】
このような要求に対し従来のポリアミドよりも更に高融点の1,6−ヘキサンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミドを主成分とした6T系ポリアミドと呼ばれる半芳香族ポリアミドも、新しいエンジニアリングプラスチックとして使用され始めた。しかし、6T系ポリアミドは従来のポリアミドと比較して衝撃強度に劣るという問題があった。これに対し、6T系ポリアミドを始めとした半芳香族ポリアミドをゴム成分とアロイ化することにより耐衝撃性を向上する方法が提案されている(例えば特許文献1および2参照)。しかしながら、1,6−ヘキサンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミドは融点が370℃付近であり、溶融成形をポリマーの分解温度以上で実施する必要があり実用に耐え得るものではなかった。そのため実際には、アジピン酸やイソフタル酸、ε―カプロラクタム等を30〜40モル%程度共重合することにより、ポリアミドとして実使用可能な温度領域である320℃程度まで低融点化した組成で実用化されている。このような第3成分ないし第4成分の共重合は低融点化には有効であるが、その一方で結晶化速度、到達結晶化度の低下を招き、その結果、高温下での剛性、耐薬品性、寸法安定性などの諸物性が低下するだけでなく、成形サイクルの延長に伴う生産性の低下も懸念される。また、溶融滞留時に粘度低下し易いので成形性にも難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−144362号公報
【特許文献2】特開平4−270761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は上記課題を解決し、耐衝撃性に優れると共に、低吸水性、耐熱性、耐薬品性、機械物性、寸法安定性などの諸性能に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、パラキシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分からなるポリアミドと、変性ポリオレフィンとからなる樹脂組成物が、耐衝撃性に優れると共に、低吸水性、耐熱性、耐薬品性、機械物性、寸法安定性などの諸性能に優れることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および変性ポリオレフィン(B)を含むポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド(A)100質量部に対して変性ポリオレフィン(B)0.5〜50質量部を含む耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物に関するものである。また、本発明は上記ポリアミド樹脂組成物からなる成形品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は高い結晶化速度、到達結晶化度や低吸水性が要求される小型・薄肉の成形品、耐熱性能や剛性が要求される自動車の前照灯反射板、エンジンルーム部品などの高熱条件で使用される種々の部品に好適に使用することができる。また、フィルム、シート、チューブの形態に成形加工可能であり、産業、工業および家庭用品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は後述するジアミン単位とジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および変性ポリオレフィン(B)を含有する。ここで、ジアミン単位とは原料ジアミン成分に由来する構成単位を指し、ジカルボン酸単位とは原料ジカルボン酸成分に由来する構成単位を指す。
【0010】
ポリアミド(A)は、パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミドである。ジアミン単位中のパラキシリレンジアミン単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。ジカルボン酸単位中の炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0011】
ポリアミド(A)は、パラキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合させることにより得られる。
【0012】
ポリアミド(A)に用いる原料のジアミン成分は、パラキシリレンジアミンを70モル%以上含むものであり、さらには80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。ジアミン成分中のパラキシリレンジアミンを70モル%以上とすることで、得られるポリアミド樹脂組成物は高融点、高結晶性を示し、耐熱性、耐薬品性などに優れるポリアミド樹脂組成物として種々の用途に好適に用いることができる。原料のジアミン成分中のパラキシリレンジアミン濃度が70モル%未満の場合、耐熱性、耐薬品性が低下するため好ましくない。
【0013】
パラキシリレンジアミン以外の原料ジアミン成分としては、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミンなどの芳香脂肪族ジアミン、あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0014】
ポリアミド(A)に用いる原料のジカルボン酸成分は、炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むものであり、さらには80モル%以上が好ましく、90モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上とすることで得られるポリアミドは溶融加工時の流動性、高い結晶性、低吸水率を示し、耐熱性、耐薬品性、成型加工性、寸法安定性に優れるポリアミドとして種々の用途に好適に用いることが可能となる。原料ジカルボン酸成分中の炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸濃度が70モル%未満の場合、耐熱性、耐薬品性、成型加工性が低下するため好ましくない。
【0015】
炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸などが例示できる。中でもアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸が好ましく、特に好ましいのはセバシン酸、アゼライン酸である。これらの代わりに炭素数が5以下の脂肪族ジカルボン酸を使用した場合、ジカルボン酸の融点、沸点が低いために重縮合反応時に反応系外に留出してジアミンとジカルボン酸の反応モル比が崩れ、得られるポリアミドの機械物性や熱安定性が低くなるため好ましくない。また、炭素数が19以上の脂肪族ジカルボン酸を使用した場合は性状の安定したポリアミドは得られるが、融点が大きく低下し、耐熱性が得られなくなるため好ましくない。
【0016】
炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸以外の原料ジカルボン酸としてはマロン酸、コハク酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,4−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
前記ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0018】
ポリアミド(A)の重縮合時に分子量調整剤として、ポリアミドの末端アミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能化合物を少量添加しても良い。使用できる化合物としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸などの脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミンなどの脂肪族モノアミン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミンなどの芳香脂肪族モノアミン、あるいはこれらの混合物が例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
ポリアミド(A)の重縮合時に分子量調整剤を使用する場合、好適な使用量については、用いる分子量調整剤の反応性や沸点、反応条件などにより異なるものとなるが、通常、原料ジアミン成分とジカルボン酸成分の合計に対して0.1〜10質量%程度である。
【0020】
ポリアミドの重合度の指標としてはいくつかあるが、相対粘度は一般的に使われるものである。ポリアミド(A)において好ましい相対粘度は1.8〜4.2であり、さらには1.9〜3.5であることが好ましく、2.0〜3.0であることが特に好ましい。ポリアミド(A)の相対粘度が1.8未満の場合には、溶融したポリアミド(A)の流動性が不安定になりやすく成形品の外観が悪化することがある。またポリアミド(A)の相対粘度が4.2を超えると、ポリアミド(A)の溶融粘度が高すぎて成形加工が不安定になることがある。尚、ここで言う相対粘度は、ポリアミド1gを96%硫酸100mLに溶解し、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96%硫酸そのものの落下時間(t0)の比であり、下記式(1)で示される。
相対粘度=t/t0 ・・・(1)
【0021】
ポリアミド(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量(Mn)が10,000〜50,000の範囲であることが好ましく、14,000〜30,000の範囲であることが特に好ましい。Mnを10,000〜50,000の範囲にすることで、成形品とした場合の機械的強度が安定し、また成形性の上でも加工性良好となる適度な溶融粘度を持つものとなる。また、分散度(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)は1.5〜5.0の範囲であることが好ましく、1.5〜3.5の範囲であることが特に好ましい。分散度を上記範囲とすることにより溶融時の流動性や溶融粘度の安定性が増し、溶融混練や溶融成形の加工性が良好となる。また靭性が良好であり、耐吸水性、耐薬品性、耐熱老化性といった諸物性も良好となる。
【0022】
ポリアミド(A)は(a)溶融状態における重縮合、(b)溶融状態で重縮合して低分子量のポリアミドを得た後に固相状態で加熱処理するいわゆる固相重合、(c)溶融状態で重縮合して低分子量のポリアミドを得た後混練押出機を使用して溶融状態で高分子量化する押出重合など公知のポリアミド合成方法で得ることができる。
【0023】
溶融状態における重縮合方法は特に限定されるものではないが、ジアミン成分とジカルボン酸成分とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧または水蒸気加圧雰囲気下で重縮合する方法を例示できる。ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて重合する場合、反応系を均一な液状状態で保つためにジアミン成分を溶融ジカルボン酸相に連続的に加え、生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点を下回らないように反応温度を制御しつつ重縮合が進められる。
【0024】
溶融重縮合で得られたポリアミドは一旦取り出され、ペレット化された後、乾燥して使用される。また更に重合度を高めるために固相重合しても良い。乾燥乃至固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置およびナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。特にポリアミドの固相重合を行う場合は、上述の装置の中で回分式加熱装置が、系内を密閉化でき、着色の原因となる酸素を除去した状態で重縮合を進めやすいことから好ましく用いられる。
【0025】
ポリアミド(A)の重縮合系内には、重縮合反応の触媒、重縮合計内に存在する酸素によるポリアミドの着色を防止する酸化防止剤としてリン原子含有化合物を添加しても良い。添加するリン原子含有化合物としては次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、ピロリン酸のアルカリ金属塩、ピロリン酸のアルカリ土類金属塩、メタリン酸のアルカリ金属塩およびメタリン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。具体的には、次亜リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素二マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸リチウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸マグネシウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸リチウム、あるいはこれらの混合物が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
ポリアミド(A)の重縮合系内に添加するリン原子含有化合物の添加量は、ポリアミド(A)中のリン原子濃度換算で50〜400ppmであることが好ましく、さらには、60〜350ppmであることが好ましく、70〜300ppmであることが特に好ましい。リン原子濃度が50ppm未満の場合は、酸化防止剤としての効果を十分に得ることができず、ポリアミド樹脂組成物が着色する傾向にあり好ましくない。また、リン原子濃度が400ppmを超える場合は、ポリアミド樹脂組成物のゲル化反応が促進され、リン原子含有化合物に起因すると考えられる異物が成形品中に混入する場合があり、成形品の外観が悪化する傾向があるため好ましくない。
【0027】
また、ポリアミド(A)の重縮合系内には、リン原子含有化合物と併用して重合速度調整剤を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミドの着色を防止するためにはリン原子含有化合物を十分な量存在させる必要があるが、ポリアミドのゲル化を招く恐れがあるため、アミド化反応速度を調整するためにも重合速度調整剤を共存させることが好ましい。重合速度調整剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酢酸塩およびアルカリ土類金属酢酸塩が挙げられ、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩が好ましい。重合速度調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、あるいはこれらの混合物が挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0028】
重縮合系内に重合速度調整剤を添加する場合、リン原子含有化合物と重合速度調整剤のグラム当量比(=[重合速度調整剤のグラム当量]/[リン原子含有化合物のグラム当量])が0.4〜1.0となるようにすることが好ましく、さらには0.5〜0.95であることが好ましく、0.6〜0.9であることが特に好ましい0.4未満の場合、リン原子含有化合物のアミド化反応促進効果を抑制する効果が不足することがあり、ポリアミド中のゲルが多くなることがある。また1.0を超えるとリン原子含有化合物のアミド化反応促進効果を抑制しすぎて、重縮合の進行が遅くなり、ポリアミド製造時の熱履歴が増加してポリアミドのゲルが多くなることがあるので好ましくない。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物はポリアミド(A)以外の構成成分として変性ポリオレフィン(B)を含有する。変性ポリオレフィン(B)としては、ポリオレフィンをα,β−不飽和カルボン酸あるいはそのエステル、金属塩誘導体で共重合により改質したものや、カルボン酸または酸無水物などをポリオレフィンにグラフト導入して改質したものが使用できる。具体的にはエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−デゼン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・1−デゼン共重合体、プロピレン・1−ドデゼン共重合体、エチレン・プロピレン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・1−ブテン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体などが例示できるがこれらに限定されるものではない。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物は上記のポリアミド(A)および変性ポリオレフィン(B)からなり、変性ポリオレフィン(B)の配合量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.5〜50質量部、好ましくは、1〜45質量部、特に好ましくは5〜40質量部である。ポリアミド樹脂100質量部に対し、変性ポリオレフィンの配合量が0.5質量部以下では、機械的強度、熱的性質等の改善効果が少なく、また、変性ポリオレフィンの配合量が50質量部を超えると、耐熱性が低下するなどポリアミド樹脂組成物の特徴が発揮されず好ましくない。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて充填剤を配合することができる。これらの充填剤は、本発明の樹脂組成物100質量部に対し1〜200質量部を配合して使用すると成形性、力学特性、熱変形性などのバランスが取れ、好ましい。配合量は、樹脂組成物100質量部に対して、より好ましくは1〜150質量部、特に好ましくは2〜100質量部である。充填剤としては、粉末状、繊維状、クロス状などの各種形態を有する充填剤を用いることができる。
【0032】
粉末充填剤としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、タルク、マイカ、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、アスベスト、ガラスビーズ、カーボンブラック、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレンなどを例示できる。
【0033】
繊維状充填剤としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド樹脂、ポリメタフェニレンテレフタルアミド樹脂、ポリパラフェニレンイソフタルアミド樹脂、ポリメタフェニレンイソフタルアミド樹脂、ジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸またはイソフタル酸との縮合物から得られる繊維などの全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族液晶ポリエステル繊維などの有機系の繊維状充填剤;あるいはガラス繊維、炭素繊維またはホウ素繊維などの無機系の繊維状充填剤を例示できる。これらの繊維状充填剤は、クロス状などに二次加工されていてもよい。
【0034】
これらの充填剤は、1種または2種以上混合して使用することができる。特に上記の粉末充填剤と、上記の繊維状充填剤との組み合わせで使用することにより成形性、表面美麗性、力学特性、および耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができるので好ましい。また、これらの充填剤として、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤などで表面処理した物を使用することもできる。充填剤の表面をこれらのカップリング剤で処理したものを使用すると、得られる成形品の力学特性が優れるので好ましい。シランカップリング剤としては、特にアミノシラン系のカップリング剤が好ましい。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、銅系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤などの酸化防止剤、着色剤、光安定化剤、滑剤、結晶化剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の高分子材料に一般に用いられている各種添加剤、あるいは他種ポリマー等を配合することができるがこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、ポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、さらに必要に応じてその他添加剤および樹脂を任意の順序で、また慣用の装置を用いて、例えば、通常のベント式押出機またはこれに類似した装置を用いて溶融混練する方法により、製造することができる。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物は射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、延伸、真空成形などの公知の成形方法が適用できる。エンジニアリングプラスチックとしてエンジンマウント、エンジンカバー、トルクコントロールレバー、ウィンドレギュレーター、前照灯反射板、ドアミラーステイなどの自動車用部品、コネクター、スイッチ、コンデンサー、キャパシターなどの電気電子部品などの成形品をはじめ、フィルム、シート、中空容器、チューブなどの形態にも成形可能であり、産業資材、工業材料、家庭用品などに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミド(A)および変性ポリオレフィン(B)を含むポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド(A)100質量部に対して変性ポリオレフィン(B)0.5〜50質量部を含む耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記直鎖脂肪族ジカルボン酸単位がアゼライン酸単位、セバシン酸単位、ウンデカン二酸単位およびドデカン二酸単位より選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載の耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記直鎖脂肪族ジカルボン酸単位がセバシン酸単位およびアゼライン酸単位より選ばれる少なくとも1種類である請求項1または2に記載の耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド(A)が、パラキシリレンジアミン単位を90mol%以上含むジアミン単位と、セバシン酸単位およびアゼライン酸単位より選ばれる少なくとも1種類を90mol%以上含むジカルボン酸単位からなるポリアミドである請求項1〜3のいずれかに記載の耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド(A)の相対粘度が1.8〜4.2の範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド(A)のゲル浸透クロマトグラフィー測定における数平均分子量(Mn)が10,000〜50,000の範囲であり、かつ分散度(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)が1.5〜5.0の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド(A)と変性ポリオレフィン(B)の合計100質量部に対し、充填剤を1〜200質量部含む請求項1〜6のいずれかに記載の耐衝撃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項9】
前記成形品が自動車用部品である請求項8に記載の成形品。
【請求項10】
前記成形品が電気部品または電子部品である請求項8に記載の成形品。

【公開番号】特開2011−57930(P2011−57930A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211836(P2009−211836)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】