説明

耐震補強ケーブル

【課題】落橋防止装置および座屈拘束ブレース等に使用可能でかつ設計適用範囲が広い耐震補強ケーブルを提供する。
【解決手段】耐震補強ケーブル1は、第1の鋼材4と、第1の鋼材と略平行に配され第1の鋼材よりも降伏点の大きな第2の鋼材5と、第1の鋼材の両端部にそれぞれが固定的または移動可能のいずれかの状態に一体化された2つのアンカー部材6,6と、を有し、2つのアンカー部材の相互の距離が所定の長さ以下では第1の鋼材のみに引張荷重が加わり、相互の距離が所定の長さを超えると第2の鋼材に引張荷重が加わるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁における落橋防止等および建築物等の耐震補強等に使用するケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近い将来に大きな地震が発生することが予測されており、橋梁および建築物等の構造物における耐震補強の重要性が高まっている。
橋梁の耐震性を高めるために、例えば橋脚と橋台とをケーブルで連結して落橋防止構造とする、および橋脚に鉄板または繊維シート等を巻いて増厚し橋脚自体の強度を高める等の方策がなされる。
橋梁の耐震補強構造の中で、橋桁と橋台とをケーブルで連結する落橋防止構造は、ケーブルにより橋桁の重量を支えるのではなく、ケーブルによって地震発生時の振動による橋桁の変位を防止するものである。橋梁の耐震補強構造に使用されるケーブルは、想定される最大の地震時に破断しない程度の伸びおよび強度を有するか、またはその一端が、最大の地震時における変位を吸収可能な弾性体、例えばスプリングを介して橋脚等に連結される。
【0003】
しかしながら、落橋防止構造において、単に橋桁と橋台とをこのようにしてケーブルで連結するのみでは、中小規模の地震に対して、橋桁の変位制限および地震エネルギーの吸収が十分ではなく橋梁の下部構造に負担が加わるという問題がある。
このような問題を解決するために、大規模な地震に対する地震エネルギーの吸収装置の他に、中小規模の地震に対する地震エネルギーの吸収装置を設けた落橋防止装置が提案されている(特許文献1)。
また、建築物等の耐震補強では、従来の、水平力により座屈し易い鋼材で形成されたブレースに替えて、座屈拘束ブレース(アンボンドブレース)が使用される。座屈拘束ブレースは、芯ブレースとその外側を覆う剛性の高い周囲部材とからなり、芯ブレースにより地震の水平力を吸収し、周囲部材により芯ブレースの座屈を拘束して防止するものである(非特許文献1)。
【0004】
座屈拘束ブレースは、芯ブレースが塑性変形することによる地震エネルギーの吸収を妨げることがないように、剛性の高い周囲部材が芯ブレースと固着されないのが通常である。しかし、一方で、建築物等を大地震に耐え得る耐震構造とするには、ブレースに高い剛性が求められる。この要求に対し、芯ブレースの一部の断面積を大きくし、芯ブレース全体として軸方向の剛性を高めた座屈拘束ブレースが提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−64914号公報
【特許文献2】特開2002−88910号公報
【非特許文献1】インターネット「座屈拘束ブレースの多モード分岐」 http://www.ksky.ne.jp/~kuriyama/H181116study-Braces.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において提案された落橋防止装置は、中規模な地震では橋桁の移動量に応じてスプリングが伸縮することにより地震エネルギーを吸収する。また、大規模な地震に対しては、ウェッジプレートが筒体を拡径させながら移動し、地震エネルギーを塑性変形抵抗で吸収することにより落橋を防止する。
しかし、特許文献1で提案された落橋防止装置は、断面が円形であるウェッジプレートと筒体との中心が一致するように施工され、かつ地震発生時にもこの位置関係でウェッジプレートが移動して筒体が周方向に均等に塑性変形することを前提にしている。つまり、特許文献1で提案された落橋防止装置は、これらのうちいずれかを欠くと設計通りに地震エネルギーを吸収することができないおそれがある。そして、筒体はその厚みに比べて径が大きく、発生した地震の振動方向によっては、地震による橋桁の移動と同時に筒体が変形する可能性がある。筒体が変形すると、ウェッジプレートは周方向に均等に筒体を塑性変形させることができず、落橋防止装置は、適切に地震エネルギーを吸収することができない。
【0006】
特許文献2において提案された座屈拘束ブレースは、地震時に圧縮荷重を受けた芯ブレースが圧縮され、その断面積を大きくした部分以外の部分における圧縮応力が降伏強さに達すると降伏する。このとき芯ブレースにおける断面積が大きな部分は、その他の部分に比べて圧縮の程度が小さく、かつ生じた圧縮応力が降伏強さに達してなく剛性を有する。
しかし、特許文献2において提案された座屈拘束ブレースは、芯ブレースの伸びまたは縮みの程度の許容範囲を広げるものではなく、大地震を想定した水平力に応じた設計の自由度に限界がある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、落橋防止装置および座屈拘束ブレース等に使用可能でかつ設計適用範囲が広い耐震補強ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る耐震補強ケーブルは、第1の鋼材と、前記第1の鋼材と略平行に配され前記第1の鋼材よりも降伏点の大きな第2の鋼材と、前記第1の鋼材の両端部にそれぞれが固定的または移動可能のいずれかの状態に一体化された2つのアンカー部材と、を有し、2つの前記アンカー部材の相互の距離が所定の長さ以下では前記第1の鋼材のみに引張荷重が加わり、前記相互の距離が前記所定の長さを超えると前記第2の鋼材に引張荷重が加わるように構成されてなる。
【0009】
上記において「前記第1の鋼材の両端部にそれぞれが固定的または移動可能のいずれかの状態に一体化された2つのアンカー部材」とは、第1の鋼材の両端部にそれぞれ2つのアンカー部材がいずれも固定的に一体化されている場合、第1の鋼材の両端部にそれぞれ2つのアンカー部材がいずれも移動可能に一体化されている場合、および第1の鋼材の一方の端部に1つのアンカー部材が固定的に一体化され第1の鋼材の他方の端部に他の1つのアンカー部材が移動可能に一体化されている場合のいずれも含む意である。
好ましくは、前記アンカー部材は、前記第2の鋼材が移動可能に貫通された貫通孔を有し、前記第2の鋼材は、前記貫通孔を貫通したその端部に前記貫通孔を通過不能なスリーブが固着されており、2つの前記アンカー部材の相互の距離が所定の長さ以下では前記アンカー部材と前記スリーブとが当接せず、前記相互の距離が前記所定の長さを超えると前記スリーブが前記アンカー部材に当接して前記第2の鋼材に引張荷重が加わるように構成される。
【0010】
好ましくは、前記第1の鋼材は、その長手方向に直交する断面において、複数の個別の鋼材の1群がそれぞれの軸心を正多角形の頂点となるように配置されて形成され、前記第2の鋼材は、その長手方向に直交する断面において、複数の個別の鋼材の1群がそれぞれの軸心を、前記正多角形について前記正多角形の中心と前記正多角形における1つの頂点とを結ぶ線および前記中心と当該頂点に隣り合う頂点とを結ぶ線がなす角度の半分回転させたときの頂点となるように配置されて形成される。
前記第1の鋼材は鉄筋であり、前記第2の鋼材はプレストレストコンクリート用鋼材である。
【0011】
なお、上記における「所定の長さ」は、第1の鋼材に引張荷重が加わって第1の鋼材が降伏した後に破断するまでの伸びの範囲における任意に設定した伸びと、引張荷重が加わる前のアンカー部材間の距離とから求められる長さである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、落橋防止装置および座屈拘束ブレース等に使用可能でかつ設計適用範囲が広い耐震補強ケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明に係る耐震補強ケーブル1の正面部分断面図、図2は図1におけるA−A矢示断面図、図3は図1におけるB−B矢示断面図、図4は第1ガイドプレート2の平面図、図5は第2ガイドプレート3の平面図である。なお、図1におけるHで規定される範囲は、図2におけるC−C矢示断面であり、図1におけるその他の断面は図2におけるD−D矢示断面である。
図1ないし図3において、耐震補強ケーブル1は、4本の低降伏点鋼材4,4,4,4、3本の高降伏点鋼材5,5,5、2つのアンカー6,6、4対の第1スリーブ7,…,7、3対の第2スリーブ8,…,8、6対のプレート支持棒9,…,9、2つの第1ガイドプレート2,2、2つの第2ガイドプレート3,3、外套管10および1対の防護キャップ11,11からなる。
【0014】
低降伏点鋼材4は、一般的な炭素鋼よりも降伏点が低い鋼棒であり、例えば、引張特性として降伏点が略235N/mm2の鋼棒が使用される。4本の低降伏点鋼材4,…,4は、その径および長さが略同一であり、耐震補強ケーブル1において、図2に示されるように、中心に1本、直交する断面においてその周囲に軸心が正三角形の頂点となるように3本配置されている。
高降伏点鋼材5は、PC鋼より線が使用される。3本の高降伏点鋼材5,5,5は、略同一の径、長さおよび引張強度特性を有する。図2を参照して、3本の高降伏点鋼材5,5,5は、耐震補強ケーブル1に直交する断面においてその軸心が、3本の低降伏点鋼材4,4,4が形成する正三角形を、その中心と1つの頂点とを結ぶ線および中心と先の頂点に隣り合う頂点とを結ぶ線がなす角度の半分回転させたときの各頂点となるように配置されている。したがって、3本の高降伏点鋼材5,5,5と3本の低降伏点鋼材4,4,4の軸心とは、併せて正六角形を形成している。低降伏点鋼材4および高降伏点鋼材5の配置は、正六角形に限られない。例えば、低降伏点鋼材4を5本および高降伏点鋼材5を4本使用して耐震補強ケーブルを形成する場合には、低降伏点鋼材4および高降伏点鋼材5の軸心がそれぞれ正方形の頂点になるように配置され、併せた頂点が正八角形を形成するように配置してもよい。低降伏点鋼材4および高降伏点鋼材5の軸心の配置は、正多角形を二重以上に重ねたものでもよく、耐震補強ケーブル1の直交する断面の中心に、高降伏点鋼材5を一本配置しまたは低降伏点鋼材4および高降伏点鋼材5のいずれも配置しない構造としてもよい。
【0015】
アンカー6は、耐震補強ケーブル1の端を橋梁における橋台もしくは橋脚、または建築物における柱もしくは梁に固定するための部材である。アンカー6は、円柱状であって軸心方向に貫通する7つの貫通孔が設けられている。7つの貫通孔とは、各低降伏点鋼材4をそれぞれ貫通させる4つの第1貫通孔12,12、および各高降伏点鋼材5をそれぞれ移動可能に貫通させる3つの第2貫通孔13である。アンカー6は、各第1貫通孔12にそれぞれ1本の低降伏点鋼材4を貫通させ、各第2貫通孔13にそれぞれ1本の高降伏点鋼材5を貫通させた状態で、耐震補強ケーブル1における両端近傍に各1つずつ配されている。アンカー6の外周には雄ネジ加工が施されている。
【0016】
第1スリーブ7は、低降伏点鋼材4の端部をアンカー6に固着させるためのものである。第1スリーブ7は、円筒状であって第1貫通孔12の内径よりも大きな外径を有する。第1スリーブ7は、それぞれのアンカー6の外側の面14からアンカー6の軸方向に突出するように各アンカー6につき4つ配されている。第1スリーブ7は、アンカー6の第1貫通孔12を貫通する低降伏点鋼材4を、貫通後のその端側を内側に貫通させ、その外周がかしめられて低降伏点鋼材4と一体化されている。また、第1スリーブ7は、アンカー6にも固定的に一体化されており、第1スリーブ7は、2つのアンカー6,6が遠ざかりまたは近づくときに、低降伏点鋼材4に引張荷重または圧縮荷重を与える働きをする。
【0017】
第2スリーブ8も、第1スリーブ7と同様に円筒状であり、第2貫通孔13の内径よりも大きな外径を有する。第2スリーブ8は、第2貫通孔13を貫通する高降伏点鋼材5を、貫通後のその端側を内側に貫通させ、外周からかしめられて高降伏点鋼材5に固着されている。第2スリーブ8は、各アンカー6の外側にそれぞれ3つがその軸心を第1スリーブ7の軸心と略平行になるようにして配置されている。第2スリーブ8は、アンカー6とは独立しており、アンカー6に対して絶対的な移動が可能である。第2スリーブ8は、第2貫通孔13を移動可能に貫通する高降伏点鋼材5が第2貫通孔13から抜け出ないようにする働きをする。
【0018】
プレート支持棒9は、丸棒で形成されており、各アンカー6の外側の面14の周縁近傍から同一の長さを有する各6本が周方向に等間隔でアンカー6の軸方向に立設されている。プレート支持棒9は、先端側からその長さの半分ほどに雄ネジが設けられている。プレート支持棒9は、第1ガイドプレート2および第2ガイドプレート3を支持するためのものである。
図4を参照して、第1ガイドプレート2は、円形板状であって、周縁近傍に周方向に等間隔に円形の支持孔15が6つ設けられている。支持孔15は、プレート支持棒9の外径よりも僅かに大きい内径を有する。第1ガイドプレート2には、図3に示される図1のB−B矢視断面における第1スリーブ7,…,7の配置に対応させて、第1スリーブ7の外径より僅かに大きな内径を有する4つの径大孔16,16,16,16が設けられている。また、第1ガイドプレート2には、図3に示される図1のB−B矢視断面における第2スリーブ8,8,8の配置に対応させて、第2スリーブ8の外径より僅かに大きな内径を有する3つの径小孔17,17,17が設けられている。
【0019】
各第1ガイドプレート2は、それぞれのアンカー6の外側の面14に立設された6本のプレート支持棒9,…,9を各支持孔6に貫通させ、各径大孔16に各第1スリーブ7が挿通された状態でプレート支持棒9,…,9に固定される。第1ガイドプレート2のプレート支持棒9,…,9への固定は、第1ガイドプレート2の両側でプレート支持棒9,…,9の雄ネジに螺合されたナットにより行われる。
第2ガイドプレート3は、第1ガイドプレート2と同じ外径を有する円形板状であって、周縁近傍に周方向に等間隔に円形の支持孔18が6つ設けられている。第2ガイドプレート3における支持孔18は、第1ガイドプレート2と重ね合わせたときに第1ガイドプレート2の支持孔15と同一内径で同位置になるように形成されている。また、第2ガイドプレート3には、第1ガイドプレート2と重ね合わせたときに第1ガイドプレート2の径小孔17,17,17と同一内径で同位置となる径小孔19が3つ設けられている。各第2ガイドプレート3は、第1ガイドプレート2の外方に配され、径小孔19に第2スリーブ8が挿通された状態でプレート支持棒9,…,9に固定される。第2ガイドプレート3のプレート支持棒9,…,9への固定も、第1ガイドプレート2と同様に、その両側でプレート支持棒9,…,9の雄ネジに螺合されたナットにより行われる。
【0020】
外套管10は、アンカー6,6間の低降伏点鋼材4,…,4および高降伏点鋼材5,5,5を雨水等から保護するために設けられた円管である。外套管10は、第1管20および第2管21の2つの部材からなり、それぞれの一端は別々のアンカー6,6に固定されている。外套管10は、第1管20のアンカー6に固定されない他端近傍において所定の長さだけ外径が小さくなっており、この部分が第2管21のアンカー6に固定されない他端に挿入されて、伸縮自在となっている。
防護キャップ11は、一端が閉塞され、開放された他端がアンカー6の外側の面14により閉塞された中空円筒である。防護キャップ11は、中空の内部に、アンカー6の外方に配された低降伏点鋼材4,…,4および高降伏点鋼材5,5,5の端部、ならびに第1スリーブ7,…,7、第2スリーブ8,8,8、第1ガイドプレート2、第2ガイドプレート3等を収容して雨水等から保護する。
【0021】
アンカー6の外周に設けられた雄ネジには、耐震補強ケーブル1を橋梁等に取り付けるための定着ナット22が螺合される。
図6は上記のように構成された耐震補強ケーブル1の荷重−伸び曲線の概念図、図7は耐震補強ケーブル1の伸びの様子を示す図である。
耐震補強ケーブル1は、アンカー6,6間に引張荷重が加えられると引張荷重が小さいうちはその大きさに比例して伸びる(図6の弾性範囲)。このとき、アンカー6の第2貫通孔13を移動可能な高降伏点鋼材5,5,5は、引張荷重が加わらないために伸びが生じない。
【0022】
さらに耐震補強ケーブル1に加えられる引張荷重が増加すると、低降伏点鋼材4,…,4は降伏点(図6の第1降伏点)に達し、低降伏点鋼材4,…,4は引張荷重の増加に比例せずに僅かな増加で急激に伸びる(図6の降伏範囲および塑性範囲、図7(b))。
このように、弾性範囲、降伏範囲および塑性範囲では、低降伏点鋼材4,…,4は、引張応力を維持増加させながら適度に伸び、地震エネルギを吸収する。つまり、耐震補強ケーブル1は、例えば地震により連結する橋脚と橋台とが揺れてその間に変化が生じた場合、低降伏点鋼材4,…,4が伸びることによりそれ自体の破壊を免れ、橋脚の振動を抑えて落橋を防止する。
【0023】
大地震のように揺れが大きく、アンカー6に大きな引張荷重が加えられると、耐震補強ケーブル1(低降伏点鋼材4,…,4)はさらに伸びて、互いに遠ざかるアンカー6,6の外側の面14は第2スリーブ8,8,8に当接する(図6の第1変形伸び、図7(c))。アンカー6が第2スリーブ8,8,8に当接すると、そのときから地震による引張荷重は、低降伏点鋼材4,…,4だけではなく高降伏点鋼材5,5,5にも加わる。耐震補強ケーブル1の伸びは鈍化し、アンカー6,6同士の間隔が過度に大きくならず、例えば橋梁における橋脚と橋台との距離が維持されて落橋が防止される。
【0024】
なお、本発明におけるアンカー部材の相互の距離についての「所定の長さ」とは、図6における第1変形伸び(%)をアンカー6,6間の距離から長さに換算したものである。本発明における「所定の長さ」は、低降伏点鋼材4が降伏した後破断する以前の伸びの範囲であれば、設計者が任意の長さを設定することができる。
図8は橋梁23の落橋防止のための耐震補強ケーブル1の取付の様子を示す図、図9は橋脚24への耐震補強ケーブル1の取付概念図、図10は橋台25への耐震補強ケーブル1の取付部分の概念図、図11は図10におけるF−F矢視断面図、図12は橋桁26,26同士を連結する耐震補強ケーブル1の取付部分の概念図である。
【0025】
図8において(a)は橋梁23の正面部分断面図、(b)は(a)におけるE−E矢視断面図である。
図8を参照して、本発明に係る耐震補強ケーブル1は、橋梁23の落橋防止において、橋脚24と橋台25との連結および橋桁26と橋桁26との連結にそれぞれ複数本が使用される。
耐震補強ケーブル1による橋脚24と橋台25との連結は、次のようにして行われる。
図9を参照して、耐震補強ケーブル1の一端の橋脚24への取り付けでは、耐震補強ケーブル1の一端が橋脚24に埋め込まれたシース(鉄製の管)27に挿通され、挿入側とは逆側にアンカー6が引き出される。引き出されたアンカー6は、支圧板29の孔28を通過させた後に、その外周の雄ネジに定着ナット22が螺合される。耐震補強ケーブル1の一端は、定着ナット22が支圧板29に当接することにより、他端側への移動が制限される。支圧板29の孔28の内径は、アンカー6を挿通可能なようにアンカー6の外径よりも大きく、またシース27の耐震補強ケーブル1挿入側は、耐震補強ケーブル1を挿入容易とするために、開口部に向けて徐々に内径が増加する偏向ダクト30が設けられている。
【0026】
耐震補強ケーブル1の他端の橋台25への取り付けは、ターンバックル31、フォーク型接続具32およびアイ型接続具33が使用される。図10を参照して、ターンバックル31は、管状であってその両端内周に雌ネジ34,35が設けられており、一方の雌ネジ34がアンカー6の雄ネジに螺合されてアンカー6に接続される。
フォーク型接続具32は、雄ネジを備えた雄ネジ部36と二股になった二股部37とからなり、雄ネジ部36の雄ネジがターンバックル31の他方の雌ネジ35に螺合されてターンバックル31に接続される。二股部37には、分かれた部分のいずれをも貫通する孔38が設けられている。
【0027】
アイ型接続具33は、フォーク型接続具32の二股部37における分かれた部分の間に介在可能な板材で形成され、橋台25に固定されている。アイ型接続具33は、貫通する孔39を有し、この孔39がフォーク型接続具32の孔38と同心となるようにフォーク型接続具32の二股部37の間に配される。アイ型接続具33は、孔38,39に挿通された支持ボルトとともにフォーク型接続具32を回動可能に支持する。
このように、耐震補強ケーブル1は、その一端が橋脚24に取り付けられ、他端が橋台25に回動可能に支持されて、橋脚24と橋台25とを連結する。複数の橋脚24が並ぶ橋梁23では、隣り合う橋脚24,24についても耐震補強ケーブル1で連結されて落橋の防止が図られる。
【0028】
図12において、耐震補強ケーブル1による橋桁26,26同士の連結は、次のようにして行われる。
連結する2つの橋桁26,26のそれぞれの側面には、適度な間隔を有して同一の連結具40,40が対向させて固定される。連結具40には、2つの橋桁26,26の連なる方向に直角になるように配された支持板41が設けられている。支持板41には、アンカー6を挿通可能な孔42が設けられている。
耐震補強ケーブル1の一端は、支持板41の孔42に挿通され、アンカー6が孔42から引き出されて支圧板29に挿通される。支圧板29は、橋脚24と橋台25との連結に使用された支圧板29と略同一のものである。続いて、アンカー6に定着ナット22が螺合される。定着ナット22が締められると、定着ナット22は支圧板29に、支圧板29は支持板41にそれぞれ押圧されて係止され、耐震補強ケーブル1の一端は、他端側への移動が制限される。耐震補強ケーブル1の他端も同様にして、他方の連結具40を介して一端側への移動が制限されて隣りの橋桁26に取り付けられる。それぞれの定着ナット22,22を適正に締め付けることにより、耐震補強ケーブル1は橋桁26,26同士を適度な張力で連結し落橋が阻止される。
【0029】
橋桁26を3つ以上有する橋梁23では、隣り合う橋桁26,26が耐震補強ケーブル1で連結されて落橋の防止が図られる。
耐震補強ケーブル1により橋脚24と橋台25または橋脚24とが連結され、および橋桁26と橋桁26とが連結された橋梁23は、低降伏点鋼材4,…,4が中小規模地震のエネルギーを吸収することにより橋梁23の変形を抑え、大地震に対しては、高降伏点鋼材5,5,5が橋脚24と橋台25または橋脚24とを、および隣り合う橋桁26,26をつなぎ止めて落橋を防止する。
【0030】
図13は耐震補強ケーブル1を建築物のブレースに使用した図である。
耐震補強ケーブル1の両端は、図10に示されたターンバックル31およびフォーク型接続具32がそれぞれのアンカー6に取り付けられている。図13において、2本の耐震補強ケーブル1が、2本の柱43,43および2本の梁44,44で形成されたフレーム45に、ブレースとして使用される。耐震補強ケーブル1は、フレーム45の下の両角に設けられたベースプレート46,46にそれぞれその一端が回動自在に取り付けられ、上部の梁の中央に設けられたベースプレート47にそれぞれの他端が回動自在に取り付けられる。
【0031】
耐震補強ケーブル1を建築物のブレースとして使用することにより、地震により水平方向に力が加わってフレーム45が傾いたときに耐震補強ケーブル1に引張力が働き、柱43,43および梁44,44に作用する水平力が緩和される。柱43,43および梁44,44の耐力以上の水平力が働く場合は、耐震補強ケーブル1の低降伏点鋼材4,…,4が先に降伏することで、柱43,43および梁44,44の崩壊を防ぐ。
耐震補強ケーブル1は、そのアンカー6,6間の距離に応じて、それぞれのアンカー6の外側の面14と第2スリーブ8,8,8との距離が調整される。この距離は、低降伏点鋼材4,…,4が引張荷重を受けて破断する伸びを考慮して決定される。例えば、橋脚24と橋台25とを連結する長い耐震補強ケーブル1では、アンカー6の外側の面14と各両端の第2スリーブ8,8,8との距離を長くし、建築物のブレースとして使用される耐震補強ケーブル1では、アンカー6の外側の面14と各両端の第2スリーブ8,8,8との距離を短くする。このように、耐震補強ケーブル1は、その基本的構成を変えることなく種々の耐震構造物に使用することができ、設計適用範囲が広い。
【0032】
図14および図15はいずれも実測された耐震補強ケーブル1の荷重−伸び曲線である。
測定に使用した耐震補強ケーブル1は、低降伏点鋼材4として4本の鉄筋(D29、降伏点295N/mm2 )および高降伏点鋼材5として3本のPC鋼より線(7本より15.2、降伏点1600N/mm2)で形成されたものである。荷重−伸び曲線は、引張試験器を使用して、一方のアンカー6を固定し他方のアンカー6を定速で引き、そのときの引張荷重と伸びとを測定して求めた。
【0033】
耐震補強ケーブル1は、図14から、全長の約10%までの変位に対しては低降伏点鋼材4,…,4が吸収し、それ以上の引張荷重に対しては高降伏点鋼材5,5,5に生じた大きな引張応力によって変位に抗することができる。
図15は、図14に示される荷重−伸び曲線を求めた耐震補強ケーブル1に、繰り返し引張荷重を加えたときの荷重−伸び曲線である。この引張試験では、耐震補強ケーブル1に弾性範囲を超える(第1降伏点以上の)引張荷重が加えられて、伸びが1%に達したときに引張荷重が除かれる。耐震補強ケーブル1は、引張荷重が除かれても元の長さには戻らず、塑性歪みが残った状態(el−1)で安定する。
【0034】
続いて、再び耐震補強ケーブル1に弾性範囲を超える(第1降伏点以上の)引張荷重が加えられ、伸びが3%に達したときに引張荷重が除かれる。耐震補強ケーブル1は、伸びel−1の状態には戻らず、引張荷重が加えられる前よりも塑性歪みが大きな状態(el−2)で安定する。さらに、同様にして耐震補強ケーブル1に伸びが6%および9%になるまで引張荷重を加え、引張荷重を除いても、耐震補強ケーブル1には、伸びが1%および3%で引張荷重を除いたときと同様に徐々に大きな塑性歪み(el−3,el−4)が残る。
【0035】
図15から、耐震補強ケーブル1は、伸び代が大きく、中小の地震が繰り返し発生しても、その都度、地震エネルギー等を吸収することが可能であることがわかる。また、耐震補強ケーブル1は伸び代が大きいため、数度の中小の地震の後に大地震が発生したような場合にも、耐震補強ケーブル1を用いた落橋防止装置は橋梁23の落橋を防止することができ、耐震補強ケーブル1をブレースに使用した建築物は倒壊を回避することができる。
耐震補強ケーブル1は、低降伏点鋼材4,…,4とそれよりも降伏点が高い高降伏点鋼材5,5,5との降伏点が異なる2種類の鋼材を使用して形成されれば、原則として中小の地震エネルギーを吸収することができ、かつ大地震にも橋梁23の落橋および建築物の倒壊を回避することができる。
【0036】
上述の実施形態において、低降伏点鋼材4の本数、太さ、および高降伏点鋼材5の本数、太さ等を、耐震補強ケーブル1の施工対象に応じてそれぞれ1本または複数本とすることができる。高降伏点鋼材5はより線に限られず、単一の鋼材を使用してもよい。第1スリーブ7および第2スリーブ8は、それぞれ低降伏点鋼材4または高降伏点鋼材5の端部に固着され、かつそれぞれがアンカー6の外側の面14に係止されるものであれば円筒に限られず、断面が長円、楕円または多角形の筒状であってもよい。
アンカー6,6間の距離が短くなるときに低降伏点鋼材4,…,4に圧縮荷重が加わるようにするために、低降伏点鋼材4,…,4の端部を直接アンカー6,6に固着させてもよい。
【0037】
上述の耐震補強ケーブル1は、アンカー6と第1スリーブ7,…,7とが固定的に一体化されているが、用途によってはアンカー6と第1スリーブ7,…,7とを固定しない構造とすることができる。例えば、距離の離れた橋脚と橋台とを連結して落橋防止を行うために使用される耐震補強ケーブルでは、引張荷重の吸収を主目的とするので、アンカー6と第1スリーブ7,…,7とを固定しない構造、またはアンカー6の一方のみ第1スリーブ7,…,7と固定する構造にしてもよい。また、このような用途では、低降伏点鋼材4としてワイヤロープ等を使用することができる。
【0038】
本発明に係る耐震補強ケーブルは、引張荷重によって低降伏点鋼材4,…,4が降伏点に達した後に高降伏点鋼材5,5,5に引張荷重が加わるように形成されれば、上記耐震補強ケーブル1と異なる構成を有するものとすることができる。
図16は他の実施形態による耐震補強ケーブル1Bの正面部分断面図である。耐震補強ケーブル1Bでは、高降伏点鋼材5Bは、接続部材48Bによってアンカー6に接続される。高降伏点鋼材5Bは、端において径方向に突出する係合ピン49Bが周方向に等間隔に4つ設けられている。接続部材48Bは、内径が高降伏点鋼材5Bの外径よりも若干大きな略管状であって一端に雌ネジ52Bが設けられている。また、接続部材48Bは、軸方向に伸びた内外を連通する連結溝50Bが周方向に等間隔に4つ設けられている。接続部材48Bは、それぞれの連結溝50B内に係合ピン48Bが軸方向に移動可能に嵌め入れられた状態で、アンカー6に固定されている。接続部材48Bのアンカー6への固定は、両端部が雄ネジ加工されたスタッドボルト51Bにより行われる。
【0039】
耐震補強ケーブル1Bにおいて耐震補強ケーブル1と略同一の構成を有するものは、図16において図1と同一の符号を付しその説明を省略する。
耐震補強ケーブル1Bも耐震補強ケーブル1と同様に、アンカー6間に引張荷重が加えられると低降伏点鋼材4,4が伸びてアンカー6間の変位を吸収する。このとき、高降伏点鋼材5Bには、係合ピン49B,49B,49Bが連結溝50B,50B,50B内を移動することにより引張荷重は加わらない。アンカー6間の変位が大きくなると、係合ピン49B,49B,49Bは、連結溝50B,50B,50Bにおけるアンカー6とは逆側の側壁に当接して自由移動が制限され、高降伏点鋼材5Bにも引張荷重が加わる。
【0040】
橋梁または建築物等に使用された耐震補強ケーブル1Bは、引張荷重が加えられると以上のように動作する。この動作は耐震補強ケーブル1におけるものと同一であり、同様の効果を奏する。例えば、耐震補強ケーブル1Bは、接続部材48Bにおける連結溝50B,50B,50Bの軸方向長さを変更することにより種々の構造物の耐震補強に使用させることができ、設計適用範囲が広い。
耐震補強ケーブル1の橋梁23への取り付け、および耐震補強ケーブル1の建築物等への取り付けは、上に説明した方式に限られず、公知の方法によることができる。
【0041】
その他、耐震補強ケーブル1、および耐震補強ケーブル1の各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、橋梁における落橋防止装置および建築物における座屈拘束ブレース等の耐震構造物の材料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は本発明に係る耐震補強ケーブルの正面部分断面図である。
【図2】図2は図1におけるA−A矢示断面図である。
【図3】図3は図1におけるB−B矢示断面図である。
【図4】図4は第1ガイドプレートの平面図である。
【図5】図5は第2ガイドプレートの平面図である。
【図6】図6は耐震補強ケーブルの荷重−伸び曲線の概念図である。
【図7】図7は耐震補強ケーブルの伸びの様子を示す図である。
【図8】図8は橋梁への耐震補強ケーブルの取付の様子を示す図である。
【図9】図9は橋脚への耐震補強ケーブルの取付概念図である。
【図10】図10は橋台への耐震補強ケーブルの取付部分の概念図である。
【図11】図11は図10におけるF−F矢視断面図である。
【図12】図12は橋桁同士を連結する耐震補強ケーブルの取付部分の概念図である。
【図13】図13は耐震補強ケーブルを建築物のブレースに使用した図である。
【図14】図14は実測された耐震補強ケーブルの荷重−伸び曲線である。
【図15】図15は実測された耐震補強ケーブルの荷重−伸び曲線である。
【図16】図16は他の実施形態による耐震補強ケーブルの正面部分断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 耐震補強ケーブル
4 第1の鋼材(低降伏点鋼材)
4 (第1の鋼材を形成する)個別の鋼材(低降伏点鋼材)
5,5B 第2の鋼材(高降伏点鋼材)
5,5B (第2の鋼材を形成する)個別の鋼材(高降伏点鋼材)
6 アンカー部材(アンカー)
8 スリーブ(第2スリーブ)
13 貫通孔(第2貫通孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼材と、
前記第1の鋼材と略平行に配され前記第1の鋼材よりも降伏点の大きな第2の鋼材と、
前記第1の鋼材の両端部にそれぞれが固定的または移動可能のいずれかの状態に一体化された2つのアンカー部材と、を有し、
2つの前記アンカー部材の相互の距離が所定の長さ以下では前記第1の鋼材のみに引張荷重が加わり、前記相互の距離が前記所定の長さを超えると前記第2の鋼材に引張荷重が加わるように構成されてなる
ことを特徴とする耐震補強ケーブル。
【請求項2】
前記アンカー部材は、
前記第2の鋼材が移動可能に貫通された貫通孔を有し、
前記第2の鋼材は、
前記貫通孔を貫通したその端部に前記貫通孔を通過不能なスリーブが固着されており、
2つの前記アンカー部材の相互の距離が所定の長さ以下では前記アンカー部材と前記スリーブとが当接せず、前記相互の距離が前記所定の長さを超えると前記スリーブが前記アンカー部材に当接して前記第2の鋼材に引張荷重が加わるように構成されてなる
請求項1に記載の耐震補強ケーブル。
【請求項3】
前記第1の鋼材は、
その長手方向に直交する断面において、複数の個別の鋼材の1群がそれぞれの軸心を正多角形の頂点となるように配置されて形成され、
前記第2の鋼材は、
その長手方向に直交する断面において、複数の個別の鋼材の1群がそれぞれの軸心を、
前記正多角形について前記正多角形の中心と前記正多角形における1つの頂点とを結ぶ線および前記中心と当該頂点に隣り合う頂点とを結ぶ線がなす角度の半分回転させたときの頂点となるように配置されて形成されている
請求項1または請求項2に記載の耐震補強ケーブル。
【請求項4】
前記第1の鋼材は鉄筋であり、
前記第2の鋼材はプレストレストコンクリート用鋼材である
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−303573(P2008−303573A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150493(P2007−150493)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】