説明

耐震金物、及びこれを用いた耐震構造

【課題】施工が簡単に行える上に、耐震強度を向上できるようにする。
【解決手段】水平材12と垂直材13で囲まれる方形の開口部14の隅角部に固定されて筋かい15の端部を支持する耐震金物11において、水平材12に固定される板状の水平片21と、水平片21と直角をなして垂直材13に固定される板状の垂直片22と、これら水平片21と垂直片22の面方向と直交する方向に延びて水平片21と垂直片22の直角をなす二面間を連結して筋かい15の端部を支持する支持片23を設ける。支持片23は、隙間Sをあけて平行に2枚備える。水平片21における支持片23の端の位置より先の部分には、水平に延びる延出部24を備える。この延出部24にも水平材12に対する固定具18が備えられ、筋かい15に引張力が作用してモーメントが生じたときの荷重の一部を延出部24が受けて、耐震金物11が水平材12にめり込むのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造建築の新築やリフォームにおいて耐震強度を高めることができるような耐震金物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震金物としては、下記特許文献1に開示されたものがある。この金物は、筋かいの端部を支持すべく水平材と垂直材で囲まれた開口部の内側の隅角部に固定されるものであって、筋かいに引張力が作用したときに金物が隅角部から外れないようにするため、隅角部に固定した4つの金物間に、突張材を嵌め込めるようにした構成である。
【0003】
突張材は水平材や垂直材に沿って延び、金物を隅角部に押圧する。これによって、筋かいに引張力が作用しても、金物が隅角部から外れにくく、隅角部に固定した状態を維持できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4503337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、突張材を必要とするため施工性が悪く、コストもかかる。
【0006】
また、金物は、底部の左右両縁に側壁を立設した横断面コ字状に形成され、前記底部を前記垂直材としての柱材に沿わせた状態でコーチスクリュー(コーチボルト)によって柱材に固定されるが、筋かいに引張力が作用すると、金物にモーメントが発生する。この結果、前記コーチボルトのうちのあるコーチボルトには引き抜き力が生じ、また前記底部におけるある端部は柱材を圧縮してめり込む。このため、たとえ金物が隅角部から外れないとしても、地震が発生したときには柱材に圧縮変形が起こって、建物全体として揺れが生じることになる。
【0007】
そこで、この発明は、施工性が良好であるとともに、耐震強度を向上できるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段は、水平材と垂直材で囲まれる方形の開口部の隅角部に固定されて筋かいの端部を支持する耐震金物であって、前記水平材に固定される板状の水平片と、該水平片と直角をなして前記垂直材に固定される板状の垂直片を備えるとともに、これら水平片と垂直片の面方向と直交する方向に延びて水平片と垂直片の直角をなす二面間を連結し前記筋かいの端部を支持する支持片が、隙間をあけて平行に複数枚備えられ、前記水平片には、前記水平材に対して固定するための固定具を挿通する水平片貫通穴が形成されるとともに、前記水平片における前記支持片の端の位置より先の部分には、水平に延びる延出部が設けられ、該延出部に、前記水平材に対して固定するための固定具を挿通する延出部貫通穴が形成された耐震金物である。
【0009】
別の手段は、前記耐震金物が前記開口部の少なくとも対角上の2つの隅角部に固定されるとともに、これら2つの耐震金物の前記支持片に少なくとも1本ずつの筋かいが固定された耐震構造である。
【0010】
このような耐震金物は、水平片と垂直片がそれぞれ水平材と垂直材に固定されて、開口部での隅角部での位置が保持される。耐震金物には筋かいを支持する支持片が複数枚形成されているので、すべての支持片に筋かいを固定すると、複数本の筋かいが並列状態で一体となって荷重を支えることになる。
【0011】
筋かいに引張力が作用したときには、筋かいから支持片に負荷される力を、耐震金物の各部と、各部を水平材や垂直材に固定している固定具が負担する。特に、水平片を固定している固定具が前記筋かいから負荷される力の垂直方向力と水平方向力を支える。
【0012】
前記水平方向力により耐震金物にはモーメントが生じるが、このモーメントに基づく付加的水平方向力により起こりうる前記水平材に対するめり込みは、延出部が阻止する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、隅角部に固定する部材だけで構成することができ、施工性は良好で、片筋かいによる耐力壁の構成も可能となる。また、支持片を複数枚備えて複数本の筋かいを並べて掛けることができるので、各筋かいの軽量化が可能で、この点でも施工性が良好となる。そのうえ、固定した耐震金物にモーメントが生じてもめり込みが生じないように延出部を備えるので、耐震強度も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】耐震金物の斜視図。
【図2】耐震金物の使用状態の斜視図。
【図3】耐震金物の使用状態、耐震構造の正面図。
【図4】図3におけるA−A部分拡大断面図。
【図5】耐震金物にかかる負荷を説明する説明図。
【図6】耐震金物の使用状態の平面図。
【図7】耐震金物の使用状態の正面図。
【図8】耐震金物の正面図(a)と平面図(b)。
【図9】耐震金物の使用状態の正面図。
【図10】耐震金物の使用状態の正面図。
【図11】耐震金物の他の例に係る使用状態の斜視図。
【図12】他の例に係る耐震構造の正面図。
【図13】図12の柱脚部分の拡大図。
【図14】図12の耐震金物の斜視図。
【図15】図12の柱脚部分の一部破断拡大側面図。
【図16】図12の耐震金物の他の使用例を示す正面図。
【図17】耐震金物の使用状態の他の例を示す断面図。
【図18】耐震金物の固定状態の一部断面平面図。
【図19】他の例に係る耐震構造の正面図。
【図20】図13のB−B断面図。
【図21】鋼管からなる筋かいの端部の他の例を示す断面図。
【図22】図12の耐震構造における筋かいと間柱の交わり部分の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、耐震金物11の斜視図であり、この耐震金物11は、図2、図3、図4に示したように、土台や梁材等の水平材12と、通し柱や管柱等の垂直材13で囲まれる方形の開口部14の隅角部に固定されて筋かい15の端部を支持するものである。
【0016】
耐震金物11は、前記水平材12の上面又は下面にボルト等の固定具16で固定される方形板状の水平片21と、この水平片21と直角をなして前記垂直材13の側面にボルト等の固定具17で固定される板状の垂直片22を有する。
【0017】
また耐震金物11は、前記水平片21と垂直片22の面方向と直交する方向に延びて水平片21と垂直片22の直角をなす二面間を連結し、前記筋かい15の端部を支持する2枚の支持片23を有する。2枚の支持片23は前記水平材12の両側縁より内側に入り込んだ位置に、隙間Sをあけて平行に配設されている。
【0018】
これら支持片23は、前記水平片21と垂直片22に対してそれらの長さ全体にわたって形成される。図1中、一点鎖線Lは前記水平片21の境界を示す線である。
【0019】
前記水平片21における前記支持片23の端の位置より先の部分は、少なくとも前記水平材12に接する面が面一で水平に延びる方形状の延出部24である。この延出部24は、図5に矢印で示したように、水平力(図5の白抜き矢印)を受けて引張力が作用する前記筋かい15から前記支持片23に負荷される力Pにおける水平方向力Hによる曲げモーメントMに基づく前記水平材12を押圧する押圧応力度を、前記水平材12のめり込み許容応力度以下とする大きさ(面積)となるように、延出長さが設定されている。
【0020】
具体的には、前記水平片21と延出部24は一つの板状部材25からなり、この板状部材25は前記水平材21の幅以下の大きさに形成され、厚みは十分な剛性が得られるように設定されている。前記支持片23間の隙間Sに対応する位置である中央部分には、前記固定具16の一部としてのアンカーボルト16aやボルト16bなどを挿通するための水平片貫通穴21aを有する。
【0021】
前記延出部24にも、前記水平材12に対して固定するためのコーチボルト18a等の固定具18を挿通する延出部貫通穴24aが形成される。延出部貫通穴24aは、前記支持片23の延長線上の左右2箇所に設けられている。
【0022】
前記垂直片22は、前記水平片21の幅よりも狭く形成され、その両側縁に、前記支持片23が設けられている。具体的には、前記垂直片22と前記支持片23は、1枚の金属板を横断面コ字状に折曲形成した一つの成形部材26で一体に構成されている。これらも前記水平片21の場合と同様に、十分な剛性を有する厚みに設定されるとよく、折曲形成が可能な範囲で適切な厚みに設定する。前記垂直片22と前記支持片23は一体であるので強度が高い。
【0023】
前記成形部材26は、図5に示したように垂直片22と水平片21がL字状となってそれぞれの外側面が垂直材13または水平材12に面接触する形状となるように、前記水平片21に対して溶接により固定されて一体化される。
【0024】
前記垂直片22には、前記垂直材13に対して固定するためのボルト17a等の前記固定具17を挿通するための垂直片貫通穴22aが形成されている。垂直片貫通穴22aは複数個備えてもよいが、図6にも示したように、左右方向に一つ形成すれば足りる。
【0025】
垂直片貫通穴22aの高さがすべての耐震金物11において同一であると、図7に示したように直角をなして隣り合う耐震金物11の固定に支障を来たすので、垂直片貫通孔22aの高さが異なる2種類の耐震金物11を用意すると、必要とする様々な固定箇所に固定できるのでよい。
【0026】
前記支持片23は、前記筋かい15を固定するための締結具19を挿通する支持片貫通穴23aを有し、筋かい15を外側面または内側面に固定可能としている。支持片貫通穴23aの位置は、図5に示したように前記水平片21の前後方向における水平片貫通穴21aの位置に対応させているが、ずれていてもよい。
【0027】
ここで、図5と図8を用いて前記の主な部分の寸法について付言する。
図5に白抜き矢印で示したような水平力が作用すると、筋かい15に引張力が作用して筋かい15から支持片23に負荷される力Pにおける水平方向力HによってモーメントMが生じる。このときに延出部24が水平材12にめり込んでしまっては、その部分の圧縮変形により揺れが生じることになる。このため、前記モーメントMに基づく前記水平材12を押圧する押圧応力度が水平材12のめり込み許容応力度以下となるように、延出部24の大きさが設定される。
【0028】
水平材12として、まつ材を用いた場合には、その短期に生ずる力に対するめり込み許容応力度(Fcv×2/3)は5.87N/mmであり、ひのき材を用いた場合には4.84N/mmであるので、水平材の材質に合わせて、そのめり込み許容応力度以下となるように、延出部の縦a横bの大きさを設定する。
【0029】
また、前記のようにモーメントMが生じるので、このモーメントに基づく付加的垂直方向力ΔVが、筋かい15から支持片23に負荷される力における垂直方向力Vに加わる。このため、水平片21と延出部24は、前記垂直方向力Vと付加的垂直方向力ΔVの合力が前記支持片23と前記水平片貫通穴21aとの間の範囲に作用する際の垂直方向応力度と前記水平材12を押圧する前記押圧応力度とに抗する剛性を備える必要がある。
【0030】
具体的には、90mm角の木製筋かいをたすき掛けにした場合と同等の強度を想定したとき、前記延出部24が一体の水平片21は十分な剛性を有することに加えて、施工性も考慮すると、一般的な鋼材を用いた場合で、水平片21および延出部24、すなわち前記板状部材25の厚さt1は、105mm幅の水平材12を用いる場合には、およそ9mm程度に設定するとよい。
【0031】
また垂直片22と支持片23を有する成形部材26の厚さt2については、厚くすれば剛性が増す一方で、重量が増し、厚くすると成形が困難となり、支持片23間の隙間Sの間隔w1が狭くなって筋かい15を締結する締結具19や固定具16の締め付けが困難となるので、垂直材13が105mm幅のときには、一般的な鋼材を用いた場合で、およそ3.2mm〜6mm程度にするとよい。
【0032】
支持片23に固定する筋かい15については、2枚の支持片23に1本ずつの筋かい15を固定すれば2本の筋かい15が平行に2本並ぶことになるので、筋かい15の厚さも幅も小さい値に設定できる。一般的な鋼材を用いた場合で、たとえば、厚さt3を3mm程度とし、幅w2は35〜40mm程度にすることができる。筋かい15には、フランジを備えた軽量溝型鋼を用いることもできる。
【0033】
以上のように構成された耐震金物11は、水平材12と垂直材13で構成される前記開口部14の少なくとも対角上の2つの隅角部に対してアンカーボルト16a、ボルト16b等によって固定される。
【0034】
水平材12が土台の場合にはアンカーボルト16aを水平材貫通穴21aに通して、図2、図5、図6等に示したように支持片23の内側面に座金27を置いて、ナット16cで締め付ける。このときに用いる座金27には、十分な固定強度が得られるような大きさと厚みのものが使用される。リフォームや耐震補強をする場合のアンカーボルトの固定には、ケミカルアンカー(図示せず)を用いるとよい。
【0035】
水平材12が梁材の場合には図3に示したようにボルト16bを梁材の上下方向に貫通させて、梁材の上下両面にそれぞれ耐震金物11を固定する。ボルト16bの頭部とナット16cの下には前記の座金27が介装される。
【0036】
耐力壁を上の開口部14に設ける必要がない場合には、図9に示したように、梁材の上面においては座金28を用いて固定をする。すなわち、梁材の上面に座金28を載置して、ボルト16bに螺合したナット16cを締め付ける。このときの座金28にも梁材(水平材12)のめり込み許容応力度を考慮して、座金28がそれよりも低い押圧応力度となるように座金28の面積等を設定する。
【0037】
また、延出部貫通穴24aから水平材21に対してはコーチボルト18aを螺合して、延出部24の固定を行う。
【0038】
なお、水平片貫通穴21aに挿通する固定具16に土台や梁材を貫通するアンカーボルト16aやボルト16bを用いるのではなく、図10に示したようにコーチボルト16dを用いることもできる。
【0039】
垂直材13に対しては、図3、図5、図6に示したように垂直材13を水平に貫通するボルト17aとナット17bによって固定される。このとき、図5、図6に示したようにボルト17aの頭部(又はナット17b)が垂直材13の側面から突出するようにしてもよいが、開口部14にサッシュ等の部材(図示せず)を取り付ける必要がある場合などには、垂直材13に座彫りをして、ボルト17aの頭部(又はナット17b)を埋没させる(図3参照)。
【0040】
なお、たとえば図10に示したように水平片21の固定にコーチボルト16dを用いた場合など、垂直片22の固定強度を必要とする場合には、垂直片22の先端に垂直片延出部29を形成して、この垂直片延出部29にコーチボルト29a等で固定するための貫通穴29bを形成してもよい。
【0041】
前記開口部14の隅角部に耐震金物11を固定したあとは、すべての支持片23に筋かい15の端部を固定する。筋かい15の固定には、摩擦接合締結手段としての前記締結具19、例えばハイテンションボルトを用いる。
【0042】
図2、図3に示した例では、一方に傾斜する筋かい15を支持片23の外側面に、他方に傾斜する筋かい15を支持片23の内側面に固定した例を示したが、一方に傾斜する筋かい15を支持片23の外側面と内側面に、他方に傾斜する筋かい15を支持片23の外側面と内側面に固定してもよい。さらに、たすき掛けにする筋かい15を同一平面上に位置する支持片23の外側面同士または内側面同士に固定してもよい。
【0043】
前述のように筋かい15を4本用いるが、各筋かい15は前述のように厚みが薄く幅も狭い帯鋼や軽量溝型鋼でよいので、前述のように例えば90mm角の木製の筋かいを用いた場合と比較すると、全体として軽量となり、施工が容易である。
【0044】
耐震金物11についても、前述のように必要な剛性を確保しながら薄くすることによって、耐震金物11の重量を抑えることができて、輸送コストの低減のほか、施工の容易性も確保できる。
【0045】
筋かい15については、図11に示したような角柱状のものを用いることもできる。すなわち、1本の筋かいに複数枚の接合片15aを備えた筋かい15である。このような筋かい15は、例えば角型鋼管のような中空の部材を利用するなどして、角柱状の部材の長手方向の両端に、支持片23の枚数と同一枚数で、支持片23に重合可能な接合片15aを形成することで得られる。図11では、2枚の支持片23の内側面に接合する例を示したが、外側面に接合するものであってもよい。
【0046】
このような形状の筋かい15を用いると、引張だけではなく圧縮にも対抗できることになる。また、この場合、片筋かいでも十分に所望の強度を得られる。
【0047】
筋かい15が圧縮荷重を受ける場合、垂直片22の端部にはめり込みの力が働くので、図11に仮想線で示したように、前記延出部24と同様の作用をする垂直片延出部22bを形成するとよい。
【0048】
図12は、前記図11に示したように筋かい15に角型鋼管を用いた耐震構造の他の例の正面図であり、この耐震構造では、耐震金物11がホールダウン金物としての機能を有し、筋かい15(角型鋼管)の両端は固定度の高い接合部となっている。また、間柱31が備えられている。
【0049】
まず、耐震金物11について説明する。
【0050】
以下の説明において、前記の構成と同一または同等の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
図13は、耐震構造の柱脚部の正面図であり、耐震金物11の基本的な構成は図14に示したように、前記図1に示した耐震金物11と同様である。この耐震金物11が図1の耐震金物11と相違する点は、垂直片22の形成位置と、垂直片貫通穴22aの個数である。
【0051】
つまり、垂直片22は、水平片21の背面側(垂直材側)の端面に面一となる位置ではなく、図13に示したように延出部24側に板材1枚分移動して、水平片21の端面を垂直材13に当接させたときに垂直材13と垂直片22の間に板1枚分の隙間S2ができる位置に形成されている。これは、垂直片22の背面側に、使用箇所に応じて適宜選択された背板部材41を一部重合した状態で固定可能にするためである。前記背板部材41は、前記隙間S2に対応する厚さを有する。
【0052】
また、前記垂直片貫通穴22aは、左右方向に2個、同一高さに形成されている。これにより、垂直材13に背割りが施されてあっても固定が可能である。
【0053】
図14に示したように前記背板部材41は長方形に形成され、上下方向に複数組の貫通穴42が間隔をあけて形成されている。この貫通穴42の左右方向における形成位置は、前記垂直片22に形成された垂直片貫通穴22aに対応している。
【0054】
上下方向に間隔をあけて並ぶ複数組の貫通穴42のうち下の貫通穴42部分は、耐震金物11に重合される部分であり、それよりも上側の貫通穴42部分は、耐震金物に重合することなく垂直材13に対して固定される部分である。
【0055】
図14には、高さの低い背板部材41(41a)と高さの高い背板部材41(41b)の2種類をあらわした。図14中、右側の背板部材41(41a)は、上下に2組、合計4個の貫通穴42を備えている。図14中、左側の背板部材41(41b)は、上下に3組の貫通穴42を備えた構成で、合計6個の貫通穴42を備えている。貫通穴42の上下方向の間隔は所定の値であり、高さの低い背板部材41aでも高い背板部材41bでも、間隔は同一である。
【0056】
貫通穴42の個数は所望の引き抜き耐力(引き寄せ力)が得られるように適宜設定され、複数の貫通穴42を有する背板部材41から、必要な個数の貫通穴42を有した背板部材41が選択されて使用される(図15参照)。
【0057】
図13は、高さが低い背板部材41aを結合した耐震金物11の使用状態の正面図で、図16は、高さが高い背板部材41bを結合した耐震金物11の使用状態の正面図である。
【0058】
これらに示すように、耐震金物11は、背板部材41の存在によって、ホールダウン(引き寄せ)金物としての機能も果たす。つまり、筋かい固定とホールダウン金物の機能の一体化を図れるので、施工時において従来あったようなホールダウン金物と筋かいが干渉し合うことを回避することができる。
【0059】
なお、耐震金物11をリフォームや耐震補強に使用する場合には、前記のように水平片21の水平片貫通穴21a(図14参照)が水平片21における前記支持片23間の隙間Sに対応する位置である中央部分に形成されていると、基礎の立ち上がり部分51の配筋52(図17参照)と干渉することがある。このため、このような場合には、図17に示したように、配筋52(主筋)を避けるべく、水平片貫通穴21aは左右に2個、間隔をあけて形成するとよい。
【0060】
強度の関係上、固定具16の本数を多くしたい場合には、水平片貫通穴21aは、図18(a)に示したような左右1個ずつの配置ではなく、図18(b)に示したように左右方向の片側に2個、反対側に1個と配置するなど、その他の配置にすることもできる。
【0061】
図13、図15、図16、図17、図18に示したように、前記水平片21の上に重ねられる座金27として、垂直片22と支持片23に囲まれる空間に嵌合対応する大きさに近い大きさの方形状に形成されたものを使用すると、座金27の端面が垂直片22と支持片23の内側面に近接するので剛性を高めることができる。
【0062】
また、前記背板部材41に代えて、図19に示したように、アングル材45を用い、このアングル材45の両端に延設された板状の延設部45aをそれぞれ上の耐震金物11と下の耐震金物11に固定してもよい。より強度の高い耐震構造が得られる。
【0063】
筋かい15を取り付けない他の対角上の2箇所の隅角部には、上部から伝達される引抜力を計算し(N値法で簡単に計算できる)、必要な耐力を有する接合金物を設置する。筋かい15を取り付けない状態の前記耐震金物11を設置してもよい。
【0064】
次に、筋かい15の固定端について説明する。
筋かい15は、図12、図13に示したように開口部14の一つの対角上に延びる角型鋼管からなる本体部15bと、この本体部15bの両端部に固定されて、図20に示したように本体部15bの両端部における縦断面形状の対角線上に配設されて角型鋼管の外周面にかぶさるように面接触する2本ずつのアングル材15cで構成されている。このアングル材15cには、耐震金物11の支持片23(図13、図15、図16、図17参照)に重合固定される接合片15dが突設されている。このような接合片15dは、直角をなす2片からなるアングル材15cにおける接合片15dを形成しないほうの一方の片を、長さ方向の端部から中間部までを切除して得られる。
【0065】
アングル材15cにおける前記本体部15bの側面に当接する部分の中央と、接合片15aの中央には、貫通穴15eが形成されている。本体部15bの側面に当接する部分の中央の貫通穴15eにはボルト15fが挿入され、ナット15gで締め付けられて、本体部15bとアングル材15cは一体化する。前記ボルト15fには、摩擦接合締結手段としての締結具、例えばハイテンションボルトを用いる。接合片15dの中央の貫通穴15eは、耐震金物11の支持片23に固定するためのもので、固定のためのボルト19には、摩擦接合締結手段としての締結具、例えばハイテンションボルトで固定される(図13、図15、図16、図17参照)。
【0066】
図21は、角型鋼管からなる筋かい15の両端部の固定部分の他の例を示す断面図で、アングル材15cは本体部15bの対角線上ではなく、本体部15bの上面側または下面側の一方側の角部分に並べて固定してもよい。この場合には、本体部15bにおけるアングル材15cを固定しない側の面に、適宜大適宜形状の窓部15hを形成して、ボルト15fナット15gの螺合操作に供することができる。
【0067】
角型鋼管における耐震金物11に対する両端部の固定部分は、アングル材15cと角型鋼管の角部分との面接触によるせん断抵抗と、ハイテンションボルト15f,19による固定により、固定度の高い接合部とすることができる。また、この接合方法では、固定度が増すため、筋かい15における座屈長さが短くなり、圧縮荷重時の耐力が増大する。このように、この接合方法により、筋かい15を用いた耐震構造の強度を増大することができる。さらには、この接合方法の場合、固定度を容易に算出することができるため、例えば、安全率等を正確に算出して、適切な部材を用いることができる。
【0068】
角型鋼管からなる本体部15bの両端は固定度の高い接合部となるので、座屈長さが短くなる上に、角型鋼管は、前記のように一本の部材で圧縮材及び引っ張り材としての機能を果たすので、高い耐震強度が得られる。
【0069】
つづいて、間柱31の取り付け構造について説明する。
間柱31は、筋かい15の長手方向の中間部に設けられた間柱取り付け金具47に固定される。前記中間部とは、筋かい15の長手方向の両端部を除く部分であり、長手方向の中間点のみを示すものではない。
【0070】
図12に示したように開口部14の左右方向の中間位置に間柱31を取り付ける場合には、筋かい15の長手方向の中間位置の近傍における上下両面に、間柱取り付け金具47が設けられている。
【0071】
間柱固定金具47は、図22に示したように、前記筋かい15を構成する角型鋼管(本体部15b)と略同一幅の角型鋼管を長手方向に沿って斜めに切断した形態であり、水平に延びる上片47aと、この上片47aの下方に間隔をあけて形成されて上片47aと同じ方向に向けて水平に延びる下片47bと、これら上片47aと下片47bを連結して垂直に延びる連結片47cを有する。筋かい15の本体部15bの上面に設けられる間柱固定金具47は、上片47aが下片47bよりも長い。一方、筋かい15の本体部15bの下面に設けられる間柱固定金具47は、上片47aが下片47bよりも短い。上片47aと下片47bの長さは、筋かい15を所定通りに開口部14に固定した場合に、それぞれ水平になるように、筋かいの傾斜にあわせて設定されている。
【0072】
前記連結片47cには、2個の貫通穴47dが左右に並べて形成されている。
【0073】
このような間柱固定金具47は、筋かい15の本体部15bに対して溶接により固定される。
【0074】
間柱31は、角型鋼管からなる筋かい15によって上下に分断されるので、筋かい15の上側に位置する間柱上側部材32と、筋かい15の下側に位置する間柱下側部材33を有する。
【0075】
間柱上側部材32と間柱下側部材33の筋かい15側の部分には、筋かい15の傾斜に沿った傾斜面32a,33aが形成されている。そして、この傾斜面32a,33aから若干離れた位置に、貫通穴32b,33bが形成され、前記間柱固定金具47の連結片47cの貫通穴47dに挿入するボルト48aナット48b(図12、図19参照)で、間柱上側部材32と間柱下側部材33は間柱固定金具47に対して固定される。
【0076】
図12、図19に示したように、間柱上側部材32と間柱下側部材33の水平材12側の端部には、水平材に対して固定する正面視L字形の柱脚固定金具49が固定され、間柱上側部材32と間柱下側部材33は水平材12に対して垂直に固定される。
【0077】
このように間柱固定金具47を用いて間柱31を固定すると、間柱31が堅固に固定できる。間柱31の固定強度が高いので、筋かい51の座屈止めとしても有効である。
【0078】
また、堅固な間柱31があるので壁材となる面材(図示せず)の張り付けが強固に行える。
【0079】
以上のように、耐震金物11を開口部14の隅角部に固定すれば耐震構造が得られるので、突張材を必要とする従来の場合とは異なり、部品点数を抑えることができて、良好な施工性やコストの低減を図ることができる。
【0080】
さらに耐震金物11は、成形部材26がそれよりも厚みが厚い方形板状の板状部材25に接合して形成されており、成形部材26の一部である支持片23が板状部材25の両側縁より内側に入り込んだ位置に設けられているので、支持片23にかかる荷重は十分に支持され、強度が高い。
【0081】
加えて、耐震金物11の水平片貫通穴21aが2枚の支持片23間の隙間Sに対応する位置に形成されているので、荷重のかかる支持片23の間を水平材12に対して強固に固定できる。
【0082】
このような耐震金物11と筋かい15を用いて構成された耐力壁に、地震等で図5に示したように水平力(図5の白抜き矢印)が作用したときには、筋かい15に引張力が作用して、この筋かい15から前記締結具19を介して耐震金物11の支持片23に負荷される力Pが生じる。この力Pの垂直方向力Vと水平方向力Hのうち、水平方向力HによってモーメントMが生じ、このモーメントMに基づく付加的垂直方向力ΔVも発生する。
【0083】
荷重は耐震金物11の各部とこれらの各部を固定しているアンカーボルト16a、ボルト16b,17aまたはコーチボルト16d(図10参照),18a,29a(図10参照)で負担される。特に、水平片貫通穴21aに挿通した固定具16によって、前記垂直方向力Vと付加的垂直方向力ΔVが負担される。前記水平方向力Hは、主に延出部貫通穴24aに挿通した固定具18によって負担される。
【0084】
前記モーメントMに基づく付加的垂直方向力ΔVにより起こりうる水平材に対するめり込みは、前述のように水平材のめり込み許容応力度を考慮して形成された延出部24と、必要な剛性を備えた水平片21と延出部24によって、確実に防止される。
【0085】
前記垂直片貫通穴22aに挿通した固定具17は垂直片22の固定位置を確保する。そして垂直片22と固定具17は、水平方向力が作用したときには荷重を支える。換言すれば、固定具17により前記付加的垂直方向力ΔVを垂直材13が分散し、水平片21にかかる負荷が軽減される。垂直片22と固定具17は、荷重が増加すると弾性変形、塑性変形をして荷重を支持し、許容範囲を超えた荷重は前記水平片21と延出部24で支えさせる。前記の変形により地震のエネルギーを吸収し、振動エネルギーの減衰機構として働くため、高い耐震強度を得られる。
【0086】
このように荷重を処理する耐震金物11は、水平材12や垂直材13を貫通するアンカーボルト16aやボルト16b,17a,18a等によって固定されている部分では特に、開口部14の隅角部から外れることはなく、耐震金物11が水平材12にめり込むこともない。したがって、めり込みによって耐震金物11が傾き、建物が揺れることを抑制できる。
【0087】
また、接合部が堅牢なため、鋼製の筋かい15は弾性変形及び塑性変形して地震エネルギーを吸収するので、前記耐震金物11を用いた耐震構造では、木造でありながら鉄骨造のような強靭性を備えることができる。
【0088】
加えて、耐震金物11は水平材12と垂直材13の幅方向の中間に固定し、筋かい15はその耐震金物11の幅方向に均等に、あるいは中間に固定されるので、バランスが良く、偏りが発生したりすることを抑制できる。この点からも、耐震強度が高いといえる。
【0089】
さらに、垂直材13が例えば135mm角、150mm角などのような大断面である場合には、耐震金物11を大型かつ高強度にすることができ、住宅以外の、例えば木造3階建て校舎等の特に高度の安全性を必要とされる建物に対し、余裕をもった強靭さで対応することができる。
【0090】
この発明の構成と前記一形態の構成との対応において、
この発明における支持片と垂直片が折曲形成された一つの部材は、前記成形部材26に対応し、
同様に、
摩擦接合締結手段は、締結具19に対応するも、
この発明は前記構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することができる。
【0091】
例えば、支持片は水平材の幅によっては3枚等であってもよく、垂直片とは別部材で構成してもよい。
【0092】
また、延出部に設ける延出部貫通穴の個数は、延出部の幅に応じて設定され、1個であっても、3個以上であってもよい。
【0093】
垂直片と支持片を有する成形部材は、1枚の金属板を折曲して形成するほか、例えばアングル材と平板を溶接で接合して形成することも、角型鋼を切断して形成することもできる。3枚の平板を接合して形成することも可能である。
【0094】
筋かいに用いる鋼管は角型鋼管のほか、丸型鋼管等、その他の形態のものであってもよい。
【符号の説明】
【0095】
11…耐震金物
12…水平材
13…垂直材
14…開口部
15…筋かい
15a…接合片
15b…本体部
15c…アングル材
15d…接合片
16…固定具
18…固定具
19…締結具
21…水平片
21a…水平片貫通穴
22…垂直片
23…支持片
24…延出部
24a…延出部貫通穴
26…成形部材
47…間柱取り付け金具
S…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平材と垂直材で囲まれる方形の開口部の隅角部に固定されて筋かいの端部を支持する耐震金物であって、
前記水平材に固定される板状の水平片と、
該水平片と直角をなして前記垂直材に固定される板状の垂直片を備えるとともに、
これら水平片と垂直片の面方向と直交する方向に延びて水平片と垂直片の直角をなす二面間を連結し前記筋かいの端部を支持する支持片が、隙間をあけて平行に複数枚備えられ、
前記水平片には、前記水平材に対して固定するための固定具を挿通する水平片貫通穴が形成されるとともに、
前記水平片における前記支持片の端の位置より先の部分には、水平に延びる延出部が設けられ、
該延出部に、前記水平材に対して固定するための固定具を挿通する延出部貫通穴が形成された
耐震金物。
【請求項2】
前記支持片が2枚であり、これら支持片と前記垂直片が、折曲形成された一つの部材からなる
請求項1に記載の耐震金物。
【請求項3】
前記支持片が前記水平片の両側縁より内側に入り込んだ位置に設けられた
請求項1または請求項2に記載の耐震金物。
【請求項4】
前記水平片貫通穴が、前記支持片間の隙間に対応する位置に形成された
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の耐震金物。
【請求項5】
前記延出部を、前記筋かいから前記支持片に負荷される力における水平方向力によるモーメントに基づく前記水平材を押圧する押圧応力度が、前記水平材のめり込み許容応力度以下となる延出長さで形成した
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の耐震金物。
【請求項6】
前記筋かいから前記支持片に負荷される力における垂直方向力及び前記モーメントに基づく付加的垂直方向力の合力が、前記支持片と前記水平片貫通穴との間の範囲に作用する際の垂直方向応力度と前記押圧応力度とに抗する剛性を、前記水平片と延出部が備えた
請求項5に記載の耐震金物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の耐震金物が前記開口部の少なくとも対角上の2つの隅角部に固定されるとともに、
これら2つの耐震金物の前記支持片に筋かいが固定された
耐震構造。
【請求項8】
前記筋かいが、前記支持片に固定される接合片を両端に備え、引張荷重とともに圧縮荷重を支持する1本の筋かいである
請求項7に記載の耐震構造。
【請求項9】
前記筋かいに鋼管が用いられた
請求項7または請求項8に記載の耐震構造。
【請求項10】
前記筋かいが、角型鋼管と、該角型鋼管の両端部に固定されて、前記両端部における角型鋼管の縦断面形状の角部分に配設されて角型鋼管の外周面に面接触する2本ずつのアングル材で構成され、
該アングル材には、前記支持片に固定される接合片が突設されたものである
請求項7に記載の耐震構造。
【請求項11】
前記筋かいの長手方向の中間部に、前記開口部内で突っ張る間柱を固定する間柱取り付け金具が設けられた
請求項7から請求項10のうちのいずれか一項に記載の耐震構造。
【請求項12】
前記支持片と前記筋かいを、摩擦接合締結手段で締結した
請求項7から請求項11のうちのいずれか一項に記載の耐震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−60803(P2013−60803A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180480(P2012−180480)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【出願人】(509326382)
【Fターム(参考)】